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2005年07月26日
エリア別のコミュニケーションを考える-定性的なアプローチによる探索-(国生 2002)
ここでは,消費者の声からコミュニケーションのエリア差を探索するために,広告に関連する自由連想や自由回答のデータを収集し,収集したデータをテキストマイニングによって分析した結果が紹介されている。
欧米のメディア・プランニングではジオグラフィックの記述があり,エリアごとの適切な戦略によって全体の課題解決を図ることが提言されているとしているが,日本のエリア・マーケティングは重点地域を選択することで集中的に課題解決を図ろうとする発想が強いとしている。近年では,よりエリアの視点からの課題解決が求められるようになってきているが,ビークルの選定などをエリア別で行うことはあっても,コミュニケーション戦略に欧米のようなジオグラフィックの視点を取り込むことは少ないのではないかとしている。今回の分析にあたり,交通網やメディアの発達によって日本のエリア差は縮小傾向にあるという見解に対しては,著者の過去の分析を通じてエリア差の存在は確認しているとしている。
今回の分析は,札幌市,東京都23区,名古屋市,大阪市,福岡市の5地域に居住する20~49歳の消費者(パネル登録者)によるウェブ・リサーチで収集された自由回答をテキスト型データとして使用している。また,自由回答との関連を分析するために,データ収集時に定量的な設問も行っている。分析にはWordMinerが使用されている。自由回答の質問は,①広告と聞いて思い浮かぶこと,②あなたにとって広告とは,③この3ヶ月間に見たCMで好きなもの3つを選んでⅰ.何の広告か,ⅱ.どのような広告か,ⅲ.どんな印象を持ったか,というものである。
質問①についての自由回答はメディアに関連する語が上位を占め,複数回答で選択肢型の「日ごろから関心のある広告」という質問と比べてみると比率は異なるが順位は似ているとしている。自由回答の上位5つは順に「テレビ」,「新聞折込」,「新聞」,「交通広告」,「宣伝」となっている。居住地別の差異としては,名古屋市では「新聞折込」が「テレビ」を上回ったこと,東京23区では「新聞折込」,「新聞」と「交通広告」がほぼ並んでいて「交通広告」は2位であること,福岡市ではメディアに関連した答えは少なかったことと「雑誌」が5都市で1番上位にきたこと,が述べられている。質問②についての自由回答は「情報」という言葉を含んだ語が多くあがり,全体の40%にのぼったとしている。クラスター数を20と指定して行ったクラスタリングの結果,サンプルサイズの大きい順に「情報源」,「商品を知る」,「楽しみ」,「邪魔と興味」,「購入の参考」,「宣伝」,「イメージをつくる」,「流行を知る」,「目につく」,「暇つぶし」,といった順になっている。居住地別では名古屋市で「情報」が,福岡市で「楽しみ」,「流行を知る」の比率がそれぞれ比較的高く,質問①の結果と関連しているようだとしている。また,「楽しみ」,「流行を知る」については居住地別のレンジが性年代別に比べて高くなっている。質問③についての自由回答はデータの収集時期に放送されていたボスHG,au,写ルンです,スカイパーフェクTV,ケミストリーのコラボレーションCMをあげる回答の非常に多かった。ブランド名・企業名では他の4社とコラボレーションしていたボスが圧倒的に多くあがっている。コラボレーションCMをあげた人を居住地別に見ると名古屋市でやや高めとなっている。コラボレーションCM以外のその他の広告を居住地別に見るとローカルCMも含まれてくることに対して,分析は行っていないが出稿量の影響がありそうだとしている。コラボレーションCMとその他の広告の印象については,両者とも「おもしろい」が最も上位にきているのに対し,2番目にくるのが前者では「続き」が見たい,「ストーリー」が「楽しみ」で,後者は「~したいと」いう欲求や意向であったが,「買いたい」,「飲みたい」などの欲求や意向を広告の印象として多くの人があげたことには少し驚いたとしている。
結論と課題
今回の分析で「消費者のメディア接触の量だけでなく,質を洞察してエリアに適した戦略を策定すること」(33ページ)の重要性の認識を強めたとしている。また,消費者にとって広告が情報源であると同時に,そこに驚きやおもしろさを得る楽しみを見出していることを再認識したとしている。課題としては,今回のウェブ・リサーチでは答えたい人だけが答えたとも考えられる点,居住地の代表性の問題といった点から一般化を行うのは危険であることなどが述べられている。
出典:国生理枝子(2002),「エリア別のコミュニケーションを考える-定性的なアプローチによる探索-」『日経広告研究所報』,第36巻5号,28-33頁。
投稿者 : 2005年07月26日 08:36
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