訳者あとがき

訳者あとがき‐謝辞‐Remerciements

 本書は,Olivier Torrès, La Guerre des vins : l’affaire Mondavi Mondialisation et terroirs, Dunod, 2005 の全訳である。翻訳に際しては本書の英語版The Wine Wars The Mondavi Affair, Globalization and ‘Terroir’, Palgrave, 2006を参考にした。  2003年の歴史的猛暑の夏,家族がモンペリエでの長い留学を終え,帰国準備をしていたとき,それを手伝うためにこの街に滞在していた。このとき既に,今度は私自身が,2年後の2005年の秋から関西大学在外研究員制度による留学できることが決まっていた。家族が親しんだこのモンペリエの街に,今度は私自身の留学で滞在しようと,2年後に受け入れてくれる大学を探していた。そんなある日,レジデンスの別棟に住む退役軍人のウルヴォワさん(Monsieur Urvoy)といつものように近所にある国立軍事・管理学校(L'Ecole Militaire d'Administration)のコートでテニスをしていた。ふと「2年後に受け入れてくれる大学を探しています」と言うと,「わしの親父がこの学校の校長をしていたから,知っている教官がいるよ」ということで話が進んだ。しかし,8月終わりの時期で,学校にまだ教官は出てきていなかった。結局,用意した履歴書と受け入れお願いの手紙を託して,あわただしく帰国した。

モンペリエコメディ広場その他にも,いくつかの学校に受け入れのお願いの手紙を書いたが,返事もないまま,1年が過ぎ去ったある日のこと,1通の手紙が届いた。モンペリエ第一大学・経営学部・ERFI(企業産業経営班)のフレデリック・ル・ロワ所長からの手紙で「2005年9月から2006年7月の期間,客員研究員として受け入れる」という内容だった。

 こうして,私は2005年9月から2006年8月までの1年間,家族を伴ってモンペリエに滞在し,モンペリエ第一大学・経営学部・ERFIにおける留学生活を送ることができた。ミシェル・マルシェネ教授を始めとするさまざまな研究者と知り合い,これまできちんと取り組んだことのなかった「中小企業」「起業家活動」「事業承継問題」「地域性」などの新しいテーマにも目を向けることになった。 ERFIの中心的メンバーで本書作者のオリビエ・トレス氏とも知り合い,その後,何度の有意義なディスカションを重ねた。彼の授業に参加させていただいた後に話をしていたある日,ERFIに受け入れてもらうようになる上で,彼が決定的な役割を果たしてくれたことを知った。  オリビエは,前述した国立軍事・管理学校で,非常勤講師として授業を担当しており,そのときに,私の履歴書と受け入れお願いの手紙を目にした。私の履歴書と手紙に興味を持ってくれたオリビエは,同じミシェル・マルシェ教授門下で親友のフレデリック・ル・ロワ教授にそれを渡してくれたのだった。つまり,ERFI所長ル・ロワ教授が受け入れを決めて下さったのも,実はオリビエのはからいによるものだったのだ。ERFIの客員研究員として着任して,オリビエと知り合って話をするまで,こんなことは全く知らなかった。

ブドウ畑1  私が本書を翻訳することを決断したのは,米国流グローバリゼーションやフランス流地域主義の対立を描いたテーマ,モンペリエに近いアニアーヌを舞台にした内容,オリビエの研究テーマである「近接性」「地域共同体主義」などに関心を持ったからである。しかし同時に,翻訳には,2005年の留学の受け入れ先決定,そしてERFIのような素晴らしい研究チームと出会う機会を得るきっかけを影で作ってくれた作者オリビエへの御礼の意味が込められている。  こうして,意気込んで翻訳に着手したものの,結局,出版までに3年近い月日が経ってしまった。怠慢を深く恥じるとともに,辛抱強くお待ち下さった方々にお詫び申し上げたい。本書は内容がとても面白いだけに,翻訳すること自体は楽しかった。しかし,私の乏しいフランス語翻訳能力,洗練されていない日本語文章能力,そしてワインに関する知識の欠如から,十分な仕上がりからは程遠いものとなってしまった。訳者が犯した誤訳・解釈ミス・用語の使用ミスなどの間違いについて,お読み下さった方からのご指摘等をお待ちしたい。

 この翻訳書を刊行するにあたっては以下の方々にお世話になった。 まず,本書は当初,フランス語通訳・翻訳者である山本淑子さんと,同じくフランス語通訳・翻訳者でソムリエの資格もお持ちの窪田知樹さんとの共訳書として,出版するつもりであった。ところが,出版計画を受け入れて下さる出版社が結局一つも見つからなかった。こうしたときに学校法人関西大学が,出版助成制度に基づき,この翻訳書の出版計画を了承して下さった。学校法人関西大学と関西大学出版部のみなさまに深く感謝申し上げたい。 「サンクト・ガレンの集い」(スイス国際中小企業学会)に30年来参加され,マルシェネ教授とも親しい田中充・関西大学名誉教授からは出版助成申請にあたり推薦書を賜った。 関西大学出版助成金による出版となり,もはや関西大学の教職員以外が著者として参加することができなくなってしまった。そのためこれは私の単独訳書となったが,それでも,山本淑子さんは序章の下訳,窪田知樹さんは第8章と結論の下訳をして協力して下さった。お二人に感謝の意を込めて,簡単にご業績を紹介しておきたい。

山本淑子さん主要翻訳作品:
①『お尻のエスプリ』リブロス社,江下雅之と共訳,1997年(原著Brève histoire des feesses, Jean-Luc Hennig , Zulma, 1995)②『アメリの幸せアルバム』ソニーマガジン社,藤田真利子他と共訳,2001年(原著 La Fabuleux Album d'Amélie Poulain, Jean-Pierre Jeunet Jeunet , Les arenes, 2001),③『娘と話す非暴力ってなに?』現代企画室,2002年(原著 La non-violence expliquée à mes filles, Jacques Semelin, Seuil, 2000),④『子どもたちと話す人道援助ってなに?』現代企画室,2003年(原著 L'Humanitaire expliqué à mes enfants, Jacky Mamou, Seuil, 2001),⑤『メディアの近代史』,水声社,江下雅之と共訳,2005年(原著 Une histoire de la communication moderne,espace public et vie privée, Patrice Flichy, Editions La Decouverte &Syros, 1991.)⑥『白い影の女 -癒える日遠くヒロシマーパリ-』本の泉社,2006年(原著 Ombres d’Hiroshima, Christophe Boubal, LANORE, 2005)

窪田知樹さん主要実績:
(社)日本ソムリエ協会・ソムリエ資格取得。リーガロイヤルホテル新居浜にてソムリエとして勤務。2000年フランス語通訳・翻訳者として独立。さまざまな専門的・技術的翻訳業務に従事。

日本にお住まいの次のフランス人の方々にご教示いただいた。レンヌ第一大学・日仏経営学院(CFJM)で私の講義に参加していたエミリーとソムリエのアルノーご夫妻(Emilie Humez et Arnaud Millepièd),ジュヌビエーヴ原口(Geneviève Haraguchi)さん,ブリジット・デーズ(Brigitte Dez)さん。

フランスでは,さまざまな方々にお世話になったが,特に次の方々にお世話になった。 原作の出版元デュノ(Dunod)社のロランス・ルクレルク(Laurence Leclercq)さんには翻訳権を得る上で大変お世話になった。

同じレジデンスにお住まいの隣人の方々:ウルヴォワさん(Monsieur Urvoy),ジャック・ロブアム(Jacques Robouam)さん,ロールとパスカル(Laure et Pascal Perney),フレデリック・ベノリエル(Frédéric Bénoliel)さん,そして子供たちの近所の遊び仲間とその親御さんたち。

モンペリエでは,サント・オディル小学校(Ecole Sainte-Odile)での長男の親友ユーゴ(Hugo)のご両親でいつも温かく迎えて下さり議論の花を咲かせてくれるナディーヌとジェラール(Nadine et Gérard Selmi),同校における次男の親友5人組ティボーL,ティボーB,アルチュール,ブラム,ロバン(Thibault L.,Thibault B.,Archur, Bram, Robin)とご両親。特に,マルティーヌとエリックのラヴェシエール(Martine et Eric Laveissière)家には,2007年夏と2008年夏の調査の際,居候のような形でご自宅に滞在させていただき親切にしていただいた。同校での三男のクラスメートのお父さんでBioワインのネゴシアンであるジル・ヴァレリアリ(Gilles Valériani)さん。ボ・アール広場の近くにあるBio食料品店フォル・アヴォワヌ(Folle Avoine)のご主人と奥さん。フランス滞在時の足となるホンダCivicを売って下さり,現在はセート在住のアントワーヌ・ライロ(Antoine Rilo)さん。

プロヴァンスでは,最初の留学でエクス・アン・プロヴァンスに滞在した時からの友人,外科医のジル(Gilles Miltgen)と,精神科医のミシェル(Michel Chahbazian)。そしてビュウックス村の村長を務めるジャン‐アランと金塗装技術者のヴェロニクのケラ一家(Véronique, Jean-Alain, Pierre-Jean et François Cayla)。2人が経営する民宿ラ・グランド・バスティードには,バカンス毎に泊めてもらって,ラベンダー収獲や村のバザー出店や村議会聴講など,実にさまざまな体験をさせてもらい,いろいろな話題で議論を重ねてききた。そしてピエール‐ジャンとフランソワの兄弟と息子たちは日が暮れるまで遊び楽しい時間を共有してきた。

2005年から2006年にかけてERFIの客員研究員として滞在した1年間,学会や研究会で発表する機会を得たり,さまざまな大学やビジネス・スクールで講義や講演をする機会を得た。その都度,多くの研究者と知り合って意見交換することができた。以上こうしたすべての経験と出会いが,この翻訳書を刊行するにあたって役立ったと思う。特に,この本のテーマや舞台と私との間に,作者オリビエ・トレス氏の言う「近接性」を築くのに大いに役立ったと思う。以上,みなさんに心から感謝申し上げたい。

この翻訳書の出版と時期を同じくして,本年の6月中旬からひと月の間,関西大学招へい研究者制度により,作者オリビエ・トレス氏は,日本に滞在する。フランス滞在中,本当に親切に接してくれたオリビエの日本滞在を今度は私の方が手助けしてあげたいと思う。

最後に,モンペリエの空の下で宝物のような子供時代の一時期を過ごし,ラングドック地方のテロワール(地域の特性)の恵みを受けてすくすくと育った3人の男の子たちにこの翻訳書を捧げたいと思う。

トレス氏と2009年3月 大阪府 茨木市にて
亀井克之



著者紹介|訳者紹介

このページのトップへ