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2005年07月02日

広告とユーモア知覚-その心理過程についての探索的研究(李 2002)

要約
 ブランド間の質的変化が見られない現代では,広告の中心要素である製品を直接伝えるより,それ以外の周辺的要素からアピールする広告が増えている。本稿ではその1つとして「ユーモア広告」を扱い,広告場面でのユーモア知覚が生じる心理過程について,探索的な研究を試みるとしている。

1.ユーモア知覚に関する諸理論の検討
 モリオール(1995)によると,ユーモア知覚に関する研究は大きく分けて以下の3つに大別できるとしている。①優越感情や攻撃心理によってユーモア知覚が生じるという観点から,ユーモア刺激の特徴やユーモア知覚を攻撃心理と関連づけて説明しているアプローチ,②ユーモア表現に対する理解や認知的情報処理など,ユーモア知覚が生じる認知過程に注目したアプローチ,③ユーモア知覚が生じる過程における受け手の感情的状態や変化に焦点を当てるアプローチ。それぞれのアプローチがどのように捉えられてきたのかを記している。さらに②のアプローチでは不適合理論,不適合-解消理論,メッセージに内在するスクリプトの対比性理論が挙げられており,不適合理論とはユーモア刺激からもたらされた期待感と違った結果から生じる不一致とされている。ただし,すべての不一致による驚きがユーモア知覚を引き起こすわけではなく,「安全で脅威のない状況で起こらなければならない」(79ページ)としている。以上のことは複雑な心理過程を伴う,それを説明する理論が不適合-解消理論である。その名前のとおり受け手がある情報を受け,不一致が生じて,それを理解することにより不安や緊張感が解消され,ユーモア知覚が生じる考え方がこの理論である。メッセージに内在するスクリプトの対比性理論とは「言語的刺激に対比する2つのスクリプトが存在するときユーモア知覚が生じるという理論である」(80ページ)としており,これに関する研究はあまりされていないとしている。さらに③は喚起とユーモア知覚,精神力学的理論の観点が挙げられており,前者はBerlyneのそれまでに経験したことのないユーモア刺激により,生理的喚起が高まって不快が起こり,それがのちに快感になってくる考え方とRothbartの「喚起そのものあるいはそのレベルの変化ではなく,喚起に伴う人間の解釈行為を問題にする必要がある」(81ページ)としている。後者はFreudの考え方,社会的に禁止されている事柄をユーモア知覚や刺激を通じて,抑圧から開放され生じる感情が挙げられているが,そのことに関しては実証が不可能である点が指摘されている。

2.研究課題
 前章で3つのアプローチを紹介したが,実際にはもっと多くのユーモアタイプが存在しており,ユーモア現象とユーモア心理を理解するためには,これらのアプローチを包括的に扱った研究が必要であると記している。広告におけるユーモアも同じで包括的な研究はあまりなされていないとされている。そこで本稿はユーモア知覚とユーモア広告の関連性を明らかにすることが大切であるとした上で,受け手の反応の観点からCho(1995)の行った「提示されたユーモア知覚をもたらすメッセージの特徴,ユーモア刺激の分類を試みた実証研究に基づいて32項目から構成された尺度を作成し,印刷広告に対する被験者の反応の分類」(82ページ),さらにユーモア広告のタイプとユーモア知覚との関連性についての分析がアメリカで行われた結果であることから,日本でも広告に対するユーモア知覚とその心理過程について実証研究を行う必要があるとし,さらにアメリカでの先行研究との文化差の比較を検討するとしている。

3.研究方法
 被験者は大学生158名で,対象に広告物を呈示刺激した実験により行われ1998年7月2日に実施されたとしている。対象者に呈示したものは『コピー年鑑』より抜粋したものとされている。さらに各項目の変数尺度が記されている。

4.分析結果
 まず,受け手の反応に基づいてユーモア広告のタイプを分類するために因子分析を行う。バリマックス回転後得られた因子は「機知性」,「風刺性」,「複雑性」,「日常性」,「言葉遊び」,「誇張性」の6つであると記されている。ユーモア知覚が生じる心理過程の項目も同じように因子分析し,「認知過程」,「感情過程」,「攻撃心理」と分類されている。次にどのような心理過程を経てユーモア知覚が生じるかについて相関関係より分析しており,「機知性」は「認知過程」と「感情過程」の間に有意な正の相関が見られ,「風刺性」は「認知過程」に有意な正の相関が,「複雑性」は「認知過程」との間には正の相関が,「感情過程」との間には負の相関が見られ,「日常性」は「感情過程」と「攻撃心理」に正の相関が,言葉遊び」はすべてにおいて有意な結果が出なかったとし,「誇張性」の場合は「感情過程」と「攻撃心理」において正の相関が見られたとしている。以上の結果をCho(1995)の先行研究と内容的に関連するもの比較しながら考察するとしている。さらに「風刺性」,「複雑性」,「日常性」においてCho(1995)の研究と比較する。「風刺性」は「優越理論や軽蔑・非難理論で指摘しているような攻撃心理の正の規定力が見られたのと対照的な結果」(85ページ)であったとしている。「複雑性」は,ほぼ同様の結果が得られたが感情過程との間だけCho(1995)と異なり,負の相関が見られたとしている。これは何らかの不安や困惑を受け手が感じた結果であり,それを説明する理論としては認知過程に注目したものが適切であるとしている。「日常性」は同じ結果が得られたとしている。

 結論は以下のとおりである。まずこれらまでの研究と同じように,ユーモアタイプによりユーモア知覚の心理過程が異なることが明らかにされた。国際広告においても,普遍性と文化差を考慮した研究の展開が必要性であることが再認識された。また,本稿で行った研究は欧米で展開されたものなので,今後は日本のユーモアなどを考慮した考察が必要であると記している。

出典:李津娥(2002),「広告とユーモア知覚-その心理過程についての探索的研究」『日経広告研究所報』,36(5),77-88頁。

投稿者 : 2005年07月02日 15:59

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