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2005年06月28日

テレビ広告がブランド構築に与える影響(下)(阿部 2005)

 この論文は,先週にアップした,テレビ広告がブランド構築に果たしている役割を探るために,広告のクリエイティブ評価のあり方を再検討し,CMテストで収集できる項目を変数とし,消費者行動研究の成果も取り入れた枠組を提示することを目的とした論文の(下)にあたるものである。

 ここでは,実験によって収集されたデータを非集計レベルで分析し,仮説の検証を行い,その結果を基に広告戦略へのマネジェリアル・インプリケーションとして提示している。また,(上)の論文で「広告が態度へ与える短期的効果をインプレッション,長期的効果をイメージと定義している」(38ページ)ことを記しておく。
 仮説の検証は,仮説①CMへの接触はブランド・イメージの構築を促すか,についてはCMへの接触はブランド名の想起と互いに影響し,長期的にクリエイティブに含まれるメッセージの連想を向上させ,ブランド・イメージの構築を導くとしている。しかし,ブランドに対するイメージは,広告に対するそれと比べて構築されにくいとしている。これはメッセージの連想が広告に対する連想になりやすいためであるとされている。仮説②インプレッションがイメージに発展するという2ステージ広告モデルの妥当性,についてはモデルが支持されたとしている。これは,「CM接触直後のインプレッションはイメージの構築に重要な役割を果たしている」(42ページ)という理由による。また,CM接触直後のインプレッションが広告へのイメージの構築に直につながるのに対し,ブランドへのイメージの構築には「ブランド名の想起が媒介される」(42ページ)としている。ブランド名の想起はブランドへの高関与を表すと考えられるため精緻化見込みモデルの中心的経路による処理プロセスがブランドへのイメージの構築につながったと解釈できるだろうとしている。仮説③クリエイティブ要因とオーディエンス特性は,ブランドに対するインプレッションにどう影響するか,についてはクリエイティブへの好感度と真実性の評価が高いほど広告に含まれるメッセージがブランドへのインプレッションとして多く連想されるとしている。一方で,クリエイティブへの驚きはメッセージの連想を低下させるとしている。これは,被験者の既存イメージとの不一致により意外性が生じるためで,認知不協和,カテゴリー化,スキーマといった消費者行動理論で説明できるとしている。また,オーディエンス特性はインプレッションに影響しなかったとしている。これは,オーディエンス特性が態度形成に影響するのは短期的よりは長期に及ぶ持続的な時であり,今回の実験下では被験者が高関与(CMへの注目度が高い)であったという理由が考えられるとしている。仮説④クリエイティブ要因とオーディエンス特性は,イメージの構築にどう影響するか,についてはクリエイティブの好感度と真実性は,オーディエンス特性の影響を受けることなく広告とブランド両方へのイメージの構築をもたらすとしている。クリエイティブへの驚きは,長期的には高関与な(ブランド想起度が高い)ほど持続的に負のインプレッションが継続されるが,広告へのイメージは発見か矛盾のどちらと捉えるかによって正負の方向が決まるとしている。仮説⑤クリエイティブ要因とオーディエンス特性は,インプレッションとイメージの構築のどちらにより強く影響するか,についてはクリエイティブの好感度,真実性,驚きは接触直後のインプレッションの方に強く影響し,オーディエンス特性はイメージの構築の方にクリエイティブ要因との相互作用として影響を与えるとしている。これは,仮説③でも触れられたことだが,オーディエンス特性が態度形成に影響するのは短期的よりは長期に及ぶ記憶や持続的な態度の形成に寄与するからであるとしている。
 まとめと広告戦略へのマネジェリアル・インプリケーションについては,第一に,CMが注目を得られれば,クリエイティブ要因にのみ影響されて視聴者にインプレッションを与えるので,実務家は情報過多の現在の社会でいかに視聴者をCMにひきつけるかが重要な課題だろうとしている。第二に,CM接触直後のインプレッションは長期的には広告へのイメージの方に結びつきやすく,ブランドへのイメージの構築につなげるにはブランドの想起が重要であるため,CMはブランドのライフ・サイクルによって認知・想起を高める役割とイメージを伝達し形成する役割のどちらを担うのかを考え適切にプロデュースされなければならないとしている。第三に,好感度,真実性を評価されるクリエイティブはインプレッションにもイメージの構築にも効果的であるが,驚きをもたらすクリエイティブは負のインプレッションを生み出しブランドへのイメージは高関与なほど持続性を持つので,驚きが矛盾ではなく新たな発見をもたらし,かつ既存のイメージと一貫性をもつようなクリエイティブが望ましいとしている。最後に,クリエイティブ要因とオーディエンス特性の相互作用が確認されたとし,CM制作はクリエイティブだけでなく,ターゲット・オーディエンスの動機,知識,情報処理能力,広告への接触状況を念頭に置きながら,異質性の問題も強く認識する必要があるとしている。
 今回の研究では,自由回答で収集したデータの分析の難しさ,イメージの構築のメカニズム自体の解明を目的としなかったことや,「驚き」の具体的なメカニズムに踏み込まなかったことを挙げ,今後の課題としている。

結論
 情報処理パラダイムに基づき,広告とブランドそれぞれへの短期的,長期的影響を自由回答も取り入れた実験によって分析し,広告がブランド構築にどう役立つかを検討した結果,消費者行動研究の成果を反映する形になったが,サンプル数も少なくあくまで探索的なものであるとして,今回の結果を一般化するには他のカテゴリーで再検証が必要であるとしている。

出典:阿部誠(2005)「テレビ広告がブランド構築に与える影響(下)-商品やカテゴリーの関心・知識はどう作用するか?-」『日経広告研究所報』,第221号,38-44頁。

投稿者 : 2005年06月28日 16:29

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