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2005年07月18日

満足保証のコミュニケーション(有馬 1997)

要約
 本稿では,顧客保証政策に有効なコミュニケーション方法に関しての分析を進めるために顧客保証政策の具体的方法,またそれを実施しようとする企業の意図や消費者の捉え方の変化などを整理し,満足保証政策を有効に顧客にアピールするための具体的なコミュニケーション方法に関しての示唆を目的としている。

満足保証政策の概要と満足概念
 90年代以降,多くの企業で顧客満足を実現するため,消費財メーカーやサービス業を中心に,社内に顧客対応セクションやCS推進室などの顧客満足を専門に扱う組織を設置したりするなどの様々な取り組みが行われている。近年のアメリカ合衆国における顧客満足の捉え方は,1つの方向性を持ち,その理念の実現のための手段も基本的に集約されつつあり「満足保証政策」と呼ばれる方法の採用という形で表れている。満足保証政策は,購入商品が気に入らない場合に,不良商品でなくても交換や返金に応じるもので,多くの企業が無期限で返金・交換に応じる。また,サービス業の場合においては提供したサービスを無償にしたり,場合によっては「見舞金」などの形でさらにいくらかの金銭を顧客に支払うものである。企業がこの顧客満足政策を推進するようになった背景には,企業の顧客満足に対しての捉え方が変化してきたからである。それは「単に商品やサービスの提供のよって顧客や社会に奉仕するといった日本にも浸透している従来の経営観からでは,ここまで踏み込んだ顧客満足の考え方は容易には想定できないからである」(13ページ)。満足概念の既存研究では消費者の満足とは,購買によって不満を感じない状態全般をさすというものであり,購買結果の喜ばしい場合だけでなく,苦情を言うほどの不満がない状態や買い直さなければならないほどの不満を感じない状態などの強く不満を感じていない精神状態全般を含む広範囲な概念として位置づけられてきた。オリバーなどによって満足を幅のある概念として位置づけて分析を進める研究がなされ,消費者の満足を消費者の気分が愉快であるか不愉快であるか,気分が興奮しているか平穏な状態にあるかによって4つの状態があると仮定されている。満足保証政策はただ単に顧客の「苦悩」「退屈」な状態を「冷静」という状態に転化させるための政策ではなく,顧客の感情をさらに「上機嫌」という状態に転化させることを目的として実施されている。

満足保証政策のコミュニケーション活動
 満足保証政策の目的は,積極的な顧客満足の提供である。したがって「コミュニケーション活動に焦点を当てた場合にも同様な視座から手段が考えられることになる。そのために積極的な顧客満足を引き出すために必要とされる情報収集並びに発信活動が行われることになるわけである」(15ページ)。「上機嫌」な顧客の反応を得るためのコミュニケーション活動を実施するためには,顧客の要望を迅速に察知し,それが直ちに実感できる形で具現化することが必要である。なぜなら,単に顧客の苦情や意見に耳を貸すだけでは顧客の「上機嫌」な感情を引き出すことはできないからである。また,調査・分析などの検討期間を長く取り,実行までに大きなタイムラグがある市場調査の方法では,満足保証の実施には有効に効力を発揮しない可能性が高い。顧客満足を得るための企業側からの情報発信活動は,アメリカの事例を見るかぎり2種類ある。1つ目は,積極的なプロモーションを各種メディアを有効に利用して行うものである。アメリカの場合,マスメディアを使用して自社の満足保証を浸透させるやり方はあまり存在していない。しかしながら,「日本企業が今後満足保証政策を導入して積極的な顧客満足を実現していくためには,積極的な情報発信活動も当然必要とされてくる。そこで,商品の返金や交換措置の利用方法などの消費者教育的な側面を有した広告活動が第一に必要とされてくるものと思われる」(16ページ)。2つ目は,従業員による人的コミュニケーションを重視した活動である。これは従業員が顧客に話しかける際に販売を意識した応答ではなく,顧客の問題解決のために相談に乗るという姿勢で接客が行われるものである。この姿勢によって顧客は従業員が非常に親密に感じられるようになり顧客満足に繋がるのである。「顧客満足の情報発信活動は,現状において媒体を使用した活動よりも人的コミュニケーションの活動の方が効果が顕著に表れやすいものと思われる。しかしながら,媒体の使用方法の工夫によっては大きな効力を発揮する可能性も高い」(17ページ)。

結論
 単に返金や交換に応じるだけでは顧客の「上機嫌」の獲得はできない。したがって,顧客との双方向のコミュニケーション活動が重要である。こうした積極的なコミュニケーション活動によって,「満足保証政策は他者との差別化の手段として効力を発揮する可能性が高いことを示唆することができる」(17ページ)。

出典:有馬賢治(1997),「満足保証のコミュニケーション」『日経広告研究所報』,31(3),12-17ページ。

投稿者 : 2005年07月18日 23:55

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