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2005年06月13日

ブランドの記号的成長管理と経験マーケティング(岩本 2002)

1.はじめに
2.ブランド拡張と成長管理の視点
3.消費社会の記号作用
4.経験マーケティングの構築
5.おわりに

1.はじめに
 情報の送り手はブランディング,販売方法,イメージなど様々な差別化を試みているものの,ブランドの意味的広がり(外延化)のために上手く機能していない。つまり,ブランドが表現する意味は不定形な拡散を見せており,ブランドの外延化の構造を把握し,対応していくことが消費者マインドにブランド・アイデンティティを確立することにつながるのである。そこで本稿では「ブランドの外延化をとりまく文脈を重視した(記号的)消費行為,その背景にある意味,心地よさなどの感情や感動に着目してブランドをめぐる成長管理の態様と経験マーケティングの接点を探っていくことにする」(22ページ)。

2.ブランド拡張と成長管理の視点
1)ブランドの拡張基調
 ブランド評価は機能的側面だけでなく感覚的側面(情緒的側面)も重要な要素である。例えば,腕時計では時刻を正確に表示する機能的側面はもちろんのこと,デザイン性やステータス性を求める消費者も多く存在する。また,自動車の商品価値は地位表示性や快適さやパワーなどである。このように「ブランドは機能的価値と機能以外の価値の結合体」(23ページ)である。加えて,ブランドは時間の経過とともに消費者にとって商品に対する意味が変化する。そして,このことがブランド拡張へとつながるのである。
2)成長管理のフィールド
 ブランドの評価は商品構成や商品ミックスを背景に生み出される相乗効果だけでなくビジネスモデルや経営スタイルのブランド評価に与える影響力も大きく,成長管理の枠組みはこのようなビジネスモデルや経営スタイルにまで及ぶ広範な視野をもつ。

3.消費社会の記号作用
1)記号の論理
 「記号論は社会や文化の様相を記号現象として把握し,分析するものであって」(23ページ)マーケティング記号論とは「マーケティングにおけるブランドの意味作用,記号性,象徴性などの解明を図るもの」(23ページ)である。
2)消費社会の重層性
 ボードリアールは「物は,誰かが与えた意味を表出することによってはじめて,記号としての商品になる」(24ページ)と記号的消費について述べている。しかし,現代の消費社会はガルブレイスの欲望そのものが広告や販売促進に依存する依存効果やデューゼンベリーの自らの消費支出が他人の消費水準やスタイルに影響を受けるデモンストレーション効果を無視することはできない。したがって「記号的消費は機能的消費からの移行ではなく,共存の相互補完的位置にある」(24ページ)
3)外延化の源泉
 ブランドの意味的広がり(外延化)の源泉となるものとして,まず挙げられるものが商品デザインである。明確なデザイン・イメージを主張することによって消費者を魅了し使用経験のクリオリティを向上させることができる。店舗レベルでは高級ブランド店のような独自の情報発信を行うところに外延化が見出せる。また商品に一貫したコンセプトをもたせるよりは新たな情報発信を行うほうが一層ブランド価値を高めることができる。このように外延化の源泉には商品の新規性や独自性,また稀少価値などが重要になってくる。

4.経験マーケティングの構築
1)快楽消費への視線
 ここでいう快楽消費とは消費自体が目的であり,快楽である芸術や娯楽,ファッション商品などである。企業は商品機能やベネフィットのメッセージ化に目を向けているが「消費者にブランドを通じて心地よさや感動という感覚的経験を与える視点は保持してこなかったのである」(26ページ)
2)経験価値の重視
 現代の消費社会では機能やベネフィットを重視したブランド中心のマーケティングから感覚的経験価値を重視した経験マーケティングへのシフトが重要になる。そのためには「消費者マインドに,ネーム,ロゴ,スローガン,イベントなど多様な接点を通じて,使用している間だけでなく使用後まで残る識別可能な経験価値の形成」(26ページ)が基本となる。

5.おわりに
 現代の消費社会では記号的差異化が基本的思考様式となっているため機能面だけでなく感性面にも目を向け「記号論を視野に入れたマーケティング研究,ブランド分析」(26ページ)が課題である。

出典:岩本俊彦(2002),「ブランドの記号的成長管理と経験マーケティング」『日経広告研究所報』,36(5),22-27ページ。

投稿者 : 2005年06月13日 19:48

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