ハレ便り2018



鍵(かぎ)王国ドイツ


 
 ドイツは鍵王国と言ってもよい。多くの鍵をじゃらじゃらと持ち歩く。大家さんから当初渡されたのは5つだった。家の鍵、部屋の鍵、門の鍵、郵便受けの鍵、地下室の鍵である。私が住んでいる家はドイツの民家の一つの典型かと思うが、地下室があり、地上は3階建てである。いわゆる三角屋根なので、私がいる3階部分は屋根裏部屋といった風情である。家(Haus)のドアを開けて入ると、吹き抜けのようになった階段があり、登っていくとそれぞれの階に部屋あるいは住居(Wohnung)のドアがある。日本のように部屋の中に階段があるわけではない。だから他人に部屋を貸すには都合がいいのだろう。
 家のドア、部屋のドアとも分厚く重い扉である。門は木戸であり、これは軽く、ぺらぺらである。しかしそれにも鍵をつけている。木戸の鍵を開けて内側へ入り、内側から鍵を閉め、郵便受けの鍵を開けて中を確かめ、鍵をかける。家の鍵を開け、私の場合は3階まで登って部屋の鍵を開けて入る。ここで家と部屋の鍵を閉めるかどうかであるが、この2つのドアはいわゆるオートロックになっていて、閉じれば外からは開けられない。しかしさらに鍵を差し込んで二重に鍵をかけることができる。ドイツ人にしてみれば、鍵を回さなければ、閉めた気がしないのかもしれない。大家さんの話では、夜(Nacht:NachtはAbendと違って寝ている時間である)は鍵を回して鍵を閉めてはならないと法律で定められているという。火事が起きたとき、鍵の置き場所を忘れて逃げ遅れる恐れがあるからだそうだ。たぶん何度かそういう事故があったから、法律まで作ったのだろう。日本の場合は鍵はドアの内側にくっついている。少し古い家で鍵穴に差し込む方式でも、鍵は穴のところからだらんと垂れ下がって取れることはない。鍵を大量に持ち歩くドイツ人は、それがゆえの苦労や工夫があるようだ。
 さて、地下室(Keller)といっても完全に地下にもぐっているわけではなく、いわゆる半地下である。従って外から入ることができる。ここの地下室のドアには猫が通れる穴もあけてある。猫は飼っていないのだが、9年前は隣の家の猫が出入りしていた。そのときの猫はもうおらず、二代目の猫が庭にときどき遊びにきている。しかし地下室に出入りしているのはまだ見ていない。地下室には洗濯機が部屋の数だけ3台置いてあり、私も利用するが、1階部分から降りていけるので、外から入ることはない。そうでなくとも重くてしょうがないので、地下室の鍵は使いませんと言って返した。当初は4つの鍵のどれがどれだかわからなかったが、今は上手に使いこなしている。ただその後、大学の部屋の鍵をもらうことになり、結局5つになった。