関西大学文学部英米文化専修 小林剛ゼミ

Department of Cross-Cultural Studies, Faculty of Letters, Kansai University

グローバリゼーション2

3.代表的な人物、考え方
参照:『Globalization: the reader』John Beynon 、David Dunkerley著
出版:Athlone(2000)

3-1. DAVID HARVEY<古典的な考え方>
「場所を征服する」ということには、いつも利益が生まれてきた。例えば、技術の発展(蒸気機関車・船・飛行機・電報等の発達)は、その技術によって移動時間や場所の削減につながる。そのことは商業の利益につながるので、結果財を得ることができる。

・また最近では、コンピュータ・テレビ・電話が開発され、私達は移動せずにコミュニケーションを取ることや、情報を得ることができる。つまり、『「場所」は技術的に取り除かれてきた』のだ。また「仮のリアル」をそこから感じることもできるようになり、もはや、その場所にいなくても「真実の経験」をすることができると述べている。

・代表的な著書として
『ポストモダニティの条件』吉原直樹監訳
出版:青木書店(1999)
『新自由主義――その歴史的展開と現在』渡辺治監修、森田成也、木下ちがや、大屋定晴、中村好孝
出版:作品社(2007)
『ネオリベラリズムとは何か』本橋哲也訳
出版:青土社(2007年)
などがあげられる。

・新自由主義(市場による自由競争や古典的自由主義を再評価し、市場機能を歪めることとなる政府による介入は、民間では適切に行えないものに極力限定すべきとする諸思想諸政策)を批判し、少数の大企業や支配者のみに権力が集中してしまうことやあらゆるものが商品と化してしまうことなども指摘している。


3-2.Roland Robertson
他の解説者が16世紀からだと主張する、ヨーロッパにおけるグローバリゼーションの起源を現代性と資本主義化の前(1400年頃~)から始まっていると主張し、5つの部面を認定した。

・Phase1, 1400-1750
世界探検初期。カトリック教徒・グレゴリオ暦の広まり。国民共同体と週制度。
・Phase2, 1750-1875
ヨーロッパ以外の国々が圧政の「国際社会」に音をあげたことによる国際化の危機。
・Phase3, 1875-1925
グローバリゼーションの踏切地点。オリンピックなどによる国際間のつながりの増加。
・Phase4, 1925-69
国連、第二次世界大戦。優性争奪の時代。
・Phase5, 1969-date
世界制度の危機。マスメディアによる人権、セクシャリティー、ジェンダー、性などを巡って行われる世界規模の論争が巻き起こる。
・Phase6 現在
AIDSやその他の疾患の蔓延、環境の危機、民族間の憎悪等が世界のメディアに影響を与える6つ目の部面に突入したと主張する。


・私たちは世界規模で進むグローバル化はそれぞれの文化、民族、宗教などの多様性を崩すものだと考えがちだが、そうではなくグローバル化はローカルなものと相互に影響しながら新しい文化や考えを生み出し、より多様化させていくものでhighかlowのどちらかで区別することは間違いである。

・日本は儒教の教えからくるloyaltyやroutineといった日本の文化を基盤としたビジネスに西欧の生産方法を取り入れたことで適応性や効率性を伸ばし経済成長を遂げた。結果として現在では日本特有のビジネスモデルとして世界中で受け入れられ、影響を世界に与える側になった。

ここで彼が強く主張しているのは、文化の違いというのはグローバル化する上で重要な材料となっているということだ。世界はグローバル化によって小さくなっているのは確かだが(経済やメディアによる伝達の面で)、その一方でより複雑で新しいアイデンティティを生み出し、多様な文化を持ち込むものだと主張している。

・もともと日本市場で使われていたGlocalizationという言葉を現地の市場でグローバルに展開された商品やサービスを示す語として使用し、英語圏に紹介し、学術概念として定義付けた人物でもある


3-3.Paul Virilio
空間(space)と時間(time)の関係はテクノロジーとメディアの発達により常に変容している。テレビ、電話そしてコンピューターなどにより'real time'なコミュニケーションが'real space'なそれを押しのけてしまった。私たちはいまやどこにも行かずにあらゆる媒体を通しさまざまな事象を見ることができ、そのことを'tele-reality'と呼び、それが私たちの'real life'になってしまったとしている。

・このようなテクノロジーのグローバル化により、私たちはテクノロジーやメディアに支配され、無気力・不活発になっており、そのような人たちを'tele-actors in a living cinema'と表現している。そしてそのようなtele-realityがvirtualなものと区別がつかなくなり始め、遂にはreality自体がvirtualになってしまうだろうと主張している。

・そして私たちはsuper modernityあるいはhypermodernityの世界に生きているとも主張している。私たちが日々行っている行動はplace的なものとnon-place的なものに分けることができ、non-place的なものが私たちの時間を占める割合がどんどん大きくなってきている。そしてこのnon-placeこそがsuper modernityな世界の特徴である。

・realityとfictionの境界線は常に曖昧で、realityがグローバルマスメディアによってfictionalizedされているのが現在の世界だと結論づけている。


3-4.JEAN BAUDRILLARD・シュミラークルとシミュレーション
「オリジナルとコピーの区別が付かない世界になる。」と主張。それをオリジナルとコピーの中間形態であるシミュラークルの世界と呼んだ。また「シミュレーションとは起源も現実性もない実在のモデルで形づくられたもの、つまりハイパーリアルだ。」と主張。
ボードリヤールの哲学は映画マトリックスの元にもなっている。

・「現実は、メディアが生み出した“ハイパーリアリティ”によって結び付けられてきて、その結果、文化的価値が変質する結果になった。例えば「消費」。消費する行動は、人々のアイデンティティや意識に決定的な役割がある。だから、消費のスタイルは、昔の階級意識にとって代わるものだ。」

・「本物以上の本物」
例えば、旅行のパンフレットに使われるような写真や、新しく作り直され複製された家具は、それらの「本物」よりも「本物」なのである。仮想現実は、オリジナルよりステレオタイプにフィットする。だから、テレビの映像の中では「幻影」を基にしているから、「本物」とハイパーリアルである「偽物」を区別することがますます難しくなり、偽物はオリジナルより「もっとオリジナル」になっていく。
例えば、ディズニーランドは現実ではないと分かっていながら、空想に思い描いたものを現実化しているからこそ、「夢の国」と呼ばれ多くの人を魅了している。ディズニーランドは完全なるシュミレーションされた仮想現実なのである。

・代表的な著書として
『シミュラークルとシミュレーション』 ジャン・ボードリヤール著、竹原あき子訳
出版:法政大学出版局(1984)
などがあげられる。

3-5. John Tomlinson<新しい考え方>
「グローバル文化がどのように押し付けられるか?」「文化的体験なメディアからのイメージなのか、またはmediationを含めたリアリティなのか?」、という疑問を投げかけている。
・“moment of cultural impact”“focus meaning”といった言葉を提唱。グローバルなテレビに焦点を当て、メディアの単なる描写より人々の暮らしの方が影響力を持っており、それによってメディアは形作られるという考え。culture-as-lived-experience(経験した文化)とculture-as-represented-in-media(メディアで表象された文化)を区別した。文化評論家は大衆の理解力を見誤っているとも考えたが、’effect’そのものを確実に証明するにはまだ不十分であると考え、Angの’interpersonal drama’の考え方が必要であるとした。→異文化ではどのようにmedia productsが解釈されるのかどうか。

3-6.Arjun Appadurai<最も影響力のあるグローバリゼーションの分析者の一人>
手始めから「文化的グローバリゼーションは世界が文化的に同種なことはない」、と主張。
・「どこに焦点を当てるかによって、見える世界(スケープ)は異なる」と主張し、“スケープ”を5つに分けた。→私たちの世界はImagined world(想像された世界)であるとし、それぞれのスケープは乖離的であると主張。

① エスノスケープ(民族のスケープ)
これは移民、亡命者、難民、外国人労働者、旅行者などの人の活動が原因である。様々な理由により移動する人がいるが、人に伴いアイディアや文化も移動する。これにより、国家やその認識が混乱させられている。

②テクノスケープ(技術のスケープ)
通信(メッセージ)は世界中を瞬時に、大量に移動するようになった。技術風景はカネの流れと政治の可能性、低いスキルの労働者と高いスキルの労働者両方の有用性のなかに複雑な関係を生んでしまった。

③ファイナンスケープ(資本のスケープ)
グローバルキャピタルの流れは速く複雑なため、国家経済は単独では耐え切れなくなるが、それは有価証券の世界的格子につながっている。最近の市場は資本を動かしまわって高い利益を得ようとしている。これらから考えると、世界規模で財政上の罪がとても増えていることは驚くべきことではない。

④メディアスケープ(メディアのスケープ)
これはイメージ中心の漫画の記述と少しの現実を足したようなもので、印刷とセル画、電子画面は世界中に広がった。メディア風景にはいい面と悪い面がある。グローバルメディアは“望みの視野”を広げることができ、有益で解放に役立つ。その一方、メディア風景は数少ない巨大な企業の動機の原因になる。

⑤イデオスケープ(観念のスケープ)
思考風景は“大きな”アイディアとイデオロギー、反イデオロギーで構成されている。思考風景はただ資本主義原理の原因ではなく、共産主義、社会主義、自由主義、ファシズムの支えにもなっている。
・代表的な著書として
『さまよえる近代―グローバル化の文化研究』 ルジュン・アパデュアイ著、門田健一訳 
出版:平凡社(2004)
などがあげられる。

4. 語句
・hybridization
ハイブリダイゼーション
 再文脈化のプロセスを意味する。
 A+B=Cという考え方。

・glocalization
グローカリゼーション
 local+global=glocalの派生語。
 世界的に広まったものを地域に適合する形に変化させ取り入れること。
 

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Posted by mai| 2011-08-04 (Thu)