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2005年07月30日

広告コミュニケーション機能の統合化モデル-広告はどのようにコミュニケーション機能を発揮しているのか(亀井 2000)

 本稿は,広告コミュニケーションが過小評価されている現実に対して,広告コミュニケーションを統合的な機能側面から考察することによって,その在り方を再考察している。あくまでも本稿は広告コミュニケーション機能の再評価のための仮説を構築することが目的であり,提示した尺度によりその妥当性を証明する必要があるとしている

 広告は本来,多角的で多面的であるが,私たちはそれを部分的,一面的にしか捉えようとしていないのではないのかとしている。例えば,商品広告について訴求対象としての消費者などの心理変容から購買行動へと変化する,コミュニケーション効果プロセスの機能のモデルや理論が存在する一方で,ステークホルダーを対象とする,企業等の組織への心情的理解から支持行動に至る情緒的効果の発生を主とした,企業広告などにかかわるコミュニケーション機能の説明が他方で存在しているとしている。これら二つの相互関係は企業イメージとブランドイメージなど個々で論じられることはあっても,その二つを統合化したものは表面化しなかったとしている。最近になって統合化マーケティングの考え方がようやくでてきたが,部分的には高いレベルを持っているけれども,統合的な認識はほとんど確立されていないというのが実態であるとしている。
 広告の真の機能を知るためには,これまで蓄積されてきた広告要素を統合化することが必要であり,またそこにおいても解明されていない部分を考察していくことによって,現代における広告の機能と存在意義が明らかになるとしている。

 広告コミュニケーションの諸機能について受け手の視点から統合化を考えると以下のとおりになる。例えば商品販売を目的とした広告において,受け手の心理は簡単に言うと,認知→情動→行動という変化の過程があるが,それは企業による消費者の説得を通じての,購買行動誘発を目的とした促進的コミュニケーションの説明であり,広告コミュニケーションの部分的理解でしかないということは明らかであるとしている。なぜなら企業広告などはこのような促進的コミュニケーションでは十分に説明ができないからであるとしている。このような視点から広告コミュニケーションの機能を見てみると,直接的ないし,準直接的に行動誘発に結びつく側面が大部分を占めるのと同時に,直接的に行動誘発に直結せずに受け手の中で整理されて,結果として影響を及ぼす機能側面も広告コミュニケーションは兼ね備えているとしている。このような認識の下で,実際に発揮されている広告コミュニケーション機能は以下の四つであるとしている。
①購買行動などの(直接的な)行動誘発
②自主的評価・選択基準の形成
③自己アイデンティティの構築・再確認
④企業・商品との心的関係性の構築

 上記の四つの機能はそれぞれが独立した形で力を発揮するのではなく,相互に作用し合う形で存在しており,「広告コミュニケーションは,そうした諸機能が有機的に結合された立体的な構造を有するものとして認識することができるのである」(4ページ)としている。本稿ではモデルが提示されている。
 広告を通じて蓄積された知識,また広告以外のコミュニケーション形態(報道や通信)により入手された情報が広告を通じて,主観的知識が客観的知識に変わる過程は,「暗黙知」から「形式知」に変容する一種として理解できるとしている。そう捉えると「主観的知識の持ち主は,広告を含むさまざまなコミュニケーションを通じて,それらを客観的な知識へと変質・昇華させていくことが期待される」(5ページ)としている。このようにして上記四つの機能より蓄積,形成された知識は消費者の日常生活的な知識にとどまらず,人間として生きていくための「知恵」にまで昇華させる必要がある。それは消費が生活の一部であるためとしている。人間として価値ある人生を送るためには,公共広告や社会広告などに接触することにより形成されていく,「生きていく上での知恵」(6ページ)が大きな意味を持つとしている。

 次に,前述した四つの機能の具体的尺度が述べられている(ただし,直接的な行動誘発機能面は除かれている)。ここでは,尺度の構築の論考を記す。自主的評価・選択基準の形成という機能側面については企業などの組織が提供した企業・商品情報に対して,受け手側の対応パターンからの整理が可能であり,「受け手の側で既に一定の評価・選択基準を保持していて,その完成と質的向上を目指して,提示される広告へ部分的あるいはアドホックに耳を傾けるという状況が想定される」(6ページ)としている。自己アイデンティティの構築・再確認の側面はやはり,自分らしさや他人との同質性,差異を確認・評価することにより,類型が浮かび上がってくるとしている。企業・商品との心的関係性の構築に関しては,広告を通じて消費者のブランドや企業,商品に対する一方的な思い込みや,消費を通じて得た満足により企業と顧客の良好な双方的関係の構築を考えると類型が浮かび上がるとしている。

 結論は以下のとおりである。本稿で記した四つのコミュニケーション機能は,受け手の知恵の形成を螺旋的に押し上げていく側面を理解する必要があり,その具体的な内容は明確ではないが,それは人間が本来持っている「他者への思いやりと誠意」(7ページ)に関わるものであるとしている。

出典:亀井昭宏(2000),「広告コミュニケーション機能の統合化モデル-広告はどのようにコミュニケーション機能を発揮しているのか」『日経広告研究所報』,第34巻2号,2-7頁。

投稿者 : 2005年07月30日 22:12

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