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2005年06月01日

コンシューマーインサイトを考える(小林 2002)

 この論文は,コンシューマーインサイトの理念に基づき,米国マーケティング研究の最前線を踏まえたうえで,新しい広告コミュニケーションのあり方を追求している。また,従来の「消費者分析」と区別し,「消費者理解」の重要性を説いている。

 「インサイト」(insight)とは辞書的には,「洞察・見識・見抜く力」(35ページ)などがあり,全体の状況を把握しなおし,行動パターンの原因や意味を理解することである。コンシューマーインサイトとは…
 ①消費者の行動原理・背景にある気持ちの構造を見破る。
  つまり一人の人として消費者を据え,内面まで深く理解することである。
 ②消費者の心を動かし,行動・購買に結びつけるためのブランドと消費者の共感点を見つけ出すこと
 ③「一人一人の個別の事例に注目し,現場の声に耳を傾け『個人』にとっての主観的な意味」(36ページ)を解釈すること
 ④消費者の「文化や,人間のライフスタイルといった空気・雰囲気など目に見えないもの」(36ページ)
を解釈していく
ことである。
 
 ここ数年,「コンシューマーインサイト」という考え方が脚光を浴びるようになった理由の一つにアカウントプランニング(以下AP)が挙げられる。APは,「消費者心理や行動を理解し,広告開発の全てのステップに反映させること」(35ページ)であるが,上記の前半部分がコンシューマーインサイトに当たる。広告表現開発の方法論としてAPを導入する広告会社が増加したため,コンシューマーインサイトが注目されるようになった。APが「消費者の代弁者」(36ページ)であることもあり,プランナーに消費者の海面下・心の奥を探ることが求められるようになってきたのである。「APは,企業・ブランドの立場で発見した魅力点・特徴点をものの分かる消費者に投げかけて,消費者を鏡にしてその反応を見る」(36ページ)。商品魅力と消費者の共感点を察知していくのである。
 消費者分析は「目に見えるものの分析」である。1000のサンプル数から法則性を導き,数値に置き換えて消費者の動向を探る。従来の消費者分析の考え方では消費者を「論理的に考え,合理的に判断する存在」(36ページ)と据えてきた。しかしながら,現実的には,必要性に迫られていなくとも,利便性がなくとも衝動買いなど一瞬でその商品に興味を持つ,または購入した後にその商品の情報収集をする,購入後に違った魅力を発見するなど企業・広告会社側が想定していないケースに遭遇する事もよくある。コンシューマーインサイトが従来の消費者分析と決定的に違うのは,消費者を「分析」するのではなく「解釈」するのことである(定量調査や,グループインタビューを否定するのではなく,それだけでは掴みきれない潜在的なところにも着目するのがコンシューマーインサイトである)。コンシューマーインサイトが相手にする「目に見えない部分」には,企業側では「企業文化・商品文化」(37ページ)があり,消費者側では生き方や,「消費者集団の価値を決定する風習,習慣」(37ページ)と言った意味の文化などがある。消費者の文化の下に目には見えない生活の様式が存在する。それを見るため,理解するためには「ポストモダン」という考え方が必要になってくる。
 今,「コンシューマーインサイトを発見するための広告学」(37ページ)が必要である。
人間を客観化・抽象化せずに感覚を重視する方法,「人間がどんな事を考えているか」(38ページ)という目線で,消費者を解釈していく方法を確立する必要性を筆者は説いている。
統計学など従来のマーケティングで用いられてきた手法以外に文化人類学の「書誌学」(38ページ)などの方法も組み込んで,消費者を解釈していくべきである。新しい広告学はコンシューマーインサイトを見つけていく過程で再構築され,それはブランドを解釈する時にも大きな影響を与える。

出典:小林保彦(2001),「コンシューマーインサイトを考える」『日経広告研究所報』,35(3),34-38ページ.

投稿者 02tsukazaki : 2005年06月01日 22:49

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