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2005年07月16日

消費経験の新たなコミュニケーション(桑原 1999)

要約
 本稿では消費者研究をするにあたり,「3‐Dステレオ」と「エッジ」という考え方を用いることの重要性を説いている。そして,最後にその考え方を広告コミュニケーションに当てはめて考えるとしている。

 近年では消費者研究の領域が拡大し,昔からの消費者の購買行動が変化していったとして,過去の消費者研究のレビューを行っている。さらに今日における消費概念はあらゆる対象についての獲得場面,使用,廃棄の3つの消費局面があると記している。この3つの消費局面において,消費者のニーズとウォンツの両方を満たす場合はそのサービスの中で,消費者価値を供給する経験を創造するプロセスを通じている。このようにして「価値のかかわる消費経験が,消費者研究の焦点として浮かび上がってくるのである」(14ページ)としている。経験としての消費の重要性に着目することは,顧客主導型のマーケティングを展開する上で,リレーションシップにより顧客の消費経験が進化し変化していくさまに相当するとしている。本稿では消費経験の意味を深く理解し,洞察を得るために消費経験を3‐Dステレオ写真と解釈することで,消費者とどのようにコミュニケーションをとっていくのかについて論じるとしている。また,3‐Dステレオ写真を用いた理由も述べるとしている。
 まず,3‐Dステレオ写真の説明が簡単にされている。カメラを2つ用意し,人間の目と同じ並びで撮影する。そうすると角度が異なるが,同じ被写体を撮った写真ができあがる。その2枚の写真の幅を合わせて見ることにより,立体的な像を再生するとし,例として写真が載せられている。立体的イメージを得るための方法は2つあるとし,本稿では裸眼で見るFree-Viewingの平行法を使用したとしている。Free-Viewingの長所としては色の鮮明さが挙げられる。短所は写真を拡大できない点と見るための訓練が必要であるとしている。ゆえに見るのは困難であるが,「見えた時の感動は大きく,それはまた,後に述べるように本論の主張とも無関係ではない,諦めずに挑戦してほしいとしている」(15ページ)。そのようにして見えた画像は鮮明かつ現実感豊かで,奥行きの感じられるものとなるとしている。
 そのことを消費経験に当てはめて考えてみると,写真によって,頭の中に立体イメージを結ぶということは洞察の契機と呼応するとしている。それは角度の異なる知覚を融合させることによって,奥行きについて豊かな知覚が得られるという点においてである。最も深く消費者のことを考えるということは「いくつかの異なった視点の結合,統合,調和,あるいは,融合が伴っているべきだということである」(16ページ)としている。そうするならば,消費者研究において考えると,いろいろな視点を融合させて,より深い消費経験の理解に結びつけることに集中すべきであろうとしている。また,本稿では消費者研究をエッジの上を歩くことと捉えている。エッジの上を歩くとは,いろいろな意見が衝突する知覚において最も安全な道を見つけて通ることであるとしている。そうすることにより,奥行きの深い最も深い洞察に達するとしている。消費者経験におけるエッジを歩くとは,意思決定を中心とした見方と,経験的側面に焦点を置く見方について「道」を見つけることが重要であるとしている。このような方法は「消費者研究という領域の中で,新しい発見をもたらす中心的なルートとなる可能性を秘めている」(17ページ)としている。そしてそのことは3‐Dステレオに基づいた表現の適切さを意味しているとされている。消費経験においてエッジを歩くことは創造性の本質や,イノベーション,深い洞察を反映する効果があり,そのためには3‐Dの経験はかなりの効果があるとしている。
 広告コミュニケーションに上記の考えを当てはめると,「消費者のもつ,広告を読み味わう戦略はと,そこにあてはまらない広告メッセージの新しさの境界線上に,消費者の心に届く道が形成され,広告は訴求力をもつことになる」(18ページ)としている。広告を見る消費者に対して,エッジの上を歩くという,新しい視覚的世界を創造させることが経験を伝えるコミュニケーションになると記されている。

出典:桑原武夫(1999),「消費経験の新たなコミュニケーション」『日経広告研究所報』,第32巻6号,14-18頁。

投稿者 : 2005年07月16日 20:04

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