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2005年05月24日

マーケティングと広告(土山 2002)

 この論文は,「日本の広告研究の系譜」というシリーズの第6回目で,戦後の文献を対象に,「広告とマーケティングの記述についての系譜をたどること」(41ページ)を目的としている。

 対象論文で最も古いものとして,56年の宇野が紹介されている。マーケティングの本質が理解されているか疑問を呈し,メーカーの立場でのマーケティングを解説する過程で,広告はマーチャンダイジングをプリントしたものと強調されるとしているが,広告について多くの紙幅が割かれたわけではないとしている。その後,他の著者によって「電通広告論」誌,「マーケティングと広告」誌に掲載された論文についても「あまり多くの紙幅は割かれていない」(41ページ),「広告との関係を詳細に述べるということはなかったようである」(42ページ)などとしている。60年代,広告主や広告会社に籍を置いた実務家たちによる研究があったと紹介されているが,「系譜と呼ぶべき影響の発端は明らかでない」(42ページ)としている。また,67年の宇野による論文で,改めてマーケティング導入理論の不消化が指摘され,そのなかで「マーケティング・マネジメントの一環としての広告体制のあり方」(42ページ)が論じられているとしている。これらの論文を見てきたなかで「マーケティングのフレームワークを再考する中で広告の位置づけや役割などを見直そうとする場合」(42ページ)と「様々な環境,条件でのマーケティング戦略の中で広告に触れる場合」(42ページ)に大別できるのではないかとし,この二分類のうち前者についてのマーケティングと広告を見ていくことにするとしている。

 70年代はマーケティングに関連したシリーズもののなかでの広告の記述がいくつか見られるが「特定の研究者や領域の流れを受けて解説されているものではない」(42ページ),「日本の研究論文に関しては触れられていない」(42ページ)としている。その後空白期間が続き,80年代に入ると「4P理論もしくはマーケティング・コミュニケーションにおける広告の位置づけを再考しようとする研究が現れる」(42ページ)としている。広告が「プロモーションの中に位置づけられていることに対して,広告の公共性,社会性をも含めた広いカテゴリーの中に位置づけられるべきだとして」(42ページ)4C理論を提唱し,7Cs COMPASS MODELを考察した清水,「広告のコミュニケーションプロセス論に力点を置いて」(43ページ)研究を展開した亀井,八巻らが紹介されている。その後さらに,「マーケティングと広告の枠組みの再検討を目的とした研究が相次いでいる」(43ページ)としているが,「いずれの発表も我が国の文献,研究の流れを明確にしているわけではなく,また,相互の関連性も見受けられない」(43ページ)としている。

 90年代に入ると,「市場の世界的な広がりと同質化を踏まえ,デザイン力の重要性を強調」(43ページ)した菅原,「グローバルという言葉の普及が進む時代」(43ページ)に着目して問題点を指摘,フレームワークの検討を提唱した疋田,渡辺他によるライフスタイル・マーケティングを基軸とした研究があるとし,これらは,国際マーケティング,ライフスタイル・マーケティングといった,二分類による流れでは後者にあたる「マーケティングの一タイプにおける広告の検証,考察の色合いが強いともいえよう」(43ページ)としている。90年代後半になるとIMCをテーマとする研究が多くなる。このことについて「あるテーマに対する関心が高まる時期が存在するようである」(46ページ)としている。IMCをテーマにしたものには,消費者行動論の視点から「広告の役割として長期的顧客創造の基盤づくり,消費の意味形成や社会の中での同化と差異化といった機能があることを挙げている」(45ページ)岸など多数が紹介されている。しかし,4P理論,IMC論をはじめ多くが,海外の研究,文献を「規範として理解,消化したうえで各々の考察が展開されることが多いように思われる。その過程で日本の研究も参照されているだろうが,いずれか個々の研究を発展させてというケースは多くないようである」(46ページ)としている。

 結論としては,「選定した論文の数,あるいは対象誌を考慮せずに」(46ページ)としたうえで,「研究の傾向をたどることはできても系譜を見て取るのは非常に難しい」(46ページ)としている。また,60年代中ごろから70年代前半,70年代前半を過ぎて80年代前半のように「比較的長い期間空白となる時期が見られた」(46ページ)としている。

出典:土山誠一郎(2002),「マーケティングと広告」『日経広告研究所報』,36(5),41-47ページ。

投稿者 : 2005年05月24日 15:48

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