ハレ便り2018


部屋の契約




 住居は9年前と同じところである。昨年、大家さん(私より6つ年上の女性)に連絡をとると、今入っている人が4月で引き払うという。幸運としか言いようがない。なじみのところで安心というだけでなく、9年前不動産屋の仲介料がとても高かったが、今回はそれがない。空港まで車で迎えにきてもらった。家まで来ると、Amseln(つぐみ)の歌うようなさえずりに迎えられた。春のドイツに来たんだなと思う。
 家に関する大家さんの説明が始まる。9年前もそうだった。時差ぼけでかなり眠いのであるが、時差ぼけというのを何度説明しても、彼女はあまり理解できないようだ。容赦なく説明を続ける。勝手知ったる家なので、うなずくことが多い。契約書の話に移る。こういう話になると彼女は厳密で徹底している。人が変わったみたいになる。GEZというのがある。公共放送の料金で、日本より厳しく取り立てる。テレビではGEZをもじってGEZahlt?(支払いましたか)などと言って注意を促していた。大家さんは、まず自分が払っておくので、あとから家賃とは別に自分に払ってほしいと言う。よくわからないので聞き返すと、払いたくないのかと言わんばかりに、またGEZの説明を始める。「いや、お金はいつ渡せばいいんですか」と聞き直すと、何だそんなことかと言ってずっこける。契約書に関して最後まで説明したあと、必要なら一晩置いていくからじっくり読んでみるかと言う。疲れていて早く終わらせたい私は「いや、もう契約しましょう」と言い、お互い2通の契約書にサインをする。今日は遅いからÜbernahmeprotokollは明日にしようと言う。何だろうなと思いながら、ようやく解放されて寝る。が、結局夜中の3時ごろには目が覚めてしまう。
 Übernahmeprotokollとは部屋を借り受ける、あるいはその言葉から察するに引き継ぐ(übernehmen)際の調書で、現在の部屋に見られる傷などを確認する。これをお互い確認することで、のちに借家人が傷をつけたものかどうかを判別できる。大家さんは悪い貸主の話をしてくれた。知人の娘さんが貸家を出るとき、貸主がここに傷があるから修繕のために敷金(Kaution)を使わせてもらうと言う。娘さんの親だったかが法律関係の仕事をしていて、前の借主を探し当て、そのときも同じ傷で敷金を返さなかったという事実をつきとめ、敷金を返してもらったという。ことほどさようにÜbernahmeprotokolは事前にとっておくべきなのだという話である。悪い借家人の話にも及んだ。私は、家賃を払えなくてこっそり逃げるのを日本では「夜逃げ」といいます、と言った。さて、そんなわけで部屋のあちこちを二人で見てまわりながら、ここに傷がある、あそこに傷があると確認しては、紙に記録していった。これも2通作成し、2人でサインをした。やれやれ、やっと終わった。が、もちろん大家さんとの関わりはさらに続く。