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2005年07月30日
1990年代ドイツにおける食品小売業の構造―小売業態分析からの一考察(斉藤 2001)
要約
この論文は東西ドイツ統一後の1990年代におけるドイツ小売業の構造的変化を分析することで,グローバル競争時代に展開される小売業を究明するための手がかりとすることを目的としている。ここでは特に食品小売業を取り上げることにより,小売業の中で生じている構造変化を考察したいとしている。ポーターが指摘するように小売業は元来マルチドメスティックな産業(35ページ)であり,競争は国内において展開されたのであり,巨大小売業は特定の国・地域を基盤として成長し,国境を越えて事業を展開しグローバル化を遂げたとしており,巨大小売業の母国である各国の小売市場の特性を明らかにすることは不可欠であるとしている。また,ドイツにおいては1996年の閉店法改正等規制緩和の動きが見られるなどわが国と似た状況におかれていることから,ドイツ小売業はわが国小売業を比較するための興味深い比較対象であると述べられている。
1.食品小売業における業態構造
ドイツにおいて食品小売業は小売商品分野で最大の比率をしめており,最も基本的な商品分野であり,市民生活に欠かすことのできない,ある意味において伝統的な商品分野であると述べられている。その食品小売業について業態別に店舗数,売場面積,売上の推移から考察が行われている。その特徴として第一に食品小売業において接客販売方式をとる非セルフサービス小売店は売上高・構成比ともに取るに足らないカテゴリーとなっており,経済的にはほとんど影響力のない店舗形態となったとしている。第二に「その他のセルフサービス小売店」(46ページ)のカテゴリーにおいても店舗数,売場面積,売上高とも減少し,これもまた食品小売業において大きな意味を成さない位置づけとなっているとしている。第三にスーパーマーケット業態は売上高実績とその構成比率がそれぞれ92年・90年をピークに減少し,売上高の構成比率についてもゆるやかに低下させていることから,売場面積が1,000㎡以下のスーパーマーケット業態は90年代ドイツにおいてほぼ成熟化しているとしている。第四にスーパーマーケットよりも売場面積が大規模の業態を意味するセルフサービス百貨店・コンシューマーマーケットのカテゴリーにおいては店舗数,売場面積,売上高において実績値,構成比率ともに着実に伸張していることから,売上面積の増加,店舗の大型化を基本的傾向として見てとれるとしている。第五に食品ディスカウントストアについては店舗数,売場面積,売上高のいずれについても実績値,構成比率ともに高い成長を示しており,これもドイツ食品小売業の主要な傾向として見てとれると述べられている。
2.食品小売業における企業グループの動向
ここではスーパーマーケットやコンシューマーマーケットなどの売上高のうち,食料品のみを取り出し集計したものをもとに考察が成されている。まず,食料品売上高の企業別グループのトップはエデカであり,エデカは1907年に13地域の購買組合の連合体として設立され,順調に会員数を増やし,店舗数ではコンシューマーマーケットを中心とするが,売上高ではセルフサービス百貨店の構成比率も高いとしている。第二位は同様にコーペラティブチェーンであり,エデカより「1926年に分離独立して設立された」(49ページ)レーヴェグループであり,レーヴェは食品以外の日用品まで含めた総合売上においてはメトロに次ぐドイツ第二位の巨大企業であると述べられている。レーヴェの食品小売業の主力業態はディスカウントストア,ついで大規模スーパーマーケットであると述べられている。これに続くのがレギュラーチェーンの展開を行うアルディとメトロであるとしており,アルディはヨーロッパ8カ国だけでなくアメリカにも進出しており,メトロは食品売上においては第四位であるが,グループ傘下の流通企業の総合売上高はドイツ第一位,世界ランキングで第三位という巨大企業であるとしている。メトロの主力業態は会員制C&C業態のメトロやマクロなどであり,食品小売業は必ずしも事業の中心分野ではないとしている。
さらに第五位はスーパーマーケットやコンシューマーマーケットを主力とするテンゲルマンであり,第五位までの累計シェアが63.7%,7グループで77.5%にも達するとしており,ドイツ食品小売業において上位集中が進んでいることは明白であるとしている。
結論は次の通りである。1990年代のドイツ食品小売業は「市場シェアの集中化と企業のグループ化」(50ページ)と表現できるとしており,この集中化とグループ化が推進された具体的な方向として,まず第一に店舗の売場面積の拡大が進行し,結果スーパーマーケット業界を基点にある種のサブ業態としてコンシューマーマーケットやセルフサービス百貨店が,もう一つの展開軸として限定された商品アイテムの品揃えと低価格訴求を行う食品ディスカウントストアが生まれ,主要業態として普及・拡大していくと述べられている。第二にそのような大型店舗をチェーン化することにより多店舗化が進められたとしており,レギュラーチェーンとして展開される場合と独立小売商を結集して大規模化を図るコーペラティヴチェーンとして推進される場合があったものの,多店舗化による大規模化とグループ化が進行するという点では一致していたとしている。また同時にこれらの企業のいくつかは食品部門内での複数業態への進出や他の小売分野への進出,企業統合の推進により巨大化を実現したとしており,このようにして少数の巨大小売グループが食品分野を含めて小売市場の圧倒的な部分を占拠するといったドイツ小売業の構造が成立したとしている。
論点は次の通りである。ドイツの業態については詳細に述べられていたが,ドイツ食品小売業についての特殊性についての言及が不足しているように思われる。
出典:斉藤雅通(2001)「1990年代ドイツにおける食品小売業の構造―小売業態分析の視点からの一考察」『立命館経営学第39巻第6号』35―51ページ。
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広告コミュニケーション機能の統合化モデル-広告はどのようにコミュニケーション機能を発揮しているのか(亀井 2000)
本稿は,広告コミュニケーションが過小評価されている現実に対して,広告コミュニケーションを統合的な機能側面から考察することによって,その在り方を再考察している。あくまでも本稿は広告コミュニケーション機能の再評価のための仮説を構築することが目的であり,提示した尺度によりその妥当性を証明する必要があるとしている
広告は本来,多角的で多面的であるが,私たちはそれを部分的,一面的にしか捉えようとしていないのではないのかとしている。例えば,商品広告について訴求対象としての消費者などの心理変容から購買行動へと変化する,コミュニケーション効果プロセスの機能のモデルや理論が存在する一方で,ステークホルダーを対象とする,企業等の組織への心情的理解から支持行動に至る情緒的効果の発生を主とした,企業広告などにかかわるコミュニケーション機能の説明が他方で存在しているとしている。これら二つの相互関係は企業イメージとブランドイメージなど個々で論じられることはあっても,その二つを統合化したものは表面化しなかったとしている。最近になって統合化マーケティングの考え方がようやくでてきたが,部分的には高いレベルを持っているけれども,統合的な認識はほとんど確立されていないというのが実態であるとしている。
広告の真の機能を知るためには,これまで蓄積されてきた広告要素を統合化することが必要であり,またそこにおいても解明されていない部分を考察していくことによって,現代における広告の機能と存在意義が明らかになるとしている。
広告コミュニケーションの諸機能について受け手の視点から統合化を考えると以下のとおりになる。例えば商品販売を目的とした広告において,受け手の心理は簡単に言うと,認知→情動→行動という変化の過程があるが,それは企業による消費者の説得を通じての,購買行動誘発を目的とした促進的コミュニケーションの説明であり,広告コミュニケーションの部分的理解でしかないということは明らかであるとしている。なぜなら企業広告などはこのような促進的コミュニケーションでは十分に説明ができないからであるとしている。このような視点から広告コミュニケーションの機能を見てみると,直接的ないし,準直接的に行動誘発に結びつく側面が大部分を占めるのと同時に,直接的に行動誘発に直結せずに受け手の中で整理されて,結果として影響を及ぼす機能側面も広告コミュニケーションは兼ね備えているとしている。このような認識の下で,実際に発揮されている広告コミュニケーション機能は以下の四つであるとしている。
①購買行動などの(直接的な)行動誘発
②自主的評価・選択基準の形成
③自己アイデンティティの構築・再確認
④企業・商品との心的関係性の構築
上記の四つの機能はそれぞれが独立した形で力を発揮するのではなく,相互に作用し合う形で存在しており,「広告コミュニケーションは,そうした諸機能が有機的に結合された立体的な構造を有するものとして認識することができるのである」(4ページ)としている。本稿ではモデルが提示されている。
広告を通じて蓄積された知識,また広告以外のコミュニケーション形態(報道や通信)により入手された情報が広告を通じて,主観的知識が客観的知識に変わる過程は,「暗黙知」から「形式知」に変容する一種として理解できるとしている。そう捉えると「主観的知識の持ち主は,広告を含むさまざまなコミュニケーションを通じて,それらを客観的な知識へと変質・昇華させていくことが期待される」(5ページ)としている。このようにして上記四つの機能より蓄積,形成された知識は消費者の日常生活的な知識にとどまらず,人間として生きていくための「知恵」にまで昇華させる必要がある。それは消費が生活の一部であるためとしている。人間として価値ある人生を送るためには,公共広告や社会広告などに接触することにより形成されていく,「生きていく上での知恵」(6ページ)が大きな意味を持つとしている。
次に,前述した四つの機能の具体的尺度が述べられている(ただし,直接的な行動誘発機能面は除かれている)。ここでは,尺度の構築の論考を記す。自主的評価・選択基準の形成という機能側面については企業などの組織が提供した企業・商品情報に対して,受け手側の対応パターンからの整理が可能であり,「受け手の側で既に一定の評価・選択基準を保持していて,その完成と質的向上を目指して,提示される広告へ部分的あるいはアドホックに耳を傾けるという状況が想定される」(6ページ)としている。自己アイデンティティの構築・再確認の側面はやはり,自分らしさや他人との同質性,差異を確認・評価することにより,類型が浮かび上がってくるとしている。企業・商品との心的関係性の構築に関しては,広告を通じて消費者のブランドや企業,商品に対する一方的な思い込みや,消費を通じて得た満足により企業と顧客の良好な双方的関係の構築を考えると類型が浮かび上がるとしている。
結論は以下のとおりである。本稿で記した四つのコミュニケーション機能は,受け手の知恵の形成を螺旋的に押し上げていく側面を理解する必要があり,その具体的な内容は明確ではないが,それは人間が本来持っている「他者への思いやりと誠意」(7ページ)に関わるものであるとしている。
出典:亀井昭宏(2000),「広告コミュニケーション機能の統合化モデル-広告はどのようにコミュニケーション機能を発揮しているのか」『日経広告研究所報』,第34巻2号,2-7頁。
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2005年07月29日
小売市場の競争構造(関根 1995)
要約
本論分は,小売市場における独占的競争の特徴を明らかにすることにより流通政策その他に貢献することを目的として書かれている。全体の構成としては,まず,独占的競争の理論と最近の経済学者の小売競争理論をレビューし,続いて小売市場を特徴付ける独占要素と小売市場の特殊性が検討されている。そして第三に業態と小売競争,競争の垂直的次元,立地と小売競争という視点から小売競争の枠組みを提示している。そして結論として,流通政策への合意と今後の課題が示されている。
小売競争理論のレビュー
まず独占的競争の理論として,『独占的競争は製品差別化による競争』(72ページ)であるとするE.H.Chamberinの競争理論が取り上げられている。Chamberinは製品差別化の対象を「製品それ自体の特徴」と「販売をめぐる諸条件」とし,製品差別化は生産者の行う製品差別化と,小売店が商品の最終消費者への販売に際して行う差別化があるとしている。そして次に企業の立場から競争を差別的優位性の追求と捉えたW.Aldersonの理論が取り上げられ,差別優位性の追及とは企業が市場地位の差別化のためにとる戦略であるとし,その戦略の選択肢として①市場細分化を通じての差別化,②訴求(広告)の選択による差別化,③トランズベクション(品揃えと変換の連鎖)による差別化,④製品改善による差別化,⑤生産過程の改善による差別化,⑥製品革新による差別化の6つが挙げられており,ここではChamberinの理論と比べると販売をめぐる諸条件が欠落してい反面,トランズベクシションという概念で垂直的関係を取り上げている。さらに企業差別化による競争の概念は,Havengaにより明確にされ,小売商は顧客の愛顧をめぐって最適な「小売ミックス」を構成し差別的優位性を獲得しようとするとしている。しかしこのChamberinとAldersonの理論は生産者市場と小売市場を区別しないことが共通の問題点として指摘される。井原哲夫は『小売業の行動を製造業の行動に擬して扱う場合があるが,その処理には大きな無理が生じる』(74ページ)とし,小売競争の重要な要素として立地や品揃えが指摘されている。そして,経済学の小売競争理論として製造業者間の競争と小売段階の競争に分けて分析した丸山雅祥の理論や,有賀健の小売段階の競争は地域寡占を特徴とする非価格競争であるとしたものがあるが,それらは小売競争の特徴づける要因ではあるが,小売競争全体像を明らかにすることに成功していないとしている。
小売市場における独占的要素
生産者市場で行われる独占的競争と小売市場で行われる独占的競争では本質的な違いがあるとして,まず小売市場の不完全性が指摘されている。小売市場の不完全性に対して2人の見解が示されており,H.Smithは小売市場の不完全性として①消費者の買物は地理的範囲に限定されること,②消費者は商品の品質,原価,価格に対して完全な情報を持っていない,③多くの場合消費者と小売店の間に特殊な信頼関係が成立していること,④自己の小売店舗を愛顧してくれている顧客層を形成していることの4つの要素を指摘し,一方M.Hallは小売市場の特殊性として,①消費者が空間的に散在していること,②多種多様な商品を扱うので価格決定が難しいこと,③生産者が決定した一定の再販売価格に従わなければならないこと,④顧客に対する広告,配達などのサービスを付加し他の小売商と差別化できることが指摘している。小売市場を特徴付ける独占的要素としては,業態,垂直的関係,立地があるとしそれらが順に検討されている。
小売市場の競争構造
小売の競争構造としては,業態,垂直的関係,立地の3つがある。まず業態についてだが,小売競争の特徴の一つとして,異業態間で競争が行われることが挙げられる。業態は小売業のマーケティング戦略の特徴として識別され,それは主に顧客との対応方式と品揃えの違いにより分類することができ,各小売業は業態による差別化を行っている。異業態間競争に関しては業態革新を品揃え拡大によるものと専門化による品揃え縮小のよるものに分け,これらの相異なる勢力が小売商業において業態を無限に変化させていくプロセスを形成するとしている。市場参入が効果的に行われると,品揃え拡大プロセスが浸透し異業態間競争が激化し,他方専門化のプロセスは店舗の個性,ユニークさを強調するものであるとしている。次に異業態間競争が小売市場に及ぼす影響について,①継続的な業態革新が行われていること,②革新に基づく新業態の登場は既存業態との間で異業態間競争を引き起こし小売市場を活性化させる,③新業態は生産者に対し独立的性格を有するものが多く業界で地位を確立すればPB商品の開発が行われること,④新業態の成功は後発の模倣企業を誘発することから異業態間競争は同業態間競争に変化すること,⑤その業態が成熟期に達すると競争は安定するが,これが次の新業態の登場の機会を作り出すことの5つが述べられている。
次に小売競争の垂直的関係についてだが,小売業の競争は生産者,卸売商などの川上のチャネルの影響を強く受けると考えられてきており,生産者が商業者に対して開放的販売制,集約的販売制,選択的販売制のいずれを採用するかによって小売市場における競争の相対的独立性が異なるとされている。しかし,そういった小売競争が垂直的関係にどのように影響を受けるのかを評価するのは難しいとした上で,小売競争の垂直的関係を商標によって考察している。これは商標が商品流通の主導権を示すものであるという特徴を持っているからであるとしている。商標はNBとPBに分けられるが,チェーンストア経営の発達による小売企業の販売力の増大がPB商品開発を活性化しており,PB商品は価格競争力により生産者に対する対抗力を発揮していると述べられている。そして小売競争と商標の関係として,PB商品の成功は小売競争を活性化すること,有力なNB商品が多いほど生産者市場の影響が大きくなり,逆にPB商品の開発が進むほど小売市場の独自性が強まること,PB商品には価格訴求のものが多いことなどがあげられている。わが国の特徴としては,市場のほとんどが有力なNB商品で占められているため,PB商品の比重が増えることにより垂直的関係を考慮しなくなることは難しいとしている。そもそも生産者と小売業者の意見は基本的に対立することがその理由として挙げられるが,大規模小売業の登場により,生産者が小売の販売力や情報力を軽視できなくなったことが小売主導の製品開発の背景にあるとしている。つまり商品開発の主導権が生産者から大規模小売業者へ移行することによって小売市場の主体性が増すと述べられている。
そして最後に立地と小売競争の関係が述べられている。小売業の立地に関する研究は主に「集積の理論」「中心地理論」「小売引力の法則などがあるが,立地が小売競争にどのような影響を与えるかについて直接的に扱った研究はほとんど無いことを指摘し,その影響を解明するためにの5つの問題点を処理する必要があると指摘されている。その問題点とは①ミクロかマクロどちらで処理するか,②独占的の意味をどうとるか,③個性的商品と非個性的商品では立地の持つ意味がどう変化するか,④立地と環境の変化をどう捉えるか,⑤集積間競争と店舗間競争の関係はどうかであるとしている。
結論は以下の通りである。独占的競争が行われている小売市場の特殊性を業態,垂直的関係,立地の3点から論ずることにより,小売競争の一般理論構築のための問題解決の視点や,今後の研究方向を示すことをもって結論とている。そして流通政策への合意として,①業態革新と競争構造の実証的分析,②大規模小売商によるPB開発の活発化により消費者の商品開発へ参画が求められた場合,それをどう制度化するのか,③立地に関して情報ネットワークの高度化など環境が変化に対する競争構造の変化のを分析することという3つの課題を示している。
出典:関根孝(1995)「小売市場の競争構造」『専修商学論集』第59号,71-90ページ。
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広告と消費者行動-消費者の「広告経験」に及ぼす文化の影響(堀内 2005)
要約
広告を見ることによって浮かんでくる空想や思考など,近年では多様な「広告経験」が研究されるようになってきた。「広告経験」には,個人特性や個人的な関心事項の他,個々の消費者が属する文化が大きく関わっている。本稿では,「広告経験」を文化論的な視点から検討し,「広告経験」の側面を明らかにすることを試みている。
まず本稿では,なぜ「経験」が消費者行動研究領域でブームになっているのかを説明している。このブームの背景には,二つの要因があるとしている。まず,一つは学術的要因であるとし,従来の消費者行動研究(特に,消費者情報処理の考え方に基づく研究)が選択・購買意思決定までの過程に過度に注意を払ってきたことであると述べられている。消費者行動は,商品選択までで終わりなのではなく,むしろその後のモノやサービスの使用・利用の過程が重要だという考え方が芽生え,浸透して行ったのだとしている。二つ目に,学術的要因以外には,市場環境への変化を挙げている。それは,物資が不足していた時代とは異なり,商品を入手するだけでは満足とは言えなくなった変化である。
「広告研究」の研究の例として,Mick and Buhlを紹介している。Mick and Buhlが論じた広告研究とは,「個々の消費者が広告を見たり聞いたり読んだりしたとき,自己と関連づけて広告の根本的な意味を理解することを指す」(43ページ)とし,次の3つのポイントを挙げている。①広告の意味は固定されたものでなく,消費者によって活性化される②メッセージを受けとめる際,消費者は何らかの期待を持って受けとめている③広告は準フィクションである。つまり,広告経験とは主観的なものであり,同じ広告が提示されても,その広告によって生じる広告経験は消費者によって様々だということであり,個々の消費者の人生経験や考え方が影響を及ぼしているのであるとしている。
次に,本題である文化論的視点からとらえた広告経験について説明している。広告経験を文化論的視点からとらえるということは,文化という要因に着目することであるが,日常生活の中で,文化という要因を認識することは容易ではない。というのも,私たちが普段広告を見るとき,広告について身の回りの消費者と語り合う時,その消費者も同じ文化圏内の消費者だからであり,自分自身の広告経験が文化の影響をどのように受けているかを把握するのは困難であるからであると説明している。そしてここで,広告経験を文化論的視点から説明するための概念モデルを3つ説明している。1つ目は,McCracken(1986,1988)の意味移動モデルで,文化的に構成された世界に存在する既知の属性と,商品に存在している属性との類似性を見出し,両者を結合させるというものである。こうして意味づけされた商品を,消費者が自分の物として受け入れたとき,意味の移動は完了するとしている。2つ目は,McCracken(1987)の意味ベースモデルで,商品は,自らの生活世界を構成している様々な事柄の意味を理解し,体系化していくための重要な道具とされ,広告はこのプロセスの中で独特な役割を果たすと想定されている。3つ目はSolomon(1988)の意味の篩(ふるい)モデルで,これは,商品が潜在的に持っている多数の意味の中から,選ばれたいくつかのものだけが一般大衆に広まっていくメカニズムを説明するモデルである。これら3つを踏まえて,「それらに共通していることは,商品および商品の消費という行為には多分に文化的意味が託されているということ,そして,その意味を伝達する有力な媒体として広告が存在するということである」(46ページ)と考察している。しかし,これらのモデルには,①実際には,広告主側が意図しなかった意味が伝達されることもあるわけだが,モデルではこのことが考慮されていない②広告はいつも文化的意味を伝達しているわけではないが,このことがモデルには十分示されていない③広告は自分の文化の理解だけでなく,他の文化の理解にも役立つと考えられるが,このことがモデルには取り上げられていない,というような問題が残されているとしている。そして,「これらのモデルは消費者の視点から広告を捉えたものであるが,消費者行動研究領域への貢献を十分明らかにしていないように思える」(47ページ)とし,今後は,消費者行動研究領域の中での意味づけや,他の研究テーマとの関連性も考慮して広告経験研究を進めていく必要があるとしている。
出典:堀内圭子(2005),『広告と消費者行動-消費者の「広告経験」に及ぼす文化の影響』『日経広告研究所報』,219号,42-47頁。
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2005年07月28日
ユビキタス時代のマス広告の表現変容に関する考察(南 2005)
要約
この論文では,(時には人の考え,予想に反して)時代は変化しており,それに伴い変化するメディアの中で「ユビキタス時代」の到来を目前に控えた今,マス広告はどのように変化するのか?それがとるべき道を考察している。
筆者はユビキタス時代を2008-2010年に設定している。その頃には世界人口の3人に1人が携帯電話を持っており,日本におけるそれはほぼ全ての成人が必需品として所有している予想に準拠している。
ユビキタス時代には様々な変化が考えられ,最も影響力のあるマス広告=テレビCMを取り巻く外的環境も大きく変化した。
①CMザッピング装置の普及
②One to OneコミュニケーションによるCM視聴態度の変化
③媒体の多様化による媒体価値の低下(セントラル・バイイングによる媒体価格の抑制による)(16ページより)
などが挙げられ,これらの変化によって新たなパラダイムが出現するため,「テレビ媒体の代理買い付けを主要な収益源としてきた広告会社の機構変革を促し,コンサルティング会社,クリエイティブ・エージェンシー,メディア・エージェンシーへ機能分化する広告業界ビックバンの可能性を視野に収めておく必要がある」(16ページ)。しかし,このビジネスモデルは広告主に選択肢をもたらすが逆に包括的な機能は果たさない。そのため広告主は一元化した機能を果たす「IMC機能やAP(アカウントプランナー)機能が求められる」(17ページ)。
「ユビキタス時代」へ至るまでには,行動科学・人間の合理性に基づくモダン(実証主義的マーケティング)に始まるが,人間は多面的でその行動は「非合理的」で数字では割り切れないものが多く内包されているとうい観点から発達したポストモダン(解釈主義的)マーケティングが台頭した。「多面性を持った生活者を多重構造のタッチポイントで据えるホリスティックマーケティングが2000年代のマーケティングを活気付けている」(17ページ)。
「ユビキタス時代」は消費者の情報摂取態度の選別化を極め,ウェブと連動するもの,ドラマ仕立てのものなどの対策がすでに取られている。それに加え,ユビキタス時代はメディア環境に変化を及ぼし,「生活者と企業の間を情報がインタラクティブするデジタル・メディア」(18ページ)がある。今後インタラクティブ性が更に進めば,企業にとってそれは生活者情報を知ることができるという積極的な意味を持つと筆者は主張する。生活者をパートナーとして据え生活者の声を企業活動に生かすことが重要である。マス広告の機能を果たしながら生活者との接点を持つCRM(カスタマー・リレーションシップ・マーケティング)が実践されなくてはならない。そのため「マス広告は頻度よりも到達度が求められるようになる」(19ページ)。
情報で溢れている今日では,消費者は自分に関心のあることには敏感であり,積極的に関与するが,そうでない場合は認知しない。消費者に「到達」するためにはまず消費者からの広告無視のザッピングを防がなくてはならない。
消費者が第一段階として好感を抱き,さらに大きな関心を示した時(関心>好感),速やかな認知を示す。関心よりも好感が勝っている時(好感>関心),「クオリティの高い情報に触れたいという生活者の要望にこたえる感性刺激型の『マス広告情報』パターン」(20ページ)ができる。クオリティの高い情報とはブランド・エクイティに寄与するものと定義され,消費者が心で受け入れるインサイト広告がマス広告の情報の質を高めると筆者は述べている。
結論
情報の「量」が満たされると次は「質」が求められる。「ユビキタス時代」は,広告ザッピングの時代であり,マス広告は,消費者の購買意欲を導くインサイト広告に変容することが求められ,その製品の価値を感知させていかなくてはならない。
出典:南勲(2005),「ユビキタス時代のマス広告の表現変容に関する考察」『日経広告研究所報』,39(1),16-21頁。
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2005年07月27日
米国小売業のイノベーション(渦原 2001)
要約
近年,ロジスティックスや情報通信の技術発達などによって,企業との取引関係,顧客対応において小売業のイノベーションが進展している。米国小売業は,電子商取引において世界の最先端にあり,それを活用した新業態の開発などイノベーションを次々と生み出してきている。この論文では,米国小売業の業態開発や適応行動などイノベーションの本質を考察しており,合わせて今後の課題と展望を論じている。
米国小売業のイノベーション
ここでは,米国の小売業態の進展とその発展の規定要因について述べている。
米国の小売業態は,食品を取り扱う小売業と扱わない小売業とに分かれて発展を遂げてきた。米国の小売業の発展の歴史は,度重なるイノベーションによる新業態の誕生の歴史であり,第一回目はデパート,第二回目は通信販売,第三回目はディスカウント・ストアの誕生であったとしている。このように新しいビジネスモデルが次々と誕生し,顧客の愛顧を獲得した競争力のある業態が選別されてきた。そして,今や電子商取引の登場による,第四のイノベーションが生み出されたとしている。次に,このような小売業のイノベーションの規定要因として,ここでは米国の流通システムの特徴に加えて,消費者行動の変化と技術革新を挙げている。まず米国の流通システムは,流通チャネルが短い,小売業が強大で自立性がある,PBが強い,などの特徴がある。そして,イノベーションが生まれた背景として,外部環境の変化,特に消費者行動の変化に着目している。米国の消費者は,民族の多様化,家族人員の減少などが目立ってきているだけでなく,価格と価値のバランスを重視するバリュー志向,健康志向などが顕著になってきている。また技術革新においても,インターネットを利用した電子商取引やロジスティックスの技術革新により,顧客に対するサービスが向上している。以上のことが,近年における業態開発のイノベーションの源泉となっている,と述べている。
イノベーションの新たな展開
近年,インターネットを利用した電子商取引により,企業の取引関係,顧客対応において変化し始め,新業態の開発などのイノベーションが生み出されてきている。インターネットのマーケティングの特徴として,時間と距離を克服し直接的に需給接合が可能になり,顧客購買行動の分析が容易になったなどがあり,取引関係や顧客対応において革新が生まれた。そして,そのイノベーションによる新たなビジネスモデルとして,オンライン専業を挙げている。その代表例として,アマゾン・ドット・コムがあり,次第に既存の大手小売業が本格的参加し始めた。しかし,オンライン専業業態は,顧客とのリアルタイムのやりとりや,物流や在庫管理の整備が十分ではないという問題を抱えていた。このような問題点を受けて,新たに生まれたビジネスモデルとして,クリック&モルタル業態を挙げている。クリック&モルタル業態とは,小売企業が実店舗とオンライン販売を兼ねた業態である。このクリック&モルタル業態の誕生によりオンライン専業との間で,勢力争いが展開され,最近では「インターネットと有店舗の融合化によるマルチ・チャネルの優位性が見られた」(144ページ)としている。そして,クリック&モルタル業態は今後,商品提供だけでなく,物流や金融機能も付加し,サービスの範囲を拡大する方向にある,としている。最後にこの論文では,これからの小売業は,クリック&モルタル業態が主流となる方向に展開しており,オンラインの強みを上手く活かして,販売チャネルの使い分けによる相乗効果を発揮させることが重要である,としている。また,日本の小売業についても,日本ではコンビニエンスストアや携帯電話を情報端末として利用したインターネット・ビジネスの発展が見られ,米国とは異なる小売業の展開が予想されると述べている。
結論は以下の通りである。米国小売業は消費者行動の変化への対応,技術革新によって,新業態の開発するなど,イノベーションを次々と生み出し,近年では,電子商取引の発達によりオンライン専業やクリック&モルタル業態という新業態が誕生した。今後も米国小売業は,専門的な情報提供やリピーターの確保などによって,電子商取引を成功させ,クリック&モルタル業態を広く展開していく方向にあるとしている。
出典:渦原実男(2001)「米国小売業のイノベーション」『流通』No.14,137-147ページ。
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2005年07月26日
Product Bias in the Central American Common Market(Schooler 1965)
要約
この論文では中米市場間を対象とし,原産国に対する認識の違いによって製品の評価に違いが生じるのか,また生じるのであれば,どのような要因が原産国に対する認識の違いを生むのかについて分析がなされている。
仮説
政治的な統一への様々な試みの失敗は,中央アメリカにおける歴史のひとつである。地域間に存在する他国への妬み,警戒心,敵意が政治的統一を拒んできたのである。これらの要因は経済問題にも影響を与えると考えられ,特に製品の評価に重要な影響を与えていると考えられる。こうした考えを前提として,原産国の製品評価に対する影響や認識の違いを生む要因について検証がなされている。
まずこの論文では,次のような仮定が示されている。同じ製品であっても,原産国の違いによって製品に対する評価が異なる。さらにある特定国を原産国とする製品は種類が違っても同じ評価を得る。こうした仮定を基に,以下の仮説をたて検証が試みられている。
仮説1.製品の原産国のちがいによって製品評価に差が生じる。
さらに,第2の仮説として,対象国の政府・産業・労働組織・国民に対する評価や対象国へ旅行経験の有無が,その国に対する評価に影響を与える重要な要因と仮定し検証を試みている。
検証
グアマテラにあるサンカルロス大学の学生でありアルバイトをしている200名を調査対象とし,その200名を無作為に50人ずつ4つのグループに分類し比較がなされている。ここでは,メキシコ,グアマテラ,エルサドバドル,コスタリカを対象国としている。ミックスジュースと綿と麻で出来た布地を対象製品とし,4つのグループごとに異なった原産国ラベル(メキシコ・グアマテラ・エルサドバドル・コスタリカ)を製品に貼付する。原産国ラベル以外は同一製品である二つの製品に対する評価がグループ間でどのような差が出ているのかについて検証されている。
さらに,対象国の政府,経済構造,労働組織,国民に対して回答者がどのように評価しているかについてや対象国への旅行の有無についても調査が行われている。
結果
仮説1.の検証の結果から,グアマテラとメキシコ製品は同一の評価を受けていることが明らかにされている。さらに,グアマテラとメキシコの製品に対する評価はコスタリカやエルサドバドルの製品よりも高い評価を得ていることが示されている。調査の結果から4つの調査国は、メキシコとグアマテラの上位国とコスタリカとエルサドバドルの下位国に分類され、製品評価に対する影響に違いがることが明らかにされている。
第2の仮説の検証の結果から,経済構造や労働組織,旅行の有無は原産国の評価に対して影響を与えていないことが明らかにされている。その国の国民に対する評価と政府に対する評価が原産国による製品評価の違いに影響を与えていることが明らかにされている。
結論
原産国ラベル以外は同一の製品であるにもかかわらず,原産国表示の違いによって,製品評価に差が出たことから原産国効果の存在が証明されている。さらに,そうした原産国の評価の違いを生み出す要因として,その国の国民に対する評価や政府に対する評価が重要であることが明らかにされている。
出典:Schooler, Robert D. (1965), "Product Bias in the Central American Common Market," Journal of Marketing Research, Vol. 2, No. 4, pp. 394-397.
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エリア別のコミュニケーションを考える-定性的なアプローチによる探索-(国生 2002)
ここでは,消費者の声からコミュニケーションのエリア差を探索するために,広告に関連する自由連想や自由回答のデータを収集し,収集したデータをテキストマイニングによって分析した結果が紹介されている。
欧米のメディア・プランニングではジオグラフィックの記述があり,エリアごとの適切な戦略によって全体の課題解決を図ることが提言されているとしているが,日本のエリア・マーケティングは重点地域を選択することで集中的に課題解決を図ろうとする発想が強いとしている。近年では,よりエリアの視点からの課題解決が求められるようになってきているが,ビークルの選定などをエリア別で行うことはあっても,コミュニケーション戦略に欧米のようなジオグラフィックの視点を取り込むことは少ないのではないかとしている。今回の分析にあたり,交通網やメディアの発達によって日本のエリア差は縮小傾向にあるという見解に対しては,著者の過去の分析を通じてエリア差の存在は確認しているとしている。
今回の分析は,札幌市,東京都23区,名古屋市,大阪市,福岡市の5地域に居住する20~49歳の消費者(パネル登録者)によるウェブ・リサーチで収集された自由回答をテキスト型データとして使用している。また,自由回答との関連を分析するために,データ収集時に定量的な設問も行っている。分析にはWordMinerが使用されている。自由回答の質問は,①広告と聞いて思い浮かぶこと,②あなたにとって広告とは,③この3ヶ月間に見たCMで好きなもの3つを選んでⅰ.何の広告か,ⅱ.どのような広告か,ⅲ.どんな印象を持ったか,というものである。
質問①についての自由回答はメディアに関連する語が上位を占め,複数回答で選択肢型の「日ごろから関心のある広告」という質問と比べてみると比率は異なるが順位は似ているとしている。自由回答の上位5つは順に「テレビ」,「新聞折込」,「新聞」,「交通広告」,「宣伝」となっている。居住地別の差異としては,名古屋市では「新聞折込」が「テレビ」を上回ったこと,東京23区では「新聞折込」,「新聞」と「交通広告」がほぼ並んでいて「交通広告」は2位であること,福岡市ではメディアに関連した答えは少なかったことと「雑誌」が5都市で1番上位にきたこと,が述べられている。質問②についての自由回答は「情報」という言葉を含んだ語が多くあがり,全体の40%にのぼったとしている。クラスター数を20と指定して行ったクラスタリングの結果,サンプルサイズの大きい順に「情報源」,「商品を知る」,「楽しみ」,「邪魔と興味」,「購入の参考」,「宣伝」,「イメージをつくる」,「流行を知る」,「目につく」,「暇つぶし」,といった順になっている。居住地別では名古屋市で「情報」が,福岡市で「楽しみ」,「流行を知る」の比率がそれぞれ比較的高く,質問①の結果と関連しているようだとしている。また,「楽しみ」,「流行を知る」については居住地別のレンジが性年代別に比べて高くなっている。質問③についての自由回答はデータの収集時期に放送されていたボスHG,au,写ルンです,スカイパーフェクTV,ケミストリーのコラボレーションCMをあげる回答の非常に多かった。ブランド名・企業名では他の4社とコラボレーションしていたボスが圧倒的に多くあがっている。コラボレーションCMをあげた人を居住地別に見ると名古屋市でやや高めとなっている。コラボレーションCM以外のその他の広告を居住地別に見るとローカルCMも含まれてくることに対して,分析は行っていないが出稿量の影響がありそうだとしている。コラボレーションCMとその他の広告の印象については,両者とも「おもしろい」が最も上位にきているのに対し,2番目にくるのが前者では「続き」が見たい,「ストーリー」が「楽しみ」で,後者は「~したいと」いう欲求や意向であったが,「買いたい」,「飲みたい」などの欲求や意向を広告の印象として多くの人があげたことには少し驚いたとしている。
結論と課題
今回の分析で「消費者のメディア接触の量だけでなく,質を洞察してエリアに適した戦略を策定すること」(33ページ)の重要性の認識を強めたとしている。また,消費者にとって広告が情報源であると同時に,そこに驚きやおもしろさを得る楽しみを見出していることを再認識したとしている。課題としては,今回のウェブ・リサーチでは答えたい人だけが答えたとも考えられる点,居住地の代表性の問題といった点から一般化を行うのは危険であることなどが述べられている。
出典:国生理枝子(2002),「エリア別のコミュニケーションを考える-定性的なアプローチによる探索-」『日経広告研究所報』,第36巻5号,28-33頁。
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2005年07月25日
中国の小売競争―百貨店の盛衰とスーパーマーケットの台頭―(葉 2004)
要約
まず「業態の分析と研究は,小売業構造における競争状態を明らかにするもの」(65ページ)であると述べられ,この論文では,業態の発展や流通の変革が小売競争の過程であるとされている。そこで,小売競争に関するこれまでの研究がレビューされている。レビューを通して,小売競争構造に関する研究が整理され,分析の視点が4つ挙げられている。その中の異業種間競争に主に焦点をあて,「中国における百貨店の盛衰,及びスーパーマーケットの台頭プロセス」(65ページ)の考察がなされている。最後に,中国の今後の小売競争の展望が示されている。
小売競争に関する既存研究
ここでは,これまでの小売競争に関する研究が整理されている。まず,流通は生産と消費の懸隔を架橋するものであるから,生産と消費の両方から影響を受けるとし,流通競争構造についても「生産と消費の両側面における諸条件を考慮しなければならない」(66ページ)と述べられている。次に,流通競争とくに小売競争については主に経済学的な分析がなされてきたとし,そのような既存研究を整理している。小売競争は多様で特殊的であるために,経済学によるアプローチも依然必要であるが,小売に特殊な理論モデルの構築や分析方法の開発が必要と述べられている研究や,同じような考えに基づいて今までとは異なるアプローチを取っている研究があることが示されている。
小売競争の構造
そして,これまでの研究を整理した結果,小売競争構造について垂直的競争,水平的競争,異業態間競争,商業集積間競争という4つの視点が示されている。
寡占的製造企業が商業者の交渉力を弱めるためにマーケティングが導入され,そのような製造企業のマーケティング活動によって競争構造が変化すること,また近年の小売業のPB導入などによって流通における両者の勢力のバランスが変わることなど,製造企業と小売業の対立で競争は変わるとされている。また,生活協同組合など消費者もまた流通に介入していると述べられている。このように,流通機能は主として商業者が担うが,その一部を製造企業や消費者が分担しているために,垂直的競争の問題が引き起こされると述べられている。これは小売業に特有であり,経済学ではこの視点が弱いという指摘もなされている。また,「水平的競争は,同業態の流通機関,ないし流通組織体相互間の競争である」(68ページ)。さらに,異業態間競争はスーパーマーケットやコンビニエンス・ストア,専門店,百貨店など異なる小売業態間の競争であるとされている。小売業の総合化と専門化が同時に進行しているために異業態間の競争が生まれると述べられている。経路間競争もここに含まれる。そして,ショッピングセンター,商店街,小売市場などの競争を商業集積間競争としている。
中国における小売競争の変動と現状
競争の新展開として流通のグローバル化が挙げられている。中国小売市場への巨大流通外資の参入は競争の局面を揺るがすものと考えられるとされ,中国における小売競争の変動と現状についてみていくことにしている。
まず,中国における小売競争がどのように変動してきたかが示されている。改革・開放以前は,中国における業態は「供銷社(農村),百貨店(都市),そしてよろずやの三種類に限定されていた」(70ページ)という。それが改革・開放以降,外資系小売企業によってスーパーマーケット,GMS,コンビニエンス・ストア,倉庫型ストアなどが持ち込まれたことによって大きく変化した。これにより中国の小売市場では競争が生まれたという。ここでは百貨店とスーパーマーケットの競争を中心に,中国市場における小売競争を見ていくことにしている。
百貨店は1900年に登場し,行政部門として管理されていたために競争もなく,中国小売業の主力業態として長い間その地位が守られていたという。1980年代後半から1990年代前半にかけて黄金期を迎え,好況が続いていたが,改革・開放によりその優位性が弱まっていったとされており,いま,百貨店は「異業態競争に直面して生き残るための改革が迫られている」(72ページ)と述べられている。しかし,そもそもの不振の原因は「水平的「過度競争」にある」(73ページ)という。したがって,百貨店の衰退において,需要を無視した短期間での新店舗の大量出店が,もたらした水平的競争の激化,スーパーマーケットなどの新業態の相次ぐ出店による異業態間競争,さらに「外資系百貨店の参入による既存国営百貨店への影響(垂直的競争,水平的競争)」(73ページ)という競争構造が見られると述べられている。 そして,「中国の百貨店業界は,不振の対策として,業態内の自己革新,及び業態転換による経営再建が散見される」(74ページ)とも述べられている。
これからの展望
これまでも外資系小売企業による参入によって異業態間競争や水平的競争,垂直的競争が激しく行われてきたが,WTO加盟によりさまざまな規制が緩和されることで競争はより一層激化すると述べられている。また,「中国流通市場全体が飛躍的成長を遂げつつあるなか,いずれの業態も依然として成長の余地は大きい」(76ページ)という見方も正しいかもしれないとも述べられている。そして,百貨店とスーパーマーケットの品揃えや立地における相互補完や強調の関係も見過ごせないとしている。いずれにしろ,グローバリゼーションの進展に伴って,「中国市場における小売競争は新しい段階に踏み込んでいる」(76ページ)と締めくくられている。
出典:葉翀(2004)「中国の小売競争―百貨店の盛衰とスーパーマーケットの台頭」『流通科学大学論集-流通・経営編-』第16巻第3号,65-77ページ。
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2005年07月23日
小売業の主要業態の論理的構造―百貨店とスーパーの基本構造(出家 2004)
要約
この論文は小売業の主要業態である「百貨店」と「スーパー」の基本構造について考察を行っている。大規模小売業は必ず何らかの業態を採用していることから,大規模小売業を「業態論」として把握する必要があるとし,大規模小売業が業態を通じてのみ大規模化が可能であると考えるならば,いかなる過程を経て業態を採用し,大規模化を行ったかという過程の解明は大規模小売業の具体的形成過程の解明につながるとしている。ここでは石原武政・中野安の研究成果について取り上げた後,「買回品」「最寄品」をキーワードとして百貨店とスーパーの業態説明を行うことで二業態の論理的識別が明確にされている。そして日本においてはこの二大業態が小売業を牽引してきたことから,この主要業態の識別を明確にすることが大規模小売業の具体的形態について把握するという点で重要な意味を持つとしている。
1.百貨店の基本構造
百貨店は取扱品目のフルライン化がみられ,その点ではスーパーと共通性を持つが,売上高に占める割合から主力商品は衣料品であることが理解できるとしており,「買回品」が取扱商品の主力であると述べられている。この「買回品」は購入頻度が少ないことから百貨店は多くの購買人口を必要とするとしており,そのため広域な商圏をはじめから必要とするとしている。また,買回品は最寄品と比べて商品回転率が良くなく,売上を上げるためには商品単価を上げる必要がある。重要なことは消費者がこの高価格な商品を気にしないで購入するように仕向ける必要があり,その手段が高級品であるという点であるとしている。このようにして百貨店の「買回品」は高級品へとシフトし,「高級化・高品質・高価格・高サービス(対面販売)」(105ページ)が条件になるとしている。そして百貨店の利潤は質の追求によって実現されるのであり,その商品の質を浮き立たせることを目的に建物・売場・陳列を豪華・華麗にするとしている。以上のように百貨店は必然的に高コスト型経営を行うこととなる。そして更に買回品は最寄品と比較して購買頻度が低く販売効率が悪いとしており,そのことから少量仕入れ・少量販売を余儀なくされ,多品種少量・個別対応仕入れを行うと述べられている。このように百貨店は一つの建物に業種にみられた売買の集中を内部化し,縦の拡大を図りながら発展したとしている。
2.スーパーの基本構造
(総合)スーパーは売上高において占める割合が高いのが食料品日常衣料を中心とする最寄品であり,これがスーパーの主力商品であると述べられている。最寄品は購買頻度が高いため価格を低く設定するのが特徴であるとし,そして購買頻度が高いことから小商圏でよいと言うことができ,立地条件に制約がないということが述べられている。また,最寄品は購買頻度が高いことから低価格設定を行わざるを得ず,「低価格訴求型戦略」による薄利多売が志向されることとなるとしている。そして低価格設定を行うためには低価格仕入れが必要になるため,チェーンシステムを採用しているとしており,本部による大量一括仕入れにより低価格仕入れを実現したとしている。そして「大量仕入れ―大量販売」(108ページ)という規模の経済が本部と支店の円滑的なシステムによりできあがるとしている。このようにスーパーは百貨店と異なり出店展開=横への拡大により成長したとしている。「買回品」とは異なり「最寄品」は購買頻度が高く,マスマーケットを初めから持ち,消費者の大量購買を実現することが容易であったとしており,販売の標準化・画一化を志向したイノベーションシステムがスーパーの中核システムであるとしている。さらに最寄品は低価格設定を前提にせざるを得ず,低利潤を余儀なくされるため薄利多売により利潤の拡大を図るが,経営管理コストが増大すると利潤が消えてしまうため経営管理コストの節減が重要課題になったとしている。そこからセルフサービスが考え出されたとしている。以上のようにスーパーは流通レベルの「標準化・画一化」(109ページ)による規模の経済を考慮した各種のイノベーションにより支えられたとしている。
結論は次の通りである。買回品・最寄品をキーワードとすることにより百貨店とスーパーという小売業の主要業態の基本的論理的な識別が明確になったとしており,小売業の大規模化はこのような業態を通して実現したことが重要であり,そういった意味で業種から業態への過程を把握するということは大規模小売業形成の具体化において重要であるとしている。そして零細小売業にとっては同一の取扱品目を扱う点で百貨店よりもスーパーの方がより脅威となり得るとしている。
論点は次の通りである。筆者も述べているところであるが,今後はコンビニエンス・ストアも含めた考察が必要であると考える。
出典:出家健治(2004)「小売業の主要業態の論理構造―百貨店とスーパーの基本構造」『関西大学商学論集第49巻第3・4号合併号』89―110ページ。
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競争広告の方向性(岩本 1996)
要約
激化したマーケット市場では,企業の優位性をアピールするような広告を出すことが困難になってきている。そこで本稿は競争力のある広告のコミュニケートの仕方を見直し,競争力を発揮できる広告とはどのようなものであるかの整理を試みるとしている。
1.マーケティング競争のファンダメンタルズ
マーケティングにおける競争は,競合者,規制,経済状況などの様々な外部からの要因に影響を受ける。そのために企業は,管理可能な資源をうまく組み合わせて,変化する環境に対応しているとし,本稿ではその一つであるマーケティング戦略の基礎となるマーケティング・ミックスに重点をおいている。その組成の背景は,「最適な組み合わせで標的市場に対するアプローチの遺漏をなくし,円滑な購買が遂行されるよう消費者に寄与,貢献することにある」(11ページ)としている。その際,違う変数同士がシナジー効果を期待できるように編成されている。広告などを連動させるプロモーション・ミックスでは,メディアを併用させるメディア・ミックスや訴求内容をメディアに合わせて行うメッセージ・ミックスもよく知られるようになってきたとしている。また,各媒体同士がかけあいをしながら,訴求効果を高めていくブリッジ広告も定着しつつあるとしている。しかし,その一方各部門ごとに独自の訴求を繰り返すことは,企業としての統一感や効率性が欠如してしまうため,統合型マーケティングの重要性も唱えられてきていると記している。
競争優位を勝ち取るためには,自社資源,競合者の行動と顧客ニーズの3つが重なり合うエリア(オーバーラップ領域)にいかに取り組むかにかかっているとしている。すなわち,いくら競争優位の源泉があっても,その訴求が消費者に的確に届かなければ意味がないのである。そのためにも,どのような広告をうつのかを考えることが重要となってくる。そのような場合「競争優位の訴求は客観的で信頼性が高いことが求められるわけで,情報提供型広告に目が向けられることになる」(12ページ)としている。
2.競争広告とメッセージ戦略
バーコウィッツらは販売主眼において,製品・サービスの広告を①導入期に用いられる開拓広告(情報提供型広告)②他社との比較優位を強調するための競争広告(説得型広告)③知識の補強や商品の成熟期に用いられる想起広告に分けることができるとしている。その中でも競争広告は競合者との競争優位の差を明確にして,選択的需要を増進することであるが,「競争広告は市場での地位に関係なく,競争原理にのっとり,競争優位性を訴求しながら販売につなげる広告を広く指すものである」(12ページ)としている。また,販売につながらなくとも,競合者の広告活動を相殺することで,自社製品の販売額の減少をおさえる,防御広告と捉えることもできるとしている。マーシャル,ピグーらは,競争広告はシェアの奪い合いになるだけで,社会的浪費であるとしているが,競い合うことで市場活性化につながるので,狭い視野で見るのは適切ではないとしている。競争広告の中で既存の製品の批判をすることで新製品を売り出す広告を挑戦広告と言う。挑戦広告は日本の風習などにそぐわないとしているが,こうした広告が登場すると情報インパクトは絶大なものであるとしている。
広告戦略のプロセスは,広告目標や標的が設定され,メディア戦略やメッセージ戦略をどのように行うかが決定され,本稿では後者のメッセージ戦略を取り上げている。その手法としては「エンターテイメントとユーモア,証拠だて,名声の利用,スライス・オブ・ライフ,比較,象徴,サブリミナル」(13ページ)があり,それにタレントや動物を組み合わせたものが定式化していると記している。その手法の焦点となるのはユニーク・セリング・ポイントの強調,ブランドのポジショニングであり,ブランド戦略の展開と連携した差別化戦略にスポットが当てられており「差別化の対象は品質,デザイン,支援体制,イメージ,価格である」(13ページ)としている。メッセージのパターンは以下の8つが挙げられている。①No.1の訴求②プロ・先駆者の推奨・保証③専門用語の使用④イノベータの登場⑤プレミアムの付与⑥選択の強要⑦値下げの強調⑧アンチ・セグメンテーション(何にでも合う万能タイプ製品であることを主張し,競争力をもつこと)しかし,競合者との比較したメッセージ戦略には限界があるので,この領域だけで競争広告が展開されることは少なくなったとしている。
3.競争広告の競争力の方向性
広告が訴求力を発揮するためには,製品自体が明白な比較優位性を保持していなければならない。しかし,すぐに販売やマーケットシェアに直結せずに,のちのち販売などにつながることを見越して,製品は常に市場で入手できる状態にしておかなければならないとしている。
売上高を誇示する広告は,キーファクターなどを明示しなければ持続性はなく,短期間のプロモーションに終わってしまう危険性があり,プロフィットプロモーションには繋がらないとしている。目先の比較優位性訴求に依存せずに「長期計画の中での性格付け,メディア・ミックス,異業種との連携が組み込まなければならない。値引きを伴わない付加価値提供型のプロモーション,すなわち,ブランドパワーにつながる一貫性のある競争優位を生み出すプロモーションが広告情報に組み込まれる必要があろう」(14ページ)としている。
競争力を高めるためには,顧客の声を聞かなければならず,そのためには莫大なコストがかかってしまう。そのため企業はコストがかかり見通しのつきにくい新規顧客よりも,既存顧客とのつながりを強化して,維持していく傾向にある。また,新規顧客に何らかのプロモーションを実行しようとしても,新規顧客の情報が乏しいため,競争優位性の訴求も不明確になってしまうとしている。それを避けるためにも,顧客データベースを常に更新し,インタラクティブ性をもち,「自ら入り込んでいくオンデマンド性のある広告から支援を受け,ネガティブな情報ものせていくことで信頼関係や学習関係を保持していくことが欠かせない」(15ページ)としている。
結論は以下のとおりである。以前からある優位性の訴求やタレントに頼った広告では現在のマーケティング市場では通用しなくなってきており,企業が顧客と同じ場所でコミュニケートし,双方が満足を得る状態を維持することが広告には重要であるとしている。すなわち,広告でアクションを起こすと,それに顧客が応えてスパイラル効果が起こることで,広告は初めて競争力をもつとしている。
出典:岩本俊彦(1999),「競争広告の方向性」『日経広告研究所報』,第30巻4号,11-15頁。
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2005年07月22日
米国ウォルマート社の小売業態開発の展開(渦原 2002)
要約
本稿では2000年度売上高1933億ドルで,全10ヶ国で4294店舗を営む世界一の小売業であるウォルマートについて,創業期,DS導入期,DS成長期,DS成熟期,スーパーセンターへの転換とグローバル展開期とその史的展開を概観することにより,業態開発戦略とその展開,優れた小売技術と革新について分析がなされている。そして結論として,今後ウォルマートが継続的に成長していくための5つの課題が指摘されている。
ウォルマートの業態開発戦略とその展開
ここではウォルマートの業態開発展開を開発順に見ることにより,新業態開発の動機やその業態の特徴などが述べられている。まず創業時のバラエティストアだが,これはソフトグッズや非耐久消費財を中心に多様な日用雑貨を低価格で提供する小売業であり,このころから既にウォルマートの,ベンダーとの取引条件時の価格交渉のシビアさ,コスト管理の厳格さが誕生していたとしている。しかし,バラエティストアの多店舗化と大規模化を推進していくうちバラエティストア業態での限界とディスカウントストア(以下DSとする)の潜在能力に可能性を見出し,DS業態の開発を進めることになる。DS時代には,ウォルマートの経営的特徴である大型店で多様なブランド品を提供する手法である『エブリデー・ロープライス戦略』が消費者の支持を集め低価格でも販売量により利益が確保された。さらにこのころに自社の物流センターを建設し,周辺に店舗を効率よく配置するドミナント戦略でその規模を拡大していったとしている。次に,DSの成熟化問題や大都市地域市場進出を目的としてメンバーシップ制のキャッシュアンドキャリー卸であるメンバーシップホルセールクラブを導入したとされている。しかし現在ではDSストアの成熟化問題を解決するはずが,メンバーシップ・ウェアハウスのビジネス自体が成熟期に入ってしまっている。そして次に試験的に導入されたのがハイパーマーケット業態であるが,この業態も客が欲しい商品を探すのに時間がかかる上に,レジの待ち時間が長く,品揃えも限定されているという問題点があり,他の低価格訴求業態と比較して必ずしも競争力が得られなかったため,消費者からの評判が悪くわずか4店舗で出店を中止した。そしてそのハイパーマーケットの反省点を踏まえてスーパーセンターの開発に着手した。スーパーセンターはハイパーマートのコンパクト版であり,DSに大型スーパーマーケットを組み合わせた衣食住のフルラインの業態であり,この業態で初めてウォルマートが本格的に食料品分野に進出してきたため既存スーパーマーケットは大きな打撃を受けたとされている。そしてこのスーパーセンターが現在は全米ウォールマートの主力業態になっておりDSからスーパーセンターへの業態転換を促進中であるとしている。そしてこのスーパーセンター業態を中心にグローバル展開を図っていく計画であると述べられている。
小売技術と革新
ウォルマートの店頭で目にするスローガンが"We Sell for Less"(わが社はより安く販売する)と"Satisfaction Guaranteed"(顧客満足保証)であり,それを可能にするための経営手法がエブリデー・ロープライス(以下EDLPとする)経営と,それを可能にする低コストオペレーションシステムと顧客サービスの向上する経営の確立にあるとしている。その具体的方法として,ベンダーとのコスト管理,効率的物流システムの構築,戦略的パートナーシップの確立,勤労意欲のある従業員と顧客満足経営の構築などが挙げられている。さらにその中でもベンダーとの協力による低コスト経営と,メーカーと小売業の協働事業CPFRへの取り組み,最新の情報技術の活用について言及されている。ベンダーとの協力による低コスト経営を実現する方法には大きく分けて3つあり,①メーカーとの直接取引きや,中間商人や販売員の排除,②物流コスト削減のための自社物流センター・自社トラック隊の設置,③広告費の削減などがコスト削減を可能にし競争優位の源となっているとしている。次にメーカーと小売業の協働事業CPFRへの取り組みであるが,これはいわゆる戦略的同盟であり,メーカーと小売業の両者が消費者起点により取引関係を再構築し,小売の持つPOSデータを利用し,ベンダーが主導権を握り在庫管理,受発注,配送計画などのシステム間連携を行うことにより生産・在庫コストの削減を可能にしている。最後に最新の情報技術の活用であるが,この情報技術活用の戦略の要となるのが『超大型の記憶装置の中に詳細な生データを蓄積し,ユーザーの問い合わせにこたえて必要な情報を提供する仕組み』(122ページ)であるデータウェアハウスである。さらにウォルマートはこのデータツールであるウェアハウスを分析し情報からナレッジへ進化させる分析ツールを持っており,これらを統合したナレッジコロニーをベンダーとともに利用することによりストアレイアウトの改革やプランニングの改善,取り扱い商品構成,販売促進などの分野で成果を出しているとしている。さらにはメーカーと小売業がインターネットなどを通じて需給予測データを互いに作成しすり合わせることにより在庫削減と販売機会の損失を防いでいると述べられている。
結論として,今後ウォルマートが大企業病に陥らず発展するための課題として,『①新しい成長開発,②積極的な海外店舗展開と国際経営戦略の推進,③PB商品の拡充と,メーカーとの良好な関係維持,④地域社会や中小商店の出店反対運動への対応,⑤労働組合員や差別訴訟への対応』(124ページ)があげられている。
論点としては,課題の③に挙げられていたPB商品開発であるが,米国や日本のように流通の上位集中が進んでいない国では,PB商品戦略はあまり効果的でないと考えられる上に,PB商品の拡充はメーカーとの関係の悪化を生むのではないかと考えられる。
出典:渦原実男(2002)「米国ウォルマート社の小売業態開発の展開」『西南学院大学商学論集』第48巻第3・4合併号,112-124ページ。
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広告と広報の融合に向けて―コミュニケーション中心の経営:MOTからMOCへ(小林 2005)
要約
現場では,広告と広報の融合が始まっているとし,本論では三つの節で,テーマの序説を述べている。最初の節では,トップマネジメントの経営観と広告・広報観が,決断と実行により経営改革と広告・広報改革の成否を決めることを示し,次節では,広告・広報の側から融合を調べ,最終節では経営における全体的なコミュニケーション活動の側から融合を見ている。世の中が「インフォメーション」重視の時代から,「コミュニケーション」重視の時代に移っているという認識のもとに本論を組み立て,情報という言葉も,インフォメーションと訳すよりもコミュニケーションという意味で使う方が世の中の実態に合うようになったとしている。
いまだに実務でも学者の議論でも,広告とは広報は違う仕事をしているという見方があり,広告か,広報かという二者択一がある。西欧を中心とする近代科学は,「垣根を低くする」「垣根を破壊する」のではなく,「垣根を高くする」「垣根を作る」というような,「AかBか」が問題の,物事を分けるという要素還元的な見方で発展してきた。このような考え方はもう古いため,ここでは化学反応と物理的反応を参考にしている。核分裂と核融合では,核融合の方が大きなエネルギーを放出する。広告・広報でも,分けるより結びつける方が大きな効果をあげるとしている。しかし,広告と広報を別の仕事と見ることだけを良しとする見方は間違っていると述べている。「広告・広報を取り巻く状況に応じた戦略を採用することが求められる。融合であれ,統合であれ,状況に応じた組み合わせ採用の必然性が見えなければならない」(35ページ)としている。
次に,広告・広報を再定義している。広告には,情報提供型広告,説得型広告,比較広告,リマインダー広告があるとし,一方PR活動は,好意的評判を得て好ましい企業イメージを抱き、悪い噂や事件を未然に防いで,企業の様々な関係集団と良いリレーションシップを形成するとしている。また,広報部門の機能は,「報道対策,製品パブリシティ,社会環境対策,ロビー活動,投資家対策などである」(36ページ)と説明している。広告・広報の再定義でまず問題になったことは,広告・広報をマーケティングの中で捉えるだけでよいのかということであり,続いてコーポレート・コミュニケーションから見た広告・広報が問題になった。ここでは広告・広報をシステムズ・アプローチで考えることにしている。まず,システムの定義をJISより,多数の構成要素が有機的な秩序を保ち,同一目的に向かって行動するものであるとしている。システム工学の立場からシステムを見ると,外部構造と内部構造があるとし,「内部構造が与えられた時その外部機能を求めることが分析であり,外部機能が与えられた時その内部構造を決定することが統合である」(36ページ)と説明している。システムで見る広告・広報に期待されている外部機能には,広告・広報という二つの仕事の間に壁や差がなく,問題は,この外部機能を達成するための内部構造が十分に対応しているかどうかということであり,内部構造については,仕事の組織,取引構造,インターネットの登場による媒体革新など,システム各要素とその組み合わせを見て,外部機能に応える革新をしなければならないとしている。
続いてMOC(マネジメント・オブ・コミュニケーション)について述べられている。まず,MOCは,八〇年代に技術力で差を付けられた米国のアメリカ企業への対抗意識と理論的・実践的な対応として生まれたMOT(マネジメント・オブ・テクノロジー)を教師として学ぶべきだとしている。「MOTについて書かれた文献を読むと,その実現のためにはコミュニケーションあるいはMOCを中心に据えなければならないことがわかる」(37ページ)としている。最後に,広告と広報はMOCの最重要なサブシステムとしての役割を果たすことを予想しており,「広告・広報の再定義の結論もここから導くことにしたい」(37ページ)としている。
出典:小林貞夫(2005)「広告と広報の融合に向けて―コミュニケーション中心の経営:MOTからMOCへ」『日経広告研究所報』,221号,33-37頁。
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2005年07月21日
「グローバル競争時代」の大規模小売業の戦略展開(宮内 2001)
要約
日本百貨店協会や日本チェーンストア協会が公表する「売上高動向」を見ると,1992年以降,下降傾向を続けており,長期的な低迷状態に陥っている。そして,そのような長期不況下での経営再建・戦略展開が小売業の分野で進められ,大手スーパー企業グループによる新たな経営戦略が見られるようになった。この論文では,こうした状況の下で,小売業が危機的な状況に陥っている要因を明らかにし,そして今後,危機的状況からいかに脱却し,国際競争力をどのようにして創りあげていくのかについて検討している。
日本小売業の現状
ここでは,現在の日本小売企業が陥っている危機的状況について概観し,その状況に陥った要因を挙げている。
まず,現在の景気停滞の要因として,90年代不況の影響を挙げている。こうした景気停滞は,個人消費の萎縮を引き起こし,国民経済として需要と供給のバランスが崩れたため,小売業に深刻な打撃を与えることとなったとしている。第二の要因として,供給能力の過剰,とりわけ大規模小売業の出店戦略を挙げている。1990年代に入り,規制緩和が徐々に進むにつれ,大規模小売業各会社は活発な出店戦略を展開したが,1990年から1999年までの日本経済全体の成長率は約1%とわずかであったため,店舗の拡大路線の採用は,小売マーケットにおける破滅的な競争を引き起こす結果になったとしている。第三の要因として,小売業が危機的状況に陥ったのは,企業の多角化戦略の失敗による負債の増大であるとしている。大手総合スーパー各社は,複数事業の組み合わせによるコスト節減を意図し,範囲の経済性を追及し,小売業態の多様化や事業の多角化を進めた。しかし,企業グループの多くは,中核としていた事業との関連性が薄い事業を多く抱え込んだことで,範囲の経済性を得ることができず,経営資源の過度の分散を招き,業績不振をもたらすことになったとしている。続いて第四の要因には,含み資産重視型経営が破綻したことを挙げている。含み資産重視型経営とは,借り入れをして不動産を保有し,不動産価格の上昇を狙うという,土地の含み資産に依存した経営である。そして,この含み資産重視型経営を進めることで,企業は競争力のない店舗を出店させ,低水準の収益率しか確保できず,90年代不況の影響により,過大な負債を抱えることとなったとしている。最後に,小売業の成長が止まったのは,小売業態の成熟化・陳腐によるものであるとしている。製造業にとって新商品の開発が大きな意味を持つように,小売業にとっては,新たな業態の開発が持続的な成長を支える基盤となっている。しかし,近年においては店舗側の業態供給能力がマーケットの業態のニーズに追いついたため,革新的な新業態を創り出せなくなってきており,新たな業態が創り出せないということは,消費者のニーズを満たす新しいシステムを構築できないことを意味し,小売業の衰退につながると述べられている。
小売業の戦略展開の方向性
ここでは,現在の危機的状況から日本小売業はいかに脱却し,どのようにして国際競争力を獲得できるのか,という課題に対して8つの戦略を述べ,それぞれの戦略を検討している。
まず大規模小売企業は,これまでの損失を返上するために,人員削減や赤字店舗の閉鎖を進め,経営再編のための経営戦略の実現に取り組んでいることを挙げている。また同時に総合商社と資本・業務提携関係を深めており,さらに企業集団の再編に取り組んでいることから,大規模小売企業は大規模な業界再編成をともなっているとしている。
次に,流通業界再編成を進めるにあたって,効率性の追求を挙げている。そのためには不採算店舗を閉鎖し,新たに採算が見込まれる地域に新たに店舗を開設することが必要になり,店舗もスクラップ・アンド・ビルドが一層進められていくであろう,と述べている。
三つ目に,今後,小売業の停滞傾向が続き,価格破壊が進行するなかで,大規模小売業各社は,かつての売上高至上主義から脱却し,利益重視主義にもとづく,低コストによる店舗経営の追求や,費用に対する効率経営の徹底化が必要であるとしている。
四つ目に,販売,在庫管理などのすべての流通機能における情報技術の活用を挙げている。なかでも消費者のニーズに機敏かつ柔軟に対応するシステムの構築が重要であり,それにより顧客満足の実現が可能になるとしている。
また,顧客のニーズに即した対応を迅速・柔軟に行うために,売り場での従業員の創意工夫や積極性を汲み上げる仕組みが必要になるとしている。つまり,現場を足で這いずり回るタイプの,MBW(Management By Walking)型の売場改革・業務改革・組織改革を進め,現場における情報交換・共有を行うことが重要であるとしている。
さらに,大規模小売業各社が持続的な発展をしていくためには,新しい小売業態の開発・創造が必要であるとしている。ここでは,次世代を担う新しい小売業態として,情報技術活用型業態を挙げており,21世紀を見据えた長期的な視点から,情報を活用した「eリテイラー」や「eビジネス」,「電子商取引」といった情報技術の活用による業態の開発が活発化していると述べている。
その上,大規模小売業各社は,情報技術の活用による,新しい商品開発・供給システムを構築によって,競争力の強化が図れるとしている。それにはSCMとCRM(カスタマー・リレーションシップ・マネージメント)があり,ここではその両者を結びつけたDCM(ディマンド・チェーン・マネージメント)について述べられている。DCMとは,「SCMとCRMを基礎に店舗や顧客に関する知識・情報を企業組織全体に還流させ活用する仕組みを作り上げること」(67ページ)としており,従来のチェーンストア・マネージメントの組織的硬直性やフレキシビリティの欠如などを克服するものであるとして,DCMが商品開発・供給システムにおいて革新性を生み出すとしている。
最後に,日本小売企業が国際展開を進めるにおいて,グローバル・パートナーシップとグローバル・ソーシングを行う必要性について述べている。これからのグローバル競争時代を迎えるにあたって,取引慣行の差異などの問題は効率的な取引システムを構築する上で大きな障害となり,戦略的調達を行うためには,あらゆる産業分野において国際的な協調が必要になるとし,グローバルな観点からの効率性追求が重要であるとしている。
結論は以下の通りである。日本小売企業は現在陥っている危機的状況から脱却するためには,業界や店舗の再編,効率経営,革新的な業態の開発,そして情報技術の活用などが求められるとしている。さらに今後,小売業のグローバル化が進むにつれ,系列や国境を越えた企業間の提携・強調が必要となると考えられている。
出典:宮内拓智(2001),「『グローバル競争時代』の大規模小売業の戦略展開」『経済』2001年8月号,53-71ページ。
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2005年07月20日
コミュニケーション・コンセプトの再構築-特集“質”コミュニケーションのパラダイムシフト-(松岡 1993)
要約
この論文では,「双方向性」をキーワードにコミュニケーションのリストラが求められてきていることを主張している。そして筆者は,この問題を「コミュニケートするべき内容の戦略的決定」(52ページ)つまり,目的達成のためには戦略や計画性が重要であること,物事を大衆に伝えるためには雄弁であることに増して,説得性があることが求められていることに主眼を置いて説明している。また,「伝達手段とその効率についての吟味」,広告主がメディアの変化に対応して,双方向性を意識した説得力のある効率的な情報の配信をすることの必要性を述べている。
人に物を伝えるためにはまず,雄弁性が求められる。しかし,それだけでは事足りず,説得性が要求される。筆者はこのことを,湾岸戦争における日本の振る舞いを例に説明している。湾岸戦争における日本の諸外国の評価は決して高くはない。「たとえ米英と意見が異なっていても,日本が自分の主張を論理的に説明しうる限り,英米は日本の積極的意見表明を沈黙よりはるかに評価しただろう」(52ページ)。(国際社会で)自分の意見を主張するには、説得性=相手にその結論を受け入れさすに足る,反論の余地の無い論理が存在しなくてはならない。
同じく,湾岸戦争の例を通じて,プロパガンダと説得の違いを説明している。「説得は相互行為であって,説得する者とされる者の双方の要求を満足させようとするが,プロパガンダは,プロパガンディストの望む意図をさらに促進するような反応を得ようとするものである」(53ページ)。また,湾岸戦争では,マスコミからの報道と実態・真相とがだいぶ食い違う部分がある。原油で真っ黒に汚れた海鳥は資料映像であったり、国家的な情報操作のもと,さまざまなイメージ広告の手法がこれに利用された。少なくともアメリカ人は,日本人よりもずっと戦略的で,彼らがどのような戦略目的を持っているかの考察は重要である。日本人の悪い意味の特徴として,本格的なシンクタンクを持っておらず,「ストラテジーとロジスティックの欠如」(54ページ)が挙げられる。
その日本人である我々も,マーケティング・コミュニケーションを吟味していかなければならない。この分野では,「論理派」と「感性派」の根深い対立がある。具体的には,マーケターとクリエイターが分離しているため,マーケティング担当者が構築してきた「伝えたいもの・訴えたいもの」をクリエイターが無視して全く異なる広告が出来上がる事態が起こる。この両者の間の苛立ちを筆者は「広告表現のブラックボックス」(54ページ)と表現する。「伝えようとする情報が受け手にとって積極的に処理され,かつ処理しやすい題材のとき広告表現の方向は非常に明快である」(55ページ)。「誰かに何かを伝える」ということが広告コミュニケーションの最大の要素であり,理論である。そのためにも,伝えたい点を加工しないで,できるだけ「そのまま」伝えることが望ましい。「伝えるべき何かのチョイスこそマーケティングにおいてきわめて戦略的な課題であって,クリエイターによって簡単に無視されてよいものではない」(55ページ)と筆者は主張している。その「何か」の決定はコミュニケーションおいて最重要事項なので,クルクルと変えてはいけない。メッセージの真実性を維持するためにも説得型,情報提供型のCMが望ましい。
コミュニケーションの第二の視点として,メディアの変化が挙げられる。メディア選択の主導権は消費者にあるため,その多様化は,消費者にメッセージ到を達させる可能性の低下を引き起こす。一人の人間が全てのメディアに接触することは不可能なので,どうしてもメディアの選択は「探索型」になる。このような時代にメディア効率の判断基準は「費用対効果」しかない。広告主は,消費者に探索されやすいメディアを模索していかなくてはならない。
結論
広告で伝えるべき内容の決定がコミュニケーションにとって最も重要であり,できるだけ加工,脚色せずにストレートに伝える広告を目指していくべきである。重要なのは,相手を納得させる論理と説得力である。メディアの多様化で,消費者にメッセージが届く可能性が低下している今,広告主は,自分のところに消費者を導き,探索させるよう,仕向ける努力が求められる。
出典:松岡茂雄(1993),「コミュニケーション・コンセプトの再構築」『ブレーン』,33(10),52-56頁。
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専門店の分化 (田村 2002)
要約
業界やマスコミで専門店と呼ばれてきたのは,百貨店・スーパー・生協・コンビニという業態に属さない店舗あるいは企業とされている。最近10年間において流通業界全体が停滞している中,専門店は売上高を伸ばしてきている。しかし,企業と消費者の間で専門店の認識に違いが見られる。このことは、専門店と呼ばれるセクターにおいて,大きな分化が起きていることを示している。このような分化がどのような形で起こり,それに対して業態やフォーマットに関連するどんな用語がうまれるのか,専門店という言葉はどのように揺れ動いているのかについて分析がなされている。
専門店の意味
まずここでは,従来よく利用されてきた業態やフォーマットの関連用語(量販店・チェーン店・専門店・総合店・セルフサービス・スーパー・大型店・老舗・高級店・デパート)との関連で消費者が専門店という言葉をどのように認識してきたかを確認している。
首都圏に展開する主要流通企業40社を表すためにどのような業態・フォーマット用語を,消費者が使用されているかを調査している。これら40の企業について,先ほどの10種の業態用語が該当するかどうかをイエスかノーで答えてもらっている。
その結果,専門店に比べると,デパートやスーパーという用語は特定の1カテゴリーにのみ使用されていることが明らかにされている。高島屋や三越などの百貨店は9割を超える消費者がデパートと認識し,ジャスコやイトーヨーカ堂も8割を超える消費者がスーパーとして認識していることが明らかになった。
それに比べて,専門店という言葉はこのような性格を持っていない。調査から,特定企業を専門店と認識する比率が低いことが明らかにされている。このことは,専門店という世界が大きい変化の過程のなかにあるということが示されている。
この調査から,専門店という店舗は業態・フォーマットの複数のカテゴリーに帰属していることを示し,単一の業態・フォーマットで識別できないことを明らかにしている。消費者の店舗識別において複数のカテゴリー間で意味の重複関係があることが示されている。
業態・フォーマット概念は店舗を分類するための概念とされている。しかし,ここでのように業態・フォーマットが意味の重複性を含んでいるので,10種の業態を意味の類似性から,いくつかのクラスターに分類する。共通のクラスターに分類された業態は,共通の属性を持っており,消費者にとって共通の意味を含む程度が高いということが明らかにされている。
そして,10種の業態が3つのクラスターに分類されている。1つめが,量販型専門店チェーン(量販店・チェーン店・専門店),2つめがGMS(総合店・セルフサービス・スーパー・大型店),最後が都心店(老舗・高級店・デパート)である。その中で,量販型専門店チェーン内部の異質性が際立っている。つまり,フォーマットとしての文化が大きい事を示している。その異質性,分化の大きさをより深く理解するために,ここでは,業態・フォーマット概念を超えて,店舗の属性が検討されている。
店舗属性の検討
「店舗属性は,品揃え,価格,接客様式,サービス,店舗施設,立地など,顧客訴求力に関連する店舗の特徴」(8ページ)とされている。ここでは,40社の店舗属性について14種の特徴を用意し消費者からのデータを収集している。さらに,因子分析によって14種の店舗属性が4つの次元(郊外型立地・明確なコンセプト・広く深い品揃え・高度接客対応)に要約されている。
因子分析の結果を用いて,専門店企業がどのようなクラスターに分類できるのかが調べられている。クラスター1は,高級ブランドショップである。その特徴は,明確な店舗コンセプト,高度接客対応に卓越していることである。クラスター2は,大衆ブランドショップである。クラスター1よりもグレードがひとつ低い。明確な店舗コンセプトを狙っているがあまり強くない。クラスター3はライフスタイルショップである。明確な店舗コンセプトを広く深い品揃えとを結合しているところである。クラスター4は郊外型廉売店である。郊外に立地し,廉売を特徴としている。クラスター5は,郊外型立地による廉売を目指すが,クラスター4に比べると,競争力が弱い。クラスター6は,都心型専門店ビルである。大都市のターミナルや駅周辺に立地する専門店ビル・デベロッパーから構成されている。しかし,店舗属性において卓越した特徴は持っていない。クラスター7は,都心型大型専門店である。少数の商品カテゴリーについて,深い品揃えを廉売で提供する特徴を持っている。
以上の分析から,店舗の基本属性で明確な認識をもたれている専門店のフォーマットは,ブランドショップ(クラスター1,2),ライフスタイルショップ(クラスター3),郊外型廉売店(クラスター4,5),都市型大型専門店(クラスター6,7)の4種であることが明らかにされている。これらを専門店フォーマットとここではよんでいる。
店舗属性と店舗成果
各専門店フォーマットを代表する企業は,過去10年間で百貨店やスーパーを越える売り上げ成長率を達成してきている。卓越企業の特質は,その専門店フォーマットの主要基盤属性について卓越していることが特徴である。
さらに,4種の基本属性の保有・非保有の組み合わせからできる16セルを基に競争関係についても分析がなされている。同じフォーマットに属する企業でも副次的属性によって別々のセルに位置していることが明らかにされた。隣接したセルは競争関係におかれる。卓越した売り上げ成長もこのセルのどこに位置するかによって変化してくる。卓越企業は無競争のセルに属していることが明らかにされている。
出典:田村 正紀(2005),「専門店の分化」『流通科学研究所モノグラフ』No.075。
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2005年07月19日
コミュニケーション装置としての「企業サイト」の役割とその評価手法(山下・日高 2003)
ここでは,企業サイトの現状や評価の視点が述べられ,企業サイトをブランドイメージとの関係で評価する『e-Site index』という手法を用いて,企業サイトの企業ブランド評価に対する影響についての傾向が紹介されている。
まず,企業サイトが重要なコミュニケーション手段となり,広告メディア・商取引・消費者アンケート・ユーザーとの窓口などの様々な機能を果たし,広報などの企業活動を支援するといった目的よりマーケティングを目的としてきているといったような企業サイトについての現状が述べられている。次に,企業サイトの運営体制が紹介されている。企業内でのサイト運営体制には,広報などの単一部署がサイトを管理する一極集中型,複数の部署で運営するが統括を単一部署が行う主管型,独立した事業部ごとにサイトを管理・運営する分散型があるとし,日本広告主協会が03年に実施した会員社向けアンケートでは,それぞれ24.5%,66.4%,8.2%,となっているとしている。また,従業員1000人以下の企業では一極集中型が6割にもなり,1000人以上5000人未満の企業では主管型が8割ほどになるなど,サイト運営体制は企業規模と関連があるとしている。しかし,それ以上にサイトに取り組む姿勢の違いによる影響が大きいとしている。最近ではネット単体でのコミュニケーションを考えるだけでなく,「コミュニケーション活動全体の中での役割を考え,各コミュニケーションメディアの相乗効果を図る」(24ページ)という考えになってきているとしている。その際,訴えたいメッセージが「メディア間で有機的に連携しているか」(24ページ)が課題となるとしている。自社サイトが巧く使えているのか評価して欲しいといった企業のニーズも高まっているとしている。
企業サイトを評価する視点には①ユーザビリティ,②企業サイト価値の金額換算,③情報サービス主体としてのブランド力,④ブランド接点の1つとしてのブランド力,の4つがあるとしている。①は,ユーザーから見てストレスのないメニューデザインで使いやすさのチェックである。ダイアルアップが接続環境の中心で企業サイトも珍しかった頃のサイト評価の主な目的であり,ユーザリビリティのレベルが向上した現在でも発信する情報が膨大になったためサイト評価の重要な視点であり,チェックし続けることが重要だとしている。②は,サイトをマーケティング施策の1つと考え,利益への貢献度を推定するものでブランド評価の手法を援用したものであるとしている。③は,企業サイトを情報サービスを行う企業ブランドとして認知・好意・イメージ評価を中心に評価する視点で,ポータルサイトなどのネット専業企業にとっては企業ブランドそのものであるとしている。④は,企業サイトでの体験が企業ブランドの好意・イメージを向上させるのか,企業ブランドの評価向上への課題は何であるかということに答える評価手法であり,『e-Site index』はこの考え方に基づくものであるとしている。
今回の調査で使用されたのは「企業サイトを企業ブランドへの貢献度で評価する視点を中心」(25ページ)とした『e-Site index』の一般企業版で,「企業サイトの企業ブランド評価への影響に関する一般傾向」(25ページ)をいくつか紹介するとして,①「企業でのサイト体験は『企業ブランドイメージ』に好影響を与えている」(26ページ),②「企業サイト体験は,企業ブランドイメージのうち『活気』『センス』という感覚的な側面にも好影響を及ぼす傾向が見られる」(26ページ),③「自社ブランドのユーザーから特に高い評価を受ける企業サイトもあり,企業サイトの内容が,ブランドユーザーへの情報メディアとして効果的なものになっていることが確認できる」(26ページ),の3点が示されている。①については,自動車やパソコンより食品やトイレタリーなどでその傾向が強く,相対的に訪問者は少ないがイメージの向上にはつながっているとしている。②については,サイトの活気やセンスが企業ブランドイメージに影響する傾向があるということだろうとし,イメージの高かった企業でもブランドイメージとの統一感が感じられなかったりすると評価が上がらないことがあるとしている。また,社会性やポリシーなどの企業姿勢への理性的な評価もサイトを通じて向上するとしている。③については,ユーザーの評価がノンユーザーの評価を上回る傾向が見られ,ユーザーの心理的ロイヤリティーの向上効果を期待できるとし,自動車やパソコンといった耐久財でその傾向が強いとしている。今後もブランド接点やコミュニケーション装置として企業サイトの影響は大きくなるとし,企業サイトの個別のコンテンツの目的に応じた効果測定法が必要になるが,個別評価と全体評価を合わせて定期的に調査・把握することが望ましいとしている。
出典:山下史郎・日高靖(2003)「コミュニケーション装置としての『企業サイト』の役割とその評価手法」『日経広告研究所報』,第37巻6号,22-27頁。
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2005年07月18日
満足保証のコミュニケーション(有馬 1997)
要約
本稿では,顧客保証政策に有効なコミュニケーション方法に関しての分析を進めるために顧客保証政策の具体的方法,またそれを実施しようとする企業の意図や消費者の捉え方の変化などを整理し,満足保証政策を有効に顧客にアピールするための具体的なコミュニケーション方法に関しての示唆を目的としている。
満足保証政策の概要と満足概念
90年代以降,多くの企業で顧客満足を実現するため,消費財メーカーやサービス業を中心に,社内に顧客対応セクションやCS推進室などの顧客満足を専門に扱う組織を設置したりするなどの様々な取り組みが行われている。近年のアメリカ合衆国における顧客満足の捉え方は,1つの方向性を持ち,その理念の実現のための手段も基本的に集約されつつあり「満足保証政策」と呼ばれる方法の採用という形で表れている。満足保証政策は,購入商品が気に入らない場合に,不良商品でなくても交換や返金に応じるもので,多くの企業が無期限で返金・交換に応じる。また,サービス業の場合においては提供したサービスを無償にしたり,場合によっては「見舞金」などの形でさらにいくらかの金銭を顧客に支払うものである。企業がこの顧客満足政策を推進するようになった背景には,企業の顧客満足に対しての捉え方が変化してきたからである。それは「単に商品やサービスの提供のよって顧客や社会に奉仕するといった日本にも浸透している従来の経営観からでは,ここまで踏み込んだ顧客満足の考え方は容易には想定できないからである」(13ページ)。満足概念の既存研究では消費者の満足とは,購買によって不満を感じない状態全般をさすというものであり,購買結果の喜ばしい場合だけでなく,苦情を言うほどの不満がない状態や買い直さなければならないほどの不満を感じない状態などの強く不満を感じていない精神状態全般を含む広範囲な概念として位置づけられてきた。オリバーなどによって満足を幅のある概念として位置づけて分析を進める研究がなされ,消費者の満足を消費者の気分が愉快であるか不愉快であるか,気分が興奮しているか平穏な状態にあるかによって4つの状態があると仮定されている。満足保証政策はただ単に顧客の「苦悩」「退屈」な状態を「冷静」という状態に転化させるための政策ではなく,顧客の感情をさらに「上機嫌」という状態に転化させることを目的として実施されている。
満足保証政策のコミュニケーション活動
満足保証政策の目的は,積極的な顧客満足の提供である。したがって「コミュニケーション活動に焦点を当てた場合にも同様な視座から手段が考えられることになる。そのために積極的な顧客満足を引き出すために必要とされる情報収集並びに発信活動が行われることになるわけである」(15ページ)。「上機嫌」な顧客の反応を得るためのコミュニケーション活動を実施するためには,顧客の要望を迅速に察知し,それが直ちに実感できる形で具現化することが必要である。なぜなら,単に顧客の苦情や意見に耳を貸すだけでは顧客の「上機嫌」な感情を引き出すことはできないからである。また,調査・分析などの検討期間を長く取り,実行までに大きなタイムラグがある市場調査の方法では,満足保証の実施には有効に効力を発揮しない可能性が高い。顧客満足を得るための企業側からの情報発信活動は,アメリカの事例を見るかぎり2種類ある。1つ目は,積極的なプロモーションを各種メディアを有効に利用して行うものである。アメリカの場合,マスメディアを使用して自社の満足保証を浸透させるやり方はあまり存在していない。しかしながら,「日本企業が今後満足保証政策を導入して積極的な顧客満足を実現していくためには,積極的な情報発信活動も当然必要とされてくる。そこで,商品の返金や交換措置の利用方法などの消費者教育的な側面を有した広告活動が第一に必要とされてくるものと思われる」(16ページ)。2つ目は,従業員による人的コミュニケーションを重視した活動である。これは従業員が顧客に話しかける際に販売を意識した応答ではなく,顧客の問題解決のために相談に乗るという姿勢で接客が行われるものである。この姿勢によって顧客は従業員が非常に親密に感じられるようになり顧客満足に繋がるのである。「顧客満足の情報発信活動は,現状において媒体を使用した活動よりも人的コミュニケーションの活動の方が効果が顕著に表れやすいものと思われる。しかしながら,媒体の使用方法の工夫によっては大きな効力を発揮する可能性も高い」(17ページ)。
結論
単に返金や交換に応じるだけでは顧客の「上機嫌」の獲得はできない。したがって,顧客との双方向のコミュニケーション活動が重要である。こうした積極的なコミュニケーション活動によって,「満足保証政策は他者との差別化の手段として効力を発揮する可能性が高いことを示唆することができる」(17ページ)。
出典:有馬賢治(1997),「満足保証のコミュニケーション」『日経広告研究所報』,31(3),12-17ページ。
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Does Patriotism Have any Marketing - Exploratory Findings for the "Crafted with Pride in U.S.A." Campaign (Daser and Meric 1987)
要約
この研究は,"Crafted With Pride in U.S.A."キャンペーンのような,愛国的な広告の使用に対する意識や態度を調査することを目的としている。「愛国的な訴えは,どれくらいの効果があるか」という疑問を解決し,このような研究を促進することが目標とされている。実証的な調査の結果と,保護貿易に対する態度について報告された全国規模の世論調査の結果との関連についての検討がなされている。その結果,消費者のCOOに対する意識が高まっていることが明らかにされている。
イントロダクション
まず,アメリカにおける繊維産業の保護に対する状況が示されている。外国との競争によって打撃をうけたアメリカの産業にとって,保護貿易体制の形成が必要であるという世論が高まっているという。また"Crafted With Pride in U.S.A."キャンペーンは,繊維製品の原産国を消費者に意識させるために,アメリカの繊維・織物・アパレル連合や,アメリカ織物製造業者機構(ATMI)により1983年に開始された。さらに,ATMIは,人々が"Made in U.S.A."に注目するように立法府に援助するようはたらきかけたとされている。
また,文献レビューの結果,これまで愛国的な広告の有効性が研究された実証的な研究はないとされ,さらに"Buy-American"は愛国心の象徴であるとするる研究はいくつか存在するが,マーケティングにおける有用性については言及されていないと述べられている。
エスノセントリズムが高まっている状況と,この種の研究の不足から,この研究では"Crafted With Pride in U.S.A."キャンペーンのような,アメリカにおける愛国的な広告の使用に対する意識や態度を調査することが目的とされている。調査研究はノースカロライナの2地域で行われ,電話による調査が行われている。この調査研究の結果と,保護貿易に対する態度について報告された全国規模の世論調査の結果との関連についての検討がなされている。
結果
およその消費者は保護貿易を支持し,特に失業が誘発されたなど,輸入によって打撃をうけた地域においては,保護貿易を強く支持する傾向があるという考えを,この調査研究は支持していると述べられている。82%がより厳しい制限を輸入品に課すことを支持している。これは1981年のDickersonによる研究での,55%を大きくうわまわっているという。ウォールストリートジャーナルやNBCニュースによる全国規模の世論調査ではその数字は51%であったことも示されている。
また,消費者は"Buy-American"の問題について高い意識を持っているように思えると述べられている。大部分(88%)はそれについてテレビ広告やラジオ広告で知っているという。"Crafted With Pride in U.S.A."キャンペーンについては多少その比率が下がっている(73%)ことも示されているが,その両方に対して圧倒的に好意的な反応が報告されている。
さらに,42%の人々は意識してアメリカ産を得ようとしているという報告もされている。衣服のラベルを見てそれがどこで作られているのかをチェックすると答えた人々の76%は,たいてい輸入品よりアメリカで作られたものを選ぶと答えたという。それにもかかわらず,衣服を購入するとき重視することを答えてもらったところ,身に合っているか(64%),価格(32%),スタイル(25%)に続き原産国は18%で4位にとどまっていることが指摘されている。
そして,アメリカ製品の質が輸入品のそれよりも上回っていないと,すすんでアメリカ産を購入する気にはならないと答えたひとが多いことも紹介されている。
結論
この調査研究を通して,びっくりするようなアメリカびいきの意見が得られたと述べられており,これは調査の地理的性格がある程度影響しているという。しかしながら,他の全国的な世論調査の結果もまた,保護貿易主義的な態度が広範囲に及んでいることを示していることを指摘している。また,消費者は質を重要視していることから,販売促進キャンペーンでは質の知覚問題への取り組みが必要とされるだろうと述べられている。実証的な調査を通して愛国心の強い広告の有効性を評価する絶好の機会であるとして,最後にこれからの研究への示唆と疑問があげられている。
まず,調査の結果からもわかるように,人々の述べていることと実際の行動は矛盾しているので,愛国的な訴えの広告への行動に関する反応をとらえる実験や調査は非常に役に立つだろうとしている。また,愛国的な広告ではどのような語調がふさわしいのかの調査もも薦められている。最後に,"Crafted With Pride in U.S.A."キャンペーンは有効であるのかどうか,人々に原産がどこであるかを意識させ,最終的に自国の製品の購入に導くことができるのかどうかの調査も必要であると述べられている。
出典:Daser, Sayeste and Havva J. Meric (1987), "Does Patriotism Have any Marketing - Exploratory Findings for the 'Crafted with Pride in U.S.A.' Campaign." Advances in Consumer Research, Vol. 14, pp. 536-537.
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2005年07月16日
The development of foreign retailing in Taiwan: The impacts of Carrefour(Tsuchiya 2003)
要約
この論文は台湾におけるカルフールの成功要因とカルフールが現地流通システムにもたらした影響について述べられている。ここでは台湾におけるカルフールの事例を通じて流通外資がどのように現地市場に参入し,現地流通システムにどのような影響を与えるのかという問題について考察することを目的としている。
1.カルフールの成功に寄与した要因
カルフールにおけるオペレーションは成功と見なされており,その成功の要因について述べられている。まずは台湾の経済環境について,1980年代後半に台湾の経済が急成長を遂げたことや,シンガポールとは異なりしっかりとしたチェーンオペレーションを持つと同時に台湾のGNPが多くのアジア諸国と比較して高いことが述べられており,このことがカルフールが参入し成長するための十分な機会を与えたとしている。次に台湾におけるハイパーマーケットの低開発について述べられている。台湾における流通機構は1986年の外資に対する規制緩和以前は十分発達していなかったとしており,デパートだけが大規模小売業を構成していたと述べられている。また,スーパーマーケットチェーンは存在していたが,それらの多くは中小規模の店舗だったと述べられている。この状況のもと,カルフールが台湾市場に参入した時には現地における大規模な競合他社はなく,そしてハイパーマーケットは流通革命によりもたらされた新しく大規模な小売フォーマットとして受け入れられたとしている。次に現地ビジネスパートナーについて述べられている。カルフールが台湾に参入した際,政府の規制によりジョイントベンチャー方式を採用したと述べられている。パートナーは台湾で最大の食品会社であるUPEであり,UPEとその子会社との提携がカルフールにとって好都合だったとしている。カルフールはもしたくさんの所有する店舗を展開することができなければ,規模の経済と低価格での供給を通じて成功することができないと述べられており,そのため店舗数の急速な増加は競合企業のいない未発達市場における成功のための一つの重要な基準であるとしている。しかしながらこの急速な発展はたとえハイパーマーケットの発展のための費用がデパートの費用と比べて比較的安かったとしても,小売企業にとって財政上の重圧の原因となりかねないと述べられている。台湾におけるカルフールのケースは現地企業の堅固な資金力を背景に,その店舗網を急速に発展させていったことが示されているとしている。もう1つのメリットは現地パートナーの政治的つながりであり,UPEの政治的影響力によってカルフールは優良な土地を円滑に手に入れることができたとしている。そしてこのことが小売業国際化プロセスにおける慎重なビジネスパートナー選択の重要性を示唆すると述べられている。カルフールの成功要因として更に現地流通システムとの関係について述べられている。台湾においては外国貿易業者との取引を除いて,中間業者を除く一般的傾向があり,台湾製造業者と小売企業間での直接取引が好まれる傾向にあるとしている。このことが製造業者から直接購入するカルフールの発展を裏付けるように働いたと述べられている。
2.現地流通システムにおける影響
カルフールは台湾において最も影響力のある流通業者となったとしており,この影響は小売業と製造業の間の関係の発展に影響を及ぼしたと述べられている。大規模小売業者による影響の一つに流通システムにおける主導権が製造業から小売業へと移行したことがあげられており,台湾における新たな流通システムは強力なバイイングパワーを強みとした小売業にコントロールされたチャネルに特徴付けられるとしている。ハイパーマーケットの展開によってカルフールが圧倒した情勢は総売上高と店舗数の増加に見ることができるとしており,その上大部分が小規模の製造業者である供給業者に対する取引上の姿勢が次第に侵略的になったとしている。供給業者はカルフールとの契約において様々な費用を要求されたと述べられており,サービス料金やリベート,祝祭における販売促進料金,陳列料金,折込み広告料金,テレビ・新聞広告料金など様々な費用を支払わされているとしている。カルフールの要求は年々厳しくなったとしており,供給業者はカルフールと取引をすることによって何も利益を見出せないという程度まで取引関係によってこれらの厳しい金融負担を受け入れさせられたと述べられている。しかし,カルフールが中小製造業者にとって魅力的な巨大マーケティングチャネルを供給していることは真実であるとしている。
3.カルフールと供給業者間の論争
カルフールのふるまいは数年に渡って供給業者との摩擦を引き起こしたとしており,ニュージーランドの牛乳製造企業のように,様々な料金に対して要求する額が高額すぎるために利益が見出せないとしてカルフールとの取引を取りやめる企業もあったとしている。台湾の主要企業の数社も同様に商品を撤退させたが,国際的ブランドを持ち大規模流通に抵抗できる立場を維持できるP&Gや他のグローバル企業とは異なり,台湾の大部分の企業は弱すぎて大規模流通と交渉することができないと述べられている。カルフールは供給業者との取引において問題や論争を巻き起こしたとしており,公正取引委員会はこの状況を深刻に捉え,そしてサービス料金や祝祭における販売促進料金などの料金をより詳細に調査し始め,相当な要求や余分な徴収,供給業者の厳しい財政が強調され,カルフールは優位な市場地位を利用して円滑な取引を侵害しているという結論に達したと述べられている。この調査は独占禁止法が改正された後の「不公正費用」の初めの重要な統制であることが述べられている。
結論は次の通りである。台湾における市場開放政策は小売業者がチャネルをコントロールする時代が来たことと同意であり,ハイパーマーケットの出現は明確に製造業者と小売業者間の関係性について元の流通システムの改革を引き起こしたとしている。そして,公正な取引を実行可能にするビジネス環境を確保するルールが必要とされているとし,台湾のケースは大規模外国小売企業を受け入れるための市場開放政策と競争政策の法の欠乏が不公正な競争の原因となり得ることについて提案している。
J.Dawson, Masao Mukoyama, Sang Chul Choi and Roy Larke “The development of foreign retailing in Taiwan: The impacts of Carrefour” The Internationalization of Retailing in Asia, Routledgecurzon Advances in Asia-pacific Business, pp35-48.
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消費経験の新たなコミュニケーション(桑原 1999)
要約
本稿では消費者研究をするにあたり,「3‐Dステレオ」と「エッジ」という考え方を用いることの重要性を説いている。そして,最後にその考え方を広告コミュニケーションに当てはめて考えるとしている。
近年では消費者研究の領域が拡大し,昔からの消費者の購買行動が変化していったとして,過去の消費者研究のレビューを行っている。さらに今日における消費概念はあらゆる対象についての獲得場面,使用,廃棄の3つの消費局面があると記している。この3つの消費局面において,消費者のニーズとウォンツの両方を満たす場合はそのサービスの中で,消費者価値を供給する経験を創造するプロセスを通じている。このようにして「価値のかかわる消費経験が,消費者研究の焦点として浮かび上がってくるのである」(14ページ)としている。経験としての消費の重要性に着目することは,顧客主導型のマーケティングを展開する上で,リレーションシップにより顧客の消費経験が進化し変化していくさまに相当するとしている。本稿では消費経験の意味を深く理解し,洞察を得るために消費経験を3‐Dステレオ写真と解釈することで,消費者とどのようにコミュニケーションをとっていくのかについて論じるとしている。また,3‐Dステレオ写真を用いた理由も述べるとしている。
まず,3‐Dステレオ写真の説明が簡単にされている。カメラを2つ用意し,人間の目と同じ並びで撮影する。そうすると角度が異なるが,同じ被写体を撮った写真ができあがる。その2枚の写真の幅を合わせて見ることにより,立体的な像を再生するとし,例として写真が載せられている。立体的イメージを得るための方法は2つあるとし,本稿では裸眼で見るFree-Viewingの平行法を使用したとしている。Free-Viewingの長所としては色の鮮明さが挙げられる。短所は写真を拡大できない点と見るための訓練が必要であるとしている。ゆえに見るのは困難であるが,「見えた時の感動は大きく,それはまた,後に述べるように本論の主張とも無関係ではない,諦めずに挑戦してほしいとしている」(15ページ)。そのようにして見えた画像は鮮明かつ現実感豊かで,奥行きの感じられるものとなるとしている。
そのことを消費経験に当てはめて考えてみると,写真によって,頭の中に立体イメージを結ぶということは洞察の契機と呼応するとしている。それは角度の異なる知覚を融合させることによって,奥行きについて豊かな知覚が得られるという点においてである。最も深く消費者のことを考えるということは「いくつかの異なった視点の結合,統合,調和,あるいは,融合が伴っているべきだということである」(16ページ)としている。そうするならば,消費者研究において考えると,いろいろな視点を融合させて,より深い消費経験の理解に結びつけることに集中すべきであろうとしている。また,本稿では消費者研究をエッジの上を歩くことと捉えている。エッジの上を歩くとは,いろいろな意見が衝突する知覚において最も安全な道を見つけて通ることであるとしている。そうすることにより,奥行きの深い最も深い洞察に達するとしている。消費者経験におけるエッジを歩くとは,意思決定を中心とした見方と,経験的側面に焦点を置く見方について「道」を見つけることが重要であるとしている。このような方法は「消費者研究という領域の中で,新しい発見をもたらす中心的なルートとなる可能性を秘めている」(17ページ)としている。そしてそのことは3‐Dステレオに基づいた表現の適切さを意味しているとされている。消費経験においてエッジを歩くことは創造性の本質や,イノベーション,深い洞察を反映する効果があり,そのためには3‐Dの経験はかなりの効果があるとしている。
広告コミュニケーションに上記の考えを当てはめると,「消費者のもつ,広告を読み味わう戦略はと,そこにあてはまらない広告メッセージの新しさの境界線上に,消費者の心に届く道が形成され,広告は訴求力をもつことになる」(18ページ)としている。広告を見る消費者に対して,エッジの上を歩くという,新しい視覚的世界を創造させることが経験を伝えるコミュニケーションになると記されている。
出典:桑原武夫(1999),「消費経験の新たなコミュニケーション」『日経広告研究所報』,第32巻6号,14-18頁。
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2005年07月15日
広告表現の文化差-内容分析による時代比較と国際比較(石井 2004)
要約
この論文では,新聞広告の内容分析を通して,広告表現と文化の関係を考察している。まず,既存研究より,日本の広告はソフトセル(イメージ中心)訴求が多く,アメリカは反対にハードセル(情報中心)訴求が多いのではないかということを予想し,六つの商品カテゴリーを用いて新聞広告の広告アピールの時代変化を測定している。また価格の有無や,広告中で使われているモデルの特性などについても評定している。その結果,六つの商品カテゴリーにほぼ共通して見られたのは,モデルの高齢化であるとし,自動車,ビール,保険,携帯電話の広告にはハードセル化と,モデル(人物)利用の減少が見えるとしている。
本稿では,日本の広告における文化の問題を扱った研究結果をレビューすることから始めている。まず,日本の広告はソフトセルであるという予想を基に,日米の雑誌広告を内容分析によって比較したミュラー(Mueller 1987)では,「日本の広告でソフトセルや地位のアピール,アメリカの広告ではハードセルや製品のメリットの強調が相対的に多いこと」(37ページ)を示したとしている。そしてテイラー(Taylor et. al. 1994)では,「日本のCMは,アメリカのCMよりも,相対的に後の部分にブランド名や会社名が出てくること,ブランド名の言及回数がアメリカのCMよりも相対的に少ないこと」(37ページ)を示したとしている。次に,広告における外国要素について,荻原(2000)では,「93年と2003年のテレビCMを比較し,外国人の登場回数はやや増加していること,白人の比率が高いこと,自動車や精密・事務機器で外国人の比率が高いこと」(38ページ)を明らかにしたことを紹介している。しかし,これらの比較研究は,広告における商品カテゴリーの比率を無視している点に方法論的な問題があり,広告表現は商品カテゴリーによってかなり異なり,単純にことなる時点を比較すると広告表現の一般的な変化なのか商品カテゴリーの比率の変化なのかを区別できないと説明している。
次に,本研究に移る。主要なデータは六つの商品カテゴリー(自動車,ビール,テレビ受信機,マンション,デパート,保険)について三十三年間(七〇-〇二年)の新聞広告を内容分析したものである。本研究では,広告アピールの時代変化を測定するため,チェンの研究で使われている広告アピールを参考に,便利さ,効果,現代性,技術,美しさ,自然など,三十一のアピールを設定して,新聞広告を批評した。まず,三十一のアピールを少数次元に縮約するため,数量化Ⅲ類(ホマルズの等質性分析)を適用している。そして、第一次元を,家族中心的なアピールと商品自体のイメージを強調するアピールと商品自体のイメージを強調するアピールを分ける次元,第二次元を高齢者志向か若者志向かを分ける次元であると解釈している。これらの次元と,ハードセルの相関の結果,高齢者思考はハードセル,若者志向はソフトセルと関連があることがわかったとしている。また,時代変化を見てみたとき,テレビの広告では,家族中心的なアピールの経時的な減少があるとしている。外国要素については,商品カテゴリーにより,欧米人モデルの出現比率はかなり異なることがわかったとしている。広告に使われているモデルについては,比率(外国人,日本人すべて含む)は四〇%前後であるが,この比率は商品カテゴリー間で,また時代によりかなり大きな差があると説明し,変化として認められるのは,モデルの高齢化であることがわかったとしている。
結論
六つの商品カテゴリーにほぼ共通して見られたのは,モデル(登場人物)の高齢化であり,消費者の高齢化が反映しているものだとしている。そして「男性比率が高まる傾向も見られたが,これは広告表現の変化というより,男性比率が高い商品カテゴリーの広告数が相対的に増えたためであると考えられる」(41ページ)と述べている。また,自動車,ビール,保険,携帯電話の広告に見られるハードセル(情報中心)への変化とモデル(人物)利用の減少という変化が挙げられている。このハードセル化を日本人の個人主義化を示唆するものと解釈することも可能であるが,広告表現の変化を日本人の個人主義化のみで説明するのは危険であるとも述べられている。また,商品カテゴリーごとに変化のパターンはかなり異なり,製品のライフステージが影響を与えている可能性もあるとしている。「普及期には製品の生活上の意味を強調するためソフトセル的な表現が多いが,商品が成熟し,ブランド間の競争が激しくなると機能や価格など,ハードセル表現が多くなるのかもしれない」(42ページ)とし,今後のこれらの要因を考慮した実証研究の必要性を説いている。
出典:石井健一 (2004)「広告表現の文化差-内容分析による時代比較と国際比較」『日経広告研究所報』,第218号,36-42頁。
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商品開発体制に与えたコンビニ台頭のインパクト(小川2003)
要約
本稿では,コンビニの台頭にともない起こったナショナル・ブランドメーカー(以下NBメーカーとする)における商品開発体制の変化を明らかにすることを目的にしている。ここでは加工食品メーカーとコンビニチェーンへのインタビューが取材データとして用いられている。NBメーカーがコンビニからの商品開発の要請に応えるメリットは2つあり,第一にコンビニ店頭の棚を新製品導入時に優先的に確保できる可能性が高まること,第二に,メーカーが気づいていない消費者ニーズを標的とする商品企画を行うことができる可能性があることがあげられている。一方,共同製品開発のリスクとしては他チェーンへの販売機会の消滅,発注打ち切りによる開発費用・在庫費用の未回収化,ブランド評価への負の影響などが考えられるが,試行錯誤の中でその対応策も誕生し,その対応策の中でもテストマーケティングの可能性が期待されている。結論として近年における商品開発枠組みの多次元化と,メーカー・小売間での機能補完性の明確化とそこでの機能間インターフェイス管理の高度化の進展という傾向を指摘している。
商品開発体制
NBメーカーはこれまでできるだけ多様な経路で自社ブランドを大量に販売することを目指して商品開発を目指してきたのに対し,近年では,NBメーカーが特定コンビニチェーンと共同で商品開発を行い,そのチェーンの店舗網のみを通じて販売するという試みを行うまでに至っている。共同開発が行われるようになった背景には2つの理由があり,1つはコンビニチェーン店舗数の増加により単品アイテムについてはコンビニの販売量が,他業態をおさえ最大というメーカーが出始めたことや,2つめにコンビニチェーンが大量で精度の高い店頭情報を迅速に本部で集計・分析できるシステムを導入したことが理由としてあげられる。NBメーカーがコンビニからの要請に応えるメリットとしては2つがあり,第一に要請のあったコンビニ店頭の棚を商品開発時には優先的に確保できる可能性が高まることと,第二に,メーカーが気づいていない消費者ニーズを標的とする商品企画を行うことができる可能性があることの2点が指摘されている。NBメーカーとしては,共同開発には,他チェーンへの販売機会の喪失,発注打ち切りによる在庫費用・開発費用の未回収化,ブランド評価への負の影響といった3つの負のリスクが伴うので共同開発は避けたいところだが,NBメーカーは成熟市場の中で厳しい競争関係に直面しており,販路としてのコンビニの規模の増加が無視できない状況になってきていること,一部の加工食品の中にはコンビニでの売り上げが伸びず,コンビニ店内での売り場面積が縮小される傾向にあることから,コンビニでの店内売場占有率を上げるため,コンビニという業態に合った商品開発の必要性に迫られたことの2点があげられている。
特定チェーン向け共同商品開発の成功事例
特定のコンビニチェーン向けの共同商品開発の最近の成功例としては,セブンイレブンと日清食品との間で共同開発された「名店仕込みシリーズ」がある。これは2000年4月に最初に導入されたカップめんで有名ラーメン店のメニューを再現したもので,発売1年半で約3000万食を販売するヒット商品となった。これは現在でもセブンイレブンのみで販売されている。この製品開発に当たりセブンイレブンは店舗内の雑誌の売れ行きにより,消費者のカップめんに対する関心がそれまでの特定の地域に根ざした味から,特定の店の味に移行するという仮説を立て,商品化を目指したが,名店の味をカップめんで再現するには相当の技術が必要であったとしている。そして開発力のあるメーカーである日清食品に開発を依頼したのだが,当初日清食品は共同開発は一切やらない企業として知られていたので,それを説得するために,POSデータから日清食品のカップヌードルが,特定地域の味を再現するご当地シリーズの影響で売上が落ちているという情報を提供し,共同商品開発に協力してくれれば,開発された商品に対して店頭販売に対して経営資源を優先的にさくことを約束し,双方にメリットのある形で共同製品の開発が進んだとしている。
テストマーケティング
共同商品開発には,3つのリスクが伴うが,NBメーカーのリスク低減のための重要な方法としてテストマーケティングがあげられている。テストマーケティングには大きく分けて2種類あり,1つは商品販売の期間や量をあらかじめ制限した形で行われるものと,もう1つは,相手方チェーンの強みを活かす形での商品企画の2種類がある。前者の場合には販売期間や数量をあらかじめ制限することによって生産や原材料・包材の調達,売れ残りの在庫などに関して発生するロスを極小化することができることや,このテストマーケティングで成功した後は,NBメーカーはその結果から学び次の全販路向け製品の開発に生かすことが出来ることがメリットとなる。後者は開発する商品について,取り組み相手が競合チェーンより秀でている部分を出来るだけ活かす形で進められるということであり,例としてセブンイレブンとキリンビールの共同開発した「まろやか酵母」があげられている。この商品は,キリンビールの酵母の持つ独特の味わいを提供できる上面発酵製法と,セブンイレブンの工場から店舗まで低温で配送できるチルド配送という技術の相乗効果として生まれ,現在では販路を拡大しセブンイレブン以外でも売られている。
共同製品開発研究のインプリケーション
商品開発枠組みの多次元化による変化として,業態別マーケティングの必要性が認識されるようになったことと,NBメーカーと各小売業との間の機能的補完関係が意識されるようになってきたことがあげられている。前者はもはや全販路向けの商品開発が困難になってきており,業態の差を意識した新しいカテゴリーの商品開発がNBメーカーに求められていると述べられている。後者ではメーカーの持つ技術力や消費者調査能力と小売持つ実需把握機能や店頭支援機能がお互い補完的に働くことによっての相乗効果が期待されており,そこでは各機能間のインターフェイスをうまく管理することがより重要になってくると述べられている。
出典:小川進(2003)「商品開発体制に与えたコンビニ台頭のインパクト」『国民経済雑誌』第188巻6号,39-51ページ。
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2005年07月13日
小売企業の総合型業態による海外戦略-ウォルマートの海外展開を通じて-(白石・鳥羽 2003)
要約
この論文では,「食品と非食品を幅広く取り扱う総合型業態の小売企業」の国際化に焦点を当て,総合型業態で急激に国際化を展開しているウォルマートの海外戦略について検討している。そこではまずウォルマートの海外進出の背景や海外戦略の特徴を明らかにし,次に個別市場における国際的な展開に視点を転じ,ケース・スタディを行っている。最後に,これまでの検討を通じて,総合型業態による海外進出の課題について考察を試み,多様な市場へ海外展開する総合型業態の小売企業に一定の示唆を与えている。
ウォルマートの海外展開
ここでは,ウォルマートの海外展開について,まず海外進出にいたる背景を確認し,次にウォルマートの海外戦略の特徴を明らかにする。
ウォルマートの海外進出要因として,環境要因によるプッシュ要因とウォルマートの主体的なポジティブ要因を指摘している。まずプッシュ要因として,近年アメリカでは各自治体による大型店舗の規制がなされているため,大型店舗での出店が困難な状況に追い込まれていること,また国内市場においても上位企業による集中化が進んでいることから,海外進出の重要性が高まっていることを挙げている。ポジティブ要因には,自社構築の情報技術,大規模性など海外市場における強みを十分に備えていることを指摘している。
ウォルマートの海外戦略について,ここでは海外立地選択,海外進出モード選択,業態の展開,海外流通戦略の4つの側面から分析している。まず海外立地選択について,既存研究では,「小売企業の海外進出の順路として,比較的に参入障壁が低い近隣の同質的市場への進出から開始され,海外経験が蓄積するにつれ市場領域が段階的に拡張していく」(90ページ)と考えられており,ウォルマートの海外進出も周辺の近隣諸国から開始された。この背景には,地理的・文化的近隣性に加え,北米自由協定という経済圏が存在しており,その後は買収や合弁などの市場機会を見出しながら分散的に進出し,市場の拡大を図ったとしている。次に,海外進出モードの決定について,その特徴として進出国の状況に応じて,合弁や買収,直接投資などあらゆるタイプを柔軟に採用していることを挙げている。しかし,ウォルマートは進出国においても母国市場で蓄えたノウハウを創造的に移転していくために,莫大な資本力を基盤とする買収による展開に力点を置いているとしている。さらに,買収先の選定として,自らが展開する業態とマッチした業態を展開している企業をターゲットとし,買収によって獲得できるメリットを最大限に活用することを意図している。次に,業態の展開に関して,進出モードの決定と同様に,進出国の市場環境に合わせて対応し,多様な業態を展開する「多業態戦略」を採用している。最後に海外流通戦略については,進出各国において独自の供給システムの構築,海外市場における直接取引関係の構築など「グローバル・ソーシング」を積極的に展開していることに特徴付けられる。また,こうした供給システムの構築は,情報通信技術の発達によるものとし,全世界のサプライヤーとの電子取引関係を可能にするシステムを展開し,詳細な販売関連データをサプライヤーと共有することで,効率化を図っているとしている。
海外展開のケース
ここでは,ウォルマートの個別市場における展開として,ブラジルとイギリスをケースに取り上げ,海外展開を先述した立地選択,進出モード選択,業態の展開,流通戦略の4つの側面から検証している。そして,これまでの検討から総合型業態による海外進出の課題を挙げている。
まずブラジル市場におけるケースについて。ブラジルでは,ウォルマートが参入する以前にカルフールをはじめとする外資系小売企業が既に参入していることや経済環境が不安定であることなどの立地選択において好ましくない条件が存在していたが,一方で,合併による進出を可能にする強力なパートナーの存在があったことが進出の決定的な要因としてとしている。ブラジルでの業態展開については,現地の消費者特性に合わせた形でなされたが,他の外資系小売企業が既に同業態で展開していたため,競争関係に直面し,多大な損失を被ったとしている。次に流通戦略では,ウォルマートはバイイング・パワーを訴求したメーカーとの直接取引など母国市場と同じ戦略を試みたが,ブラジルではメーカーの寡占化が進んでいたことから本来のバイイング・パワーが発揮できない,といった状況にあった,と述べられている。
次にイギリス市場におけるケースについて。イギリスのような小売市場が成熟した市場に進出することは困難である。しかし,「小売市場が高度に発達した市場に参入するには,既存の資源を有効に活用できる手法が理想的」(99ページ)であり,イギリスでは理想的な買収対象企業が存在したことから,ウォルマートは進出を決定したとしている。この買収の結果,食料品と非食料品の両方の強化につながり,総合型業態の展開を大きく進展させたとしている。また流通においても,買収を行ったことで,買収先の既存の供給業者に対して,バイイング・パワーを発揮した取引が可能になったとしている。
これまでの検討から,小売企業が各進出市場において成功するためには,自らの強みを実現すべく如何にカスタマイズされた小売システムを構築していくのか,という流通戦略の実行能力に掛かっている,と述べている。ウォルマートの強みの本質は,低価格販売,大量販売,大量仕入,低仕入コスト,間接費の削減という「バーチャス・サークル」という循環プロセスの実現にあることから,ウォルマートなど総合型業態による海外進出は,「如何にして現地市場でバーチュアス・サークルを実現するのかという問題が課題となる」(102ページ)としている。進出先国の小売環境は母国といくらか類似性を帯びている部分もあるが,多くの異質性を帯びていることは当然であり,そうした海外市場で独自の小売システムを構築できる能力こそが,総合型業態で海外展開する小売企業の成功条件となる,としている。
結論は以下の通りである。総合型業態で海外展開を試みる小売企業は,進出先の環境に適応しながらも,母国市場で構築した強みを生かすべく,現地適応化する部分と標準化する部分を柔軟に組み合わせた独自の小売システムを構築することが課題となる。また今後の課題として,日本市場における外資系小売企業の展開を注目することで,如何にカスタマイズされた小売システムを構築していくのかという問題を明らかにすることを挙げている。
出典:白石善章・鳥羽達郎(2003),「小売企業の総合型業態による海外戦略-ウォルマートの海外展開を通じて-」『流通科学大学論集』第16巻第1号。
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「広告」の本質-「市場」における「非=市場的なるもの」-(桜井 1994)
要約
この論文では,広告における数多くの研究・調査・議論の中で,現代社会における「広告」の意義を肯定はすれど,そもそも広告とは何か?なぜ広告が存在するのか?を考察しているものが少ないことを指摘している。普段の我々にとって,あまりに見慣れてしまった広告は,その「慣れ」によって,思い込みをしている部分もある。本論では,広告を見慣れないものとしてとらえた上で,広告の本質を探っている。
現代社会において広告は,大きな意義を持っている。消費によって支えられている現代社会・市場において広告は一つの産業になりつつあり,その比重も大きなものである。しかし,「我々は,現代において広告があまりにあたりまえになってしまっているがゆえに,広告の本質を探求しようとさえしなくなっているのではないだろうか」(47ページ)。既存の広告論は広告の「存在をあたりまえ」のものと見なし,素朴だが本質的な問い,「なぜ?」に答えてくれないように見える。「あたりまえ」という前提を払拭してこそ広告の本質を探る事ができると著者は主張している。また,なぜ現代社会(市場社会)で広告が繁栄しているのかを考察している。現在,市場と広告の結びつきは非常に強く,切っても切り離せない。それが前述の「あたりまえ」を生み出しているのではなかろうか?
広告を「見慣れないもの」としてみるための事例として,「ぴあ」がある(ぴあ=映画館の上映情報などが掲載された有料情報誌)。今では「ぴあ」は都市情報誌の一つとして「あたりまえのもの」として受け入れられているが,出回り始めた当初は,「ぴあ」に対する「大人」と「若者」ではその反応が対照的であった。若者のほうが合理的で,自分たちにプラスになるものや有用性のあるものに対しては躊躇無く代価を払いその情報を取得する。しかし大人達にとってみれば従来,街や新聞の紙面広告で「無料-タダで」提供されていた情報に対してお金を払うこと違和感を覚えた。大人にとってみれば,情報=タダのイメージがより強かったため「ぴあ」のような情報誌がしっくりはまらなかったのであろう。
「なぜ広告においては情報の無償譲渡がなされるのか?」(49ページ)。広告においてもたらされる情報が消費者にとって重要なものであれば,まさにその「情報」にお金を払うのが本来の市場社会なのではないか?
「広告とは,すくなくとも,情報の『流通』であることはまちがいないだろう」(51ページ)。そしてその,情報の譲渡に代価・コストが本来発生するのは言うまでもない。しかし広告によって情報は消費者に「譲与」される。この点において広告は「非=市場的なものである」(51ページ)。このことを筆者は「市場メカニズムの不十分さを,なんらかの仕掛けでもって広告が補っている」(52ページ)と考えている。
情報の譲渡においてはいくつかのパラドックス・困難が見受けられる。①「立ち読みのパラドックス」と②「スパイのパラドックス」と著者は呼んでいるものである。①は,情報の中身は開けてみないと自分にとっての価値は分からないが,本を購買しなくても立ち読みでその情報を取得してしまったらもはやその本を買うには及ばないことを指し,②はスパイがある情報を握りある会社との商談のテーブルについたとき,その時点で,その情報の中身を開示する前に競合他社が「新製品の開発に成功した」という有益な情報をその会社に(無償で!!)提供した事になる。これがスパイのパラドックスである。「情報流通に関する2つのパラドックスは,実は情報財として意識されていない多くの商品にもあてはまる」(54ページ)。このようなパラドックスに対処しているのが広告ではないだろうか?広告とは企業の販売促進のツールであり,一見「情報の無償譲渡」をするがきちんと「モトをとる」のが広告である。立ち読みのパラドクスによって情報の中身を知ってしまったら,「買う」ことをしなくなるかもしれないが,情報が流通しなければ当該商品は売れないのである。そこで広告はその情報を「あげてしまう」のである。消費者は広告によって「そこに有益なものがあることを知っており,従って,他の場所にも効用のある商品がある可能性があっても,そのための『探索のコスト』をかけるよりも『既に知っている』商品を買うほうが功利的になるのである」(55ページ)。
しかし広告にも困難さ,無効性はある。1つは広告が成功した事によって「情報上のギャップ」(56ページ)がなくなってしまった時。2つ目は他社との相対的な無効性である。今日さまざまな企業が存在し,それぞれが独自の広告戦略をとっている中で,同じ「手」で対抗する可能性は否定できず,相対的優位性・アドバンテージは薄れていく。3つ目は「賢い消費者のパラドックス」(57ページ)と呼ばれるものであり,商品の中には広告をされていない「隠れた名品」の可能性があり,消費者はそれを探す可能性もある。また広告をしていない商品のほうが企業はその製品に自信があるのだ,と消費者は学習し広告が無力になってしまう場合もある。
上記の問題の解決策として「マルチ商法」(58ページ)がある。それは「消費者を自分の階層性の内部に取り込んでしまうことで,広告の無効性に対抗しているように見える」(58ページ)。1・2の情報ギャップを消失させ,消費者をマルチ階層の中で「昇進」させることで,他商品の魅力に気付いても,当該のほうが有利であると思わせるに足るように読みこむのである。しかし著者は長期的なマルチ商法は不可能であるとし,広告の困難性と物を売る事の困難性を述べている。
結論
広告の本質とは何か?それは情報譲渡のパラドックスを逆手に取り,まず消費者に有益な情報を無償で提供することで消費者の情報探索のコストを省き,消費者の効用の期待値を大きくさせることである。市場メカニズムだけではうまくクリアできなかったことを,無償譲渡によって広告は突破したのである。
出典:桜井芳生(1994),「人文学科論集」『鹿児島大学法文学部』,40巻,47-59頁。
投稿者 02tsukazaki : 16:27 | コメント (0) | トラックバック
2005年07月12日
消費者の視点からとらえたマーケティング・コミュニケーションの影響過程(堀内 2001)
ここでは,マーケティング・コミュニケーションを「消費者行動にかかわるコミュニケーション全般」(20ページ)としている。従来の広告効果研究が1つの広告を対象にした送り手からの1直線的なモデルであることに対し,消費者は多様なマーケティング・コミュニケーションに接しているし,必ずしも1直線的な影響を受けるわけではないとし,消費者の視点から「マーケティング・コミュニケーションの影響過程について検討する」(20ページ)としている。
まず,モデルを構築するために適用可能な理論や考え方を検討している。製品星座,自律的空想的快楽主義,消費経験論を取りあげている。製品星座からは日常において消費者は複数のマーケティング・コミュニケーションに接触し,それらの組み合わせで捉えているという考えが,自律的空想的快楽主義からは消費者が製品やサービスの使用場面を想像し,その場面を実現するものとして個別ブランドを欲するという考えが,消費経験論からは消費者のマーケティング・コミュニケーションへの接触経験という考えが,従来の理論や考えを基にマーケティング・コミュニケーションの影響を考えるために置き換えられ,今回の研究に適用されたものである。さらにマーケティング・コミュニケーションへの接触経験では,それを長期的視点で捉えること,なかでも接触時期の異なる複数のマーケティング・コミュニケーションと購買のかかわりを検討できるとしている。これらの考えを基に,消費者の視点から捉えたマーケティング・コミュニケーションの影響過程についてのモデルが示されている。モデルの命題として,①「消費者は,多様なマーケティング・コミュニケーションに接触して1つの購買に至ることがある」(22ページ)②「マーケティング・コミュニケーションの影響過程のうち,マーケティング・コミュニケーション接触から具体的な購買欲求喚起までは,非連続的に移行することがある」(22ページ)③「マーケティング・コミュニケーションによる購買欲求喚起の効果は長い期間をかけて生じることがある」(22ページ)の3点が挙げられている。
当該製品を購買した理由,購買に至るまでの経緯,必要と感じた時には補足説明を自由回答形式のインタビューによって収集している。そこからいくつかの事例を紹介し,それぞれの命題の妥当性を吟味していくとしている。命題①に関しては,新種のボイス・レコーダーの存在を知ってから注文に至るまでの事例と,最寄り駅に隣接したホテルに話題の衣料品店がオープンし家族の洋服を購入した事例が紹介されている。これらの事例から,日常生活において消費者は,「多様なマーケティング・コミュニケーションに接しながら購買欲求を喚起され,1つの購買に至る」(23ページ)ことがあり,購買欲求の喚起には様々な種類のマーケティング・コミュニケーションがかかわることがあるとし,これらは命題の妥当性を示していると言えるとしている。命題②に関しては,既に紹介されたボイス・レコーダーの事例と,大学生のグループによる旅行会社の選定の事例が紹介されている。これらの事例から,マーケティング・コミュニケーションへの接触から購買欲求喚起に至るのに非連続的移行が認められたとしている。よってこれらの事例は命題の妥当性を示していると考えられるとしている。今回の研究で見出された非連続的移行は,購買欲求を喚起された特定ブランドを入手することが不可能な必然的なものと必然的でないものとに大別でき,後者はさらに2つに分けられるとしている。消費者の知覚マップに有力ブランドやロイヤルティの高いブランドが存在する場合と,2つ以上(同一の刺激でなくてもよい)のマーケティング・コミュニケーションに接触した場合であるとしている。命題③に関しては,命題①で紹介された事例を取りあげ,「数ヶ月,数年にわたるマーケティング・コミュニケーションへの接触が購買欲求を喚起することがあると言える」(25ページ)とし,命題は妥当性があると考えられるとしている。
結論と課題
消費者の視点からマーケティング・コミュニケーションの影響過程を検討した結果,多様なマーケティング・コミュニケーションに影響されて1つの購買に至ることがあること,影響過程は非連続的であることもあること,影響が長期にわたることなどがわかったとしている。一方で,残された課題として製品星座の考えを適用したマーケティング・コミュニケーション星座とIMCの関係を明らかにすること,製品カテゴリーレベルでの欲求が既に存在した時の影響過程についての検討,マーケティング・インプリケーションの可能性の検討が挙げられている。
出典:堀内圭子(2001),「消費者の視点からとらえたマーケティング・コミュニケーションの影響過程」『日経広告研究所報』,第35巻6号,20-25頁。
投稿者 : 18:39 | コメント (0) | トラックバック
Country Image : Halo or Summary Construct? (Min 1989)
要約
この論文では,カントリーイメージの効果について研究がなされている。ここでは,2つの仮説が挙げられている。1つ目は,後光モデル仮説と呼ばれるもので,製品評価に対してカントリーイメージが後光効果を及ぼすというものである。2つ目は,構成概念モデル仮説と呼ばれるもので,カントリーイメージがひとつの構成概念としての役割を果たすというものである。
検証の結果,消費者が当該国の製品をあまり知らない時,カントリーイメージは消費者が製品属性について評価を行う際に後光効果をもたらし,製品評価を通じて,消費者のブランドに対する態度に間接的に影響を与えることが明らかにされている。
逆に,消費者が当該国の製品をよく知るようになると,カントリーイメージは製品属性に対する消費者の信念を要約した構成概念となる。そして,ブランドに対する態度に直接に影響を与えることが明らかにされている。
仮説
この論文では,カントリーイメージの効果について2つの仮説が挙げられ,検証がなされている。
後光効果仮説によると,カントリーイメージは製品属性に対する消費者の信念に直接に影響を与えるとし,さらに消費者の信念を通じて間接的に消費者の製品評価・ブランドに影響を与えるとされている。
構造関係は,カントリーイメージ→信念→ブランド属性となる。
構成概念仮説によれば,消費者は製品情報を通じて,カントリーイメージを形成するとされている。そして,カントリーイメージは直接的にブランドに対する態度に影響を与えるとされている。
構造関係は,信念→カントリーイメージ→ブランド属性となる。
検証と結果
この論文での検証では,米国,日本,韓国におけるTVセットと小型自動車が取り上げられ,電話によるインタビュー調査が行なわれ,116人の回答者からの回答を基に検証がなされている。
この調査から,製品評価の際にカントリーイメージが重要であるということが明らかにされている。
消費者が当該国製品についてあまり知らないとき,カントリーイメージは消費者が製品属性を評価する際の後光として作用し,消費者の信念を通じてブランドへの態度に対しても間接的に影響を与えることが明らかにされている。
これに反して,消費者が当該国製品についてよく知っていれば,カントリーイメージは,製品属性についての信念を要約する構成概念となる。そして,ブランド属性に対して,直接に影響を与えるということが明らかにされている。
これらのことから,カントリーイメージと製品属性,ブランド属性の間に構造的な相互関係があることがわかる。
インプリケーション
今回の論文から,カントリーイメージと製品属性,ブランド属性の間に構造的な相互関係があることがわかる。このことは,メーカーや国際的マーケターに重要な示唆を与える。カントリーイメージが構成概念として作用するということは個別企業と当該企業の属する産業の間での利益の対立が起こることを意味している。個別企業は消費者に好意的なカントリーイメージを利用することで劣等な製品を販売でき利益をあげることができる。
しかし,このやり方がまかり通れば,その国のイメージは下落し,産業内の他の企業にも影響を与える。なぜなら消費者は製品の情報を通じてカントリーイメージを形成しているからである。
したがって,製品品質の水準管理は政府レベルと同じく産業レベルでも必要である。水準を満たしている輸出者には,税制優遇や補助金などで輸出を奨励し,逆に水準を満たしていない輸出者に対しては,輸出関税や輸出許可の停止などの罰則を課すことで,製品水準を維持していく必要である。
出典:Han, C. Min (1989), "Country Image : Halo or Summary Construct?" Journal of Marketing Research, Vol. 26, No. 2, pp. 222-229.
投稿者 02daigo : 15:47 | コメント (0) | トラックバック
2005年07月11日
広告表現評価の尺度開発(上)―「おっ!」「なるほど!」と思われる広告―(鈴木・安田 2003)
要約
本稿では,クリエイターとマーケターがともに納得でき,共有できる広告表現評価の指標を開発しようとするのが本研究の試みである。
1.はじめに
新聞を見る場合,広告業務に関わる人々は広告から目を通す習慣が少なからずあるかもしれないが,一般の人々は行きずりの人であるため広告よりも記事一般を無意識的に優先している。したがって,広告を無視し素通りさせる方が圧倒的に多く,しかも広告に目を通したとしても広告の平均処理時間は2秒間であると言われている。そこで,広告読者を獲得するためにはこの2秒間で「おっ」と言わしめる必要がある。また,広告読者になってくれた,注目されたからと言って,商品やサービスが必ず売れるわけではないが,まず注目されなければその先はなく,広告接触時での生存率が重要である。しかし,広告読者を獲得したとしてもその広告を読んで「なるほど」と思わず,期待に反するものであれば広告主に対する失望感が生まれ,広告主へのマイナスイメージが増えるばかりである。したがって,広告表現が「どのように広告読者を獲得し,どのように広告読者に評価され,そして商品あるいはサービスの販売にどのように力を発揮できるかを検証することは,広告業務に携わる人にとって常に大きな関心事」(3ページ)であり,クリエイターやマーケターにとって広告表現がどのように広告読者の心をつかみ理解されるかはビジネスの関心事である。しかし,戦後の長い広告の歴史の中で見てもクリエイターとマーケターが表裏一体となって存在することは難しく,企画と調査が乖離した状況が続いていた。そこで,本稿では両者が理解できる一定の客観性の指標を開発することやクリエイターが意図したように広告読者は受け止めているかを調査により検証していくことを視野に入れている。
2.<広告表現>評価に関する先行事例について
広告表現効果の先行事例としては,広告効果を商品の売上から切り離し,「知名度」「理解率」「行動率」といったコミュニケーション目標で広告効果を測ろうとした「目標による広告管理」である「ダグマー」を始め,広告表現,デザインに関する注目率調査の記述やデザイン要素の注目率調査により客観的評価が難しい広告表現をデータ化した記述,アイカメラを用いて眼球運動測定を行った広告効果測定や眼鏡などを一切装着することのない最先端のアイカメラであるアイ・スコープを用いて視聴者が広告を見た瞬間からの視線の動きをリアルタイムに捉えることができる広告効果測定,または最新の認知心理学や脳生理学の知見に基づき広告表現を検証することを主張するものなど様々な広告表現の効果測定がある。
3.本研究の仮説
本研究の最大の目的は,「広告表現を読者の視点から評価する『尺度(モノサシ)』を得ることであり,研究的関心と同時に,クリエイティブワークの現場において実際に参照される(利用される)ことを目指している」(6ページ)であり,その結果を得るため以下の3点を仮説要因としている。第1点は細分化したデザイン素材などの表現アイテムは言及要素とせず,広告原稿全体を対象とした結果としての評価測定を行うこと。第2点は一般的に広告効果として考えられる累積効果の側面(継時的時間要因)は排除し,その広告に対する接触時点を考慮する(広告接触は短期記憶,ブランド認識・イメージ形成は長期記憶)。第3点は評価を2つの側面から観測すること。つまり,「おっ,と思う(印象)広告」と「なるほど,と思う(理解)広告」という2つの視点で評価観測することである。
出典:鈴木昭男・安田輝男(2003),「広告表現評価の尺度開発(上)―『おっ!』『なるほど!』と思われる広告―」『日経広告研究所報』,37(1),2-7ページ。
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ポプラの成熟市場型ビジネス・モデルの分析(佐藤 2002)
要約
この論文では,市場成熟期における小売業のビジネス・モデルについての示唆を得ることを目的とし,コンビニエンスストアのポプラが取り上げられ,「消費者ニーズに合わせた規模の店舗を出店する」(1ページ)デマンド・チェーン・マネジメントと呼ばれる同社のビジネス・モデルが分析されている。はじめにポプラの沿革をたどり,ビジネス・モデル形成のプロセスに触れたのち,そのビジネス・モデルの特徴が示されている。さらに,M&Aを通じた地域拡大戦略,立地・出店戦略などについて検討がされた後,成熟市場型コンビニのビジネスモデルとしてポプラの特徴がまとめられている。最後に,考えられるポプラの今後の課題が示されている。
ポプラの沿革
1976年,米国小売業の見学ツアーで知ったコンビニという新しい商売を導入し,父親が経営していた広島の酒屋を夜間営業の店に衣替えしたのがその始まりであると記されている。初めは近くのスーパーでよく売れているものを中心に品揃えしていたが,夜間営業の店に来るお客の要望は,スーパーのそれとは異なることを知り,ヒヤリングなどから得た情報をもとに品揃えを行った。その結果,売り上げが飛躍的に伸びたとされている。しかし,夜間に販売する商品の供給業者が見つからず,また温かいお弁当がほしいというお客の声に応えるために,弁当のポプラを設立し,その後「「製販一貫体制」を自社で構築,1992年には物流会社も設立した」(3ページ)と記されている。しばらくしたのち,セブン‐イレブンやローソンの進出があり,ナショナル・チェーンに対抗するか,フランチャイジーとして生き残るかの決断を迫られた。その際,あらゆるフランチャイズチェーンの契約書を取り寄せて検討し,それらの優れた点をミックスし,オリジナルの契約書を作り上げ,それをきっかけにフランチャイズチェーンの展開をはじめたという。
ポプラのビジネス・モデルの特徴
まず,ポプラのビジネス・モデルの大きな特徴として,ロイヤルティの徴収方法が挙げられている。一般のCVSは各店舗の粗利の3~4割程度を本部に納める「「粗利分配方式」を採用しているのに対して,ポプラは売上高の3%を収める方式」(4ページ)を採用している。この徴収制度により,ポプラ加盟店の損益分岐点がかなり低くなり,その結果,売上高が少ない地域でも利益を出すことが可能になっているという。また,「ポプラが加盟店に対して柔軟な姿勢で臨む背景には,ポプラ本体がコンビニのフランチャイザーである前に,製造・卸売業としての意識が強いことも影響している」(6ページ)と述べられているように,ほとんどの日配品を独自で製造し,配送も自らで行っている。加盟店は商品全体の25%を本部から仕入れる以外はどこから仕入れてもよく,地域密着型の品揃えができるという。また,製販一貫体制は,消費者の声を直接製造に生かせるといった利点があり,また流通の中間コスト引き下げによる60円という安価なおにぎりの導入を可能にさせたと述べられている。
ポプラの地域拡大戦略と立地・出店戦略
ポプラは,M&Aによる他地域への進出を多く行っている。具体的には,北九州への進出の際にはトップマートを,関東への進出の際にはパスコリテール,ハイ・リテイル・システム,さらにはジャイロを買収し拡大してきたことが示されている。M&Aを選ぶ理由として,すでに完成した人材が得られること,他社の運営ノウハウや商品政策がわかることなどがあげられている。また,売上高の3%徴収という制度がポプラへの移行をスムーズにさせたとも述べられている。
コンビニがオーバーストア状態となっている現在,各社はオフィスビルの中層階や地下など,利用客が限定される「「特殊立地」への出店を余儀なくされて」(16ページ)いるが,ポプラの契約でなら負担は少なく,出店の決断はしやすいとされている。また,オフィスビルの中の店舗では,週休2日で営業時間も1日14時間程度であるという。このような店舗はハイ・リテイル・システムが展開していた生活彩家という店舗で展開されており,品揃えもサラリーマンやOLを対象としてポプラとの差別化をはかっている。このような立地向けに,M&Aにより得た「生活彩家」ブランドを活用しているという。
成熟市場型ビジネス・モデルの特徴とその課題
ポプラのビジネスモデルの特徴は,「顧客価値実現のために加盟店に企業家精神の発揮を求めている点にある」(17ページ)とされている。「顧客満足を実現して,多く売れば売るほど加盟店主の利益は大きくなる」(18ページ)ことが加盟店主のやる気を促し,また品揃えの面などでの自由がそのやる気を削がせないという。また,ポプラの徴収するロイヤルティの低さが,ローカル・ニーズへの対応を立地の面でも可能にし,さらに,製販一貫体制によりローカル・ニーズへの対応がしやすく,またM&A戦略のような攻撃的な戦略も「成熟市場において十全に威力を発揮するビジネス・モデルであると評価できる」(20ページ)と述べられている。
最後に,企業家精神が豊富な人材を募集し続けられるかどうか,大手のCVSチェーンと「ローカル・チェーン」としてどのように競争していくのかという2つの課題が挙げられている。そして,従来のビジネス・モデルとの関係を考えながらそれらをうまく調整していく必要性が指摘されている。
出典:佐藤 善信(2002),「ポプラの成熟市場型ビジネス・モデルの分析」『流通科学研究所モノグラフ』No.004。
投稿者 02eiko : 20:47 | コメント (0) | トラックバック
2005年07月10日
論文入賞しました☆(^o^)v
01yoshishoです。私たち1期生サービス班の論文が、山口大学の懸賞論文で入賞いたしました。
その授賞式が先月18日、山大で行われ、代表で参加してきました!
控え室では、他の受賞者であるインド人の方や院生の方と、お話をして過ごしました。
飛行機で来て式典のあとにすぐ飛行機で帰るという多忙な受賞者の方もおられましたが、受賞者は全員出席しバラエティーに富んだ顔ぶれでした。その後式典は山口県知事さんも臨席され、厳かな雰囲気の中で行われました。
源泉徴収で賞金が1万減っていたのにはだいぶショックを受けました。大賞の方は3万も減らされていてだいぶかわいそうでした。
その日は知り合いと「圭介」で呑んで食べて蛍を見に行きました。ローカルな場所へ連れていってもらいマイナスイオンをたっぷり補給しました。その晩は湯田温泉に入りました。
そして、先日7日の七夕の日に賞金でゼミ生と先生夫妻で鴨川の納涼床に行きました。
雨でちょっとしか床には出れませんでしたが、いつもと一味違うリッチなお食事ができました。
床の前に、一部の子と甘味処へ行ったのですが、小林念侍と遭遇しビックリしました。(ちなみに私はよそ見して見損ねましたが。。)
たまには、いつもと違う場所に皆で出かけてみるのも素敵ですね!
皆で苦労して、励ましあって成長できた論文のおかげで、また皆で楽しい時間を持つことができてとても嬉しいです。一石二鳥ですね。床も格別な思い出になりそうです!
先生夫妻の浴衣姿も素敵でした☆
サービス班の皆、ほんとヤッタね(o^O^o)
広告班の皆がいたから私たちも頑張ることができました、ありがとう☆
そして馬場先生、いろいろとありがとうございました!!私たちを最後までご指導くださりまた家族ぐるみで迎えてくださり・・ご馳走をふるまってくださり・・(馬場家の食材をたくさん食べましたw)
感謝の気持ちでいっぱいです。ありがとうございました。
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2005年07月09日
PB商品の購買行動に関する国際比較調査―アメリカとタイ(シャノン・マンダチターラ・矢作 2003)
要約
この論文ではアメリカとタイにおけるPB商品の購買行動について実証分析が行われている。ここでは,国際的な見地から新たな検討を加えることを目的とし,多様な商品分野でPB商品の開発が行われているアメリカと,外資系小売企業を中心にPB商品の市場投入が進んでいるタイの2カ国でグロサリー分野のPB商品における購買行動を対象に,両国で類似したサンプルを抽出し,実証分析が行われている。これまでのPB研究がデモグラフィック(人口動態的)要因,心理的要因,行動科学要因という3つの分析視点から行われていることが明らかになったと述べられており,この3つのグループからなる研究仮説をまとめ,分析結果からこれらの仮説についての検討が行われている。
実証分析から得られる考察は次の通りである。まず,学究的観点に基づき12の主要な分析次元を設定したとしており,アンケート調査はカンザス州ウィチタとバンコク首都圏の周辺都市であるバングダにおいてアメリカ人159名,タイ人204名のグロサリー買物客をサンプリングし,英語とタイ語で同一内容の質問表に基づき実地したと述べられている。データ分析にはロジスティック回帰と呼ばれる多変量統計解析が用いられている。PB商品の購買行動を特徴づける要因は3つの要因に分類されており,まず家族月収,大卒か否か,及び世帯人数といったデモグラフィック要因についてはPB商品買い物客がアメリカ人であるか否かについて説明もしくは予測するために適した変数とは言い難いとしている。次に心理的要因については分析結果を通じてアメリカ人がブランド間での品質的なばらつきについて知覚していないとしており,アメリカのPB商品を購買する消費者は利用するカテゴリーすべてのブランドを基本的に類似したものであると考えているということになるとしている。また,PB商品における低価格の重要性についてはタイ人とは対照的にアメリカ人にとって価格は,PB購入に関してあまり問題とされないことが言えるとしている。NB商品がPB商品より品質が高いと考えられているか否かという論点に関しては,アメリカ人はPBよりもNBの方が必ずしも高品質であるとは考えていないが,その一方でここでもタイ人についてはアメリカ人と対照的な結果が導き出されており,NB商品がPB商品よりも品質が優れていると考えている人が多く存在し,PB商品購入時における低価格の重要性が相対的に高くなるとしている。最後に行動的要因についてチェーンロイヤリティを持つかという論点に関しては,アメリカ人はあまりチェーン・ロイヤリティを重視せず,反対にタイではチェーン・ロイヤリティを持っていることが分かるとしている。タイ人がチェーンロイヤリティを持つ理由としてはタイにおけるチェーンストアの発展がごく最近であることと,交通手段の制約による店舗選択への制約があげられている。また,買物人数についてはタイ人はアメリカ人よりも多くの人数で買物をすることを好んでいることが分かるとしており,タイがアメリカと比較して集団主義的社会であることがその理由であるとしている。そして,この分析を通してアメリカ人がほとんどのブランドが同じような品質にあると感じ,そのことが知覚するPB商品の購入リスクを軽減させていることを確認できたことが収穫であると述べられている。
結論は次の通りである。アメリカとタイにおける国際比較研究を通じてチェーン・ロイヤリティ,買物人数,NB・PB商品のブランド間における知覚品質などの様々な論点において両者の違いが明確にされている。今後の課題としては個人主義者や集団主義的な文化が影響するのか否かについて調査・検討することがあげられている。
出典:ランドール・シャノン,ルジルターナ・マンダチターラ,矢作敏行(2003)「PB商品の購買行動に関する国際比較調査―アメリカとタイ」『経営志林』第40巻1号,127―143ページ。
投稿者 02takenaka : 23:58 | コメント (0) | トラックバック
広告戦略立案のためのブランド連想分析-「方向性」概念を基軸として(佐藤 2003)
要約
過去の研究では,ブランドを起点として発生する連想に関するものがほとんどであったが,本稿ではブランドの外側の概念からブランドへ向かう連想が重要な意味を持つという考えより,独自の分析フレームを作り,自由連想調査を行い,連想の構造の視点より強いブランドとは何であるのかを分析するとしている。
1.はじめに
過去のブランド連想に関する研究はブランド・エクイティ研究とともに発展してきたとし,ブランドを起点としてそこから抱くイメージや連想するものを対象とした研究が大半であったとしている。しかし,本稿では実際の購買,消費行動において「製品カテゴリ」や「製品属性・ベネフィット」からブランドを連想することも重要な意味があるとし,ブランド連想の定義を広く捉え,方向性概念を基軸とした連想の分析フレームを提案し,その枠組みより自由調査を行い,連想構造の視点より強いブランドの要因を分析するとしている。例として「アミノ酸」,「アミノサプリ」が挙げられておりその方向性は以下のとおりである。アミノ酸からアミノサプリを連想するのか,アミノサプリからアミノ酸を連想するのかということである。
2.ブランド連想における方向性概念と「ABCトライアングル」
Farquhar and Herr(1993)は,ブランドを起点として連想するものと,あるものから連想してブランドに向かう方向性には強度に不均衡があるため両者を区別すべきであるとしている。阿久津・石田(2002)のビタミンCとアセロラドリンクの関係性の研究をみると,その差は明らかであるとしている。ここで『ビタミンCの摂取を目的とする考慮集合を想定してブランド想起の問題を考える場合,「ビタミンC→アセロラ」の連想は,「アセロラ→ビタミンC」よりもはるかに重要』(44ページ)であるとしている。次に指標については以下のことが述べられている。ブランドを起点とした場合,そこから連想した項目はブランドの「理解度」を示す指標としては適切であるが,消費場面において連想からブランドに向かった方がブランドの強さの指標としては適切であるとしている。
つまり,「ある概念からブランドへ向かう連想が強いということは,その概念のグループ内にいる他の競合銘柄に比べて優位にある」(45ページ)としている。また,ブランドを連想させる機会が多いものも非常に有利であるとしている。
前章でも紹介したように本稿ではブランド連想を広義の範囲で捉えている。これに基づき「ブランド(Brand)」,「カテゴリ(Category)」,「製品属性(Attribute)」に分け,各項目より残りの2つに矢印を引いたものを「ABCトライアングル」と呈示している。ここでのブランドはKeller(1998)の定義に従って,「ブランド部分を単なるブランド名のみならず,ブランドを識別させる要素も含めて考える」(45ページ)としている。広告戦略においてこの考えを適用する時には,ブランド,広告間の連想を,ブランド,カテゴリ・製品属性の関係と同一に考えずに広告を手段的要素,カテゴリなどのブランドに関する連想を目的的要素として分けて考えるとしている。
3.自由連想調査調査概要
前章で記した分析フレームに従って,機能性飲料(ポカリスエット,ダカラ,アクエリアス,アミノサプリ)と茶飲料(おーいお茶,生茶,まろ茶,爽健美茶)について大学生を対象として2002年の10月下旬から11月下旬に,一銘柄についてカテゴリ,ブランド,属性の各々を起点とした連想をリサーチしたとしている。この際,連続して質問すると互いの連想に悪影響を及ぼすので,調査は分けて行ったとしている。
4.調査結果
各ブランドのカテゴリ,属性,ブランドを起点とした調査を行ったが,本稿では主要部分を抜粋して紹介するとしている。
まず,ブランドを起点とした自由連想の飲料銘柄連想の総合的分類を行っている。次に各ブランドについて個別に分類すると以下のとおりである。「ポカリスエット」,「アクエリアス」,「おーいお茶」はカテゴリ関連の連想が多いカテゴリ型,「ダカラ」や「生茶」はブランド周辺の連想が際立っている広告型,「アミノサプリ」,「爽健美茶」はその商品の特性の知識などが相対的に強く表された属性型,「まろ茶」は全体的に連想反応が低い,埋没型であると記されている。また,広告型の2つはマインド・シェアの高いブランドであるともしている。
強いブランドの連想構造とは何かについて「ポカリスエット」,「ダカラ」,「アミノサプリ」の3銘柄に焦点を当てて考察するとしている。「ポカリスエット」の調査結果より,ロングセラー・ブランドは「利用目的連想の構築は長期にわたるコミュニケーションの蓄積がないと難しい」(47ページ)としている。「ダカラ」の調査結果より,広告によるところが大きいブランドは効能・ベネフィットを補強する知識を加えていくことや,効能イメージを消費者側の日常生活にうまく浸透させて結び付けていくことが必要であるとしている。「アミノサプリ」の調査結果より,消費者の知識内で属性部分がカテゴリと機能するようになると,追随する競合銘柄に対して優位に立てるとしている。
カテゴリを起点としてブランドの連想を構築するには,コミュニケーションの面から考えるとブランドに流れやすくすることやブランドへ向かう連想数を増やすことが挙げられている。製品戦略の視点から見れば,サブカテゴリの構築やパイオニア戦略があるとしている。広告戦略において連想を流れやすくするということは,「広告メッセージに内包されるコンテクストを強化して説得力をもたせること」(48ページ)であるとしている。つまり,結節点を入れることによって概念間を強化することであるとしている。そうすることにより強固な連想が構築されるとしている。
結論は以下のとおりである。①消費者のブランド知識を知るためには,ブランドの連想構造を十分に調べなければならず,②考慮集合概念からブランドに向かう連想強化のための鍵概念の洗い出し,そしてそれがブランドに帰着するための独自のコンテクスト創造,③長期的コミュニケーションにおけるブランド想起のためのきっかけ増加,④連想することにより,自社ブランドがどれだけ連想のシェアがあるのか知っておくことが必要であるとしている。
出典:佐藤志乃(2003),「広告戦略立案のためのブランド連想分析-「方向性」概念を基軸として」『日経広告研究所報』,第37巻4号,44-49頁。
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2005年07月07日
小売マーケティング成果と買物行動(高橋 2004)
要約
本稿では,品揃え形成,価格設定,プロモーションなどの小売マーケティング活動の成果と買物行動の関係について店舗レベルでの分析と考察が行われている。消費者行動が小売マーケティング成果に及ぼすフィードバックについての研究が十分に行われていないという問題点を指摘し,買物行動上の成果と店舗の経営成果の関連性や,両者を規定する小売マーケティング要因を解明することを研究課題としている。まず,成果指標を小売マーケティング目標との関係により類型化し,続いて消費者の買物行動と小売マーケティングの関係についての分析フレームワークを示し,ホームセンターの店舗及び買物客から得られた2年分のデータを用いて,①店舗レベルでの小売マーケティング成果指標の次元の抽出とそれらの次元間の関係,②抽出され成果と小売ミックス要素変数ないしは,店舗属性評価変数との関係,③年度の異なる2つのデータの分析による時間的安定性の吟味の3つについて実証分析が行われている。そして結びとして分析結果から仮説を導き出すとともに今後の研究課題を示している。
理論的検討
まず,小売マーケティング成果を小売業が持つマーケティング目標に対する達成度として捉えることを前提として,何を目標としているかにより小売マーケティングを,最高級の品揃えを目標とした製品志向のマーケティング,顧客ニーズ対応を目標とした消費者志向マーケティング,ストアロイヤルティをベースにした顧客との長期的信頼関係の構築を目指すリレーションシップマーケティングに分類している。そして成果指標としては売上やマーケットシェア,それに利益などのように目標の達成度を業績として捉えたものと,顧客満足やストアロイヤルティのように消費者行動面から捉えたものを考える必要性があることを示している。業績面を成果として捉える指標としては,生産性があげられ,一方消費者行動面を捉える指標としては,買物満足やストアロイヤルティなどがあげられている。
分析の枠組としては,店舗の業績面から捉えた成果指標と消費者行動面から捉えた成果指標はいかなる関係にあるのかということが,小売店と消費者の関係の中で概念的に捉えられており,それらの成果指標は小売マーケティング行動ないし消費者行動によそれぞれ規定されていると同時に互いに影響しあう関係であるということが述べられており,それが具体的に説明されている。
実証分析
今回の分析に用いられたデータは2001年2002年にホームセンター企業(最大6社)の全店舗から得られたデータであり,これは①データが店舗と顧客という2つの情報源から同時に得られている,②データが複数の企業から得られている。しかも統計解析に耐えられるだけの店舗数でサンプルが構成されている,といった理由で入手困難なデータであると述べられている。
まず,店舗および消費者から収集した様々な小売マーケティング指標について,それらの背後に存在する次元を因子分析により抽出し,その次元間の関連性についても明らかにされている。分析方法としては主因子法による因子分析が行われている。その結果,各年度につき業績面から捉えた因子からは1つの因子が,同じく消費者行動面からは2つの因子が抽出されたとされている。消費者行動面から抽出された因子は,態度的ロイヤルティと行動的ロイヤルティであると想定されており,次に業績面から捉えた因子と,消費者行動から捉えた2つの因子の相関が分析されており,その結果として態度的ロイヤルティ→行動的ロイヤルティ→業績面から捉えた成果という因果的連鎖の存在が暗示される結果となったと述べらている。
次に抽出された小売マーケティング成果因子が小売ミックス要素といかなる関係にあるかが段階的に回帰分析されており2つの年次で共通の結果が出るかということが注目されている。業績面から捉えた成果因子,態度的ロイヤルティ因子,行動的ロイヤルティ因子の3つの従属変数と1,小売ミックス要素を構成する13の独立変数を用いた分析により,3つの因子のうち業績面から捉えた成果因子のみ2つの年度で共通して有意となり,売場面積当りの従業員数が豊富で,広告への依存度が低く,最低価格保障といった機動的な価格対応をしない店の方がマーケティング成果が高く,2年間については安定的であるという結果が得られた。逆に態度的ロイヤルティ因子を小売ミックスで説明することはかなり困難があるという結果も得られた。
そして最後に,小売マーケティング成果因子を小売ミックスに対する消費者評価によりどこまで説明できるかについて検討されており,従属変数には同じく3つの因子を,独立変数には消費者による店舗属性評価変数が用いられ分析されている。結果としては,小売ミックスと全く逆の結果が得られ,態度的ロイヤルティ因子の説得力が高く,説得力が低かったのが業績面でから捉えた成果因子を従属変数としたものであった。しかし,従属変数別に見ると,2つの年度で有意になったのは,態度的ロイヤルティでは店舗の雰囲気だけであったとしている。一方,行動的ロイヤルティ因子に関しては,2つの年度で,来店所要時間,価格の安さ,雰囲気について有意差が見られたため,行動面からみたホームセンターに対するストアロイヤルティの規定要因は,立地,価格,店舗の3つであるという結果も得られた。
分析結果と課題
本研究を「入手及び公表が困難なデータを用いて行った極めて探索的なもの」(243ページ)とした上で,実証分析の結果から5つの体系仮説を示すことで,後の研究に一定の示唆を与える学術的貢献をすることを結びとしている。そして今後の課題として今回のデータが,ホームセンターという業種にしぼった分析であり,他の業態での分析の必要性や,時系列に分析するには2年というデータでは不十分という点,加えて買物行動が店舗の業績に結びつくまでの過程について小売業務プロセスから解明する必要がある点の3つを指摘している。
出典:高橋郁夫(2004)「小売マーケティン成果と買物行動」『三田商学研究』第47巻3号,229-245ページ。
投稿者 02kayasi : 23:59 | コメント (1) | トラックバック
クオリティ・オブ・ライフに関する基本的問題(渋谷 1998)
要約
クオリティ・オブ・ライフは生命の質、生活の質などと訳されているが,適訳がなく,現在では英語あるいは略語のQOLをそのまま使用していることが多い。QOLは人それぞれによってとらえ方,感じ方は異なるが,基本的には人間としてより充実した生活を送るために,その生活の質や人生の質を重視し,肉体的,精神的,社会的に良好な状態を保つ,あるいは向上を目指す考え方であると述べられている。高齢者の福祉,精神医療,終末医療,社会環境,社会老年学など,さまざまな分野でその重要性が唱えられているとしている。近年、特に医療の世界においてクオリティ・オブ・ライフが重視されてきているとし,この述語の意味するところは何であるのかというこの問いに答えるには,「Life」という概念を検討することが必要不可欠であるとしている。この論文の意図は,「Life」の多義性を解明し,さらにクオリティ・オブ・ライフをめぐって生起する問題点を指摘することとしている。
1.生命
「命の質」という場合には生命の質の良否という価値判断の前に「生命とは何か」という問いにある程度答えなければならない。私たちは「生命体」を単に「生命」と称するあり,必ずしも両者を自覚的に区別しているわけではなく,私たちは「生命体」なり「生命」なりを無反省に使用しているのである,としている。言うまでもなく,生命現象は有機体に固有の現象であり,生命は生命体の機能であるとし,「もとより生命体としての人間は一つの統合体であり,そこに生起する諸々の生命現象は相互に関連し,一つの有機的な統一を保っている」(306ページ)と述べている。ここで論じるQOLのLifeは生命体の機能を意味し,QOLは生命体の機能の質となる,としている。
2.生と死
死には,脳死という死や,呼吸の停止という死もあるため,「死」は,一義的ではなく,多義的なものであるとしている。死は段階的に進行するものであり,死は生命力が弱まる過程に見られる現象であるから,生と死は不可分の関係にあり,共存しうると述べている。QOLにおけるLifeが「生命」を意味するのであれば,この生命は過程としての生命現象のどの範囲を指すのであろうか。そして,或る固体において生の現象と死の現象とが共存しているとき,その個体の死をどの時点で判断するのか。これは生物学や医学の問題であると同時にそれを越えた問題であるとしている。生命の終末がどのように考えられようとも,QOLはこの時点に至るまで考慮の対象になりうると述べられている。
3.個体
「固体という概念は,倫理学では人間の集団,社会的な組織に対立する概念とされており,個人と言われるものである」(310ページ)としている。先に私たちはQOLを生命体の昨日の質と見なし,その際,個体としての生命体を念頭に置いていたが,生命体は固体としてのみ存在するわけではないとし,生物学や医学で生命体を論ずる場合,生命体は,細胞,組織・臓器,固体,集団などのレベルで考察することができる。「個体として生命体の機能の質の良否は,当然のことながら組織・臓器としての生命体の機能の良否に依存する」(311ページ)としている。
4.QOL
今日では「生命の量よりも質」ということが医療の合言葉であり,QOLが重大な関心事となっている。生の最終段階が死であり,生なくして死はありえない。生が社会性を持つものであるならば,生の完成としての死もまた社会性を有するものでなければならない。生も死も単なる個人のためではない。患者に自己決定権があるといっても,しれは無条件のものではなく,自ずと限界がある。患者の生死はある意味では管理された生死である。・・・このような状況で,患者のQOLをどのように理解したら良いのか。Lifeは生命でもあり,生活でもある。医療の現場でのQOLを考慮する場合に,そのQOLには現在のQOLだけでなく快癒後のQOLも含まれていると説明している。生命の質の良否は彼らの日常生活に現れてくるため,QOLは結局,生活の質であるとし,QOLを「生命の質」と訳そうが,「生活の質」と訳そうが,QOLは人間的生命の質であり,人間的生活の質なのであると述べている。
5.QOLと意思決定
意思決定能力のない患者のQOLと生命維持については,多くの問題があり,現在でも一致した見解は見られない。QOLの段階を設け,完全な健康体の場合にそれを1とし,死体の場合にそれを0とするならば,意思決定能力のない患者のQOLは0に限りなく近いとしている。誰であれ,人格を有するものとして,等しくQOLの向上に与かる権利を有することができるが,果たして個人は自己のQOLを無制限に追求できるのか。或る個人のQOL向上のために別の個人のQOLを犠牲にすることが許されるのか。医療経済学は,今後多くの難問の解決を迫られるであろうとしている。
結論
QOLの向上は誰もが願うところであるが,現実は過酷である。QOLは個人の問題ではなく,社会の問題である。個人のQOLや個人の幸福のみを追求する時代はどうやら終わりを告げようとしている。「新しい時代に即応した医療と生命倫理の確立こそが急務である」(316ページ)。
出典:渋谷久(1998),「クオリティ・オブ・ライフに関する基本的問題」『上越大学研究紀要』,第17巻第1号,305-317ページ。
投稿者 02hidemin : 23:54 | コメント (2) | トラックバック
英文論文の引用書式
また最近,投稿におけるタイトル表記や引用文献の書式ミス,ひいては誤字脱字などが目立ってきました。何カ所か横線を引いてありますので,修正するように。閲覧者がいることをしっかりと認識してください。
ちなみに,英文論文の引用書式は以下の通り。
Family name, First name (year), "Title," Journal Name, Vol. ?, Issue ?, pp. ?-?.
○ •=半角スペース
○ アンダーライン部分=イタリック体(斜体)
○ First Nameは略記可 ex. Michael → M.
○ 第2著者以降は"First name Family name"の順
○ Vol. ?, Issue ?は?(?)でもOK
○ andの書式 ex.1: A and B ex.2: A, B and C
○ TitleとJournal Nameは前置詞,冠詞,接続詞以外はキャピタライズ
英語書籍の日本語訳の場合
Family name, First name (year), Book Title: Subtitle, Publisher (訳者『書籍名』出版社,出版年).
英語論文集の邦訳のなかの一本の論文の場合
Family name, First name (year), "Title," Editor name ed., Book Title, Publisher, pp. ?-?(訳者「論文題名」訳者『書籍名』出版社,出版年,?ー?ページ).
○ Editorが複数名いる場合はeds.
○ Editorの姓名表記は"First name Family name"の順
投稿者 Baba : 04:36 | コメント (0) | トラックバック
2005年07月06日
マス広告の限界とメディアのリストラクチャリング-特集“質”コミュニケーションのパラダイム・シフト-(大橋 1993)
この論文では,「メディアはメッセージである」というフレーズが多用されており,広告のコピーや映像など内容よりもメディアそのものが持つメッセージ性を重視し,「メディア」が文化や環境を作り出していることを強調している。最近のメディアの変化に比べて,「広告のメディア」の現状が変化していないことに触れ,21世紀の広告のコンセプトについて言及している。
“メディアはメッセージである”-この言葉は,「M・マクルーハンの『人間拡張の原理』の最初に登場する」(57ページ)。メディアのメッセージ性とは,「例えば印刷は,口述文化の持つ地域性を無くし,国民を同質化しナショナリズムを生み出した」(57ページ)と指摘している。“メディアはメッセージである”この視点を筆者は日常生活が取り巻く個別のメディアに当てはめている。同じコピーや言葉でも,どういう手段=メディアで表現するかによって全く効果は異なる。「コミュニケーションの手段そのものが1つの大きなメッセージになっているということであり,もちろん,広告のコミュニケーションにもあてはまる」(57ページ)。
広告のメディア選択の際,広告主はターゲットに対するリーチ,フリークエンシー,GRPなどの目標値に基づいて計画され,広告を載せる媒体であるメディア自体が持つ「メッセージ性」は考慮されない場合が多い。考えられてきたにしても,媒体特性程度で,例えば,新製品発売時の広告媒体としてはテレビコマーシャルが一番コストも安く,知名度を高めるには効率がいいと判断されてきた。このようなメディア選択では,誰もが同じメディア・ミックスを行うことになる。ある一定の評価の定まった広告媒体に広告が集中し,新しい媒体として他の何かが採用されたり,「メディア選択の新しい試みは行われにくくなる」(57ページ)。すると受け手は決まりきったメディアでの広告にしか出会えない。メディアの持つメッセージ性は生かされず,広告の内容(表現性・面白さ・コピー・映像・インパクト)だけが「創造性に関わる」(57ページ)問題となる。広告は表現などその内容においては独創的にその変化をさせてきたし,新しい試みなどもしてきたがメディア選択では差異性を求めるよりもむしろ効率を求めたりと保守的であった。
しかし,メディアのメッセージ性を組み入れたメディアとして“J-WAVE”がある。この番組編成の仕方は特徴的で時間帯によってターゲットを分け,その時間によって個別の番組を作るというのではなく,その放送が1つの番組のようになっている。その番組編成がメッセージとなっており,リスナーは「J-WAVEを聞きたい」という動機でそのラジオをつけるのである。また,J-WAVEの広告はメディア選択にも特徴があり,「東京というリージョナルな音楽マーケットに徹頭徹尾にこだわって」(58ページ)おり,巨大ポスターは東京の風景の一部となっている。つまり,広告自体が都市の一部になる事で「存在理由の訴求」の達成ができ,都市のイメージに重ねることで強いイメージで定着していく。
広告媒体はテレビ・新聞・雑誌・ラジオの4つが主要なものであり,この構造は長年,広告の内容の変化に比べるとさほどの変化は見られないが,消費者ニーズの変化や,ニューメディアの登場によって変化が促されつつある。携帯電話やパソコンなどツー・ウェイのコミュニケーションメディアが増えとことも特徴的である。コミュニケーションメディアは新たな広告媒体となりえるだろうか?広告費をできるだけ低コストに抑えたいのは度の企業でも同じである。その有効的な使い方の1つにツー・ウェイのメディアの使用が挙がる。それを中心として「コミュニケーションのメディアの進化が広告のメディアを変えていくことは間違いない」(60ページ)。しかし一方で,情報の質も変わってくる,代表的なものが本文の言葉を借りるとするならば①情報の等身大性と②(消費者の)参加型と言え,より現実的な情報の提供が求められ,受け手が送り手になることをそれは可能にするのである。「企業はユーザーや顧客の声が自由に行き交うメディアをスポンサードすることが求められているし,そのためのメディアがいま用意されているのである」(61ページ)。ネットワークのコミュニケーションが進化していく時代に入った。
結論
表現においてアイデンティティが必要なように,コミュニケーションのメディアの選択にもそれが求められる。より広告費を効果的に使うためにもダイレクトにコミュニケーションができるツールや対話型のメディアが必要とされており,ネットワークのメディアを作ることが必要になってくる。それを通じてコミュニケーションを創出するべきである。
出典:大橋正房(1993),「マス広告の限界とメディアのリストラクチャリング」『ブレーン』,33(10),56-61ページ。
投稿者 02tsukazaki : 23:50 | コメント (0) | トラックバック
わが国グローバル小売企業の国際化戦略の展開-イオンをケースとして-(山本 2002)
要約
近年の小売業界は,ハイパーマーケットやディスカウント・ストアなど新しい小売業態の出現や,欧米を中心とする小売企業の海外進出によるグローバルな競争の状態にある。そして,この急激な小売企業の国際化に伴って,それに対する研究も多く見られるようになったが,小売企業の参入後の実証研究は,未だ十分進んでいない状態である。本稿では,小売企業の国際化に関する実証研究が小売企業の国際化研究を考える上で重要であると考え,小売企業の国際化の実態を分析し,新たな研究の課題を発見しようと試みている。ここでは,まず既存研究を整理し,その問題点を明らかにする。次にイオンの国際展開の実態を分析し,今後の研究へのインプリケーションを得ることを目的としている。
既存研究の整理
小売企業の戦略に関する既存研究は,参入戦略と参入以降の戦略に分けられる。まず参入戦略については,100%子会社,合弁,フランチャイズなどの参入方式戦略に関わる研究が見られる。一方,参入以降の研究については,「規範的研究の蓄積は見られるものの,実証研究はきわめて少ないという傾向がある」(30ページ)。規範的研究では,例として,ペレグリニによる小売業態面での多角化と地理的多角化の二つの軸をもとにした,小売企業の成長戦略モデル構築が挙げられる。しかし,外部環境の変化に影響されやすい小売業において実際にとられる戦略は,当初に意図された計画的戦略ではなく,外部環境に適応しようと試行錯誤を重ねた戦略であることから,小売企業が参入した地域においてどのような国際化戦略をとったのか,という課題を明らかにすることこそが重要であるとしている。
イオンの国際展開
ここでは,小売業の参入後の戦略について明らかにするため,イオンの海外における小売戦略を国別に分析し,考察を行っている。
イオンは1985年から継続的に海外進出を行っており,他の日系小売企業の海外からの撤退が相次ぐ中で,一線を画している。そのイオンの海外進出の特徴として,現地でのニーズ・情報を収集し,それに適応した戦略をとっている。例えば,タイでは,参入当初から大規模なGMSとSMの二種類の業態をとっていたが,マクロなど小売外資の郊外での大型店舗の出店競争が始まり,郊外において競争が激しくなったため,タイではまだ育っていなかったSM業態や,マックス・バリュー(SSM)をバンコク中心部で展開することで,競争を避けて市街地に小規模店舗を展開するという戦略へと転換した。香港では,景気が悪く,デフレ状況であったことから,100円ショップ「ダイソー」を展開する大創産業と提携し,「10ドルプラザ」という新業態を展開するなど,各国の小売環境の変化に応じて,新しい業態を開発するなど動きが見られる。また,現地消費者が経験したことのない商品やサービスを積極的に導入することで,新しいニーズを生み出そうとする動きも見られるなど,当初意図した戦略ではなく,現地市場に参入した後に海外子会社や店舗レベルでの「創発的な行動」(35ページ)がとられており,そのような行動を可能にする子会社戦略が有効に機能している,と分析している。また,外資の日本進出への対策のために,有力外資との競争が激しいアジアへ進出することを薦めるなど,海外出店に対して積極的な態度を見せている。これらのイオンの国際展開から得られる,研究へのインプリケーションとして,まず小売企業の国際戦略を把握するためには,各国での撤退や進出といった動向だけでなく,海外子会社の動向を考慮することが必要であることが挙げられる。そして,小売企業研究の失敗の捉え方に関して,イオンは海外進出で生じる店舗の閉鎖などを失敗と捉えず,試行錯誤を重ね,企業全体がその経験から学習することにより,長期的にはプラスになると考えていることから,これまでの店舗閉鎖や撤退を失敗とする短期的な捉え方ではなく,長期的な見解から戦略を捉えるべきである,としている。
結論は以下の通りである。イオンの国際化戦略を分析すると,海外子会社や各店舗による創発的な行動が,業態面や商品政策面において海外市場への適応を生んでいる,としている。 そして,この研究から抽出できる研究へのインプリケーションとして,まず,海外子会社の動向を追跡しなければ,国際戦略を把握できないこと,次に,失敗に対する捉え方は,長期的な国際化戦略を捉えることが重要であることを挙げている。最後に,当研究が日系小売企業のイオンの国際展開にのみ焦点を当てたことから,今後国際戦略を考察するにあたって,欧米系,現地系の小売企業との競争の視点を取り入れる必要がある,としている。
出典:山本崇雄(2002),「わが国グローバル小売企業の国際戦略の展開-イオンをケースとして-」『世界経済評論』,第46巻10号,29-39ページ。
投稿者 02umeda : 23:28 | コメント (0) | トラックバック
Gauging Foreign Product Promotion (Anderson and William 1972)
要約
この論文では,消費者の外国製品に対する選好に人口統計学上の客観的要因やパーソナリティが影響を与えているのかについての分析がなされている。分析の結果,外国製品の選好に対して消費者のパーソナリティが関連していることが明らかにされている。保守的な人であるほど,独断的態度をとる人ほど,外国製品への選好が低いという結論を下している。
分析
1970年5月に国内生産車および海外生産車の購入者がそれぞれ58人ずつが回答者として選ばれている。
まず,彼らの外国製品に対する選好度合いを測るために「外国製品は質の悪い部品で作られている」や「外国製品はいかなる点においても優れている」といった質問をし「とてもそう思う」から「全然思わない」までの意見によって回答してもらっている。この調査から,消費者を海外製品に対する選好度合いによって3つのグループに分類している。
次に,回答者を人口統計学上の項目(家長の職業・年収・家長の教育水準・回答者の社会的地位・結婚期間・家長の年齢)と個人的な性質(地位に対する執着心・保守性・大取引に対する態度・独断的態度)を図る項目について解答してもらっている。そして,それらの項目と外国製品に対する選好に
についての関連を分析している。
結論
客観的尺度を分析したところ,家長の教育水準以外は,外国製品選好にたいして影響を与えていないことがわかった。このことから人口統計学上の客観的要因は外国製品の選好と関連がないことが明らかにされいる。
しかし,消費者のパーソナリティは外国製品の選好に影響を与えていることが明らかにされている。比較的低い地位にあり,保守的な傾向が低く,独断的な考えをあまり持っておらず,さらには,大学教育を受けたという比較的教育水準の高い人が外国製品に対しての強い選好を示しているという結果が示されている。
この結果は,外国製品に対する評価というのは,個人が変化・相違に対してどれほど寛大であり,寛容性を持っているかによって下されるという常識的な考えと一致する。
逆に,外国製品に対しての選好が低い人は,比較的高い地位にあり,保守性が強く,独断性が高い人であり,満足な大学教育を受けていないという特徴が示されている。
保守性の高い人程外国製品に対して低い選好を示すという分析結果は,保守主義者はいかなる変化・相違についても懐疑的な態度をとるという常識的な考えと一致している。
国内生産車の所有者に比べて,外国生産車の所有者は比較的社会的地位が低く,より寛大な性格を有しており,教育水準が高いという性質を備えている。
インプリケーション
外国製品に影響を与える個人的性質につていて明らかになったことにより,効率的な市場計画やマーケティング戦略がたてられるようになる。さらに,プロモーション戦略を評価する際の判断基準となるだろうとしている。
出典:Anderson, W. T. and William H. Cunningham (1972), "Gauging Foreign Product Promotion," Journal of Advertising Research, Vol. 12, No. 1, pp. 29-34.
投稿者 02daigo : 03:35 | コメント (0) | トラックバック
2005年07月05日
消費者の情報処理プロセスとコミュニケーション戦略(清水 2005)
この論文は,消費者の意思決定プロセスの段階の違いや,製品への関与度によって重視される評価項目や利用メディアがどう異なるのかをデータを用いて分析している。
文献レビューの結果,情報処理型プロセスについて多数のモデルが提示され,そのモデル研究によって①消費者は過去の経験を知識として蓄え,知識の違いによって外部からの情報の処理方法が異なること,②知識の違いは関与の違いと関係すること,③消費者は何段階かをかけて意思決定すること,④段階によって意思決定の方法,重視する商品属性が異なること,などが外部情報との関連で明らかにされたとしている。過去の研究から,消費者の関与度や意思決定の段階によって,評価項目が異なることは明らかにされているが,必要とされるメディアの違いまでは言及されていないとして「評価項目が異なれば,利用するメディアも異なっていいはずである」(9ページ)という問題意識を提示している。
分析に用いたデータは,大日本印刷のメディアバリュー研究2004年版である。メディアの利用状況から16の商品カテゴリーに分類し,購入に関わるメディアとチャネルの利用方法が似た商品カテゴリーをクラスター分析によって類型化している。その結果,刺激-反応型の意思決定が行われる商品カテゴリーと情報処理型の意思決定が行われる商品カテゴリーにわかれたとし,刺激-反応型からはアルコール飲料を,情報処理型からは自動車が選択され,それぞれが詳しく分析されている。まず,意思決定プロセスの異なる段階での利用メディアを概観している。次に,関与度の違いによって消費者を4つのレベルに分類し,比較検討時と最終決定時にそれぞれ重要視される評価項目を関与度のレベルごとにApriori分析で求めている。最後に,重要視される評価項目と,その際の利用度が高いメディアとの関係を比較検討時,最終決定時それぞれについて偏差値で示している。
分析の結果,アルコール飲料は「同じ評価項目を同じメディアで評価し,選択していると考えられる」(15ページ)としている。具体的には,①意思決定プロセスのどの段階においても利用メディアの違いはほとんどなく,口コミを除けばテレビなどの受動的なメディアが利用されていること,②関与度のレベルの違いによる評価項目の違いの差はほとんどなく,比較検討時と最終決定時でも同じような結果となっており,周囲の評判,広告・宣伝,品質・性能,ブランド・メーカー,割安感,使用経験が重要視されていること,③どの関与度のレベルでも比較検討時,最終決定時ともにテレビと店頭情報の影響が強く,関与度のレベルの違いが出るのは,関与度のレベルが高いほど積極的に情報を収集しなければ入手できない口コミ(能動的な情報)を重視し,レベルが低いほどメーカーや小売の情報(受動的な情報)で評価すること,が明らかになったとしている。自動車は関与度のレベルに限らず評価項目はほぼ同じだが,関与度のレベルの違いによってその項目の重要度が異なるため,それらの項目の情報を入手するのに利用されるメディアも異なってくると考えられるとしている。具体的には,①意思決定プロセスの段階が進むにつれてテレビなどの受動的な情報から店員や販売員の情報やパンフレットといった能動的な情報へと利用されるメディアがシフトすること,②比較検討時,最終決定時で評価項目に違いがあり,比較検討時は関与度のレベルの違いによる評価項目の違いはあまりないが評価項目の重要度が異なること,関与度のレベルの違いに関わらず比較検討時での評価項目の数が最終決定時よりはるかに多く,最終決定時の評価項目はブランド・メーカー,デザインなど関与度のレベルの違いに関係なくほぼ同じであること,③どの関与度のレベルでも比較検討時と最終決定時ともに店員や販売員の情報やパンフレットの影響が強く,関与度のレベルの違いが出るのは関与度のレベルが低いほど最終決定時に家族の意見を重要視し,関与度のレベルが高いほど比較検討時に多くのメディアを使うこと,が明らかになったとしている。
結論と課題
この分析の結果は,コミュニケーション戦略において「各メディアが得意とする商品評価項目を明らかにするとともに」(15ページ)消費者が意思決定プロセスのどの段階で何を重視するのかを知ることが必要であることを示しているとしている。今回は言及できなかった,意思決定プロセスの段階ごとのメディアの組み合わせやその効果がどのようなものなのかを見ていければ,コミュニケーション戦略はより精緻なものが導けるだろうとしている。
出典:清水聰(2005)「消費者の情報処理プロセスとコミュニケーション戦略」『日経広告研究所報』,第219号,8-15頁。
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2005年07月04日
「新しい広告」の理論―AIDMAを超える新しい広告研究を求めて―(飽戸 2003)
要約
今日,AIDMAやDAGMARなどの広告効果研究が行われてきたが,期待されるような効果は確認されていない。そこで,本稿では「『新しい広告』の理論と方法が今日の広報研究に新しい有効な視座を提供することを示唆している」(7ページ)。
1.「新しい広告」の機能
戦後,広告量が急激に増大し,人々は広告に飽き飽きし,広告を嫌う傾向が増えてきた。テレビ視聴においてもザッピングなども一般化していた。そのような時にアメリカでおもしろ広告が出現し,人々に衝撃を与えた。このおもしろ広告は,これまでの「これを買ってください」や「こんなに安いですよ」などの販売促進広告とは異なり,「これは何だろう」と思わせるもので広告にうんざりしていた民衆に興味をもたせるものだった。このおもしろ広告は,瞬く間に日本にも普及した。その代表例は大橋巨泉が万年筆をもってつぶやく「はっぱふみふみ」広告である。おもしろ広告の特徴としてはただ表現がおもしろおかしいだけでなく,「斬新な発想と手法,さまざまな広告のタブーへの積極果敢な挑戦」(3ページ)である。また,やってはいけないことをするもの,やらなければいけないことをやっていないものやしゃれたもの,見て楽しいもの,ただ単に相手を誹謗中傷する競争広告などはネガティブ広告と言い,このネガティブ広告とおもしろ広告を総称して新しい広告としている。これまでの販売促進広告は送り手の意図の達成度を見るAIDMAやDAGMARなどの「広告のよる認知,態度変容,そして行動化が,効果研究の目的であり広告戦略の基本となる」(3ページ)。しかし,新しい広告は受け手の立場で,受け手にもたらすものを測定する利用と満足の研究が基本的視点である。つまり「自分の関心,興味に合わせて広告を楽しみ利用する,受け手の主体性の回復」(3ページ)である。
2.「新しい広告」研究の基本的視座
新しい広告を捉えるための基本的視座は3つある。①広告の基本的機能の「プロモーション効果」と「コミュニケーション効果」のうち,新しい広告では「プロモーション効果」について検討する。②コミュニケーション効果をどのように測定するかについての理論と方法の開発に焦点が置かれるべきで広告の話題性,マスメディアのよる無意識学習の功罪,沈黙の螺旋効果,知識・情報機能,理想・夢・熱き想いを訴える機能,作品をそのまま楽しむコンサマトリー機能,新しいライフスタイルや文化をも提案していくという提案機能,広告の新しい機能の発掘と実践研究による確認・洗練が今後の課題となる。③これからの広告はインターネット,デジタルテレビ,ケイタイ電話などの新しいメディアとの協調が不可欠であり,これらのニューメディアとこれまでの新聞やテレビなどの巨大メディアをいかに連携させ,活用していくことが課題となる。
3.広報の利用と満足研究
ここでは,新しい広告の理論が広報研究にも有効な理論と方法を提供すると考え,広報効果研究会の調査を基にプロモーション機能についてのテレビ広告と新聞広告の接触の違いについて述べられている。
結論
これからの広告はインターネットなどのニューメディアとの協調が不可欠であるため,「インターネットとマスメディアとの機能の違い,そして役割分担と,それらさまざまな新しいメディアとの相乗効果を探ること」(4ページ)が新しい広告の重要な課題となる。
出典:飽戸弘(2003),「『新しい広告』の理論―AIDMAを超える新しい広告研究を求めて―」『日経広告研究所報』,37(2),2-7ページ。
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Consumers' Perceptions of Imports (Dornoff, Tankersley and White 1974)
要約
ここではまず,アメリカの貿易赤字とドルの価値低下は,アメリカ経済における海外製品の影響によるものであり,また,1962年から72年の10年間の輸入品のすさまじい成長が,この影響の大きさを証明していると述べられている。この海外製品の発展を理解するために,アメリカ経済の変化の原因に対する何らかの洞察が必要であると述べられている。そこで,この論文では,アンケートによって海外製品へのアメリカ消費者の知覚が調査されている。さらに,それらのデータに社会経済的分析が与えられている。
調査の概要
これまでの研究は,特定の国からの海外製品の固定観念化や,固定観念にとらわれた消費者のイメージを変える方法といったことに焦点があてられてきたが,消費者の知覚については無視されてきたとして,消費者の知覚を調査することにしている。国については,マイナーな国ばかりが取り上げられてきたが,ここではアメリカ経済に影響を与えるような国からの製品について,消費者知覚を調査している。特に,輸入品への消費者知覚はどのようなものか,それらは国の間で違いがみられるのか,製品クラス間ではどうなのか,社会経済的指標に基づく分類で違いはみられるのかといったことが,主に調査すべき事柄とされている。
この論文では,シンシナティ大都市エリアの電話帳から無作為に抽出された対象へ,質問表が送付され,そこから得られたものがデータとして用いられている。また,海外製品に関するReiersonの研究で以前に使用された質問表を,因子分析により要約したものが利用されている。国については,アメリカの主要な輸出国の代表としてドイツ,フランス,日本が選ばれている。
結果
輸入品全体の消費者知覚と特定の国からの輸入品の消費者知覚は,全回答の算術平均から得られている。これらをグラフにし,さまざまな考察が与えられている。
調査では輸入品は,アメリカ製品より優れているとは認識されていなかったことが示されている。また,特定の国々については次のような結果が明らかにされている。フランスはほめられることも,非難されることもなく,全体的にはっきりしていない。それに対して日本は大きく評価が分かれているが,トータルでみて優れていると認識されており,回答者は日本製品をアメリカ製品のよい代理品とみなしていることが示されている。
さらに,機械製品,食品,衣料品,電機製品の4つの製品クラスにわけてみてみると,日本は電機製品においてアメリカよりも上位に位置し,またドイツは機械製品において優位である。Reiersonの7年前の研究では,全ての製品カテゴリーにおいてアメリカが一位,日本が最下位となっていた。このような結果は,未だにアメリカは全体を通して常にトップを維持しようとしており,他の国々は主要な領域に特化しているために得られたのではないかと述べられている。
社会経済的分析
ここではさらに,市場細分化の基盤を提供するために,データに社会経済的分析が与えられている。回答者の性別,年齢,教育水準によってデータがわけられ,マン・ホワイトニーU検定による分析がなされている。分析の結果,いくつかの知覚の違いが見られた。男女間では輸入品の知覚に有意差は見られなかったが,年齢と教育水準には有意差があったことが明らかにされている。高い年齢層では輸入品全体にネガティブな知覚を持っており,特に日本製については強いネガティブな反応が見られている。逆に若年層は輸入品に好意的であることも示されている。また,教育水準については,大卒者など高学歴の者ほど輸入品に好意的であることが明らかにされている。学歴と所得の正の相関があり,所得は輸入品購買機会とも関係があるのではないかという考察もなされている。また,高学歴者は最新の情報に精通しているために,現在の海外製品の質についてそれなりの知識があるということも原因の1つと考えられている。
結論
調査から,海外製品に対する知覚は過去2,3年の間に変化したことが明らかになった。また,社会経済的な分類間でいくつかの差も見られた。これは,市場細分化や販売戦略の立案に役立つと述べられている。
海外製品がアメリカ経済に影響を及ぼし続けると,このような情報の重要性は増し,また,海外貿易市場でアメリカの競争優位が維持され続けるならば,今回のような調査はますます重要になると述べられている。
出典:Dornoff, Ronald J. , Clint B. Tankersley, and Gregory P. White(1974),"Consumers' Perceptions of Imports,"Akron Business and Economic Review,Vol.5, No.2, pp.26-29.
投稿者 02eiko : 23:39 | コメント (0) | トラックバック
2005年07月03日
論文入賞とブログの広報とEpisode III
1期生の論文が山口大学経済学部創設100周年懸賞論文で入賞しました。投稿論文は過去の研究からダウンロード頂けます。
01yoshisyoさんが授与式に出席してくれました。賞金が源泉徴収されていたためがっかりしたとのこと。そのうちここに投稿してもらいましょう。今週末には鴨川の床で入賞のお祝いです。
ちなみに,このブログもページが一応完成したので,これからは外部の人にURLを公開していこうと思います(今まではどこにもpingも送っていませんでした)。当面はよく知っている各大学の先生方でしょうか。第1弾としてサイドバーにリンク欄を作りました。今のところ関大商学部の100周年記念事業と川上智子先生のHPをリンクしています。前者はこの事業の委員をやっているので広報の一環として。川上先生のHPではすでにここへのリンクを貼って頂いているので,相互リンクというわけです。
と言うわけでそろそろ文献のまとめばっかりを記事にしている訳にもいかなくなってきました。実のところこのブログについてここやここで取り上げでいただいているのですが,どうも文献のまとめだけではつまらんとのこと。何とか工夫しなくちゃいけませんね。
当面はまあできるだけ私も記事を投稿するようにします(もうひとつのブログは開店休業状態ですし)。金曜日と日曜日には文献レビューが入らないので,ゼミ生の皆さんも(特に4回生)レビュー以外の記事をこの2日間に投稿したり,もうちっと積極的に記事へのコメントをしてください。
なお,今日は家内とEP IIIの先行上映に行ってきました。ジョージ・ルーカスは2度SFを殺しました。1度目はEP IV(1978 in Japan)。その後しばらく他のSF映画がまがい物に見えたものです。SF映画が息を吹き返すにはCG技術の発展を待たなくてはなりませんでした。2度目はEP III(2005)。ファースト・インパクトから27年にして物語の円が閉じたのです。これだけ壮大なる真円をこの先いったい誰が・・・
You don't know the power of the dark side...
投稿者 Baba : 01:20 | コメント (3) | トラックバック
2005年07月02日
広告とユーモア知覚-その心理過程についての探索的研究(李 2002)
要約
ブランド間の質的変化が見られない現代では,広告の中心要素である製品を直接伝えるより,それ以外の周辺的要素からアピールする広告が増えている。本稿ではその1つとして「ユーモア広告」を扱い,広告場面でのユーモア知覚が生じる心理過程について,探索的な研究を試みるとしている。
1.ユーモア知覚に関する諸理論の検討
モリオール(1995)によると,ユーモア知覚に関する研究は大きく分けて以下の3つに大別できるとしている。①優越感情や攻撃心理によってユーモア知覚が生じるという観点から,ユーモア刺激の特徴やユーモア知覚を攻撃心理と関連づけて説明しているアプローチ,②ユーモア表現に対する理解や認知的情報処理など,ユーモア知覚が生じる認知過程に注目したアプローチ,③ユーモア知覚が生じる過程における受け手の感情的状態や変化に焦点を当てるアプローチ。それぞれのアプローチがどのように捉えられてきたのかを記している。さらに②のアプローチでは不適合理論,不適合-解消理論,メッセージに内在するスクリプトの対比性理論が挙げられており,不適合理論とはユーモア刺激からもたらされた期待感と違った結果から生じる不一致とされている。ただし,すべての不一致による驚きがユーモア知覚を引き起こすわけではなく,「安全で脅威のない状況で起こらなければならない」(79ページ)としている。以上のことは複雑な心理過程を伴う,それを説明する理論が不適合-解消理論である。その名前のとおり受け手がある情報を受け,不一致が生じて,それを理解することにより不安や緊張感が解消され,ユーモア知覚が生じる考え方がこの理論である。メッセージに内在するスクリプトの対比性理論とは「言語的刺激に対比する2つのスクリプトが存在するときユーモア知覚が生じるという理論である」(80ページ)としており,これに関する研究はあまりされていないとしている。さらに③は喚起とユーモア知覚,精神力学的理論の観点が挙げられており,前者はBerlyneのそれまでに経験したことのないユーモア刺激により,生理的喚起が高まって不快が起こり,それがのちに快感になってくる考え方とRothbartの「喚起そのものあるいはそのレベルの変化ではなく,喚起に伴う人間の解釈行為を問題にする必要がある」(81ページ)としている。後者はFreudの考え方,社会的に禁止されている事柄をユーモア知覚や刺激を通じて,抑圧から開放され生じる感情が挙げられているが,そのことに関しては実証が不可能である点が指摘されている。
2.研究課題
前章で3つのアプローチを紹介したが,実際にはもっと多くのユーモアタイプが存在しており,ユーモア現象とユーモア心理を理解するためには,これらのアプローチを包括的に扱った研究が必要であると記している。広告におけるユーモアも同じで包括的な研究はあまりなされていないとされている。そこで本稿はユーモア知覚とユーモア広告の関連性を明らかにすることが大切であるとした上で,受け手の反応の観点からCho(1995)の行った「提示されたユーモア知覚をもたらすメッセージの特徴,ユーモア刺激の分類を試みた実証研究に基づいて32項目から構成された尺度を作成し,印刷広告に対する被験者の反応の分類」(82ページ),さらにユーモア広告のタイプとユーモア知覚との関連性についての分析がアメリカで行われた結果であることから,日本でも広告に対するユーモア知覚とその心理過程について実証研究を行う必要があるとし,さらにアメリカでの先行研究との文化差の比較を検討するとしている。
3.研究方法
被験者は大学生158名で,対象に広告物を呈示刺激した実験により行われ1998年7月2日に実施されたとしている。対象者に呈示したものは『コピー年鑑』より抜粋したものとされている。さらに各項目の変数尺度が記されている。
4.分析結果
まず,受け手の反応に基づいてユーモア広告のタイプを分類するために因子分析を行う。バリマックス回転後得られた因子は「機知性」,「風刺性」,「複雑性」,「日常性」,「言葉遊び」,「誇張性」の6つであると記されている。ユーモア知覚が生じる心理過程の項目も同じように因子分析し,「認知過程」,「感情過程」,「攻撃心理」と分類されている。次にどのような心理過程を経てユーモア知覚が生じるかについて相関関係より分析しており,「機知性」は「認知過程」と「感情過程」の間に有意な正の相関が見られ,「風刺性」は「認知過程」に有意な正の相関が,「複雑性」は「認知過程」との間には正の相関が,「感情過程」との間には負の相関が見られ,「日常性」は「感情過程」と「攻撃心理」に正の相関が,言葉遊び」はすべてにおいて有意な結果が出なかったとし,「誇張性」の場合は「感情過程」と「攻撃心理」において正の相関が見られたとしている。以上の結果をCho(1995)の先行研究と内容的に関連するもの比較しながら考察するとしている。さらに「風刺性」,「複雑性」,「日常性」においてCho(1995)の研究と比較する。「風刺性」は「優越理論や軽蔑・非難理論で指摘しているような攻撃心理の正の規定力が見られたのと対照的な結果」(85ページ)であったとしている。「複雑性」は,ほぼ同様の結果が得られたが感情過程との間だけCho(1995)と異なり,負の相関が見られたとしている。これは何らかの不安や困惑を受け手が感じた結果であり,それを説明する理論としては認知過程に注目したものが適切であるとしている。「日常性」は同じ結果が得られたとしている。
結論は以下のとおりである。まずこれらまでの研究と同じように,ユーモアタイプによりユーモア知覚の心理過程が異なることが明らかにされた。国際広告においても,普遍性と文化差を考慮した研究の展開が必要性であることが再認識された。また,本稿で行った研究は欧米で展開されたものなので,今後は日本のユーモアなどを考慮した考察が必要であると記している。
出典:李津娥(2002),「広告とユーモア知覚-その心理過程についての探索的研究」『日経広告研究所報』,36(5),77-88頁。
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日本からアメリカへ:店舗発注システムの国際移転(小川 1999)
要約
この論文はセブン-イレブン・ジャパンからセブン-イレブン・ハワイ(以下SEH)への仮説検証型店舗発注システムについて述べられている。仮設検証型店舗発注システムとは小売企業側に発注の主導権があり,発注権限が店舗の発注担当者にあり,発注商品やその数量の決定にPOSを代表とするデジタル化された商品情報が活用されるという特徴を有するものであるとしている。これまでにセブン-イレブン・ジャパンは世界でも類を見ない店舗発注システムの開発に成功しており,現在このシステムをライセンス元であるセブン-イレブン・インク社に移転しようとしている。ここではアメリカのセブン-イレブン・インク社での取り組みに先立ち実地されているSEHにおける試みと現時点における成果について述べられており,セブン-イレブン・ジャパンが開発してきた店舗発注システムの海外移転可能性について考える上で一定の示唆を与えるとしている。
ケース・スタディーの結果,次のことが述べられている。SEHは1989年にセブン-イレブン・ジャパンがセブン-イレブン・インク社の所有するハワイ店舗を買収することにより設立されたものであり,1店あたりの収益,売上高は毎年改善しているが,全体として利益は出ていない状況であるとしている。また,立地パターンに関しては,セブン-イレブン・ジャパンと同様のドミナント出店を行っておらず,多店舗出店のメリットを十分享受するまでには至っていないと述べられている。店舗発注システムに関わるハードウェアとソフトウェアはセブン-イレブン・ジャパンから導入されたものであったが,システムとしては第3次と第4次の間のレベルのものであり,セブン-イレブン・ジャパンのシステムと比較すると低いレベルにあるとしている。SEHの店舗発注についてはジェネラル・マネージャーである稲垣がバイヤーに単品管理の効用を納得させるということから変革が行われたとしている。ここで店員ではなくバイヤーを説得しようと試みたのは,店頭で発注するアイテムの絞り込みやモデル・ゴンドラ台帳の作成を行うのがバイヤーであるという理由によるものであったとしている。当時のバイヤーの論理はメーカーやベンダーと同様店頭に並べるアイテム数を増やせば増やすほど,売上げを伸ばすことができるというものであったとしており,これに対し稲垣はアイテム数を増やして回転のよくない商品を置くことによって店頭の商品の品揃えは変化せず,店員は商品の動きに対し鈍感になり,どの商品が売れるかといった判断力を失うとし,売れない商品を売れる商品に入れ替えることにより商品もより多く売れ,在庫も減らすことができるとして説得を試みたとしている。説得に応じようとしないバイヤーに対し,稲垣は実際に店舗において売上が伸びることを実証することにより,バイヤーを説得することに成功したと述べられている。また,ポテトチップス・メーカー,フリート・レイとの取引について事例として取り上げられており,SEHが従来型のベンダーによる発注からSEHによる発注に移行し,それによりSEHの店舗の売上が増加したと述べられている。ある棚をすべてメーカーに任せることによりその棚のフェース管理ができなくなり,売り場を自社で管理できないことにより顧客が買いやすい陳列をすることができず,さらに,死に筋を排除できないことから結果として変化のある売り場作りができなくなるとしており,また店員にとっても自分達で商品を管理しなければ,在庫を減らす努力をしなくなり,商品のフェース・アップも怠りがちになり,また,売れる商品に対しての関心がなくなり,結果市場の変化に鈍感になるとしている。これを店舗で発注した商品を100%買い取る代わりに発注した商品については必ず各店舗に納入させることにし,このことから,それまでベンダーが発注,納品を行っていたために従来は配送ルート上,最初の方に位置する店舗に売れ筋商品が傾斜的に納品されることが多かったことにより,最後に位置する店舗に売れ筋の商品が納入されないということなどから引き起こされていた店舗への過少納品の問題が解決され,販売に関する機会ロスの減少により,結果として売上の増加にもつながったとしている。それと同時にベンダー・メーカーが持つ幅広い商品を店頭に並べることにより売上を伸ばすことができるという論理から逃れることができ,売れ筋や新商品に発注を絞ることが可能になったとしている。そしてそのことで販売個数は増加し,在庫数を減らすこともできたとしている。
結論は次の通りである。仮説検証型店舗システムの導入はSEHが実施した数々の改善努力と合わさることにより成果を生み出されたとしており,パートタイマーの質の問題から日本でしか稼動しないと考えられていた仮説検証型発注システムも,いくつかの改善努力とともに導入することによってその効力を発揮する可能性があるとしている。
論点は次の通りである。SEHでの取り組みについて売上高は改善されているものの,全体の間接費を吸収できるまでには至っておらず,全体として利益が出ていないという状況で評価を下すことは時期尚早と言えるのではないだろうか。
出典:小川進(1999)「日本からアメリカへ」『研究年報XLV』1―18ページ。