2005年04月30日
市場の異質性を超越するグローバル小売業―迫られる流通外資への戦略的対応―(向山 2002)
要約
この論文では,流通外資の強さについて検討することにより,日本企業の戦略課題を明らかにしている。ここでは,日系市場がアジアにおいて失敗を続ける原因を「高い営業経費をカバーするだけ多くの粗利益額を確保できなかったこと」(8ページ)にあるとしている。そして,「グローバル小売企業の強さは,異なる環境要因に直面したとき,得意の型に固執せず,柔軟に別の型を駆使できることにある」(18ページ)との仮説に基づき,カルフールの事例をもとにその強さを明らかにしている。カルフールの経営特性は「PBへの積極的な取り組み・グローバル展開による成長追求」(11-12ページ)であり,ここでは「商品開発能力の高まりがグローバル店舗展開を促進する」(18ページ)ことを想起している。最後に流通外資の相次ぐ進出に対してグローバル競争に対峙し,中国市場と関わって市場開拓する意欲のある企業のみが成功すると結論付けている。
ケーススタディ-の結果,次のことが述べられている。2000年のカルフールの日本進出は多製品を取り扱う初業態の進出であったことから大きな注目を集めたが,「カルフールは多製品を取り扱いながら,グローバル展開する主要小売企業のなかで,もっともグローバル化の程度の高い企業」(11ページ)であり,その経営特性は「PBへの積極的な取り組み・グローバル展開による成長追求」(11-12ページ)である。このグローバル化プロセスや日本での経験から読み取ることができるのは,まず「カルフールの海外進出が途上国でのみ成功し,先進国では失敗している」(14ページ)という事実である。しかしながら,これはカルフールに限ったことではなく,多製品型小売企業が先進国で成功するケースは稀である。「商品部門ごとの競争に打ち勝ちながら,全体としての競争にも打ち勝つ」(15ページ)とあるように,多製品型小売企業は先進国において複雑な競争に直面している。次に本国と同様に直接取引を持ち込もうとすることであるが,これはチェーンストアの発達段階で,可能な限りの規模の利益を獲得するために,直接製造企業と交渉するようになったチェーンストアとしての本来的性格に基づくものである。また,これには第三者を介入させないことによるリスク削減の目的もある。最後にカルフールにおいて差別化を重視したPB発売後に海外出店が加速化したことを明らかにしている。
論点は次の通りである。この論文では,カルフールの海外進出が先進国において失敗している原因を小売競争度としているが,少なくとも今回のカルフールの日本市場撤退に関しては,そのような要因のみで述べることはできないのではないだろうか。
結論は次の通りである。グローバル小売企業の競争優位は母国商品・外国商品・現地商品を組み合わせることによって品揃えの柔軟性を実現し,「商品調達システム構築と自社商品開発能力の育成」(21ページ)に取り組み,双方向の情報のやり取りを行うことにある。このような流通外資への対処法は製造業においては,第1に成長のための新市場確保,とりわけ中国市場において流通外資と取引を開始するということ,日本市場においては,「従来の日本流取引様式へのこだわりを捨てること」(23ページ)であり,第2は流通外資との強調関係を構築により,商品開発能力を構築することである。また、流通企業においては,第1に新取引様式にシフトするということ,第2は流通外資のもつ戦力を総合的に分析することから、商品開発能力を初めとした競争優位を獲得することであると結論づけている。
向山 雅夫(2002),「市場の異質性を超越するグローバル小売業―迫られる流通外資への戦略的対応―」『流通科学研究所モノグラフ』No.008。
投稿者 02takenaka : 18:22 | コメント (0) | トラックバック
文献レビューの投稿書式→ゼミ生各位
最近のコメントを読んでもらうとわかりますが,投稿の書式に関して,全く同じ指摘をしています。以下にまとめておきますので,今後は同じ間違えをしないようにしてください。
レビュー投稿の書式
- タイトル:論文タイトル(著者+半角スペース+year)
- 要約:400字以内
- 内容:理論的検討,実証方法・結果,モデル,変数,結論,論点
- 日本語文のルール
- ( )←全角
- 「・・・・である。」←閉じカッコの句点はとる。
- 引用ページの書式
- 日本語文献=(?ページ)or(?-?ページ)
- 英語文献=(p.+半角スペース+?)or(pp.+半角スペース+?-?)
- 読点は「,」(全角カンマ)。
あまりに,書式がひどいものは,投稿が行われたとは見なしません。
2005年04月29日
中国市場におけるカルフールの店舗競争力ー世紀聯華との比較分析ー(田村2003)
要約
この論文は、フランスのスーパーのカルフールが、中国で現地スーパーにまじってスーパー部門で2位を維持している先発者利益について明らかにしている。先発者は先発者利益を持続するために差別化し、顧客のニーズにあわせて適応して、顧客価値を維持することであるとされている。ここでは、世紀聯華 体育館店とカルフール南方店の事例を用いて両店の顧客満足度を検討している。その結果、カルフールは接客サービスや食品の差別化を図って高い顧客満足度を得ていることが判明した。「顧客価値とは消費者が店舗選択に際して用いる判断基準の重要度である。」(12ページ)と定義されている。顧客欲求を的確に満たしている。
理論的検討
カルフールは外資系企業にも関わらず、中国のスーパー部門で2位である。このような高い顧客満足度を得て先発者利益を維持できるのは、カルフールに店舗競争力があるからである。この店舗競争力がどのようなものであるかを競合店との比較において以下の実証的に明らかにする。
実証分析
小売ミックスの状態と顧客満足水準を来店者に調査を行ない、小売ミックスについての顧客満足をマンホワトニー検定で測り、以下のことが明らかになった。
利用客の特徴としては、客単価が、カルフールは世紀聯華の倍以上あり、「発展途上国では、外資系のスーパーなど、大型店はまず中流所得者以上を顧客にする。」(8ページ)とあるように中国のスーパーとターゲットが異なっている。食品売場の顧客満足水準は有意差があり、カルフールの方が高い顧客満足を達成している。衣服売り場でもカルフールは世紀聯華に明確な差を出している。
また、顧客価値ベクトルで、カテゴリー回帰分析を使って顧客価値の推定をした。推定のモデルは以下の通りである。
S = B1 X1 + B2 X2 +・・・+ Bn Xn
Sは両店の各売り場の顧客満足度
X1,X2・・・Xnは各売り場の小売ミックスのスコアであり、独立変数
B1,B2・・・Bnは各属性の顧客満足度への影響度を現す標準化係数
として本論文では推定している。
この論文では,以下のような結論が述べられている。カルフールは先発者利益を得て優位性を持っている。客単価は倍以上で配置の分かりやすさやレジ待ち時間は世紀聯華に劣るが、食品安全性管理や接客サービスで差別化していて、顧客欲求に適応している。これが店舗競争力の強みになっている。そのため、店舗競争がおきても、カルフールは顧客欲求に的確に適応し、高い顧客満足を得て先発者利益を維持する。
今後は中国で大型店を規制する新法が制定され、他の外資系流通業の競争が激しくなり、シェア拡大が予測されているので、今後の中国流通業競争の展開において、カルフールの先発者利益の維持はこれからも検討されるべき課題であると述べられている。
田村正紀(2003),「中国市場におけるカルフールの店舗競争力―世紀聯華との比較分析―」『流通科学研究所モノグラフ』No.38
投稿者 02aiko : 23:52 | コメント (1) | トラックバック
2005年04月28日
小売業におけるFSP(Frequent Shopper Program)の現状と課題 (佐藤2002)
要約
この論文は,ポイントカードシステムをベースとしたFSP(Frequent Shopper Program)を導入する国内企業の現状と課題が述べられている。FSPの本質は「すべての顧客は平等ではない。自社,自店への貢献度に応じて顧客を選別し,優良顧客にのみ報いろ」(5ページ)というものである。そのためにポイントカードを利用し,顧客行動,顧客構造を購買履歴データ読み解き,施策に反映させるのである。FSPの目的は大きく分けて2つあり,一つはポイント効果による販促効果を期待したものと,もう1つはCRM(Customer Relation Management)対応による顧客との長期リレーションシップの構築を目指したものとの2通りである。問題点はポイントカードの値引き分を潜在負債として先送りすることによる業績の悪化や,SMやGMSではCRM対応が効果的でないことがあげられる。ポイントカード導入によるFSPの目新しさがなくなった今日,顧客選別によるCRM対応を自社の本業とどう組み合わせ活かすかが,FSP導入後の各社に課せられた課題であると述べられている。
理論的検討は以下の通りである。FSPの導入の目的はポイント効果と顧客関係強化によるCRM対応である。ポイントカード導入による顧客選別により,従来のPOSシステムでは見えなかった,誰が何を買ったのかを理解することができ,顧客の一定期間の貢献度を把握できる。貢献度による顧客構造が明らかになれば,顧客還元ファンドを優良顧客に集中させ,下位には薄い還元プログラムをとることにより,客数の減,利益の増という結果が得られる。優良顧客を選別できれば,その上位クラスターにCRM的アプローチで手厚い対応を行うのが効果的だが,CRM対応が効果を発揮するには次の条件を満たす必要がある。一つは最上位の優良顧客の富裕度が際立っていること,もう一つは顧客のアプローチが接客等のヒューマンウェアを通して行われるビジネスであることを認識することが必要である。よってCRMに適した業態は百貨店,高級専門店,ブティック,ごく一部の高級スーパーマーケットに限定される。そしてGMS,SMは上位顧客の購買額に上限があり,セルフサービスが基本であることからCRM効果は期待しにくい。これらの業態では,FSPデータの活用を中位層の購買額の引き上げに活かすべきことが指摘されている。
実証分析は以下の通りである。この論文では顧客の貢献度の把握のため,期間買い上げ金額を変数としてデシル分析により,1ヶ月等の一定期間における購買額の多い顧客から順に並べ10区分すると,顧客においても3割の顧客が7割の売り上げに,2割の顧客が8割の売り上げに貢献する「3:7」「2:8」の法則が成り立つことを確認している。さらに顧客貢献を売上高でなく荒利額でとらえると,その差はかなり大きくなる。このことにより,小売業は下位層の低貢献度を優良顧客である上位層の高貢献度で埋め合わせしていた事が明らかにされている。
この論文の結論は次の通りである。FSPの導入競争が落ち着いた今日,将来の優良顧客を創造するため,顧客データベースと本業のコアコンピタンスの強化が一体となった活用をいかにして行っていくことが今後の課題である。
出典 佐藤 俊彦(2002),「小売業におけるFSP(Frequent Shopper Program)の現状と課題」『流通科学研究所モノグラフ』No.17
投稿者 02kayasi : 19:27 | コメント (2) | トラックバック
グローバル小売企業の韓国進出と各国小売産業の変貌-割引店という小売業態の分世紀を中心に-(崔 2002)
要約
この論文は,韓国独自の小売業態である割引店(ハリン店)の成功要因を明らかにすることを目的としている。ハリン店とは,従来のディスカウントストアの低価格志向業態だけでなく,韓国消費者にフィットした業態も兼ね備えた小売業態である。この小売業態により,ハリン店が現地適応化戦略に遅れをとったグローバル小売企業に対して優位に立つことを可能にした。ここでは,ハリン店のこれまでの発展を歴史的展開に即して述べられており,またハリン店独自の小売フォーマットの特徴を取り上げ,それがハリン店の競争優位に影響していることを実証的に検討している。最後に,グローバル小売企業と善戦を続けているハリン店の戦略を考察することで,日本小売企業はグローバル競争における,新たな戦略のインプリケーションを得られると結論づけられている。
歴史的考察
まず,ハリン店のグローバル企業との競争優位に至るまでの発展が,韓国小売流通システムの歴史的展開から述べられている。1996年の流通市場開放までは,百貨店中心の小売業界の構図であったが,流通市場開放により,売場面積の制限と店舗数に対する制限が全面撤廃されたため,グローバル小売企業の韓国進出が始まり,それに対応するかたちで,ハリン店という,低価格志向業態と韓国消費者の志向に適応した小売業態とを併せ持った独自の小売業態が誕生した。そのような環境に対応し,韓国政府も流通小売のグローバル時代に即した競争力を企業が持てるようにと,「卸・小売業振興法」と「流通産業合理化促進法」を統廃合し,1997年に「流通産業発展法」を制定したことにより,ハリン店を始め,韓国小売企業の競争力が高まった。IMF経済危機の中でも,ハリン店は積極的な参入・出店をしたことによって成長を続けることができた。近年においては,相次ぐグローバル小売企業の進出に対抗すべく,ハリン店の小売フォーマットの強化がなされている。このような歴史的背景から,ハリン店は現在のような競争力を持つに至った。
実証分析
ハリン店独自の小売業態が,グローバル企業との競争において,優位に働いているかを明らかにするために,売上高,食品比重,価格水準,PB商品比重という指標を用いている。
第1に,1店舗あたりの売上高の高さについて。ハリン店1店舗当たりの売上高はグローバル小売企業の売上高と比較すると圧倒的に高く,ハリン店の経営効率の良さが見られる。第2に,全体商品売上における食品比重の高さについて。全体商品の売上高で食品の比重は,6割に至り,韓国消費者に合った小売フォーマットであることを示している。第3に,価格水準について。低価格業態のハリン店だが,低価格志向から高級化へと韓国消費者の志向が変化している,家電製品の販売価格指数を他の小売企業と比較すると,その差は開いていない。そこからハリン店は,単なる低価格フォーマットではなく,韓国消費者にフィットした小売業態であることから,消費者支持の獲得につながっている。最後に,PB商品比重の増加について。低価格,低コストのPB商品の増加は,ハリン店にとって,低利益率問題の克服につながる。
このように,ハリン店は先進国の低価格志向フォーマットを導入しながらも,韓国人の消費行動の志向に適合した,小売フォーマットを取ることで消費者に支持され,グローバル競争における優位性を獲得してきた経緯が明らかにされている。
結論
韓国ハリン店がグローバル小売企業に対して優位に立てた要因として,韓国政府の支援など制度要因が挙げられる。また先進国の低価格志向業態を導入しながらも,韓国人の消費の志向に適合した,独自の小売フォーマットの開発も大きな要因の一つである。反対にグローバル小売企業は,グローバル・モードに執着したため,韓国の現地対応戦略に遅れをとったことが,優位に立てなかった要因である。日本小売企業はこのような韓国小売市場でのグローバル競争の考察から,グローバル小売企業との相乗的競争戦略,そしてそれがもたらした韓国小売産業全体への波及効果など,グローバル小売企業の日本市場進出への対応のインプリケーションを得られると結論づけられている。
出典:崔相鐵(2002),「グローバル小売企業の韓国進出と韓国小売産業の変貌-割引店という小売業態の分析を中心に-」『流通科学研究所モノグラフ』No.7。
投稿者 02umeda : 16:05 | コメント (0) | トラックバック
2005年04月27日
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投稿者 Baba : 18:32 | コメント (1) | トラックバック
2005年04月26日
日系百貨店の台湾進出―その成功要因と小売技術移転―(陳 2002)
要約
この論文は,日本の百貨店の台湾市場への参入とその成功要因を明らかにしている。ここでは日台の百貨店の変遷について述べた後,日本の百貨店と台湾の日系百貨店の経営における特徴を比較している。両者の比較により,日系百貨店は品揃えや仕入れ方法においては現地適応化を行い,接客を含めたサービスや,POSシステムを導入するなどの情報システムにおいては標準化を行っていたことが明らかにされている。その後,日系百貨店の成功を目の当たりにした現地百貨店が,POSシステムの導入や店舗の大型化,大規模駐車場の設置,サービス水準の向上などの点で,日系百貨店の手法を模倣している状況にあることを述べている。そして,日系百貨店の成功要因は「よきパートナー選択と立地選択,テナント確保と管理,質の高いサービスへのニーズの高まり」(16-17ページ)にあるとしている。
ケーススタディの結果、次のことが述べられている。台湾における日系百貨店(太平洋崇光、新光三越、大立伊勢丹、大葉高島屋、廣三そごう、漢神百貨店の6社)は品揃えにおいては「現地百貨店の平均的品揃えによく似ている」(11ページ)とあるように現地適応化を行なっている。また,仕入方法についても,「百貨店は建物を提供して入居するテナントの選別・管理を行なうが,テナントがどのような商品をどのように販売するのかに関しては,一切感知しない」(11ページ)というように販売リスクを負わない現地方式を採用している。しかし,一方ではPOSシステムの導入や独自の販売員教育,「文化催事・商品の包装・友の会組織・設備の充実・買い物コンサルティング・無料駐車場」(12ページ)などの各種サービス,立地においては標準化を行い,外商については日本流を捨て去るというように,日系百貨店はすべて標準化して台湾市場に参入したのではなく,現地適応化を同時に実行したことが明らかになっている。
論点は次の通りである。この論文では,日系百貨店の成功は現地適応化と標準化を行い、日本式システムの移転に成功したこと,台湾経済の発展によるものと述べられているが,日系百貨店の成功はこのような要因のみで説明し得るものなのだろうか。
結論は次の通りである。「日本の百貨店は日本流経営方式・ノウハウを台湾での子会社に様々に工夫を重ねながら移転してきた」(16ページ)が,このことを可能にした背景には適切な合弁相手企業の選択により,「好立地の不動産や大型店舗用ビルの低コストでの利用が可能になった」(16ページ)ということ,また,仕入れ方法について現地適応化した結果,日本では負担となっていたコスト要因の大幅な削減にも成功したこと,そして台湾消費者の生活水準の上昇により,生活の豊かさや,ニーズにあったサービスを求める気運が高まっていたことがあると述べている。今後の課題としては,他国において同様の戦略が適応できるかということ,コンビ二エンス・ストア及び量販店の急速なシェア増加や高級感を打ち出したショッピング・センターの出店に対してどう対処するかということを指摘している。
出典:陳 玉燕(2002),「日系百貨店の台湾進出―その成功要因と小売技術移転―」『流通科学研究所モノグラフ』No.003。
投稿者 02takenaka : 16:15 | コメント (0) | トラックバック
世界消費者とのコミュニケーション
目次
1.グローバル広告と文化
1)言葉の壁
2)その他の文化の壁
2.グローバル広告を展開するための予算設定
1)売上パーセンテージ
2)競争的パリティ(competitive parity)
3)目的と任務
4)資源分配
3.創造的戦略
1)標準化vs適応化
2)標準化のメリット
①規模の経済性,②一貫したイメージ,③グローバル消費者セグメント,④相互利用
3)標準化への障壁
①文化的差異,②広告規制,③市場の成熟,④NIHシンドローム
4)広告コピー作成のためのアプローチ
①標準化のプロトタイプ,②地域アプローチ
4.グローバルメディア決定
1)メディア・インフラストラクチュア
2)メディアの限界
3)グローバルメディアを背景とした最近の発展
5.広告規制・制限
1)その内容及び現状
2)マーケターがとるべき対処法
6.広告代理店の選択
7.国際広告の調整
1)広告の報奨金
2)広告マニュアル
3)グローバルミーティングと汎地域ミーティング
8.その他のコミュニケーションの方法
1)セールスプロモーション
2)ダイレクトマーケティング
3)イベントスポンサー
4)トレードショウ
9.グローバルな統合的マーケティング・コミュニケーション
インドでチョコレートの人気を高めるために,イギリスのチョコレートメーカーであるCadburyはインドの独立記念日である8月15日に合わせて広告を打った。その広告はインドの地図と共に“Too good to share”(分けるなんてもったいない!)と示した。パンパースブランドでおなじみのアメリカのおむつメーカーP&Gは,アメリカで放映したCMを日本語に翻訳し使用したが,そのコピーは日本人を困惑させた。日本人にはなぜコウノトリがおむつを運ぶのか理解できなかったし,欧米と違ってその鳥が赤ちゃんを運んでくるものだとは考えられていなかったからである。(そのかわりに大きな桃が川に流されながら赤ちゃんを運ぶ)
1では,広告が直面する文化差異について焦点をあてる。
1.グローバル広告と文化
広告とは文化現象の延長である。先に述べたようなP&Gのように,その広告が地元文化に受け入れられなかったとき,その広告キャンペーンは失敗に終わる。しかし,ぴったりマッチした時は絶大な効果を発揮する。多くの場合,広告は言葉よって形成されるため,まずは言葉の壁について見ていきたい。
1)言葉の壁
言葉とは国際的な広告主がまず初めに克服しなくてはならない障害である。
翻訳以外で有効なのは適切な解釈であり,国によって言葉,単語を変える場合もある。
翻訳のミスは大きくつあり,1つは単純な不注意,多義的な単語,熟語である。例えば,embarrassmentはスペインでは「妊婦」を意味したりする。同じ言葉を使ったつもりでも現地のスラングに対応できない場合もある。この解決策はどこにあるのだろう?…対処法にプロモーションキャンペーンに現地の広告代理店や翻訳家を用いることが挙げられる。
別の策に,単純に現地の言葉に翻訳してしまわない!というのもある。英語は世界中で使われているので,全てのマーケットに対して有効である。
2)それ以外の文化の壁
サウジアラビアでは,女性がCMに出演する場合ベールを被らなければならないのでヘアケアのCMが役に立たない例や,キャノンが中国で台湾や香港を国として扱った広告を打った(これは中国人にとって無礼な行為に映った)例がそれである。
2.グローバル広告を展開するための予算設定
次にお金の,いくら使うか?どの予算編成上のルールを使うか?異なる市場にどうやって資源分配を行うか?などの問題が浮上する。企業によって決められたそれぞれのルールある。以下4つ予算決定基準を挙げておく。
1)売上パーセンテージ
企業が売上の何パーセントを広告費に充てるか?という問題であり,パーセンテージは過去および予想売上収入を基に算出する。
2)競合的パリティ(conmpetitive parity)
その原則は非常にシンプルである。ベンチマークとして競合メーカーの広告消費額を使い,簡単にその競合相手の予算に合わす事ができる。このアプローチの理論的根拠は競合相手のまとまった考え方が最適な条件としての消費額として表れているはずであることである(負けないためには相手に合わせてしまうことも一理ある)。しかし広告学者によって模倣であると指摘されることもある。
3)目的やタスク
目的とタスクはもまた重要なルールであり,このコンセプトは非常にわかりやすく,最初の手順としてゴールを決定し,次にその達成のための任務を決定することである。この方法にはしっかりとした費用と目的の関連の理解が必要である。
4)資源配分
本社の求める資源を要求する。子会社のキャンペーンの貢献度に応じて資源を配分する例もある。
3.創造的戦略
1)標準化vs適応化
マーケタ-が戦略を立てている際に直面する難題のひとつに広告テーマの決定がある。複数市場で同じ製品を販売する企業にとってどの程度,広告方法を標準化するのかしっかり決めることが必要である。標準化するということは,一つあるいはそれ以上のコミュニケーション・キャンペーンの要素を同じにすることである。
2)標準化のメリット
標準化・適応化の問題は激しく物議をかもしてきた。標準化のメリットは大きいが,必要ならば微調整は現地の規則に応じるか,より現地の顧客に魅力ある広告を作成するべきである。
①規模の経済性
標準化が推奨される要因の一つに,規模の経済性があげられる。規一による単一のキャンペーンは人目をひくし,更にそれぞれ個々の市場に対して広告を打つのに比べると格段に安くあがる。またブランド認知度や同じポジショニングテーマなど一貫したイメージを植え付けることにも有効である。
②一貫したイメージ
同じ製品を複数市場でセールス展開する場合,一貫的なブランドイメージを構築する事は非常に大事である。それは旅行なども含め世界中を股にかけたグローバルな消費者に対して商品を売り込む際にも重要だ。
③グローバル消費者セグメント
「一つの地球」という考え方は,しばしばグローバル又は汎地域キャンペーンのメリットをもたらす。文化間をひとまとめにする考えは,エリートや若者という単位でくくる場合,見事に的中する。
④相互利用(cross-Fertilization)
多くの企業は地球規模であるという優位を使おうとする。マーケターは彼らの子会社に他の市場で成功したアイディアを適応させるように誘導する。一度成功したものが他の所でも応用できないか考えるのである。
3)標準化への障害
①文化差異
「一つの地球」といえども,文化の違いは存在する。それらはライフスタイルや利益,慣習などである。欧米と違い性の描写の広告がアジアでは避けられる傾向があり,同じ広告を用いていても,国によってブランデーの捉え方が違っていたりする例がある。
②広告規制
現地における法規制は標準化にとっての弊害となりうる。対アジアに統一のキャンペーンをしても,例えばマレーシアでは白人が登場するCMは規制の対象になる。
③市場の成熟度
マーケットの成熟度が違うとそれに応じて異なったアプローチが要求される。新規参入する場合には,まず現地の人々の懐疑心を取り払うこと,ブランド認知を構築すること,その商品の利便性を学習させることが必要である。
④Not Invented Hereシンドローム
現地の広告代理店は標準化を受け入れない場合がある。外からのものを受け入れるに当たって長い時間をかける必要がある。
4)広告コピー作成のためのアプローチ
「自由放任主義」または「郷に行っては郷に従え」とでもいうべきか…全てのマーケットにはその現地に根付いたベストの方法があり,現地の市場に任せ本社が決定を下す必要がない場合がある。
①標準化のプロトタイプ
広告の指針はその実行に関係のある子会社に与えられるが,その指針(ガイドライン)は企業のウェブサイトやマニュアル,VCRテープなどを経由して本社から伝えられる。
②地域アプローチ
自由放任主義と中央本部の決定との間の妥協点を模索するアプローチの方法もある。
4.グローバルメディア決定
その企業がビジネスを行おうとする国で広告のためのメディアを選択する事は大きな問題である。国によってはこちらの方が広告を製作するよりも重要なこともある。(日本の場合はこちらに当たる)
1)メディアのインフラストラクチュア
これの程度は国によって様々であり,国がマス・メディアのアクセスを規制している場合もある。ラジオ,テレビ,映画などのスタンダード・メディアは多くの国で確立しており,ケーブルやサテライト放送などのニューメディアも成長してきている。
2)メディアの限界
スタンダード・メディアがない国では,その国のマーケタ-は新たにそれに代わるものを創造しなければならない。例えばタイでは利用者への接近性とリーチに近いという点で,悪名高いバンコクの渋滞をメディアとして利用した。屋外の広告や交通情報のラジオ,トゥクトゥクなどもメディアになる。
3)グローバルメディアを背景とした最近の発展
メディアのコストも国によって様々であり,それらも考慮する必要がある。
・マス・メディアの自由化と商品化
・ラジオや紙からテレビ広告へのシフト;テレビは新たな方法を提供してくれる。テレビショッピングが好 例である。
・国際メディアや地域メディアの発達
・携帯電話で送るメッセージ
・メディア規制の進展
5.広告規制・制限
ブラッド・ピットを用いた広告をマレーシア政府は取りしまった。欧米人の顔はアジアの人間に「我々の国の男はハンサムじゃない?」というコンプレックスを与えるからだ。また,宗教を背景とした規制も多く,広告主は外国市場の規制に戸惑う。
1)その内容及び現状
・有害製品や薬の広告;日本では薬やタバコ,酒類の広告ルールは厳格である。
・広告比較;競合相手の広告をけなすと問題になる場合がある,アメリカではありふれた光景であるが,中国では禁止されており,日本では慣習的にタブーとされている。
・広告メッセージの趣旨(中身);内容がグロテスクであったり,危険なものを連想させる場合,市場から徹退させられることがある。
・子供をターゲットにした広告;国によっては放送時間が制限されたり,両親の指導のもとという制約がついたりする。
2)マーケターが取るべき対処法;
これらの規制に対して,どのように対処するべきか??
・規制と未解決の法律を見守る
・キャンペーンを中止する
・運動団体の活動をする
・法廷で戦う
・マーケティングミックス戦略を適応させる
6.広告代理店の選択
マーケターにとって選択の自由は多くある。
1)市場の適応範囲
2)品質
3)国際キャンペーンの専門的知識
4) 信頼の創造
5)サポートサービスの充実と範囲
6)グローバルvsローカル・・望ましいイメージ
7)代理店の規模
8)対立するアカウント:ここには2つのリスクがある
①多くの内密な専売データを保持していること,
②代理店がその優れた才能を競合相手に向けてしまう恐れ
7.国際広告の調整
1)広告の報奨金
小さな企業では広告の責任を現地に委任することがある。しかし多くの販売者と関わっていくうちに,広告の取り組み方が変化する事や広告コピーに一貫性がなくなってしまう可能性がある。そこでマーケターは金銭的な励みとなるものを販売者との調和と,その広告レベルを維持するために定める。
2)広告のマニュアル
冊子やビデオテープを通じて国際広告を本社から子会社へ指導することは一般的である。
3)グローバルミーティングと・汎地域ミーティング
国際広告を調整するために執り行うがそれらは非常に非公式である。国際広告に関わる全ての国の重役やキーパーソンが参加する
8.その他のコミュニケーションの方法
多くの企業にとってメディア広告はその一部に過ぎない
ここではつの方法について言及する
1)セールスプロモーション;様々な奨励手段がある。例えば,初期参入段階ではサンプルやクーポン・ボーナスパックなどを用いて再購買(リピート)を促すべきである。
・文化理解;ある種のプロモーションは他国では全く効果がない場合がある
2)ダイレクトマーケティング;顧客と直接接する事が出来るので,one to oneの関係を築くことが出来る。ダイレクトメール,訪問販売,インターネット,カタログ販売などが含まれる。
3)スポンサー;国際的なスポーツ人気に後押しされて,多くの多国籍企業はマーケットシェア争いの際 の強みとして使っている
4)トレードショウ;B to Bマーケタ-にとって重要なツールである。直接的な影響と間接的なものがあ る。訪れた顧客がその企業の製品に興味を持つきっかけになる。
9.統合的なグローバルマーケティング・コミュニケーション(GIMC)
最近の代理店とクライアントは国内だけでなく海外市場に対してもIMC(統合的マーケティング・コミュニケーション)の価値を認識している。IMCの目標はマス・メディア,スポンサー,販売促進,販売時点の展示などの様々なコミュニケーションのツールを調整することである。
5カ国のIMCの予算割合では,インドが15%,オーストラリアが22%,ニュージーランドが40%,イギリスが42%という結果になった。
GIMCは更に一歩進んだ所にある概念で,水平方向(国単位)・垂直方向(プロモーションツール)の両方からグローバルコミュニケーションを統合する役割を果たす。
広告代理店は国境を越えた様々なコミュニケーション方法を統合,調整しようとするであろう。GIMCをブランドの部分あるいは全体としても利用したい企業は,その上記の2つを調節する体系・システムを持つべきである。国を超えて広告代理店は各国のコミュニケーションを調節し,統合しなければならない。
出展:Kotabe Masaaki and Kristian Helsen (2004),“Communication with the World CONSUMER”,GLOBAL MARKETING MANAGEMENT.
投稿者 02tsukazaki : 14:56 | コメント (3) | トラックバック
バナーコンテストの途中経過
次のようなバナーが02eikoさんから投稿されました。
ちなみにこれまでの暫定バナーは以下の通りです。
皆さんどしどし投稿してください。
景品は...
投稿者 Baba : 14:55 | コメント (0) | トラックバック
岐路に立つ電子小売業田村(2001)
要約
現在,ネット通販の潜在市場が大きく形成されてきている。この潜在市場を現実化するために必要な要因を,消費者調査から導き出す。それが,この論文の目的である。
従来,品揃えの広さ,商品の安さ,探索の容易さが店舗流通に対するネット通販の優位性と考えられていた。しかし,調査の結果,こうした要因は新規に顧客を獲得したり,反復利用者を増やす要因とはなっていないことが明らかにされた。また,身元情報の安全性や苦情処理体制といった信頼性が,反復利用を促す重要な要因となっている事も明らかにされた。
このことから,ネット通販で成功するには,ただ単に店舗をデジタル化すればいいだけではない。安全性,信頼性の問題を解決し,ネット通販の店舗流通に対する競争優位や,店舗デジタル化のもつ経営的な意味を再認識することが重要であることが示されている。
理論的検討は次のとおりである。情報機器,ソフトの低廉化により,インターネットの一般家庭への急速な普及が進んだ。この家庭の情報化に伴い,ネット通販の潜在的な市場が形成されている。
この潜在市場を現実化するためには,インターネットの普及以外の条件が満たされる必要がある。その条件とは,より多くの消費者がネット通販を利用するようになるという事,そして利用した人がそれに満足し,反復的に利用するようになることである。
ネット通販を利用したいと思う人は,ネット通販のどこに魅力を感じているのか。ネット通販を利用しない人は,ネット通販のどこに問題を感じているのか。ネット通販経験者のなかで継続して利用する人と利用をやめてしまう人に分かれてしまう要因は何か。以上のことが消費者調査を基に分析されている。
実証分析は以下の通りである。この論文では消費者が4つのタイプに分類されている。まず,ネット通販非経験者については,利用したいという意思を持つ人(獲得者)と持たない人(非利用滞留者)に区分がなされ,ネット通販経験者についても反復して利用を続けている人(反復利用者)と何らかの理由で利用をやめた人(離反者)に区分がなされている。
そして,ネット通販と店舗での買い物の比較において,消費者がどういったところに差を感じているかを分析し,ネット通販の競争優位についての調査が行われている。ネット通販での買い物における価格や製品選択幅,苦情処理などの質問項目について,店舗での買い物と比べ,全く違うから全く同じまでの5点尺度で回答してもらっている。
そして,獲得者と非利用滞留者について,先程の質問項目の平均スコアに有意な相違があるかないかを分析。獲得者と非利用滞留者の意見の相違は,ネット通販非利用者を獲得者と非利用滞留者に振り分ける要因を示していると考えられる。さらに,反復利用者と離反者の平均スコアについても比較・検討することで,ネット通販利用者を反復利用者と離反者に振り分ける要因が明らかにされる。
結論は以下の通りである。従来,ネット通販企業はネット通販にかかわる消費者行動を考慮していなかった。情報技術を利用し,店舗をデジタル化すればネット通販事業で成功が約束されていると考えられていた。
しかし,従来言われていたネット通販の競争優位を信じ,情報技術を流通システムに応用するだけでは成功しない。消費者はネット通販に何を求めているかを把握し,さらには店舗流通に対してどのような競争優位を持っているのかを再認識する。それこそがネット通販事業において成功するために必要なことである。
この論文から得られる示唆は以下の通りである。この論文では,ネット通販において,新規獲得者を誘引する要因や,反復利用を促す要因が明らかにされている。しかし,これらの要因は店舗流通においてもできることを,IT技術によってより進歩させただけである。もっとネット通販が店舗流通に対して競争優位を持つためには,IT技術の潜在能力をはっきり認識し,消費者がネット通販に何を求めているかを認識する必要がある。
出典 田村正紀(2001),「岐路に立つ電子小売業」『流通科学研究所モノグラフ』No.001。
投稿者 02daigo : 01:25 | コメント (1) | トラックバック
2005年04月24日
GMS激突競争における競争マイオピア ―イトーヨーカ堂対イオン―(田村 2003)
要約
この論文は,業態,店舗規模が同じで,共通の商圏に出店している競合店舗間における店舗属性の類似性生成過程を明らかにしている。ここでは,イトーヨーカ堂古淵店とジャスコ相模原店の事例を用い,類似性生成過程とその問題を実証的に検討している。この過程の基本要素は顧客指向と模倣であり,顧客指向は「顧客の欲求を満足させるように店舗属性を適応させること」(p.2)と定義されている。顧客指向度測定の結果,両店共に顧客指向を追求しているとはいえなかった。類似性は,相互模倣によるものであることが示されている。模倣が容易かつ迅速に行えるために両店ともリスクを犯してまで顧客指向戦略を選択するのではなく,模倣戦略を選択していると述べられている。この競争状況は顧客指向を狙う新規参入者にとっては市場機会である。国際競争においては模倣のような短期指向ではなく価値創造競争という長期指向が重要となると結論づけられている。
理論的検討は次のとおりである。市場競争は,二者以上の売り手と,買い手を含む三者間で行われる。二店舗間の競争は二者間の対抗ではなく,この市場競争の基本構造である三者関係を前提としている。類似性の鍵はこの三者間にある。
類似性の生成過程の概要は次のとおりである。基本要因は顧客指向と模倣の二つであり,その過程は四つある。
・両店による顧客指向の追及
・A店による顧客指向の追及とB店による模倣
・B店による顧客指向の追及とA店による模倣
・両店ともに顧客指向を追及せずに,相互的に模倣
店舗属性を小売ミックスを構成する様々な属性とした場合にはこの過程はさらに複雑なものとなる。その過程は,各属性ごとに上記の四つの過程の組み合わせによって多様に構成される。
実証分析の構造は次のとおりである。まず,顧客指向が存在するかどうかを知るために顧客満足度の指標を用いる。顧客がどのような店舗属性を重要視しているかを消費者アンケートから得る。属性重要度と両店の店舗スコアを比較しどの程度顧客満足度を達成しているのかを見る。店舗全体の満足度は,食品,衣料品,生活雑貨の売場ごとの属性と店舗全体の属性からなる。その各売場の満足度はさらに各売場ごとの属性からなる。
各売場の顧客満足度を推定する際には,顧客満足度を従属変数とし,各売場ごとの属性を独立変数とする重回帰式を用いる。店舗全体の満足度の推定に際しては,独立変数に店舗全体属性だけでなく,各売場の満足度を追加した重回帰式を用いる。各独立変数の相対的寄与率が属性の重要度となる。この論文は「このような属性重要度を要素にするベクトルを顧客価値ベクトルとよぶ」(p.6)ことにしている。両店の店舗スコアと顧客価値ベクトルを対比させ,消費者が重要視している属性と店舗スコアが一致していれば顧客指向が追及されているといえる。
分析の結果,両店舗共に顧客指向度は非常に低かったことが示されている。つまり,両店の類似性は顧客価値の創造競争によって生み出されたものではなく,模倣によるものであったといえる。
模倣過程の詳細を明らかにする分析の構造は次の通りである。
イトーヨーカ堂古淵店をY店,ジャスコ相模原店をJ店とする。
Y店店舗スコア=定数項+a(J店店舗スコア)+b(属性の重要度)
J店店舗スコア=定数項+a(Y店店舗スコア)+b(属性の重要度)
二段階回帰分析を行ってこのふたつのモデルのパラメータを推定している。
回帰係数の有意水準を見ると,店舗スコアの回帰係数は1%水準以下で有意であるという結果が得られている。これは,両店が競合相手を互いに意識してその店舗スコアを形成しているということをあらわしている。
結論は次のとおりである。近接立地する競合店舗間に見られる類似性は,顧客指向追及の結果ではなく,相互模倣によるものであった。これは,模倣が容易かつ迅速に実行できるためであると述べられている。模倣が容易な理由としては顧客指向が企業行動システムとして構築されていないことが挙げられている。顧客欲求を的確にとらえ,それにすばやく対応する組織行動システムの構築が提案されている。さらに,企業の短期的指向も指摘されている。ますますはげしくなる国際競争の中で生き残るためには,GMSにおける模倣のような近視眼的な短期指向ではなく,顧客指向の追及のように価値創造競争という長期指向が必要であると結論付けられている。
出典:田村正紀(2003),「GMS激突競争における競争マイオピア ―イトーヨーカ堂対イオン―」『流通科学研究所モノグラフ』No.15。
投稿者 02eiko : 16:38 | コメント (2) | トラックバック
大型GMSの激突競争 ―イトーヨーカ堂対イオンの事例―(田村 2003)
要約
この論文は,世界的小売業の日本進出でさらに激しくなる流通企業間の競争において,近接立地での大型店舗同士の競争の実態を明らかにしている。その目的は日本企業の店舗競争力の評価と,その形成基盤を検討することである。店舗競争力の基本決定要因は立地場所,売場面積規模,店舗の魅力度である。同業態,同規模で近接立地している競合店舗は店舗魅力度で差別化するしかない。ここではジャスコ相模原店とイトーヨーカ堂古淵店を事例とし両店の店舗魅力度を比較している。店舗魅力度は店舗属性に対する消費者の評価で測っている。両店舗の属性間における有意差の検定から,両店の店舗属性は非常に似通っているという結果が述べられている。店舗属性の類似性の生成要因として,両店の結託,顧客志向の追及,競合店の模倣の3つが挙げられている。最後は,店舗属性間の類似性の生成要因を明らかにすることを次の課題としている。
理論的検討は次のとおりである。流通企業の競争力の中で最も重要な側面は店舗競争力である。店舗競争力は店舗の顧客吸引力にあたり,顧客数や店舗販売高としてあらわれる。店舗競争力の決定要因には店舗の立地場所,売場面積規模,店舗の魅力度などがある。同じ潜在商圏を持ち,同じ規模で同じ業態の店舗の競争では,立地場所や売り場面積だけでは差別化を図ることができない。つまり,店舗吸引力においては店舗魅力度が鍵をにぎることとなる。
店舗魅力度を測るにあたっては,ジャスコ相模原店とイトーヨーカ堂古淵店の店舗属性に対する消費者アンケートのデータを使用している。
店舗属性は食品売場,衣服売場,日用雑貨売場,店舗全体の属性に分けられ検討されている。各売場に特有の属性,例えば食品売場ならば生鮮三品の品揃え,鮮度などについてそれぞれ消費者満足度を消費者アンケートから得ている。
両店を比較するにあたって,両店舗の属性間の有意差を見るためにマンホワイトニー検定を行っている。その結果,食品,衣服,日用雑貨の売場に有意差が見られなかっただけでなく,店舗全体属性においても有意差は見られなかった。これにより,両店の店舗総合満足度には有意差がなかったと述べられている。
様々な店舗属性が存在し,店舗差別化が図られるにも関わらず,このような店舗属性間の類似性が生まれる要因として,考えられるものが3つ挙げられている。両店の結託,顧客志向の追及,競合店の模倣である。
この中で結託は,GMSの管理体制の中で業務として実行することが困難という理由から,類似性生成要因になる可能性は低いと述べられている。また,同じ潜在商圏を持つために,両店の顧客指向追求が類似性を生み出す可能性も示している。さらに,自身で小売ミックスを改善していくよりもコストが安く,リスクも少ないために競合店を模倣する可能性がきわめて高いことも示唆している。
結論としては,同規模,同業態で近接立地している店舗は,店舗魅力度を形成する店舗属性間に著しい類似性があらわれている。その類似性生成要因が,顧客指向と模倣もいずれであっても,次の課題は,両店の顧客指向度を測定しふたつの要因間の関連性を検討することとされている。これにより,日本企業間の競争の特質を明らかにし,その特質が世界的小売業の日本進出を評価する際の基盤となると述べられている。
出典:田村正紀(2003),「大型GMSの激突競争 ―イトーヨーカ堂対イオンの事例―」『流通科学研究所モノグラフ』No.22。
投稿者 02eiko : 16:28 | コメント (0) | トラックバック
バナー・デザイン・コンテスト
これははじめに作ったこのブログのバナーです。
どうもいまいちなのでこの際,ゼミ生各位から優れたバナー・デザインを募集します。
募集要項
- 画像サイズは700×120。
- ファイル・タイプは.gif。
- ファイル・サイズは50KB以下。
- ブログ名と記述内容も同時募集。
- 優勝者にはなんと...
ちなみに私はフリーの画像処理ソフトGIMPを使って作成しました。
Win版もあるのでお試しあれ。
投稿者 Baba : 13:57 | コメント (2) | トラックバック
2005年04月23日
今日からブログ本格始動
今日からブログを本格始動します。
今までのエントリーはもう一度,投稿し直してください。
というのも,関大のサーバーではPHPが動かないようで,設定の変更に伴ってアクセスが不可能になってしまったからです。まあ,ちょうどインデックスやスタイルシートをあれこれいじりすぎて訳が分からなくなっていたので,これを機に一新します。というわけで,週明け以降にメール参照の上,早急にもう一度,投稿者の設定をやり直してください。





