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2005年07月29日

広告と消費者行動-消費者の「広告経験」に及ぼす文化の影響(堀内 2005)

要約
 広告を見ることによって浮かんでくる空想や思考など,近年では多様な「広告経験」が研究されるようになってきた。「広告経験」には,個人特性や個人的な関心事項の他,個々の消費者が属する文化が大きく関わっている。本稿では,「広告経験」を文化論的な視点から検討し,「広告経験」の側面を明らかにすることを試みている。

 まず本稿では,なぜ「経験」が消費者行動研究領域でブームになっているのかを説明している。このブームの背景には,二つの要因があるとしている。まず,一つは学術的要因であるとし,従来の消費者行動研究(特に,消費者情報処理の考え方に基づく研究)が選択・購買意思決定までの過程に過度に注意を払ってきたことであると述べられている。消費者行動は,商品選択までで終わりなのではなく,むしろその後のモノやサービスの使用・利用の過程が重要だという考え方が芽生え,浸透して行ったのだとしている。二つ目に,学術的要因以外には,市場環境への変化を挙げている。それは,物資が不足していた時代とは異なり,商品を入手するだけでは満足とは言えなくなった変化である。 
 「広告研究」の研究の例として,Mick and Buhlを紹介している。Mick and Buhlが論じた広告研究とは,「個々の消費者が広告を見たり聞いたり読んだりしたとき,自己と関連づけて広告の根本的な意味を理解することを指す」(43ページ)とし,次の3つのポイントを挙げている。①広告の意味は固定されたものでなく,消費者によって活性化される②メッセージを受けとめる際,消費者は何らかの期待を持って受けとめている③広告は準フィクションである。つまり,広告経験とは主観的なものであり,同じ広告が提示されても,その広告によって生じる広告経験は消費者によって様々だということであり,個々の消費者の人生経験や考え方が影響を及ぼしているのであるとしている。
 次に,本題である文化論的視点からとらえた広告経験について説明している。広告経験を文化論的視点からとらえるということは,文化という要因に着目することであるが,日常生活の中で,文化という要因を認識することは容易ではない。というのも,私たちが普段広告を見るとき,広告について身の回りの消費者と語り合う時,その消費者も同じ文化圏内の消費者だからであり,自分自身の広告経験が文化の影響をどのように受けているかを把握するのは困難であるからであると説明している。そしてここで,広告経験を文化論的視点から説明するための概念モデルを3つ説明している。1つ目は,McCracken(1986,1988)の意味移動モデルで,文化的に構成された世界に存在する既知の属性と,商品に存在している属性との類似性を見出し,両者を結合させるというものである。こうして意味づけされた商品を,消費者が自分の物として受け入れたとき,意味の移動は完了するとしている。2つ目は,McCracken(1987)の意味ベースモデルで,商品は,自らの生活世界を構成している様々な事柄の意味を理解し,体系化していくための重要な道具とされ,広告はこのプロセスの中で独特な役割を果たすと想定されている。3つ目はSolomon(1988)の意味の篩(ふるい)モデルで,これは,商品が潜在的に持っている多数の意味の中から,選ばれたいくつかのものだけが一般大衆に広まっていくメカニズムを説明するモデルである。これら3つを踏まえて,「それらに共通していることは,商品および商品の消費という行為には多分に文化的意味が託されているということ,そして,その意味を伝達する有力な媒体として広告が存在するということである」(46ページ)と考察している。しかし,これらのモデルには,①実際には,広告主側が意図しなかった意味が伝達されることもあるわけだが,モデルではこのことが考慮されていない②広告はいつも文化的意味を伝達しているわけではないが,このことがモデルには十分示されていない③広告は自分の文化の理解だけでなく,他の文化の理解にも役立つと考えられるが,このことがモデルには取り上げられていない,というような問題が残されているとしている。そして,「これらのモデルは消費者の視点から広告を捉えたものであるが,消費者行動研究領域への貢献を十分明らかにしていないように思える」(47ページ)とし,今後は,消費者行動研究領域の中での意味づけや,他の研究テーマとの関連性も考慮して広告経験研究を進めていく必要があるとしている。

出典:堀内圭子(2005),『広告と消費者行動-消費者の「広告経験」に及ぼす文化の影響』『日経広告研究所報』,219号,42-47頁。


投稿者 02hidemin : 2005年07月29日 23:44

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