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2005年06月29日

デジタル,ポストモダン,そしてアカウントプランニング(下)(小林・野口 1999)

 この論文では,時代の流れと共に変化してきた企業の情報戦略の焦点と生活者との関係性の変化について述べられている。メディアのポストモダン化のという局面の中で広告が取るべきコミュニケーションモデルを提示している。

優れた情報戦略は「Data」「Information」「Insight」の3段階を包含している。しかし時代の流れと共に,その焦点は変化してきた。
 マーケティングにデータベースが導入された当時,企業の情報戦略の焦点は「情報の取得(Data)」であった。企業の競争優位とは他者との差別化である,消費者調査を行いできる限りのDataを集めることで情報優位に立つことが出来た。しかし,「次第にDataは大量になり,コンピューター処理技術の発展も大量の情報処理を可能にした」(26ページ)。今度は「情報の総合(Information)」が求められるようになった。「各企業は独自のデータベースを持ち,その総合力を競うようになった」(26ページ)のである。この時点での情報戦略の枠組みは中央集権的であり,ヒエラルキー的である。「情報は集約し独占する事に意義があり,それを体系的に整理し,構築することが競争力の源泉であった」(26ページ)。この時代は情報処理の中心であるコンピューターも高速であることに開発の焦点が置かれていた。そのコンピューターを駆使して,ターゲット別,地域別,年代別など,様々な軸にそってデータを体系づけ,そのデータ構築の巨大さを競うことで優位を保ってきたのがこの段階の情報戦略であった。
 しかし,この優位を巡る競争は,進展するにつれ2つの問題が発生してきた。
①企業側の「総合的な情報」への慣れ
②情報の肥大化
第一は,巨大な情報量,体系は“多くの企業”に存在するようになってしまったことを指す。情報量をもってしての差別化が難しくなってきたのである。第二は,積み上げてきた情報体系は個人(法人)の能力では管理しきれなくなるほど巨大化したことである。情報が既に有り,整理もされているが,その量が膨大であるだけに,「その量が理解の範囲を超え,そこから何を洞察し,どんな戦略に結び付けていったらいいのかが分からなくなってきている」(27ページ)。
 このジレンマがビジネスの世界に現れてきている状況下で,情報戦略の焦点は「情報の洞察(Insight)」に移ってきていると言える。情報をもとにそこから何かを抽出しポジティブな力に変えていくことが焦点になってきている。
 除法の枠組みのポストモダン化が進行している,つまりヒエラルキー型からネットワーク型へシフトしてきているのである。この決定的な変化は,ネットワーク・コンピューティングやパソコンの浸透がもたらした。「データは硬直的ではなく常に更新される,常にインタラクティブに反応し合い,ダイナミックに流動している。この理念はパソコンとインターネットの普及で現実のものとなった」(27ページ)。もはや情報の量は焦点ではない,溢れる情報のうちどれを抽出するべきか,どの切り口で探索していったらいいかを洞察する能力が問われている。「洞察力を重視するAPの方法論はデジタルの進歩に伴ってますます重要度を増している」(27ページ)。
 メディアのポストモダン化は広告と生活者の関わりにおいて以下の3つの変化に整理できる。
①情報の寡占状態の打破
②情報圧力の激増
③情報への反応速度の劇的加速化
である(27-28ページより)。筆者はこの変化に対応し,広告者の生活者心理への作用のさせ方を変化させるべきだと主張している。多様化したメディアの中で生活者はその選択肢を広げている。「メディアの多様化は,生活者に情報の選択権を与える一方で,溢れる情報の圧力を感じさせる」(28ページ),生活者は,能動的にメディアを選択しなければならなくなるのである。デジタル技術を用いたインタラクティブなone to oneが実現すると情報はプライベートな距離に侵入してくることの危惧も指摘されている。
 「デジタル・エイジの広告コミュニケーションは,『強制的な到達』を前提とすることが出来ない」,押し付けがましさもあってはならない。強制的な文法よりも,むしろ日常会話に近いスピード感・フラットさが要求されていくのではないだろうか?と筆者は記している。筆者はこのモデルを“誘惑モデル”と名付た。①Cool,②Right,③Independent,④Unique,⑤Inspiring。これらは誘惑モデルにおいての広告コミュニケーションの評価軸である。①は注目を強制しないことを指し,②は分のわきまえを指す,③は生活者にすりよらないこと,④は独自な世界観⑤は話題の喚起である。「決して孤高に陥ることなく,生活者自身の言葉で語れる形になっており,理論的な意識の下に隠されている『エス』の部分を刺激する何かを隠し持っていることを意味している」(31ページ)。これらの背反した構造が魅力的なブランドを形作るのである。

結論 デジタル化によって,情報は生活者の受容範囲を,量・質ともにオーバーフローしている。従来の強制力を伴う文法は自社および自社製品の魅力をアピールするあまり「自慢」に陥る危険があった。これに対して「誘惑」の文法は決して無理強いの要素は無く,しかしオリジナルの世界観などにより自然と生活者に受け入れられる。本論ではこの誘惑モデルをデジタル・エイジに有効なモデルとして提示している。

出典 小林保彦,野口嘉一(1999),「デジタル,ポストモダン,そしてアカウントプランニング(下)」『日経広告研究所報』,33(5),26-32ページ。

投稿者 02tsukazaki : 2005年06月29日 23:31

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