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2005年05月25日

広告研究における消費者理解-上・下 (岸 2002)

 広告研究は,1920年代以降,マーケティングの一要素として統合的に管理する対象として研究されるようになった。同時に広告効果に関する研究も盛んになされ,それは心理学理論・心理学手法に依拠している。「科学的」ないしは学術的な広告研究は,20世紀初頭の米国で始まったとされ,「当時の米国広告業界が心理学を導入する事で,広告業の社会的地位向上を図ったと小林は指摘している」(2ページ)。20世紀後半では,「オーディエンスは生活の中で,メディアや広告をどのように利用するか」(16ページ)という受け手の視点への転換が起きている。

広告研究は心理学とマーケティング研究を横断しながら,科学化を推進してきた。ここで言う「科学化」とは、「現実を構成する主要な因果関係を説明し,それに基づいてある変数の影響を予測し,統制可能にするために,体系的な研究方法を導入すること」(3ページ)である。

1.20世紀前半の研究
 米国における,広告心理学成立期に活躍した心理学者として,W・スコット,D・スターチ,J・ワトソンがおり,彼らが「後の効果階層モデルに類似した広告の機能に関する枠組み(注意・関心・確信・行為・記憶)を提示し,広告訴求形態・表現要素の多面的分析を行った」(4ページ)。しかし堀田はスコットらの広告心理学が米国一般の人々の日常的なマーケティング作業にどのような影響を与えたかの判断は難しいとしている。P・チェリントンは『企業力としての広告』で,広告は商品と消費者を結びつける影響力として位置付けた。1930年以降は,広告活動自体を一定期間持続する『キャンペーン』と位置付け,広告を統合的に管理する必要性が認識された時代である。つまりマーケティング研究では「広告を企業の市場適応行動の1つとして統合的に把握する試み」(4ページ)がなされたのである。

2.20世紀後半の研究
 60年代以降の特徴のひとつは、「オペレーションズ・リサーチ(OR)や統計学が広告管理に適応されるようになり,媒体選択,リーチ・フリクエンシー推定,予算決定などを対象として意思決定モデルが多数開発されたことである」(5ページ)。また,60年代の広告実務に対する考え方に極めて大きな影響を与えた著作としては,R・コーリーによる『目標による広告管理(通称DAGMAR)』がある。「DAGMARは広告効果を売上でなく,コミュニケーション効果に限定することにより数値で広告目標を設定し,その成果を広告効果として測定する管理手法である」(5ページ)。しかし,DAGMARは考え方の明示のみであり,実用化が困難であった。
 広告効果のモデルとしては,50年代の特徴は消費者の態度変容研究の応用がおもであり,60年代は高関与学習学習型の効果階層モデル,70年代には関与度の相違を考慮した階層モデルへ,そして80年代以降は情報処理モデルへ(IMC効果を説明する上でも重要な枠組みである)と理論的には精密なモデルが提唱されるようになった。消費者行動および説得研究の基盤となった情報処理パラダイムの特徴と,広告情報処理研究をもう少し詳しく取り上げていく。「マクガイアの「情報処理モデル」では,効果階層のはじめに接触と注意があり,理解,受容,保持,行動という系列が想定されている」(16ページ)。消費者情報処理研究はブランド選択など,高度な過程を対象とする事が多いが,消費者の広告への関心が相対的に低下している現在の環境ではそれを応用することが次第に困難になっていうのではないか?という指摘もある。同時期に,「ブランド態度形成過程を説明する場合に最もよく利用されたモデルに『精緻化見込みモデル』がある」(17ページ)。ぺティとカチオポが提唱したもので,「説得的メッセージの真偽や望ましさを評価するためにそのメッセージおよび記憶内の知識を注意深く検索し,争点と関連付ける過程でオーディエンス自身が新しく情報を作り出すことと厳密に定義されている」(18ページ)。

3.オーディエンスとは誰か?
 広告効果の見えにくい時代に入り,新たな消費者理解の方法が模索されるようになった。「広告と娯楽の境界線が曖昧になり,購買意思決定においてはインターネットやフリーペーパーなど,マスメディア以外の情報源利用が増加している」(21ページ)。「『大量説得の受け手』という古典的な枠組みを超えた,オーディエンスおよび消費者理解が求められている」(21ページ)。

出典:岸志津江(2002),「広告研究における消費者理解-上・下」『日経広告研究所報』,35(216)2-8ページ。

投稿者 02tsukazaki : 2005年05月25日 22:27

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