ハレ便り2018


大家さんとの会話 2



 
 前回の「会話1」に比べて短い話を3つ連ねる。ハレは雨が少ないところだが、今年は特に少ないと大家さんは言う。雨が少ないのは、雨雲がハルツ山にぶつかって、そこに雨を降らせ、こちらには乾燥した空気だけがやってくるからだという。冬の日本で日本海側に雪を降らせた雲が山脈を超えたあと、太平洋側に快晴をもたらすのに似ている。水不足にならないのですかと尋ねると、それはないと言う。ある時期にダムか何かを作って以来、水の心配はないのだそうだ。ドイツの水は硬水だそうですねと私が言うと、それは違うと即座に答えが返ってきた。地域によって違うようで、ハレでは上記の治水工事のおかげで、水質もよくなったという。昔は洗濯機などによく石灰(Kalk)がこびりついて閉口したものだが、今はそういう問題もなくなり、泡立ちもよくなったとのこと。
 話は変わって、ある日大家さんが新聞記事を持ってきた。彼女は中部ドイツ新聞(Mitteldeutsche Zeitung)という地方紙をとっている。アパートのすぐ下がゴミの山になっている写真が出ている。この辺にもこういうところがあるんだと言う。アパートの住民はSinti und Roma、日本でいうところのジプシーである。もとは一つの民族だったようだが、SintiとRomaに分けているのだという。Zigeunerとも言いますねと私が言うと、それは差別用語なので使えないとのこと(音楽の「チゴイネルワイゼン」参照)。その彼らがゴミ収集の規則を守らず、窓からぼんぼんとゴミを投げ捨てていると言う。国家を持たない民族の一つであるが、彼らにしてみれば、国などという線引きにはおかまいなく、昔から生きたいように生きているのだと言うのかもしれない。ドイツはドイツで過去の経験もあり、彼らを邪険に扱うわけにもいかないのだろう。昨今、ドイツは多くの難民や移民を受け入れているのだから、SintiとRomaに対しても、ドイツ語を学び、ドイツの法律を守り、ドイツの習慣を受け入れることを条件に、ドイツ人として受け入れたらいいのではと私が言うと、彼らにその気がないのだからどうしようもないと大家さんは言う。
 大家さんが1週間の休暇をとった。といっても昨年か今年に小学校の教員を退職して毎日家にいるので、仕事を休むという意味ではないが、ドイツ人が休暇(Urlaub)をとるということは1〜2週間いなくなるということである。帰ってきた彼女に会うと、例によって話が始まる。白い石をたくさん持ち帰っている。どこかに化石の宝庫のような場所があるらしく、そこで化石掘りにいそしんでいたらしい。彼女は植物だけでなく、石や地質にも詳しい。ドライブにいったりすると、あの山は何々でできていて、と説明が始まるほどである。石を一つ一つ説明する。アンモナイトの話は少しおもしろいが、別の石に関してこれは植物のように見えて、実は有機物ではないといった話になると、はあはあと聞いているほかない。持ち帰った多くの石を一つ一つ説明して、結局また1時間くらい話を聞いた。その後テレビでバイエルン地方にある化石の宝庫を報道していた。瓦のような白い石がたくさんある場所で、人々が熱心に化石探しをしており、酔狂な人は大家さん以外にもいるんだと認識した次第である。