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2005年05月31日

上京記

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「いとよかったど〜」(Kayashi 2005)

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「新宿だど」(Umeda 2005)

投稿者 Baba : 19:05 | コメント (3) | トラックバック

日本の小売企業の国際化(田口 1989)

要約
 日本企業の海外進出は円高により一段と活発化し,製造業だけでなく,流通業やサービス業にまで拡大し,国際化戦略が流通企業においても重要問題となっている。この論文では,小売業の国際化に焦点をあて,背景と歴史について述べられている。さらに,最近注目されている仕入れルートの多様化についても論じられている。

国際化の歴史と背景 
 小売業国際化は戦後の高度経済成長と供に始まっている。この時期の日本の小売企業は,欧米先進諸国に集中的に進出している。先進流通技術の導入や高級ブランド品の仕入れルートの確立を目的とし,現地日系人や日本観光客を顧客としていた。また,欧米先進諸国の参入が,革新的な流通技術の導入を可能にし,日本企業の国際化への意識を高めさせた。しかし,80年代の国内市場の成熟と円高により,国際化のパターンに変化が起こった。海外仕入れルートの多様化が行われるようになった。従来の海外仕入れルートの他に,直接輸入,開発輸入,並行輸入という多様なタイプが発展している。
 直接輸入は,「小売企業が卸売企業などを経由せずに直接海外から商品を輸入すること」(58ページ)である。直接輸入は,中間を通さないため価格の低下が期待できる。これまでの直接輸入は,大手小売業になどによる有名海外ブランド商品に限られていた。しかし,円高の影響によって直接輸入の対象商品が拡大し,有名ブランド品に限らず実用性・機能性を特徴とする商品にまで広がっている。
 開発輸入とは,小売企業が主導権を持ち商社や国内メーカーと提携した形でプライベート・ブランド商品の生産や海外メーカーへのOEM発注などである。開発輸入による商品では,より消費者の要求に応えられる製品が生産することができる。

結論
 円高が小売の国際化について大きな影響を与え,今までの後発型の国際化パターンから多様な国際化タイプへと変化をもたらしている。

論点
 円高という企業の外側の環境を国際化パターンの原因としているが,企業の内要因変化についても考えるべきだと思う。

田口冬樹(1989)「日本の小売企業の国際化について」『専修経営学論集』,第47号,45-80ページ。

投稿者 02daigo : 18:59 | コメント (0) | トラックバック

国際広告戦略の世界標準化対現地適応化(藤沢 1997)

 この論文は,広告メッセージ内容を世界標準化すべきか現地適合化すべきかという意思決定に影響を与える要因を,情報の手がかり数を判断基準として明らかにすることを中心とし,広告媒体,広告予算,広告効果についても考察を加えている。

 ここでは,広告メッセージを世界標準化すべきか現地適合化すべきなのかという意思決定に影響を及ぼす要因を明らかにするために,いくつかの先行研究をサーベイするという方法をとっている。そのなかで,ミューラーの実証研究をもとに情報の手がかり数を基準とし,必要な情報の手がかり数の量によって広告メッセージを世界的に標準化すべきかどうかの決定要因を推定している。多くの情報の手がかり数が必要とされる場合は,適合化された広告メッセージが,情報の手がかり数が少なくてもよい場合は標準化された広告メッセージが,それぞれ適しているとしている。広告メッセージの世界標準化の促進要因として,低関与型製品,テレビ広告,高コンテクスト文化,集団主義的文化,販売される各国間において製品ライフサイクル段階が導入期・成長期といった段階で類似している製品,が挙げられている。さらに,先行研究から産業財,世界中で共通したニーズを満たす製品,メッセージに含まれたユーモアも標準化に寄与するとしている。産業財,世界中で共通したニーズを満たす製品については,情報の手がかり数を基準とした場合でも標準化を推進させる要因となる点で一致するとしている。耐久消費財,高関与型製品,印刷物広告,販売される各国間において製品ライフサイクル段階が成熟期・衰退期といった段階で類似している製品,あるいは各国間で著しく異なる製品ライフサイクル段階の製品,低コンテクスト文化,個人主義的文化が,広告メッセージの現地適合化の要因となるとしている。これは,印刷物広告がテレビ広告より情報提供的であることや,製品ライフサイクルと広告のスパイラル効果では,成熟期には説得・情報提供機能,衰退期には情報提供・説得機能へと力点が移るとされていることなどにより,それぞれ情報の手がかり数が多くなるからであるとされている。

 高コンテクスト文化と集団主義的文化の方が,低コンテクスト文化と個人主義的文化と比較して,少なくとも同文化圏内においては広告メッセージを標準化しやすいとみなせるとしながらも,世界標準化という意味を考えた場合,文化コンテクスト・レベルの高低といった差異を乗り越えなければならないとし,「広告メッセージにも異文化マネジメントの定説的な考え方を適用すべきかどうかは,今後の検討課題としたい」(36ページ)としている。また,予算については,国民1人当りのGNPに応じて広告予算が算定されていると標準化の傾向を紹介し,広告効果でも標準化の必要性を述べているが,「これらはあくまでも経済的要因に着眼した発想」(36ページ)であるとして,文化的要因の差異を考慮した考察には至っていないとしている。これらのことから「予算と効果も世界的に標準化される要素だと断定してよいかどうか」(36ページ)ということも残された課題であるとしている。

論点 
 先行研究をサーベイするなかで,ポルシェの乗用車がヘネシーのブランデーなどとともに分類される高級ブランド的な製品タイプは,「消費者にとって文化とは関係なく類似したライフスタイルと期待を抱ける製品」(16ページ)であること,あるいは最初から決め買いに走りがちであることから広告メッセージの標準化が行いやすいとしている。しかし,ポルシェの乗用車をはじめとする高級車が,情報の手がかり数を多くは必要としない製品だとは思えないし,高級かどうかに関わらず乗用車は耐久消費財である。情報の手がかり数を広告メッセージ標準化・適合化の判断基準にするのは苦しいように思われる。

出典:藤沢武史(1997),「国際広告戦略の世界標準化対現地適応化」『商学論究』,44(3),13-38ページ。

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2005年05月30日

業態識別要件としてのイノベーション(坂田 2004)

要約
 この論文では,新業態が生まれる際に生じたイノベーションが,小売業態の識別要件となりうるかという問題について検討されている。まず,小売業態とイノベーションの関係を扱った既存研究のサーベイが行われている。イノベーションにより新業態が他業態と識別されるという仮説が既存の小売業態論のサーベイから導き出されている。次に,その仮説の検証が行われている仮説の検証にあたり,百貨店,スーパー,コンビニといった日本における代表的な小売業態の変容の歴史の概観がなされている。

既存研究のサーベイ
 既存の小売業態論のサーベイから得られた示唆は次の通りである。小売業態の進化においては,新しい小売業態が「何らかのイノベーションを伴っていなければならない」(53ページ)ということがまず示されている。さらに,新しい業態が何らかのイノベーションを伴って生まれる時,そのイノベーションが,消費者の目に直接触れる部分である小売業務,いわゆる小売ミックスに反映されることで,そのイノベーションは他業態との識別要件となりうるとされている。
 これらを踏まえ,イノベーションにより新業態が他業態と識別されるという小売業態論の仮説の検証を行うことにしている。それにあたり,小売業務レベルでのイノベーションに焦点をあてながら,百貨店,スーパー,CVSといった日本における代表的な小売業態の変遷の歴史を概観している。

小売業態の変容
 百貨店の誕生においては,現金正札販売,陳列販売,取り扱い品目の拡大,店内への土足入場の4つのイノベーションが,既存の業態との識別要件となっていたと述べられており,小売業態論の仮説は支持されている。
 スーパーにおいては,セルフサービスによる販売とそれに伴う設備やシステムによる,比較的安価な商品提供が,イノベーションとして挙げられ,この点において仮説は支持されるとされている。しかしここでは,新業態の特徴は革新性で説明できるが「既存小売業態にもその説明が当て嵌まるのか」(58ページ)ということが問題とされている。百貨店におけるイノベーションも備えた上で,さらにセルフサービスによる販売というイノベーションを伴ったスーパーの生成によって,百貨店の革新性は失われたといえるが,それでも百貨店とスーパーが異なる業態と認識されるているのはなぜか。これを説明するものとして業態間の模倣と差別化が示されている。
 スーパーによるセルフサービス導入が,百貨店の対面販売重視による差別化を促し,その結果,対面販売がスーパーと百貨店の識別要件となったと述べられている。これにより,「既存業態との差別化によって新業態が生み出され,その新業態との差別化を図るために既存業態が変容していくという構図」(59ページ)が示されている。
 さらにまた,百貨店の食料品売場におけるセルフサービスの導入や,スーパーの深夜営業など,業態の境界線が曖昧になっていることが示されている。これは,小売業務の模倣によって生じるとされている。それでもそれぞれ別個の小売業態として認識されているという状況が示され,この状況を既存の小売業態論は説明しきれないという指摘がなされている。このことから,「業態の境界あるいは定義は定数としてではなく,競争に応じて変化していく変数としてとらえるべき」(61ページ)と述べられている。

結論
 これらの検討を踏まえた結論は次のとおりである。「小売業者は絶えず模倣と差別化を行っていくため,業態をイノベーションによって識別しえない」(61ページ)。しかし,小売業務以外の部分で生じたイノベーションが小売業務に反映されていること,その小売業務が模倣困難であること,この二つの条件のいずれかが満たされればイノベーションは識別要件となりうるとされている。最後に既存の小売業態論についていくつか指摘が与えられている。第一に,これまでの研究では差別化の視点はあったが模倣という視点が欠落していたこと,第二に業態を識別する認識主体別の分析がなされていないこと,第三に「近年の小売業態論は小売業者が競争優位を築くための業態を分析するのだということを暗黙のうちに想定してきた」(62ページ)ことによる理論の限界が指摘されている。

論点
 論点は次のとおりである。結論で「近年の小売業態論は小売業者が競争優位を築くための業態を分析するのだということを暗黙のうちに想定してきた」(62ページ)ことによる理論の限界を指摘しているが,この指摘は小売業態研究の目的そのものを問うているものと理解される。ではなぜ,この論文において小売業態を識別しようとしているのか,その目的が不明であると思われる。

出典:坂田隆文(2004)「業態識別要件としてのイノベーション」『中京商学論叢』第51巻第1号,51-64ページ。

投稿者 02eiko : 19:39 | コメント (0) | トラックバック

テレビCMのメッセージ効果(八巻 2000)

1.はじめに
2.視聴率(GRP)と好感度
3.好感度と購買喚起率(購起率)
4.購起率と売上高  

1.はじめに
 多情報時代である今日,日本の消費者はテレビ放送から1日4500本のテレビCMを受け入れている。しかし,その中で「消費者の記憶に残っているのは38.4%で,購買意欲に刺激を与えているのは33.8%である」(7ページ)。この33.8%のCMのメッセージ効果を視聴率,好感度,購買喚起率(購起率),販売実績(POSデータ)を使用して検証している。

2.視聴率(GRP)と好感度
 テレビ視聴率は1960年代から存在したが,このテレビ視聴率ではテレビCMを「見た」か「見てない」かのCM効果をはっきり示すことができないのでテレビ電波が届いているかを示す到達率にすぎなかった。はっきり「見た」ことを示すデータは印刷媒体の場合,再生法と再認法の2種類あり,「双方とも生理的効果を捉えている」(7ページ)。しかしながら,テレビの場合,生理的データを再認法では測りにくいため再生法によってテレビCM効果測定を行っている。「84年から実験を始めたが,『見た憶えのあるCM』よりは『好きなCM』の方が回答が出やすいことが分かり,好感度を取ることになった」(7ページ)。また,視聴率と好感度との関連性を相関関係でみると88年が0.35で98年が0.22とほとんど認められない結果になった。

3.好感度と購買喚起率(購起率)
 広告の効果は心理的効果で,広告の目標は「知名,理解,確信,行動」の態度変容である。そして,この「確信」(買いたくなる)を購買喚起率(購起率)とし,購起率と好感度を相関係数でみると88年が0.90で98年が0.93と高い関連性を示している。「従って好感要因をチェックすれば,購起率にも関連するし,また実際の売り上げにも結びつく」(8ページ)。

4.購起率と売上高
 実際に97年11月から98年10月までに放映されたCMの中でPOSデータと対応できない耐久消費財,レジャー,情報を除外し,好感度,購起率が上位14商品のCMを購起率とPOSデータによって売上高の推移を分散分析で検討している。この結果,5つのケースで有意性が示された。この5CMの好感要因でもっとも多かったものは「出演者・キャラクター」で次に「商品にひかれた」そして次に「画像」である。従って「商品に魅力を感じさせるCMがやはり売り上げに結びつくのである」(11ページ)と論じている。

 結論は以下の通りである。まず視聴率と好感度,次に好感度と購買喚起率の関係について相関係数を用いて述べており,最後に購買喚起率と売上高の関係を検討し,CMが売り上げに関係していることを述べている。

出典:八巻俊雄(2000),「テレビCMのメッセージ効果」『日経広告研究所報』,34(1),7-11ページ。

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インター大会討論相手決定しました

昨日,榧野・梅田の二人で中央大学へインター大会のテーマ設定会議に参加して参りました。当初,小売班は,テーマ部門9番の流通学でしたが,流通学参加パートが少なく,部門17番のマーケティング論部門での参加となりました。マーケティング論参加パートは非常に多く,発表の時間も一班1分程度でしたが,うちの班はとりあえず,小売を研究していることと,国際化問題をテーマにしている事をメインとして発表しました。コンビニなどの業態ベースや,映画産業などの産業ベースで研究テーマを設定しているところがほとんどで,国際問題を取り扱っているパートが3つほどしかありませんでしたが,運良く立教大学・疋田ゼミさんとパートを組めることになりました。お相手の研究テーマが「多国籍企業とその現在」でサブテーマが「化粧品企業のアジアを中心とした海外進出について」を取り上げているパートです。若干のテーマのズレはあると考えられるので,これからは密に連絡をとり,調整を図っていくつもりです。

投稿者 02kayasi : 14:24 | コメント (1) | トラックバック

2005年05月28日

小売企業のグローバル戦略における現地の消費者―萌芽的研究の文献レビューを通じて―(白石・鳥羽 2003)

要約
 この論文は多文化型業態の可能性について提案することを目的としている。事例としてカルフールの日本進出があげられており,カルフールが日本の消費者の支持を得ることができなかった理由を,日本の消費者がカルフールに対してフランス的なものを期待したにも関わらず,実際には日本型のGMSと化してしまったことにあるとしている。異なる条件で生起し,発展してきた外資系小売企業は海外市場において容易に受け入れられるものではなく,何らかの差別的優位性を訴求しながら海外進出を行うと考えられるが,その優位性が現地消費者にそのまま受け入れられるとは考え難い。筆者はこの差別的優位性を海外市場においても発揮しうる手法であるとして多文化型業態を紹介し,その構築の必要性について明らかにしている。

 理論的検討は次の通りである。この論文はわが国におけるカルフールの展開事例を通じて,1つの対応策として多文化型業態構築の必要性について述べられている。日本の消費者はカルフールに日本型GMSでもフランスのハイパーマーケットでもない架空的な,日本の消費者が持つイメージにおいてのフランス的な部分を期待したが,実際には過度の現地適応化を実地したため日本型GMSと化し,消費者の不評の声を呼ぶこととなった。このことに対する対応策として多文化型業態の可能性について提案されている。多文化型業態とはエスニック型の小売店とメインストリーム型小売店が共存する社会において,エスニック型の小売店は自民族を,メインストリーム型の小売店はローカルの消費者を主なターゲットとしつつもお互いに提供し合い,異文化を提供する文化的な媒体者となり,補完的に存在するといった役割を担う小売店のことであると述べられている。筆者は海外進出を行おうとしている小売企業にとってこのような機能は有効な手段となり得るとしており,グローバル小売企業はこれまでの経験を反映するだけでなく,事前にフィージビリティー調査等を行い,現地の消費特性によって修正を試み,こうして,さまざまな規定要因の作用を受けながら提供物(オファーリング)をもたらすとしている。しかしながら,このようなプロセスを通じてもグローバル企業によってもたらされた提供物と現地の消費者が求めるものの間にはギャップが発生することがしばしばあり,それは,現地消費者の購買行動においての様々な規定要因が複雑に関連し,それが現地消費者の求めるものとして具現化されることに因ると述べられている。 多文化型業態を構築する際には,文化的に各国の消費特性を捉えることが重要であり,また,「実験的な初期展開を通じて経験的にフィードバックして行くことも必要である」(65ページ),としている。

 結論は次の通りである。多文化型業態を構築することは,グローバル小売企業が提供するものと現地消費者が求めるもののギャップを埋めるための媒体として必要であり,また,グローバル小売企業の大きな課題として,海外市場における文化的コンテクストに埋め込まれた消費特性について理解することがあげられている。

 論点は次の通りである。カルフールが日本において不評であった原因については,単にカルフールが日本型GMSと化したことのみで説明できることではないのではないだろうか。

出典:白石善章・鳥羽達郎(2003)「小売企業のグローバル戦略における現地の消費者―萌芽的研究の文献レビューを通じて―」『流通科学大学論集―流通・経営編―』第16巻第2号,49―68ページ。

投稿者 02takenaka : 16:32 | コメント (3) | トラックバック

メディア・プランニング・モデル-広告四媒体効果算定および最適予算配分-(井上 2000)

要約
 この論文は広告メディアの多様化の中,広告目標を最大化するために広告4媒体への最適予算配分モデルを提示している。また,「本論で採用されたモデルは4媒体に限定されず,将来生じる多媒体全体に適用可能な柔軟なモデルである」(9ページ)。

1.広告効果算定モデル
 まず,広告効果算定を構築するためには4媒体の各広告GRP(出稿量)とその媒体から生じたブランド認知率やキャンペーン認知率などの広告効果に関するデータが必要であるとし,この論文では「1993年8月から97年11月のビール製品に関する135のキャンペーンに対して,30代男性に限定したデータ」(10ページ)を事例として扱っている。なお,その内53は新製品ビールキャンペーン,82はリニューアルされたビールに関するキャンペーンのものである。次に,初めに挙げた各出稿量の算定方法は,テレビは「ビデオリサーチ社が行っている個人視聴率データPMを算出する」(10ページ)。ラジオは「広告出稿統計にビデオリサーチ社が行っている日記ラジオ聴取率データの30代男性に関する結果をウェイトとして積算」(10ページ),新聞と雑誌は「それぞれの広告出稿統計にビデオリサーチ社が行っているACR調査から得られたビークル閲読率を積算」(10ページ)するとし,さらに新聞は段数別注目率,雑誌はスペース別注目率を積算する。それを元に,ブランド認知効果算定モデル,ブランド認知率最大化最適予算配分モデル,キャンペーン認知広告効果算定モデル,ブランド認知率最大化最適予算配分モデルの計4つのモデルを新製品,既存商品別に記しており,そのモデルを算出するための方法が書かれている。最後に計算より導き出された新製品ブランド,新製品キャンペーン,既存ビール製品ブランド,既存ビール製品キャンペーンの各認知率を記している。

2.最適予算配分問題モデル
 最適予算配分問題を考えるためには,「各媒体におけるGRP単価を算定し予算制約式に代入する必要がある」(13ページ)。GRP単価を算定する場合,単純平均,キャンペーン平均,最頻値の3つが考えられるが本稿では,単純平均に基づく結果のみ示されている。次に,さきに述べた広告効果算定モデルならびにGRP単価に基づいて,3億円,10億円,20億円と広告予算が与えられた時におけるブランド認知率,キャンペーン認知率を最大化する4媒体の最適予算配分を解いている。得られた結果以下の7点で,①雑誌において新製品は,ブランド認知率,キャンペーン認知率を上げる効果が期待できない。②「新聞は,既存製品のブランド認知ならびにキャンペーン認知率を伸ばす媒体としては効果が期待できないことがわかる。新聞という媒体には,他の役割が大きいと思われる」(14ページ)。③新製品に対する1媒体としては圧倒的にテレビが有効である。④既存ビール製品に対してはテレビが有効だが飽和状態になりやすい。⑤新製品に対してはテレビと新聞を効率的に併用する必要がある。⑥「既存ビール製品に対しては,テレビと雑誌を併用すると非常に効果的である」(14ページ)⑦「既存ビール製品に対する最適予算配分問題の方が,新製品に対する問題より安定していた」(14ページ)と記されている。

 結論は以下の通りである。この論文のビールのモデルでは既存製品より新製品の方が適合度は高かった。これは「広告以外の要因による影響を受ける程度が高いということが考えられる」(14ページ)。すなわち,「広告以外の要因を考慮したモデリングを広告算定に対して行った上で,新製品に関する最適予算配分問題を考えることが,既存製品に関するより重要となるであろう」(15ページ)と指摘している。

出典:井上哲浩(2000),「メディア・プランニング・モデル-広告四媒体効果算定および最適予算配分-」『日経広告研究所報』,34(5),9-15ページ。

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2005年05月27日

台湾における日系百貨店の成功要因(朱・葉 2003)

要約
 この論文は,日本が不況の中,日系百貨店の成功要因について述べられている。台湾に進出している日系百貨店は著しい成長過程にあるが,台湾の一人当たりの所得に占める百貨店への消費支出がアメリカが30%と日本が20%に比べ,台湾は1.5%である。この事から,これからの成長余地がありそうである事から,日系百貨店の台湾進出を考察され,経営管理方法が具体的に分析されている。

 理論的検討は以下の通りである。1996年から2001年までの台湾百貨店業界の売上高の成長率は年平均7.05%と維持されてきていたが,2002年から落ちてきている。既存百貨店の約4割が伸び悩んでいる状況の中,日系百貨店は売り上げが好調である。そこで,台湾における日系百貨店の成功要因を検討されている。

Ⅰ.台湾の現状
 台湾政府は,地域均衡発展のために,公共施設に大量投資をしている事が流通業の発展促進につながっていると考えられている。また,2003年の台湾経済研究員の予測調査によると,台湾本島と世界の経済情勢が,台湾の流通業に最も重要な影響力を持っており,アメリカや日本などの影響に左右されやすいと示されている。もともと,1611年に日本初の百貨店が創業されて以来,次々と呉服屋が百貨店へと転換し,市場シェアを向上させたが,1972年以後は,売上高が下がっていったのがプッシュ要因となっている。

Ⅱ.台湾進出モデル
 台湾百貨店の第一号店は,1928年に日本人によって創立された「菊元百貨」であるが,当時国民所得が非常に低かったため,一般的な消費者が百貨店で買い物をすることはあまりなかった。1972年以後は,国民所得も上がってきたので一般消費者も百貨店で購買するようになったが,百貨店同士の激しい価格競争になり,大手百貨店などは日本人専門家によってノウハウを習得した。1980年以後は,台湾に多くの華僑系・外資系百貨店が進出した。その後,外資との提携ブームとなった。1990年代に入り,多くの日本百貨店が台湾の百貨店と合併した。そして,大都市以外にも中型都市にも出店され,百貨店業界の競争は激化していった。

Ⅲ.日系百貨店の経営管理モデル
 日系百貨店の経営管理モデルは大きく2つに分けられる。1つは,技術提携モデルで,日系側が台湾側に技術と管理サポートを行うと同時に,日本の百貨店商品を店頭に置くなどの店舗差別化をはかった。もう1つは合資提携モデルで,日本流通業の最も一般的なモデルとされている。コストダウンとリスクの最小化を目指すために最適なモデルとされている。経営管理モデルの成功要素は計画,組織構造,指導方式,コントロール方式とされている。まず,計画とは,合弁するにあたって,合弁相手の調査や詳しい契約内容の話し合いなどが含まれる。次に組織構造とは,本社と台湾合弁企業の地位設定と合弁会社内部の人事についてである。指導方式は,経営管理者を日本本社から派遣して日本百貨店のノウハウを普及させることである。コントロール方式は,目標を達成するために,計画や組織構造を調整することである。

まとめ
 台湾では今や百貨店とコンビニエンス・ストアの合計売上高が総合小売業の売上高の50%以上を占めている。この成功要因として,日系百貨店が開店当初よりも以下のように現地適応化してきているものが多い。組織構造や指導方式は台湾の現地従業員が運用しており,コントロール方式も現地適応化している。品揃えも差別化をはかり,ますます競争優位を高めている。また,情報システムの整備により効率性も上がってきている。今後の課題としては,台湾で日系百貨店を成功へと導いた管理者を他の事業でも活用できないかという事が述べられている。

出典:朱國光・葉翀(2003))「台湾における日系百貨店の成功要因」『流通科学大学論集―流通・経営編―』第16巻第2号,101-112ページ。

投稿者 02aiko : 23:47 | コメント (0) | トラックバック

「存在」のマーケティングにおける価値と認識の探求(武井 2000)

1.はじめに
2.方法の発展と成果
3.「意味」の発見と創造
4.「存在」のマーケティング
5.コミュニケーション活動の事例

1.はじめに
 現代のように生活が豊かな時代において,購買意思決定に際して製品が表現する「意味」や「価値」が重要になってくる。そこで,本稿では人間にとっての「意味」や「価値」を「生きがい」とし「人の幸せに貢献することのできるマーケティングの本質はどこにあるのか,また,そのためには消費者をどのように捉えていく必要があるのか」(24ページ)を論述している。

2.方法の発展と成果
 「戦後期の1950年代から60年代はマーケティングへの行動科学の導入が進んだ。そして,心理学の概念や方法などを応用することによって,消費者の言動の背後に潜む購買意思決定と関連し動機をモチベーション・リサーチなどの技法によって明らかにする研究が行われた」(24ページ)70年代以降の研究では情報処理,記憶,文脈,あるいは世界観などの認知科学を取り入れた研究がなされた。今日では多くの研究者が「生活経験」に探究している。例を挙げると「五感を刺激づけるもの(TIFFANY),エモーションの訴えかけるもの(HAAGEN-DAZS),認知や問題解決への貢献をうたうもの(MICROSOFT),身体やライフスタイルに影響を及ぼすもの(NIKE),人や文化との関係性を主張するもの(HARLEY-DAVIDSON)である」(24ページ)

3.「意味」の発見と創造
 ここでの「意味」は「対象についての知覚や解釈であり,したがって対象に内在しているというよりは,人,対象物,文脈の相互作用によってつくられる」(24ページ)ものであり「練り歯みがきと脱臭薬が,共に『身づくろいの儀式』という意味のなかに並んで位置づけられる」ように「意味」によって新たな製品グループを創造することができる。

4.「存在」のマーケティング
 人間の「存在」は家族,会社,地域社会のような「つながり」のなかにあり「存在」のマーケティングは人々に「つながり」に気づかせたり,再認識させるようなコミュニケーションである。

5.コミュニケーション活動の事例
 ここでは,資生堂,ミツカン,ベネッセコーポレーションのコミュニケーション活動の事例を紹介している。資生堂では「商品を通じての消費者との人間的接触という側面」(25ページ)に注目し,「象徴」としてのメッセージを掲げ,消費者に情報内容の「意味」を考えさせ,自然な形でマーケティング展開を理解させるコミュニケーション活動を行った。ミツカンは「鍋もの」などの家族団らんをテーマにしたテレビCMを展開することによって「家族愛をテーマとしたコミュニケーション活動」(26ページ)を行った。ベネッセコーポレーションは「顧客とのツーウェイコミュニケーションによる信頼感づくりを基軸にコミュニティーとのつながりを重視」(27ページ)したコミュニケーション活動を行った。

出典:武井寿(2000),「『存在』のマーケティングにおける価値と認識の探求」『日経広告研究所報』,34(4),23-27ページ。
    

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2005年05月26日

米国におけるマーケティングとインターネット広告(丹下 1999)

1)はじめに
2)マーケティングとインターネット
3)インターネットによる販売チャネル
4)電子メディアを用いる成功原則とは
5)インターネット広告時代への示唆
6)注目される新世代の「ネットコミ」

1)はじめに
 米国では現在,インターネットをベースとした競争が激化しており,これはソフトウェアやネットワーク機器のようなハイテク部門だけでなく,小売業のようなローテク産業においても主流になってきている。インターネットによって,企業間競争の在り方が様変わりしつつあるのである。それがマーケティングの手法や戦略,さらにその一環として行われる広告活動に大きな変革を迫っていると考えられる。このような米国における風潮は日本へも押し寄せてきている。ここでは米国におけるマーケティングとインターネットとの新しい関係を最初に考察し,それを基に二十一世紀におけるインターネット広告の課題を展望している。

2)マーケティングとインターネット
 本格的な情報化社会への変遷を背景に,フィリップ・コトラーの九九年に出版された著書『コトラー・オン・マーケティング』では二十一世紀に向けてのマーケティングにかかわる重要な環境変化が次のように指摘されている。第一に,「市場の変化が加速度的に起こるので,企業はその急激な変化を認識できないことが多くなること」(19ページ)。第二に,「市場(マーケット)やマーケティングが,従来とは全く異なる原理・原則に基づいて運用されるようになる」(19ページ)ことである。

3)インターネットによる販売チャネル
 一つ目に,顧客が直接,インターネットによって,マーケターのウェブ・ページを見ることとなる,製造業者との直接的な販売チャネルが挙げられる。大成功を収めた最も身近な例がデル・コンピューターである。もう一つの販売チャネルは,電子媒体チャネルと呼ばれるものである。この販売チャネルの方が広告業とは直接的な関連が強い。なぜなら,この電子媒体業者は広告主から会費や,ページビューによって収入を得ることになり,これがいわゆるバナー広告を中心とする,インターネット広告の草分けと考えられるからである。

4)電子メディアを用いる成功原則とは
 電子市場(エレクトロニック・マーケット)は購買者にとって多くの長所と短所がある。両方の観点から,コトラーは,新しい電子時代において現代の企業が成功を勝ち取るために尊守しなければならない四つの原則を抽出している。その第一は,「顧客に関するデータベースを構築し,それを積極的に活用すること」(20ページ)。第二に,「インターネットをどのように利用すべきかに関する明確なコンセプトを開発すること」(20ページ)。第三は,「関連するウェブ・サイトに企業のバナー広告を出稿すること」(21ページ)。第四は,「顧客が簡単にアクセスできるようにし,それに素早く対応すること」(21ページ)である。

5)インターネット広告時代への示唆
 マーケティングと広告の関係の変化について,ビル・ゲイツは九九年の『ビジネス・アット・ザ・スピード・オブ・ソート』の著書の中で,「情報技術の発達によって,企業は従来のマス・マーケティング・モデルに基づく顧客管理から,ワン・トゥ・ワンをベースとする顧客管理へシフトするようになる。このパーソナライゼーションこそがあらゆるメディアに大きな影響を及ぼし,実際問題として広告はマス化されたものから個人化されたものへ全て移行していくだろう」(21ページ)と述べている。米国において,インターネットの普及を背景とするパーソナライゼーションの浸透は,マーケティングと広告の領域に革命を起こすとまで言われている。

6)注目される新世代の「ネットコミ」
 広告コミュニケーションのスタイルは,不特定多数の一般大衆をターゲットとするマスメディアを用いた一方方向的なものから,個人を主体とするインタラクティブな双方向型のものへと大きく変化していかざるをえない。そして,この変化を推進する原動力となるのがまさにインターネットであると筆者は述べている。しかし,情報技術が十年後にどうやってマーケティングの手法を変えていくかは,おそらく誰にも予想がつかないであろう。しかし,従来から最も強力な広告媒体は人間による「口コミ」であり、このワン・トゥ・ワンのリレーションシップの重要性は普遍的なものであるといえる。このことから,「電子メールを利用したいわゆる,『ネットコミ』が二十一世紀の新しいインターネット・コミュニケーションの中軸概念の一つになり,インターネット広告もネットコミの基盤の上に成り立つことになっていくのではないか」(22ページ)と筆者は推測している。

出典:丹下博文(1999),「米国におけるマーケティングとインターネット広告」『日経広告研究所報』,45ページ。

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小売業国際化の推進力(田村 2004)

要約
 この論文では,既存のホランダー,カッカー,トレッドゴールド,ウィリアムズやアレキサンダーらによる小売業国際化研究が特定国ないし,特定地域の企業データにかたよっていること,また国際化企業のみを対称とした研究であり,非国際化企業を対象としていないという問題点を指摘し,自らの実証研究により,よりグローバルなレベルでの小売業国際化の推進力が何であるかを明らかにしようとしたものである。
小売業国際化を推進する要因には大きく分けて,①本国市場の飽和化,②外国における市場機会,③企業戦略特性によるものだと述べられている(4ページ)。
結論は,小売業国際化の推進力する要因となる変数は,企業規模,本国市場小売販売額成長率,専門店ダミーであり,さらに小売業国際化を進展させる推進力となる要因は,小売フォーマットの競争優位性に基づくヨーロッパダミーと,企業成長率であるとし,ホランダーの主張に加筆修正する形で「国内市場機会の消滅は,競争優位性に基づき成長力の高い挑戦者企業にとっては,国際化の強力な推進力となる。」(p,24)としめくくっている。

理論的検討は以下の通りである。既存の小売国際化研究が,特定の地域,特定国の企業データにかたよっていること,国際化企業のみを対象とした研究であり,非国際化企業を対象に入れていないことを問題点として掲げ,よりグローバルな適応可能性を見出すため,小売業売上世界ランキング100位に入る企業の1996-1998年データを用いて研究されている。
小売業国際化の推進力となる要因は大きく分けて3つあり,①本国市場の飽和化,②外国における市場機会,③企業戦略特性によるものだと述べられている。さらに本稿では,①の本国市場の飽和化,③企業戦略要因が企業の国際化を示す指標となる国際化ダミーをどのように指定するかに注目している。そこで,本国市場占有率,小売販売額シェア,専門店ダミー,本国市場小売販売額成長率,企業売上高成長年率,企業規模の6つの変数を用いて実証分析がなされている。
 
実証分析は以下の通りである。小売業国際化推進力となる3つの要因についてここでは,線形回帰モデルが,従属変数のとる値の上限,下限の境界問題等により適切でないとし,ロジットモデルを採用し,ロジスティック回帰分析が行われている。本国市場占有率,小売販売額シェア,専門店ダミー,本国市場小売販売額成長年率,企業売上高成長率,企業規模の6つの変数を用いた分析の結果,企業規模,本国市場小売販売額成長年率が最も小売業国際化影響を与えており,続いて,専門店ダミーが強い影響力を持つ。一方,本国市場占有率や小売販売額シェアなどは,小売業国際化に直接的な影響は与えないと述べられている。ここで重要なのは,企業売上高成長率についての結果であり,近年の小売国際化の研究では,市場の飽和よりむしろ,企業の成長志向,競争優位性が国際化のより重要な推進力であるという点であると述べられている。
さらに本稿では,小売業の国際化進展の推進力についても研究されており,外国売上高,外国売上高依存率,活動国数の3つの指標により分析がなされている。まず,国際化進展度により,対象企業を①進展企業,②市場拡張型進展途上企業,③市場深耕型進展途上企業,④未進展企業の4つに分類しクラスター分析を行った結果,国際化の進展パターンには2通りがあることが発見されている。1つは,活動国数を増やし,その後市場を深耕することにより外国売上高を増やしていく市場深耕型,もうひとつは,まず,活動国数を絞り,それらの市場を深耕することにより外国売上高を増やした上で,後に活動国数を増やすといったパターンがある。ここでの特徴は,ヨーロッパ小売業は国際化進展企業に多く見られ,小売国際化の先導企業であるという点である。ヨーロッパ小売業は,企業売上成長率を高めるために効果的に国際化していると述べられている。
 
結論
小売業国際化の推進力については,「国内市場機会の消滅は,競争優位性に基づき成長力の高い挑戦者企業にとっては,国際化の強力な推進力となる。」(24ページ)と締めくくられている。
 
論点
ヨーロッパ企業が非ヨーロッパ企業に比べて,国際化進展度が高い企業が多いことは述べられているが,非ヨーロッパ企業がなぜ国際化進展度を高め企業成長できていないかの要因についての言及がないように感じられる。

出典:田村 正紀(2004),「小売業国際化の推進力」『流通科学研究所モノグラフ』,No.59。

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2005年05月25日

グローバル事業創造と持続的競争優位性構築(高井,斉藤,竹之内,岸本 2000)

要約
 近年,技術と市場環境が絶えず変化し続けるハイテク業界では,企業の売上げ順位は大きく変動しており,企業が持続的に成長することが困難であることを示している。この論文では,このような企業の成長差を説明するため,企業の組織能力に論拠を求め,組織能力を構成する要因を,グローバル・ベンチャーの事例を取り上げ考察することで,組織能力を構成する要因を見出すことを目的としている。ここでは事例として,日本のハイテク業界のグローバル・ベンチャーであるナナオ,アライドテレシスを取り上げている。

Ⅰ.事例研究
 まず,ナナオの事例について。家電製品の下請け企業であったナナオは,高い技術力をもって海外市場に参入する事業創造を行った。しかし,自社製品の品質へのこだわりから,価格低下という市場の変化に適合できなかった。その対応として,ナナオは品質重視の戦略のコア部分は変えずに,コスト戦略をも考慮した戦略に転換するとともに,製品についてのサービスの供給を行い他者と差別化するなど,複数の競争優位性を持つことで,持続的競争優位性を構築することに成功した。
 次に,アライドテレシスの事例について。LANについて技術先進国であるアメリカ市場に後発的に参入したアライドテレシスは,徹底したコスト戦略を行う事業創造を行った。また,「技術レベルの高い国で開発し,コスト競争力の強い国で生産し,市場の大きい国で販売する」(52ページ)つまり,低価格で質のよい製品を市場に投入するというビジネス・モデルの戦略を一貫して追求することで,競争優位性を持続させた。グローバル・ネットワークを確立することで,スピーディな環境適応を生み出したのである。

Ⅱ.事業創造から持続的競争優位のプロセス
 両企業の事業構造の成功要因として,「高い技術力を武器に製品やシステムの完成度を高めた」(54ページ)点が挙げられる。しかし,高い技術性をもったとしても,市場ニーズに対応した戦略をとらなければ市場において成功しない。そこで両企業はさらに,市場ニーズを捉えつつ,自社の強みが生かせる戦略を立てたことが事業創造においての成功要因であったとしている。そして,変化し続ける市場環境で持続的に競争優位を保つために,複数の競争優位性を持ち,市場環境の変化に対応して,強みを変えること,また市場への柔軟性を創り出すために,「環境の変化が激しいほど,逆にその環境の中で,中核となるようなモデルや,核となる戦略思考が必要となる」(56ページ)とし,一貫したコア技術の必要性を示唆している。

結論は次のとおりである。これまでのベンチャー企業は卓越した技術をもって市場でのシェアを獲得する,技術特化戦略が特徴であった。しかし,両企業は技術力と市場戦略の両方を重視する組織能力をもつことで,大企業との競争に対抗することが可能であったとしている。しかし,今回は分析した事例が二社であることから,今後の課題として,「事例を積み上げることで導き出したインプリケーションの普遍性を検証していく必要がある」(56ページ)としている。

出典:高井 透・斉藤泰裕・竹之内秀行・岸本寿生(2000),「グローバル事業創造と持続的競争優位性構築」『世界経済評論』2000年8月号,45-56ページ。

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広告研究における消費者理解-上・下 (岸 2002)

 広告研究は,1920年代以降,マーケティングの一要素として統合的に管理する対象として研究されるようになった。同時に広告効果に関する研究も盛んになされ,それは心理学理論・心理学手法に依拠している。「科学的」ないしは学術的な広告研究は,20世紀初頭の米国で始まったとされ,「当時の米国広告業界が心理学を導入する事で,広告業の社会的地位向上を図ったと小林は指摘している」(2ページ)。20世紀後半では,「オーディエンスは生活の中で,メディアや広告をどのように利用するか」(16ページ)という受け手の視点への転換が起きている。

広告研究は心理学とマーケティング研究を横断しながら,科学化を推進してきた。ここで言う「科学化」とは、「現実を構成する主要な因果関係を説明し,それに基づいてある変数の影響を予測し,統制可能にするために,体系的な研究方法を導入すること」(3ページ)である。

1.20世紀前半の研究
 米国における,広告心理学成立期に活躍した心理学者として,W・スコット,D・スターチ,J・ワトソンがおり,彼らが「後の効果階層モデルに類似した広告の機能に関する枠組み(注意・関心・確信・行為・記憶)を提示し,広告訴求形態・表現要素の多面的分析を行った」(4ページ)。しかし堀田はスコットらの広告心理学が米国一般の人々の日常的なマーケティング作業にどのような影響を与えたかの判断は難しいとしている。P・チェリントンは『企業力としての広告』で,広告は商品と消費者を結びつける影響力として位置付けた。1930年以降は,広告活動自体を一定期間持続する『キャンペーン』と位置付け,広告を統合的に管理する必要性が認識された時代である。つまりマーケティング研究では「広告を企業の市場適応行動の1つとして統合的に把握する試み」(4ページ)がなされたのである。

2.20世紀後半の研究
 60年代以降の特徴のひとつは、「オペレーションズ・リサーチ(OR)や統計学が広告管理に適応されるようになり,媒体選択,リーチ・フリクエンシー推定,予算決定などを対象として意思決定モデルが多数開発されたことである」(5ページ)。また,60年代の広告実務に対する考え方に極めて大きな影響を与えた著作としては,R・コーリーによる『目標による広告管理(通称DAGMAR)』がある。「DAGMARは広告効果を売上でなく,コミュニケーション効果に限定することにより数値で広告目標を設定し,その成果を広告効果として測定する管理手法である」(5ページ)。しかし,DAGMARは考え方の明示のみであり,実用化が困難であった。
 広告効果のモデルとしては,50年代の特徴は消費者の態度変容研究の応用がおもであり,60年代は高関与学習学習型の効果階層モデル,70年代には関与度の相違を考慮した階層モデルへ,そして80年代以降は情報処理モデルへ(IMC効果を説明する上でも重要な枠組みである)と理論的には精密なモデルが提唱されるようになった。消費者行動および説得研究の基盤となった情報処理パラダイムの特徴と,広告情報処理研究をもう少し詳しく取り上げていく。「マクガイアの「情報処理モデル」では,効果階層のはじめに接触と注意があり,理解,受容,保持,行動という系列が想定されている」(16ページ)。消費者情報処理研究はブランド選択など,高度な過程を対象とする事が多いが,消費者の広告への関心が相対的に低下している現在の環境ではそれを応用することが次第に困難になっていうのではないか?という指摘もある。同時期に,「ブランド態度形成過程を説明する場合に最もよく利用されたモデルに『精緻化見込みモデル』がある」(17ページ)。ぺティとカチオポが提唱したもので,「説得的メッセージの真偽や望ましさを評価するためにそのメッセージおよび記憶内の知識を注意深く検索し,争点と関連付ける過程でオーディエンス自身が新しく情報を作り出すことと厳密に定義されている」(18ページ)。

3.オーディエンスとは誰か?
 広告効果の見えにくい時代に入り,新たな消費者理解の方法が模索されるようになった。「広告と娯楽の境界線が曖昧になり,購買意思決定においてはインターネットやフリーペーパーなど,マスメディア以外の情報源利用が増加している」(21ページ)。「『大量説得の受け手』という古典的な枠組みを超えた,オーディエンスおよび消費者理解が求められている」(21ページ)。

出典:岸志津江(2002),「広告研究における消費者理解-上・下」『日経広告研究所報』,35(216)2-8ページ。

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2005年05月24日

マーケティングと広告(土山 2002)

 この論文は,「日本の広告研究の系譜」というシリーズの第6回目で,戦後の文献を対象に,「広告とマーケティングの記述についての系譜をたどること」(41ページ)を目的としている。

 対象論文で最も古いものとして,56年の宇野が紹介されている。マーケティングの本質が理解されているか疑問を呈し,メーカーの立場でのマーケティングを解説する過程で,広告はマーチャンダイジングをプリントしたものと強調されるとしているが,広告について多くの紙幅が割かれたわけではないとしている。その後,他の著者によって「電通広告論」誌,「マーケティングと広告」誌に掲載された論文についても「あまり多くの紙幅は割かれていない」(41ページ),「広告との関係を詳細に述べるということはなかったようである」(42ページ)などとしている。60年代,広告主や広告会社に籍を置いた実務家たちによる研究があったと紹介されているが,「系譜と呼ぶべき影響の発端は明らかでない」(42ページ)としている。また,67年の宇野による論文で,改めてマーケティング導入理論の不消化が指摘され,そのなかで「マーケティング・マネジメントの一環としての広告体制のあり方」(42ページ)が論じられているとしている。これらの論文を見てきたなかで「マーケティングのフレームワークを再考する中で広告の位置づけや役割などを見直そうとする場合」(42ページ)と「様々な環境,条件でのマーケティング戦略の中で広告に触れる場合」(42ページ)に大別できるのではないかとし,この二分類のうち前者についてのマーケティングと広告を見ていくことにするとしている。

 70年代はマーケティングに関連したシリーズもののなかでの広告の記述がいくつか見られるが「特定の研究者や領域の流れを受けて解説されているものではない」(42ページ),「日本の研究論文に関しては触れられていない」(42ページ)としている。その後空白期間が続き,80年代に入ると「4P理論もしくはマーケティング・コミュニケーションにおける広告の位置づけを再考しようとする研究が現れる」(42ページ)としている。広告が「プロモーションの中に位置づけられていることに対して,広告の公共性,社会性をも含めた広いカテゴリーの中に位置づけられるべきだとして」(42ページ)4C理論を提唱し,7Cs COMPASS MODELを考察した清水,「広告のコミュニケーションプロセス論に力点を置いて」(43ページ)研究を展開した亀井,八巻らが紹介されている。その後さらに,「マーケティングと広告の枠組みの再検討を目的とした研究が相次いでいる」(43ページ)としているが,「いずれの発表も我が国の文献,研究の流れを明確にしているわけではなく,また,相互の関連性も見受けられない」(43ページ)としている。

 90年代に入ると,「市場の世界的な広がりと同質化を踏まえ,デザイン力の重要性を強調」(43ページ)した菅原,「グローバルという言葉の普及が進む時代」(43ページ)に着目して問題点を指摘,フレームワークの検討を提唱した疋田,渡辺他によるライフスタイル・マーケティングを基軸とした研究があるとし,これらは,国際マーケティング,ライフスタイル・マーケティングといった,二分類による流れでは後者にあたる「マーケティングの一タイプにおける広告の検証,考察の色合いが強いともいえよう」(43ページ)としている。90年代後半になるとIMCをテーマとする研究が多くなる。このことについて「あるテーマに対する関心が高まる時期が存在するようである」(46ページ)としている。IMCをテーマにしたものには,消費者行動論の視点から「広告の役割として長期的顧客創造の基盤づくり,消費の意味形成や社会の中での同化と差異化といった機能があることを挙げている」(45ページ)岸など多数が紹介されている。しかし,4P理論,IMC論をはじめ多くが,海外の研究,文献を「規範として理解,消化したうえで各々の考察が展開されることが多いように思われる。その過程で日本の研究も参照されているだろうが,いずれか個々の研究を発展させてというケースは多くないようである」(46ページ)としている。

 結論としては,「選定した論文の数,あるいは対象誌を考慮せずに」(46ページ)としたうえで,「研究の傾向をたどることはできても系譜を見て取るのは非常に難しい」(46ページ)としている。また,60年代中ごろから70年代前半,70年代前半を過ぎて80年代前半のように「比較的長い期間空白となる時期が見られた」(46ページ)としている。

出典:土山誠一郎(2002),「マーケティングと広告」『日経広告研究所報』,36(5),41-47ページ。

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プライベート・ブランドと小売市場(関根 1999)

要約
 最近PB(プライベートブランド)が話題を集めている。特に,価格訴求のものではなく,高品質でNBに対抗することが目的のプレミアムPBに注目が集まっている。PB開発は大手小売商が製造業との提携によって行われる。こうしたPB開発のための組織化は小売市場の競争にどのような変化を及ぼすのかをPBを題材に検討されている。

1.PBの概念
 PBは「生産者ではなく製品の再販売業者によって設定されるブランドで,稀に生産者が再販売業者の場合もある」と定義されてる。
 小売商のPBには主に3つ種類がある。「ジェネリック商品といわれるもので,商品にブランドを設定しないもの。製品に小売商の店舗名や店舗名を表すロゴを付すもの。店舗名とは別に小売商が独自のブランドを設定するもの」(161ページ)。
 PBの開発において小売商が,新製品開発の一連のプロセスをすべて自分で行う必要がない。しかし,メーカーが最終的に商品化の意思決定を行う場合,それは本来の意味でのPBとはいえない。ここでは,「PBを商業者や消費者が製品の仕様書を自ら作成し,準備した商品に自ら設定したブランドとし,その主体としては主に小売商を想定」(162ページ)している。

2.PB商品の開発とチェーンストアの発展段階
 PBを設定する小売業の多くはチェーンストアである。PB商品の開発はチェーンストアの発展と関係がある。チェーンストアの発展段階には,量的発展と質的発展がある。「量的発展とは,チェーン化によって販売量が増加する段階である」(166ページ)とされている。ここでは,集中的な仕入れにより支払い条件などで有利さを発揮できる。「質的発展は,拡大した販売力を背景にPB商品を開発する段階」(166ページ)とされている。つまり,PB商品開発には,チェーン全体の販売量が生産の採算の取れる生産量を超えることが必要条件である。そして,PB商品は低価格,低品質の棲み分けPBから,消費者の一層の信頼獲得を得て,品質や価格を引き上げ,NBと対抗できるプレミアムPB開発の方向に進んできている。

3.PBと小売市場
 PB化の進展は小売市場の上位集中化と密接な関連をしている。小売市場の上位集中化は,チェーン化による大規模を意味しており、規模の利益,範囲の利益を発揮することによりPB化を推進することが出来るからである。そして,PB開発のための小売企業と生産者の組織化により,競争形態は同一の水平段階から,垂直的にグループ化されたVMS(垂直的マーケティングシステム)間での競争へと変化が起こっている。

 最後に,従来の研究においては,PB開発のために組織化が行われた場合,競争が促進するのか減殺するのかというという視点が欠落しているということを著者は指摘している。さらに,「小売市場の集中度が高まるとPB開発は進むが,その場合,生産者市場と同様,小売市場でも寡占化の弊害を顕在化させる危険がある。どういう条件が備われば小売市場を活性化させるのか」(176ページ)ということが今後の研究課題として挙げられている。

論点
 この論文では,これからの競争は,垂直的な組織化同士の競争になるとされているが,プレミアムPBの開発においては,生産者のライバルとなる商品を開発することにメリットはなく垂直的な組織化が行われるとは思えない。

出典:関根孝(1999)「プライベート・ブランドと小売市場」『専修商学論集』第69巻,159-177ページ。

投稿者 02daigo : 14:46 | コメント (0) | トラックバック

2005年05月23日

イオングループにおけるパートナーシップの展開(山本 2003)

要約
 この論文は,イオングループにおける供給業者とのパートナーシップを取り上げ,そのパートナーシップの成果を活用して進められている,イオングループによる流通システム変革の問題を検討している。まず,「イオングループが複数のパートナーシップから得た成果を整理し,どのような形で流通システムの変革に利用されているかについて分析」(106ページ)している。さらに,イオングループによる流通システム再編から生まれたコンフリクトを分析している。これらの分析を行うことで「今後,流通システムの合理化を目指す企業にとっての課題」(106ページ)を明らかにしようとしている。

 まず,イオングループによる供給業者とのパートナーシップの歴史に少し触れた後,その成果と問題点を整理している。
 パートナーシップから得られた成果としては,作業量の削減による人件費などのコストの削減,「正確性と即時性を備えた情報システム」(108ページ)の構築による,品揃えの充実と在庫の削減,情報の共有と利用,新商品の開発の可能性が挙げられている。
 しかし,パートナーシップの対象となる商品は,パートナーが取り扱う商品に限られるため,「①個別企業との間で成果が出ても財務内容に現れる効果は非常に小さく,また,②パートナーシップを利用したシステムと既存のシステムが並存する」(111ページ)という問題点が挙げられている。この点から,パートナーシップで採用したシステムを,小売業が取引する全ての企業に広げていくことは必然的であると述べられている。
 それを受けて,次にこのパートナーシップの成果をイオングループ全体に広げていく動きを分析している。イオングループが打ち出した,マーチャンダイジングとロジスティクス分野における戦略IT構想の検討を通して,「情報を軸に業務を改革していく過程」(116ページ)を見ている。戦略IT構想の目玉である,ODBMSというシステムの導入により,小売業の業務全体をカバーできる統合的な情報システムの構築,省力化による業務の効率化,販売情報の獲得と活用による品揃えの適正化が実現されたと述べられている。
 そして,イオングループの戦略物流構想による,ロジスティクス網の再編についても検討がなされている。中間流通をイオングループが自ら行おうとしたものであるが,これにより「イオングループとメーカー,卸売業の間にはさまざまなコンフリクトが発生している」(116ページ)とし,このコンフリクトについてさらに分析を進めている。
 イオングループの新しいロジスティクスシステムが「目標とする能力を発揮しておらず,メーカーがイオングループとの直接取引をするのを足踏みしたり,直接取引を中断したりするケースが見られている」(125ページ)その要因を検討している。イオングループがメーカーに要求している物流費や,イオングループとの直接取引を行う一方で卸売業との帳合を残すメーカーの存在,社内の混乱,ロジスティクスの不備,卸売業との関係悪化をはじめとする企業間の関係の問題が,その要因として挙げられている。

結論
 結論は次のとおりである。自社主導による流通システムの構築において生まれた,多くのコンフリクトを克服するには,「メーカーがイオングループとの取り組みに対してメリットを感じられるようにしなければならない」(126-127ページ)と指摘し,「イオングループはこれらメーカーと交渉を緊密にしながら,新たな企業間関係を育て,可能な限りWin-Winの関係に近づけていくことが期待される」(127ページ)と述べられている。最後に,これらのコンフリクトをどう克服するかについて注目していきたいとしている。

論点
 論点は次のとおりである。新しい流通システムの概要について示されている部分では,「ロジスティクスシステム能力の獲得が今後の重要課題である」(121ページ)と指摘されているにも関わらず,結論ではその指摘が欠落している。ロジスティクスシステムが不十分であれば,いくら企業間関係が改善されても,イオングループの利得につながらない。この論文で言われているWin-Winの関係を目指すには,流通システム再編の基盤となるロジスティクスシステムそのものの詳細な検討も必要とされるだろう。

出典:山本敏久(2003)「イオングループにおけるパートナーシップの展開」『立命館経営学』第42巻第4号,105-127ページ。

投稿者 02eiko : 20:52 | コメント (1) | トラックバック

広告の社会的役割(宮原 2002)

 この論文は企業の社会的役割と責任という観点から社会に影響力を及ぼす広告に関して記している。

1.広告批判
2.広告の社会的役割
3.広告の社会的責任
4.制度としての広告
5.企業の社会的役割と広告

1.広告批判
 広告批判として企業が販売促進として多額の広告費を費やすと消費財コストや物価が上昇し,社会がインフレを起こす可能性があることや広告は全てではないにしても,消費者に誤った情報を与えてしまうことや「広告は企業集中を促進し,独占の弊害をもたらす」(30ページ)ことなどが挙げられている。このように,経済が発展すると企業活動に伴い,広告活動も活発になり,「広告が経済問題だけでなく,社会問題や文化問題としても影響力を持つようになり,広告に対する批判が大きく浮上することになる」(30ページ)

2.広告の社会的役割
 広告の社会的役割としては,売り手と買い手の距離を縮め,購買までの過程を円滑に進める役割を果たすことや一企業の利益目的だけでなく「全社会の福祉と厚生の増進のために用いられるべき」(30ページ)としている。また,広告によって消費者が利益を受けるため一般大衆による広告費の負担や広告制作者をコントロールし,社会の利益をまもるため広告制作者を資格制にすることなどを提案している。

3.広告の社会的責任
 ここでは広告の社会的責任を広告の経済的機能から述べている。つまり「消費生活にもたらす諸メリットを消費大衆に知らせ,その面から消費購買行動の容易化,円滑化,有利化に資する」(31ページ)と主張している。そして今後の広告活動について購買行動の援助と同時に需給のバランスを維持し,広告を企業の経営的・社会的活動としている。また,広告は消費者に商品の情報を与え,選択幅を増やし,生活水準を向上させ,大量生産を可能にし,商品の低価格化に貢献してきた反面,社会環境の破壊や生産資源の浪費などの批判も存在する。したがって,これらの問題を解決するために「企業理念が顧客志向から社会福祉志向に移行する」(31ページ)ことが望ましく,これらの理念に基づいて広告のあり方を考慮する必要がある。

4.制度としての広告
 現代の高度消費経済では広告は社会的・文化的影響力をもっており「広告を現代社会の中の制度と捉えている」(32ページ)ここでの制度とは「数十年にわたって蓄積されたグループ行動のパターンをさす。制度は,ある共通の感情を社会の人々に共有させる機能を有する」(32ページ)とし,広告を単なるマーケティング・ツールとしてではなく,より広い観点から論じている。

5.企業の社会的役割と広告
 現代社会では企業の影響力が増大しており,企業の利益を得るための行為が自然環境のシステムを乱し,消費者に自分自身の幸福という自己中心的な哲学を普及させていることに疑問を投げかけており,この問題を解決するための需要の抑制に広告の役割があると論じている。

出典:宮原義友(2002),「広告の社会的役割」『日経広告研究所報』,36(4),29-33ページ。

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2005年05月22日

文献レビューの投稿書式(改)

 投稿書式の改訂版をアップします。こうした修正は時間の無駄なので,来週から書式や文章がひどい投稿は削除します。また,修正点は早急に直すように。

レビュー投稿の書式

全般

日本語文のルール

引用ページの書式

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2005年05月21日

小売マーケティング概念に関する一考察(佐々木 2004)

要約
 この論文は「製造業などのマーケティングと共通した側面をもちつつも,独自の活動として展開される小売マーケティングの特質」(126ページ)について明らかにしている。「小売業なかでも大規模小売業の諸活動が活性化し,その地位が向上するにつれて,今日では小売業にまでマーケティング概念が拡張されている。ここではまず,「小売マーケティングと製造業のマーケティングや販売との相違を検討し」(125-126ページ),小売マーケティング・プロセスがマーケティング環境,マーケティング・ミックスの順で述べられている。最後に小売マーケティングの特質をいっそう明らかにするための課題として,「小売マーケティングの生成過程の考察」,「マーチャンダイジング概念の歴史的検討」,「小売マーケティングにおける物的流通の側面の位置づけ」があげられている。

1.小売マーケティングの特質
 まず,小売マーケティングは製造業のマーケティングとは異なり,「最終消費者と直接に接し流通過程の最終段階」(127ページ)に位置し,「流通過程でのみ作用するものである」(127ページ)。また,小売マーケティングはマーチャンダイジングを主要な内容とし,「商品販売においては,価格が非常に大きな競争上の要素となることと,販売行為そのものがきわめて即時的」(127-128ページ)であり,「有形財のみならず店舗やサービスを含めた全体的な雰囲気が重要となる」(128ページ)といった点で製造業のマーケティングとは異なる。また,小売マーケティングと販売の相違については,販売は「顧客ニーズの充足を図る観点が弱いことと短期的な計画にもとづいて」(128ページ)遂行されるのに対し,マーケティング・コンセプトは,「顧客ニーズにもとづいて総合的なマーケティング活動が実践され,顧客満足をつうじた利益の達成が志向される」(128-129ページ)。「対市場活動として機能する販売とマーケティングの相違」(129ページ)は,生産と消費の矛盾が激化し,小売業においても市場活動が意識されたという歴史的背景に求めなければいけないとしている。大量生産の確立と製造業のマーケティング活動が活発かする中,大量の既存製品や新製品を円滑に販売するために,従来的な販売活動では対応できず,小売段階でも体系的な対市場活動としての小売マーテティングが要請されたと述べられている。「販売と小売マーケティングの差異は,市場への関心や働きかけの強さという量的な側面ではなく,対市場活動の中身にかかわる質的な側面で理解されなければならない」(130ページ)。また,小売マーケティングは,小売形態と不可分の関係にあり,小売形態・業態の決定や開発が小売業にとって固有のマネジメント課題」(131ページ)になるとしている。そして,様々な学者の見解に共通するのは標的市場の重要性であり,「設定された標的市場にたいして小売マーケティングは小売形態ないし業態と連動した諸政策,諸活動を適応していく」(132ページ)としている。

2.小売マーケティング環境と小売マーケティング計画
 小売マーケティングに影響をおよぼす要素はマクロ環境とミクロ環境からなり,マクロ環境要因についてここでは制度的環境要因・経済問題・マクロ環境要因についてふれられている。ミクロ環境は「直接的及び間接的競合他社,消費者団体,その他の利害関係者」(134ページ)を意味する外部環境要因,サプライヤーとの関係,ほぼ従業員と労働組合に集約される内部環境要因,消費者からの影響があるとしている。「消費者は小売マーケティングにとって,環境要因であると同時に,マーケティング対象である」(137ページ)と述べられている。小売マーケティングの環境の特徴としては,サプライヤーとバイヤーの影響を強く受けるということがあげられる。「流通過程の最終段階にあり消費者と直接する小売業のマーケティングにとって,消費者というミクロ環境要因はいっそう大きな位置を占める」(138ページ)としている。このような様々な環境要因を考慮したうえで,小売業者の目的が設定される。「その目的にあわせて,マーケティング機会の分析がおこなわれ,マーケティング目的が設定される」(138ページ)。「小売マーケティング目的のために策定されるのが,小売マーケティング計画」(138ページ)である。小売マーケティング計画は,長期的な戦略計画と短期的な戦略計画に分類でき」(139ページ),「長期的観点と短期的観点をあわせもつマーケティング計画の二面性ゆえに,小売マーケティングの諸活動も,戦略レベルとオペレーショナル・レベルで展開されることとなる」(139ページ)。「小売マーケティング計画において,具体的なマーケティング目的はマーケティング課業(Marketing Task)として設定され,それに応じた小売マーケティング活動が対置されることとなる」(139ページ)。小売マーケティング計画についてはコトラーが「マーケティング・プロセスのもっとも重要な要素の1つ」(139ページ)と主張している。

3.小売マーケティング・ミックス
 「小売マーケティング計画が確定されると,マーケティング・ミックスを含むマーケティング戦略が作成される」(140ページ)。小売マーケティングでは,それぞれの店舗が競争優位確立のために小売ミックスの要素を組み合わせて戦略を練り上げるため,小売ミックスの店舗における組み合わせが重要となる。「マーケティング・ミックスは企業が標的市場においてマーケティング目的を達成するさいの,マーケティング・ツールの組み合わせ」(140ページ)であり,4Pに集約されることが多い。小売業におけるマーケティング・ミックスの場合,定説は確立されていないが,4Pに沿って分類を行うことが有意であるとして,4Pに沿った分類を行っている。まず小売業の製品政策の主な活動は,品揃え形成におかれ,「これには取扱商品の数量や種類のみならず,ブランドの選定やPB 商品の開発も含まれる」(141ページ)としている。また,在庫管理も重要であり,小売業の製品政策においてマーチャンダイジングは主要な位置を占めることになる。そして,小売業の提供する「製品」はサービスや店舗の雰囲気といった要素まで包含すると考えられる。次に「小売業の価格政策は,寡占製造企業との対立と協調の関係において考慮されるべきものである」(145ページ)としている。また,大規模小売業は多様な方法で値引き販売を実施するが,これらには「製造企業からの販売やリベート,協賛金などが原資として作用している」(145ページ)。小売業のプロモーション政策としては,「広告,販売促進(狭義),パブリックリレーションズ,大量販売」(146ページ)から構成される。Placeについては小売業の立地政策が大きな位置を占めるとしている。

 結論は次の通りである。「小売マーケティングは製造業のマーケティングにおいて醸成されたコンセプトや諸技法を取り入れ」(147ページ)てきたため共通した側面をもちながらも,「それを小売業独自のものとして発展させてきた」(147ページ)と言える。

 論点は次の通りである。石原氏のマーケティングの定義に基づくと,マーケティングを行うのは寡占的製造業であり,小売業がマーケティングを行うかといった議論が不足しているのではないだろうか。

出典:佐々木保幸(2004)「小売マーケティング概念にかんする一考察」『大阪商業大学論集』第133号,125-148ページ。

投稿者 02takenaka : 19:04 | コメント (6) | トラックバック

媒体計画についての研究(広瀬 2002)

 この論文は媒体計画を過去の論文から検索し,各媒体の研究テーマにおける媒体の系譜を記している。また,今までの研究を振り返って今後議論の余地があるテーマについても書かれている。

1 媒体計画の基礎理論についての研究
2 媒体特性についての研究
3 媒体選択についての研究
4 研究の傾向

1 媒体計画の基礎理論についての研究
 媒体計画の基礎理論は媒体スケジュールと媒体効果の理論拡張の研究に分けることが出来ると記されている。前者において媒体目標の効果測定に焦点をあてた研究は,「複数の広告媒体を用いた場合においてのモデル適用度の変化の検証」(36ページ)などが記されている。後者の理論拡張は「情報源効果の枠組みから広告メッセージと媒体イメージとの関係に焦点を当てている」(37ページ)研究が挙げられている。媒体の効果にあわせて広告目標は変わり,それは単純な媒体接触だけでは判断出来ないので「媒体接触と広告効果の関係には,まだ多くの課題が残されている」(37ページ)としている。

2 媒体特性についての研究
 この分野の研究はテレビ,新聞,ラジオ,交通広告,その他の媒体に分けることが出来る。さらにテレビは「一般的な広告媒体としての特性を探ったものと,社会学的な視点から見たテレビの特性についての研究とに大別できる」(37ページ)としており,前者には「テレビCMの提示方法の違いについて考慮した研究」(37ページ),「テレビ番組のイメージとCMとの関係」(37ページ)「CMの秒数と再生率との関係に焦点を当てた研究」(37ページ)があると記している。後者の社会学的な視点からは,沖縄にCATVが導入された時における地域社会への影響を記している。新聞についての研究は注目率を取り上げたものが最も多く,ラジオについての研究は他の媒体との相互作用や比較ついての研究が多いと記している。交通広告の研究で初期は「国鉄時代に車内広告の特性や課題について」(37ページ),最近では「スペース要因が注目率に強い影響を与えていることなど,様々な媒体特性が明らかにされている」(37ページ)があると記されている。その他の媒体研究はインターネットについてのものがほとんどである。媒体特性の研究は物理的な要因に焦点を当てたものが多く,ある特定の媒体が注目されると,その媒体の研究がまとまって行われるが,系統が行われているわけではないとしている。「消費者の心理的な要因を考慮すれば,既存の媒体についても研究の余地が残されている」(38ページ)

3 媒体選択についての研究
 この分野の研究は「メディア・ミックスの枠組みについての研究,複数の媒体を選択することによる広告効果の違いについて論じたもの,特定の広告目標に対して効率的に予算を配分する方法について探った研究」(38ページ)などに分けることが出来ると記している。媒体選択についての研究は複数の媒体別のデータ収集が難しいとされているが「自社や関連会社のデータを用いた研究が多く,興味深い成果が見られる」(38ページ)としている。

4 研究の傾向
 媒体研究に関する研究を年代別で見ると,70年代は媒体選択,80年代は媒体計画の基礎理論,90年代は媒体特性についての研究が各年代ごとに多く見られる。しかしこれは,研究の動向にすぎず,参考文献をレビューして媒体研究の系譜をまとめようとしてもほとんど出来ないとしている。また,米国の研究動向を反映させた研究,マス媒体(研究成果が公開されていないだけかもと記す),既存理論のニューメディアへの応用研究が少ないので,今後研究の余地があると記している。
 最近のインターネットに代表されるようにニューメディアは次々と生まれているが,既存媒体の議論は十分には行われていない。媒体計画についての研究は机上の理論と現実とのギャップを埋めることが極めて困難であり,理論的な背景の有無で全く意味が違ってくるとしている。すなわち「蓄積された理論と実践のギャップを埋め,効果的な媒体計画を考えるためには,これまで以上に産学共同の研究が必要となるだろう」(39ページ)ことが指摘されている。

出典:広瀬盛一(2002),「媒体計画についての研究」『日経広告研究所報』,36(3),36-39ページ。

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2005年05月20日

広告倫理についての研究(疋田 2002)

 広告倫理に関する広告は,広告の社会的責任,広告規制,広告表示,公共広告等,その対象や研究は多岐にわたる。だが実際には広告倫理を研究している論文を検索してみると,数%にとどまり,数字の上では無視しえるテーマとなってしまうものの,この論文では「系譜」という視点からは興味深い論点がある広告倫理に焦点をあてている。

1)広告倫理研究が少ない理由
2)九十七年以降に研究・論文が集中している理由
3)広告倫理研究の課題について
4)広告の本質研究についての系譜

1.広告倫理研究が少ない理由
 広告倫理をテーマとしている研究の論文の数は 2000年1月時点で0.3%にとどまり無視しえるようなテーマであるが,テーマに含まれる意義や重要性といった点からいえばかなり重みがあり,重要なテーマでありながら研究が少ないといえる。この少ない論文の多くは1997年以降に集中しており,その理由として水野由多加は「我が国では商品・サービスの購入予定者に対して『虚偽,誘導,不公正』にあたる広告物に関する自主規制を含めた規制の研究や昨今では人権に配慮した表現製作が職業倫理として自覚されることなどに関心が焦点付けられる。そのことの重要性はもちろんであるが,一方商品・サービスを購買予定しないにもかかわらず広告に広く接する人々への悪影響に関する広告倫理が忘れられているのではないだろうか」(39ページ)と指摘しており,一方で現在は広告規制や広告の法規というテーマが多く扱われ広告倫理が隠されているとも述べられている。

2.九十七年以降に研究・論文が集中している理由
 広告倫理の研究についての論文が九十七年に集中している理由として「近年ではまた再びサブリミナル(潜在意識への訴求を目的とする)広告への関心が急激に高まっており,そうした倫理的な問題点の存在をこれまで指摘されてきていた特定の広告のみならず,広告全般について本格的な論及と検討がなされるべき時期に今や到達している」(39ページ)としている。またIT技術の進歩により情報発信者と受信者の区別ができなくなってきており情報をめぐる人々の守るべきルールも今日の広告倫理への関心を高める要因となっているとの指摘もある。ただ集中的に論文が発表されたといっても,その数は六本と少なく広告倫理についての研究はまだまだこれからであるといえる。

3.広告倫理研究の課題について
 広告倫理の研究には「広告活動は企業の経営,マーケティング活動の一環として行われている状況に鑑み,企業の経営活動倫理という視点から把握してゆこうという立場」(39ページ)が現在主流になっており,現実への適用を重視したものとなっている。検討すべき問題として,ある広告を倫理的であるかをどう判断するか,非倫理的な広告が判別されてもその広告が社会に与える影響を明確にできるか,非倫理的広告が明確になり悪影響であると判断されてもそれが排除可能かどうかの3つが挙げられる。より広い視点からの広告論理の検討が必要で法的視点だけでない視点,発信者からだけでないとらえかた,広告と報道とは全くの別物かという課題が指摘されている。これらの諸研究で挙げられている課題,および調査データは相互に関わり合いをもち広告倫理の研究領域もふまえているようにみえる。だがそのことが広告倫理を研究の対象にすることをなくしてしまい研究の厚みを増すことも困難にしているといえる。

4.広告の本質研究についての系譜
 九十七年以降,広告倫理についての研究には系譜らしきものがみえるが,それ以前の研究とつながりがあるのかといえば,一見みられないようにみえるが,九十七年以降の研究で,主張されたものの中には広告は資本主義経済の中でわかれる生産者と消費者をつなげるものであり無機質な生産方法が行われることで広告もまた悪徳的なものになりやすく,広告の倫理化運動の対策としては決定的なものはなく洗練された生産関係の確立がなければならないというものや広告は表現的に勧告や助言の形をとり,その背後に正義がなければならない。利益を得るために行うのではなく,「全社会の福祉と厚生の増進のために用いられるべき本質と使命を有している」(41ページ)と結論づけられており両者の主張は研究者当人は意識していなくとも,考察方法や焦点が過去の研究者と似ており,九十七年以降とのつながりを指摘することができるといえる。

出典:疋田聡(2002),「広告倫理についての研究」『日経広告研究所報』,36(2),38-41ページ。

投稿者 02taku : 17:45 | コメント (1) | トラックバック

グローバル小売企業の創造的適応プロセス―日本市場におけるカルフールの事例を通じて― (白石・鳥羽 2004)

要約  この論文は,世界の小売企業売上高ランキング第2位で,ハイパーマーケットという新しい業態を生み出し,海外市場で先発者利益を得たカルフールの日本進出における戦略について書かれている。小売業が海外進出する時の戦略についての既存研究で欠如している点は,戦略類型を集計水準に基づき類推で分析していて,結果に至ったプロセスを明確にしていない点と,現地での企業行動を認識する集計水準が明確化されていない点とされている。カルフールが日本進出した要因は,出身国市場における市場の飽和と,対日貿易赤字を解消する為にフランス政府が促進したことなどである。日本市場に参入する時,オーガニック型を選択したのは,リスクを覚悟してでも進出する価値があると考えられたからです。2000年の開店当初の売上は予想よりも好ましくなかったが、2003年には売上高が前年比10%も増加している。その要因について検討されている。

理論的検討

小売企業が海外進出した際,各国の市場特性という障壁を乗り越える為の海外市場における小売企業の適応行動について検討する。

Ⅰ.日本進出後の業態戦略

 開店当初は,フランス流に興味を持った消費者が大勢押し寄せたが,カルフールは日本に現地適応化しすぎたせいで,フランス風を期待していた日本の消費者との顧客志向の違いが出てきた。だからといって,現地適応化を全くしなくてもよいというわけではないので,今までの失敗例をふまえてカルフールは独自で顧客調査を行い,日本の消費スタイルにあわせて,欧州商品の輸入販売を増加した。そして,外資系企業らしいイベントや施設も充実させていっている。

Ⅱ.商品調達システム

 第1号店開店する時に充分な商品の仕入先を確保できなかったことも開店当初の消費者の不満の一部でもあった。原因としては,取引条件を強気に出したことや,今までその卸売と取引していた小売企業から圧力をかけられていたことがある。しかし,外資系流通企業との取引を考えている卸売り企業が40.7%もある。今後はバイイングパワーを訴求しながら直接取引を実現していく。

Ⅲ.マネジメント
 初代店長がフランス人であり,日本の習慣や礼儀を知らなかったので,販売員への指導が不十分だったことや,語学能力優先で人材を採用したので,接客未経験の従業員が次々と辞めていった。それからは,採用は経験重視となり,店長も将来的に全店舗の日本人の店長を起用する考えを示している。

 結論は,以下の通りである。今までの戦略の改善により,2003年の上半期は,前年比で業績が10%増加しているので,適応行動の成果があらわれている。競争優位を発揮することは,「『全循環』の実現能力にある」(23ページ)とされ,「業態」「商品調達システム」「マネジメント」は,全循環を実現するために作用している。カルフールが多くの海外進出国で成功しているのは,全循環が回転しているからで,日本でもうまく回転させていくのがこれからの課題としている。

出典:白石善章・鳥羽達郎(2004),「グローバル小売企業の創造的適応プロセス-日本本市場におけるカルフールの事例を通じて―」『流通科学研究所モノグラフ』No.045。

投稿者 02aiko : 16:53 | コメント (3) | トラックバック

2005年05月19日

流通国際化と海外の小売業(岩下 1997)

目次
 第1章 マーケティングの国際展開(曽我信孝)
 第2章 流通の国際化と流通政策(坂本秀夫)

 第1章 マーケティングの国際展開 曽我信孝
 この章では,1980年代後半から始まる日本企業の国際展開について書かれている。日本企業多国籍化の要因は,EUやNAFTAなどのブロック経済化による現地法人設立の必要性と,低い生産価格を求めた発展途上国への進出などがあげられる。次に,国際マーケティングの展開ということで,価格政策の重要性が述べられている。国際価格設定における主要な要因として,為替レートの変動やとダンピング提訴があり,それらの解決のためには,日々の為替相場を綿密に分析し,価格修正することが大切であるとしている。続いて生産のグローバル化ということで,国際市場支配のための生産の国際化要因を3つに分類している。まず第1に,大規模市場の競争の激化による現地生産,第2に価格の国際競争力を前提としたマーケティング政策として生産国際化,最後に国際分業を前提とした生産の国際化がある。国際分業を前提とした生産の国際化には,安価な生産価格と国際的に多様化するニーズに対応するための製品ラインの拡大戦略などが含まれる。さらに国際的ニーズは,現地特有の規格や文化に影響を強く受けるため,製品政策の現地化が必要であり,その方法として研究機能の現地化があげられている。最後に国際販売チャネル政策について述べられており,主なものとして,輸出先の国で構築されたチャネルの強化や,販売会社の設立,現地販売会社の買収,海外販売会社との提携などがあげられている。
 第2章 流通の国際化と流通政策 坂本秀夫 
 この章では,流通の国際化が進展している状況のなかで,流通国際化に関する実態面と政策状況を分析し,その上で国際的視点からの新たな流通政策を提示している。
流通の国際化を大手小売企業の国際化を中心に,商品調達・輸入,海外出店,海外流通業の日本進出,日本と欧米の流通業の関係・交流と4つの側面に分けて分実態的に分析がなされている。
次に,流通政策が国際化に対してどう対処すべきかを既存の研究を分類,整理することによって,新たな道筋を見出そうとしている。まず流通政策は大きく「市場原理重視型流通政策」,「社会政策組込型流通政策」,「街づくり視点重視型流通政策」の3つに分類される。この中で,国際流通政策を流通政策に組み込んでいたのは,②の保田芳昭氏の所説のみであると述べられており,この国際流通政策を発展させることが重要であり今後の課題でもあると述べられている。
続いて,国際流通政策と切り離せない問題として,規制緩和の問題があげられている。規制緩和の本来の目的は,①国民生活の向上,②産業構造の転換,③国際的調和にあるという前提を把握した上で,従来より政府が実施してきた流通政策(市場開放政策,輸入促進政策など)の動向を分析,把握している。さらにより重要な問題として,貿易黒字を解消するためにのみ行われる規制緩和,大店法の規制緩和等を批判し,国際流通政策のあるべき姿として,「①国内の流通諸矛盾をを海外に移転させてはならないこと,②海外小売業の日本進出を容易化する,政策的な環境整備を行うこと,③輸出依存体質を是正する環境整備を行うこと」(53ページ)の3つを提唱し,結論としている。

出典:曽我信孝(1997)「マーケティングの国際展開」『流通国際化と海外の小売業』出版社,3-21ページ。
坂本秀夫(1997)「流通の国際化と流通政策」『流通国際化と海外の小売業』出版社,27-52ページ。

投稿者 02kayasi : 23:44 | コメント (2) | トラックバック

広告業についての研究(栗原 2002)

 九十年代には外資系企業の本格進出によって,広告取引方法の違いが改めて注目されている。この論文では,こうした広告業の組織,広告取引,日本の広告業の特異性などを中心に研究の系譜をたどる。
 
 広告についての研究
1)広告業の近代化
2)日本の広告取引の特徴
3)広告業の新しい組織・業務

1)広告業の近代化
 戦前の広告取引は新聞,雑誌の活字媒体広告が中心だが,山本武利(1980)は「戦前の萬年社と新聞社の広告取引」という論文で,「戦前の大阪の広告代理店でトップだった萬年者の広告取引データを検証し,広告代理店と新聞社の請負契約内容,広告代理店と広告主の取引内容が個々に大きな差がある」(66ページ)ということを明らかにしている。「明治時代のデータが多いため,必ずしも『戦前』とは言えないが,『大阪朝日』『大阪毎日』などの大手新聞に比較すると,地方紙では好評単価はあっても実際には遥かに低い価格で取引され,萬年社と広告主の取引にも利益率に差がある。終戦に近い一九四四年に広告代理店の手数料が十五%と決められるまで,ある意味では力関係によって媒体料金,媒体手数料が決まる部分があった」と述べられている。(66ページ)戦後,米国広告界が近代化の手本とされる。また,組織としては「勘定代表」(account representative,account executive,account man)がいて,広告主が担当することとなる。

2)日本の広告取引の特徴
 日本の支配的な広告業種が薬品,化粧品,図書であり,耐久消費財が普及しなかったため,戦前の広告取引は「持単価制」によって,広告主ごとに料金が設定されているという状況だった。次に,戦後の近代広告化の動きとして①調査技術の導入②クリエーティブの拡充AEの導入③料金制度の検討-が進んだが,そうした中で,日本的な広告取引が生まれてきたのは,「日本企業は機密意識が強く,外部の機関(広告代理店)に対して必ずしも十分なマーケティング機能を期待していないという事情があった。また,代理店が同業種で複数企業と取引しているという,完全なAEという機能を要請できない条件もあった」(67ページ)とされている。当時の大手企業はマーケティングから広告企画・製作まで自社で担っていた事情がある。九十年代に入り,外資系企業の日本進出がいっそう激しくなったため,これに伴い外資系広告会社の日本進出も,日本広告会社への資本参加という形で活発化した。その結果,日本の広告業及び広告界の取引形態が欧米と異なるということが改めて問題となったとされている。

3)広告業の新しい組織・業務
 八十年代初めに,「広告取引基本契約の文書化」が広告主側から提案される。「いかに商習慣とはいえ,数千万,数千億に上る契約が口頭のような形でなされていることは変則であると思い,取引条件を明確にしようと思いたったのである」と広告取引の文書化に踏み切った富士通の和才(1981)が「広告取引基本契約の文書化」という論文で述べている。八十年代後半には,小林保彦が英国の広告代理店で始まったアカウントプランナーについて日本で紹介したことによると,アカウントプランナーの仕事は,クリエーティブとマーケティングを結びつけ,クリエーティブを経営戦略の視点からとらえる「クリエーティブブリーフ(広告企画書)」を作成することにある,としている。九十年代に起きた議論にIMC戦争がある。これは,マス媒体広告だけではなく,PR,SP関連広告も含めて消費者の視点から統一した展開をし,コミュニケーション効果を上げていこうというものである。広告の大きな流れは九十年代に入って,ブランドとのかかわりに移る。「『広告の機能がブランドの育成にある』との考え方に基づき,広告会社は『ブランド評価システム』の構築を急ぐ」(68ページ)としている。九十年代後半のもう一つの傾向は,インターネット広告に関する論文が増えたことである。「二〇〇一年にはインターネットユーザーが三千万人を超え,インターネット広告への研究者の関心は高まっており,広告効果測定の手法などが研究の中心になりつつある」(69ページ)としている。

出典:栗原信征(2002),「広告業についての研究」 『日経広告研究所報』,36(1),66-70ページ。

投稿者 02hidemin : 17:07 | コメント (0) | トラックバック

2005年05月18日

消費者行動と広告研究(石橋 2002)

 消費者行動は,社会心理学,認知心理学,社会学,経済学,人類学をベースにした学識的な研究分野であり,消費者行動を解明する手段に広告を用いて研究を行っている。広告効果の解明には,知覚,関与,態度,記憶といった消費者行動を構成する主要な概念が用いられている。広告の目的は,消費者を何らかの形で「動かす」ことである。

広告論文の細分類
 1)広告と関与,態度
 2)広告と消費者の価格感度
 3)広告と社会学的アプローチによる消費者行動
 4)広告と社会学的アプローチによる消費者行動
 5)広告と消費者情報処理
 6)広告と消費者意識
 7)広告と心理学(認知心理学、社会心理学を含む)
 8)広告と消費者行動(消費者行動プロセス、DAGMER含む)

 広告研究との深いつながりや研究成果の多い分野として,特に消費者行動の中心的概念と考えられる「関与」と「態度」を取り上げ,「広告と関与,態度」に関するわが国の研究系譜について本文では概観している。

1.広告と関与
 広告と関与の研究では,まずKrugmanによって提示された受動的(低関与)学習理論のわが国における検証から始まり,Assaelのよる消費者のインボルブメントの度合いとブランド間に認められる差異を基準とした消費者行動の4つのタイプや,「思考」と「感情」,「ハイ・インボルブメント」と「ロー・インボルブメント」の4つの要素で構成されたFCB社の広告プランニング・モデルについて検討を加え,我が国においてもDAGMARに代表されるリニアーなモデルからサイクリカルなモデルを開発する展望を論じている(中山・清水・加藤)。「関与と広告コミュニケーション効果」の関する研究も行われており,広告関与に関する測定尺度の作成について課題として挙げられ,今後の関与研究が取るべき方向が議論されている(小嶋・杉本・永野)。消費者関与が高い場合,論理的CMが情報度の面で評価され,消費者関与が低い場合,情緒的CMが高く評価される。また,製品の関与度が高い消費者ほど雑誌広告の影響が強く,また製品への関与度が高い消費者ほど認知的メッセージの反応が強いと論じている(金)。

2.広告一般への態度
 広告一般への態度への態度研究では,まず広告機能に対する消費者評価が探索的に行なわれてきた。広告についてさまざまな角度から35の意見を集め,それに対する消費者の反応を調査し,その結果に基づいて消費者の広告に対する態度因子を求めている(小嶋・佐々木)。その後,「調査の質的低下」をある程度緩和する方策を見出し,その一環として広告に対する態度と,マスコミ接触などの関係を数量化理論で分析した結果,「利用と満足」「マスコミ非接触」「広告拒否症的態度」の3軸を抽出した研究がある(吉田・飽戸・堀・奥田)。個々のテレビCMの表現評価と購買態度やテレビCMに対する一般的な態度と関連付けて検討した研究としては,佐々木があり,「CM表現評価」から「先有傾向としての一般的購買態度」までを連結する概念モデルの構成と,その実証的分析が必要であると結んでいる。ユニークな研究として,鈴木によるフェミニズムの視点を取り入れたものがある。フェミニズム意識という新たなサイコグラフィック変数を使い,それが企業イメージ,購買意図に与える影響にどのような効果を及ぼすかを明らかにし,広告描写の目指すべき望ましい方向を検討している。

3.Aad研究
 1980年代に米国を中心に提唱されてきた概念が,広告への態度(Attitude toward the ad=Aad)である。この研究では,特定の広告物を受け手が視聴したときの態度が対象となっている。嶋村における広告に対する態度の国際比較研究(杉本・Sighn・Laroche・申)などもある。この研究では,Aad形成要因を大きく取り扱った研究(岸・嶋村,岸,青木・恩蔵・三浦・桑原15,濱岡・古川・片平,仁科・鈴木・水野)。Aadとab間の関係について取り扱った研究(田中・阿部・青木,岸,青木・恩蔵・杉本,稲葉)に大別できる。

 「関与」概念が広告研究にもたらした最大の影響は,AIDMAやDAGMARに代表される一方的かつ線形的な広告階層効果論を見直す契機を与えたことであり,消費者の広告に対するさまざまな心理的反応の重要性を明らかにし,広告研究に広がりをもたらしたことである。

出典:石橋徹(2002),「消費者行動と広告研究」 『日経広告研究所報』,35(6),16-21ページ。


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先端流通産業のメガトレンド:日本と世界(田村 2004)

要約
 この論文では,まずイトーヨーカ堂などに代表される日本の先端流通産業の特質を明らかにするため,カルフールなどの世界の先端流通産業と企業規模構造,市場シェアの変化という点で比較分析することで検討している。また停滞に悩む日本の先端流通産業の原因を明らかにするため,日本・世界の先端流通産業での業態構造の変化,国際化への対応の相違を比較することでそれを検討している。

Ⅰ,日本の先端流通業の特質
 まず,企業規模の分布を世界流通業と比較した結果,世界流通企業のトップ100の全体の売上高は日本の6.2倍,最大企業の売上高は7.6倍,最小企業の売上高は4.9倍になり、さらに最大企業の成長率は7.5倍となる。この結果は,日本流通業は世界流通業に比べて,大手の流通企業への経済集中が遅れていることを示している。
 次に,1990年から2002年までの売上シェアの変化を比較すると,世界流通業では上位企業になるほど売上シェアを伸ばしている一方,順位クラスが下がるとともに売上シェアの増加率は減少している。これに対して,日本流通業では上位20位のシェアの伸びは低いが,順位クラスが下がるとともに成長率は伸び,70位以降は再び減少している。このことは,日本流通業の経済集中の過程は,世界流通業とまったく異なり,売上シェアでは,上位企業と後続の企業との差が縮まってきていることを示している。
 また市場シェアの構成員について,世界流通業では上位のシェアを構成する企業は激しく入れ替わっているが,日本流通業ではその入れ替わりは安定している。このことは,日本流通業での競争は,世界流通業と比べて静態的であることを示している。
Ⅱ,日本の先端流通産業の停滞要因
 まず,世界と日本の業態構造の相違から,この問題を検討する。「世界流通業の先頭集団を牽引しているのは廉売型量販店チェーンである。しかし,日本流通業では,廉売型量販店の先頭集団牽引力は停滞し,百貨店や専門店が台頭しつつある」(24ページ)また,百貨店や専門店は伝統的業態であり,スーパーマーケットやハイパーマーケットなどの成長グループと対照的に非成長グループという業態構成に区分されることから,日本の先端流通業の停滞要因の一つは,上位企業の中に百貨店などの非成長グループが多い点にある。また,国際化への対応の相違について考察すると,1990年代に世界流通業は市場開放に合わせて,海外市場外へ参入することによって,外国売上依存率を高めた。それに対し日本流通業の国際化への対応は,百貨店などの海外での日本人旅行者を主に標的としたもので,多くの流通企業は国際化への対応に遅れをとった。このことは,世界流通業は海外市場の開拓という非ゼロ和ゲームを行っているのに対し,日本流通業は主に国内市場を標的としたゼロ和ゲームを行ったため,国際舞台において停滞したことを示している。  
 
結論は以下の通りである。日本流通業の特性は,上位企業のシェア成長率は鈍化しているが、その構成要員の入れ替わりは静態的であり,その結果,日本流通業での大手への経済集中は世界流通業より遅れていることである。また,日本の先端流通産業の停滞は,業態構成員の成長率の低さと国際化への対応の遅れに要因があるとしている。最後に,日本の流通業はなぜ国際化への対応に遅れをとったのか,分析することを今後の課題としている。

出典:田村正紀(2004),「先端流通産業のメガトレンド:日本と世界」『流通科学研究所モノグラフ』No.069。

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2005年05月17日

国際広告とイメージ(真鍋 1998)

目次
第12章 日本人論の検証
第13章 日本人の内容分析

 日本人論は古くからさかんであり,ここ10年ほどは外国人による日本人論が多く現れ,それがまた日本人による日本人論に拍車をかけた結果,日本人論ブームというべき長期的な現象が起こっているとしている。しかし,発表された多数の著作において,「それらを実証的に検証するという作業はほとんどなされておらず,したがってそれらの多くはどこまでも仮説の段階にとどまっているといわなければならないのである」(286ページ),「大量観察的な『社会調査』にもとづく実証的データの蓄積が十分になされていない」(286ページ)としている。こういった点から,これらを実証的に検証することには意義があるとしている。また,「現在,実証的研究においては,分析作業の手続きに関して厳密かつ詳細な記述を試みることが重要な課題となってきている」(364ページ)という考えから,調査方法や作業の手順などが極めて詳細に述べられている。
 
 第12章では「日本人論の諸命題がどの程度人びとに浸透-認知度と共感度-しており,そのことが人びとに対してどのような機能を果たしているかを捉えること」(288ページ)を目的として,質問紙調査を行っている。まず,単純集計というデータ解析法によって調査結果を記述している。次に,「質問諸項目群ごとに『スケール』を作り,それに被験者の『バックグラウンド変数』(『デモグラフィック変数』と『対外経験変数』)を加えて,それら諸スケールと諸項目の相互間の関係をPearsonの『積率相関変数』によって示した『相関マトリックス』を作成」(351ページ)し読み取るという手法を用いている。これらの作業から,「①日本『人・文化・社会』の単一性・同質性・ユニークネスという命題,②外国(人)と日本(人)はまったくちがうという『特殊主義的な』命題,③血のつながりの影響についての『決定論的な』命題,④外国人の社会参加を制限しようとする『閉鎖的な』命題,⑤日本人論である(になる)ための条件についての『硬心的な』命題」(354ページ)といったような日本人論の諸命題が現在でも多数の人に信じられていることがわかったとしている。そして,「このような諸命題を信じ込むことから日本の文化的ナショナリズムが生み出されてきているということである」(354ページ)としている。また,「どこまでも『仮説』の段階にとどまっていたもののある部分を『知見』の段階にまで引き上げるという役割を果たしたといえる」(351ページ)としている。
 
 第13章では,「日本人論の検証の準備作業として,日本人論のさまざまな記述を分類・整理することを試みたい」(356ページ)として,日本「人・社会・文化」に関する18の外国人によって書かれた文献を「雪だるま方式」と「総当り方式」によって収集し,日本「人・社会・文化」に関する記述を姉妹型カードに抜き出し,KJ法的整理で分類し,大きな枠組みとして経済・政治・社会・文化・国民性(自然を含める)の5つの基準が採用されている。

出典:真鍋一史(1998),『国際イメージと広告-国際広告・国際イメージ・文化的ナショナリズム』 日経広告研究所,281-432ページ。

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米国におけるGMS小売業態の衰退化と新たな取り組み―シアーズ(Sears)社での小売技術開発の試みを中心に―(渦原 2001)

要約
 この論文では,「米国小売業の非食品分野で,長年にわたり牽引車的役割を果たしてきたシアーズ社に焦点を当てて,GMSが小売業態のライフサイクルで衰退期を迎え,生き残りを掛けてどのように経営戦略を方向転換し,小売技術の開発や組織の建て直しを試みて」(22ページ)きたかを明らかにしている。
 特に,人的資源に注目し,従業員やマネージャーの意識,態度,行動を変える従業員の意識改革や組織文化改革の分析を試みている。

シアーズの取り組み
 1970年代,全盛期を迎えたシアーズであったが,1980年代に経営不振に陥った。メイン顧客であった中産階級が崩壊したのが原因のひとつである。また,DSやカテゴリーキラーの成長によって顧客が奪われているにもかかわらず,対応が遅れたためにGMSのポジショニングが曖昧になり魅力を失ってしまった。
 そこで,シアーズは経営建て直しを行った。男性客中心から女性客中心の商品品揃えに変更。さらに,衣料品と化粧品においてプライベート・ブランドを導入した。また,金融関係の業務を整理し,小売ビジネスの本業を強化した。以上のような小売ミックスの変更を行った。
 しかし,このような表面的なマーケティング再生戦略だけでなく,官僚的な体質改善を目指し,新しいビジネスモデルの開発への試みも行われた。そこで,「是非働きたくなる場,是非買い物したくなる場,是非投資したくなる場」(34ページ)を目的として掲げた。
 従業員が勤労意欲を感じる職場を作ることで労働の質を向上させる。その結果,接客などに積極的な取り組みが行われ,サービスの質が向上し,顧客満足度を向上させることができる。それにより,買い物したくなる店舗を提供できるようになり,売り上げ増加に繋がる。こうした売り上げの増大は,投資を促す要因となり,是非投資したくなる企業になることができる。
 こうした「従業員・顧客・利益の良循環モデル」(35ページ)の構築と小売ミックスの変更により,売り上げなどにおいて徐々に成果が見られている。

シアーズの取り組みの意義
 かつてのシアーズは市場環境の変化に対して,低価格の自社ブランド品を提供すれば,顧客は満足するとう考えの基に,表面的で小手先な小売技術ミックスの調整で対応してきた。
 しかし,今回は,市場環境の大きな変化と,顧客の満足や価値の多様化に気づき,人的資源管理という組織管理の革新的な部分での小売技術ミックスの変更を行っている。人材活用・人的資源管理面では改革の成果が現れており評価できる。
 経営の方向転換以後,経営成績によれば,売り上げは伸びてきているが,純利益高は下がっている。こうしたところに,人的資源管理を中心としたマネジメント改革の限界が見受けられる。

論点 
 確かに企業内部からの改革によって顧客の満足を得ようとしたことはすばらしい。しかし,シアーズが低迷している理由は,メイン顧客であった中流顧客層が崩壊したことにある。高所得者は高級デパートへ,低所得者はDSへ顧客が流れている。こうした中で,シアーズは曖昧なポジショニングの脱却を図るために,もっと顧客の目の見えるところでの差別化を図る必要があると考える。
 ここでは,人的資源管理の限界が指摘されているが,その根拠が示されていないと思う。

出典:渦原実男「米国におけるGMSの小売業態の衰退化と新たな取り組み―シアーズ(Sears)社での小売技術開発の試みを中心に―」『西南学院大学商学研究論集』第47号,2001年2月,21-47ページ。

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2005年05月16日

国際イメージと広告(真鍋 1998)

目次
第6章 日中相互イメージの構造
第7章 日本人の中国イメージ
第8章 中国における日本人イメージの諸相とその変化の方向 
第9章 中国における階層帰属意識と職業移動
第10章 日中相互イメージの諸相とその変化の方向
第11章 国際関係と世論

 第6章では「日本人と中国人がそれぞれお互いの「国・社会・文化・人」に対して持っているイメージの諸相を明らかにするとともに,両者のイメージの比較分析を行うことを目的とした」(129ページ)と記してある。ここでの調査は日本人の中国に対するイメージと中国人の日本に対するイメージに加え,日中両国の「一般サンプル」と「学生サンプル」に分けて行われている。国に対するイメージでは,日中間のイメージは対称的な結果になっており『日本のイメージは「豊か」「近代的」「民主的」「信頼できない」というものとなっている』(136ページ)「一般サンプル」と「学生サンプル」では日本イメージの方の差異が大きく『プラスの評定においても,マイナスの評定においても「一般サンプル」にくらべて「学生サンプル」のほうがより強い反応を示しているということである』(137ページ)人に対するイメージでは,日中間のイメージは「対称的」ではなく「対照的」な結果となっており,中国人イメージも日本人イメージも共にプラス方向に位置しているが,その程度に差異が見られる。「一般サンプル」と「学生サンプル」では「両者の差異は対日本人イメージのほうでより大きいといえる」(138ページ)次に,日中間の社会的距離感では『すべてについて日本人のほうが中国人に対して距離感が小さいことがわかる。結婚ということでは,日本人の場合とつぜん距離感が大きくなっている。中国人の場合もその点は同じに見えるが,他の諸項目にくらべてみるならば,中国人の場合は「日本人との結婚」よりもむしろ「日本人の上司のもとで働く」ことのほうで距離感がより大きい』(139ページ)このように日中間のイメージには差があり,同じ「一般サンプル」や「学生サンプル」でも大きな違いがある。

 第7章では『天安門事件(1989年6月)の前と後で日本人の中国イメージがどのように変化したかを捉えることを目的として実施された「対中国イメージ調査」の結果を報告する』(174ページ)と記されてある。事件後の結果では「貧しい」「伝統的」「軍事的に強大」「非民主的」という項目は一層高まり,前回の「信頼できる」が反対に否定的イメージになり「信頼できない」という数値が高くなった。しかし,この「信頼できない」というのは「国」に対してであり「人」に対しては前回とあまり差はなかった。結果として『中国における民主化要求運動とそれにつづく天安門事件の前と後とで,①人びとの中国(および中国人)に対するイメージがポジティブからネガティブの方向に劇的に変化したこと,②人びとの「マス・コミュニケーション」および「パーソナル・コミュニケーション」による中国情報に対する接触度が大きく増加したこと,がわかる』(184ページ)

 第8章では1988年と1992年の質問紙調査によって「中国人の対日イメージの諸相とその変化の方向」(219ページ)を明らかにしている。1988年と1992年では「ほとんどの領域で社会的距離感の短縮化が進んでいることがわかる」(207ページ)これらの年の間の変化として顕著なものは「貿易・経済の分野」であり,前回より減少したものの「科学・技術の分野」においても高いパーセントを残しており,中国の人びとはこの2分野において日本との交流が重要になると考えており,このことは中国の対日イメージが「豊かさと繁栄」という一元化の方向を示している。

 第9章では中国における階層帰属意識と職業移動について述べられている。階層帰属意識では,中国の開放改革のよって生活や収入に対する意識が高まり『現在の中国においては人びとの階層帰属意識が「収入」と,それにもとづく「生活満足度」によって大きく規定されている』(227ページ)また職業移動については,中国は改革などにより著しく経済発展しているため「親子間の職業の一致度が全般に低くなりつつある」(230ページ)

 第10章では「日本人と中国人がそれぞれお互いの国(人も含めて)に対してどのようなイメージを持っており,それが時間の経過とともにどのように変化してきたかを明らかにすることを目的とするものである」(235ページ)と記してある。ここでの内容は第8章で述べてきた内容と類似しており,日中間での「国」や「人」に対する好感度では「好き」のパーセントは両国とも同じ数値となったが「日本(人)・中国(人)が嫌い」のパーセントは中国人の方が高くなっている。また,変化の方向性に関しては第8章で述べたことに加え『日本の中国イメージが特定の事件を契機にいわば「波動」とでもいうべき変化の方向を示している』(249ページ)

 第11章では日本とアメリカと中国との関係について述べられている。グローバル化が進む今,より緊密な友好関係を構築するためにはお互いを理解し合うことが重要になるのだが,「日本・米国・中国における世論とマス・メディア調査」によるとこの3カ国の間には,お互いの国に対する好感度や知識度など様々な分野において差異が顕著に現れた。

出典:真鍋一史(1998),『国際イメージと広告-国際広告・国際イメージ・文化的ナショナリズム-』 日経広告研究所,129-280ページ。

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小売業マーケティングにおける国際化戦略に関する考察(柳 2003)

要約
 この論文は,小売業が国際化する際の戦略と,その課題を明らかにすることを主な目的とし,小売業の国際化に関する既存研究をもとにそれらを検討している。まず,小売業国際化の進展過程,その定義と動因,戦略の類型について,既存研究を再考察している。次に,小売業の国際化戦略の分析・考察として,小売業の国際市場進出における阻害要因と成功要因を検討し,最後に,小売業の海外市場進出における今後の課題を示している。

Ⅰ.小売業国際化の先行研究
 まず,小売業国際化の進展過程を考察した結果,「近年の小売業の国際化は,国内市場の飽和問題などによるマーケティング環境の変化に伴い,新たな市場を求めて海外に進出するという,かつてとは異なるパターンで進んでいる」(73ページ)と述べられている。
 そこで,小売業の国際化とは何か,その定義を検討するために既存研究をレビューしている。レビューの結果,この論文では「小売業の国際化とは,店舗の出店,商品調達,技術提供,資金調達など,様々な形で国境を越え,流通活動が行われること」(74ページ)とされている。
 次に,小売業が海外進出する動機を考察している。ここでは,進出要因を簡潔に示したものとして,アレクサンダーのプッシュ要因とプル要因の論考を取り上げている。アレクサンダーは,その動機を「政治,経済,社会,文化,小売構造の五つの側面から整理している」(75ページ)が,この論文ではここにさらなる考察をあたえ,小売業国際化の動機は「政治・経済・社会・小売構造など個別企業がコントロールできない外部環境要因と,小売業自らが環境変化に応じて新たな成長機会,あるいは利益を求めて海外進出する戦略的要因に分けることができる」(76ページ)と述べている。
 さらに,既存研究の考察から小売業の国際化戦略の類型を試みている。小売業国際化の戦略パターンは投資戦略,グローバル戦略,多国籍戦略の3つある。サルモンとトージマンによると,近年において小売業は,「グローバル戦略と多国籍戦略を取っている」(74ページ)としている。前者は「母国で成功したフォーミュラ(規格化された運営方式)を,国境を越えて模造ないしは再生産する方式」(77ページ)であり,後者は「ローカル市場に適合するために,親会社に匹敵しうるような独立経営権を関係会社に付与する方式」(77ページ)とされている。グローバル戦略は消費同質化と基準の調和が各国間で進められるため,多国籍戦略に比べて高い事業成長を示すとし,「企業の国際的な展開に対応した、伸縮的なネットワーク型の経営組織が構築されることが必要である」(78ページ)と述べられている。

Ⅱ.小売業の国際化戦略についての分析および考察
 ここでは,小売業の国際市場進出における阻害要因と成功要因を検討している。(和田 1987)は阻害要因を資本市場,供給市場,販売市場,労働市場という側面から考察し,ここではその側面を詳しく検討している。さらに,成長が期待された国際市場での赤字の原因の考察も行っている。

 まず,資本形成という観点での海外出店方法における問題が,資本市場の問題として挙げられている。資本形成という観点での海外出店方法は全額出資,資本参加,合弁の3つである。「全額出資や資本参加の場合,本国小売業の側の資本蓄積に依存することが必要とされる」(80ページ)が,このことはオーバー・プレゼンスの問題にも関わり深刻化するため,開発途上国への出店は,合弁の形をとるのが一般的であると述べられている。
 供給市場の問題は,進出先における商品流通チャネルの問題である。ここでは,本国と進出先国間の流通チャネル構造の近代化度の差をずれと呼び,流通慣行や取引形態などチャネル行動の相違を違いと呼んで阻害要因としている。ずれと違い両面の認識が必要であり,その結果両面の制約性が高い場合には積極的に現地化をはかることが必要であるとされている。
 販売市場の問題は,小売業態の選択とマーチャンダイジングの問題である。文化圏の違いのために消費者行動が異なるという視点ではなく,「本国の消費行動に共通する部分と,現地国の消費行動全体に先の部分が占める比率に着目して,しっかりと見極める視点が求められる」(81ページ)と述べられている。この視点に基づき,業態戦略やマーチャンダイジングが決定されることとなる。
 さらに,労働市場の問題として労働力調達が,「海外出店を阻害する要因のうち最も重要な問題」(81ページ)とされている。
 最後に,成長が期待された国際市場での赤字原因の考察から阻害要因を提示している。それらは五つあり,「粗利益率の低さ(対総売上高比),家賃の高さ,進出時期(タイミング)の悪さ,低価格競争の激しさ,立地選定の失敗」(81ページ)である。

 さらに,小売業が黒字となる要因と認識されている点を挙げている。黒字小売業においては,前述の家賃,進出時期,立地選定のいずれかにおいて優位性が存在し,また,残りの二つの要因は赤字・黒字に関係なく経営上の問題として認識されていることをふまえ,成功要因を検討している。成功要因は八つ挙げられている。グローバルな拡大に適した業態の選択,選択した業態を現地の事情に合わせる柔軟さ,進出市場の条件にあった戦略の選択,市場進出に向けての綿密な準備,現地マネジメントチームの育成と確立,一番乗りの利点を活用した,市場参入後の迅速な拡大,優れた財務管理戦略,グローバル経営のネットワーク作りの八つである(82-83ページ)。

 最後に今後の研究課題が示されている。本国の小売業が国際市場へ進出する際の戦略や課題を模索するには,「小売業の海外出店企業の行動を正確に把握できるような事例研究を通じて,小売業の国際化戦略を分析する必要がある」(84ページ)とし,今後の研究課題として,国際化戦略を類型別にみて「国際化戦略を採用しようとする小売業はどのようなコンセプトのもとに戦略を実行すべきかについて取り上げる必要がある」(84ページ)と述べられている。

論点
 既存研究のレビューを通じての検討は,理解できる。しかし,成長が期待された国際市場での赤字の原因の考察や,成功要因の検討は根拠が示されていない。データの拠り所,分析方法も定かではないため,成功要因等においては説明力がまったくないといえる。

出典:柳哲洙「小売業マーケティングにおける国際化戦略に関する考察」『商学研究論集』第19号,2003年9月,71-87ページ。

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2005年05月15日

「ドッグウィル」(2003)

2003年 デンマーク
監督:ラース・フォン・トリアー
出演:ニコール・キッドマン、ポール・ベタニー 他
カンヌ映画祭出展作品
[R-15指定]


あらすじ
ギャングに追われて小さい隔離された村に1人の美しい女性(ニコール)が逃げ込んできた。
その村は若い女は少なく、優しくて美しい女性は村で重宝された。
はじめは、村人は彼女を排除的に見ていたが、
彼女の努力と優しさを認めて次第に彼女は村になじんでいった。
時は経ち、彼女も女としてみられるようになり、
他の若い村の女達からの嫉妬や男達のいやがらせなどを受け
平和な村がくるいだした。


感想
初めて「ドッグウィル」を見た時、舞台ではなく、映画であるのに
セットもなく地面に線を引いた所で何人もがそこに村が存在しているかのように
演技していたので、、ニコール・キッドマンの演技がわざとらしいように見えたが、
それははじめだけで、時間が経つにつれてセットがない状況に慣れてきて、
映画にすいこまれるような感じになった。
やっぱニコールすごく演技うまい。
この映画は残酷だけど、今まで平和だった街、人が
他の人(良い人でも)が来ることによって
良くも悪くも変わっていく過程の映画なんだけど
これって人間をよく表している。
欲望、甘え、そして・・・
人間の醜さがよく見える映画である。


すごく考えさせられる映画だった。

ちなみに、これはだいぶ前に私が自分のHPで書いたやつを
コピーしただけなんで、ぜんぜんうまく書けてないけど、
今度からは論文レビューみたいにちゃんと書いていこうと
思ってます。
映画好きの方、参考にして見てくれたらうれしいです。

投稿者 02aiko : 12:20 | コメント (0) | トラックバック

2005年05月14日

国際イメージと広告(真鍋 1998)

目次
第1章 広告の国際イメージ形成の機能
第2章 日本のテレビCMにおける「外国関連広告」の内容分析
第3章 ドイツにおける「日本関連広告」の内容分析
第4章 中国における「日本の広告」の内容分析
第5章 外国における「日本の広告」に対する態度・意見・行動

  はじめに「この研究の目的は,広告が国際イメージの形成にどのような機能を果たしており,そのことが国際マーケティング戦略にどのようにかかわってくるかを解明することにある」(3ページ)と記してある。この章では,アメリカ,中国,日本,を分析対象として外国関連広告が外国そのものをイメージするかを調査している。「ここで外国関連広告というのは,①外国の企業・団体の広告,②外国の商品・物産の広告,③外国のシンボル―たとえば外国の文化・芸術・生活・風景・建物・人物など―を取り入れた広告」(3ページ)をすべて含むものとする。その内容は①日本におけるアメリカ関連広告と中国関連広告②アメリカ合衆国のサンフランシスコにおける日本関連広告と中国関連広告③中国の上海における日本関連広告でありそれぞれを調査している。①はテレビ,CMと雑誌広告について,②は新聞広告と雑誌広告について,③は新聞広告について分類別に分けて分析している。さらに質問紙調査により細かく分析し,「外国関連広告においては,国家間の国際関係が微妙に反映されるものであること」(16ページ)と「アメリカにおいては外国の商品,製品,物産の広告は見られても,日本のように外国のイメージを使った広告はさほど多くない」(16ページ)という補足を挙げている。

 第2章では1990~1992年の日本のテレビCMにおける外国関連広告を分析している。分析結果から読みとれる内容は,アメリカのイメージが各年度,一定的で圧倒的に多いという点,外国関連広告はベルリン壁の崩壊やバルセロナ・オリンピックなどの世界情勢に大きく影響されるという点が挙げられる。

 第3章ではドイツでの日本関連広告における雑誌広告とテレビCMについてそれぞれの分析を記しており,さらに分類ごと分析し,それぞれの特長を表している。テレビCMにおいては企業名や商品名ごとにも分析されているが,ドイツへの商品輸出が少ないこともあり,サンプル数がとても少ないと書かれている。

 第4章では中国における日本の広告に関する内容分析を2種類の新聞を対象として調査,それをさらに分類別に分析する。特に目を引く結果は使用頻度が高い言葉が日本の広告ではたびたび使われるということである。ここでは中国における広告表現の変化も分析結果から読み取られ挙げられている。

 第5章では外国が「日本の国際広告に対して,どのような見方,感じ方,考え方,行動の仕方をしているか」(98ページ)ということを調査している。対象は日本以外の10ヵ国の大学生で,質問紙調査をする。この調査を分析していく上での注意点は性別,年齢,専攻領域,生活態度,生活満足度の質問項目が挙げられている。調査結果はマス・メディアへの接触度,媒体別広告への接触度,日本体験,マス・メディアによる日本との接触度,広告による日本との接触度,日本および日本人に対する好感度,日本に対する評価度,目につく日本の広告「企業・商品」と利用・購入したことのある日本の「企業・商品」,日本の広告に対する「好感度」と「有用度」,日本の広告に対する意見―ステートメント・テスト―に分類され,各国ごとに記されている。最後に「ある質問項目に対するある国の回答の分布の意味を深く理解しようとするならば,その国の事情について十分に検討することが必要となる。そのような事情については,広い意味でのその国の事情一般と,その国の広告事情とが,いったんは区別されながら分析されたうえで,再び両者が関連づけられて分析されるという手順がのぞましい」(123ページ)と書かれており,その分析作業で,日本とどのようにかかわるのかが重要なポイントであると記されている。

出典:真鍋一史(1998),『国際イメージと広告-国際広告・国際イメージ・文化的ナショナリズム-』 日経広告研究所,3-125ページ。

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日本市場におけるウォルマートの初期展開―参入後の経緯と今後の展望―(白石・鳥羽 2004)

要約
この論文は「ウォルマートの日本市場における初期展開を一企業による小売システムの構築プロセスという視点から整理し,今後の展開を展望することを目的としている」(79ページ)。ウォルマートの日本市場への参入は2002年,ほぼ買収による参入に当たる「西友と住友商事との包括的業務提携」(85ページ)という形で行なわれた。その展開はまだ始まったばかりであるが,「水面下においては,日本市場へカスタマイズされた小売システムの構築に向けて着々と進展している」(98ページ)ことが窺われる。また,これまでの日本市場における試みは,「商品調達システムやマネジメント体制の確立に力が入れられている」(98ページ)とあるように,表出的で競争者が模倣しやすい業態という側面ではなく,「目立ちにくく,模倣することが困難な背後のサブシステムにおける競争優位を築こうとしている」(98ページ)。

ケーススタディーの結果,次のことが述べられている。ウォルマートの日本市場におけるこれまでの試みは,「業態を背後で支援する商品調達システムやマネジメント体制の確立に力が入れられていることに特徴付けられる」(98ページ)。まず,商品調達システムについては,ウォルマートの競争優位を支える重要な情報システムとして「リテイル・リンク(RL)」がある。これは,「前日にどの店でどの商品がいくつ売れたのかといった情報を基に,物流センターと店舗には適正水準の在庫があるのかといった問題を確認する。そして,状況に応じて本部と連絡を交わす」(91ページ)。また,「商品分野ごとに,首位メーカーにウォルマートのPOS(販売時点情報管理)データなどを開示し,「カテゴリーキャプテン」と称する特定取引先に,品揃えや棚割などの提案を受けるといったことも試みる仕組みとなっている」(91ページ)。このRLが日本で完成すれば,「サプライチェーン全体で生産計画の最適化や流通在庫の削減」(91ページ)につながるため,店頭価格を下げることが可能になると述べられている。日本市場においてもその基礎となる「スマート・システム(S.S)」(91ページ)の導入が開始され始めたが,「不定期の特売やリベートがある日本の商慣行」(91ページ)の下では,生産,物流,販売コストを標準的な数値として把握し,無駄を排除する手法が馴染み難いとしている。商品システムにおけるその他の課題としては,供給業者との取引関係構築と,「世界レベルにおける商品調達システムの構築」(93ページ)としている。マネジメントの面では,「リテイルスタンダード」(RS)と称される,「日常業務の達成度を全店共通のチェック項目と判断基準で自己採点し,各店舗のオペレーション上の問題を把握する仕組み」(94ページ)や,「1日の業務スケジュールを逐一記した「ダイロ(DIRO:Day In the Life Of)」(98ページ)の導入を行っている。これによって徹底した業務の標準化に取り組み,また,従業員に占めるパートタイマー比率の引き上げを行うことにより人件費の削減につなげている。そして,ウォルマートの日本市場における今後の展開は,「良循環(Virtuous Circle)」(95ページ)の実現能力の点で強みを持つスーパーストアの出店に目標が定められている。ここでいう良循環とは,「低価格販売→大量販売→大量購入→大量仕入・低仕入コスト→間接費の削減→低価格販売」(95ページ)というプロセスを意味している。「総合型業態を展開する小売企業にとっては,この良循環を実現することがグローバル小売企業としてのパラダイムである」(97ページ)と言われ,日本においてもその実現が要求される。「業態」,「商品調達システム」,「マネジメント」の3つの側面における様々な試みは,良循環を回転させるための仕組みとして作用する。しかしながら「現状では,リテイル・リンクを基盤とする商品調達システムの構築やマネジメント体制の確立にプライオリティが置かれ,業態レベルでは顕著な変化が見受けられない」(97ページ)ことから,「良循環が回転しているとは言えない」(97ページ)。


結論は次の通りである。日本市場におけるウォルマートの展開は開始されたばかりであり,その展開の行方を把握することは,困難なように思えるが,「個々の展開を一企業による小売システムの構築という視点から包括的に捉え直してみると,水面下においては,日本市場でカスタマイズされた小売システムの構築に向けて着々と進展している」(98ページ)ことが窺われる。「ウォルマートの日本市場におけるこれまでの試みは,業態を背後で支援する商品調達システムやマネジメント体制の確立」(98ページ)に重点が置かれている。それは,表出的で模倣されやすい業態という側面ではなく,「目立ちにくく,模倣することが困難な背後のサブシステムにおける競争優位を築こうとしているのである。」(98ページ)と結論付けている。


論点は次の通りである。この論文において,RLについて述べられているが,日本でRLのようなシステムを構築する際に発生する問題についての議論が不足しているように思われる。

出典:白石善章・鳥羽達郎(2004),「日本市場におけるウォルマートの初期展開―参入後の経緯と今後の展望―」『流通科学大学論集―流通・経営編―』第16巻第3号,79―99ページ。

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2005年05月13日

カルフール:日本市場進出のシナリオ (田村2003)

要約
 この論文では,アジアで成功を収めているカルフールが,2000年に現地法人化によって日本市場の参入を表明したので,日本の流通業市場は脅えていたが,カルフールのフォーマットが日本の顧客価値にあわず,フォーマットの変更を迫られたが,2003年になってカルフールは日本の顧客志向にあわせて学習し,小売ミックスへ反映させていった結果,軌道に乗り始めたプロセスについて書かれている。カルフールははじめ,フランスの基本フォーマットを日本に持ち込んだが日本に勝ることがなかった。今ではどれぐらいの水準まで,カルフールの店舗競争力が達しているかのを実証分析によって明らかにした。


理論的検討は,カルフールは内部情報を漏らさないことで有名な企業のため,ヒアリングを使わずにカルフールの日本進出における現地適応化の特質と戦略を明らかにして,流通戦略論にてらしあわせることによって,戦略行動を明らかにすることです。また,店舗競争力は特定店舗の魅力度であるため,顧客満足の水準によって測定することができる。

実証分析は以下の通りである。競合点との比較における店舗競争力を見るために,カルフール幕張店,イトーヨーカ堂幕張店,イオン・マリンピア店,イズミヤ検見川浜店の4店舗で買い物調査を行った。回収標本数は804票で,顧客交流率は80.8%で,消費者の71.3%が平日に利用できる車を保有している。カルフール光明池店,ダイエー光明池店,イズミヤの和泉中央店,泉北高島屋店の4店で806票を回収した。顧客交流率は63.5%で,63.2%が平日に利用できる車を保有していることがわかった。また,店舗全体レベルにおけるカルフール幕張店の競争力は,店舗全体満足と全体属性についての競合店舗の平均スコアとマンホワイトニー検定によるスコア分布の差異の有意差検定の結果,「店舗全体満足の水準で見ると、カルフールの店舗競争力の重要な特質は,イトーヨーカ堂とは優劣がつけがたく,イオンやイズミヤに関しては優位になる」(12ページ)と述べられている。この差は,CTAREGにおけるプラット測定によって顧客価値を推定したところ,バーゲン割引率,店舗雰囲気,食品売場満足の3つの要因が60.2%であるため,他の要因で差異がなくても,この3つの要因で優位に立てば顧客価値が高くなる。イズミヤ検見川浜店とイズミヤ和泉府中店を比べたところ,和泉府中店が優位性を持っているのは店舗年齢と物流支援体制の相違によるものである。

結論は次の通りである。平日利用できる車を保有している人が多いので,車利用による各店舗の買い回りにより顧客交流率が高くなっている。顧客価値が高いのは,カルフールの店舗雰囲気や価格訴求力が顧客志向と合致しているからである。地域市場特性に合わせて調整し個店対応をしているのは,顧客志向能力の情報を店舗業務に落とし込む柔軟性があるからである。戦略としては,店舗雰囲気と若干の価格競争力があれば,日本のスーパーや郊外型百貨店などと競争しても顧客満足が獲得できるが,物流センターが整っているイトーヨーカ堂に対しては今のところ劣位に立つ傾向があることも明らかになった。消費者は,カルフールにフランスらしさを求めているため,PB商品と輸入品の比率を拡大するであろうと述べられている。そうすることによって,カルフールは中国市場のように日本市場でも成功を収めることができると思われる。

出典:田村正紀(2003),「カルフール:日本市場進出のシナリオ」『流通科学研究所モノグラフ』No.042

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アドバタイジング・マネジメント:広告意思決定の理論(D.A.アーカー,J.G.マイヤーズ 1977)

目次
16章広告の社会的,経済効果
17章広告規制

第16章では広告の社会的,経済効果について述べられている。「広告の社会的・経済的問題に関する議論は三つのカテゴリーに分類される。」(660ページ)一つ目は広告の性質と内容を表わすもので、虚偽,操作,嗜好の問題があり,特に広告訴求者が子供である場合には重大である。二つめは,家庭,音楽,学校といった他の社会的機関と競合し,それらを支配すると信じる社会の価値,ライフスタイルに及ぼす効果で,三つ目は広告の新製品の存在を知らせるための効果的手段としての広告の経済的価値はいったいなんなのかといった社会の経済システム運営の効率に及ぼす広告の効果である。
 広告は消費者に影響を与えるかどうかは三つの考え方があり,一つは潜在意識のレベルの動機に訴求して影響を与えるとする動機調査の使用,二つ目は,間接的な情緒的訴求の使用に関するもので,三つ目が広告の質や量により示される広告のパワーについての一般的な主張がある。広告は社会の価値やライフ・スタイルにプラスのインパクトを与えるだけではなく,マイナスの側面ももっていると議論される。それらの問題はどのような価値観が促進され避けられるべきなのか,広告がそれらに対してどのような影響を及ぼすかである。このように考えていくと「広告の経済的インパクトと社会的インパクトを分けることは理に合わないことである。」(677ページ)広告は基本的に経済制度であり、広告の経済的評価が明確になるべきである。ここでは消費者に対する情報提供,銘柄識別の補助,媒体援助,流通コストの問題,景気循環に及ぼす効果,製品効用の提供,新製品の販売促進が評価基準になるとしている。最も重要な問題として広告が競争に対してどのような影響をもっているかである。広告により製品を差別化でき,銘柄忠実度を生み出すことで価格競争を回避することができる。また特定の産業における大広告主は他の競争者より広告スペースを優先的に扱われ参入障壁を形成する。これにより小規模の競争者は銘柄忠実度でも支出面でも大きな苦労を要する。このような広告と市場集中に対する救済策として提案されているものの中には,「産業によっては広告を制限し,禁止したり,課税するというものがある。」(694ページ)

第17章では広告規制について述べられている。広告における虚偽の回避は産業界並びに政府の双方によって認識されており,概念的に虚偽は,あるオーディエンスの知覚過程に広告が導入され,その知覚過程のアウトプットが,(1)現実の状況とは異なり,(2)消費者の損失になるように消費者行動に影響をおよぼす場合に成立する。(701ページ)としている。広告がどのように解釈されているかを見極めるのに消費者調査があるが,裁判の虚偽広告の判例にはほとんど使われておらずその理由として虚偽が成立するか否かの決定を連邦取引委員会が独自に行う権限が,裁判所によって認められたからである。また,無知で信じやすい人をなくすことは難しく,連邦取引委員会は虚偽は誤解するする人は0%であるとしている。連邦取引委員会は虚偽広告に対して差し止めに終始していたが,救済策として訂正広告を提案した。訂正広告は「違法行為を犯した広告主は,過去の虚偽広告を,将来の広告スペースとタイムのうちの一定比率を使って訂正するように要求される」としている。問題は虚偽が消費者に対してどの程度与えるかによって罰をどの程度に設定するのか,それは妥当であるかが論議される。これらの事態をふまえ,連邦取引委員会は広告主に対して,安全性,性能,効力,品質,および他製品と比較した場合の価格に関する宣伝文句について提出させるよう要求する広告制度を検討している。さらに,「広告における真実の法案(Truth-in-advertising)」も提案され目的は,「(1)実証性ある書証が公衆にとって入手可能な情況にないかぎり,いかなる広告も流布されないことを保証するとともに, (2)知る権利,実体のない広告から自分を守る権利,および広告活動における公正の増進を図るために直接行動に訴える権利を,各個人が行使することを保証することにある。」(727ページ)広告業界は自主規制をするようになり,そのことが広告業界自身の発展に寄与している。

出典 D.A.アーカー,J.G.マイヤーズ著;野中郁次郎,池上久訳(1977)『アドバタイジング・マネジメント:広告意思決定理論』,東洋経済新報社,16-17章(659-734ページ).


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2005年05月12日

世界覇権を巡る闘い(田村 2004)

要約
この論文は,1990年から2002年の期間において世界の小売企業トップ10に入る企業を勝ち組,10位以下の企業を負け組みに分類し,その分類に基づいて各企業の成長要因を規模の優位性とそれを支える競争優位基盤に基づいて分析するとともに,世界の小売業の先頭集団の平均成長率の低下という事実に対し,この壁を越えるために各企業がどのような戦略をとり世界市場での覇権を目指すのかについて書かれている。結論は小売企業が全国市場の壁に直面したときに海外市場進出という小売国際化の道をとり,そしてその国際小売企業の次の標的となる市場が日本であるという事実に対し,日本の先発小売業者はこの世界競争にどう立ち向かうべきなのかという問題提起を結論として締めくくっている。

理論的検討は以下の通りである。勝ち組企業と負け組企業を分ける要因は規模の優位性を発揮しながら成長できたかどうかにあるとし,その規模の優位性を生み出す要因が競争優位基盤によるものとして理論を展開させている。規模の優位性とは企業規模の成長が財務効果を向上させることであるとし,その指標となるのが資本利益率である。その売上利益率向上を達成する2つの要因が売上利益率と資本回転率であり,この2つはトレードオフの関係にある。そしてその売上利益率を変化させる要因が競争優位基盤であり,購買力,小売ブランド,需給チェーンシステム,業態ポートフォリオを革新することにより達成されるとしている。しかし,小売業が優位性基盤を利用して成長を続けるにはその売上高が絶えず拡大しなければならないが,その売上高成長はフォーマットの壁,業態市場の壁,本国市場の壁によって阻害される。フォーマットや業態市場の壁は新しい業態を開発することにより乗り越えらるが,本国市場の壁は克服できない壁である。小売企業はこの壁を小売の国際化により克服しようとした。国際化に成功した勝ち組企業に見られる特徴は,ハイパーマートを中心に大型店展開していることと,外国売上比率が高く,進出外国数が多いかどうかである。そしてその国際化の出店先として選ばれてきたのが,中南米,中央ヨーロッパ,アジアなどの新興市場である。しかし新興市場に対する先発者利益も,複数の先頭集団企業が参することによる競争の激化により鈍化してきた。この新興市場進出の構図をウォルマートは一新した。というのもウォルマートは次なる進出先を市場規模の大きい地域,英,独,仏.日本という先進国市場とした。この戦略の背景には,国際市場の壁に直面した小売企業が,規模の経済性を発揮しながら発展するには市場規模の格段に大きい先進国市場を掌中に収める必要があり,それにより世界制覇を目指すという意図を含むものであった。

実証分析は以下の通りである。この論文では,2000年度の財務数字を利用して勝ち組小売企業の事例分析がなされている。ここでは売上利益率と資本回転率を軸に上位小売企業の資本利益率の増加を分析している。テスコはメーカーを支配下に置くという戦略で強力な小売ブランドという武器を得ることにより,高い売上利益率による企業成長を遂げている。それに対しコストコは強力な価格訴求力による大量販売により,高い資本利益率を達成し企業成長している。そしてこの売上利益率と資本回転率の同時達成により企業成長を達成しているのが,現小売業界1位のウォルマートである。ウォルマートの他の先頭集団企業に対する優位性基盤は,高度に情報武装した需給チェーンシステムによると述べられている。それを支えるのが自社物流システム,データハウスを中核とするデマンドチェーンの構築,リテールリンクによる電子市場の構築であると述べられている。

結論は以下の通りである。勝ち組企業が次なる小売国際化の市場として日本に参入し始めている。これに対抗するには,現日本先発小売企業が世界競争をふまえどう産業ルネッサンスを行うことができるかにかかっていると述べられている。

出展: (田村正紀 2004) 「世界覇権を巡る闘い」,『流通科学研究所モノグラフ』,No,71。

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アドバタイジング・マネジメント:広告意思決定の理論(D.A.アーカー,J.G.マイヤーズ 1977)

目次
第14章 媒体モデル
第15章 媒体調査

第14章 媒体モデル
 広告戦術上の意思決定は,広告予算設定に係わる意思決定,表現意思決定,媒体意思決定に大別できる。これらの意思決定は段階的になされ,媒体意意思決定は最後に下されるのが普通である。媒体意思決定は,広告予算を利用可能な媒体オプションへ配分することに関するものである。プラナーが媒体意思決定を構造化し,効果的な媒体出稿計画を立てるのを助けるために設計され,定式化されたメカニズムである媒体モデルは,三つの要素を含んでいる。「第一に,目的関数によって出稿計画についてのある値が得られる。第二に,ヒューリスティック法が,目的関数に関して相対的にもっとも高い値を持つ出稿計画が見つかるまで,すべての出稿計画を探索する。第三に,予算制約のような制約条件が,ヒューリステック法によって考慮される出稿計画を限定する」(602ページ)とされている。目的関数の構成要素に焦点を絞り,二つの定式化されたモデルが紹介されている。MEDIACモデルは,広告過程に関するある特定の見解に基礎を置いている。広告露出によって訴求対象セグメントの心的状態や露出価値が創出される。露出価値は必ずしも線形的であるとは限らないが,売り上げに直接連結されている。しかしながら,露出価値は,忘却によって絶え間なく侵食されていく。MEDIACは媒体オプションを選択するだけでなく,時間軸に沿って出稿をスケジュール化する。現実の時間が組み込まれているので,反復関数や,ビークル露出パターンの季節調整を定式化してモデルに合わせることが,自然に可能になる。「MEDIACの限界は,露出が集計的な意味においてのみ蓄積あるいは忘却されるということである」(603ページ)これに対してADMODは,銘柄知名獲得や新規試用購買意思決定のような,広告で促進しようとしている消費者の特定の認知変化あるいは意思決定に焦点を当てている。ADMODでは,サンプル内の全個人についてその出稿のインパクトを吟味する。このインパクトは,「意思決定あるいは認知変化の純価値,出稿計画から作り出される個人への露出回数および露出情報資源,期待された認知変化あるいは意思決定を得る確立に基づいた露出のインパクトなどに依存している」(604ページ)としている。

第15章 媒体調査
 広告露出の測定に際しては,ビークルの露出の測定と,ビークル中の媒体オプションへの露出の測定とを分けて考えなくてはならない。ビークル露出は注意深く定義される必要がある。「印刷媒体ではビークル露出はあるビークルの典型的なあるいは平均的な号の,『中身を読む』ことと定義することができる」(607ページ)電波媒体では,例えば「ある番組の間テレビ受像機が『つけられている』時間の長さが基準になるのである」」(607ページ)ビークル露出をフィールド調査で測定しようとする場合には,雑誌の編集内容への関心をきくとか,ニールセン式の自動モニター装置を利用するとかいった技法を工夫しなければならない。媒体オプション露出は,回答者がある広告に物理的に露出したかどうか,または広告のある部分を心の中に吸収したかどうかを判定することにより測定することができる。「広告への露出は広告の大きさや形,ビークルの中の位置,当該製品クラス,オーディエンスのタイプ,表現アプローチといった媒体オプション変数に依存することが示唆されている。媒体オプションの情報源効果は読者をひきつけるビークルの能力の測度でも,オーディエンスの質の測度でも,広告注目率を獲得するためのビークルの能力の測度でもない。媒体オプションの情報源効果を評価する基準は広告のキャンペーンの目的に密接に関係していなければならない」(651ページ)としている。コミュニケーション理論は,媒体オプションの情報源効果の決定に,ある洞察を与えた。「ビークルという情報源は,それがどの程度公明であり,専門的であり,威信があると評価されるかによって広告の効果に異なった影響を与えるであろう」(651ページ)と筆者は述べている。媒体クラス情報源効果は,媒体クラス間の相対比較に関するものである。媒体クラス情報源効果は,使用される表現アプローチに依存することを明らかにした調査がある。この調査は,露出測度の場合と同様に,情報源効果の場合にも,ある結果が依存している諸条件をいつも明確にしなければならないという一般結論があてはまることを示したわけである。

出典 D.A.アーカー,J.G.マイヤーズ著;野中郁次郎,池上久訳(1977)『アドバタイジング・マネジメント:広告意思決定理論』,東洋経済新報社,14-15章(573-658ページ).

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2005年05月11日

アドバタイジング・マネジメント:広告意思決定の理論(D.A.アーカー,J.G.マイヤーズ 1977)

12章 表現戦略とクリエイティブ・スタイル
13章 クリエイティブ予算設定とコピー調査
 

12章 表現戦略とクリエイティブ・スタイル
  この章では,特定の広告表現の開発に関わる意思決定に着目し,表現戦略とクリエイティビリティとの関係について述べられている。広告戦略では,さまざまな表現代替案の様式を作り出し,洗練するときに適切に設定された目的がいかに重要な役割を果たすかが明らかにされる。広告の目的・表現戦略の重点は,①銘柄知名度を上げ,試用購買を促進する。②既成の銘柄の場合には,競争品の間でその銘柄を際立たせることが出来るような商品の特徴を強調したり,顧客を引き止め,引き続き使用を続けさせることに大別される。
広告目的は,代替案の無限の集合を,適度に小さな集合へ縮小することが出来,同時に,その部分集合内から新しい代替案を示唆する際にも役に立つ。(475ページ)操作的には,広告のストーリーがどのように展開し,基本的なアイディアがどう組み込まれ,どう提示されるかを厳密に記述したコピー・プラットフォームの開発が第一ステップとなる。製品特徴をどのような特定の形で際立たせたらよいかを記述するのである。(475ページ)
 メッセージを提示するためにスポークスマンやパーソナリティを用いる場合は,情報源の①信頼性、②魅力,③力などを考慮にいれる。①はスポークスマンがどの程度専門家とみなされるか,信じられるか,不公平でないか,によって得られる。例えば,医者は医薬品を勧めるためにはうってつけである。②は,受け手が情報源をどの程度自分と同一視し愛好するかに関わる概念である。③は,送り手が正ないし負の制裁をどの程度与えうるかということである。
 メッセージの設計に当たっては,注意を情報源自体(エトス),情動とムード設定(パトス),推理と論理(ロゴス)のどれに集中してもよい。(527ページ)
 広告主は論議の一面だけを示すべきか,二面的に議論すべきなのか?一般に,教育程度の低い人や製品に対し好意を抱いている人には一方的なメッセージが,教育程度の高い人や,製品に対しまだ好意を抱いていない人には譲歩を含んだメッセージが効果的である。(485ページ)ユーモア訴求は,気晴らしになり,対抗議論を妨害できるので有効である。恐怖訴求は,生み出された恐怖が受け手に動機付けを与えるほど十分大きく,かつ回避や敵意をもたらす程強すぎない時に有効である。
 クリエイティブ・スタイルという概念は,あるクリエイティブ・グループ,個人,代理店によってとられるアプローチの本質的性質をさす。それはある程度までは,特定の製品ないし市場特性に作用される。(514ページ)
 クリエイティビリティの心臓部を成すものとしてアイデアの算出が挙げられるが(515ページ),一般的に数百の可能なアイデアが創出されてはじめていくつかの理にかなった代替案が作成される。広告表現の製作にはクリエイティブ・アイデアが印刷,電波など最終的な広告として開発されていく過程が含まれる。その際,よいレイアウトを作るために,写真,トレードマーク,ヘッドライン,コピー,など基礎的要素や広告サイズの考慮が必要になる。
 テレビコマーシャルの製作の第一段階は,一連の小スケッチに,アクションの記述と,語りや歌の言葉がつけられた「ストーリーボード」の開発である。それが承認されると,製作スタジオで最終的なコマーシャルが製作される。(528ページ)

13章 クリエイティブ予算設定とコピー調査
  この章では,クリエイティブ努力に関連した予算意思決定(533ページ)について主に述べられている。
 ひとつのクリエイティブ・キャンペーンの開発に要するコストは,人件費,資材費,間接費など,個々の広告の製造に関わる支出(532ページ)と,いくつかの代替案の選択にコピー・テストが使用されている場合には(533ページ)、その費用が含まれている。Grossモデルは,クリエイティブ予算の規模を決めるための,厳密で,分析的なアプローチを提供している。このモデルで重要な鍵となる仮説は,全てのクリエイティブ努力がどれも同程度の効果をもたらすことは不可能であるということ,さらに,ある特定のキャンペーン目的と,この意思決定に基づく危険性に応じて最もふさわしいコピー・テスト法を選択する事が可能であると示唆している。キャンペーン代替案の増加につれて,製作及びテスト.コストが増大する(534ページ)。しかし,同時に高い収益を生むキャンペーン発見の機会もまた増大する。Grossモデルは,広告キャンペーンの代替案がいくつ作られるべきかという問いに答えようとしているのである。
 広告キャンペーンの効果は,コピー・テストの質(その妥当性と信頼性)によっても決定される(545ページ)。重要な3つの要素として
①操作的な目的がなければならない。
②テストされる被験者は、訴求対象母集団を代表するものでなければならない。
②結果のバイアスをもたらすようなテスト状況に対する被験者の反応を最小化しなければならない。が挙げられるが,問題もあり,①の場合はその目的を代表されるような,測定可能でかつ有用な変数が存在しなければならない。しかし目的を開発することは決して簡単な課業ではない(547ページ-566ページより)②の場合は,理想的には,被験者はランダムに選ばれ,標本サイズも,統計的にも信頼される結果をもたらす大きさをもっていなければならない。しかし,実際にはランダム標本をとることが経済的に不可能なことが多い。また,回答者を集めにくいことからくるバイアスが,大きな問題となるテストもある。③の場合は,テスト環境や測定機器に対する回答者の反応である。回答者は,テストされる状況になると,普段とは異なる行動を取る傾向がある(547ページ)。
コピー・テストとは,基本的には何らかの形で,広告を回答者に露出し,その反応を測定する事に係わるものである。反応測度は,例えば注意,理解,態度変容あるいは購買といった種々の構成概念を代表する。その目的は,広告のどの部分が最も注意をひき,容易に記憶され,感情変化を引き起こすかを決めることである(555ページ)。コピー・テストは,実験室環境を用いて行われるもの,シュミレートされた自然な環境を使用するもの,全く自然な市場テストを使用するものに分けられる。「主観的な」状態を測定することのできる「客観的な」反応記録機器には,アイ・カメラ,ポリグラフ,瞳孔反射計,タキストスコープなどがある。
コピー・テスト方法や広告調査方法を概観すると,あらゆる状況に適応した普遍的な方法や測度変数はありえないという結論にいたる。しかし,目的を明確にしておかなければ,悪いコピー・テスト結果が出たとしても,それが戦略のまずさに由来するのか,あるいは実践のまずさによるものなのかを判断する事が出来ない(563ページ)。戦略的な問題点は,まず戦略的な調査を通じて答えられるべきであり,その後初めて,戦略実践のインパクトを評価するためにコピー・テストが役に立つのである。

出典 D.A.アーカー,J.G.マイヤーズ著;野中郁次郎,池上久訳(1977)『アドバタイジング・マネジメント:広告意思決定理論』,東洋経済新報社,12-13章(462-571ページ).

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東京都市圏小売システムの発展における主要傾向(田村 2002)

要約
 この論文では,経済発展に伴う都市化の過程での,都市圏小売システムの構造の変化について述べられている。ここでは東京都市圏を事例として取り上げ,中心地と非中心地と区分し,都市圏での人口増加と郊外化の現象は,小売システムにどのような影響を与えてきたのか,という問題について実証的に検討している。そこで都市圏小売システムの構造をミクロ的に規定している各都市の小売吸引力はどのような要因によって決まるか,またそれらの要因の重要度は経年的にどのように変化してきたかを検討することで,都市圏での小売システムの構造変化を明らかにしている。

 実証分析は次の通りである。東京都市圏における各都市の小売吸引力を調べるため,都市の小売吸引力の規定因のモデルを作り,「吸引力はまず施設密度と売場効率によって規定される。さらに,売場効率は店舗密度と平均店舗規模によって規定され,そして売場効率は人的サービス率と労働生産性によって規定される。」(7ページ)ことから,1974年から1999年の期間について各要因の影響度を中心地と非中心地間で比較分析をしている。
 分析の結果,まず中心地では,1990年まで施設密度の影響は増加傾向であったが,その後は一定になる。このことは施設密度の増加による吸引力の増加は限界となったことを意味する。また施設密度への店舗密度と平均店舗規模の影響力について,店舗密度の影響の方が大きくなっている。このことは「店舗密度の増加は,ロードサイドや住宅地への店舗の分散立地や店舗の専門化によって生み出される。」(10ページ)ことから,施設密度の増加は中心地内での小売分散化や店舗専門化によって行われていることを示している。
 次に非中心地では,施設密度が吸引力に与える影響は1991年までは減少し,それから1999年にかけては増加に転じている。このことは1991年以降に非中心地に商業施設の開発を行ったことで小売吸引力が増加したことを意味し,そして非中心地には小売業の開発の可能性がまだ残されていることを示している。また施設密度への店舗密度と平均店舗規模の影響力について,非中心地では平均店舗規模の影響の方が大きくなっている。このことは非中心部では小売集中化と店舗の大型化が進行していることを意味している。
しかし,非中心地の吸引力の規定因は,経年的に大きく変化することから,「東京都市圏の非中心地が依然として激しい変化の過程にある。」(13ページ)としている。
 最後に,売場効率への労働生産性と人員装備率の影響について,中心地,非中心地においても1974年時点とほとんど変化がないことから,「流通生産性に大きく影響するような流通革新が過去25年間においてほとんど行われなかった。」(14ぺージ)としている。
 
 結論は次の通りである。都市圏での人口郊外化,郊外商業の発展などの都市化の過程で,都市圏の小売システムの構造は変化していく。そして小売システムを規定している小売吸引力の要因は,中心地と非中心地とでは異なる。一連の都市化の過程で,中心地では店舗の分散立地や専門化による,店舗密度が吸引力に大きく影響し,非中心地では小売集中化や店舗の大型化による,平均店舗規模が大きく影響する。また,非中心地での吸引力に与える影響は,中心地でのそれよりも大きいことから,郊外化という環境変化に対して小売システムの適応がまだ終わっていないことを示している。

出典:田村 正紀(2002),「東京都市圏小売システムの発展における主要傾向」『流通科学研究所モノグラフ』No.012

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2005年05月10日

アドバタイジング・マネジメント:広告意思決定の理論(D.A.アーカー,J.G.マイヤーズ 1977)

目次
第9章 知覚過程
第10章 学習と態度変容
第11章 伝播とパーソナル・インフルエンス

 第9章では,コミュニケーションにおける知覚過程について述べられている。「第1に,個人は広告に露出し,それに注意を向けなければならない。第2に,彼は広告主が意図した通りにそれを解釈しなければならない」(357ページ)とし,広告が目的を果たすには,受け手に知覚されなければならないとしている。
知覚過程は,注意と解釈の2つの段階で構成されるとしている。この過程に影響を与える変数には,「過程に対するインプット,すなわち刺激」(320ページ)と「『オーディエンス条件』と名付けられ,個人差を反映する変数」(320ページ)の2つの主要なタイプがあるとしている。前者は強さ,大きさ,メッセージ,新しさ,位置,前後関係であり,後者が,情報の必要性,態度,価値,興味,自信,社会的関係,認知様式などであるとしている。
 露出された広告のすべてが注意のフィルターを通過できるわけではない。そこで,人が情報を得る動機を明確にしておくことは,このフィルターの働きを理解するのに有益であるという考えから,過去の理論や実証研究をもとに考察を行っている。そして,その動機は,1.「意思決定にとって実用的価値がある情報を獲得する」(357ページ)ため,2.「自己の態度や購買経験を支持する情報を得る,そして支持しない情報をさけるため」(357ページ)で選択露出と呼ばれる,3.「多様性を求め,退屈さと戦うため」(357ページ)であるとしている。
 解釈過程は,ゲシュタルト心理学の概念を用いることで理解が容易になるとしている。「第1に刺激は全体として知覚される。第2に個人は秩序のある認知形態に対する認知動因を持つ」(358ページ)とし,認知動因の例として閉鎖,同化‐対比が紹介されている。
 最後に,解釈を測定する方法として,直接法,投影法,自由面接法が事前テストとして紹介されている。

 第10章では,「知覚過程を通過した情報,すなわち認知が態度と行動に与える影響について」(363ページ)を考察している。「態度がどのように発達し変化するか」(363ページ)をいくつかの理論を用いて考察している。まず,学習理論が説明されている。ここでは,「消費者は基本的に製品の使用に関連した『報酬』と『罰』に反応する」(417ページ)とされている。次に,バランス理論,適合性理論の一貫性理論が説明されている。これらの理論は,「広告コミュニケーションが単に銘柄選択行動を誘発するのみならず,情報探索に結びつく行動を誘発するという意味で,動機づけを行う理由に洞察を与える」(418ページ)とし,「説得的メッセージが直接その銘柄に対する認知構造を惹起するのではなく,媒介的な段階が生じるということである」(418ページ)としている。一貫性理論の変形である不協和理論は,「消費者は種種の行動と認知的変容につながるような自己の行動に対する合理化を求める」(418ページ)とするとともに,「購買後にも広告を続けることの有効性を指摘している」(419ページ)
 競争相手の攻撃に対し態度を変化させないように抵抗できるようにするには,「競争相手の主張や,自己の製品のマイナスの特性を暗示的あるいは明示的に述べた後,これらを論破する」(419ページ)という論破の概念が有効であるとしている。
 マイナスの態度を変容させるには,対象となる受け手が「広告主のいかなる主張にも反論する傾向を有していると思われる」(419ページ)とし,「反論過程に対して干渉する錯乱」(419ページ)が唯一の方法であるとしている。

 第11章では,伝播とパーソナル・インフルエンスについて述べられている。「伝播とは,あるものが人々の間に広まってゆく過程である」(426ページ)とされ,いかなる種類の情報も「ある形態のコミュニケーション・チャネルを通じて伝播してゆく」(426ページ)としている。垂直的チャネルは,「コミュニケーション単位間の関心,社会的地位,人口統計的あるいは経済的特性に意味のある差がみられる場合に存在」(426ページ)し,水平的チャネルは,「コミュニケーションが関心,社会的地位,人口統計的,経済的特性の等質な集団成員間に流れる場合に存在する」(426ページ)とされている。水平的チャネルの重要な要素は「対面的相互作用」(431ページ)であるとしている。パーソナル・インフルエンスは,「集団成員が果たす様々な機能,役割による自然の産物として,対面的関係を基盤として集団内部に発生する」(431ページ)としている。
 情報の2段階流れモデルは,「オピニオン・リーダーと称される個人が最初に情報を受信する傾向をもち」(461ページ),彼が属する集団の他者に情報を広め,影響を与えることを説明している。ここでは,オピニオン・リーダーは特定的な現象であり,各種の分野ごとにリーダーは異なり,マス・メディアとの接触では,マス・メディア全般にではなく,関心のあるマス・メディアには多く接触するという考えを支持しているようである。そして,「集団によっては,集団の態度,意見,行動等に影響を及ぼす情報の『ゲイトキーパー』と『オピニオン・リーダー』は,同一の個人であるとは限らないとするのが妥当であろう」(440ページ)としている。
 しかし,情報の2段階流れモデルは,「人々が革新を採用するか,拒絶するかという複雑な過程は説明していない」(442ページ)。そこで,採用過程モデルが紹介されている。これを理解するうえで重要な概念として革新者概念がある。革新者とは,「他者より早期に革新を採用する傾向をもつ人」(442ページ)である。「採用過程の初期段階には,マス・コミュニケーションは多大な影響を及ぼし,後期段階にはパーソナル・インフルエンスがいっそう大きな影響力をもつ」(462ページ)としている。また,マーケティング・ミックスの諸変数も採用率に影響するとしている。
 最後に「採用率の予測と広告情報の伝播率を確認する目的」(462ページ)の定式化された数学モデルとしてBassモデル,伝播率研究にパーソナル・インフルエンスの効果が導入されたモデルとしてDIFFUSEが紹介されている。

出典:D.A.アーカー,J.G.マイヤーズ著;野中郁次郎,池上久訳(1977)『アドバタイジング・マネジメント:広告意思決定の理論』東洋経済新報社,9-11章(318-461).

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中国における小売業態の発展と政府の役割―スーパーマケットを中心に―(葉 2003)

要約
 この論文では,中国におけるスーパーマーケットの発展に注目し,小売業の革新,および革新の展開に公的権力が影響を与えているのかについて分析がなされている。
 まず,小売業の革新に関する既存の理論仮説が検討されている。その中で,文化的諸条件,特に公的権力の介入が,小売発展の重要な要因であるということに焦点を当てている。
それを検証するために,中国のスーパーマーケットの発展に注目し,分析が行われている。セルフサービス方式,およびチェーン方式の展開を基準に,中国のスーパーマーケットの発展過程について明かにされている。そして,発展に対する公的権力の介入について,中国小売企業の所有制,および政府機関による政策について分析がなされている。そして,公的権力の介入が革新の一つの規定因であると結論づけている。

 理論的検討
 まず,小売業態の発展の既存研究を整理・検討し,この論文での分析のフレームワークを明示している。
 まず,cundiffの理論仮説が取り上げられている。そこでは,「小売業の発展は基本的に経済発展のレベルに規定され,次いでその他の環境諸条件が影響を及ぼす」(112ページ)としている。さらに,その革新過程は普遍的な性格を持っているとしている。つまり,どこの国においても,経済発展のレベルが同程度であれば,類似した小売の発展が起こると主張している。
 しかし,経済発展と小売業の革新の間には複雑で多くの介在変数が存在している。すなわち,経済発展以外の多くの諸条件が影響を与えていることは間違いない。これについて,bartelsは,一国の流通システムは,その国の文化的諸条件によって規定されるとしている。その国の持つ文化的諸条件によって革新は規定されるので,各国の小売業の革新は独自の展開をしていくと主張している。
 こうした研究がなされる中,田島は「公権力の介入が大きな影響を持った規定要因である」(114ページ)と主張している。田島によると,文化的諸条件の中でも公権力の流通介入は,他の環境要因に比べて,より直接的に小売業の発展に重要な影響を与えているとしている。

実証分析
 「セルフサービス方式を主要武器とする革新的な小売業態のスーパーマーケットが中国に登場したのは,1980年代前半から1990年代後半にかけてのことであった」(118ページ)とされている。しかし,こうした多くの店舗は失敗し,閉店,業態転換を強いられた。それらの多くは,セルフサービス方式を導入した独立店舗と分類されるもので,本格的なスーパーマーケットというものは存在しなかった。本格的なスーパーマーケットの条件であるチェーン・ストアをほとんど存在せず,大半が独立店舗であった。
 その後,スーパーマーケットは,1990年代後半に中国に定着し,小売業全体の急成長とともに発展することになる。「規模の経済性が重視され,チェーン・ストアの導入と積極的な展開がみられるようになった。スーパーマーケットは,多店舗展開による規模の利益を追求してきた。1990年代に入ってチェーン・ストア化を目指し,そして1990年代後半,スーパーマーケットは一挙に中国の都市部で開花」(120ページ)していくことになった。
 しかし,こうした小売業の革新は意欲的な個別企業によって先導されたわけではない。革新的な店舗のほとんどは,新しい小売業態を強力に発展させる計画の基,国有小売企業から業態転換して発展したものである。
 中国の政府介入は,行政,経済,法律の分野にわたる。行政とは上流統制である。経済では,チェーン方式の展開のために税制を調整したり,企業の資本面での優遇対策などが挙げられる。法律においては,強制的な国家の意志で政府の望ましい発展を促す手段である。

結論
 政府行動,政府介入は,明らかに中国の小売構造,小売行動に強く作用し,近年の中国における小売革新の進展,および小売業態の発展という成果をもたらしている。このことから,公的権力の介入は小売業革新における大きな役割を果たしていることが明らかにされた。

論点
 この研究では,中国という特殊な市場に焦点を与えている。もっと一般化する研究が必要である。公的権力の影響についてもただ政策の実施期間と小売の革新との時期が一緒であるということを根拠に,規定要因としているが直接的な関係についてもっと検討する必要があると考える。

出典:葉翀 「中国における小売業態の発展と政府の役割―スーパーマーケットを中心にして―」『流通科学大学論集―流通・経営編―』第15巻第3号,2003年,111-129ページ。
 

 

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2005年05月09日

海外進出を促進する小売企業の主体的要因 ―中国小売市場における外資系企業を事例にして―(方 2004)

要約
 これまでの小売企業の海外進出動機についての研究は,Alexanderが「プッシュ要因」及び「プル要因」にまとめているように,主に環境決定論的に行われてきた。また,進出方法についての研究は,主に製造企業を分析対象とする経営学に依存している状態にある。しかし,現実には,同じ環境下にある小売企業が,海外進出に対して異なった動機や方法を持っている。本稿はそうした既存研究の限界に焦点を当てた試論である。具体的には中国に進出している外資小売企業の事例を足がかりにして,既存の要因研究においてはあまり議論されなかった企業自身の主体的要因こそが,上記の企業間差異を生み出す重要な要因ではないかと考えて仮設を形成し,最終的に,小売企業の海外進出研究における自国要因,進出先国要因,企業自身の主体的要因という3つのキーコンセプト及びそれらの間の関係性を特定化する。(141ページ)

 
 小売業の海外進出についての研究は,「主に海外進出動機及び海外進出方法の2つの側面から行われてきた」(142ページ)とし,その2つの主な研究をレビューしている。進出動機に関するいずれの研究も「主に企業を取り巻く外部環境を論じてきた」(144ページ)と述べている。しかし,同じ環境下にある企業がそれぞれ異なる海外進出戦略をとっていることから「既存研究が挙げた諸要因によっては企業の進出動機を説明しきれない部分が残されている」(144ページ)と指摘している。つまり,Alexanderが示したプッシュ要因,プル要因などの外部環境以外の要因が存在するとし,事例を用いて検討することにしている。また,海外進出方法に関する研究については,製造業を対象としたものが中心であるとし,それらの研究が小売業に適応できるかどうかを検討することにしている。
 
 
 以上のことを検討するにあたって,まず外資小売業を取り巻く中国市場環境を示し,次にフランス小売業「オーシャン」と台湾小売業「大潤發」の事例を紹介している。
 フランス第2位の小売企業であるオーシャン,台湾第2位の小売企業である大潤發は,それぞれ異なる動機を持って中国市場に進出した。しかし,オーシャンが中国市場において大潤發を吸収,さらには両社50%ずつ出資し香港で「香港太陽株式会社」を立ち上げるに至った。この事例を小売業海外進出の動機に関する既存研究の不足点を補う手がかりと捉え,その経緯と戦略の意義を示している。

 既存研究のレビューから,小売業海外進出の動機には外部環境以外の要因が存在するとした。さらに,この論文ではその要因を海外へ進出する企業自身に見出している。よって,「小売企業の海外進出動機及び海外進出方法に影響する要因を,自国環境要因,進出先環境要因,そして,企業自身の主体的要因の3つの視点から論じ,新たな仮説・モデルの提唱」(153ページ)を行っている。

仮説は以下の4つである。
①小売企業の海外進出動機を規定する要因として,自国環境要因,進出先環境要因,及び企業自身の主体的要因というの3つの要因が挙げられる。
②小売企業の海外進出方法を規定する要因として,及び企業自身の主体的要因というの3つの要因が挙げられる。
③小売企業の海外進出動機や進出方法を規定する要因のうち,自国環境要因及び進出先環境要因は間接的要因であり,企業自身の主体的要因は直接的要因である。
④小売企業の海外進出方法として,吸収・合併は重要な市場拡大戦略である。

 オーシャン,大潤發にとって中国は進出先国として同じ環境であり,また,各々の自国環境についても「市場の成熟化,フォーマットの飽和,競争の激化などの共通点」(153ページ)を指摘している。両国の大きな相違点として「大潤發の母国である台湾は進出先である中国とほぼ同じ民族,言語,習慣,文化を持ち,それらの点で相互理解が暗黙裡に行いやすい点」(153ページ)を挙げている。さらに,オーシャンと大潤發における歴史・資金力・経営ノウハウ・国際経験といったような両社自身の主体的要因の違いを指摘している。また,中国市場への進出で両社は異なった市場戦略を採用していることも示している。
 このような検討から,小売業の海外進出では企業自身の主体的要因が重要であり,「企業の規模,経営状況,海外経験,リーダーシップなどの差異によって,海外進出動機,及び進出方法が違ってくる」(155ページ)と述べている。
 
 この3つの要因が異なる影響を持つとして仮説③が挙げられている。同じフランス小売企業であるカルフールとオーシャンは,中国進出において外部環境要因はまったく同じであるが,異なる企業自身の主体的要因を持つため,進出動機及び進出方法が異なっている。このことから,企業は外部要因の影響を受けつつ,それを自社の経営条件と結合することによって,海外市場への進出動機・進出方法が規定されるとしている。よって,「自国環境要因・進出先環境要因は間接的要因であり,企業自身の主体的要因は直接的要因である。」と述べている。

 そして,オーシャンの大潤發吸収の事例から「経営者,従業員,用地及びシェアはすでに確保され,特に政府の政策で早い時期にしか得られない用地を入手することが可能というメリット」を持つ吸収・合併戦略が、小売企業の海外進出における市場参入・拡大の有効な手立てであるとしている。


結論 
 この論文では,最終的に自国環境要因と進出先国環境要因という企業を取り巻く外部環境要因の他に,企業自身の主体的要因という3つ目の要因を提示している。さらにこの3つの要因間の関係を検討し,小売国際化の新しい概念モデルを提案している。最後は,「概念モデルをさらに精緻化させ,観測変数を定めた上で,実証分析が行われることが望まれる」と結ばれている。


論点
 この論文の評価すべき点は,3つ目の要因として企業自身の主体的要因を提示したというところである。しかし仮説③のような直接要因と間接要因にまで言及するには,議論が不足しているように思う。企業の余剰資産を活用するために海外進出という道を選択し,その後参入先選択のために進出先国環境を比較・検討するというケースも十分に考えられるからである。課題ともされているが,この点においては実証分析による検討が必要と思われる。


出典:方斌 「海外進出を促進する小売企業の主体的要因 ―中国小売市場における外資系企業を事例にして―」『三田商学研究』第47巻第3号,2004年8月,141-160ページ。

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アドバタイジング・マネジメント:広告意思決定の理論 (D.A.ア-カ-,J.G.マイヤ-ズ 1977)

目次
第6章 態度と市場構造
第7章 行為を促進すること:行動的目的
第8章 コミュニケーション・システム

第6章では態度について述べられている。態度は「認知的(知名,理解,知識),情緒的(評価,愛好),および動能的(行為傾向)」(225ページ)の3つの構成要素からなっており,態度の測定には「直接測定」(225ページ)「派生測定」(225ページ)と呼ばれる態度モデルがある。「直接測定は,態度の対象(単数および複数)についての明示的な属性や次元基準を回答者に与えずに,回答者の行動について質問し,あるいは観察することを含んでいる。派生測定は,態度の対象(単数および複数)についての被調査者の反応パターンを調べることによって行なわれる態度状態の評価に基づいており,通常は一組の属性あるいは次元の基準を含んでいる。したがって,派生測定はいろいろなタイプの態度モデルと見ることができ,与えられた市場ではどのタイプのアプローチやモデルの使用が最も適切であるかの評価ができる」(277ページ)そして,総合的態度に強い影響を及ぼす属性にレバリッチがある。高いレバリッチをもつ属性は,消費者にとって重要であり,ある銘柄と他の銘柄を区別する時などに使われ,購買意向に関しての決定要素となる。

第7章では「行動に影響をおよぼす際の広告の役割と,特定の市場状況下で,行動がどのように目的設定の有益な基礎になりうるか」(284ページ)について述べられており,消費者は広告によって即時行動を促進されるため,広告の役割は長期的な売上よりも短期的な即時売上に関連している。そのため,過去の広告は購買意思決定に無関係であり,現在の広告も将来の売上には無関係である。そして,「広告目的は新規試用者を獲得する広告の能力のみならず,受容の意思決定に影響を与える能力も反映するように拡張することが必要である」(296ページ)

第8章ではマス・コミュニケーションにおける広告の役割について述べられている。消費者は6つの段階を通して情報を処理しており,この情報処理段階にコミュニケーション・システムの5つの構成要素を組み合わせたものが説明マトリックスと呼ばれる。この説明マトリックスは広告のデザインや許可,または広告キャンペーンの開発に有効であり,キャンペーンの長所と短所を把握することができる。また,キャンペーン展開後に「得られる潜在的効果の評価のためにも使うことができる」(313ページ)そして,消費者や市場過程をさらに深く理解することによって,広告主は広告キャンペーンの目的達成を促進することができる。
出典:D.A.ア-カ-,J.G.マイヤ-ズ著;野中郁次郎,池上久訳(1977)『アドバタイジング・マネジメント : 広告意思決定の理論』 東洋経済新報社,6-8章(224-317).

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2005年05月07日

小売業におけるIT活用の現状と本質―POSデータ活用の日米比較を中心に―(佐藤 2004)

要約
 この論文では,ウォルマートとセブンイレブンの比較から日米のIT活用の差異について明らかにしている。ここでは,「ウォルマートがITに求めるものは,現場における意思決定の代替えである。ディシジョンをコンピュータに委ね,作業の標準化,マニュアル化を通じてLabor Costの削減を図り,戦略的にLow Priceへ結びつけることである。セブンイレブンの場合は,IT活用に求めるのはディシジョンサポートまでで,意思決定はあくまでも人間が行う形である」(1ページ)としている。また,この2社の比較をもとに,日米のPOSデータの活用方法の違いについて社会環境の違いから検討している。最後に「IT活用にはビジネスモデルとの整合性が最も重要である」(1ページ)とし,IT活用に優れている企業は,「トップが自分のビジネスの要を熟知し,Inside Outの発想でITを活用している」(1ページ)と結論付けている。

ケーススタディーの結果,次のことが述べられている。ウォルマートのPOSデータ活用については,メーカーに対してPOSデータをオープンにする変わりに,自社製品の在庫コントロールと,ディストリビューションセンターまでの配送を委ねるというCRP(Continuous Replenish Program)から,「在庫コントロールだけでなく,ウォルマートの店舗の活性化のため,カテゴリー単位の改善策や販促策を提案することも義務づけた」(6ページ)リテールリンクという手法へと進化したことが述べられている。しかしながら,いずれにせよ「ウォルマートにおけるPOSデータ活用の目的は,あくまでもコストダウンである」(6ページ)としている。一方,セブンイレブンジャパンのPOSデータ活用については,変化に対応できるのは人間の頭脳だけであるという考えの下,発注の意思決定は現場の従業員に委ねている。また,セブンイレブンでは品切れは悪である,という方針に基づき,機会ロスを削減する目的でもPOSデータの活用を行なっている。そして,2社のPOSデータ活用の差異について日米における社会環境の面から検討を行なっている。「米国では,社会階層の下層の人口割合が多く」(8ページ),民族性による価値観の相違もあるため,小売業に求められるのはディスカウトであり、従って,ウォルマートはPOSデータの活用により発注作業の無人化を図り,人件費の削減を目的にしたと述べられている。これに対し,日本の場合は中間層が多く,また「世界で一番要求水準が高くて複雑な消費者が存在する」(8ページ)ため,「セブンイレブンは消費者の変化スピードへの対応と品切れの防止を目的として,人間が意思決定するための有用な資料として,POSデータを利用している」(8ページ),と検証されている。また,日米で従業員に求める役割が異なるということも要因であるとしている。


論点は次の通りである。この論文では,POSデータの活用方法における差異について社会環境の面から検討を行っているが,総合小売業のウォルマートとコンビニエンスストアのセブンイレブンという異業態間での比較には限界があるのではないだろうか。


結論は次の通りである。IT導入時には,その目的と効果を明確にする必要があり,目的が不明確なまま導入すると,現場の混乱を引き起こすということにもなりかねない。IT活用に最も必要なのはビジネスモデルとの整合性であり,IT活用に優れている企業に共通するのは,自らのビジネスの要を熟知し,「トップのリーダーシップにより,Inside Outの方向でITが構築されていることである」(13ページ)と結論付けている。


出典:佐藤 俊彦(2004),「小売業におけるIT活用の現状と本質―POSデータ活用の日米比較を中心に―」『流通科学研究所モノグラフ』No.050。

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アドバタイジング・マネジメント:広告意思決定の理論( D.A.ア-カ-,J.G.マイヤ-ズ 1977)

目次
第4章 広告目的の設定
第5章 イメージと競争的位置

第4章では広告における目的設定の在り方を記している。広告目的の機能は「1つはコミュニケーション能力」(105ページ),「第2は意思決定の基準を提供すること」(106ページ)である。広告活動はマーケティング活動の1部でしかないが,目的設定によって結果が変わってくる。しかし,その結果は即時性がなく,すぐには表面には出てこない。また,この章では「DAGMAR」(広告結果測定のための広告目標の定義)(123ページ)をコミュニケーション過程として,例を挙げて記している。「DAGMARは広告目標を,所与の期間内に限定されたオーディエンスの間で達成さるべき特定のコミュニケーション課業として定義する」(166ページ)DAGMARアプローチは経営に際して多大に影響するが,広告マネジャーと研究者の間に生まれた批判の声もある。そのDAGMARに対しての6つの挑戦(批判)が「売上目標」(139ページ),「実用性」(140ページ),「測定問題」(140ページ),「システムにおけるノイズ」(140ページ),「偉大なアイデアの抑制」(141ページ),「コミュニケーション結果の階層モデル」(142ページ)である。これを受け,本章ではDAGMAR MODⅠⅠ(DAGMARに改良を加えたモノ)を提言しており,GMの例を挙げて説明している。また,DAGMARアプローチの実行に際して,媒介変数の決定が重要であるということも記している。

 第5章ではイメージと態度(次章で詳しく説明される)の媒体変数を前章で記したDAGMARより拡張して説明している。広告により消費者にイメージを与える時には自社の特色を知り直す必要があり,また,コスト面で広告費は資金配分における割合が少ないのでイメージを与えた後の正確な測定が必要であると記している。さらに広告はイメージを維持する重要な力であると同時に消費者のイメージを大きく違う方向に向ける性質もある。ここで他社と差別化をはかるためには,「事前に,代替銘柄間で意味のある区別ができるような属性や特性を見つけることが,基本的な課題となる」(175ページ)といっており,マールボロー物語の失敗と成功を例に挙げ説明している。広告戦略において大切なことは短期的な利益を追求しないということである。
 広告などのイメージに対して消費者が反応を示さない場合には銘柄への態度の真の決定要因が問題になってくる。このことについても本章で記されている。
 また,本章ではさまざまな例を挙げて空間配置分析を説明している。空間配置分析とは,理解という媒介変数をより拡張しているものと見なされ,「対象が種々のセグメントによってどこに位置づけられるか,そしてこれらの位置のどのような変化が望ましいのかについて,計量的分析の枠組みを提供し,一つのイメージは多くの属性や次元に係わっているという認識のうえにたって,いくつかの次元を同時にとり扱うための種々の技法を援用する」(191ページ)と記されている。

出典:D.A.ア-カ-,J.G.マイヤ-ズ著;野中郁次郎,池上久訳(1977)『アドバタイジング・マネジメント : 広告意思決定の理論』 東洋経済新報社,4-5章(105-220).

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2005年05月06日

カルフールの中国進出 -先発者利益の追求-(田村 2003)

要約
この論文は,中国の外資系小売業の先発者であるカルフールの中国進出における戦略を明らかにしている。カルフールは主要都市だけでなく,地方中核都市に最初の外資系ハイパーマーケットとして,売上高成長中のスーパーマーケット業界でシェアを確保し,先発者利益をねらう。中国消費市場の急速な成長で,大型店同士が近接立地して,市場を奪い合っていないので,カルフールは独占段階にあるといえる。この場合,カルフールは消費者の店舗の判断基準を自分に有利なように学習させることができる。そして,後発店舗は消費者に店舗属性を基準に評価されるようになる。そして,カルフールが中国消費者の顧客価値をどのように学習しているのか実証分析している。

理論的検討 
発展途上国で成功することが多いと言われているカルフールの海外進出の中でも「中国における外資系小売業最大の成功例」(1ページ)といわれているほどの中国進出の成功条件は何かを明らかにする。そのためにも,消費者が来店する理由と中国消費者の顧客満足の水準を以下で実証的に明らかにする。

実証分析
カルフール曲陽店と南方店と共江店の3店舗で消費者が来店する理由としてカルフールの新しい店舗属性を列挙し,複数回答方式で選択してもらったところ,「店舗面積が大きい」「商品が新鮮」「店舗が清潔」「とくに食品が清潔」(p12)というようなハイパーマーケット特有の項目があげられている。しかし,外資系の流通業である項目の回答者比率は低くなっているので,カルフールは外資系というよりもハイパーマーケットという点で中国の消費者に受け入れられていることがわかる。
 また,顧客満足の水準を調査するために,各店舗の各売り場の評点スコアの有意差検定をマンホワイトニー検定によって行った。食品売り場では,曲陽店と他店舗との間にはほとんどの点で有意差が発生するが,南方店と共江店は多くの店舗属性で有意差がなくなっている。このことから,新しい店舗では,食品売り場は標準化されていることがわかる。そして,小売ミックス要素が中核要素になっているかについて段階的回帰分析を行った。売り場満足度を従属変数とし,顧客価値を独立変数候補として,回数係数が5%水準以下で優位になった属性を店舗別に示した。

S = b1A1 + b2A2 +…+ bnAn
Sは満足度,A1~Anは属性,b1~bnはデータから推定される標準回帰係数とする。

食品売り場では,接客サービスと安全性配慮はどの店舗の属性にもなっている。それは,中国のどの地域の消費者共通顧客価値にも対応しようとしてからである。スコアからみると,衣料品売り場は低価格のベーシック商品を売り場に展開していることがわかる。生活雑貨売り場でも,すべての商圏顧客に共通する顧客価値の属性が評価されている。

この論文では,以下のような結論が述べられている。流通業の外資進出が難しい中国に進出し成功した戦略は,中央政府と交渉し,運営会社を合弁会社に転換したみかえりに,比較的短期間の間に,購買・物流センターを設立できたことによって急速に店舗展開できたことである。そして,実証分析で新しい店舗ほど評価スコアが高くなっていることから,カルフールは中国市場の顧客志向を学習しているといえる。このように顧客満足を向上させて先発者利益を追求している。このまま先発者利益を維持できればいいが、中国消費市場が急成長している今、マイカーの普及や人口の郊外化が進み、カルフールの立地独占が崩壊した時、カルフールの競争力がどれぐらいあるかによって、先発者利益が維持できるかが決まるので、店舗競争力についてがこれからの課題であると述べられている。

出展 田村 正紀(2003),「カルフールの中国進出-先発者利益の追求-」『流通科学研究所モノグラフ』No.35

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アドバタイジング・マネジメント:広告意思決定の理論 (D.A.ア-カ-,J.G.マイヤ-ズ 1977)

目次
第1章広告管理の領域
第2章広告意思決定
第3章予算意思決定

第1章では広告管理の領域について述べられている。具体的には広告の制度を述べ,広告文献の展望を行い,広告意思決定者が避けては通れないモデルとモデル・ビルディングの有効性を説いている。
 広告の制度として,良く知られている三つの形態があり,広告主,広告代理店,媒体がある。広告主は多種多様ではあるが,産業財広告と消費財広告,どちらに出しているかにより分類することができ,産業財広告は非消費者を含む業界紙に強く依存しており,ダイレクト・メールや見本市などによく見られる。消費財広告は消費者に対して広告するのはもちろんであるが多様な形があり,P&Gなどの包装消費財製品,GMにみられる耐久消費財,シアーズロバックによる小売業といった区別がある。広告代理店は媒体配分意思決定を行うことが多く,その報酬として広告費の15%を受け取りこれは昔から変わっていない。今後は長く変わっていない報酬の検討の必要がある。また媒体の発展は広告に影響を与えてきたが1922年のラジオ,1948年のテレビが革命的な変化をもたらし,広告の飛躍的な成長の転機をなった。
 広告の文献の展望として今まで膨大な文献が存在するが多くは学問的なアプローチがなされ,経済的な視角をもっていたり,記述的な入門的参考書がそれである。他にも社会学者,哲学家,政治家の著作などもあるが,本書のアプローチとしては「広告キャンペーンを生み出す意思決定に焦点をあてた経営管理的視角に動機づけられている」(28ページ)としており広告意思決定者が利用できる多くのモデルが利用されているが,これらは「暗示的,言語的,論理フロー,数学的,意思決定的,記述的,あるいはこれらのタイプの組み合わせ」(28ページ)であり、モデルは情報処理者,語彙の基盤,調査を導くものとして役立つとしている。
 
 第2章では広告意思決定について述べられている。広告意思決定に影響を与える要因は内部要因と外部要因があるが,内部要因は主にマネージャーが関係しなければならないもので広告の目的と予算の選択,広告表現の意思決定,選択すべき媒体の決定がある。これらの要因は他のマーケティング計画と別に行うことはできず,「広告はマーケティングの一部分でしかなく,広告努力に関係した種種の意思決定は全体のマーケティング実施計画に対して調整され,統合されなければならない」(63ページ)としている。広告意思決定に影響を与える外部要因としては,一つ目に社会的・法的制約があげられ,虚偽広告の規制の問題や社会的,倫理的判断が求められる。二つ目には競争的環境で,広告は多くものと競争しなければならない。それは同業者かもしれないし,他業種の者かもしれない。競争者に気を使うばかりで消費者をないがしろにしがちである。三つ目の要因は協力機関で,広告代理店,調査会社といったものは広告意思決定に参画する。そして四つ目の最も重要な決定要因は広告意思決定者が影響をあたえようとしている人々である。訴求対象層の動機づけと行動を理解することが広告意思決定において最も重要な要素であるとしている
 広告訴求層に働きかけるにあたって市場の細分化は欠かせない。広告訴求層を明確にしてそのターゲットにむけて広告活動することがより効果的だからである。細分化には二つの異なるタイプの戦略があり,二つ以上のグループが識別され,それぞれにマーケティング実施計画を開発する「非差別化」と一つのグループに向けてマーケティング実施計画を開発する「集計化」がある。それらの戦略においては細分化変数による分割が可能で細分化変数の選択にあたって「第一に変数は有望な広告実施計画のアイデアを刺激できなければならない,第二に細分化変数は価値あるセグメントを識別すべきである,第三に結果として出てきたセグメントは適度のコストで接近可能でなければならない」(46ページ)としている。広告意思決定者は不確実性になやまされるが,これらはマス・コミュニケーションの性質である一方的発信に起因している。そのために広告主は消費者がどのように広告メッセージを知覚する傾向があるか,消費者はいかに製品,サービス,銘柄について学習し,これらの態度にはどのような変化がおきるか,消費者に広告がどのように伝播されその過程の人的影響をも知っておかなければならない。

 第3章では予算意思決定について述べられており,「広告予算意思決定の理論的意思決定は限界分析に基づいており,簡単に説明できる。企業の支出の生み出す限界収入が単位あたりの支出増部分を上回っている限り広告予算を増加し続けるべきである」(67ページ)としている。ただ,広告支出と売り上げ間の関数決定は難しく,その理由として広告費が売り上げに影響するというのは間違いであり,また広告費と売り上げの関係の形とパラメーターの決定は容易ではないこと,最後にその関係は時間的に変化することである。限界分析のこのような問題の解決策として3つあり,1つは「意思決定の指針として経験法則に頼ることである。このようなルールはしばしば確固とした経済原則に基づいていないように思えるが,結果的に最適に近い支出をもたらす例が多い」(96ページ),二つ目は困難ではあるが,広告費と売り上げに関係づける反応関数を無理にでも決定することである。そのためには二つのアプローチがとられ,1つは実験でフィールド実験はいつくかの問題はあるが限界分析モデルが依拠する反応関数を明らかにするための最良のデータになりうる。2つめは既に行われた回帰分析のデータを利用することで今まで行われたモデルを比較することにより反応関数を決定するのを推定する一つの要素になりうる。3つめの解決策は限界分析を使うがインプットとアウトプットをより明確にするために従属変数及び独立変数の幅を広げることである。インプットには広告実施計画,訴求対象者,使用媒体などのあらゆる環境状態などが挙げられ,アウトプットは消費者が学習したこと,消費者の態度へのインパクト,購買意思決定へのインパクトなどが挙げられる。

出典:D.A.ア-カ-,J.G.マイヤ-ズ著;野中郁次郎,池上久訳(1977)『アドバタイジング・マネジメント : 広告意思決定の理論』 東洋経済新報社,1-3章(1-101).

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2005年05月05日

近代流通業における企業成長と規模構造(田村 2002)

要約
この論文は日本の経済規模に対して国際的にみても,日本の近代流通企業が未発達である原因を検討している。主な原因は従来の大型店規制だけではなく,近代流通企業では規模の優位性が規模の比較的早い段階で消滅してしまうことによると述べられている。それは企業が規模の優位性を発揮できる限界点である最小最適規模が比較的小さい規模のところに位置するJ字型の長期総費用曲線により表されている。この長期総費用曲線は近代流通企業の規模分布とそれを生み出す確率過程の分析により明らかにされており,近代流通企業の規模分布はパレート分布であると述べられている。パレート分布を定常解として生み出す確率過程は比較効果法則と新規企業参入を仮定としている。この費用曲線での最小最適規模の位置は日本の小売業上位200社にランクされている臨界的な規模を大きく下回っている。このことが上位200社の構成企業が入れ替わることと,近代流通企業内部の経済集中が進行しないことを示している。

理論的検討は以下の通りである。この論文では国際的な観点から見た日本の代表的な流通企業の規模の低さを生み出す原因となる構造とメカニズムを検討している。近代流通業の規模の分布は右裾に高度にゆがんだ非対称な分布を描いている。これは結果的に近代流通業が多様な規模構造を維持しながらも,内部では経済集中せず規模格差を縮小しつつあることを示している。この企業分布の非対称性は近代流通企業の規模分布の構造特質である。この非対称性が共通して持つ特質は比例効果測定の想定である。つまり,比較効果法則とは規模が企業の期待成長率に対して何ら影響を与えないということである。
また流通企業の長期費用曲線がJ字型の形状を示すことは,流通革命以降の近代流通産業の生成と,中小小売商の成熟と停滞が中小小売商に対して近代流通企業が規模の優位性を発揮してきたことを示している。企業規模がそれより大きくなっても長期総費用が変化せず,一定となるような企業規模は最小最適企業規模と呼ばれている。日本のトップ200位に入る流通業はこの最適規模を大きく超えた規模領域であるので,規模の優位性を発揮できていないと述べられている。

実証分析は以下の通りである。用いるデータは1968年以降日本経済新聞社により行われてきた『日本の小売業調査』による。以下で用いるのは,各年度の売上高上位200社のデータである。日本の近代流通業の非対称性の特質である比例効果測定を検討する方法は,問題となる期間の期首と期末の企業規模についての散布図を対称尺度を用いて作成することである。その回帰曲線は1になり,45度の傾きを持ち,その点の分布が均一分散であれば比例効果法則が作用している。これは1974年から1999年までを5年刻みの期間にわけ,散布図を描いてみると,いずれの期間でもモデルの適合度はよく,回帰係数は0.1%水準以下で有意である。続いて売上高の規模に関わらずその成長率の分散は同じであるかを,企業を小・中・大の規模にクラス分けし,それぞれの5年後のクラス別の成長率の変化を用いて分析している。ここではレーベン検定と1元分散分析が行われているが,そのどちらでも規模クラスに統計的な有意差は見られないという結果が示されている。この分析が,過去25年間の長期にわたって日本の近代企業では,比例効果法則が強力に作用していることの経験的証拠を示している。
比例効果法則が作用する高度に非対称な分布には様々なものがあり,ここではパレート分布と対称正規分布の2つが分析に用いられている。1974年から,1999年までの5年刻みの分布をそれぞれ比較してみると,パレート分布の方が当てはまりがよいことが示されている。この結果にいたった原因は,対称正規分布は上位200社を決定するとその成員構成に以降の新規参入企業がないことを仮定としている。これに対し,パレート分布は最小規模以下のクラスから最小規模を超える新規企業が着実に参入するようなランダムウォークを仮定としていることによるものであると述べられている。これらの結果から日本の近代流通業上位200社では,従来のような二重構造が存在せず,新規企業の参入による上位200社の入れ替わりが激しいことを示している。

結論として流通革命以降の日本の流通業では,二重構造が存在せず,その先端の近代流通業内部でも経済集中が進行していない。この新しい構造とメカニズムが中小小売商から近代流通業にいたる成長経路を形成するとともに,国際標準から見た日本の近代流通業の低位性を生み出していると述べられている。論点として,日本の近代流通業はなぜ規模の優位性を発揮し成長できなかったのか。また日本の近代流通企業を特徴づけるパレートの法則の作用は何を基盤にして生まれたものなのかを実証的に明らかにすることが今後の課題であると述べられている。

出典 田村正紀(2002),「近代流通業における企業成長と規模構造」 『流通科学研究所モノグラフ』№12。

投稿者 02kayasi : 23:50 | コメント (0) | トラックバック

広告の理論と戦略 (清水 2004)

目次
第10章 広告効果測定基準とその測定手法
第11章 インボルブメントと消費者意思決定プロセス
第12章 IMCとマーケティング・コミュニケーションの諸ツール

第10章 広告効果測定基準とその測定手法
 第10章では,いろいろな要因が重なり合って効果が現れる広告の効果を,少し整理して考えてみる。広告測定効果はどのように測定されるのか。媒体普及,媒体露出,広告露出,広告知覚,広告コミュニケーション,販売効果といった広告評価基準に従って述べていく。媒体普及の段階は,特殊な測定方法もないため,ABCのリポートや,NHKの調査結果から得ることができる。媒体露出の段階では,視聴率測定によりオーディエンス総数を求める。視聴率には世帯視聴率と個人視聴率があり,世帯視聴率は調査世帯に視聴状況の自動記録装置をつけておいて求め,個人視聴率は日記調査法で調査する。広告露出の段階は,広告が見聞きされる可能性を超えるもので,新聞,雑誌の場合は注目率,生独立測定ということになる。広告知覚段階では,広告コピーが実際に見聞きされる効果を求めるもので,媒体機能とコピー機能との総合効果が測定される。コピー効果の測定法としては,起想法と質問紙法,問合わせ法,ラボラトリー・テスト法があげられる。広告コミュニケーション(態度変容)段階は,広告を認知してから広告商品への態度がどのように変容していくかを測定するものであり,態度測定の方法には,段階法,シュウエリン法,CACテスト法などがある。「販売効果測定は,広告キャンペーンの事前事後の売上高の差を捉えるもので,ストア・オーディット法や,販売地域テスト法などといった単純な方法で行われる。しかし,販売効果は,広告を含むマーケティング変数と,競合他社を含む外部環境変数との係わり合いの結果として現れるもので,この中から広告だけの貢献度を求めるのは困難である」(307ページ)
 
第11章 インボルブメントと消費者意思決定プロセス
 第11章では始めに,歴代のハイアラーキー・モデルについて述べられ,次にマーケティングにおける消費者意思決定モデルについて考察している。次にニコシア・モデル,ハワード=シェスモデル,アソシエーション・モデルについて述べられている。しかし、これらのモデルは,わが国において適応の可能性は極めて低いと言える。なぜならば,モデルの各段階は全て効果測定が必要であり,実際に調査機関によって,各々の段階の調査が定期的に行われ,データが得られる状態になければ,有効なモデルにはならない。わが国にはこれだけの段階をすべてカバーするだけの調査がなされていないからである。次に、インボルブメントに関する消費者行動研究の流れについて紹介されている。例として,広告媒体へのインボルブメントに関する研究としては,クラグマンが「被験者が説得的刺激の内容と自分自身の生活の内容とを『結びつける言葉の数』,或いは意識の上で明確な刺激の内容について個人の生活の内容に照らして述べる1分当りの言葉の数である」(332ページ)としているインボルブメントの定義に基づいて,雑誌とテレビによる実験を行い次のような結論に達した。「雑誌のような印刷媒体では被験者は自ら読もうとしなければ情報を入手することができないので,能動的学習をすることになり,インボルブメントの度合いが高い。テレビ媒体ではリラックスした状態で見ることができ,受動的学習を伴うので,インボルブメントの度合いが低い。このような状況下では広告が態度変容を起こさせることはほとんどないというものである」(332ページ)そして,インボルブメントを考慮した新しい広告効果モデルの構築が必要となってくるのであるが,筆者は,新しい広告効果モデルは「広告商品」,「媒体評価基準」,「学習セット」,「情動セット」,「行動セット」の五つのボックスからなるモデルを提案している。筆者は,「わが国において,消費者の商品に対するインボルブメントの調査研究が進められつつあるが,媒体に対するインボルブメントの調査研究はまだ行われていない。これらの実証研究が積み重ねられていけば,わが国消費者のロー・インボルブメント意思決定変数が次第に把握できるようになるのであるだろうが、それを待たなければ本当の意味での新しい広告効果モデルは生まれない」(352ページ)としている。

第12章 IMCとマーケティング・コミュニケーションの諸ツール
 第12章では,広告を送り手の立場から見るのではなく,受けてである消費者の立場から考えようとするインテグレーション・マーケティング・コミュニケーション(IMC)について述べられている。筆者は「IMCとは外部環境と消費者データを踏まえ,ターゲット・オーディエンスに対してブランドを統合的なメッセージで効率的にコンタクトさせ,納得してもらうトータル・マーケティング・システムである」(355ページ)と定義している。IMCは企業の一広告宣伝部局だけで遂行できるものではなく,全社的な意思改革と組織改革から始まるものである。今,アメリカに起こったIMC旋風が日本へ上陸しようとしている。次にマーケティング・コミュニケーションのツールについて述べられている。マーケティング・コミュニケーションのツールには、広告,社内販売意識の意欲と技術の向上を目的とした社内向け販売促進と,需要を創造することを目的とした消費者向け販売促進がある販売促進,プロモーション,あるいはマーケティング・コミュニケーションの重要なツールの一つである人的販売,「企業または組織体の活動に影響を受けるグループに対し,企業または組織体が好ましい態度を開発するため働きかける一切の活動あるいは態度である」(371ページ)と定義されているパブリック・リレーションズ(PR),パブリシティ,コーポレート・アイデンティティ(CI),商品/チャネル/コスト・コミュニケーション,インターナショナル・コミュニケーション,マーケティング情報,クチコミがある。

出典:清水公一(2004),広告の理論と戦略,(280-376ページ)

投稿者 02hidemin : 23:47 | コメント (0) | トラックバック

2005年05月04日

広告の理論と戦略 (清水 2004)

第7章 広告媒体戦略とエンピリカル・データ
第8章 海外およびわが国の広告管理システムモデル
第9章 広告表現戦略と広告制作プロセス

第7章 広告媒体戦略とエンピリカル・データ
本章では媒体戦略の立て方,具体的戦術の方法,戦略・戦術を立てる際の考慮条件や,メディアシステムのためのエンピリカル・データについて述べられている。

第1節 広告媒体戦略と戦術
リチャード・P・ジョーンズのチェックリストを挙げながら,媒体の戦術と戦略について述べられいる。
1 媒体目標
1)大まかな目標を設定する
広告は,マーケティングと連動して初めて,企業目標を達成するツールとなる。そのためにもまず,マーケティングと目標と,戦略に同調した媒体目標を立てる必要がある。また,競合他社のマーケティング活動も十分に考慮しなければならない。
2)体的な目標を設定し,その根拠を明確にする
 ①ターゲットを明確にする:人口統計区分・地理的区分・ライフスタイルによる区分
 ②広告の実施期間と時期を明確にする:通年化特定の時期か
 ③コピーアプローチを把握する:クリエイティブ部門との密な連携により,媒体条件を把握する。
2 媒体戦略
 次に媒体戦略(media strategy)に取り掛かることが出来る。これは,与えられた広告費を効率的に配分するための基本原則の明示であり,その考慮条件は…
1)媒体計画に適応する広告費運用の一般原則を決める。
 ①広告費シェアを競合他社と同程度にするか,多くするかの決定。
 ②広告費の投入に当たり,到達と頻度のいずれかを重視するかの決定。
 ③売上高に対する広告費の割合を地域的に配分する。
2)主要媒体を選択し,その根拠を明らかにしておく。
3)補助媒体の選定を行い,その理由を明確にする。
4)媒体の利用に関する基本原則の決定。
 ①ガバレッジ・エリアを全国か地方のいずれかにするか
 ②スペースやタイムに関するおおまかなプラン
 ③ターゲット・オーディエンスの密度により,媒体ウェイト条件を記入
 ④CPMなど,効率性の基準設定
 ⑤露出は集中的か,継続的か-媒体利用のスケジューリング
5)来上がった代替案を検討する。

3 媒体戦術
 上記の基本条件を踏まえ,さらに具体化している。
1)予算の概要表の作成
総広告費,媒体別の広告費,構成比,広告費の対前年比などを盛り込む
2)媒体計画の概要を書く
 ①主要素の記述
 アイデンティフィケーション:ネットワーク名・局名・番組名
 局,新聞,地域の数
 購入広告単位:スペースやタイムなど
 ②計画内の各要素が,計画目標との関連において,どのように作用しているかの記述
 ③この媒体戦術か他のものよりも優れている理由を示す
3)広告媒体費と売上高との関係表を作成する。
 ①4半期ごとの計画済みの広告媒体費と売上高との関係表を,年間広告費に占める比率を含めて作  成。
4)媒体カバレッジ,頻度,その他の統計データの作成
 ①印刷媒体に関して:観客総数,広告出稿数,広告サイズ,費用,世帯カバレッジ
 ②電波媒体に関して:全/テレビ所有世帯カバレッジ,平均視聴率,CM本数・秒数,費用,CPM
 ③代替案の検討

第2節 到達・頻度・継続
 広告媒体戦術に関しては到達と頻度そして継続をどのように決定するかが重要である。
1 到達
 リーチとも呼ばれ,広告媒体や広告を見たり聞いたりしたりする人の量や割合である。
期間中に広告の露出回数が増えてくると,広告に重複して接触する人が出てくる。累積到達率も同様で,少なくとも1回は接触した世帯または個人の割合で,広告の広がりを測る指標とされる。

2 頻度 
 一般には平均接触頻度として用いられる。世帯または個人がその広告に平均何回接触するかを示しており,接触の深さを測るものと位置付けられる。
3 GRP
 延べ視聴率とも呼ばれCMの視聴・聴取率を合計したもの。到達度の大きさを測定するもの。
4 頻度分布
 複数広告のうち回数ごとに接触した世帯や個人は全体の何パーセントを占めるかを測る。
5 CPM 
 到達1000人当たりのコストで,媒体の費用効果を測定する
6 継続
 1カ月のうち1週間前後継続して広告を提出する短期集中型,1カ月以上継続する連続型,徐々に増加,する増加型,その逆の減少型,波型などがある。

第3節 ネット・リーチの把握
 広告媒体戦略で重要な事は,銘柄媒体の純到度,非重複オーディエンスを求める事である。頻度効果の異なった媒体,銘柄媒体で達成しようとするならば,それらの重複オーディエンスをあらかじめ把握しておき重複オーディエンスの多い媒体を選択することになるであろう。反対に少ない頻度で幅広い到達を目標にしているならば,できるだけ重複の少ない媒体を選ぶことになる。

第4節 広告の効果挿入法
1 印刷媒体への挿入法に関するズィールスクの研究
 1959年にズィールスクが広告の記憶率と忘却率の測定を行った。調査に用いたのはアメリカの一般家庭で使われている食料品13種。2つのグループに分けた婦人に,一方のグループは1年の最初の13週,もう片方は4週ごとに1年間同じ広告プリントを郵送した。ここで,記憶率を見てみると,毎週露出したグループは63%,4週毎露出した場合が48%であり,忘却率は毎週露出したグループは63%あったものがわずか4週間で半減,6週間後には3分の2にまで減少している。次に毎週露出したグループは記憶率が初めの3週間で14%から3%に減少し,その後は48%から37%へ減少している。忘却率は1回目が79%で13回目は23%である。忘却率は広告露出回数の増加に連れて減少していることがわかる。
《結果》
集中的広告は一時的に広告を記憶させる点では効果的である。
広告は継続的に実施しないと直ちに忘れ去られてしまう。
広告露出回数が増加すれば,それだけ広告の忘却率は減少する。
各週の平均広告記憶者数の最大化を図る場合,広告露出を分散させた方が効果的である。
広告の広告費効率は露出回数の増加に連れてよくなる。

第8章  海外およびわが国の広告管理システム・モデル
 媒体戦略・戦術をコンピュータを使って行おうとする各種コンピュータモデルが開発されている。
第1節 これまでのコンピュータ・モデル
1 LPI 2 LPⅡ
一定の制約条件の下で,ある目的関数を最大化,あるいは最小化しようとする方法を線形計画法(LP)という。
 ①市場および媒体情報の入手:まず人口統計特性別に読者,視聴者で,しかも見込み客である     audience marketを求める。
 ②媒体の質的価値:媒体の名声や編集内容などを評価し,REV(Rated Exposure Value)を求める。
 ③媒体計画における制約条件
 ・契約中おTVや雑誌などはそのまま採用する。
 ・広告主の伝統は採用する
 ・広告出稿量の最高/最低限度を守る
 ・料金の割引条件の考慮
 ・事情にかなった表現上の制約条件の設定
 ・特殊媒体の必要性
 ・マーチャンダイジング
 ④センシティビティ分析
 ⑤REU Valueと制約条件は主観的なものであるため,そのウェイトを変化させると,アウトプットに反応 が現れる。
LPⅡはLPⅠを改良したもので,目標志向的なモデルである。LPⅠの利点は,データや,アルゴリズムが比較的単純なので,低コストで媒体計画が立てられるということであり,このモデルの欠点は重複や累積が組み込まれていないこと,アウトプットは,メディア・スケジュールの形では出てこないということである。LPⅡは上記の欠点を保管する目的で開発された。

2 AD-ME-SIM モデム
これは、J.Walter Thompson Co.とDennis H.Genschが開発したもので3つのステップからなる。
1)オーディエンス・データの作成:オーディエンスの人口統計的諸特性とそれに対応した閲読,視聴傾向といったオーディエンス・データの把握をする。
2)オーディエンスのウェイトづけ:オーディエンスのうちターゲット・オーディエンスであるかどうかを把握して,ウェイトづけをする。
3)媒体評価:4つのインプットデータの統合をする。
 ①銘柄媒体のウェイト②広告のタイム,カラー,スペースのウェイト③頻度分布のウェイト④選択した銘  柄媒体の割引料金
次の5つの代替案をアウトプットする。 
 ①媒体スケジュールによる銘柄媒体の到達②銘柄媒体の頻度③コマーシャルの到達④コマーシャル  の頻度⑤インパクト・ユニット
3 MEDIACモデル
4 広告の媒体計画をコンピュータによるオンラインシステムで処理しようとするものである。この利用者は希望する広告のリスト,予算,それに媒体と訴求対象についての諸々の客観データおよび主観データを用意すると,市場反応を最大にするメディア・ミックスとキャンペーン期間の媒体計画表を入手することができる。MEDIACモデル展開のステップを述べると,ある想定される媒体選択計画から計算を始める。そして,次々とその中で一番低い媒体価値のものと比較しながら入れ替え作業を行う。これは予算の範囲内で投下資本当たりの反応の大きい媒体戦略を見つけていく方法である。

第9章 広告表現戦略と広告制作プロセス
 広告表現は広告を製作することで,広告主の意図を全て集約し伝えるので,広告媒体と共に重要な柱である。そして,表現戦略にあたってまず,作成しなければならないのが,コピー・プラットホームである。
商品の特質と利便,広告のポジショニングとコピーフォーマットに至るまでの広告表現戦略における必要事項を一覧表にする。
1 プロダクトプロトファイル
 1)目的 2)商品情報 3)購入状況 4)プロダクト・ヒストリー
2 消費者情報
 1)人口統計的情報 2)サイコグラフィックス 3)消費者特性
3 コピー・プラットホーム
 1)広告に関する問題 2)商品差別化特性 3)見込み客 4)競争他社 5)商品の利便性と訴求ポイン ト 6)広告目標 7)商品ポジショニング 8)表現戦略
コピー・プラットホームのフォーマットは企業によって異なっている。また,この中で企業のスローガンや考え方に対して相反する言葉を用いてはならない。この中には,消費者情報も記入する。それは,企業の生存に関わる最重要要因であるので,十分なスペースを確保する。市場分析・消費者分析・消費者への考慮条件の面から記入する。消費者のニーズに的確に反応しなければならない。次に,外部環境情報を把握すべきである。特に法律関係として法規,倫理などからコピーを書くための注意点をチェックする。商品と社会・文化の関わりを考えておく事は必要である。経済情報はマーケティングや広告活動に最も影響を与える。今日の経済環境をよく見極めて,広告制作が出来れば,内需拡大にも大きく貢献する事が出来る。次に,商品のポジショニングをすることが重要で,生活者とのポジショニング,競争市場におけるポジショニング,社会におけるポジショニングがある。その目的は,生活者と共感し合えるように,商品を個性化することにある。特に,競争市場におけるポジショニングは広告商品のマーケットシェアが業界でどのあたりに位置付けられているかを把握することであり,競争市場におけるポジショニングは大気汚染や水質汚染,騒音,悪臭など社会に迷惑をかけていないかを明らかにする。ポジショニングが終わると,いよいよコピーアプローチ段階に入る。
 
第2節 印刷広告の表現
1 広告コピーの構成要素
 見出しは本文の内容を集約的に表現する比較的大きな活字で組まれた短い語句である。その目的は,①興味を抱かせる②本文の閲読を促す③見込み客の拾い上げ④本文を読まない人に対しても短いメッセージを送るなどが挙げられる。本文は広告コピーのなかで,主張内容をもっとも詳細に表現したものである,広告主のイメージを創成する機能もある。シグは広告主を明示した部分であり,トレードマーク(商標とも言われる)・ロゴ・住所・電話番号などがそれにあたる。
2 印刷広告の製作手順
 広告アプローチとフォーマットが決定すると,まず表現アイディアをラフ・スケッチの形で視覚化する。これを広告主に提示し,承認されたものが製版され印刷される。
第3節 放送広告の表現
1 ラジオCMの製作
 この場合は,表現アイディアをまとめて元原稿をまず書く。次にタレントやスタジオの選定,音楽の手配をしてラジオスクリプトを基に録音・編集する。
2 テレビCMの製作
 テレビCMを製作する際はまず,広告主がマーケティングポリシーや広告ポリシーを決定し,広告会社側との企画会議で,それについてのオリエンテーションを行う。広告主は広告会社によってプレゼンテーションされたストーリーボードや絵コンテの代替案の中からひとつを選び,製作依頼をする。広告会社または製作会社のプロデューサーは製作の総責任者であり,スタッフ・タレントの決定,制作費予算の見積もりをする。
出典:清水公一(2004),『広告の理論と戦略』,創成社,195-278ページ。

投稿者 02tsukazaki : 21:50 | コメント (0) | トラックバック

近代流通業における市場地位の変動 (田村 2003)

要約
 この論文は,市場地位の変動が激しい近代流通業のメカニズムを解明することを目的としている。そのために,まず1974年から1999年までの25年間の市場の実態を述べ,この間の企業の市場地位の変動がどのような要因によって生じたのか,実証的に検討している。「市場地位の変動は,主として各企業の売上成長率の分散が大きいことによって生じる。この分散が大きくなる原因は、各企業の個別成長要因の持続性が低いためである」(14ページ)さらに,「個別成長要因は、業態の成長力とフォーマットの成長力によって規定される」(11ページ)とし,市場地位の獲得は,業態とフォーマットの革新による,と結論づけている。最後に,変化し続ける流通環境に対して,業態革新を継続できる企業,つまり成長し続けられる企業はどのような特質を持っているのか,明らかにすることを次の課題としている。

理論的検討は次の通りである。市場地位の変動要因である,業態の成長力は,経済発展による商品カテゴリーの多様化や,消費者の生活様式の成熟化によって変化する。コンビニや通信販売などの新しい業態の発展や,マイカーの普及による郊外商業が発展したことが例に挙げられる。このような業態の多様化によって,既存の業態のシェアは変化する。このことから,市場地位の変動は,このような業態成長力に依存することを示している。

実証分析は以下の通りである。「市場地位の変動は,主として各企業の売上成長率の分散が大きいことによって生じる。この分散が大きくなる原因は、各企業の個別成長要因の持続性が低いためである」(14ページ)ここでは,個別成長率を測定するため,個別成長係数αの回帰分析から,企業の期待シェア増加率を推定した。1984年から1994年までのシェア増加率を,1974年から1984年までのそれと比較すると,大きく低下している。それはこの期間内に,大型店の規制緩和,国際化,情報化,バブル経済の崩壊など,流通環境の大きい変化が生じたため,企業は安定して成長することが困難になったからである。つまり,個別成長要因をほとんど維持できなかったのである。しかし,それ以降は新しい流通環境が企業内に浸透し始め,それに企業が対応したことで,シェア増加率は上昇した。これは同時に個別成長要因の持続性が増加したことを意味している。

流通企業の個別成長力は,フォーマットの成長力によって決定される。ここでは,1974年から1999年までの成長力を測定するため,フォーマット成長要因の係数αを回帰分析によって推定している。分析の結果,流通環境が激しく変化した1984年から1994年にかけては,この数値は大きく低下したことが示され,このことは流通環境に変化が生じれば,フォーマットの成長率は低下することを示している。

 結論は以下の通りである。近代流通業の市場地位の変動要因である,業態とフォーマットの成長力の持続性は,流通環境によって変化する。そして,流通環境の変化が激しかった近年においては,業態とフォーマットの成長力の持続性は調査期間を通して低かった。ここに近代流通業における激しい市場変動の原因がある。流通環境の変化に対して,業態とフォーマットの成長を継続できる企業のみが近代流通業で成長できる,と結論付けている。

出典:田村正紀(2003),「近代流通業における市場地位の変動」 『流通科学研究所モノグラフ』No.016。

投稿者 02umeda : 16:53 | コメント (0) | トラックバック

2005年05月03日

小売業による顧客価値創造―西武百貨店における営業プロセスの変更を中心に―(粟島 2004)

要約
 小売業は厳しい環境におかれている。インターネットにより,顧客は十分な情報を持ち,価格だけでなく,商品の価値やサービスの価値にも関心をもつようになっている。しかも,競争相手は国内同業者だけではない。世界中のさまざまな業態がシェアをかけ競争を仕掛けている。
 百貨店も当然こうした厳しい環境に直面している。そこで,この論文では,西武百貨店の営業プロセスの変更を取り上げ,いかにして顧客価値が創造されるかについて分析がなされている。特に顧客の視点にたった営業プロセスの変更による顧客価値の創造について明らかにされている。そして,今後小売業が提供すべき顧客価値についてのひとつの指標が示されている。

理論的検討
 この論文では,「顧客が負担するすべてのコスト(総顧客コスト)と,手にするすべての価値(総顧客価値)との差が最終的に顧客の受け取る価値であり,この差が顧客価値である」(182ページ)とされている。いかにしてこの顧客価値をプラスにするか,そのためにどのような営業プロセスが必要であるかが検討されている。ここでは,西武百貨店における営業プロセスの変更が取り上げられ,どのようにして顧客価値が創造されているかが分析されている。

1,店舗コンセプトの変更
 これまでの百貨店は,明確なターゲットもコンセプトも持たず,スケールメリットのみを目指した多店舗化と多角化を追求してきた。その結果,「何でもあるけど,欲しいものがないという」(185ページ)顧客無視の店舗戦略を展開し,量販店や専門店に顧客を奪われる結果となった。
 そこで,西武百貨店は店舗コンセプトの変更を試みた。それは「店舗のおかれた商圏を分析し,マーケットに最適かつ自店の強みを発揮できる分野に特化する」(185ページ)という当たり前のことである。
 それを基に,95年に有楽町店のリニューアルが行われた。ターゲットを20歳代から30歳代の働く女性とし,「女性のファッション領域以外の商品は構成を一切なくした」(185ページ)女性ファッション専門店として再出発。その後,この店舗は好成績を収めている。さらに,他店舗においてもそれぞれの商圏を分析しなおし,強みとして残す売り場,同グループ内の企業に任せる売り場,撤退する売り場に分類がなされている。

2,クラブオンカードの導入
 1996年,西武百貨店はクラブオンカードというポイントカードを導入した。このカードの導入が,購入金額・利用回数・利用頻度・性別・年齢などの個人情報の把握を可能にした。クラブオンカードから得られるデータにより,店舗の売り上げを支えているのは,年に何度も利用してくれて,年間買い上げ金額の多いなじみ客であることが明らかにされている。そこで,西武百貨店は,「新規顧客獲得と既存顧客の喪失を繰り返すやり方から」(190ページ),既存顧客と長期間にわたり良好な関係を築いていくというやり方に方針を変更を実施した。
 従来のマス媒体を使った顧客アプローチから,DMや電話,電子メールといった個人を対象としたアプローチ法へと営業プロセスを変更。特に,手書きDMの利用は非常に効果的であることが明らかにされている。なぜなら,クラブオンカードから得られる売上情報を基に,販売メモからの情報を付加することで,非常にパーソナルでタイムリーなメッセージを送ることに成功したからである。既存顧客を囲い込むにはこうしたパーソナルな対応の心地よさが非常に有効であることが実証されている。

結論 
 西武百貨店経営危機にある中で,こうした営業プロセスの変更を実施したことにより,業績は急回復している。こうした,営業プロセスの変更が顧客に支持されていることが明らかにされている。西武百貨店が実施した変更の原点は,顧客の立場に立つという小売業として当たり前のことである。今までの戦略がいかに顧客の視点を忘れていたかが明らかになった結果となっている。
 また,こうした変更によって成果が上がるということは,顧客視点での営業プロセスが不十分であることを示しており,すべての小売業態が実施すべきサービスの原点が明らかにされている。


論点
 確かに,2つの営業プロセスの変更によって,顧客がどのようなものを求めているかを追求し,それにあわせた戦略を実施することで成果は上がっている。しかし,顧客に合わせる戦略だけでは,ほかの小売業態との間に決定的な違いを生み出せない。百貨店自体が商品を開発したり,百貨店側から顧客に対して積極的に働きかけることなどにより,小売業態の中でも特別な存在になる必要がある。

  
出典:粟島浩二 「小売業による顧客価値創造―西武百貨店における営業プロセスの変更を中心に―」『立命館経営学』第43巻第1号,2004年5月,177-201ページ。

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広告の理論と戦略(清水 2004)

目次
第4章 コミュニケーション・プロセスと送り手の組織,受け手の保護
第5章 広告計画のプロセスと広告予算の編成
第6章 広告媒体の特性と料金体系

第4章 コミュニケーション・プロセスと送り手の組織,受け手の保護
 第4章では,送り手から受け手に流れるコミュニケーション・プロセスについて述べられている。ソース,メッセージ,レシーバーのコミュニケーション3要素,コミュニケーションの付随的要素としてノイズ,反応,コミュニケーションの機能としてエンコーディング,デコーディング,フィードバックといった諸要素を説明し,モデルにまとめている。このプロセスを効果的にするには「情報が途中で欠落したり,歪められたりすることを防ぐことである」(110ページ)とし,「送り手の経験領域と受け手の経験領域の重複部分がより大きければ,コミュニケーションはより容易なものになるのである」(110ページ)としている。
 次に,送り手の組織として広告主,広告会社,媒体社の組織について説明がなされている。その後,消費者運動の発展,コンシューマリズムの台頭への流れが述べられ,消費者保護の具体的な中身として,ケネディーの4つの権利と消費者保護基本法が取りあげられている。ここでは消費者保護基本法の「施策の基本方向はケネディー大統領の4つの権利を満たし,さらに具体化したものといえよう」(126ページ)としている。また,CBBBとJAROの組織や活動が説明され,さらに広告の自主規制と公的規制について述べられており,自主規制については「法的拘束がなく,処罰規定もない訳であるが,わが国特有の業界相互の信用というものが,大きな抑制力となって作用している」(132ページ)としている。最後に,自主規制と公的規制の中間にあたる,自動車業界の表示に関する公正競争規約の一部を提示している。

第5章 広告計画のプロセスと広告予算の編成
 第5章では,広告計画のプロセスと広告予算の編成について述べられている。これまで行われてきた主な広告計画の研究を挙げ,その中から小林太三郎氏の考えをベースとしたモデルを提示して広告計画を説明している。「広告計画の前提条件であるマーケティング・プロフィールは『7Cs COMPASS MODEL』の各要素がそのまま当てはまる」(135ページ)としている。コーポレート,コモディティ,コミュニケーション,チャネル,コスト,コンシューマー,サーカムスタンスの7つのプロフィールである。
 マーケティング・プロフィールを把握したら,広告の基本計画を立てる。まずは,広告目標を設定するのだが,これは「具体的に数字で表せるようなものでなければならない」(138ページ)とされ,明確にされた広告目標に向かって作業を遂行し,結果を評価する。 広告目標を設定したら,広告予算の編成を行うのだが「自社で立案する場合と,広告会社を参画させる場合,広告会社に企画書を提出させる場合などがある」(139ページ)とされている。
 広告の基本計画が決まれば,次は媒体戦略,表現戦略を策定する。これらは「広告活動の2本の柱ともいえるような重要なものである」(139ページ)としている。媒体戦略から決められることもあれば,表現戦略から決められることもあるが両者は深く関連しあっている。
 媒体戦略・戦術であるが,ここではRichard P.Jonesの考えをもとにしている。媒体目標として,マーケティング計画に連動する大まかな目標と具体的な目標を設定する。媒体戦略では広告費配分の原則を決定後,使用する媒体を選択し,媒体利用の基本原則を決める。媒体戦術では,予算や媒体計画の概要を示したり,媒体費と売り上げの関連表やリーチ(到達)とフリークエンシー(頻度)その他の統計データの作成を行ったりするとしている。
 媒体計画立案の一方で行われる表現戦略・戦術は,1.これまで入手してきたデータの整理。特にコピーに直接結びつくもの(トレードマークやブランド・ネームなど)を把握しておく。2.商品のポジショニング(市場での位置づけや社会での位置づけがある)3.コピーコンセプトを決定。4.コピー・プラットフォームの作成。5.それに従ってコピー・アプローチ(ポジショニングや広告のコンセプトをコピーに接近させる)を決め,コピー・フォーマット(表現の形式)を検討。6.コピーを書く。7.作成されたコピーの代替案をコピー・テストにかけ,決定する。以上のような手順で検討されるとしている。
 制作されたコピーは媒体戦略と照らしあわされ出稿される。広告が掲出されると,計画の修正や次の計画の資料とすることを目的に広告効果測定が行われる。これには多数の方法があるが,結果は関連する活動にフィードバックされる。広告計画は,このようなプロセスを経て遂行されるとしている。
 以下,日本の広告費の推移などについて述べられ,売上高比率法,利益比率法,販売単位法,タスク法,任意法,支出可能額法,競争会社対抗法といった広告予算設定法が説明され,稲川和男氏の広告予算決定の数理モデルを提示した後,ワインバーグの広告予算決定モデルについて述べられている。

第6章 広告媒体の特性と料金体系
 第6章では,広告媒体が取りあげられている。ここでは「見込客に広告メッセージを到達(reach)させるためには伝達手段(communication carrier)が必要である。この伝達手段を広告媒体(advertising media)という」(160ページ)と定義している。
 広告媒体には,1.新聞,2.雑誌,3.ラジオ,4.テレビ,5.屋外広告,6.交通広告,7.映画・スライド,8.ダイレクトメール(DM),9.新聞折り込み広告,10.その他の直接広告,11.POP広告,12.ノベルティー,13.その他があるとしている。これまでの多種多様な分類を整理した分類として,マスコミ4媒体(1~4)と他の媒体(5~13)に大別し,さらに印刷媒体(1,2),電波媒体(3,4),場所媒体(5~7),直接媒体(8~10),POP媒体(11),特殊媒体(12),その他の媒体(13)という分類を示している。
 マスコミ4媒体については,発行・普及状況,媒体自身の種類(印刷媒体のみ),CMの挿入方法(電波媒体のみ),媒体特性,広告の種類,広告料金が詳細に説明されている。例えば,新聞では「一部当たりの人口が2.49人という高い普及率をもっている」(162ページ)ことや「全国紙の普及率も国際的にみて破格な高さである」(163ページ)が発行・普及状況である。ガバレッジ・エリア別でみた全国紙,ブロック紙,県紙,内容別にみた一般紙,スポーツ紙,専門紙,特殊紙,英字紙が媒体自身の種類である。記録性,説得性,反復性,安定性,融通性が媒体特性である。広告の掲載位置,スペース,内容,形態別による分類が広告の種類である。広告料金は各紙ごとの料金が記載された表が添えられている。
 屋外広告と交通広告については,広告の種類と媒体特性が説明されている。その他のものについては,媒体特性を中心に広告の種類にも少し触れて説明されている。また,ニューメディアやマルチメディアの出現として,CATVや衛星放送,インターネットなどについても簡単な説明がなされている。

出典:清水公一(2004),『広告の理論と戦略』 創成社,103-194ページ。

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2005年05月02日

広告の理論と戦略(清水 2004)

目次
第1章 現代における広告の機能と定義および種類
第2章 世界およびわが国における広告の発展
第3章 低成長時代のコ・マーケティングにおける広告の位置づけ

第1章 現代における広告の機能と定義および種類
この章ではまず,広告の社会的機能について述べられている。広告のプラス面では,広告は新商品を人々に認識させ,商品の選択肢を増やす効果があり生活を豊かにし,繰り返し消費者に訴えることによって商品やサービスの信頼性を高める効果,また「企業の売上を伸ばし経済活動を活性化させる」(2ページ)効果がある。逆にマイナス面では,広告は情報過多社会,一部の企業によるマスメディアの支配,社会の低俗化,消費の画一化を招く可能性も存在する。次に広告の経済的機能について述べられており,その機能としては経済の活性化が挙げられる。なぜならば,広告は大量生産によりコストを低減させ,より一層消費を拡大させることができるからである。アメリカ・マーケティング協会(AMA)は広告とは「明示された広告主によるアイデア,商品,もしくはサービスについての有料形態の非人的提示および促進活動である」(4ページ)と定義している。この定義でのポイントは3つあり,広告するもの,つまり「明示された広告主」次に「有料形態」そして広告提示の方法「非人的提示および促進」ということが明示されているところである。そしてこの定義や他の定義を踏まえて「広告とは企業や非営利組織または個人としての広告主が,自己の利益および社会的利益の増大化を目的とし,管理可能な非人的媒体を使って,選択された生活者や使用者に,商品,サービス,またはアイデアを,広告主を明確にして告知し説得するコミュニケーション活動である」(9ページ)と筆者の定義を述べている。

第2章 世界およびわが国における広告の発展
 広告の起源は古代バビロニアで,現存する最古の広告は古代エジプトの「ちらし広告」である。そして15世紀に入り,イギリスで広告は大きな発展を遂げた。それは印刷広告が登場したからである。また日本の広告の起源は8世紀初頭であり,明治時代に広告代理業ができ,広告は一般的なものになったのである。つまり,歴史は連続しているもので広告はその時代の文化と強く結びついているので現在や将来を知るためには過去の歴史を知ることが重要である。

第3章 低成長時代のコ・マーケティングにおける広告の位置づけ
 高度経済成長時代ではマーケティング・ミックスの要素はProduct,Promotion,Place,Priceの「4P」で表されてきたが,低成長期時代ではCommodity,Communication,Channel,CostまたConsumer,Communication,Convenience,Costの「4C」で表す方が適切である。そして,「Pro(前)の接頭語の多い高度経済成長時代のマーケティングはプロ・マーケティング(促進マーケティング),そして低成長時代のマーケティングはCo,Con,Com(共に)の接頭語が多いことからコ・マーケティング(共生マーケティング)になろうかと思う」(82ページ)とマーケティング・フレームワークの変遷を論じている。また先ほどの「4C」にConsumer(消費者),Corporation(企業・団体),Circumstance(環境)を加えたものが「7Cs」であり,「消費者への考慮要因N=Needs(必要性),W=Wants(欲求),S=Security(安全性),E=Education(消費者教育)また環境への考慮要因N=National and international circumstances(国および国際環境),W=Weather(気象・自然環境),S=Social and cultural circumstances(社会・文化環境),E=Economic circumstances(経済環境)のコンパスの形をとっているので7Cs COMPASS MODEL」(97ページ)とし,このフレーム・ワークのコミュニケーション・ミックスに広告が位置づけられている。

出典:清水公一(2004),『広告の理論と戦略』創成社,1-102ページ。

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国民市場における小売国際化(田村 2004)

要約
 この論文は小売国際化の推進要因を国民市場という観点から実証的に検討している。まず理論的に整理されていない小売国際化の概念を明確にするため,過去の研究を評価している。ここでは,過去のいずれの研究も小売国際化過程はミクロ過程でしか実現されていないと指摘している。よって,ミクロとマクロの両面を実証的に検討しようとしている。そこでまず,国際化の舞台となってきた国民市場の特性を明らかにするために国際小売業のI-Oマップが提案され,そこにさらに統計的分析を与えている。最後に利用可能な市場特性データを用いた分析から,小売国際化推進力のマクロ的要因を,プッシュ要因とプル要因に分けて明らかにしようとしている。

理論的検討
 この論文では小売の国際化推進力の実証的解明を「小売国際化研究の中心的課題の一つ」(1ページ)として捉え,まず理論的に不十分である小売国際化の概念そのものを明確にしている。
 小売国際化推進要因の既存の分析モデルとしてプッシュ/プル表と小売国際化過程モデルが紹介され,評価が与えられている。プッシュ/プル表は企業が国際化しようとする時点で,プッシュ要因とプル要因のふたつを対比させて整理したものである。「プル要因は外国市場を魅力的にする要因であり,プッシュ要因は本国市場の魅力を減じる要因」(1ページ)とされている。小売国際化過程モデルは企業が国際化しようとする時点だけでなく,その後の進展の過程もマクロ・ミクロの両面から捉え,モデル化しようとしたものである。
 プッシュ/プル表,小売国際化過程モデルのいずれも「小売国際化の概念はミクロ過程とマクロ過程の間を揺れ動いて」(7ページ)おり,「ミクロ過程でしかモデル化されていない」(7ページ)と述べられている。マクロ過程も「小売国際化の重要な側面」(7ページ)であるとし,この論文では小売国際化推進力をミクロ・マクロ両面について実証的に検討しようとしている。

 
実証分析の構造
 まず,小売国際化においてどのような国がその活動舞台として選択されてきたのか,またその理由を明らかにするために国民市場レベルでの小売国際化推進力を明らかにしようとされている。
 そこで,M+M Planet Retail社が提案した,国民市場の国際化指数を利用している。この指標は国際化している世界的小売業のうち2001年度の売上高上位30社を取り上げ「国別の進出企業数を平均に対して指数化している」(10ページ)もので,各国の小売の国際化を示している。この論文では,この指数に評価を与えた後に,外国企業数と本国企業数をそれぞれプル要因とプッシュ要因に対応させて検討することにしている。
 M+M Planet Retail社のデータに基づき,各国を分析単位として縦軸に本国企業数,横軸に外国企業数を取り,1つの図にマップ化してI-Oマップを得ている。ここではさらにクラスター分析を行っている。

 次に,どのような国民市場特性が国際化を促進するのか,その一般要因をプッシュ要因とプル要因にわけ統計的に検討している。
 プッシュ要因として本国市場の飽和を問題にし,それに関する利用可能な5つの市場特性を分析に用いている。5つの市場特性とは,人口千人あたり小売販売額,小売販売額,人口,小売販売額成長率,人口成長率である。データを「本国企業数がゼロの国とそれ以外の国に分割し」(14ページ)上記の市場特性に差が見られるかマン・ホワイトニーU検定を行っている。
 プル要因は,上記5つの市場特性に国際小売業上位30位に入る本国企業数を加えたものを分析に用いている。進出企業数の平均値6.6を基準に,進出企業数6以下を低進出国,7以上を高進出国として各国をわけ,マン・ホワイトニーU検定を行っている。


分析の結果と結論
 クラスター分析の結果,小売国際化の活動舞台となる国は大きく3つのグループに分けられている。グループは代表的国際小売業発生国であり,進出先国でもある先導国,進出先として選ばれることの多い進出先国,それら残りの発展途上国の3つである。それらは,さらに細かく「多様なサブグループを階層的に形成している」(12ページ)と述べている。このことから,すべての国に共通した一般要因と,各国に特殊で多様な要因が相互作用し活動舞台を規定していると述べられている。
 
 プッシュ要因における差の検定の結果,人口千人あたり小売販売額と小売販売額には差が見られた。また,国際小売業を生み,他国に進出している発展国の方がそれらの中央値が高かったことが示されている。これを国際小売業誕生の潜在条件とし,国際小売業誕生は国民市場の経済発展に依存していると述べられている。小売販売額成長率,人口成長率は未発展国の方が発展国より高く,これは本国市場の飽和仮説を支持するため,市場の飽和は小売国際化の推進要因の1つであると述べられている。 
 プル要因における差の検定の結果,5つの市場特性については高進出国が高くなり,上位30位本国企業数は小さくなるというプッシュ/プル表の期待をまったく満たさず,人口成長率以外,有意差は見られなかった。このことから,プッシュ/プル表は過去の研究から指摘された要因を実証分析の根拠なく無批判的に導入したものであることが明らかにされている。そして,この論文で行ったような国民市場特性を用いた分析だけでは,どのような国が小売国際化の進出先国として選ばれるかは,ほとんど説明できないと述べられている。市場選択は歴史的過程が深く関わるため,小売国際化のマクロ過程の実証分析は,統計分析や企業レベルでの分析に,さらに歴史的過程の検討を加えることが必要であると結論づけられている。


論点
 小売国際化のマクロ過程の実証分析には歴史的過程の検討を付け加えることが必要であると結論付けられており,確かに歴史的過程は小売国際化推進力の重要な側面である。しかしながら,推進力となった歴史的事件として挙げられているものは,
・ヨーロッパと北米における国際経済統合
・アジア経済の台頭と市場開放
・情報・物流技術の技術革新
・消費生活スタイルの国際標準化
など,かなり幅が広く「歴史的過程」という一言で言い表すことができるものではないように思う。
 今後は,この歴史的過程についてさらに詳細な検討がなされるべきである。


出典:田村正紀(2004),「国民市場における小売国際化」『流通科学研究所モノグラフ』No.058。

投稿者 02eiko : 14:35 | コメント (3) | トラックバック