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2005年06月07日

「企業経営の社会性」と広告-社会的責任と社会貢献の動向を踏まえて(丹下 2004)

 この論文は,企業の社会的責任(CSR)への関心の高まりや,それに伴って個別企業のみならず産業界や国際的なレベルでの企業の社会的責任に関する基準などを策定しようとする動き,社会的責任・社会貢献・社会性などの「概念がかなり幅広く重複して」(10ページ)用いられている現状,「広く社会とのコミュニケーションを図るためのツールとしての役割が強くなってきている」(10ページ)といった広告の概念の変化などを踏まえたうえで,社会的責任や社会貢献の発祥や展開に考察を加え,企業経営の社会性という,企業の社会的責任や企業の社会貢献とは異なる新しい概念を示し,広告活動との関連から広告の社会性について論じることを目的としている。

 社会的責任の発祥と展開として,アメリカでは1920年代の経営者が社会的責任の原理を支持していたとされるが,その後経営者が主張ほど多くのことを成し遂げなかったことを受けて企業の社会的責任に関する議論が高まったこと,日本では社会的責任か利潤かといった議論が60年代なかごろになされ,70年代に頂点に達したこと,80年代には地球環境への関心の高まりが社会的責任に制度的あるいは規範的に取り組む必要性を企業に認識させたことなどが述べられているが,そういったこと以上に企業経営の国際化が日本での企業の社会的責任の内容に多大な影響を与えたとしている。80年代後半の貿易摩擦によって,在米日系企業は社会貢献を通じて現地化を促進する必要に迫られ,そのことが「日本社会に企業活動の一環として社会貢献を導入する発端となった」(11ページ)としている。社会貢献の導入によって規範的・義務的性格の強い社会的責任の概念に自発的あるいは自主的といった性格が加わり,「企業の社会的責任の内容に戦略的な側面が強くなってきた点が画期的と言える」(12ページ)としている。著者は企業の社会的責任を経済的責任と企業市民としての責任に大別し,さらに後者を遵法的責任,倫理的責任(道義的責任),貢献的責任に分類するのが妥当であるとしている。遵法的責任,倫理的責任はその性格から経営戦略的な要素が入り込む余地は少ないのに対し,貢献的責任は自主的・自発的に行われるので「企業経営上の極めて戦略的な問題と位置付けられる」(12ページ)としている。社会的責任投資(SRI)が導入されたりしたことで,企業の収益性だけでなく社会性も重要な判断基準になったなど80年代後半からの企業評価の基準として企業の社会性が注目されるようになったこと,アメリカで戦略的フィランソロピー(フィランソロピーは社会貢献の意)という概念が登場し,企業の社会的貢献が長期的な投資として捉えられようになってきたこと,企業フィランソロピーの競争優位性という論文が発表され,そのなかで現在行われているものが戦略的に行われるとは言えず,企業フィランソロピーが根付くのは21世紀の課題であるとされること,日本でもCSRが法令遵守や社会貢献といったレベルにとどまらず,企業にとってコストでなく投資であるとされていることが述べられ,これらのことから「従来の社会的責任や社会貢献の枠を超える新しい概念が,企業経営の観点から提唱されてしかるべきであろう」(12ページ)として企業経営の社会性という概念が示されている。詳細は筆者の著書を参照とのことから,その具体的な中身については言及されていないが,企業の社会的責任のように自由な経済活動を許される見返りに法を遵守したりするという規範的・義務的なことだけでなく,「本質的に企業経営において社会貢献が戦略的に導入されなければならないこと」(14ページ)が強調されている。

 また,企業経営の社会性は企業の社会的側面からも捉えることができるとしている。経営学の分野ではイシュー・マネジメント,マーケティングの分野ではソシエタル・マーケティング,ソーシャル・マーケティングと関連し,前者が製品不買運動,株主訴訟,反対広告,企業規制といった圧力に,後者が公害や環境汚染の深刻化,コンシューマリズムの高揚,企業の社会的責任論の高まりに対処する必要が生じ,企業が経済的側面だけでなく社会的側面も重要視せざるをえない状況になったとしている。

 非営利・公共的,あるいは社会的な目的を果たすために,民間企業ではなく政府関係機関や公共事業体,非営利組織や非政府組織によって有償の広告が広く利用されていることを挙げ,その際の広告効果は短期的でなく長期的に捉えられ,また製品の購入でなく知識の普及・倫理観を高めるといったところにあるとしている。このとき,営利企業で培われた広告の専門知識や技術が有効に機能し,広告の適用範囲も広がるだろうとしている。そして,広告はアイデアをも認識させる最も潜在力のあるツールと考えられているとし,創造的な広告であれば,「いかなる組織においてもイメージとともに高感度やブランド力の向上に結びつくはずである」(15ページ)としている。

結論
 営利企業を対象としていた理論や戦略が非営利組織にも導入されたり,導入しなければならないという見解が見られるが,そうだとすれば企業経営の社会性が示されるに至った根拠と経緯に基づき広告の社会性が問われ,広告活動にも収益性だけでなく社会性が強く求められてしかるべきだろうとし,「営利目的だけでなく非営利または社会公共的な目的を達成する戦略的なツールとしての広告の社会的な意義とプレゼンスは,今後ますます高まると予想される」(15ページ)としている。

論点
 結論にあたる広告の社会性それ自体や,そこに至る根拠や経緯,論文の核となるであろう企業経営の社会性についての記述が少なく,説明不足な気がする。また,非営利企業などの営利を目的とした民間企業以外の広告についてのみが扱われているように感じられ,自分の勉強不足も多分にあるだろうがタイトルや目的とのずれを感じた。

出典:丹下博文(2004),「企業経営の社会性-社会的責任と社会貢献の動向を踏まえて」『日経広告研究所報』,第217号,10-16ページ。

投稿者 : 2005年06月07日 20:37

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