« 消費者の専門店認知基準(田村 2005) | メイン | 小売業の国際化-OLIパラダイム-(金﨑 2003) »

2005年06月14日

韓国におけるTV放送プロダクト・プレイスメント(PP)の運用実態と消費者認識(宋 2004)

 この論文は,マーケティング・コミュニケーション手段としての媒体の急速な変化,消費者の広告露出への能動的回避といった傾向のなかで注目されてきているプロダクト・プレイスメント(以下PP),なかでも韓国での放送PPの活性化に着目している。PPの概念的な考察を行い,近年の調査をもとに韓国TV放送におけるPPの運用実態とPPに対する消費者認識を概観し,「韓国市場でのPP計画・実行における主要な戦略的インプリケーションを提示する」(17ページ)ことを目的としている。

 映画やTV番組で,特定の製品やロゴを登場させたりするPPだが,その技法はセリフにのせたりするなど様々である。媒体の急速な変化や登場による伝統的なマスメディアの影響力の低下や消費者の広告露出への回避などによって既存のプロモーション活動効果が減少するといった悩みを抱えていた製品スポンサー側と,制作費の高騰,興行成績の不確実性の増加により,入場料やビデオ版権といった既存の収入源の他に新たな収入源を模索していた映画制作会社の両方の必要に由来して,PPは登場したとしている。アメリカでは82年のE.T.でのリース・キャンディ以降,PPはマーケティング事業の一つとして認識されていたのに対し,韓国にPPが本格的に導入されたのは90年代に入ってからであり,映画シュリの大成功に伴って劇中のPPが相当の効果を上げたことで注目されるようになったとしている。当初は製品の無料提供という形だったのが,現在では制作費の一部を支援する形をとるようになったとしている。韓国では放送によるPPが活発に行われているが映画とTV放送を比較するとTV放送の方が圧倒的に多く,その割合は約3対7である。

 PPの概念についての論議は,ほとんどなされてこなかったが,最近ではPPをハイブリッド・コミュニケーションの一種として,その概念を規定する動きがあるとしている。ハイブリッド・メッセージとは,「商業的利益を目的に,非商業的な特性を持つコミュニケーションを使用してオーディエンスに影響を与えようとするあらゆる有料の試み」(18ページ)であり,PPはハイブリッド・コミュニケーション概念から派生した下位概念とみることができるとして「PPとは,非商業的な特性を維持しながら映画やTV番組などに製品のブランド名,イメージ,包装,ロゴなどの計画的で非強制的な挿入を通じてオーディエンスに影響を与えようとする有料の製品メッセージ」(18ページ)と定義できるとしている。PPの類型は研究目的や研究範囲によって様々だが,それらすべてが露出方法での類型であり,ミュージック・ビデオやインターネットなどPPが使用される媒体が急速に拡大しつつあり,PPの類型を使用媒体別に分類・再考察する必要もあるとしている。PPの効果についての研究はアメリカを中心に活発に行われ,近年ではコミュニケーション効果に関する研究が活発になったとしている。それらの研究から,PPを通じて製品・ブランドの認知,ポジショニング強化,好意的な態度形成,購買意図などの効果が期待され,それらの効果がターゲット,配置類型,製品群などによってかなり異なり,さらに不注意なPPによってイメージを悪くする恐れもあることが明らかになっているとしている。PPが広告市場を大きく損ない,公正競争を制限するとして規制を強めるべきだという意見もあるが,「制度化を通じて陰性的慣行から陽性的取引に転換させること」(22ページ)も問題解決の1つの対案になるだろうとしている。

 放送局の使用頻度,番組類型別の使用頻度,製品類型別の使用頻度,PPの方法,PPの形態,登場時間と登場回数といった調査データを概観し,衣類や食品・飲料の比重が高く,直接的な露出が多く,CMの15秒よりは短いが平均して約2回登場するので効果は高いだろうといったことなどが述べられている。また,PPに関心を示す企業が増えたことでPP関連の業務代行を行うエージェンシーの急速な増加や広告会社にも専門の職員が配置されるようになったとしている。PPに対する消費者の認識についても調査データを概観し,韓国の消費者はPPに対して全般的に肯定的だが,商業性が感じられるPPに対しては肯定的に捉える割合の方が高いものの否定的に感じる人が増加するとしている。PPの効果に対しても肯定的な反応を示しているが,購入意図や購買より前の段階,つまり認知や好感に効果的であるという結果であるとしている。このような結果は他の諸研究とも整合しているとしている。

 効果的なPP戦略を実行するには,PPに対する消費者認識の把握が重要であるとしている。韓国の消費者はPPに対して肯定的ではあるが,購入意図や購買においては否定的な反応も少なくなく,PPによって高まった認知や好感を購買の段階までつなげることも課題となるだろうとしている。また,自社がターゲットとする消費者層を念頭において番組を選ぶ必要もあるだろうし,商業性を帯びすぎるPPに対する否定的な反応はPPの適切性が重要であることを示唆するものだとしている。つまりストーリー展開に自然に溶け込むことでPPは効果を発揮するのだとしている。映画シュリにおいても数億ウォン投資した企業があるのに対し,数千万ウォンしか投資しなかったSKテレコムの方が大きな効果を上げた(エンディング場面で留守番電話の応答メッセージが使用されたため)ことからも適切な配置が重要であり,企画段階から緻密な戦略を立て能動的に参加する姿勢が必要であるとしている。

出典:宋貞美(2004)「韓国におけるTV放送プロダクト・プレイスメント(PP)の運用実態と消費者認識」『日経広告研究所報』,第38巻5号,17-23頁。


投稿者 : 2005年06月14日 14:48

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://www2.ipcku.kansai-u.ac.jp/~t020026/blog/mt-tb.cgi/109

 
Copyright© 2005-2006 Baba Seminar. All rights reserved.