ハレ便り2018


大家さんとの会話 3




 異国に来れば、文化の違いに驚いたり、失敗したり、悔しい思いをしたりの連続であるが、私と付き合う中で大家さんも少なからず異文化と対峙することになる。「会話 1」で週1回少しずつ灯油を買ったり、「日本のドアが紙でできている」ことへの彼女の驚きがあった。以下では、今年に限らず、ここ何年かの私の話に対する大家さんの反応などを記したい。
 ドイツに来るたびに車でいろいろなところへ連れていってもらう。助手席で私が「日本では車は左側を走ります」と言ったら私が驚くほど驚いて、「知らないことがあるものだなあ」と言った。車といえば、ドイツでは車庫のない家が多く、自分の家の前に限って路上駐車が認められている(実際は家から少し離れているところに置いてあることもあるが)。私の住んでいる家の前は道が狭いので、片側にだけ駐車することになっている。たぶん向かいの人もこちら側に停めるのだろう。日本は基本的に路上には停められないと話すと、それじゃどうするんだと、当然の答えが返ってくる。自宅に車庫を作るか、近所の駐車場を借りなければならない。そうやって警察で車庫証明をもらってからでないと、車を所有することができないのだと話すと、もう理解を超えている様子。これについてはゾルムス先生も同じ反応であった。
 次に、ドイツではお昼過ぎると学校の生徒たちがあちこちにたむろしているのを見かけるが、学校の先生も生徒たちに劣らず帰宅が早い。9年前、小学校の教員であった大家さんは判で押したように午後5時に帰ってきていた。22年前、フライブルクで1ヶ月下宿していたときの大家さんは85歳の女性で、教員をしている娘さんが毎日様子を見に来るのであるが、それが決まって午後4時半であった。私の息子のことで夜8時に学校から電話をかけてくる日本の先生とはえらい違いである。さて、テーマは教員の帰宅時間とも関係してくるが、部活動である。放課後の部活というものはドイツにはない。部活も大家さんにとっては理解しがたい現象のようである。なぜわざわざ授業が終わったあとに、学校で運動なんかやらなければならないのだと言われ、返答に窮した。放課後スポーツをやりたければ、町のスポーツクラブに行けばいいと彼女は言う。学校教育の一環としての部活は、ともすれば体罰の問題や教員の過労の問題を引き起こす。スポーツを学校から切り離せば、こういう問題が起きないのは確かだが、教育の一環として一斉に教室の掃除をしたり、部活をすることの効用もあろう。
 日本では多くの家にエアコンがあると話すと、驚くというよりはなかなか想像できないようだ。ドイツにもエアコンを備えた家はなくはないらしい。大家さんは一度その家を見たことがあるという。そこではずっと窓を閉めたままであることに驚いたそうだ(暖房と同じで窓を閉めて当然なのだが)。また現在の家を買うときもエアコンを設置するか相談したという。しかし、音がどのくらいうるさいのかといったことに答えてくれる人がおらず、情報を持っている人があまりにも少なくて、結局あきらめたそうだ。家庭用エアコンはまだまだ謎の代物である。