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2005年07月20日

コミュニケーション・コンセプトの再構築-特集“質”コミュニケーションのパラダイムシフト-(松岡 1993)

要約
この論文では,「双方向性」をキーワードにコミュニケーションのリストラが求められてきていることを主張している。そして筆者は,この問題を「コミュニケートするべき内容の戦略的決定」(52ページ)つまり,目的達成のためには戦略や計画性が重要であること,物事を大衆に伝えるためには雄弁であることに増して,説得性があることが求められていることに主眼を置いて説明している。また,「伝達手段とその効率についての吟味」,広告主がメディアの変化に対応して,双方向性を意識した説得力のある効率的な情報の配信をすることの必要性を述べている。

人に物を伝えるためにはまず,雄弁性が求められる。しかし,それだけでは事足りず,説得性が要求される。筆者はこのことを,湾岸戦争における日本の振る舞いを例に説明している。湾岸戦争における日本の諸外国の評価は決して高くはない。「たとえ米英と意見が異なっていても,日本が自分の主張を論理的に説明しうる限り,英米は日本の積極的意見表明を沈黙よりはるかに評価しただろう」(52ページ)。(国際社会で)自分の意見を主張するには、説得性=相手にその結論を受け入れさすに足る,反論の余地の無い論理が存在しなくてはならない。
 同じく,湾岸戦争の例を通じて,プロパガンダと説得の違いを説明している。「説得は相互行為であって,説得する者とされる者の双方の要求を満足させようとするが,プロパガンダは,プロパガンディストの望む意図をさらに促進するような反応を得ようとするものである」(53ページ)。また,湾岸戦争では,マスコミからの報道と実態・真相とがだいぶ食い違う部分がある。原油で真っ黒に汚れた海鳥は資料映像であったり、国家的な情報操作のもと,さまざまなイメージ広告の手法がこれに利用された。少なくともアメリカ人は,日本人よりもずっと戦略的で,彼らがどのような戦略目的を持っているかの考察は重要である。日本人の悪い意味の特徴として,本格的なシンクタンクを持っておらず,「ストラテジーとロジスティックの欠如」(54ページ)が挙げられる。
 その日本人である我々も,マーケティング・コミュニケーションを吟味していかなければならない。この分野では,「論理派」と「感性派」の根深い対立がある。具体的には,マーケターとクリエイターが分離しているため,マーケティング担当者が構築してきた「伝えたいもの・訴えたいもの」をクリエイターが無視して全く異なる広告が出来上がる事態が起こる。この両者の間の苛立ちを筆者は「広告表現のブラックボックス」(54ページ)と表現する。「伝えようとする情報が受け手にとって積極的に処理され,かつ処理しやすい題材のとき広告表現の方向は非常に明快である」(55ページ)。「誰かに何かを伝える」ということが広告コミュニケーションの最大の要素であり,理論である。そのためにも,伝えたい点を加工しないで,できるだけ「そのまま」伝えることが望ましい。「伝えるべき何かのチョイスこそマーケティングにおいてきわめて戦略的な課題であって,クリエイターによって簡単に無視されてよいものではない」(55ページ)と筆者は主張している。その「何か」の決定はコミュニケーションおいて最重要事項なので,クルクルと変えてはいけない。メッセージの真実性を維持するためにも説得型,情報提供型のCMが望ましい。
 コミュニケーションの第二の視点として,メディアの変化が挙げられる。メディア選択の主導権は消費者にあるため,その多様化は,消費者にメッセージ到を達させる可能性の低下を引き起こす。一人の人間が全てのメディアに接触することは不可能なので,どうしてもメディアの選択は「探索型」になる。このような時代にメディア効率の判断基準は「費用対効果」しかない。広告主は,消費者に探索されやすいメディアを模索していかなくてはならない。

結論
広告で伝えるべき内容の決定がコミュニケーションにとって最も重要であり,できるだけ加工,脚色せずにストレートに伝える広告を目指していくべきである。重要なのは,相手を納得させる論理と説得力である。メディアの多様化で,消費者にメッセージが届く可能性が低下している今,広告主は,自分のところに消費者を導き,探索させるよう,仕向ける努力が求められる。

出典:松岡茂雄(1993),「コミュニケーション・コンセプトの再構築」『ブレーン』,33(10),52-56頁。

投稿者 02tsukazaki : 2005年07月20日 21:49

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コメント

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不誠実なことはやめましょう。

投稿者 Baba : 2005年07月22日 00:35

出典を加えました。
ご指摘ありがとうございます。以後,気を付けます。

投稿者 tsukazaki : 2005年07月22日 00:52

 
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