日時 : 2010年3月9日(火)~3月10日(水)
会場 : 関西大学 東京センター サピアタワー9階
主催 : 関西大学データマイニング応用研究センター
共催 : 株式会社シー・エム・シー / 関西大学データマイニング応用研究センター
後援 : IEEE SMCS, Technical Committee on Information Systems for Design and Marketing
所属 | 講演者・担当 | 演題 | |
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オープニング | 主催 | 矢田 勝俊 | 産学連携の取り組みについて |
ご挨拶 | 文部科学省 | 関係部局担当者 | 文部科学省の取り組みとDSIプログラム |
ご講演 | 株式会社シー・エム・シー | 代表取締役社長 穐吉貴則様 |
ライフスタイル・マーケティングの将来 |
講演 | 関西大学 | 矢田 勝俊 | DMラボ・DSIプログラムと産学連携 ~研究・教育2つの視点から~ |
招待講演 | コロンビア大学教授 | Rajeev Kohli | 顧客動線データの先端研究 |
学生研究発表 | 関西大学 商学部矢田研究室 |
金 東賢 岸田 明子 安松谷 高志 |
「ビールの市場分析と販売促進」 「期間を考慮した最適な値引き戦略に関する分析」 「買物時間と購入確率の関連性と売場戦略」 |
「産学連携を通じた人材育成と顧客管理戦略の開発について可能性を探る」
実務における膨大なデータと多様な顧客への対応は、現代の流通業において深刻な問題となっている。
一方、大学では、開発した先端的な技術や手法が適切に応用されないことも珍しくない。産業界と学業界でコミュニケーションをとり、お互いの強みを活かした試みが必要であるが、両者を理解した人材は極めて少ない。
本ワークショップでは、顧客データの戦略的活用に焦点を当てた産学連携について、ビジネス知識と高度な分析スキルを持った人材の育成、そして産業界、学業界がそれぞれ持っているニーズを明確にし、多様な観点から検討を加えることで、今後の産学連携の基礎を構築することを目的とする。そして、進捗中の産学連携プロジェクトによる教育成果に関する情報発信を行い、DSIプログラムの社会還元を進めていく。
オープニングは、DSIプログラム統括責任者の矢田教授による本ワークショップ開催の挨拶から始まった。次に、文部科学省の関係部局担当者様からご挨拶をいただいた。ご挨拶の中で、サービスイノベーション事業として採択された関西大学商学部のDSIプログラムも含めて、本事業は、サービスに関する産学連携を強め、学部生や大学院生を対象にした人材育成と、そのプログラムに関するテキスト開発を目的としている点をご説明された。また、これまでのDSIプログラムに関する期待の高さと、成果に関するお褒めの言葉をいただき、産業界からの強いサポートを要請していただいた。
DSIプログラム概要

株式会社シー・エム・シー代表取締役社長 穐吉 貴則様より、 「ライフスタイル・マーケティング」に関するご講演をしていただいた。量から質へのシフトとして、「人(従業員)の質」、「企業の質」、「パートナー(取引先、顧客)との質」の3つの質を高めていく必要性を強調された。また、その中心となるものがライフスタイル・マーケティングであり、それは、生活者の視点でアクションを起こせるように、消費者行動を捉え、冷静かつ統計的に分析することでマーケティングの活路を見出そうとする取り組みである。物が溢れている昨今では、顧客のニーズは十人十色であり、顧客一人一人が何を欲しているかを理解し、流通業、メーカー、そして小売業が協力し、需要を喚起していく必要がある点を強調された。そして、本ワークショップがその取り組みの基礎を担う役割であることを述べられた。
次に矢田教授は、講演を通じてDSIプログラムの主旨についてご説明をされた。DSIプログラムは、ビジネス知識と分析スキルを持った人材の育成が目的の1つであるが、人材育成に関してプログラムから得られる成果を調査されており、その結果をご報告された。調査は、矢田研究室の卒業生約30人を対象にしたものであり、その中の3割強の卒業生が、自ら新商品の開発や、起業することでマスメディアに取り上げられた経験があることを示された。これらの結果は、学生時代から企業で蓄積されたデータを利用し、ビジネスを意識した学習の効果である点を示された。また、大学では、教育と研究の両立が重要であり、昨年度から設立されたデータマイニング研究センター(DMラボ)のご紹介と、DMラボの研究テーマとしてRFIDを利用した店舗内の顧客動線データに関する研究が行われている点をご説明された。

招待講演として、コロンビア大学のRajeev Kohli教授によるご講演が行われた。Kohli教授は、RFIDデータを利用した店舗内の顧客行動に関する先端研究をご紹介された。RFIDと呼ばれるデータは、顧客の店舗内の動きを把握できるデータであるが、このデータの蓄積は、ようやく始まったばかりである。そこで、このデータをどのようにして小売で利用すべきかについて問題を提起された。まずRFIDデータだけではなく、ID付きPOSデータや販促データなどを併せて利用することで、顧客の動きに関する情報とこれまでの購買に関する情報を併せて利用することができ、今まで明らかにできなかった新たな知識の発見が可能になる点を主張された。具体的には売場の滞在時間と購買の関係から、各売場における顧客の滞在行動の違いを明らかにされた。また実演販売が滞在に与える効果についてもご紹介していただいた。


後半は、関西大学DSIプログラム履修学生による研究発表が行われた。
一人目は、金 東賢さんの発表で「ビールの市場分析と販売促進」というタイトルの発表であった。この研究はビール、第3のビール、発泡酒を対象に、月別の販売数量の変化としてネットワーク流量化推定と呼ばれる手法を適用し、カテゴリの横断的な販売数量の変化を捉え、第3のビールを中心としたカテゴリの併売が毎月繰り返して行われている点を明らかにしていた。また、それらの事実から、特に単価の高いビールの売上数を増加させる目的で、顧客のビール消費傾向を明らかにし、特定顧客集合へ効率のよい販売促進方法を提案されていた。
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二人目は、岸田 明子さんの発表で「期間を考慮した最適な値引き戦略に関する分析」というタイトルの発表であった。この発表は、特にシャンプーの値引きに関して様々な角度から分析されており、売上増加に影響を与えている値引きは、価格だけではなく、ある値引きから次の値引きまでの間隔が売上に影響を与えている点を明らかにされていた。そして、そのことを基に、売上効果を最大にする値引き戦略を提案された。
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三人目は、安松谷 高志さんの発表で「買物時間と購入確率の関連性と売場戦略」というタイトルの発表であった。この発表は、RFIDデータを利用し、各売場の商品購入確率と買い物時間の関係から、売場の特性を明確にし、各売場の特性に合わせた販売促進方法を提案する内容であった。具体的には、長く滞在してもらうことで購買に結び付く売場と、短い滞在時間でも購買に結び付く売場が存在する点を明らかにしていた。そして、そのことを利用し、実際に顧客がある売場で滞在した時間と、その売場で理想とされる滞在時間との乖離から、改善すべき売場を特定し、売場の改善案を提案されていた。
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最後に矢田教授から、現在開発中の分析ツールのご説明とそのデモンストレーションが行われた。これまで膨大なデータを扱うためには、ある程度の技術を学習して利用する必要があったが、今回開発された分析ツールは、あらかじめ分析に必要なシナリオが組み込まれており、取得したい情報に併せてそのシナリオを実行すればよいというもので、誰でも簡単に利用できる非常に優れた分析ツールであった。


本ワークショップに関するご意見を得るために企業の方々を対象にアンケート調査を実施した。
いただいたご回答は、
「Rajeev Kohli教授による招待講演が大変興味深かった。」
「RFIDを用いた店舗支援を考えたい。」
「文科省の資金は、効率的、効果的に使われていると感じた。」
「良い取り組みだと思う。」
「企業と大学の長所短所を刺激し合えればいい。」
など比較的好意的なご意見をいただいた。また、学生発表に関しては、着眼点や、発表態度、発表の内容に関するわかりやすさについてお褒めの言葉をいただいた。
一方、利益の観点が欠落している点や、得られた結果のアプリケーション、分析の前提となる条件が不明確である点など、厳しいご指摘もあった。DSIプログラムや産学連携での取り組みに関しては、海外との比較や日本の先進性などもご紹介していただきたいという意見もあった。
今後は、ご参加いただいた皆様からのご意見を反映できるように努力し、人材育成を含めたDSIプログラムの社会還元と、更なる産学連携の強化に努めていき、より完成度の高い教育システムの構築を行う。
