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2005年05月10日

アドバタイジング・マネジメント:広告意思決定の理論(D.A.アーカー,J.G.マイヤーズ 1977)

目次
第9章 知覚過程
第10章 学習と態度変容
第11章 伝播とパーソナル・インフルエンス

 第9章では,コミュニケーションにおける知覚過程について述べられている。「第1に,個人は広告に露出し,それに注意を向けなければならない。第2に,彼は広告主が意図した通りにそれを解釈しなければならない」(357ページ)とし,広告が目的を果たすには,受け手に知覚されなければならないとしている。
知覚過程は,注意と解釈の2つの段階で構成されるとしている。この過程に影響を与える変数には,「過程に対するインプット,すなわち刺激」(320ページ)と「『オーディエンス条件』と名付けられ,個人差を反映する変数」(320ページ)の2つの主要なタイプがあるとしている。前者は強さ,大きさ,メッセージ,新しさ,位置,前後関係であり,後者が,情報の必要性,態度,価値,興味,自信,社会的関係,認知様式などであるとしている。
 露出された広告のすべてが注意のフィルターを通過できるわけではない。そこで,人が情報を得る動機を明確にしておくことは,このフィルターの働きを理解するのに有益であるという考えから,過去の理論や実証研究をもとに考察を行っている。そして,その動機は,1.「意思決定にとって実用的価値がある情報を獲得する」(357ページ)ため,2.「自己の態度や購買経験を支持する情報を得る,そして支持しない情報をさけるため」(357ページ)で選択露出と呼ばれる,3.「多様性を求め,退屈さと戦うため」(357ページ)であるとしている。
 解釈過程は,ゲシュタルト心理学の概念を用いることで理解が容易になるとしている。「第1に刺激は全体として知覚される。第2に個人は秩序のある認知形態に対する認知動因を持つ」(358ページ)とし,認知動因の例として閉鎖,同化‐対比が紹介されている。
 最後に,解釈を測定する方法として,直接法,投影法,自由面接法が事前テストとして紹介されている。

 第10章では,「知覚過程を通過した情報,すなわち認知が態度と行動に与える影響について」(363ページ)を考察している。「態度がどのように発達し変化するか」(363ページ)をいくつかの理論を用いて考察している。まず,学習理論が説明されている。ここでは,「消費者は基本的に製品の使用に関連した『報酬』と『罰』に反応する」(417ページ)とされている。次に,バランス理論,適合性理論の一貫性理論が説明されている。これらの理論は,「広告コミュニケーションが単に銘柄選択行動を誘発するのみならず,情報探索に結びつく行動を誘発するという意味で,動機づけを行う理由に洞察を与える」(418ページ)とし,「説得的メッセージが直接その銘柄に対する認知構造を惹起するのではなく,媒介的な段階が生じるということである」(418ページ)としている。一貫性理論の変形である不協和理論は,「消費者は種種の行動と認知的変容につながるような自己の行動に対する合理化を求める」(418ページ)とするとともに,「購買後にも広告を続けることの有効性を指摘している」(419ページ)
 競争相手の攻撃に対し態度を変化させないように抵抗できるようにするには,「競争相手の主張や,自己の製品のマイナスの特性を暗示的あるいは明示的に述べた後,これらを論破する」(419ページ)という論破の概念が有効であるとしている。
 マイナスの態度を変容させるには,対象となる受け手が「広告主のいかなる主張にも反論する傾向を有していると思われる」(419ページ)とし,「反論過程に対して干渉する錯乱」(419ページ)が唯一の方法であるとしている。

 第11章では,伝播とパーソナル・インフルエンスについて述べられている。「伝播とは,あるものが人々の間に広まってゆく過程である」(426ページ)とされ,いかなる種類の情報も「ある形態のコミュニケーション・チャネルを通じて伝播してゆく」(426ページ)としている。垂直的チャネルは,「コミュニケーション単位間の関心,社会的地位,人口統計的あるいは経済的特性に意味のある差がみられる場合に存在」(426ページ)し,水平的チャネルは,「コミュニケーションが関心,社会的地位,人口統計的,経済的特性の等質な集団成員間に流れる場合に存在する」(426ページ)とされている。水平的チャネルの重要な要素は「対面的相互作用」(431ページ)であるとしている。パーソナル・インフルエンスは,「集団成員が果たす様々な機能,役割による自然の産物として,対面的関係を基盤として集団内部に発生する」(431ページ)としている。
 情報の2段階流れモデルは,「オピニオン・リーダーと称される個人が最初に情報を受信する傾向をもち」(461ページ),彼が属する集団の他者に情報を広め,影響を与えることを説明している。ここでは,オピニオン・リーダーは特定的な現象であり,各種の分野ごとにリーダーは異なり,マス・メディアとの接触では,マス・メディア全般にではなく,関心のあるマス・メディアには多く接触するという考えを支持しているようである。そして,「集団によっては,集団の態度,意見,行動等に影響を及ぼす情報の『ゲイトキーパー』と『オピニオン・リーダー』は,同一の個人であるとは限らないとするのが妥当であろう」(440ページ)としている。
 しかし,情報の2段階流れモデルは,「人々が革新を採用するか,拒絶するかという複雑な過程は説明していない」(442ページ)。そこで,採用過程モデルが紹介されている。これを理解するうえで重要な概念として革新者概念がある。革新者とは,「他者より早期に革新を採用する傾向をもつ人」(442ページ)である。「採用過程の初期段階には,マス・コミュニケーションは多大な影響を及ぼし,後期段階にはパーソナル・インフルエンスがいっそう大きな影響力をもつ」(462ページ)としている。また,マーケティング・ミックスの諸変数も採用率に影響するとしている。
 最後に「採用率の予測と広告情報の伝播率を確認する目的」(462ページ)の定式化された数学モデルとしてBassモデル,伝播率研究にパーソナル・インフルエンスの効果が導入されたモデルとしてDIFFUSEが紹介されている。

出典:D.A.アーカー,J.G.マイヤーズ著;野中郁次郎,池上久訳(1977)『アドバタイジング・マネジメント:広告意思決定の理論』東洋経済新報社,9-11章(318-461).

投稿者 : 2005年05月10日 14:53

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