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2005年07月28日

ユビキタス時代のマス広告の表現変容に関する考察(南 2005)  

要約
この論文では,(時には人の考え,予想に反して)時代は変化しており,それに伴い変化するメディアの中で「ユビキタス時代」の到来を目前に控えた今,マス広告はどのように変化するのか?それがとるべき道を考察している。

 筆者はユビキタス時代を2008-2010年に設定している。その頃には世界人口の3人に1人が携帯電話を持っており,日本におけるそれはほぼ全ての成人が必需品として所有している予想に準拠している。
 ユビキタス時代には様々な変化が考えられ,最も影響力のあるマス広告=テレビCMを取り巻く外的環境も大きく変化した。
①CMザッピング装置の普及
②One to OneコミュニケーションによるCM視聴態度の変化
③媒体の多様化による媒体価値の低下(セントラル・バイイングによる媒体価格の抑制による)(16ページより)
などが挙げられ,これらの変化によって新たなパラダイムが出現するため,「テレビ媒体の代理買い付けを主要な収益源としてきた広告会社の機構変革を促し,コンサルティング会社,クリエイティブ・エージェンシー,メディア・エージェンシーへ機能分化する広告業界ビックバンの可能性を視野に収めておく必要がある」(16ページ)。しかし,このビジネスモデルは広告主に選択肢をもたらすが逆に包括的な機能は果たさない。そのため広告主は一元化した機能を果たす「IMC機能やAP(アカウントプランナー)機能が求められる」(17ページ)。
 「ユビキタス時代」へ至るまでには,行動科学・人間の合理性に基づくモダン(実証主義的マーケティング)に始まるが,人間は多面的でその行動は「非合理的」で数字では割り切れないものが多く内包されているとうい観点から発達したポストモダン(解釈主義的)マーケティングが台頭した。「多面性を持った生活者を多重構造のタッチポイントで据えるホリスティックマーケティングが2000年代のマーケティングを活気付けている」(17ページ)。
 「ユビキタス時代」は消費者の情報摂取態度の選別化を極め,ウェブと連動するもの,ドラマ仕立てのものなどの対策がすでに取られている。それに加え,ユビキタス時代はメディア環境に変化を及ぼし,「生活者と企業の間を情報がインタラクティブするデジタル・メディア」(18ページ)がある。今後インタラクティブ性が更に進めば,企業にとってそれは生活者情報を知ることができるという積極的な意味を持つと筆者は主張する。生活者をパートナーとして据え生活者の声を企業活動に生かすことが重要である。マス広告の機能を果たしながら生活者との接点を持つCRM(カスタマー・リレーションシップ・マーケティング)が実践されなくてはならない。そのため「マス広告は頻度よりも到達度が求められるようになる」(19ページ)。
 情報で溢れている今日では,消費者は自分に関心のあることには敏感であり,積極的に関与するが,そうでない場合は認知しない。消費者に「到達」するためにはまず消費者からの広告無視のザッピングを防がなくてはならない。
消費者が第一段階として好感を抱き,さらに大きな関心を示した時(関心>好感),速やかな認知を示す。関心よりも好感が勝っている時(好感>関心),「クオリティの高い情報に触れたいという生活者の要望にこたえる感性刺激型の『マス広告情報』パターン」(20ページ)ができる。クオリティの高い情報とはブランド・エクイティに寄与するものと定義され,消費者が心で受け入れるインサイト広告がマス広告の情報の質を高めると筆者は述べている。

結論
 情報の「量」が満たされると次は「質」が求められる。「ユビキタス時代」は,広告ザッピングの時代であり,マス広告は,消費者の購買意欲を導くインサイト広告に変容することが求められ,その製品の価値を感知させていかなくてはならない。

出典:南勲(2005),「ユビキタス時代のマス広告の表現変容に関する考察」『日経広告研究所報』,39(1),16-21頁。

投稿者 02tsukazaki : 2005年07月28日 23:02

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