ハレ便り2018


ハレ便り2018総括



 約4ヶ月のドイツ滞在が終わった。実は元気いっぱいだったのは最初の1ヶ月で、あとの3ヶ月はお腹の不調に悩まされた。医者にも通ったが治らず、そのまま日本へ持ち帰った。他方、ドイツに来てまもなくドイツの医療保険に加入した。これについては早い時期に原稿を書いており、医者とのやり取りも含めてハレ便りに載せようと思っていたのだが、治らないのと、保険会社とのやり取りが帰国直前まで続いたので、時期を逸してしまった。何かの折にお伝えできればと思う。
 大学についても書かなかった。今回は家で勉強することが多く、大学へ出向くことが少なかったこともある。祭を見にいき、刑事ドラマ三昧で過ごしていたわけではなく、一応勉強もしていたのである。当初の計画の一つに約270ページある専門書を読むというのがあったが、帰国直前にようやく読み終えた。
 スーパーPennyのポイントは200点に達したので、2ユーロ戻ってきた。これとは別に5ユーロの買い物に対して1枚もらえるシールを30枚集め、アクリルガラス製のグラスをもらった。
 大家さんに連れていってもらったところは2箇所。まずメルゼブルクのDom(大聖堂)で開かれている展覧会"Thietmars Welt"(ティートマールの世界)。ティートマール(975〜1018)はメルゼブルクの司教で、年代記を書いたことで有名。1000年前の日常を克明に記しているようである。次に行ったのはロマン派の詩人ノヴァーリスの博物館。貴族であるハルデンベルク家の館で、ノヴァーリスが幼少期に過ごしたところである。ぜいたくなことに、係員が付ききりで案内をしてくれた。なさけない話だが、その説明を大家さんが私にわかりやすく「通訳」してくれた。ハルデンベルク家はその後2つの家系に分かれて今日に至るそうだが、彼らはときどきここへやってきて、一族に関係する館を博物館として残していることに感謝しているとのことである。
 メルゼブルクへは私が単独でも行っている。上記ティートマールにちなんでの催しかもしれないが、"Schreiben wie damals"(当時のように書く)と題して、写本のように文字を書く体験教室があり、これに参加した。9年前にも子供たち向けの同じようなイベントに参加したことがある。羽ペンでカロリング小文字を書くもので、もらった羊皮紙に自分の名前を書いて持ち帰った。
 帰国直前は登録を解除する(sich abmelden)手続きで忙しかった。市役所の住民登録を解除し、大学図書館にカードを返却し、スーパーのポイントも退会の手続きをした。日本へ送った小包は計9箱にのぼった。そのさなか、9月4日の台風21号で関西国際空港が被害を受け、機能しなくなったと聞いた。帰国を目前にして空港が壊れるとは予想だにせず、つくづく受難続きの滞在だなと思う。ゾルムス先生がルフトハンザに電話をし、中部国際空港行きの便に替える(umbuchen)手続きをしてくれた。変更の確認と座席指定のために、私もそのあと電話した。私のメールアドレスを伝えなければならなかったのだが、こういう場合、ドイツ人同士でも誤解が起こらぬよう、典型的な語を用いて復唱するようだ。私がs(エス)と言うと、電話口のオペレーターはFriedrichのf(エフ)ですねと言う。何度言ってもfに間違えられるので、私はStephanのsですと言うとようやくわかってくれた(実際、sをどういう語で説明するのかはわからない)。その後メールが来て、座席指定もできたので、アドレスは何とか伝わったようだ。大家さんに名古屋経由で帰ると伝えたところ、彼女はNagoyaという語を何度やっても発音できずにいた。私がgを鼻に抜ける鼻濁音で発音するのをまねしようとして混乱したのかなとも思ったが、彼女は航空チケットに書かれたNagoyaという文字を見ながら発音しようとしている。書かれた綴りだけ見れば、舌を噛みそうな音の配列には見えないのだが。最後はほとんど癇癪を起こしそうな様子で、goの部分を普通の閉鎖音で大声で発音していた。ともあれ、到着だけが中部国際空港で、それ以外は同じ9月9日発の便に乗れたのは幸いであった。というのも、ビザは9月10日までだったので、それ以降の便まで待っていたら不法滞在になっていたからである。
 言葉のこと、ゴミの分別、食事や食べ物等々、お伝えしたいことはたくさんあるが、別の機会に譲りたい。2018年9月17日