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2005年07月15日

広告表現の文化差-内容分析による時代比較と国際比較(石井 2004)

要約
 この論文では,新聞広告の内容分析を通して,広告表現と文化の関係を考察している。まず,既存研究より,日本の広告はソフトセル(イメージ中心)訴求が多く,アメリカは反対にハードセル(情報中心)訴求が多いのではないかということを予想し,六つの商品カテゴリーを用いて新聞広告の広告アピールの時代変化を測定している。また価格の有無や,広告中で使われているモデルの特性などについても評定している。その結果,六つの商品カテゴリーにほぼ共通して見られたのは,モデルの高齢化であるとし,自動車,ビール,保険,携帯電話の広告にはハードセル化と,モデル(人物)利用の減少が見えるとしている。

 本稿では,日本の広告における文化の問題を扱った研究結果をレビューすることから始めている。まず,日本の広告はソフトセルであるという予想を基に,日米の雑誌広告を内容分析によって比較したミュラー(Mueller 1987)では,「日本の広告でソフトセルや地位のアピール,アメリカの広告ではハードセルや製品のメリットの強調が相対的に多いこと」(37ページ)を示したとしている。そしてテイラー(Taylor et. al. 1994)では,「日本のCMは,アメリカのCMよりも,相対的に後の部分にブランド名や会社名が出てくること,ブランド名の言及回数がアメリカのCMよりも相対的に少ないこと」(37ページ)を示したとしている。次に,広告における外国要素について,荻原(2000)では,「93年と2003年のテレビCMを比較し,外国人の登場回数はやや増加していること,白人の比率が高いこと,自動車や精密・事務機器で外国人の比率が高いこと」(38ページ)を明らかにしたことを紹介している。しかし,これらの比較研究は,広告における商品カテゴリーの比率を無視している点に方法論的な問題があり,広告表現は商品カテゴリーによってかなり異なり,単純にことなる時点を比較すると広告表現の一般的な変化なのか商品カテゴリーの比率の変化なのかを区別できないと説明している。
 次に,本研究に移る。主要なデータは六つの商品カテゴリー(自動車,ビール,テレビ受信機,マンション,デパート,保険)について三十三年間(七〇-〇二年)の新聞広告を内容分析したものである。本研究では,広告アピールの時代変化を測定するため,チェンの研究で使われている広告アピールを参考に,便利さ,効果,現代性,技術,美しさ,自然など,三十一のアピールを設定して,新聞広告を批評した。まず,三十一のアピールを少数次元に縮約するため,数量化Ⅲ類(ホマルズの等質性分析)を適用している。そして、第一次元を,家族中心的なアピールと商品自体のイメージを強調するアピールと商品自体のイメージを強調するアピールを分ける次元,第二次元を高齢者志向か若者志向かを分ける次元であると解釈している。これらの次元と,ハードセルの相関の結果,高齢者思考はハードセル,若者志向はソフトセルと関連があることがわかったとしている。また,時代変化を見てみたとき,テレビの広告では,家族中心的なアピールの経時的な減少があるとしている。外国要素については,商品カテゴリーにより,欧米人モデルの出現比率はかなり異なることがわかったとしている。広告に使われているモデルについては,比率(外国人,日本人すべて含む)は四〇%前後であるが,この比率は商品カテゴリー間で,また時代によりかなり大きな差があると説明し,変化として認められるのは,モデルの高齢化であることがわかったとしている。

結論
 六つの商品カテゴリーにほぼ共通して見られたのは,モデル(登場人物)の高齢化であり,消費者の高齢化が反映しているものだとしている。そして「男性比率が高まる傾向も見られたが,これは広告表現の変化というより,男性比率が高い商品カテゴリーの広告数が相対的に増えたためであると考えられる」(41ページ)と述べている。また,自動車,ビール,保険,携帯電話の広告に見られるハードセル(情報中心)への変化とモデル(人物)利用の減少という変化が挙げられている。このハードセル化を日本人の個人主義化を示唆するものと解釈することも可能であるが,広告表現の変化を日本人の個人主義化のみで説明するのは危険であるとも述べられている。また,商品カテゴリーごとに変化のパターンはかなり異なり,製品のライフステージが影響を与えている可能性もあるとしている。「普及期には製品の生活上の意味を強調するためソフトセル的な表現が多いが,商品が成熟し,ブランド間の競争が激しくなると機能や価格など,ハードセル表現が多くなるのかもしれない」(42ページ)とし,今後のこれらの要因を考慮した実証研究の必要性を説いている。

出典:石井健一 (2004)「広告表現の文化差-内容分析による時代比較と国際比較」『日経広告研究所報』,第218号,36-42頁。

投稿者 02hidemin : 2005年07月15日 23:25

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