訳者ノート >ワイン編

訳者ノート 「ワイン編」 (Part3)

カーヴ(cave):ワイン貯蔵庫・熟成庫
 本来は洞窟の意味する語で,一般には地下の貯蔵庫を意味する。ワイン分野では,瓶詰めされたワインの貯蔵庫・熟成庫を意味する。
カーヴ・コーペラティヴ(cave coopérative):ワイン醸造販売協同組合
 複数のブドウ栽培農家が生産したブドウを使ってワインを醸造し,協同組合のブランドで瓶詰めして販売する組織。19世紀後半にヨーロッパを襲った害虫フィロセキラによる被害で混乱したフランスのワイン業界では,ワインの不正生産(砂糖混入・水増し)が後を絶たず,打撃を受けた小規模ワイン生産者が抗議運動を展開したが,こうしたことを背景に20世紀初頭に制度化されていった共同組合組織。1930年代に設立ラッシュを迎えた。フランスのワイン生産地の各コミューンを訪れた時,教会以外に最も威容を誇る建造物があれば,それは伝統的なカーヴ・コーペラティブである場合が多い。

 「フランスワインの2本に1本は,協同組合が生産しています。小規模な葡萄栽培農家の集合体である協同組合は,ヨーロッパのワイン産業では非常に重要な地位を占めています。1930年代の深刻な不況の結果生まれてきたもので,一般に一戸当たりの栽培面積が小さく,ワインの販売単価の低い地域で,単独で耕作機械や醸造機器を購入することが財政的に困難な生産者が,こうした設備の協同購入を目的として設立したものがほとんどです。こうした協同組合はやがて政治的にも大きな意味を持つようになり,近年ではEUからの農政補助金の獲得が最大の活動内容となっている組合も多くみられます。  組合員は通常,自分の畑で栽培した葡萄を組合に委託して他の組合員の分と一緒に醸造してもらい,瓶詰めまでしてもらったワインに関しても「自社で栽培・元詰めを行った」とラベルに記載して販売することがヨーロッパの原産地呼称法では許されており,消費者レベルは「シャトー元詰め」や「ドメーヌ元詰め」とまったく見分けがつかなくなってしまっています」
(堀賢一『ワインの個性』ソフトバンククリエイティブ,2007年,79頁「協同組合」)
キュヴェ(cuvée) :ブレンド
 もともとは容器やタンクを意味する語。一般的に容器1基のワインを意味するが,特定の人が所有する高級ワイン用のブドウ畑や,特定の人が醸造した高品質ワインを指したり,アサンブラージュによって作られたワインを指すようになっている。
クリュ(cru) :ブドウ畑
 本来はブドウ畑の意味。優れたワインを生み出す「畑」,「テロワール」,「地方」などを意味する多義語。高品質ワイン生産用のある特定のブドウ畑,さらには,そのブドウから造られたワインを指す。
グラン・クリュ(grand cru) :特級畑
 
プルミエ・クリュ(premier cru):1級畑
 AOC法で規定されたブルゴーニュ地方やアルザス地方の畑の格付けで最上級のワインを産出する畑がグラン・クリュ,次に良いレベルのワインを産出する畑がプルミエ・クリュ。
コポー(copeaux) :オーク・チップ
 本書では,「数々のイノヴェーションを積極的に導入してカリフォルニアにおける高品質ワイン造りを推進したモンダヴィが,人為的に樽の香りを付加するオーク・チップの使用には,例外的に手を染めなかった」事実が紹介されている。

 「新樽を使うことがコスト的に見合わない低価格帯のワインに,新樽で熟成を行ったようなオークのフレヴァーを付与するもっとも安価な方法で,オーク樽を製造したときに出る削りカスや端材等を発酵初期の段階から果汁に漬け込み,オークのエキスをワインに抽出するのに用いられます。...現在,オーク・チップをワインに漬け込むに際しては,大きなティー・バッグのような袋に入れて発酵タンクに沈めている...」「一般に,日本市場での店頭価格が1500円未満でありながら,明瞭なオークのフレヴァーが感じられるワインには,オーク・チップが使われていると考えて間違いないと思います」 「1990年代末以降,オーク・チップが用いられたワインの質を劇的に向上させたのは,マイクロ・オキシジネーションでした。1990年にパトリック・ドゥクルノーがマディランで実験を始めたとされるマイクロ・オキシジネーション(MO)は,ワインにごく微量の酸素を計画的に供給することにより,ワインの香味や口当たりを改善し,色調を安定させ,不快な還元臭の発生を抑えるための新しい醸造技術です」 「消費者に人気のある,オークの風味がついたシャルドネで,低価格帯のものを醸造するに際しては,生産コストを削減するためにオーク樽で発酵や熟成を行う代わりに,ステンレスの発酵タンクにオーク・チップを浸漬することが世界的に一般化しています。伝統的なシャルドネの樽発酵・樽熟成では,オークのニュアンスが樽の天星(注ぎ口)等を通じた酸素の供給によってワインによくなじむ一方,酸素の供給が行われないステンレスタンクとオーク・チップの組み合わせであはオークの香味が突出してしまうため,近年ではこうしたタンクに酸素供給器を設え,オーク・チップ浸漬中にMOを行っています。オーク・チップはMOなしでは現在のような幅広い支持を集めることはできなかったでしょうし,MOはオーク・チップなしでは,その使用が赤ワインに限られていました」
(堀賢一『ワインの個性』ソフトバンククリエイティブ,2007年,185-189頁「オーク・チップとマイクロ・オキシジネーション」)
シェ(chais) :樽詰めワインの貯蔵庫・熟成庫,酒蔵
 
セパージュ(cépage) :ブドウの品種
 用語としては「高級ワイン生産に向いたブドウの品種」「テーブル・ワインの大量生産に向いたブドウ品種」「産地名を表記するAOC(原産地統制呼称ワイン)」「ブドウ品種名を表記するヴァン・ドゥ・ペイ(地ワイン)」「AOCを中心に原産地の表示を重視する伝統的生産国フランスのワインに対して,ブドウ品種を明記するアメリカ・カリフォルニアやチリなど新世界のワイン」といった形で使用する。

このページのトップへ