訳者による南仏紀行 (Part3)

4.アニアーヌ村:村役場 -世界の注目を浴びた小さな村の選挙の勝者-
 2007年8月24日の朝,今度はモンペリエから自分で車を運転して再びアニアーヌ村を訪れた。今度は,村役場の村長室で,マニュエル・ディアズ村長に話を聴いた。この人こそ,2001年3月,世界の注目を集めたこの小さな村の選挙において,フランス唯一の共産党村長として当選し,モンダヴィの進出計画を葬り去った人物である。
モンダヴィが進出を目指したアルブッサス山地

モンダヴィが進出を目指したアルブッサス山地

 
亀井:「オリビエ・トレス氏の『ワイン・ウォーズ』を日本語に翻訳中でして,今日は話をうかがいにまいりました」
ディアズ:(本書名を聴いて怒った口調になり...)「ムッシュー・トレスの本は,事実をきちんと書いていない部分がありますよ。モンダヴィの進出計画のからくりをきちんと書いてない。モンダヴィはヴィションという子会社を迂回して,地元から利益を吸い上げようとしたのですよ。実は契約は,前の村議会とのモンダヴィとの間に締結されたのではないのです。モンダヴィのダミー会社ヴィションとの間に締結された契約だったのです。その内容は,アニアーヌの土地75ヘクタールをヴィションに長期間貸与し,賃貸料としてヴィションは売上の1パーセントを支払うという内容だったのです。当然,この村で生産されたワインをヴィションはできるだけ安くモンダヴィに売り,そしてモンダヴィはそれを全世界で高く売るつもりだったはずです。ヴィションにとっては,売上が低くなればなるほど賃貸量が安くなるのですから。多国籍企業に特有のこうしたからくりを見破ったのは私です。このあたりが,その本には書かれていません」
(*これはまったくのディアズ村長の誤解で,トレス氏は,本書第6章の中で,ヴィションを迂回したモンダヴィの進出計画の内容について,きちんと説明している。ただし眼の前のディアズ村長の口調に押され,それを指摘する勇気は訳者にはなかった...)

 

ディアズ:「モンダヴィ事件で,我々が最も怒りを覚えたのは,ある日の新聞記事を通じて,我々が初めて進出計画を知ったということなのです。村の将来についてこんなに大切なことなのですから,当然,村長は,村の住民にまず直接知らせるべきだったのです。
モンダヴィが作ろうとしていたのは,アメリカ流の『ワイナリー』です。これはワイン工場です。モンダヴィがブドウ畑やワイナリーを作るのに村の山地75ヘクタールを使うのに,120ヘクタールの森の木を伐採するということも,環境保護の観点から許されない内容でした。アメリカ流のグローバリゼーション,地元に利益をもたらさない手法,そして何よりも山を切り開くような計画に断固反対したのです」
 インタビューの中で,トレス氏の本にも載っていない,驚くべき言葉をディアズ村長の口から聞くことができた。モンダヴィの進出計画に徹底的に反対する立場をとって,2001年の春の選挙でアニアーヌ村の村長に当選し,モンダヴィを計画断念へと追い込んだディアズ氏であったが,条件がよければモンダヴィの計画を受け入れることができたと言うのだ。
亀井:「もっと条件がよければ,モンダヴィの計画を受け入れることができたということでしょうか?」
ディアズ:「その通りです」
亀井:「どのような条件であれば,受け入れることができたのでしょうか?」
ディアズ:「まず第一に村の環境を破壊しないということです。第二に,何よりも,ダミー子会社を迂回するような多国籍企業特有の手法をとらないということです。進出先の利益を考えずに,ダミー子会社を迂回して自らの利益ばかりを考える多国籍企業の手法は断罪すべきです。逆に,モンダヴィとの直接の契約で,もっと地元の自然環境を保護し地元の生産者と共存し地元に利益をもたらすような内容であれば受け入れることができたと思います。ところで,モンダヴィの事件があり,その後ジェラール・ドパルデューが村にブドウ畑を買ったので,無料でアニアーヌ村についての大きな宣伝となったのは事実です」
 アニアーヌの土地と自然をこよなく愛し,多国籍企業によるグローバリゼーションを敵視するディアズ村長へのインタビューを終えて,再び,マ・ド・ドマス・ガサックを訪問した。この日は,収穫されたヴィオニエ種の選別を少し手伝わせていただいたほか,エメ・ギベール氏にまたお目にかかることができた。
アニアーヌ村 役場

アニアーヌ村 役場

 
亀井:「オリビエ・トレス氏の『ワイン・ウォーズ』を日本語に翻訳中でして,今日は話をうかがいにまいりました」
ディアズ:(本書名を聴いて怒った口調になり...)「ムッシュー・トレスの本は,事実をきちんと書いていない部分がありますよ。モンダヴィの進出計画のからくりをきちんと書いてない。モンダヴィはヴィションという子会社を迂回して,地元から利益を吸い上げようとしたのですよ。実は契約は,前の村議会とのモンダヴィとの間に締結されたのではないのです。モンダヴィのダミー会社ヴィションとの間に締結された契約だったのです。その内容は,アニアーヌの土地75ヘクタールをヴィションに長期間貸与し,賃貸料としてヴィションは売上の1パーセントを支払うという内容だったのです。当然,この村で生産されたワインをヴィションはできるだけ安くモンダヴィに売り,そしてモンダヴィはそれを全世界で高く売るつもりだったはずです。ヴィションにとっては,売上が低くなればなるほど賃貸量が安くなるのですから。多国籍企業に特有のこうしたからくりを見破ったのは私です。このあたりが,その本には書かれていません」
(*これはまったくのディアズ村長の誤解で,トレス氏は,本書第6章の中で,ヴィションを迂回したモンダヴィの進出計画の内容について,きちんと説明している。ただし眼の前のディアズ村長の口調に押され,それを指摘する勇気は訳者にはなかった...)

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