ハレ便り2018


スーパーのポイントカード



 歩いて5~6分のところにPennyというスーパーマーケットがある。レジ係の人にポイントカードを勧められた。最初に登録しなければならないようで、どこで登録するのですかと尋ねると、そこのコンピューターだという。レジを通過したあと、探したが見つからない。同じ建物内に入っているパン屋に聞くと、コンピューターはスーパーの入口から入ってすぐ脇だと言う。ドイツのスーパーマーケットの中には、入口から出口まで一方通行で、いったん入るとレジを通らないと出られないところが多く、Pennyもそうである。もう買い物は済ませてしまったので、もう一回入ると今度はレジのところを素通りして出てくることになる。何だか万引きしているようで、できるならそれをしたくない。入ってみて買いたかったものが見つからなければ、そのまま出てくることもありうるので、堂々と素通りしてくればいいのだが、そこは小心者なのである。そのくせ、あと3ヶ月ちょっとでドイツを離れるのに、わざわざ煩雑な手続きをしてまでポイントカードを作ろうとする、変に好奇心旺盛な自分もいる。
    
 入口でためらっていると、パン屋さんの女性が早く行ってこいとせきたてる。買ったものを入れてある巨大なカート(ドイツの買い物用カートはとてつもなく大きい)は彼女が見ていてくれるという。果たして機械はあったが、どう操作するのか少し考えていると、心配になったパン屋さんが入ってきた(店の前にカートを置きっぱなしだが、大丈夫かな)。名前や住所を画面上で入力していくもので、なじみのあるやり方だった。しかし郵便番号は覚えていなかった。パン屋さんは先に住所を入力してはという。確かにこういう登録画面では住所と郵便番号が連動していることが多い。私の住んでいる通りはFraunhofer通りである。パン屋さんはeが欠けていると言う。ドイツ語では女性を表わすFrauという名詞は複数形がFrauenである(合成名詞の場合、これが複数形か古い単数2格かという文法的な問題はひとまず置いておこう)。しかし通りの名前はFraun-が正しく、Frauen-ではない。ドイツ人もよく間違えるらしい。ところがeはいらないんですと私がいくら言っても、パン屋さんはeを入れないとだめだと言う。こうなるとドイツ人は引き下がらない。しかたなくFrauenhoferと入力した。すると入力していなかった郵便番号までが表示された。機械もいいかげんなものだ。そのアバウトさが功を奏したことになる。ネットの検索も多少間違った表記を入力しても結果が出てくるから、それと同じかもしれない。ただ通り名はFrauenhoferで登録されてしまった。この程度の違いなら、郵便屋さんは配達してくれるだろうけど。
 パン屋さんには心よりお礼を言った。ドイツではこういうおせっかいな、いや親切な人に出会うか、つっけんどんにあしらわれるか、吉か凶かである。入口のゲートは入るように開くが、出る方向へは開かない。パン屋さんは中に入ってからも、センサーのところに手をかざして無理やりバーを開かせて外へ出ていった。これを私がやったら、それこそ万引きと思われそうだ。