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2005年06月30日

ブランド拡張における知覚の適合(齊藤研究会戦略グループ 2001 )

要約
 本論文では,近年注目が集まるブランド拡張に着目し,その過程で生じる知覚適合のプロセスの理解を深め,既存ブランドの進出事業先の新ブランド(以下,拡張先ブランド)への影響を吟味する。知覚適合プロセスに加えて,本論文ではブランド拡張を行うときのマーケティング・コミュニケーションの役割についても考察する。マーケティング・コミュニケーション,特に広告がブランド拡張の過程で生じる知覚適合のプロセスにどのような影響を与えるかを調査し,その調査結果をもとにブランド拡張における広告,販売戦略等のマーケティング・コミュニケーション戦略を考慮し,提言している。

 既存研究では,ブランド拡張に影響を与える要因として多くの研究者が,“知覚の適合”を挙げているが,本論文ではAaker&Kellerの研究を基にブランド・イメージが具体的にどのように変化するかを調べることで,部アンド拡張における知覚の適合プロセスについて研究を進めている。また,ブランド拡張に伴う有効な戦略を研究する立場から,マーケティング・コミュニケーションのブランド拡張への影響についても考察している。
“ブランド拡張の成功には知覚の適合が必要である”という既存研究を踏まえ,実際にブランド拡張によるブランド・イメージの変遷を調べるにあたり,以下の仮説を立てている。①ブランド拡張先のブランド・イメージは既存ブランドのブランド・イメージとブランド拡張先カテゴリーのイメージの双方から影響を受ける②ブランド拡張には既存ブランドと拡張先ブランドのブランド・イメージの類似性,すなわち“知覚の適合”がブランド拡張の必要条件である。仮説①②から,②a既存ブランドのイメージとカテゴリーのイメージ間に類似性があり,故に既存ブランドと拡張先ブランド間の知覚が適合し,ブランド拡張が成功する②b既存ブランドのイメージとカテゴリーのイメージが異なる場合,既存ブランドと拡張先ブランド間の知覚が適合せず,ブランド拡張も成功しない。という,ブランド拡張には以下の二つのパターンが存在すると仮定できる。さらに,ブランド拡張を成功に導く視点から,既存イメージを基盤とするブランド拡張に広告や販促等のマーケティング・コミュニケーションを用いて新しいイメージを付加した場合を考えたものが③広告や販促等のマーケティング・コミュニケーションは既存ブランドに新しいイメージを付加することによりブランド拡張に影響を与える。仮説③によるブランド拡張の影響への結果は,③aマーケティング・コミュニケーションによって,既存のブランド・イメージをコントロールし,知覚適合させブランド拡張を成功に導く③bマーケティング・コミュニケーションによって,既存のブランド・イメージをコントロールするが,知覚適合に失敗し,ブランド拡張に失敗する。また,既存ブランドとカテゴリーのイメージが大きく異なる場合は,既存ブランドに影響を与える場合も考えられるため,④ブランド拡張は既存ブランドにも肯定的,あるいは否定的な影響を与えるという仮説も立てる。ここでアンケートによる検証に入る。「ブランド拡張や,マーケティング・コミュニケーションによるイメージコントロールで,ブランド・イメージがどのような変化を生じるかを十五変数の値の変化で検証した」(51ページ)ここでは,マクドナルド(ハンバーガー)を既存ブランドとして,テーマパーク,スポーツクラブ,タバコの三つを拡張先カテゴリーとして仮定し,検証方法としては各項目の平均の差の検定と相関分析を行い,全体的なイメージの変化を調べるのに多次元尺度法を用いている。結果,検証により仮説①,②,②a,②b,③,③b,④を裏付ける統計結果を得ることができた。この調査を踏まえて,以下のことが提示されている。

結論
 ブランド拡張を成功させるためのステップとしては,①ブランドに対する現実の消費者意識と望ましい消費者意識を明確にする②拡張可能な候補を特定する③拡張候補の潜在力を評価する④拡張を実施するためのマーケティングプログラムを計画する⑤拡張の成功と,既存ブランドのエクイティに及ぼす影響を評価する。
 また,マーケティング・コミュニケーション戦略としては消費者知識を望ましい形へ誘導するのに,もっとも適したマーケティング・コミュニケーション手法は広告であるとしている。なぜなら,広告以外の手法で広範囲の消費者に情報を与えて,消費者知識を望ましいものに誘導することは非常に困難であるからである。広告戦略を軸にその他のマーケティング・コミュニケーション要素を設定し,統合的なマーケティング・コミュニケーション戦略を立案することが望ましい。
 
出典 慶應義塾大学 齊藤研究会戦略グループ (2001) ,「ブランド拡張における知覚の適合」『日経広告研究所報』,197号,50-54ページ。

投稿者 02hidemin : 2005年06月30日 23:49

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