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2005年06月04日

広告とブランドの超長期記憶(岸 2002)

要約
 この論文は広告が消費者に対し成熟ブランドの管理を行う上で,企業が「記憶の動態的な変化を長期的に把握すること」(9ページ)が重要であるとしている。本稿では消費者の頭の中に蓄積された過去のブランド価値を「超長期記憶」という心理学用語を用いて研究している。

1.超長期記憶の定義と特徴
 本稿では超長期記憶を10年以上保持されている記憶とし,12年以上の記憶保持を観察した研究は少ないとしている。また,超長期記憶が何年以上であると明記した文献は見当たらないとしている。超長期記憶の特徴については以下の5点が挙げられている。①超長期記憶は人の顔や名前,ニュース,自己の経験などについて存在するとし,その種類はエピソード記憶の他に,より一般的知識としての意味記憶も含まれているとしている。1年以上持続する潜在記憶のことでもある。②超長期記憶の形成時期のピークは子ども時代に限定すれば小学校入学時,中高年層では10歳から30歳の頃に学習,経験したことが最も記憶されるとしている。「超長期記憶は子どもから青年期,熟年期,老年期といった異なる発達段階の影響を受けて形成・保持される」(10ページ)。③若年期の記憶は鮮明であるため,好意やノスタルジアに付随するものが多いとしている。④接触頻度が高く,数年間,高水準で学習された記憶は長期間保持されるので,リハーサルがなくても検索が可能であるとしている。⑤「快」,「不快」の感情によって超長期記憶された事柄では「快」の方が多く記憶されるとしている。

2.定性調査の概要
 この章では調査の方法が述べられており,その目的は「広告に関する超長期記憶の測定可能性を確認し,その形成時期や構造などに関する仮説的知見を得る」(10ページ)ことであると記されている。調査結果は全部で14点挙げられているが,ここでは目を引いた6点だけを記すこととする。①再生できる最も古い記憶は,小学生入学前後のものであることから,対象者が広告の超長期記憶を持つことがわかる。②視覚的広告媒体が再生されやすい。③「広告の超長期記憶と現在の購買行動には明確な関連はない」(10ページ)。④中学以降の広告記憶が相対的に思い出しにくい。⑤他者の発言や,マスメディアなどにより広告記憶が再生,再構成されていく。⑥40代女性よりも20代女性の方が広告に関する知識が豊富であった。

3.定量調査の概要
 この調査の目的は再認率による広告の超長期記憶が存在することの確認,視聴時の年齢による再認率の相違分析をすること,どのような要素によってテレビCMの記憶を構築するのか,広告記憶に対する過去と現在のブランド反応の関係性についてである。次に被験者,データ収集方法などの調査方法が記されている。調査結果は以下の通りである。
①広告再認率
平均再認率は56.29%で,年代別,カテゴリー別で記している。前に紹介した定性調査とは,最近の広告も含めたこともあり,異なる結果が出たと記している。両年代(本調査では20代と40代)ともに9歳以下の時の広告再認率が低い。両年代で同じテストCMを調査すると16本中10本のCMで,20代よりも40代の方がより高い再認率を示している。
②広告超長期記憶の構造
「20代・40代とも,広告再認率が高いほど,広告コンセプト,視覚要素,聴覚要素及び言語要素の再認率平均値も高い」(14ページ)としている。CM放送を見た日から年数が経過すればするほど20代・40代ともに再認率が低下する傾向があると記している。
③広告及びブランドへの反応
「20代では視聴時インパクト,当時及び現在の広告好意,当時及び現在のブランド好意,カテゴリー関心度,ブランド使用経験率の全てについて,再認率が高いほど肯定的である」(14ページ)とし,40代でも順位が逆になってはいるが全体としては再認率が高いほど肯定的な結果が出たとしている。

 結論は以下の通りである。以上の調査から超長期記憶が広告にも存在することがわかる。これを利用して広告によりブランドの長期育成をはかるには,ブランド導入時に相手にブランド知識の基盤をしっかり形成させることが大切であるとしている。その後,一貫性のあるコミュニケーションを行うことにより,その広告記憶は断片的に留まらず,「より強固なブランド知識に発展させることができるだろう」(14ページ)と述べている。また,本稿では「早期に形成された記憶を10あるいはそれ以上後に活用するマルチ・コーポレート・ターゲット・オーディエンス」(14ページ)の考え方も示唆している。

出典:岸志津江(2002),「広告とブランドの超長期記憶」『日経広告研究所報』,36(5),9-15ページ。

投稿者 : 2005年06月04日 14:58

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