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世の中にはおもしろい本がたくさんあるのに、学生たちの中には「活字嫌い」を標榜して、読もうとしない人がたくさんいます。貴重な時間をアルバイトと遊びですべて費やしてしまっていいのでしょうか。私が読んでおもしろかったと思う本、一言言いたいと思う本を、随時順不同で紹介していきますので、ぜひ読んでみて下さい。(時々、映画など本以外のものも紹介します。)感想・ご意見は、katagiri@kansai-u.ac.jpまでどうぞ。太字は私が特にお薦めするものです。

<社会派小説>552.羽田圭介「スクラップ・アンド・ビルド」(『文芸春秋』2015年9月号)532.石黒耀『死都日本』講談社文庫529.乃南アサ『地のはてから(上)(下)』講談社文庫525.乃南アサ『ニサッタ、ニサッタ(上)(下)』講談社文庫524.佐々木譲『警官の血(上)(下)』新潮文庫513.渡辺房男『円を創った男 小説・大隈重信』文春文庫

<人間ドラマ>555.さだまさし『アントキノイノチ』幻冬舎文庫554.高樹のぶ子『氷炎』講談社文庫549.永井するみ『隣人』双葉文庫547.早見和真『ぼくたちの家族』幻冬舎文庫543.吉田修一『東京湾景』新潮文庫542.百田尚樹『モンスター』幻冬舎文庫534.乃南アサ『すれ違う背中を』新潮文庫533.佐江衆一『わが屍は野に捨てよ 一遍遊行』新潮社529.乃南アサ『地のはてから(上)(下)』講談社文庫525.乃南アサ『ニサッタ、ニサッタ(上)(下)』講談社文庫524.佐々木譲『警官の血(上)(下)』新潮文庫523.乃南アサ『禁猟区』新潮文庫521.横山秀夫『震度0』朝日文庫515.佐江衆一『北の海明け』新潮文庫

<推理サスペンス>574.乃南アサ『ライン』講談社文庫550.東野圭吾『流星の絆』講談社文庫548.浦賀和宏『彼女は存在しない』幻冬舎文庫524.佐々木譲『警官の血(上)(下)』新潮文庫523.乃南アサ『禁猟区』新潮文庫521.横山秀夫『震度0』朝日文庫519.薬丸岳『闇の底』講談社文庫

<日本と政治を考える本>600城戸戦争 歴史文春文庫594.田中彰『明治維新と西洋文明――岩倉使節団は何を見たか――』岩波新書573.豊田穣『革命家 北一輝 「日本改造法案大綱」と昭和維新』講談社文庫572.伊藤之雄『伊藤博文 近代日本を創った男』講談社学術文庫565.佐々淳行『焼け跡の青春・佐々淳行 ぼくの昭和20年代史』文春文庫545.坂口弘『あさま山荘1972(上)(下)』彩流社541.鈴木英生『新左翼とロスジェネ』集英社新書540.伴野準一『全学連と全共闘』平凡社新書535.堀井憲一郎『若者殺しの時代』講談社現代新書532.石黒耀『死都日本』講談社文庫513.渡辺房男『円を創った男 小説・大隈重信』文春文庫512.保阪正康『『きけわだつみのこえ』の戦後史』文春文庫

<人物伝>589.伊藤純・伊藤真『宋姉妹 中国を支配した華麗な一族』角川文庫588.郷仙太郎『小説・後藤新平 行革と都市政策の先駆者』学陽書房585.田辺聖子『千すじの黒髪――わが愛の与謝野晶子――』文春文庫580.松本清張『半生の記』新潮文庫573.豊田穣『革命家 北一輝 「日本改造法案大綱」と昭和維新』講談社文庫572.伊藤之雄『伊藤博文 近代日本を創った男』講談社学術文庫568.後藤田正晴(御厨貴監修)『情と理 カミソリ後藤田回顧録(上)(下)』講談社文庫558.火坂雅志『黒衣の宰相』文春文庫538.童門冬二『小説・田中久重』集英社文庫533.佐江衆一『わが屍は野に捨てよ 一遍遊行』新潮社526.山下浩監修『山下清展』ステップ・イースト522.竹内洋『メディアと知識人 清水幾太郎の覇権と忘却』中央公論新社517.ドナルド・キーン『明治天皇を語る』新潮社新書516.羽生道英『伊藤博文 近代国家を創り上げた宰相』PHP文庫513.渡辺房男『円を創った男 小説・大隈重信』文春文庫511.野地秩嘉『渡辺晋物語』マガジンハウス502. 調布市武者小路実篤記念館編『父・実篤の周辺で〜家族の物語〜』調布市武者小路実篤記念館

<歴史物・時代物>566.津本陽『宇喜多秀家 備前物語』文春文庫558.火坂雅志『黒衣の宰相』文春文庫536.池波正太郎『剣客商売 1』新潮文庫530.朧谷寿『藤原氏千年』講談社現代新書528.北山茂夫『日本の歴史4 平安京』中公文庫516.羽生道英『伊藤博文 近代国家を創り上げた宰相』PHP文庫515.佐江衆一『北の海明け』新潮文庫506.鎮西町史編集委員会編『太閤秀吉と名護屋城』鎮西町

<青春・若者・ユーモア>599.黒柳徹子『トットチャンネル』新潮文庫565.佐々淳行『焼け跡の青春・佐々淳行 ぼくの昭和20年代史』文春文庫559.難波功士『「就活」の社会史――大学は出たけれど……』祥伝社543.吉田修一『東京湾景』新潮文庫535.堀井憲一郎『若者殺しの時代』講談社現代新書

<純文学的小説>592.俵万智『トリアングル』中公文庫552.羽田圭介「スクラップ・アンド・ビルド」(『文芸春秋』2015年9月号)551.又吉直樹「火花」(『文芸春秋』2015年9月号)546.中山可穂『感情教育』講談社文庫518.吉田修一『パレード』幻冬舎文庫

<映画等>598.(映画)リチャード・レスター監督『ハード・デイズ・ナイト』(2001年・イギリス)596.(映画)トム・マッカーシー監督『スポットライト 世紀のスクープ』(2015年・アメリカ)595.(映画)ピーター・ウィアー監督『いまを生きる』(1989年・アメリカ)591.(映画)リチャード・ラグラヴェネーズ監督『P.S.アイラヴユー』(2007年・アメリカ)590.(映画)佐々部清監督『ツレがうつになりまして。』(2011年・東映)587.(映画)中村義洋監督『ポテチ』(2012年・日本)586.(映画)ラッセ・ハルストレム監督『ショコラ』(2000年・アメリカ)584.(映画)ロバート・ゼメキス監督『ロジャー・ラビット』(1988年・アメリカ)583.(映画)木下恵介監督『喜びも悲しみも幾歳月』(1957年・松竹)582.(TVドラマ)木皿泉脚本・吉田照幸演出『富士ファミリー』(2016年・NHK)581.(映画)ダニー・ボイル監督『スラムドッグ$ミリオネア』(2008年・イギリス、アメリカ)579.(映画)五社英雄監督『女殺油地獄』(1992年・松竹)578.(映画)市川昆監督『鍵』(1959年・日本)577.(映画)小栗康平監督『FOUJITA』(2015年・日仏合作)576.(映画)吉田大八監督『桐島、部活やめるってよ』(2012年・日本)575.(映画)三隅研次監督『大菩薩峠』(1960年・大映)570.(映画)市川昆監督『どら平太』(2000年・日本)/569.(映画)根岸吉太郎監督『ひとひらの雪』(1985年・東映)567.(ミュージカル)『ライオン・キング』(劇団四季)564.(映画)御法川修監督『すーちゃん まいちゃん さわ子さん』(2012年・日本)563.(映画)市川昆監督『かあちゃん』(2001年・日活)562.(映画)五社英雄監督『櫂』(1985年・東映)561.(映画)黒澤明監督『八月の狂詩曲』(1991年・日本)560.(映画)岡本喜八監督『肉弾』(1968年・日本)557.(映画)羽住英一郎監督『BRAVE HEARTS 海猿』(2012年・日本)556.(映画)吉田大八監督『パーマネント野ばら』(2010年・日本)553.(映画)佐々部清監督『半落ち』(2003年・日本)544.(映画)勅使河原宏監督『利休』(1989年・日本)539.(映画)細田守監督『時をかける少女』(2006年・日本)537.(映画)マイク・二コルズ監督『卒業』(1967年・アメリカ)531.(映画)是枝裕和監督『海街diary』(2015年・日本)527.(映画)三池崇史監督『13の刺客』(2010年・日本)520.(映画)沖田修一監督『横道世之介』(2013年・日本)514.(映画)山田洋次監督『小さいおうち』(2013年・松竹)509.(映画)加藤泰監督『緋牡丹博徒 花札勝負』(1969年・東映)508.(映画)石井輝男監督『網走番外地』(1965年・東映)507.(映画)ゲイリー・ウィニック監督『ジュリエットからの手紙』(2010年・アメリカ)/505.(映画)ドン・ホール監督『ベイマックス』(2014年・アメリカ)504.(映画)蜷川幸夫『嗤う伊右衛門』(2003年・日本)501.(映画)西川美和監督『夢売るふたり』(2012年・日本)

<その他>597.松岡慧祐『グーグルマップの社会学 ググられる地図の正体』光文社新書593.増淵宗一『少女人形論 禁断の百年王国』講談社571.小林多寿子『物語られる「人生」 自分史をかくということ』学陽書房526.山下浩監修『山下清展』ステップ・イースト510.財団法人日本城郭協会監修『日本100名城 公式ガイドブック』学研503.調布市武者小路実篤記念館編『新しき村90年――人間らしく生きる――』調布市武者小路実篤記念館

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<最新紹介>

600.城戸久枝『あの戦争から遠く離れて 私につながる歴史をたどる旅』文春文庫

 すばらしいノンフィクションです。この著者の父親は終戦時に5歳で中国に残され、中国人の女性に愛情をもって息子として育てられるも、自らを日本人と明記したことで中国で生きにくくなり、1970年に日本に帰国します。さらっと紹介しましたが、1970年はまだ日本と中国が国交を回復していなかった時代で、残留孤児を政府が責任をもって帰国させるなどという政策はまったく行っていなかった時代ですので、著者の父親は赤十字を通して何百通もの手紙を日本に送り、ようやく実の両親らしい人を見つけ、帰国ができたという稀有なケースです。第1部は、この著者の半生です。日本人と書いてしまったゆえに、成績は優秀だったにもかかわらず大学に進学できず、また文化大革命時には命の危険にまでさらされます。そのあたりの生き様は著者のしっかりした文章力もあり、本当に辛かっただろうなとよく伝わってきます。

 第1部も非常に読み応えがありますが、第2部がまたいいです。第2部は著者自身の中国体験です。独身で日本に帰ってきた父親が日本で出会った女性と結婚し、その次女として生まれた著者ですが、大学時代に中国に興味を持ち、2年間留学をします。そこで、中国人の温かさと反日感情とをともに経験します。このノンフィクションが優れているのはこの第2部があるからです。残留孤児として辛い人生を生きた父親を単なる対象として書くのではなく、自分自身も当事者になって中国を感じているところが素晴らしいです。戦争のことを考えるためにも、日中関係を考えるためにも、ぜひよんでほしい1冊です。(2016.6.28)

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599.黒柳徹子『トットチャンネル』新潮文庫

 先日まで放映されていた「トットてれび」の原作本を読んでみたくて読みました。正直言って、黒柳徹子は文書はうまくないです。せっかくテレビ創世記の貴重な体験を持っているのですから、もっと描写力があれば、もっともっと面白い本になったでしょう。まあそれでも多少はテレビ創世記のドタバタぶりは伝わってきます。トットちゃんとして出てくる若き日の黒柳徹子のシャイなお嬢さんぶりが、どうも今の黒柳徹子とつながらずずっと違和感がありました。私が物心がつき黒柳徹子を認識した頃――たぶんまだ30歳前だったのではないかと思いますが――には、もう早口でずうずうしいおばさんのような女性というイメージだったので、この本の中のトットちゃんとは大分異なるイメージでした。テレビドラマの方ももうひとつという感じでしたし、もう少しテレビ創世記のことを的確に伝える本を読みたいという欲求不満感が残りました。(2016.6.23)

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598.(映画)リチャード・レスター監督『ハード・デイズ・ナイト』(2001年・イギリス)

 ビートルズ初の主演映画で、1964年に『ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!』として公開されたもののリバイバル版です。最初の公開の際には、私はまだ小学生だったのでまったく興味がなく、その後興味を持つようになってからもなんとなく見損なっていたのですが、今年がビートルズ来日50周年ということで、NHKBSで放映していたので、初めて見てみました。ビートルズは1962年頃から売れ始め、この映画が作られた頃は、アイドルグループとして大人気の頃でした。映画の中でも、若い女性たちの熱狂的な様子がたくさん描かれています。こういう映画は音楽映画とでも言うのでしょうか。今で言えば、MVの長尺バージョンという感じですが、たくさんのビートルズのヒット曲が映画の中で流れます。歌詞を意識してストーリーを作ったからでしょうが、歌詞と物語がある程度リンクするようになっており、いつも聞いていたビートルズの曲が、こんなにアイドルソングっぽかったんだなと、妙な感心の仕方をしました。

 ビートルズは、その成立のプロセスから言っても、楽曲の提供やボーカルの面から見ても、ジョン・レノンとポール・マッカートニーの存在が圧倒的に大きく、次いでジョージ・ハリスン、そして大分離れてリンゴ・スターという位置だと思いますが、この映画の中でも、その序列は明らかに感じ取れます。特にリンゴ・スターはいろいろな面でコンプレックスを持つ人間として描かれていて、そこもまた興味深かったです。久しぶりに、ビートルズの曲を聴きたくなりました。(2016.6.19)

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597.松岡慧祐『グーグルマップの社会学 ググられる地図の正体』光文社新書

 愛弟子の初の単著なので評価が甘めになりそうですが、なるべく公平な視点から感想を述べてみたいと思います。まずは目次を示しておきます。

はじめに
1章 地図の社会学
2章 グーグルマップ前史
3章 グーグルマップの現在
3
1 デジタル化
3
2 グーグルマップはどう進化したか
3
3 個人化
4章 グーグルマップが閉ざす/開く世界
4
1 断片化
4
2 シークエンス化
4
3 多層化
5章 グーグルマップの未来
あとがき

1章、2章は、これまでの地図の話なので一般読者にとってもなじみが深く読みやすいと思いますが、3章、4章あたりは、「グーグルマップって、そんな機能もあるのか」と驚き、初めて聞く言葉――あるいは聞いたことがあるが意味があまりよくわからない言葉――がたくさん出てくるので、グーグルマップにかなり詳しい人でないと、少し消化不良気味になるかもしれません。しかし、そういう消化不良を起こす人が多いことが、実は著者の言うところの「断片化」が進んでいることの証左にもなります。グーグルマップをはじめとするデジタルマップは使い方次第で、世界を開く可能性があるにもかかわらず、多くの人は目的地周辺の情報と目的地までの経路情報を得るだけにしか利用しておらず、グーグルマップの可能性を開いていないがゆえに、何も知らず、この本を読むと知らないなじみのないことがたくさん出てくると消化不良を起こすのです。

私は割と地図を見ることの多い人間だと思いますが、それでも知らないことだらけでした。その意味では私もちょっと消化不良を起こした方かもしれません。しかし、この本はグーグルマップのマニュアル本ではなく、こうしたデジタルマップが急速に成長してきたために、個人や社会はどう変わりつつあるのかを語ろうとした社会学書ですので、3章、4章で出てくる用語が全部わからないと内容がわからないという本ではありません。そこはあまり気にしすぎずに読んでもいいのではないかというのが、私の見解です。

この本を読みながら、そうかあ、グーグルマップが登場してからまだ10年ちょっとなのかあと感慨深く思っていました。今や日常生活に欠かせないものになっているデジタルマップを本格的に使うようになって10年、持ち歩くようになったのは、ipadを持った6年くらいから前だったんだなと思い出しました。それ以前はどこに行く時もガイドブックを持って行ってたのに、今やipadひとつあれば、何でも調べられるからとガイドブックはめったに持ち歩かなくなりました。いつのまにか、時代に合わせて行動していたんだなと気づかされました。しかし、デジタルマップの浸透は不可逆的でしょうから、この流れを拒否せずに上手に利用して行きたいと思います。第5章に少し書かれていた昔地図と現在の地図を重ね合わせるようなことがもっと簡単にできるようになったらぜひ使いたいなあと思います。

いずれにしろ、文章はリズムがあって平明で読みやすく、内容的には、地図(マップ)と社会、個人の関係を考えさせてくれる好著と評価してよいと思います。 (2016.6.17)

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596.(映画)トム・マッカーシー監督『スポットライト 世紀のスクープ』(2015年・アメリカ)

 アカデミー賞の作品賞と脚本賞を得た作品ということで、久しぶりに映画館で見ようと思い見てきました。日本ではまったく人気がないようで、ナビオの中でも一番小さいのではないかと思われるスクリーンでの上映でした。でも、若い人はほぼいなかったですが、年配者を中心に満席になっていました。若者と年配者と見たい映画がまったく違うのでしょうね。

 さて、この作品ですが、アメリカで実際に起きた事実を元に作られた作品です。ボストン・グローブ社が2002年スクープしたカトリック神父に多くの幼児(少年)性愛者がおり、たくさんの子供たちが犠牲になっていたという報道に至るまでを丁寧に再現して見せたドラマです。見た感じとしては、たぶんフィクション部分は限りなく少なくしてあるように思いました。で、面白かったかと言うと、正直自分の中では星3つくらいです。事実を重視するという姿勢がドラマとしては劇的な展開を失わせていて、エンターテインメントとしては物足りなさを感じました。どちらかといえば、記録映画を見る気持ちで見た方がいいかもしれません。

 あと気になったのは、新聞記者が正義の人で、弁護士が金のためなら何でもする人、神父は異常性欲者が多く、教会はそれを隠ぺいする悪しき組織というような構図が単純すぎて、あまり納得が行きませんでした。記者と被害にあった元少年たちの心理的葛藤は描かれるけれど、弁護士や神父や大司教の心理的葛藤はまったく描かれません。彼らにも彼らなりの葛藤と論理があるはずで、そこをまったく描かないのは、非常に一面的な描き方だという印象を受けました。

 日本では、カトリック教会の影響力は小さいですし、この映画は当たらないでしょうね。見た私自身もこんな感想でたいしてお勧めしたいとは思わないので、評判が評判を呼びじわじわ人気が出るということもなさそうです。まあ仕方ないだろうと思います。(2016.5.5)

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595.(映画)ピーター・ウィアー監督『いまを生きる』(1989年・アメリカ)

 いい映画です。青春映画のみずみずしさが見事に描かれています。ロビン・ウィリアムズ演じる国語の教師が全寮制の名門高校に赴任してきて、生徒たちに「今を生きる」ことの大切さ、チャレンジすることの大切さを教えます。何人かの生徒が彼に触発されて、学校に知られては処罰されてしまうような行動に出ます。途中から、このみずみずしい青春の物語をドラマとして完結させるためには悲劇を挟まざるをえないのではないかと思いながら見ていましたが、案の定悲劇が起こってしまいます。そして、教師は解雇され学校を去ることになるわけですが、最後の場面も予想通りでしたが、感動を生む締め方となっています。観る者の期待を裏切らない安定した脚本でした。逆に言うと、観客を唸らせるような予想外の展開はない平凡な物語とも言えてしまうのですが、そう思わずにいられるのは、少年たちの演技がまさに青春のみずみずしさを伝えることに成功しているからだと思います。

 たぶん誰が観てもなかなかいい映画だと評価すると思いますが、教師という仕事をしている私の場合は、特に思い入れを持って見られる映画でした。将来の計算ばかりしていないで、「今を生きる」ことの大切さ、チャレンジすることの大切さは、私も若者たちに伝えていきたいなと思った映画でした。(2016.5.3)

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594.田中彰『明治維新と西洋文明――岩倉使節団は何を見たか――』岩波新書

 明治史で必ず出てくる岩倉使節団ですが、具体的にどこに行き何をしてきたのかはあまり知らないままでした。この本はこの使節団の公式報告書である『米欧回覧実記』に基づき、岩倉使節団は何を見てきたかを紹介した本です。その後の日本の近代化の方向を決めたとも言える重要な訪問であったわけですが、アメリカ、イギリス、フランス、プロシアといった国々だけでなく、小国と言えるような国についても、岩倉使節団は視野を向けています。その後プロシアを参考に大国主義の道を歩むに大日本帝国ですが、この訪問の段階では、スイスやデンマークのような小国主義的行き方にもひかれるところがあったようです。(2016.5.3)

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593.増淵宗一『少女人形論 禁断の百年王国』講談社

 女子学生に卒論のテーマを「人形」にしてみたらとアドバイスしたので、ちょっと前の本ですが、引っ張り出してきて読み直してみました。著者は、「リカちゃん」人形研究の第1人者――全国に何人くらいリカちゃんの研究者がいるかはわかりませんが――で、「かわいい症候群」などについても書物を著している方です。この本のテーマは明治以降の日本で、人形が少女たちの好むものとしていかに根付いていったかを明らかにした本です。教科書が国定であった明治、大正、昭和戦前においては、教科書の中で、女子の遊びとして人形遊びが実質的に推薦される状況にあったことが語られます。それは、当時男女性別役割がを明確にし、女の子には家庭を守る、家庭の仕事ができるように、それにつながる人形遊びが推奨されたということだそうです。戦後になると、良妻賢母教育とからめた人形遊びは教科書からはなくなるようですが、アメリカの人形、そしてリカちゃん、ジェニーちゃんへと、可愛さとファッションを求める少女たちから人形は求められ続けます。

ただし、この本の刊行年は1995年でもう21年も前です。この後、携帯が登場し、今はスマホです。かつてリカちゃん人形で遊んでいた年齢の少女たちもスマホで遊んでいたりしますので、今はかつてほどの人気は失くしているのではないかという気もします。もう少し新しい文献を探さないといけないですね。(2016.4.24)

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592.俵万智『トリアングル』中公文庫

 『サラダ記念日』で有名な歌人の俵万智が小説を書いていると知って読んでみました。表題通りの三角関係をテーマにした物語です。妻のいる男性と長く不倫の関係にあった主人公の30歳代前半の独身女性が年下の男性とも男女の関係になり、その三角関係をどうしようかと考えるというストーリーです。それだけ聞くと、どろどろした場面もありそうな気がすると思いますが、まったくありません。二人の男性が鉢合わせをすることもなく、別れ話がもつれて修羅場になるということもまったくありません。なんか淡々としています。ベッドシーンは女性視点でその感覚が結構詳しく語られます。女性向けのソフトなポルノ小説という感じもしなくもありません。まあ率直に言って、小説としては、盛り上がりに欠けていて、面白いとは言えません。この作家はたっぷり言葉を使って行間を埋めてしまうより、31文字で世界を想像させる方が、やはり合っているようです。(2016.4.21)

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591.(映画)リチャード・ラグラヴェネーズ監督『P.S.アイラヴユー』(2007年・アメリカ)

 40か国以上でベストセラーになった恋愛小説が原作の映画で、オスカー女優のヒラリー・スワンクが主演ということで、きっとそれなりに見られる映画だろうと予想をつけ、録画して見たのですが、予想通りまあまあよかったです。というか、CGだらけの映画が嫌いで人間ドラマ好きな私好みの映画で、1970年代あたりにはよくあったタイプの映画です。若くして死んだ夫が残された妻のために様々な仕掛け(手紙やプレゼント)が届くようにしてあり、それを受け取りながら、妻が徐々に生きる力を取り戻していくという映画です。ただし、主役はヒラリー・スワンクでない方がよかったのではないかと思います。彼女は役のためなら肉体改造までするような名女優ですが、この映画にはもう少しかわいい美人女優のほうが役柄的にあっていた気がします。(2016.4.12)

 

590.(映画)佐々部清監督『ツレがうつになりまして。』(2011年・東映)

 以前テレビドラマで、藤原紀香と原田泰造が演じていたのを見た時はいいなと思わなかったのですが、宮崎あおいと堺雅人だとこんなにハートフルな物語になるんだなと、改めて役者の力の違いを感じました。特に、宮崎あおいがいいです。やはりうまくて魅力的な女優さんです。堺雅人はこの映画では極端すぎる役なので特にうまいとは思いませんが、うつの感じはよく出ていました。あと、演技をしているのかどうかわかりませんが、イグアナがいい役割を果しています。たぶん、テレビドラマにはいなかったような気がするのですが……。イグアナとのからみが相当多いので、爬虫類が嫌いな役者さんはイグアナなしでということにしたのかもしれません。見終わった後、頑張れない人にも、もう少し優しく対応してあげないといけないなと思った映画でした。(2016.4.1)

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589.伊藤純・伊藤真『宋姉妹 中国を支配した華麗な一族』角川文庫

 最近紹介する本は伝記ものばかりですね。なかなか小説を読めません。まあそれはともかくとして、この伝記の主役は、近現代中国を形作った歴史上の人物の妻となりそれぞれ歴史的役割を果した3姉妹の人生を描いたものです。長女の宋靄齢は孔子の子孫でもある財閥・孔祥熙と結婚し中華民国の経済面を支え、次女の宋慶齢は革命家・孫文と結婚し、孫文亡き後は共産党に近い政治的立場を取り、中華人共和国が成立した時には副主席に選ばれ、三女の宋美齢は孫文の後を継ぎ国民党総統になった蒋介石の妻となり、アメリカとの間をつなぐ役割を果し、国民党が台湾に追われた後も、大陸反攻の夢を持ち続けました。大陸がまだ中華民国だった時代には、密かに「宋王朝」という言い方もされていたくらい宋家の3姉妹は重要な役割を果したと言われています。最低限の情報は知っていましたが、宗家とはどんな家だったのだろう、具体的にどんな役割を果したのだろうと知りたくて読んでみました。

 宗家は名門なのかと思っていましたが、実質的に3姉妹の父親・宋耀如が一代で築き上げた財閥でした。一族がアメリカに華僑として渡っていたのを頼って、そこで実質的には自分で力をつけて中国に戻り巧みに商売に成功し富を築いたということのようです。孫文の革命を経済面で支え、娘たちは全員アメリカに留学させ、近代中国を創る上での重要な役割を果すことになったようです。3姉妹の中で、次女の慶齢が共産党に近い立場を取ったため、ある時期からは他の2人とは距離ができたようです。

 まあまあ読める本ですが、女性の立場からのみだと、やはり歴史はわかりにくいなというのが読後感です。(2016.3.27)

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588.郷仙太郎『小説・後藤新平 行革と都市政策の先駆者』学陽書房

 後藤新平もその経歴を漠然と知っていただけだったので、もう少し知りたくて読んでみました。小説と銘打っているだけに、どのあたりが真実で、どのあたりがフィクションかはややわかりにくいですが、まあおおよそこんな人だったんだろうなということはわかりました。1857年に岩手県水沢の士族に生まれ、苦学して医師になり、衛生面の仕事を期待され内務官僚になります。その後台湾に行くことになるのも最初は衛生面での改善を期待されていたからでした。しかし、台湾でその仕事をするためには大規模な都市計画が必要となり、その後は満州、東京市と、後藤は行く先々で、調査と都市計画を立てていきます。そして、関東大震災後の復興院総裁として、最後の大仕事をします。総理大臣候補にもあがっていましたが、藩閥も政党もバックに持っておらず、結局ならず仕舞で終わります。徒党を組まず、やらなければいけないと思うことは、敵ができようとも主張するという性格が災いしたようです。まあでも、総理大臣にならなかったがゆえに、もしも後藤新平が総理大臣になっていたらという期待感が残ったとも言える政治家だったような気がします。(2016.3.12)

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587.(映画)中村義洋監督『ポテチ』(2012年・日本)

 年末に放送していた映画でよくわからないけど、なんとなく面白そうかなと思ったので録画しておいたものです。まあつまらなくてもいいやと思って最初流しながら観ていたのですが、途中から奇妙な世界が気になって真剣に見始め、最後にはもう1回最初から見直したくなり、実際観てしまいました。最初に観た時に意味がよくわからなかった場面が全部意味のある伏線になっていて感心しました。見終わった後に温かい気持にもなれますし、これは、隠れた名作です。伊坂幸太郎原作小説がよくできているということもあるのでしょうが、映画ならでは良さも十分出ています。主演の浜田岳と木村文乃も自然体でいい味を出しています。ストーリーは詳しく語ってしまうと見る楽しみがなくなってしまうので語りませんが、絶対2度見返したくなる映画で、お勧めです。(2016.3.10)

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586.(映画)ラッセ・ハルストレム監督『ショコラ』(2000年・アメリカ)

 公開された頃からなんとなく気になっていた映画ですが、ようやく観ました。なんかポスターのイメージから、勝手にショコラティエの女性の恋物語のように思っていたのですが、その部分はほんの一部で、心温まる人間ドラマで、好きな種類の映画でした。内容を簡単に紹介しておくと、1950年代のフランスの小さな町にショコラティエの母と娘が現れ、チョコレート屋を開きます。その町は古い考えに縛られた村長が支配する町で、人々は楽しむことを知らないような生活を送っています。そこに、ショコラティエの女性が新しい風を吹き込みますが、果たしてその結果は、というような内容です。あまり書きすぎると、いつか観る人の楽しみがなくなってしまいそうなので、これ以上は書きませんが、人間ドラマが好きな人にはお勧めです。ジョニー・デップやジュディー・デンチといった著名な俳優も出てきますので、そういう俳優に見興味のある人にもお勧めです。(2016.3.5)

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585.田辺聖子『千すじの黒髪――わが愛の与謝野晶子――』文春文庫

 与謝野晶子の前半生を描いた伝記小説です。読みながら、与謝野晶子という歌人の名前は半世紀も前から知っていたのに、どういう人物だったかを全然知らなかったということに気づかされました。私が知っていたことと言えば、堺の商家出身だったこと、与謝野鉄幹と結婚し、「柔肌の熱き血潮に触れもみで寂しからずや道を説く君」という有名な歌を含む『みだれ髪』という歌集を出したこと、日露戦争の時に「君死に給うことなかれ」という反戦歌を詠んだこと、鉄幹との間に多数の子どもがいたこと、くらいでした。この本で初めて知ったことは、晶子は文学史上によく見られる写真から想像するような強い女性では必ずしもなかったこと、鉄幹という男が世間の価値観からはかなり逸脱した男であったこと、鉄幹を中心とした女性たちの存在、晶子と鉄幹の出逢いと晶子の強烈な恋心、『明星』という雑誌の創刊から廃刊まで、浪漫派の歌の特徴、などなどです。かなり勉強になりました。この本では、晶子のものはもちろん、鉄幹や山川登美子の歌がたくさん紹介されていますが、心情が露骨に吐露されたような歌ばかりで、この溢れるような情熱が、浪漫派を支えていたのだということがよくわかりました。気持ちをそのまま七五調で詠んだものが、浪漫派の特徴だったようです。晶子は後年、この若き日の自分の歌をあまり評価しなくなったようですが、確かに、この種の歌は青春時代には恥しさもなく作れても熟練の年齢に入ってきてからはとうてい詠めるものではなかっただろうと思います。しかし、与謝野晶子の特別なファンでもないわれわれ一般人は、いまだに与謝野晶子というと、若き日に作った歌のみを知っているわけです。晶子にしてみると、きっと不満でしょう。ただ、文学史的には、やはり明治のこの時期に、心情をストレートに表わす歌を詠む歌人が現れ、それが多くの人に受け入れられたという事実はやはり大きいのでしょう。なかなかおもしろかったので、晶子の後半生も探して読んでみたいと思います。(2016.3.2)

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584.(映画)ロバート・ゼメキス監督『ロジャー・ラビット』(1988年・アメリカ)

 最近映画やドラマばかりですみません。なかなか腰を落ち着けて本が読めず、活字を見ることに疲れては映像に逃げています。まあでも、こういう時期に録りためていた映画を観られるので、それはそれでいい機会でもあります。この映画は録りためていたものではなく、昨日放送していたものですが、朝新聞欄を見ていてちょっと面白そうだなと思い観てみました。アニメのキャラクターと実写の俳優が共演するというコメディ作品ですが、その編集技術に舌を巻きました。当然アニメは後でフィルムに加えたものでしょうが、実写の俳優たちの目線や動きときっちり合っています。見事な計算です。最近ではCGが発展し、この程度のことはたいしたことないと思われてしまうかもしれませんが、1988年ではかなり難しい技術だったのではないかと思います。CG映画の嫌いな私ですが、こういう手作り感が溢れている作品は悪くないと思います。そう言えば、この監督の出世作である「バック・ツー・ザ・フュチャー」も大好きな作品でした。(2016.2.17)

 

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583.(映画)木下恵介監督『喜びも悲しみも幾歳月』(1957年・松竹)

 燈台を守る夫婦を描いた名作として有名な作品ですが、先日初めて見ました。ポスターくらいしか見たことがなかったので、数年間くらいを描いているのかなと思いましたが、新婚時代から娘が結婚するまでの四半世紀ほどが描かれている大河ドラマでした。時代は昭和7年から昭和32年までなので戦争をはさんでの物語になっています。木下恵介という監督は、反戦思想も強い人ですが、その部分は抑え気味に描かれています。全国各地の燈台で実際にロケをしていること、佐田啓二と高嶺秀子が新婚夫婦から中年夫婦まで見事に演じていることが最大の魅力ですが、大きな流れに組み込まれた小さなひとつひとうの物語もきちんと描けていて見始めたら引き込まれます。見る価値のある日本映画の名作の1本と言ってよいと思います。(20116.2.15)

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582.(TVドラマ)木皿泉脚本・吉田照幸演出『富士ファミリー』(2016年・NHK)

 この年末・年始のテレビ番組で密かに一番楽しみにしていたのがこのドラマでした。薬師丸ひろ子と小泉今日子が「あまちゃん」以来の共演をするというところに引かれ、なおかつミムラが3女、小泉今日子の夫が吉岡秀隆という役者陣なら確実に面白いだろうと思っていましたが、予想以上に面白かったです。木皿泉という脚本家は面白いものを書くと定評があることも今回初めて知りましたが、納得です。今回のストーリーは、すでに死んでしまっている小泉今日子演じる次女が残した謎のメモに書かれた言葉が各人のキーワードになって話が進んでいきます。まあ推理物のような謎解きではありませんが、ちょっとした小道具としてうまく使われています。何よりもいいのが見ていてあたたかい気持になれるところです。ぜひ1年に1度でもいいから毎年やってほしいなと思いました。小泉今日子が死ぬ前のストーリーも見てみたいし、今回結婚を決めた薬師丸ひろ子と高橋克実の結婚式顛末記も見たいし、子どもが生まれることになった吉岡秀隆と仲里依紗の子育て奮闘記も見てみたいです。うまく行けば、『北の国から』のようなテレビドラマ史上に残る作品となる気がします。(2016.1.9)

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581.(映画)ダニー・ボイル監督『スラムドッグ$ミリオネア』(2008年・イギリス、アメリカ)

 アカデミー賞を取った作品ですが、インドの貧しい青年がクイズ・ミリオネアで大金を獲得する映画というだけのことしか知りませんでしたので、まあ借りてまで見なくていいかと思って今まで見ていませんでした。年末にテレビ放映していたので、それを録って見たわけですが、なるほどこういう映画だから評価が高かったのかと納得しました。クイズの正解ができたのはたまたま主人公の人生にかかわる出来事と重なっていたためということで、1問、1問クイズが進むたびに、時代が遡り、少年時代のスラムでの暮らしが描かれます。セットで作るにはあまりにも壮大な範囲をカバーしていたので、こういうスラム的な地域がインドにはまだまだ普通にあるのだろうなというのが、まず観客の関心をつかむところでしょう。そして、ストーリーもクイズの場面以上に、主人公の青年と彼の兄、そして初恋の女の子への思いというのが大きく描かれ、それがこの映画に深みを与えているのだと思います。よい作品だと思います。(2016.1.9)

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580.松本清張『半生の記』新潮文庫

 数少ない清張の自叙伝です。デビューは早い方ではなかったことは知っていましたが、40歳過ぎまで小説を書くこととはまったく無縁の生活、それもかなり苦しい生活を強いられていたことを知り、驚きました。ここでも生活に追われた暮らしをしながら、40歳過ぎてから小説家になり、その後、第1級の作家として作品を発表し続けた人は他にはいないのではないでしょうか。母親は字が読めず、父親は仕事に失敗したため、中学すら清張は行けていないのだそうです。晩年は昭和の知識人の1人と目される存在になった清張の前半生はこんな人生だったというのは、ちょっと信じられないほどです。いわゆるハングリー精神だけで、清張の後半生の大成功は簡単に説明はできないような気がします。

 ちなみに、この本を読んで知ったもうひとつの知識は、終戦間近の朝鮮半島南部(松本清張が配属されていた)は空襲もなくソ連の脅威もなく非常にのんびりした空気で、なおかつ終戦とともにすぐに内地に帰れたという非常に幸運な地域だったということを知り驚きました。まあでも考えてみれば、地理的位置を考えれば、そういう幸運な地域だったのだろうなということは納得がいきます。終戦前後のことを語ったものでもこのあたりの地域の物語がないのも当然なわけです。(2015.12.27)

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579.(映画)五社英雄監督『女殺油地獄』(1992年・松竹)

 原作は、近松門左衛門の人形浄瑠璃で、何度も映画化されているようですが、この五社版は物語も大分変えているそうです。もともとの物語では、主人公の与兵衛が入れあげる小菊は女郎で、殺される豊島屋の御寮・お吉は心の美しい女性で、加害者である与兵衛が一方的に悪いようですが、この映画では、小菊は油を扱う大店の一人娘で、お吉は許されない恋に燃え上る、子どもの時から可愛がっていた与兵衛を説得しようとしているうちに、小菊への対抗心からお吉自身が与兵衛を求めるようになり、関係を結んでしまいます。関係を結んだ後は、与兵衛の方が熱を上げ、それに困惑したお吉は与兵衛に無理矢理迫られたと嘘を言って逃げます。周りから諭され、お吉をあきらめて大阪を離れ江戸へ行こうと決めた与兵衛だったのですが、離れないでほしいというお吉の勝手な言い分に、ついに刃物でお吉を切りつけて殺してしまいます。ストーリーは以上ですが、五社英雄なので主役のお吉役・樋口可南子が艶っぽく、それだけでも観る甲斐があります。和服姿の女性の艶っぽさを描かせたら、五社英雄が一番だと思います。五社英雄はこの映画が公開されてすぐに亡くなってしまったので、これが遺作になったそうですが、もう少し撮ってほしかったなあと思います。(2015.12.27)

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578.(映画)市川昆監督『鍵』(1959年・日本)

 谷崎潤一郎原作小説の映画化ですが、私は原作を読んだことがなく、谷崎なので、中年男向け官能的な物語なのだろうという程度の知識で見始めました。確かにそういう内容と言えば、そういう内容ですが、修養登場人物はみなかなり複雑なパーソナリティでかなり引き込まれました。最後はどうなるのだろうと思っていたら、まったく予想外の結末で、「えっ!」と思いました。最後は推理小説だったと言われても納得いく感じでした。原作小説を読んでみたくなりました。映画としても、市川昆の作品なので、よくできていると思いました。なかなかおもしろかったです。(2012.12.26)

 

577.(映画)小栗康平監督『FOUJITA』(2015年・日仏合作)

 評価が大きく分かれる映画だと思います。小栗監督は徹底して説明を省いていますので、藤田嗣治について何も知らない人が見たら、意味不明なシーンが多すぎて寝てしまうのも仕方がないところでしょう。パリのシーンから日本のシーンに変わるところなど、場所だけでなく時代も10数年経っていますので、それを何の説明もなくつなげられては、ついていけないと思う人の方が普通でしょう。監督はわかる人にわかればいいと思って創ったとしか思えません。巨匠が歳を取ってくると、こういう芸術作品風になってしまうものなのかもしれません。でも、私はかなり面白かったです。一応藤田嗣治の生涯が頭に入っていましたのでついていけないことはなかったし、小栗康平は、こういう風に藤田嗣治を見ているのかと興味深かったです。ただ、これはひとつの藤田嗣治の見方にすぎないと思います。オダギリジョーが静かな雰囲気を漂わせているので、そういう人物に思えてしまいますが、私は、藤田が歩んだ人生を見る限り、もっとぎらぎらしたところのある人物ではないかと思っているのですが。(2015.12.3)

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576.(映画)吉田大八監督『桐島、部活やめるってよ』(2012年・日本)

 タイトルの奇抜さと、日本アカデミー賞で、新人賞かなんかを取っていたような記憶があったので、見てみました。ちょっと興味を引く出だし(同じシーンを別の人の視点から描く)だったので、期待してそのまま見続けましたが、最後まで見て、「はあ?」となってしまいました。ストーリーというものがこの映画には見当たらないのです。テーマは青春の不安定さのようなものなのでしょうが、ストーリーらしいストーリーがないために、見終わった後の消化不良感は半端ではありません。「桐島って誰なんだよ。なぜ部活をやめるんだよ」と問いたくなります。原作小説にはそこが書いてあったりするのかなと思って、買ってみようかと思い、AMAZONで調べたら、ユーザーレビューが、私が映画を観て感じたのとほとんど同じようなことが書いてあるので、これは原作からだめなんだろうと判断し、原作を読むのもやめることにしました。現役大学生作家が書ける事と言ったら、高校時代の話くらいなわけですが、それで賞をもらっても、後が厳しいでしょうね。(2015.12.1)

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575.(映画)三隅研次監督『大菩薩峠』(1960年・大映)

 何度も映画化された大衆小説の金字塔とも言われる中里介山の『大菩薩峠』の中でも、この市川雷蔵作品がもっとも有名だと思います。私もずっと以前から知っていましたが、きっと正義の剣豪・市川雷蔵が悪者をばったばったと切り倒す痛快時代劇なのだろうと思い込んで、特に見ようとも思っていませんでした。たまたまNHKBSで放送していたものを一応有名な作品だし録っておくだけ録っておくかという気分で録画していたものを昨日なんの気なしに見始めました。

 見始めてすぐに、「えっ、どういうストーリー?」と一気に引き込まれました。勝手に市川雷蔵演じる机竜之介は正義の剣術使いだろうと思っていたのですが、まったく違い、冒頭の大菩薩峠のシーンで、縁もゆかりもない誠実そうな巡礼の老人を斬り殺して立ち去っていくのです。思わず「今のは、市川雷蔵ではないのでは?」と思ったほどでした。でも、私が無知だっただけでした。この作品(原作小説)が、大衆小説の金字塔と言われるわけも見ている間にわかってきました。主人公が正義の味方ではなく、複雑な心理を抱えた剣術使いという設定がまず非常におもしろいです。単純な悪人というわけでもなく、その心理を読者は読み解きたくなる非常に複雑な人物設定です。この人物を、この映画の市川雷蔵は見事に演じています。

 他の登場人物も一筋縄では行かない人物ばかりで、竜之介の妻は、机竜之介に試合で敗れ死んだ男の内縁の妻で、竜之介に犯された後、惹かれて江戸までついて行ってしまい、子どもも作ります。しかし、この妻もそのまま竜之介を愛し続けるわけではなく、竜之介が仕官もせず道場も開かず目的もないように生きる竜之介に悪態をつき続けます。そして、ついには竜之介を殺そうとして逆に竜之介に切られて死んでしまいます。この映画では、この役を若き中村玉緒が演じているのですが、これがまたなかなかの演技力です。

 この複雑な人間心理に、幕末の新撰組がからんで、芹沢鴨、近藤勇、土方歳三なども出てきます。なるほど、これは現代でも読み応えのある面白い小説だと言われるのがわかってきて、早速小説の方も読み始めることにしました。映画としてもしっかり作られていてよい作品ですが、これは3部作になっていて、この1作だけだと、途中で終わる感じになってしまうのが残念です。2作目の「龍神の滝編」を録画しなかったのが悔やまれます。また、NHKBSが放送してくれるのを楽しみにしたいと思います。(2015.11.6)

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574.乃南アサ『ライン』講談社文庫

 もともと1990年に『パソコン通信殺人事件』として発表された作品で、1997年に文庫本にする際に大幅に改稿された作品だそうです。乃南アサの長編第2作目だそうで、まだ若かったのか、後の乃南作品に比べると、人物描写もストーリーもかなり甘い感じがします。ただ、おもしろいのは、扱っているのがコンピュータを通した匿名のつながり(チャット)なので、この頃はこんな感じだったのだなという視点で読むと興味深いです。1990年に出された作品を読んでいないので、ストーリーの環境が1990年なのか1997年なのかはっきりわからないところがあるのですが、エピローグが6年ほど経った時期になっていてインターネットという言葉が出てきますので、事件が起きた時は1990年のパソコン通信時代で、まだ本格的なインターネット時代にはなっていなかったと考えるのが妥当だろうと思います。小説自体としては高く評価は出来ませんが、時代を感じられるという点でのみ読む価値がありました。(2015.11.2)

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573.豊田穣『革命家 北一輝 「日本改造法案大綱」と昭和維新』講談社文庫

 この本も560頁に及ぶ力作です。二・二六事件で蜂起した将校たちに強い思想的影響力を持っていたことで、死刑となった北一輝の生涯を追った本ですが、北一輝のみについて書いているというより、昭和維新を唱えた若き軍関係者たちにも焦点を当て、なぜ「昭和維新」という名の下に、五・一五事件や二・二六事件が起きたかについて個々の人物に焦点を当てて克明に述べた本です。様々な人物が登場し、彼らがどういう性格で、どのような思想を持っていたか詳しく語られますが、私は社会学者なので、個別のある人物が存在したから、クーデターが起きたという見方よりも、こういう人物を生み出す社会の方により関心を持ちます。クーデターも一人ではできないわけで、共感する仲間がいるから起きます。彼らに「明治維新」に自らの行動をなぞらえさせ、「昭和維新」をなさねばならぬと思わせた社会がそこには存在したわけです。それは何かといえば、大きな貧富の差、特に大多数は貧困で、ほんの一握りの権力者・富裕層が存在し、彼らが国家を自分たちの都合のよいように動かしているというイメージの流布、いざとなれば対外的にではなく対内的にも使用できる武器をもつ軍隊の存在、陸軍士官学校や海兵隊の生徒・卒業生の中には貧困家庭出身者も少なくなかったこと、第1次世界大戦後の軍縮状況、欧米への脅威と対抗心、などがあげられるでしょう。こうした要因が入り混じって、「このままではいけない」という思いを、国を思う気持ちの強い若き将校たちが立ち上がったわけです。しかし、たとえ自らを犠牲にしてでもという純粋な気持であっても、こういう強すぎる思い込みは決して社会にとってプラスにはならないと私は思います。「維新」という言葉を使い叫びたがる精神には危さを感じます。

 北一輝という人物は、この本を読む限り熱く過激な言動を吐くというより、ある種の新興宗教の教祖的な雰囲気が漂っています。「日本改造法案大綱」という経典をもった「日本国家主義」を標榜する宗派とも位置付けられそうです。ちなみに、この本の著者が最後に、北が「日本改造法案大綱」で示した改革は、戦後、GHQによって、実質的にはかなりの部分が実現されたと指摘しているのは、なかなか興味深い見方だと思いました。(2015.10.25)

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572.伊藤之雄『伊藤博文 近代日本を創った男』講談社学術文庫

 516でも伊藤博文に関する伝記小説を紹介しましたが、こちらは文庫本で600頁を優に超える研究書です。しかし、読みにくい事はありません。この著者の本は、山県有朋について書かれたもの以来ですが、どちらも扱われている政治家の人となりが伝わってくる書き方をしており、おもしろみのない研究書という感じではないです。むしろ、この本をベースにして、大河ドラマを作れるのではないかと思うほどです。伊藤博文はまさに近代日本を創った大政治家ということがこの本を読むと実感できますし、ドラマにしても絶対面白くなると思いますが、晩年が日韓併合問題に触れざるをえなくなるのできっと作れないのでしょう。いずれにしろ、この本は伊藤博文について知るだけでなく、大日本帝国という近代国家がどのように確立されて行ったかを知ることのできる優れた歴史書です。(2015.10.9)

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571.小林多寿子『物語られる「人生」 自分史をかくということ』学陽書房

 最近私も「自分史」(私の場合は「自叙伝」の方がしっくりきますが)を書きはじめているので、他の人はどういう思いで自分史を書いているのかが知りたくて読んでみました。1997年に出版された本で、1980年代から90年代半ば頃までの「自分史ブーム」を主として対象としているために、戦争の経験談について書くということがひとつの大きな要素になっています。たぶん「自分史ブーム」というのは今も続いていると思いますが、最近出されるものは、戦争の思い出は少なくなっていると思います。特別な経験をしていない人でも、なぜ「自分史」を書くのかということに関しては、自分の生きてきた人生を整理し、子や孫に残したいという思いのようです。私も似たようなものです。しかし、こうした記憶や思い出というものを、どのようにデータとして客観的に使えるものにするかはかなり難しいなと思いました。私は自分史を書くことも読むことも好きですが、社会学的研究対象にはできそうもありません。(2015.10.4)

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570(映画)市川昆監督『どら平太』(2000年・日本)

 市川昆作品なので見たのですが、確かに映像は市川昆らしくそれなりですが、ストーリーは単純で、セリフ回しは妙に現代風で、時代劇としての重厚さに欠けるので、あまり高い評価はできません。そのうち見たことも忘れてしまいそうなので、ここに記録だけ残しておきます。主役は役所広司で、彼はもっと重厚な演技の時代劇もやっているので、この作品では監督がこういう風に演じさせたのでしょう。全体にコミカルでポップな感じのする時代劇になっています。あえて市川昆はそれを狙ったのでしょうが、どうなんでしょうね。好みもあるとは思いますが、私は時代劇は重厚な方がいいように思います。五社英雄監督の『闇の狩人』(1970年・日本)も最近見たのですが、こちらの方が時代劇としての面白さを感じさせてくれました。(2015.10.2)

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569.(映画)根岸吉太郎監督『ひとひらの雪』(1985年・東映)

 渡辺淳一原作小説だけあって艶っぽい大人の恋愛映画です。建築設計事務所を営む40歳代後半の建築家が主人公で、妻と別居し、秘書と愛人関係にあるのですが、そこに10年前に関係を持ったことのある教え子が人妻となって現れ、彼女とも深い仲になります。ストーリー自体はどうということもないのですが、映像が品のよいエロチシズムに満ちており、この頃は確かにこういうエロチシズムが求められていたなとなつかしく思い出しました。主人公役の津川雅彦と、30歳くらいの人妻として登場する秋吉久美子のセックスシーンを艶っぽく描くことが、この映画の最大の狙いであり、その意味ではこの映画は成功しているのではないかと思います。現代の若い人は、こういう30年前のエロチシズムをどう受け止めるのか、一度聞いてみたい気がします。(2015.9.27)

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568.後藤田正晴(御厨貴監修)『情と理 カミソリ後藤田回顧録()()』講談社文庫

 若い人は知らないでしょうが、2005年に91歳で亡くなった後藤田正晴という政治家がいました。彼は、戦前に内務省に入り、戦争にも行き、帰還後は警察畑を歩み、警察庁長官になり、その後官房副長官という官僚のトップに上り詰めた後、政界に転じ、1996年に引退するまで、中曽根内閣の官房長官をはじめ、幾度も大臣や自民党の要職を勤め、副題にあるように、「カミソリ後藤田」と称された実力派政治家でした。政治的立場は、自ら「中道リベラル」と称する自民党のハト派――安倍時代の今、絶滅危惧種になりかねていますが――で、憲法9条の改正は「まだ時期尚早だ」と言い続けていた人です。その後藤田正晴の人生を、インタビューで明らかにしていこうという本です。感想はいろいろあるのですが、もっとも強く印象に残ったのは、かつての官僚がどれだけ強い自負を持って、「俺たちが日本を動かしているのだ」と思っていたかがよくわかる点です。少し傲慢ではと思いたくなるほどの自信を、彼は持っています。官僚として勤め上げてから政治家に転身したので、彼が初めて国会に議席を持ったのは62歳でしたが、すぐに重用されて行き、年齢は若いが彼より当選回数の多い政治家から妬まれますが、自分は戦前からずっと政治の中枢に関わってきており、当選回数が少し多い位の若造政治家など相手にするのも馬鹿馬鹿しいという考えでいたようです。

彼が衆議院に初当選した――その前に田中角栄直属の金権候補と言われ参議院選挙を落ちた――時に私は大学生でしたので、政治家としての後藤田正晴に関してはずっと知っていましたが、官僚としての業績は単に警察庁長官を務めた男というくらいの印象で、あっという間に要職を務めていくので、何がそんなにすごいのだろうと思っていました。さすがに中曽根内閣の官房長官を務めていた頃には、相当にキレる政治家なのだろうという程度の認識になっていました。そして1990年代以降、政治家としての最後の方は、自民党の良心、ハト派、リベラルという印象で、どちらかというと好印象に変っていました。この本を読んで、好感度は少し下がった気がします。日本のキャリア官僚にありがちな、自分の判断はすべて正しかったという主張がなされ、謙虚さに欠けているという印象を持ったからです。しかし、昭和20年代から警察行政に関わり、警察側から見た左翼勢力についての捉え方が知れたという点では、この本はおもしろかったです。戦後一貫して、左翼暴力勢力を抑え込んできた、元警察庁長官が徹底した中道リベラルだったということの意味は、警察と軍隊の違いをしっかり考えさせるいいきっかけになるのではないでしょうか。ただし、インタビューによる回顧録というのは、第3者による客観的評価が入って来ないので、あくまでも本人がそう思っていただけということもありうるわけです。ヨイショをしない「後藤田正晴評伝」というような本をいつか読んでみて、それと比較してみたいと思います。(2015.9.26)

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567.(ミュージカル)『ライオン・キング』(劇団四季)

 ロングランを続けているミュージカルなので、今更という感じですが、観たのは初めてです。ストーリーも音楽も平凡で特に語ることはないのですが、装置(大道具、小道具も含めて)に感心しました。なるほどうまく作るなあと、そこにばかり注目していました。お気に入りは、ハイエナです。前足と頭を右手をうまく持ちかえて使っていて、工夫していました。でも、このミュージカルはそんなにロングランを続けるほどおもしろいのでしょうか。ロングランだということは、リピーターもいるってことですよね。少なくとも、私はリピートしたいなとはまったく思いませんでした。まあ家族で安心して観られるというあたりがいいのでしょうか。(2015.9.13)

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566.津本陽『宇喜多秀家 備前物語』文春文庫

 子どもの時に秀吉の養子となり、関ヶ原の戦いでは西軍の主力として戦い敗れた後、八丈島へ流され83歳の長寿を八丈島で送った人物が宇喜多秀家ですが、この本では後半の10分の1くらいしか宇喜多秀家については書かれていません。前半は、謀略によって備前・美作の支配者となった宇喜多直家が主人公で、後半は豊臣秀吉が主人公と言える小説です。ただし、備前物語と副題にあるように、備前の国には焦点が当たっており、通常の戦国ものとは違う視点で読めます。私は、秀家より直家に興味があったので、おもしろく読みました。津本陽という作家は、かなり詳しく歴史資料にあたっているようで、登場人物の数が非常に多いです。前半の直家が主役の話の時に出てくる人物の大多数を、私は知りませんでした。あくまでも小説なので、著者が想像豊かに書いているところも多いとは思いますが、なかなか勉強になる1冊でした。(2015.9.11)

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565.佐々淳行『焼け跡の青春・佐々淳行 ぼくの昭和20年代史』文春文庫

 この著者が東大安田講堂の攻防や浅間山荘事件で指揮を取った警察官僚としての経験を書いた本は何冊か読んでいましたが、自分史的な本は初めて読みました。昭和5年生まれの著者が中学生で終戦を迎え、高校生活、東大生時代を経て、警察庁に入庁するまでの10年間を描いています。前半は、著者自身が書いているように、父親である佐々弘雄へのオマージュになっていますが、それだけでなく西南戦争に参加し敗北し、その後熊本で成功した祖父・友房についても述べています。佐々家は名門だという意識が著者の中には強いようですが、それが彼のエネルギーにもなっているようです。後半は東大生時代の話が中心になりますが、これはこれでなかなか興味深いです。彼は昭和254月に入学し、旧制だったので1年留年して昭和293月に卒業します。この昭和20年代の東京大学のことは元全学連関係による左翼の立場から書いたものは多いのですが、そうした全学連の動きに抵抗した学生側からのものは少ないので、おもしろかったです。それぞれ自分の思い入れと主観的な認識の下に書いているとは思いますが、だからこそ異なる立場からの書かれたものを読むのが大切です。父親の弘雄は吉野作造の弟子で九州大学の教授を戦前に追われ朝日新聞論説委員を勤めるというどちらかと言えば進歩的な立場の人で、姉は、市川房江の後継者である紀平悌子であるにもかかわらず、彼が警察庁を目指すのも決して不思議ではないなと思えます。戦後の青春生活、人生選択を知れる悪くない本です。(2015.9.10)

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564.(映画)御法川修監督『すーちゃん まいちゃん さわ子さん』(2012年・日本)

 知らない映画でしたが、NHKBSで放送していたので録画して見てみたのですが、ちょっと考えさせるいい映画でした。柴崎コウ、真木よう子、寺島しのぶという、それぞれピンで主役を張れる3人が悩める30歳代の独身女性を演じています。3人とも意志の強い感情を強く表すような役をすることが多いですが、この映画では自分の人生に悩み、生き方に自信を持てないという人物を演じています。30歳代の独身女性が観たら共感する部分が多いのではないかと思います。(2015.9.10)

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563(映画)市川昆監督『かあちゃん』(2001年・日活)

 市川昆監督の映像が好きなので、この映画も見てみました。山本周五郎の原作があるようですが、落語に出てくる長屋の雰囲気も強く出ています。最初引き込まれたのですが、最後まで見たら、あまりにもストーリーに山がなく、映画としては厳しいなあと思いました。「かあちゃん」役の岸恵子に頼ったような映画ですが、この役は品のありすぎる美人女優の岸恵子では本当は合っていないのではないかと思います。もっと長屋の太っ腹な「ザ・かあちゃん」という感じの女優さんがやるべきだったのではないかと思います。人情を描きたかったのでしょうから、それは描けているのだとは思いますが、市川昆作品としてはかなり物足りないものです。(2015.9.1)

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562.(映画)五社英雄監督『櫂』(1985年・東映)

 宮尾登美子原作・五社英雄監督の高知3部作(他に『鬼龍院花子の生涯』『陽暉楼』)と言われるものの1本です。若くして亡くなった夏目雅子の代表作として「なめたらあかんぜよ!」と啖呵をきるシーンがテレビで何度も放映される『鬼龍院花子の生涯』の方が有名ですが、映画としてはこちらのほうが上だという声が多いようです。私は特に評価を知らずになんとなく見始めたのですが、すぐに引き込まれました。原作と演出と役者の力がうまくかみ合った映画です。大正から昭和のはじめの高知を舞台に、芸妓等を斡旋することを生業とする男(緒方拳)とその妻(十朱幸代)を主人公にした映画です。緒方拳が実に魅力的です。次から次に美しい女性に手を出し、子を作っては妻に面倒を見させます。妻の十朱幸代はそんな夫に納得できず実家に帰ったりしてしまいますが、時代もあり、妻の方が「ふところが狭い」と非難されたりします。しかし、最終的には互いに惹かれあう不器用な夫婦の愛を描いた作品という印象を残します。緒方拳という役者さんは本当にモテただろうなと思います。こわもての顔を作った時の強さと、ふと笑顔になったときの無邪気さが一人の男の中に同居していたら、女性は惹かれるだろうと思います。この作品は、90年代にテレビドラマ化もされたことがあって、仲村トオルと松たか子で夫婦を演じたようですが、松たか子は十朱幸代を越えられていたかもしれませんが、仲村トオルでは緒方拳の足下にも及ばなかっただろうと思います。綺麗な若手女優たちが着物のまま緒方拳に抱かれるシーンがたくさん出てきますが、はだけた胸元、乱れる裾、手の動き、表情と、実に艶っぽいです。何でも画像で見えてしまう時代だからこそかもしれませんが、こういうものこそ、本当の色気、エロチシズムではないかと再確認できた気分です。(2015.8.26)

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561.(映画)黒澤明監督『八月の狂詩曲』(1991年・日本)

 名匠・黒澤明の遺作として有名な作品ですが、今ひとつの作品だと思います。黒澤明らしくないという声もありますが、私はもともと黒澤明の作品をどれもそこまで評価してもいないので、まあこんなものかなという感じで見ました。テーマは反原爆で、それを祖母と孫たち(途中で甥役で登場するリチャード・ギアもからみますが)との交流を通して描くというものですが、ストレートすぎてひねりが全くなく、物語に引き込まれません。子どもたちは、特にきっかけもなく、勝手に原爆についてまじめに考えるようになります。そんな唐突に展開するかというくらい違和感があります。子役の子たちもその親役の俳優たちも下手ではない俳優ばかりですが、この映画では取ってつけた様な演技をしていてとても下手に感じます。物語の展開、セリフなどが不自然だからでしょう。最後の雨の中のシーンが一番有名なのですが、この暴風雨もいかにも人工的に作りましたという感じが露骨に見えすぎますし、走っている人たちに全員コケそうな演技をさせたことのワンパターンぶりも評価できません。唯一魅力的だったのは、祖母役の村瀬幸子というベテラン女優さんです。この村瀬幸子という女優さんの醸しだす雰囲気でぎりぎり見られる作品になっているように思いました。黒澤明って、本当にそんなにすごい監督なのか、私にはよくわかりません。(2015.8.21)

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560.(映画)岡本喜八監督『肉弾』(1968年・日本)

 公開時から話題になった有名な映画ですが、初めて見ました。ネットでの評価は非常に高いのですが、私はあまり高く評価できません。1960年代後半から1970年代前半にかけていろいろ作られた実験的な映画の代表的な作品で、ストーリーは、はちゃめちゃです。テーマは一言で言えば「反戦」なのでしょうが、もう少し丁寧に語れば、「大日本帝国讃美の馬鹿馬鹿しさ」「軍隊の愚劣さ」「戦争の悲惨さ」ということになるでしょう。これを肉弾特攻をしなければならなくなった若者の心理を通して描こうというものです。私には、テーマが単純すぎて深みがない映画としか思えませんでした。小ネタのような笑いを取るところはいろいろありますが、それもそれほどおもしろいとは言えません。現代では、この映画を見て、戦争について本気で考えることのできる人はいないのではないかと思います。映画が公開された1968年は大学紛争が佳境に入っていく頃で、大上段に振りかぶって刃を突きつけたがる若者がたくさんいたので、こういうナンセンスタッチな映画で反戦を訴えることもできるという意図だったのかもしれません。作られた時代を意識しないと正当に評価しにくい映画です。(2015.8.19)

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559.難波功士『「就活」の社会史――大学は出たけれど……』祥伝社

 自分の大学4年の時の求人メモを見つけたことから、この本を読んでみようと思いました。ほぼ100年に渡る大学生の就職に関して調べたもので、なかなか興味深かったです。時々余談のようなどうでもよい情報も出てきますが、基本的にはこの100年の就活事情がわかります。細かい内容は紹介しきれないので、自分で読んでもらうことにして、通して嫌でも思うことは、大学生の就職はその時々の経済状況に大きく影響されるなということです。誰もが知っていることですが、決して最近だけのことではなく、この100年ずっとそんな歴史だったということ、わずかな年齢差でもまったく異なる経験をしているということに改めて気づかされます。毎年の大学生の能力の分布はそうは変らないのに、その時々の経済事情で、かなり優秀な人でも良い企業に就職できなかったり、逆にそれほどの能力もなかったのに、良い企業に就職できたりしてきたわけですが、その後の社会人生活の中で、その差が大きく出たりはしないのかなというのが気になりました。景気が悪い時に入社できた優秀な後輩が、景気が良い時に就職した平凡な先輩たちを抜いて出世していくというようなことは企業で起きているのでしょうか。あまりそういう話を聞かないので、意外に入社してしまったら、その後の経験の方が大事で、大学時代までにつちかった能力差はそれほど出ないものなのかもしれません。(2015.8.18)

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558.火坂雅志『黒衣の宰相』文春文庫

 文庫本で750頁を超える大著ですが、なかなかおもしろく、長いなあと思わずに読むことができました。江戸初期に徳川家康・秀忠の2代の将軍に重用された金地院崇伝の人生を描いた大河小説です。金地院崇伝と言っても知らない人の方が多いでしょうが、家康が豊臣氏を潰すために、方広寺の鐘に書かれていた「国家安康」「君臣豊楽」の文字を、家康を呪詛し豊臣の繁栄を願う言葉だと難癖をつけるというアイデアを出し、大坂冬の陣につなげた禅僧と言えば、歴史好きの人なら「ああ、そういう人がいたなあ」と思ってもらえるかもしれません。徳川家康には、もう一人、天海という僧が政治的ブレーンとしています。日光東照宮や上野寛永寺を造った事や、明智光秀が生き延びてこの僧になったのではないかというエピソードもあり、こちらの方が有名だと思いますが、個人的には、金地院崇伝の方が情報が少なかった分、興味を持っていました。

 この本では崇伝が残した日記と史実をベースにしつつも、作者の想像力で様々な場面を作り出し、歴史小説(ノンフィクションの要素が濃い)と時代小説(フィクションの要素が濃い)の中間あたりの魅力的な物語を作りだしています。崇伝は若き日から優秀で30歳代にして禅宗の最高峰とも言える南禅寺の住持になり、その博識故に、時の権力者から重用されるわけですが、この本はまずは、そういう出世物語として興味深く読めます。この作家がうまいのは、上記に紹介した天海だけでなく、もう一人の江戸初期の有名僧である沢庵もライバルとして登場させ、僧侶同士の対比を2組も作りだしていることです。天海との間での争いは、同じ政治的ブレーンとしての権力闘争ですが、沢庵とは仏教に生きる者としての生き方の違いと言う形で対比させます。この対比があることによって、崇伝という人物像がよりわかりやすく伝わってきます。崇伝は権力を自らの野心のために利用する悪僧として当時から民衆に人気がなかったようで悪しき呼び名がたくさん残っている一方で、沢庵の方は清貧な生き方をする僧として人気があったようです。たぶん今でもそういう人物がいたら、民衆は同じように評価するでしょう。しかし、著者は単純に崇伝を権力欲に取りつかれた悪辣な禅僧としてではなく、1人の人間として、どのような思いを持って、こうした行動をしてきたかということを、読者に納得させるように話を進めます。天海との対比においても、沢庵との対比においても、一方的に崇伝が悪かったとか、逆に正しかったと結論付けられないように書いていて、好感を持ちました。また、その他の登場人物もそれぞれ生きています。二桁を超える人物をそれぞれちゃんと個性を持たせて書けていることで、この小説は飽きさせないものになっているのだと思います。

 かなり渋い歴史上の人物ですので、この小説を読もうという若い人はあまりいないだろうと思いますが、頑張って読んだら、それなりにおもしろいですよ。(2015.8.15)

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557(映画)羽住英一郎監督『BRAVE HEARTS 海猿』(2012年・日本)

 結構「海猿」シリーズは好きなんですよね。毎回同じような単純なストーリーですが、泣けてしまいます。映画版はすべてテレビ放映の録画ですが、4作すべて見ています。どの作品がどんな展開だったか、細かいことは覚えていないのですが、なんか見てよかったなという記憶は残っています。人間が単純なんでしょうね() この4作目も、「こんなにたくさんの人がエキストラとして参加してすごいなあ」とか妙な関心を持ちつつも、いつものパターンだけど、盛り上がる主題歌を聞きながら、「よかった、よかった」と思ってしまいました。漫画版を読んだことがないのですが、映画とは全然違う話みたいですね。まあ私には、この単純な映画版の方が合っているのかもしれません。(2015.8.13)

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556(映画)吉田大八監督『パーマネント野ばら』(2010年・日本)

 ずいぶん前にテレビで放送していたのを録画していたのでなんとなく見てみようかなと思って見てみたのですが、予想外によかったです。終盤までは、高知の女たちのたくましさを描くゆるめの映画なんだろうなと思っていたのですが、違いました。管野美穂と江口洋介の関係がなんだか奇妙だなあ、なんで二人はすっと結びつかないのだろうと思っていたのですが、最終盤に来て、ああそういうことかと、まるで推理小説のどんでん返しのような意外な展開に驚きました。まあでも旅館での出来事まではまったく違和感を持たせないように話が進んでいるので、どうせなら、もう少し伏線を出しておいてくれると、もっとよい映画になったのではないかと思います。あまりストーリーを伝えすぎると、ネタばれになってしまうので、このくらいにしておきますが、期待しないで見た割にはよい映画でした。(2015.8.12)

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555.さだまさし『アントキノイノチ』幻冬舎文庫

 これはいい小説です。泣けて、そして最後は頑張ろうという気になれる作品です。さだまさし氏もプロの小説家になってきたなあと感心しました。テーマは「命」です。遺品整理業という仕事で扱う「命」と、主人公とヒロインが高校時代に経験した「命」。その二つの場面での「命」が見事に融合してラストにつながって行きます。遺品整理業の方は、現実にある会社を取材して、たぶん現場にも同行したのだろうと思います。想像だけでは書けない世界がしっかり描かれています。シンガーソングライターとしての余技ではできない取材だったろうと思います。取材の要らないような小説を書く作家が多い中で、この難しいテーマをしっかり取材して書けたさだまさしは堂々たるプロの小説家と評価すべきです。高校時代の場面はそれに比べると、やや粗く、想像力のみで書いただろうと思いますが、この小説においては副次的場面なので致命傷にはなっていないと思います。むしろ、シンプルですが、きちんと2つの場面もつなげていくことができているので、この高校時代のシーンも生きていると思います。ものすごく重いテーマになりがちな「命」の問題を、そこまで深刻な気分にさせずに読ませ、なおかつ「あの時の命」を「アントキノイノチ」とし、「元気ですかあ!」とつなげて行き、この言葉が最後に余韻のように残る様に書けたのは、見事なテクニックです。

映画版は評判が悪いようですし、配役もイメージが合わないし、ポスターにもなっている抱き合う若い2人の海辺のシーン(原作にない)も見たくない気がしますので、映画版は見ないでおきたいと思います。すでに映画を見てしまっている人は、そのイメージが消えないでしょうから、素直に読めないかもしれませんが、映画を見ていない人は、ぜひ映画を見ずにこの本を読むことをお勧めします。(2015.8.12)

【追記:2015.8.23BSで映画が放映されていたので、見てしまいました。ひどい。あまりにもひどいです、映画版は。絶対見ない方がいいです。原作のストーリーがめちゃくちゃに変更されています。この監督は何を考えていたのかと問いたいです。さだまさしは、原作者として苦情申し立てをしてもよいのではないかと思いました。

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554.高樹のぶ子『氷炎』講談社文庫

 40歳代の不倫の恋を扱った作品です。若き日に恋人同士だった2人が20年経って再会し家族を巻き込み破綻させながらも惹かれあっていくというストーリーです。なんか『失楽園』に似ているなと思いましたが、この作品の方が先に出版されていますので、むしろ渡辺淳一がテーマを借りたのかもしれません。この作品が『マダム』という雑誌に連載されていたのが、19918月〜19933月で、『失楽園』は1995年から1996年にかけて『日本経済新聞』に連載されていました。バブルの余韻が色濃く残った時期で、1980年代のテレビドラマ「金曜日の妻たちへ」以来の不倫ブームがまだ継続していた時期なのかもしれません。今も不倫はたくさん行われているでしょうが、もはやブームでもないし、ロマンテッィクな小説のテーマにもなりにくいのでしょう。1990年代前半に40歳代と言えば、ちょうど団塊世代です。「金妻」は少し若い30歳代の夫婦でしたから、これも団塊世代がモデルでしょう。「不倫」をロマンテッィクなブームとしたのも団塊世代の層の厚みゆえと言えるのではないでしょうか。この世代はその層の厚み故に、各年齢を通り過ぎるたびに、ある種の流行や社会現象を引き起こしてきました。少年期には週刊マンガ雑誌が生れ、青年期には大学紛争、中年期には不倫ブームというように。そして今、この世代は60歳代後半に入りました。最近の男性週刊誌で、そういう年齢向けの性的な記事が多いのも当然と言えるでしょう。小説も、これからはこういう世代が中心になった恋愛ものなどが増えてくることでしょう。

 小説自体の紹介をほとんどしていないですね。不倫をする2人はともに大学の理系の教師という設定です。それぞれに大学生の娘がいて、その娘同士が親しくなり一緒に乗っていた車が事故に巻き込まれてしまい、それをきっかけに抑制していた思いが抑えられなくなってしまい、家族は崩壊に向かい、2人は?といったストーリーです。上手な作家なので山の作り方がうまく一気に読めます。女性作家なので、女性側の心理が『失楽園』よりよく描けていると思います。それぞれが連載していたメディアの読者が中年女性と中年男性という大きな違いがあるので、女性視点の「不倫小説」と男性視点の「不倫小説」と読み比べるのもおもしろいと思います。(2015.8.11)

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553.(映画)佐々部清監督『半落ち』(2003年・日本)

 この映画は、封切り公開されていた時に見たし、その後横山秀夫の原作も読んだはずなのですが、内容をかなり忘れていて、今回久しぶりに見て、なかなか悪くない作品だなと改めて思いました。記憶では78年前の映画のように思っていましたが、もう12年も前の映画でした。時間が経つのは早いものです。演技派俳優が勢揃いという感じでした。細かいことを言うと、そこでそんな行動をその立場の人間は絶対にしないだろうとツッコミを入れたくなる場面も少なくないですが、ヒューマニティ溢れる映画にするためには、リアリティは多少犠牲にしたということだと思います。映画より原作小説の方が魅力的だったように思いますが、主役の寺尾聡の微妙な表情のみで演じる力には感心します。現代の名優と言える人でしょう。(2015.8.11)

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552.羽田圭介「スクラップ・アンド・ビルド」(『文芸春秋』20159月号)

 「火花」が読みたくて買った『文芸春秋』ですが、「火花」と同時に芥川賞を受賞しつつも、又吉ばかりにスポットライトが当たりかなり損な役回りをさせられることになった「スクラップ・アンド・ビルド」の方も読んでみました。介護やフリーター、世代間の経験のずれなどをテーマにしており、個人的には「火花」よりこちらの方が興味深く読めました。この著者は、受賞者インタビューを読むと、比較的に社会学問題をテーマにするのが好きなようです。インタビューで、あなたの小説は社会問題と切り離すことはできない存在かと問われた時に、この著者は以下のように答えています。

「そういった面はありますね。ただ、単に社会的な問題を外から素材として持ってきてテーマに選び、小説として消化しきれない結果にだけはならないように注意しています。男性作家って、結構やりがちなんですよ() それなら、社会学者の方が新書でしっかり論じればいいと僕は思ってしまうんです。」

 なかなか興味深い発言です。私も常日頃、文学と社会学は同じテーマを扱うことができると考えています。ただし、その手法には違いがあるわけです。たぶん、ここでこの著者が小説と社会学者の新書の違いとして考えている事と近いだろうと思います(「社会学を考える」「第31章 文学と社会学(2012.1.24)参照)。大衆への影響力は文学の方が大きいと思っています。そう思うのは、文学の方が物語の魅力という外観を装うことができるからです。なので、私が一目置く社会問題を扱う小説とは、物語がしっかりした魅力をもっている必要があります。

 その観点から、この小説を評価した場合、やや弱いなあというのが正直な読後感です。この小説を読んで心に何かを訴えかけられたと思う読者は少ないだろうと思います。ストーリーというほどのストーリーがないこと、途中の気になるシーン(主人公が急に肉体造りに励み始めること、介護を受けている祖父がピザを食べたいがために機敏に動いていたかもしれないこと、恋人との別れ、三番目への叔父へのスフの思い、等々)が、なんの処理もされずに物語が終わってしまうので、隔靴掻痒感が残ります。まあ推理小説ではなく純文学系の小説なので、こういう処理がされないままで終る方がいいという考え方もあるのかもしれませんが、こういう方針を続けていたら、この作家は大衆人気は得られないでしょう。力はありそうな人で、あと数十枚書いたら、上記の気になるシーンについても処理できそうな気がした分、もったいないような気もしました。この作家は、純文学志向を捨てて、社会問題をテーマにした中間小説を書いたら、人気作家になれるのではないかという気がします。(2015.8.10)

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551.又吉直樹「火花」(『文芸春秋』20159月号)

 芥川賞を取った話題の作品が今月号の『文芸春秋』に全文掲載されていたので、買ってきて読んでみました。この作品が芥川賞に値するのかどうかは、もともと芥川賞をあまり評価していない私には判断が着きかねますが、漫才という素材を通して、才能と人気の狭間で真剣に葛藤する男の物語としては、それなりによく書けていると思います。才能はあるが売れない神谷という先輩と、彼の笑いを評価しつつも生き方を全面肯定はできない後輩・徳永の熱い思いが交錯する小説です。読みながら、昔芥川賞を取った『赤ずきんちゃん、気をつけて』という青春小説を思い出しました。まったく設定は違いますが、時代の空気を背景に青春の悩みを描くという点では共通性があるように思います。そう言えば、同じく芥川賞を取った綿谷りさの『蹴りたい背中』なんかも同じテーマかもしれません。新人に与える賞なので、どうしても青春小説的なものは多くなるのでしょうね。(2015.8.8)

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550.東野圭吾『流星の絆』講談社文庫

 数年前にテレビドラマ化された作品ですが、ドラマをまったく見ていなかったので、白紙の状態で読むことができました。やはり、プロの作家はうまいです。一気に読ませます。しかし、読み終って冷静に振り返ると、その真犯人はちょっと無理があるなあという気がしました。疑わしい人は犯人ではないというのは推理小説の鉄則ですから、誰か別に真犯人が出てくるわけですが、この真犯人がわかった時に、「なるほど!そう来たか」と思えるのか、「それはないんじゃないの?」と思えるのかで読後感はまったく異なります。東野圭吾なので、「なるほど!」と思わせてくれるのではと期待していましたが、どちらかと言うと、「それはないんじゃないの?」に近かったです。まあでも読み甲斐はある小説の方でしょう。ちなみに、小説を読み終った後に、テレビドラマでどういう俳優がどの役をやったのだろうと調べてみましたが、まったく小説のイメージとは合わない人たちばかりで、ドラマを見ていなくてよかったと思いました。(2015.8.8)

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549.永井するみ『隣人』双葉文庫

 この作家の作品も初めてです。軽い謎を含んだミステリー小説仕立ての短編集です。小説推理新人賞を取った作品を含むということで読んでみましたが、「可もなく不可もなく」という短編集でした。下手ではないけれど上手くもない、時間の無駄とまでは思わないけれど読んで良かったなあという感覚も湧かない、この小説が書かなければならない作家の強い思いは感じられない、謎解きも目からうろこが落ちるようなといった意外さもない、そんな感じでした。小説家になりたかった作家が小説作法を身につけて、身の丈の発想で書ける物語を書いたというところでしょう。無難すぎて新鮮さがまったくなかったです。(2015.8.8)

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548.浦賀和宏『彼女は存在しない』幻冬舎文庫

 この作家の小説を読むのは2冊目で1冊目の印象はあまりよくなかったのですが、この小説はなかなかおもしろいです。読み終った時に、確認のため、もう一度読み返したくなります。テーマは多重人格で、それを仕掛けにしたトリック小説です。基本的に、トリックばかりに情熱を傾ける小説はあまり好きではないのですが、それでもトリックがうまくできていて最後に納得させてくれるなら娯楽小説として評価します。この作品はその意味で合格点です。途中からトリックを暴いてやろうと頭を働かせながら読んでいましたが、読み切れませんでしたし、最後になるほどそういう風に騙してくれたかとちょっと感心しました。この作品をこの作家は22歳の時に出版しているようなので、さらに驚きました。でも、こういうトリック小説は、社会問題について書くわけではないですし、様々な年齢層の人物を書き分ける必要もないので、パズルなどを解くのが得意な若い頭脳の方が合っているのかもしれません。乾くるみの『イニシエーション・ラブ』にはまったという人なら、この作品もお勧めです。まあ10年も前にすでに文庫化されていますので、読んでいる若い方も多いかもしれませんね。(2015.8.6)

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547.早見和真『ぼくたちの家族』幻冬舎文庫

 この作家も知らない作家でした。「家族の存在意義を問う傑作長編」の謳い文句に惹かれ読んでみました。冒頭から読者を物語に引き込み、前半は重いけれど先を読みたくなる展開でしたが、後半の途中からトーンが変り、最後はあまりにも無難な着地にやや肩透かしを感じてしまいました。1章の母親が壊れていくところが素晴らしかったために、尻すぼみと感じてしまったのだと思います。悪い小説ではないし、後味も悪くはないのですが、小説としては何かもっと違う結末の作り方があったのではないかと思います。たぶん、著者自身がいい人なのでしょう。昨年映画化されているようですので、いつかチャンスがあったら、映画は見てみたいなと思います。映画なら、この結末のままがいいだろうと思います。(2015.8.4)

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546.中山可穂『感情教育』講談社文庫

 まったく知らない作家でしたが、ブックオフの108円コーナーでぱらぱら見ていて、「傑作長編」と書いてあり、まあ読めそうかなと思ったので、買って読んでみました。女性主人公2人のレズビアン小説です。あとがきを読むと、著者自身の体験が相当に色濃く反映しているようです。男性との性交渉も含めてベッドシーンが非常に多い小説ですが、ジャンルとしては純文学に近いのかもしれません。総括的な感想としては、あまりうまい作家ではないと思いました。時々取ってつけた様な比喩を使って文学っぽくしようとしていますが、生硬な表現で下手だなあと思ってしまいました。また、2人の女性主人公の母親の名前が一緒にしてあり、もしかしたら2人は同じ母親から生まれた姉妹ではないかということを想像させるのですが、それについては何の白黒もつけずに、突然物語は終ります。まったく納得が行きませんでした。山本周五郎賞なども取っているようですが、たぶんこの作家の作品はもう読まないだろうと思います。(2015.8.4)

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545.坂口弘『あさま山荘1972()()』彩流社

連合赤軍のNo.3で、あさま山荘に立て籠もった5人の中ではリーダー格で、死刑判決の出ている著者が、あさま山荘に至る自分の人生を書いたものです。途中までは、こういう風に普通の人間がこの時代の中でやるべき使命を考え、結果としてこういう悲惨なことを生み出してしまったことを正直に書いているかなと思いながら読んでいたのですが、途中から自己反省より自己弁護が強く出てきて、読みながら不快になってきました。様々な残虐な事件に関わりながら、実は心ではおかしいと思っていたというようなことを書き、獄中自殺した森恒夫がすべて悪いのだとも読めるような叙述になっており、これはずるい男の文章だとしか思えなくなってきました。原稿が紛失したとのことで、リンチ事件のことが途中で終ってしまっていて、納得のいかない気持がさらに強くなりました。

 この本から一般論として学ぶことがあるとすれば、目的達成のために手段は選ばないという生き方は絶対に認められるべきではないということです。しかし、連合赤軍だけでなく、幕末の攘夷派の志士たちも、昭和維新を唱えた226事件の少壮将校たちも、同じようなことをやっています。徳川幕府が倒れ、薩長を中心とした政権ができたために、幕末の過激な志士たちはその後英雄のように扱われたりもしていますが、基本的には彼らのやり方も認めるべきではないと思います。幕末の過激な攘夷派志士たちが登場しなくても、近世的な武士政権は終り、明治という近代は始まっただろうと思います。過激な少数派が事態を変えるなどという見方は、私は認めません。(2015.8.2)

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544.(映画)勅使河原宏監督『利休』(1989年・日本)

 名作と評判の高かった作品ですが、初めて見ました。華道家でもある映画監督が茶道家を主人公に描き、俳優は映画界と歌舞伎界の錚々たるメンバーが出演しており、まさに日本の文化の神髄を映画という手法によって伝えようとした作品ですが、その狙いはかなり成功していると思いました。最近だと、蜷川幸雄が芸術的な作品を作る監督・演出家と国際的に評価されているようですが、彼の芸術は何をベースにしているのか、私にはよくわからず好きではありません。他方、この勅使河原作品は、間違いなく、日本の文化をベースにしているのがわかり、これなら海外でも確実に高く評価されるだろうと思いました。茶道、華道、歌舞伎的所作と隅々まで日本の美を活かそうという、監督の思いが伝わってきます。ただし、それだけでは映画としては不十分ですが、原作が野上弥生子の『秀吉と利休』というしっかりした歴史小説なので、ストーリーも評価できます。特に、利休役の三国連太郎と秀吉役の山崎努との2人芝居の場面が多いのですが、名優同士なので、魅せてくれます。特に、山崎勉は秀吉の感情の起伏を見事に表わしていて、秀吉とは本当にこんな人間だったのではないかと思わせるほどです。利休という人物に関しても、「わび・さび」を極めようとする姿と秀吉の政治顧問だったり、堺の商人だったりする世俗性の同居がずっと納得が行かない気がしていたのですが、この映画を見て、さらに利休について調べることで、少し納得できた気がします。ただし、千家が日本の茶道会で特別な位置を持つのは、たぶん千利休が秀吉によって切腹させられたからなのだろうという認識は変っていませんが。「死して名を残す」パターンのような気がします。「わび・さび」も、黄金好きの秀吉時代だからこそ、そのネガとして評価された部分もあるのではないかと思います。安土・桃山時代に入る以前の室町・戦国時代なら、「わび・さび」なども輝きにくいだろうと思います。豊かさのネガとして輝くのが「わび・さび」なのではないかと思います。(2015.7.29)

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543.吉田修一『東京湾景』新潮文庫

 テーマは恋愛です。この作家はプロの書き手なので、どんなテーマでもプロとしてそれなりに読ませる作品を書きます。この作品も読みやすく、最後はどうなるのかなと気になり、一気に読んでしまいました。読み終ってみると、やはり月刊誌向けに書いた小説だったなという印象でしたが。どういう点でそう思うかというと、大きな構想の基に一気に書いた作品というより、掲載する度にそれなりに読ませどころを作ってあり、短編集のような味わいだという点です。あと気になってしまったのが、リアリティのなさです。男性主人公が非常にモテるのですが、彼がなぜそんなにモテるのかが最後までよくわかりませんでした。とりあえず、著者は恋愛心理を描こうとしたのであって、恋愛自体のリアリティやストーリー展開で読ませようと狙った小説ではないのだろうと思います。映画化はしやすそうな物語だなと思いましたが、まだ映画化はされていないみたいですね。まあストーリーが今ひとつなので、当らないと判断されたのかもしれません。(2015.7.26)

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542.百田尚樹『モンスター』幻冬舎文庫

 最近は、作家としての評判より、過激な政治的発言で目立つことの多い百田尚樹ですが、久しぶりに読んでみました。この物語は、醜く生れついた主人公の女性が整形手術を重ねて別人になり、昔の知合いに再会し、復讐やかつて遂げられなかった思いを遂げるという話です。実際にまったくの別人と思われる程に整形ができるのかどうかわかりませんので、リアリティがあるのかどうかは判断がつかないのですが、ストーリーとしてはなかなか面白かったです。途中から結末はどうするのだろうと気になっていましたが、まあまあ無難な終わり方でした。登場人物は単純化され過ぎているきらいはありましたが、テーマとストーリーはまあまあです。外見の美しさというのは、整形でもありなのかもしれないという気に少しなりました。(2015.7.25)

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541.鈴木英生『新左翼とロスジェネ』集英社新書

 タイトルほどには、その関係性は語られていません。著者自身が1975年生まれと若いので、新左翼やそれを生み出した背景の理解が十分でなく、あまり説得力ある本になっていません。各時代の運動にからんだ小説から当時の空気を把握しようとしていますが、やはりそれだけでは難しいなという印象です。私も、ある程度小説からその時代の雰囲気をつかめるのではと思っていましたが、この本を読んで、やはりこのアプローチには限界があるなと思わされました。(2015.7.21)

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540.伴野準一『全学連と全共闘』平凡社新書

 1961年生まれのルポライターが、戦後すぐから1970年代初め頃までの学生運動の歴史を、20089年頃に関係者にインタビューを中心としてまとめあげたものです。思想史、運動史という以上に関わった人々の人間ドラマとして読める本でわりとおもしろい本だと思います。歴史はつながっているのだということを改めて感じます。最終章「21世紀のシュプレヒコール」では、200610年時点における、かつて学生運動に関わった人々の何人が今何を考え何をしようとしているかについて紹介しています。この最終章で登場してくる人たちは、ある意味でまだ運動的心性を持ち続けている人たちですが、もうそういう心性を捨て去ってしまった人もたくさんいるはずです。つい先日亡くなった著名な国際経済学者の青木昌彦氏などは、この本に何度も登場してくるくらい、若き日に学生運動に深く関わった人です。戦前と違って「転向」とははっきり言われない方向転換ですが、そういう方向転換をする人、戦術は変えても志向性は保ち続ける人、何が分けるのだろうかと考えたくなります。ちょうど今、一連の安保法制をめぐって全国各地でデモが行われていたりしますが、年配の方をそこに見かけることも多く、かつて60年代の学生運動に関与した人も多いのだろうなと思います。日本人が一番共感しやすい「戦争反対」をテーマに、岸信介の孫で岸を尊敬する安倍晋三が首相というのも、デモが盛り上がりやすいポイントになっているような気がします。過去を知る上でも、今を考える上でも参考になる本です。我々は過去から何を学ぶべきなのか考えながら読みたい本です。(2015.7.19)

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539.(映画)細田守監督『時をかける少女』(2006年・日本)

 細田守作品は、現在公開中の「バケモノの子」以外は、一応すべて見ています。「おおかみ子どもの雨と雪」を何年か前にテレビ放映された際に見て、今回「サマーウォーズ」と「時をかける少女」を見ました。どれもそれなりに見せてくれますが、まあまあという感じです。わざわざ映画館に足を運んでまで見たいとは思いません。にもかかわらず、ここに「時をかける少女」について触れておこうと思ったのは、かつて大林信彦が監督し、原田知世が主演した実写版も見たし、筒井康隆の原作小説も読んだことがあったので、なんかその時の記憶と、細田作品はずいぶん違う印象を受けたからです。主人公の女子高校生の印象がまったく違います。原田知世の方は、わりあいもの静かな女子学生という感じだったはずですし、そんなにしょうもないことのためにタイムリープしていなかったように思うのですが、細団アニメ版では無駄に元気で、無駄にタイムリープする女の子という感じでした。時代が違うので仕方がないのかなとも思いますが、私のような世代にとっては、やはり昔版の方が合っている気がします。まあでも、537で紹介した「卒業」と一緒で、今見たらきっとがっかりしそうなので、見直すことはしないでおきます。(2015.7.19)

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538.童門冬二『小説・田中久重』集英社文庫

 「からくり儀右衛門」とも呼ばれ、東芝の基礎を作った田中久重のことを知りたくて読みましたが、小説としてはひどい出来の作品です。この作家はもともとあまり文章がうまくないのですが、高齢になってきてからは、ストーリーを無視して自分の知識をひけらかすために作家自身が頻繁に出てくるのでうるさいです。司馬遼太郎ももともとそういう傾向があり、歳とともに出てくる回数が増えてきて、やはりうるさくなってきていましたが、わりと歴史作家に起きやすい傾向なのでしょう。まあそこは我慢するとしても、この本でわかるのは田中久重のおおまかな人生だけです。久留米の鼈甲細工の家に生まれ、久留米絣の発展に一役買い、その後からくり人形で有名になった後、様々な生活に関わる製品を発明した後、佐賀藩に招かれ、蒸気機関船などを作り、明治になってからは東京に出て、電信機器などを作っていき、1881年に83歳で亡くなりました。人間的にはどんな人だったのか、家族との関係はといったことはほとんどわかりません。作家もそうしたことを書きたいという意欲はあったようですが、資料はあまりなかったようです。(2015.7.17)

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537(映画)マイク・二コルズ監督『卒業』(1967年・アメリカ)

 大学生の時に見て感動したこの映画が先日BSで放送していたので、録画して40年ぶりくらいに見てみました。先に見終わっての感想を言ってしまうと、若い時に見て感動した映画はその後は見ずに思い出の中に置いておいた方がいいのかもしれないなあというものです。サイモンとガーファンクルの美しい音楽と、主人公のベン(ダスティン・ホフマン)が、結婚式場から花嫁エレーン(キャサリン・ロス)を奪い去ることで有名な映画ですが、今改めて見ると、ものすごく単純なストーリーで、今では絶対当らないだろうなと思いました。

主人公のベンは20歳で大学を首席で卒業(飛び級?)し、実家に戻って来たわけですが、これから何をすべきかが決められない状態で迷いの中にいます。ベンの歓迎パーティに、両親の友人であるミセス・ロビンソン(アン・バンクロフト)が出席しているのですが、なぜかベンを気に入り、自宅まで送らせそのままベンに迫ります。今でいうところの「美熟女」の色香に負け、ベンはロビンソン夫人と関係を持つようになります。そこに、夫人の娘であるエレーンが戻ってきて、何も知らないままベンとデートをし、互いに気持ちを通わせますが、夫人に邪魔をされ、あっという間にベンはエレーンに嫌われます。大学のあるバークレーに戻ったエレーンを忘れられないベンは、エレーンを追いかけてバークレーに行きます。ベンに会ったエレーンは最初は拒否しますが、なぜかまた惹かれていきます。しかし、そこにもエレーンの両親の邪魔が入り、引き裂かれ、エレーンは婚約していた医学生と結婚することになります。そして、最後の教会の場面となるわけです。

 あらすじを5行くらいで紹介しましたが、これでほぼすべてです。テーマは恋と性だけですし、それも深く追求しているわけではありません。ミセス・ロビンソンとベンの関係は、熟女とうぶなエリート青年が互いに肉体的快楽を求めての関係と考えればわからなくもないですが、エレーンがベンに惹かれるのが理解不能です。せいぜい昔からの幼馴染でエレーンはずっとベンのことを好きだったとでも解釈するしかなさそうです。しかし、母親と性的関係を持っていたことを知っても、まだ好きでいられるのだろうかとやはり首を傾げたくなります。まあ、深い心理を描こうとした映画ではなく、青春マンガのような展開を楽しめばいいのかもしれませんが、この歳になってみると、そうそう単純にストーリーを楽しめませんでした。これが、見ない方がよかったかもと思った理由です。若い人にも、あまりお勧めですとは言いにくいです。(2015.7.16)

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536.池波正太郎『剣客商売 1』新潮文庫

 時々、時代小説を読みたくなります。この小説は「THE 時代小説」という感じの物語です。非常に腕の立つ剣客である秋山小兵衛と大治郎の親子を中心とした物語です。16巻まであるので、この後どんな風に展開するのかわかりませんが、この第1巻では、父親である小兵衛の方が主役になっています。60歳の小男で40も歳の離れた百姓娘に溺れていながら、ここぞという時には、天才的な剣技を見せます。江戸時代を舞台にした探偵もの短編集という趣です。結構あっさり殺してしまったり、艶っぽい場面が多かったりするのは、ベテラン作家が書いた昭和40年代の時代小説らしいところです。また時々続巻を読んでみたいと思います。(2015.7.15)

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535.堀井憲一郎『若者殺しの時代』講談社現代新書

 昨日紹介した乃南アサの小説のあとがきが気にいったので、早速このコラムニストの本を読んでみました。本自体はもともと持っていたのですが、てっきり若者の労働問題の本だろうと思っていましたが、まったく違う本でした。自らの体験をベースに1980年代以降の若者をめぐる状況がどう変化してきたかを軽い文体で語った本です。若者におけるクリスマスの位置づけの変化など、大きな流れとしては間違っていないと思いますが、はったりをきかせるためにか、いろいろなところで「これはこの時期に始まった」と言い切ってしまうので、1980年代を知らない現代の大学生だとそのまま信じ込んでしまうのではないかという点が気になります。もしも読まれる人がいたら、コラムニストがかなり独断で判断しているところが多い本だいうことを理解しながら読んでください。そこに気をつけたら、時代の空気の変化は比較的うまく捉えている本だと思いますので、多少参考にはなるかもしれません。団塊世代を筆頭として、いつまでも自分が若者だと思い続ける世代が、現代の若者の居場所を奪っているというのはなかなか鋭くおもしろい指摘だと思いますが、だからといって若者は殺されてはいるとは思えません。タイトルは失敗していると思います。(2015.7.14)

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534.乃南アサ『すれ違う背中を』新潮文庫

 息抜きに何か読もうと思ったときには、結局乃南アサを選んでしまいます。はずれのない作家でさらりと読めてしまうので、息抜きにはぴったりです。特に、この作品は短編集なので、より読みやすいです。物語は、刑務所で知り合いになった2人の女性が、その過去を隠しながら普通に生活して行こうとする話です。こう聞くと、大きな事件にでも巻き込まれて、その前科がばれてしまうなんて展開を想像しそうですが、そうはなりません。周りで小さな事件は起こりますが、彼女たちの生活がそれによって壊されたりはせず、読み終わったときに、ちょっとほっとしている自分がいました。

 それにしても、どうしてこの作家は、様々な人の心理をまるで自分が体験したかのように見事に描けるのでしょうか。取材はしているのでしょうが、他人の経験にもとづく心理をこれほど自分のものにできるというのは、才能なんだろうなと感嘆します。人は誰でも1冊は素晴らしい小説が書けると言ったのは、私の高校3年の時の担任だった国語の先生の言葉ですが、何冊も、何十冊も、様々な立場の人を主人公にして変えるという人は、まさに作家なのでしょうね。

 ちなみに、この文庫版の小説の解説は非常におもしろいです。14頁にも及ぶ長い解説で、堀井憲一郎というコラムニストが書いていますが、乃南アサの小説が好きなんだろうなというのがよくわかりますし、軽快な文章で楽しく読めました。この人の本を読んでみようかなという気になりました。(2015.7.13)

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533.佐江衆一『わが屍は野に捨てよ 一遍遊行』新潮社

 踊念仏(時宗)を広めた一遍上人の生涯を描いた作品です。河野水軍で有名な河野氏の末裔に生まれ、若き日に出家した後、一度は還俗し妻を2人も娶り、それぞれに子をなした後、また出家し、遊行の旅を始め、15年旅を続け往生するという人生です。今、ゼミ生に将来浄土宗のお寺を継ぐという学生がおり、彼が宗教――特に仏教を中心に――をテーマに卒論を書こうとしていることもあって、「悟りを開くとは?」とか「南無阿弥陀仏と唱えるだけでなぜ極楽浄土に行けると思えるのか?」といった問いをしばしば考えていることもあって、この本にも興味を持ちました。

後に一遍と呼ばれる河野通尚と呼ばれる武士は、溢れんばかりのエネルギーの持ち主で、特に性欲は非常に強かった人物として、この作品では描かれています。欲を捨てなければ悟りも開けないので欲を捨てようとしますが、どれほど自らに厳しい修行を課しても欲が消えきることはなく、煩悶し続けます。読みながら、この強烈な欲望をどうやって捨て切れたのだろうかということが知りたくて読み進んでいたのですが、結局この著者は捨てきるのではなく、欲を自然なものと受け止めるようになったという描き方をしています。しかし他方では、様々な欲を持ち続けていたように思えるように書いてもいます。こういう小説を書くにあたっては、作家自身も相当仏教を勉強したのだと思いますが、この小説がこのように描かれたということは、作家自身が人は欲望から解放されることはないのではないかと思っている気がします。

一遍自身の生き方も、一度でも「南無阿弥陀仏」を唱えたら極楽浄土に行けるのだと主張する「他力本願」の主張にもかかわらず、その旅はまるでどこまで自分を追い詰めることができるかチャレンジしている修行の旅のようで「自力本願」の宗派のようです。時宗が踊念仏として多少歴史的に名を残しているのは、この本を読む限り、結局、元寇時代の民衆の不安な気分を、踊るというパフォーマンスで一時的に忘れさせてくれたからなのではないかと思いました。

この本を読みながら、改めて思ったことは、欲望は行動のエネルギー源であり、捨て去る必要はないということです。社会との折り合いをつけられる欲望は肯定して生きた方がいいということです。これは、60年生きてきた私の小さな「悟り」なのかもしれません。(2015.7.11)

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532.石黒耀『死都日本』講談社文庫

 壮大な構想に基づく小説です。日本列島がいくつものプレートのぶつかりあう地形の上に存在している事は誰でも知っていますが、それゆえに火山列島になっており、いつの日か「破局的噴火」を引き起こす可能性は実際にあるわけです。著者は、火山についてかなり研究をしたうえでこの作品を書いたのだと思います。単なる空想小説と言うより、いつの日か本当に生じる未来シミュレーション小説という趣です。この物語で破局的噴火が起きるのは、南九州の加久藤火山です。加久藤火山と言われてもどこだかわからないでしょうが、霧島火山をその一部として含む大火山です。30万年前に大噴火を起したことがわかっています。霧島火山は、その加久藤火山の爆発によってできた大カルデラ(東西約15km、南北5km)の南の外輪山の一部です。30万年前に起きた破局的噴火がいつの日かまた起きるのは必然のようです。その破局的噴火が起きたらどうなるかという物語です。小説としての出来に関してはやや不満も残るのですが、日本という国土がどれほど危ない地形の上に成立していて、いつの日かを考えさせてくれるという意味では非常に優れた本です。しかし、日本がこんな危険を抱えた国だとわかっても対策の打ちようはないんだろうなと半分あきらめの気持にもなってしまいました。自分や子どもたちが生きている時代に、こういう事態が生じないことを祈るだけです。(2015.7.10)

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531.(映画)是枝裕和監督『海街diary』(2015年・日本)

 ちょっとだけ時間があったので、「そうだ、シニア割引で映画を見よう」と思い、この映画を見てきました。ちなみに、初めてシニア割引で見るので、年齢チェックとかあるのかなと思ったのですが、何もなくすっと入れてしまいました。歳相応にみえるということでしょうか() さて、平日の午後ということもあって映画館はがらがらでした。がらがらということはおもしろくないのだろうと覚悟していましたが、その割には見られました。吉田秋生というベテラン漫画家――私と同学年で名作をいくつも書いています――が原作マンガを描いているので、心理描写はなかなか優れています。どこまでが是枝監督の脚本で、どこが原作なのだろうと気になって、映画を見終わった後、マンガ単行本の1巻を買って読んでみました。

ストーリーはかなり原作に忠実で、心理面も原作に描かれていることを実写化しているようでした。ただし、マンガのキャラクターと女優陣のキャラクターは必ずしも合致しません。長女は綾瀬はるかが演じていますが、マンガの方の長女はもっときつくてしっかりしている感じです。綾瀬はるかもいつもよりはしっかり者を演じていますが、どうしても日頃の天然ボケの綾瀬はるかのイメージが消えないので、マンガよりは優しげで少し頼りない感じがあります。次女は長澤まさみが演じていますが、マンガより格好よいイメージを与えます。三女の夏帆はマンガの方はひょうきんで元気なキャラクターですが、映画では夏帆の雰囲気で不思議ちゃんっぽくなっています。4女の広瀬すずはまだ役者としての色がついていないので、一番マンガのキャラクターを再現できているように思いました。マンガの実写化は著名俳優を使うと、その俳優のイメージに引っ張られるので、なかなか難しいものです。まあでも、それなりの雰囲気は出ていたので、まあまあでした。(2015.7.4)

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530.朧谷寿『藤原氏千年』講談社現代新書

 平安京について読んでいたら藤原氏の歴史が知りたくなり、この本を見つけて読んでみました。鎌足から現代までの藤原氏の歴史をさらりと書いています。千年以上の歴史を薄い新書にまとめるのはかなりの無理があり、またこういう観点で研究している歴史家はいないでしょうから、こうなるのも仕方がないと思いますが、かなり物足りない内容でした。せめて、藤原氏――特に北家――だけが名門として生き残れたのかという謎が解ければと思いましたが、もうひとつよくわかりませんでした。しいて言えば、天皇家との二人三脚なのかなということでしょうか。天皇家に寄り添い、そのパートナーとして、藤原氏――五摂家を中心とした公家――は生き延びてきたということなのかもしれません。(2015.7.4)

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529.乃南アサ『地のはてから()()』講談社文庫

 525で紹介した『ニサッタ、ニサッタ』で静かな存在感を見せていた祖母を主人公として描かれた大河小説です。福島から2歳の時に両親とともに知床の奥に開拓移民として入り、明治、大正、昭和を生きた一人の女性の半生を描いています。基本的に、時代の中で人がどう生きたかというストーリーは好きなので、この小説も好きなタイプの小説です。ただ、後半は少し時代の進み方が早すぎてストーリーに深みがなくなっています。前半の小樽時代あたりまでが素晴らしかった分、後半はかなり落ちる気がしました。まじめな作者なので、推理小説でも伏線をちゃんと処理するように、途中で重要な人物として登場させた人をいつのまにか出てこなくなるということはしないスタンスで物語を作っているので、結局多くの人が死ぬという形で、物語から退場してしまうのですが、途中から慣れてしまい、死んだという情報が出てきてもなんとも思わなくなってしまいました。しっかりした取材力、難しい方言での会話の駆使など、さすが乃南アサと思わせてくれるところは多いですが、個人的には『ニサッタ、ニサッタ』の方が評価できると思いました。やはり乃南アサと言えども、自分が体験していない時代を書くのは難しいということでしょう。(2015.6.26)

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528.北山茂夫『日本の歴史4 平安京』中公文庫

 中央公論社が出した『日本の歴史』シリーズは名作です。母親がこのシリーズの単行本が1970年代前半に出たときにすぐに購入したので、昔から私は歴史に関して何か調べたいことがあると、すぐにこのシリーズの本を手に取ってきたものです。今のように、ネット検索でなんでもすぐに調べられる時代ではなかったので、このシリーズ本は歴史辞書の代わりになり本当にありがたい存在でした。当時のもっとも優秀な歴史学者たちが一般書としても歴史書としても読める書き方をしてくれているので、読みやすく、ある時期までの私の歴史知識の少なくない部分がこの本から得たものでした。実家を離れてからもすぐに自分で文庫になっていたこのシリーズを買い、その後も機会あるたびに手に取ってきました。

 26冊もあるシリーズで、興味を持った時に興味を持ったところから読んできたのですが、たぶんこの「平安京」の巻はあまり手に取ったことがなかったように思います。道鏡を王座につけようとした称徳天皇の没後の8世紀後半からこの巻は始まり、長岡京、平安京と遷都が行われ、平将門と藤原住友の乱が済んだ後の平安時代前半の10世紀後半までの約200年間が扱われます。今ここに書いた歴史的事実は有名ですが、全体には知らないことが実に多かったです。平安初期は天皇親政が数代にわたって続いたこと、天皇の子どもたちが源姓を受け、臣下として藤原氏と拮抗するような地位にあったこと、天変地異の多い時代であったこと、地方に中央の意向がどんどん届かなくなっていったこと、などなど。「平安」時代とは皮肉かと思うほど、混乱の時代でした。戦いは、蝦夷や将門や純友の乱くらいで、血沸き肉躍る時代ではなく、かつてはあまり興味を持てなかった時代でしたが、今読むと非常におもしろく、この時代があったからこそ、次の武士の時代の登場も必然なのだということがよくわかります。大河ドラマなどでもめったに扱われない時代ですが、実に興味深い時代なんだということに気づかせてくれた本でした。(2015.6.21)

 

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527.(映画)三池崇史監督『13人の刺客』(2010年・日本)

 はじめの方は蝋燭の光のみで映像を撮ろうとしたり、宿場町を作ったり、役者も大物揃いで、これはなかなかの作品だなと思ったのですが、最後の40分ほどはひたすらチャンバラ劇で飽きてきました。こんな大がかりなことをしなくても、殿様1人くらいいくらでも殺害する方法はあるだろうに、マンガだなあと思いながら見ていました。稲垣吾郎の冷酷な殿様ぶりが一番印象に残った程度だなと思って見終わったのですが、最後の方で死んだはずの伊勢谷友介が生きていてどういうことだろうと思いながら、ネットで調べていたら、ある人が、あれは最後まで生き残った山田孝之が見ている亡霊という解釈ができるのだと、そして最後の場面で山田孝之の恋人だった吹石一恵が誰かを迎えるように家を出てくるのも、本当の再会ではなく、山田孝之の幻想かもしれないし、伊勢谷友介が最高の女だったと言う山の女も吹石一恵が演じているのも、そのあたりを監督が計算してやっているのだ、さらに私が飽きたと思った最後のチャンバラ場面が長すぎるのも、大義やメンツなどといったもののために命をかけてきた侍の馬鹿馬鹿しさを、監督が伝えるためにわざとそうしているのだという解釈を書いているのを読んで、なるほどそういう読み取り方もあるのかと、少し感心しました。ただ、もしそういう狙いがあったとしても、わかりにくすぎて、一般には理解できないです。少し狙いすぎて、空振りした映画という感じもします。(2015.6.11)

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526.山下浩監修『山下清展』ステップ・イースト

 先日滋賀県にある佐川美術館に行った際に、「山下清展」をやっていてちょっと興味を持ったので、公式ガイドブックのような本を買ってきました。山下清というと、映画やドラマの「裸の大将」のイメージが強すぎて、どういう人だったのかをちゃんと知ろうとしてこなかったのですが、今回改めて彼の貼り絵等を見ながら、その人生を知りました。映画やドラマになった放浪時代は、18歳から32歳で、最初のきっかけは徴兵されるのが嫌だったというのが大きな原因だったようです。映画やドラマでは、その場でスケッチをしていたりしますが、実際の山下清はその場では書かずに記憶して帰って施設で貼り絵にしたそうです。また、ランニングシャツに短パンという格好はあまりしておらず、実際には夏は浴衣、冬は着物姿が多かったそうです。そして、放浪の旅をやめることになったのは、アメリカの「LIFE」誌が、山下清を日本のゴッホとして紹介し、朝日新聞が新聞と全国の支社を使って探索したことで見つかってしまい、顔と名前が売れすぎて、放浪ができなくなってしまったからだそうです。興味を持っていなかったせいもありますが、ほとんど知らない事実ばかりで、おもしろかったです。

 山下清の絵画が素晴らしいのかどうかは正直言ってよくわかりません。確かに、貼り絵はよく根気よくこんな仕事ができるものだと感心しますが、デッサン力、色使いなどが。どの程度素晴らしいのかはよくわかりません。むしろ、個人的に興味があったのは、人間がすごく単純に書かれてしまうことです。正面、真横、後の3種類しか人物は描かれず、かつなんの特徴も捉えようとせず、みんな同じような人物です。こんな風に人物を書いて違和感を持たないということは、山下清という人は基本的に人間には興味がない人なのではないかと思いました。人間に興味のある私としては、山下清という人間には興味は持てても、山下清の描く人間には興味が持てず、それゆえ山下清の絵そのものにもあまり強くは惹かれないというのが正直なところでした。(2015.6.7)

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525.乃南アサ『ニサッタ、ニサッタ()()』講談社文庫

 この作家は基本的に人間が好きなんだろうなとしみじみ思います。新卒採用で勤めた会社を、上司が気にいらないとやめてから次々にうまくいかないことばかり起き、ホームレスになったり、フリーターになったり、もう生きている事すらなんの意味があるのかと思うところまでたどり着く青年が主人公のこの小説ですが、最後にちゃんと希望を見せてくれます。それも「人間っていいよなあ」「やっぱり生きているっていいよなあ」という気持ちに自然とさせてくれます。推理サスペンスの巧みな作家ですが、この小説ではそうした要素をほとんど抑え、現代社会の弱者になってしまう若者の姿を、そういうことも本当にありそうだと思わせる本格的な社会派小説となっています。お勧めの1冊です。(2015.6.5)

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524.佐々木譲『警官の血()()』新潮文庫

 読み応えのある小説です。祖父、父、子と3代続いて警察官になるという家族を設定することで、警察ものでありながら、大河ドラマの趣を持たせています。さらに、祖父も父も殉職あるいはそれに近い死に方をするのですが、その死の謎が最後に解けるというミステリー小説にもなっています。この作家は私より5歳年長で結構ベテラン作家でいろいろなジャンルを書いているようですが、今まで読んだことがありませんでした。この小説が非常におもしろいという評価を聞いて初めて読んでみました。確かに、この小説は面白いですが、少し粗さも感じました。祖父、父の時代――特に1970年代前半頃――までは、当時の著名な事件などもからめて書いていて、私としてはうまいなあと思っていたのですが、1980年代以降は社会的事件との関わりについてはほとんど書かなくなり、祖父の死の謎解き、そして3代目の子の時代になると、警察内部の組織を描く小説になっていて、トーンが変ってしまいます。3代も描くので、各世代少し違うトーンであえて描こうとしたという解釈もできますが、やや違和感も残りました。個人的には2代目が学生運動に潜入して大菩薩峠事件の検挙につなげる話、そしてその潜入捜査の結果、精神を病むという部分が、この小説の一番の魅力のように思いました。すでに2009年にテレビドラマ化もされているようですので、機会があったら見てみたいと思います。(2105.5.23)

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523.乃南アサ『禁猟区』新潮文庫

 もう何度も何度も取り上げている作家ですが、読み終るたびに、やはり一言書いておきたくなります。本当にうまい作家です。本書は、警務部人事1課調査係の仕事をする沼尻いくみという女性警察官を主人公とした作品です。刑事・音道貴子とはまた違うキャラクターと職種の設定ですが、これもまたなかなかうまく設定されています。この本は短編集で、4つの作品が掲載されています。いずれも、警察官が足を踏み入れてはならないところに入り込んでしまった問題のある警官たちが出てきますが、4作品それぞれ動機と展開(主人公の沼尻いくみの果す役割がそれぞれ異なります)が見事に違い、無尽蔵のアイデアの持ち主だなあと感心しました。音道貴子シリーズとともに、この沼尻いくみシリーズも見つけたら、買って読んでしまいそうです。(2015.5.5)

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522.竹内洋『メディアと知識人 清水幾太郎の覇権と忘却』中央公論新社

 著名な社会学者であり、1960年までは進歩的知識人、その後右旋回して保守の論客となった清水幾太郎について書かれた本です。著者は教育社会学者で知識人論を得意とする人なので、ノンフィクション作家が書くような人生すべてがわかる伝記本にはなっていません。著者自身がもっとも興味のある時代である戦後から1960年代あたりまでの清水幾太郎について、書かれたものから、他の知識人たちと比較することで、その特徴を浮かび上がらせようとしています。ある一人の知識人に関する研究書です。この著者がうまいのは、堅苦しい研究書にはせず、読物にできるところです。右旋回してから書いたものがあまり本格的に取り上げられていないのでそこは不満ですが、結論としては、清水幾太郎は時代と寝たメディア知識人だったということのようです。

今でも、メディアに登場して発言する社会学研究者はいますが、上野千鶴子、宮台真司以降、あまり強烈な個性の社会学者は出てこないですね。たぶん、メディアで活躍するためには、相当に精神がタフでないと務まらないと思います。また、現代はネットは発達し、清水幾太郎の時代のように大手出版社の雑誌や、90年代のテレビのような、マスメディアの圧倒的影響力がなくなっており、各自が考えや意見を発信できるようになっていることも、社会学者だけでなく、以前のような形では知識人が必要とされなくなっているからでしょう。

最後に、社会学は常に時代に敏感でいなければならないという意味では、ある意味では、清水幾太郎はまさに社会学者だったと言えるのかもしれないと思ったことを付け加えておきます。(2015.4.30)

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521.横山秀夫『震度0』朝日文庫

 久しぶりに、本当に巧みなおもしろい小説を読みました。一人の警察官僚が阪神淡路大震災の前日に消えてしまったことをめぐって生じた警察組織の対応と謎解きがストーリーの核ですが、警察組織内部の勢力争いと出世競争を背景に、登場人物一人一人のキャラが見事に描けていて、物語に引き込まれます。「震度0」というタイトルもうまいです。あくまでも作り話なのだろうと思いますが、キャリア組とノンキャリア組の葛藤や、より高い地位を求めての個々人の思惑のずれなど、現実の警察組織でも似たようなことはあるのだろうなと思うと、ぞっとするほどです。この小説のすばらしさを簡単に書くのは難しいのですが、間違いなくおもしろい小説ですのでお勧めです。(2015.3.29)

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520.(映画)沖田修一監督『横道世之介』(2013年・日本)

 公開の時から評判になっていたので、見た人も多いでしょう。映画としてももちろんよいのですが、原作が気になります。これも吉田修一の作品です。この作家は、19689月に長崎で生まれ、法政大学経営学部を出ています。この経歴は、この物語の横道世之介と同じと考えられます。横道世之介のモデルが著者自身ではないでしょうが、背景となっている時代や、世之介の経験の一部は、著者自身のものである可能性はかなり高いと思います。1987年に法政大学に入学し、35歳でホームから落ちた人を助けようとして、世之介は亡くなってしまいます。このホームから転落した人を助けようとして、韓国人留学生と日本人カメラマンが死亡するという事件は、20011月に実際あった事件で、吉田修一はこの事件にインスピレーションを受けて、この小説を書いたのではないかと思います。自らの命の危険も顧みない人助けをする人というイメージを、誰かに託したくて、この世之介という人物を作り上げたのでしょう。

 背景推測はこのくらいとして、映画に関しての評価をしておきます。評価の高い映画であることはおおいに納得がいきます。あたたかい気持になるのは勿論ですが、1980年代終りと現代がうまく織り込まれていて、空白の15年ほどの間に何があったのだろうかと考えたくなり、見る人間の気持を引き付けます。たぶん、空白の15年について、見た人はいろいろと語り合いたくなる映画でしょう。また、まったく別の見方としては、「蛇のピアス」という強烈な映画で共演した3人(高良健吾、吉高由里子、井浦新)が、まったく違うテイストで出演しているのが、個人的には興味深かったです。(2015.3.20)

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519.薬丸岳『闇の底』講談社文庫

 『天使のナイフ』という素晴らしい出来栄えの推理小説でデビューした薬丸岳という作家の小説を久しぶりに読みました。相変わらず一気に読ませる力は抜群です。この小説は、幼女暴行殺人事件などを起こした犯罪者に対する日本の警察、司法の問題性をテーマにしてします。しかし、少年犯罪を扱った『天使のナイフ』に比べると、テーマの突き詰め方はやや弱いように思いました。一気に読ませるのは、犯人は誰かという推理小説の王道がストーリーの核になっているからです。特に最初から怪しそうな人物がおり、最後の方ではその人物がやはり犯人だろうかと思わせつつ別人を犯人にしています。私は後半に入ったあたりで、たぶん犯人はこっちだったとするのだろうなとほぼ読めていましたが、その結末にするなら、動機をしっかりさせないと、ただ単に読者をだますために、犯人を変えたことになってしまうので、その結末をどの程度納得させてくれるのだろうかという期待を持って読みました。結論を言うと、動機はかなり弱く、どんでん返しを作りだすことを重視したのだなという印象を持ちました。しかし、この作家は、一貫して、日本の司法制度の問題点と被害者遺族の思いをテーマにしていて、それはそれでなかなか読みごたえがあるテーマなので、これからも、この作家の小説は時々読むことになるだろうと思っています。(2015.3.19)

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518.吉田修一『パレード』幻冬舎文庫

 発売直後から各紙で絶賛され、山本周五郎賞も取ったというので期待して読んでみたのですが、私の評価は「うーーん……」という感じです。共同生活を送る5人の男女一人一人の視点で5つの章が書かれており、最終章で5人のうちのある人物が大きな事件にからんでいたことがわかるわけですが、前4章がその伏線になっているとは思えず、個々の登場人物が抱えた問題はなんの解決もないまま放り出されます。事件にからんでいる人物も、なぜその事件を起こしたのかがよくわかりません。また5人に共同生活をさせる必要性も感じられません。私にとっては期待外れの小説という印象でした。(2015.3.18)

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517.ドナルド・キーン『明治天皇を語る』新潮社新書

 著者のドナルド・キーンには、本格的な明治天皇に関する著書があるのですが、その本格的なものを読む気になるかどうか確認するために、その紹介的な役割を果す本書を読んでみました。講演記録に手を入れたものなので簡単に読めます。キーンの明治天皇の評価は高く「大帝」と呼べる存在で、同じ時代を生きたドイツ皇帝やロシア皇帝に比べるとはるかに優れた人物だったという評価です。さらっとした紹介のような本なので、この本だけでは、私の評価は難しいです。確かに、ある時期からは、近代国家の君主としての責務をしっかり務める意識を持っていたのは確かなようですが、それなりにわがままなところもあったようにも感じ取れました。現在の日本国憲法下での天皇とはかなり違う存在だったのは確かなようです。いくつかそうだったのかと知った事実としては、明治天皇の写真は若い時に撮った2枚しかなく、御真影とされたものは実は肖像画であったこと(言われて見れば、確かに絵です)、また喋ったままを記録したものがまったく残されておらず、御所言葉を使っていたのか、あるいは違う喋り方をしていたのかなどもはっきりしないこと、また性格に関しても真逆のような記録が残されており、実際にはどのような人物だったのかも、厳密にはわからないこと、などがあります。わりとおもしろく思ったのは、やはり視点が外国人の著者によるものだなということです。天皇を特別視することなく、明治という時代を造り上げる上での最重要人物の一人としてスポットライトを当てています。明治天皇の性生活に露骨に踏み込んでいるところがありますが、まず日本人では書けない内容だろうなと思いました。(2015.3.15)

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516.羽生道英『伊藤博文 近代国家を創り上げた宰相』PHP文庫

 今更、伊藤博文ですかと言われそうですが、改めて考えると伊藤博文についての本は今まで読んだことがありませんでした。でも、松下村塾で学んだとか、長州ファイブの1人だとか、岩倉使節団にも同行していたとか、日本の初代総理大臣で、明治憲法を創ったとか、韓国で暗殺されたとか、知識がばらばらにいろいろ入っていて、なんとなくよく知っている人物のように思っていました。513で取り上げた大隈重信についての本を読んでいた時に、そう言えば、伊藤博文もどうやって、明治政界の最大の実力者になりえたのだろうと気になってきたので、この本を読んでみました。様々な伊藤博文について書かれた本を参考に伝記小説としてまとめあげたものですが、おおよその流れと原因はつかめました。

 まず、基本的にかなり頭のよい人間だったこと、英語がそれなりにできたこと、私利私欲に走らなかったこと、愛嬌のある人間だったことが、彼が最高権力者になりえた必要条件だったようです。吉田松陰との師弟関係はそれほど強い影響を与えていないようですが、そこで出会った高杉晋作と良好な関係を持てたことはプラスだったでしょう。長州ファイブの一員としてイギリスで多少なりとも過ごし英語ができたことで、外国との交渉場面に引っ張り出されるようになり、また海外暮らしの経験から、日本の近代化のイメージをいちはやく作れたのも大きかったようです。木戸孝允とは、若き日に上司として仕えた時代もありますが、明治になっても、木戸がいつまでも伊藤を配下の人間として扱うために、関係は遠くなり、むしろ岩倉具視や大久保利通などに才を買われます。大久保なき後は、大隈とともに近代国家創りの中心となり、憲法と国会のありかたをめぐって対立した大隈を、明治14年の政変で追い落としてからは、No.1のポジションを確立します。明治天皇の信頼が厚かったのも、伊藤のポジションを強固なものにしたようです。

 この本を読んで、次は明治天皇について読みたくなりました。大日本帝国憲法では、天皇が主権者とされていましたが、昭和天皇などの伝記を読むと、軍部をはじめ、天皇の意向を聞かずに勝手に政治や戦争が動いている感じでしたが、どうやら明治天皇だけはそういう軽い位置ではなく、まさに天皇自身が最終判断をしっかり下す政治を行っていたようです。昭和天皇は、日本国憲法になってからはもちろんですが、大日本帝国憲法の時代にも、立憲君主で「君臨すれども統治せず」という感じですが、明治天皇はまさに統治する君主であったようです。このあたりは、また明治天皇についての本を読んでから詳しく書いてみたいと思います。(2015.3.12)

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515.佐江衆一『北の海明け』新潮文庫

 これは優れた小説です。新田次郎賞をもらっていますが、賞に値する作品です。素材が地味なので広く読まれていないのではないかと思いますが、もっと知られるべき作品です。おおよそのあらすじを述べます。舞台は、19世紀前半の、まだ蝦夷地とよばれていた北海道です。ロシア船が時々現れるようになり、北の海域の守りとアイヌの日本への取り込みを考え始めた幕府は、軍事的な対応をするだけでなく、寺を造り、アイヌに仏教を広め、ロシア正教へ取り込まれないように画策します。そのために、北海道に3つの寺を造ります。そのうち、もっとも遠い厚岸(アッケシ)に造られた国泰寺の住職・文翁が前半の主役、後半はその寺の小坊主・智弁が主役になります。北海道に渡り、アイヌと和人の暮らしを見る中で、和人のアイヌに対する態度に、2人とも疑問を感じるようになります。しかし、文翁は病に臥し亡くなってしまいます。文翁が生きていた時から和人のアイヌに対する仕打ちに怒りを感じていた智弁は、その後極悪非道な番人を殺し逐電します。何年も経ってから、アイヌと和人の混血児・イチマツという人物となって、アッケシに戻ってきます。そしてアイヌの娘と結婚しますが、そのまま幸せになれるわけではなく、様々な試練がイチマツに襲いかかります。ストーリーの紹介はこのへんまでにしておきたいと思います。

 ストーリー以外にもこの作品は読ませます。まず、歴史的事実をきちんと押さえており、19世紀前半の北海道や北方領土、樺太などが、日本とロシアにとってどのような位置づけだったのかがわかります。ペリーの来航から外国対策が取られたように思いがちですが、ロシアの方が大分前から、かつ頻繁にやってきていて、幕府は外国の圧力をすでに相当に感じ取っていたことがよくわかります。また、この小説のもうひとつの魅力は、宗教を扱った小説という読み方ができる点です。仏教とアイヌの信仰、それにロシア正教(キリスト教)がからんできます。主人公のイチマツは、そのすべてに触れます。彼が、それぞれの宗教・信仰をどのように捉えるかというのも、この本の読みどころになっていると思います。(2015.3.10)

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514(映画)山田洋次監督『小さいおうち』(2013年・松竹)

 黒木華という女優さんが、この映画でいくつも賞を取った作品です。つい最近発表された日本アカデミー賞でも、最優秀助演女優賞を受賞していましたが、この作品における彼女の役割は明らかに主演です。ネームバリューで、松たか子が主演女優ということになってしまうところに、日本映画界の問題を感じます。さて、内容と評価ですが、なかなかよいと思いました。ストーリーがちゃんとしていて、最近の山田洋次のものにしては珍しいなと思いましたが、やはりしっかりした原作小説があったんですね。中島京子という作家が直木賞を取っている小説の映画化ということで、ストーリーがちゃんとしていたのですね。むしろ、山田洋次が撮ったことによって、会話の妙なリズムと、抑え過ぎたエロチシズム、そして観客に戦前の歴史を教えてやろうという「上から目線」が感じられ、また役者も適役かどうかより、いかにも山田洋次の好みが強く出すぎており、せっかくの原作のよさに余計なものが加えられすぎている気がします。この作品は、女性監督あたりに撮らせたら、もっとおもしろかったのではないかと思います。まあでも、一応見られる作品です。(2015.3.4)

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513.渡辺房男『円を創った男 小説・大隈重信』文春文庫

 大隈重信を取り上げた伝記ですが、子ども時代から死ぬまでを広く浅く紹介したものではなく、1968年(慶応4年)から1871年(明治4年)までの3年余に焦点を当てたものです。短期間ですが、非常におもしろいです。幕末を扱ったたくさんの本を読みましたが、大隈重信が出てくる事はほぼありません。しかし、明治時代が始まってすぐに大隈重信は、明治政府の枢要な地位を占めています。なぜ幕末期に活躍していない大隈重信がそんなに高い地位にすぐに就けたのか謎だったのですが、この本を読んでわかりました。基本的には、やはり優秀な官僚としての能力があり肝も座っていたことで頭角を表わしたということのようです。特に財政に強く、この本のタイトルにもなっているように、近代日本の基盤となる通貨体制を伊藤博文や渋沢栄一などとともに作り上げていった人物だったということが大きな理由のようです。また、幕末の活躍が目立つ薩摩、長州、土佐とともに、肥前がなぜ薩長土肥と並び称されるのかもわかりました。

 物語とは直接関係はないのですが、この本を読んでいて「そうだったのか」と知った事実は、藩という名称は江戸時代には制度的に存在した言葉ではなく、「○○藩」という言い方はあまりしていなかったという事実と、県と藩が同時に存在していた時期があるという事実です。幕府領を奪った太政官政府は、かつての幕府の直轄領を府と県の名称で呼びます。そして、幕府直轄領以外のところを藩と呼びます。藩という名前が制度上存在するのは、「版籍奉還」(1869)から「廃藩置県」(1971)までの2年間だけで、この時期が藩と府県が並立していた時期だということです。まだまだ、知らないことがたくさんあります。いくつになっても、本を読んで新しい知識が得られるのはわくわくするほど楽しいものです。(2015.2.26)

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512.保阪正康『『きけわだつみのこえ』の戦後史』文春文庫

 戦没学徒兵の手紙や日記等を集めた著名な本である『きけわだつみのこえ』が、どのように誕生し、その後時代の中でどのように利用されて行ったかを克明に調べたノンフィクションです。単行本は1999年に刊行されていますが、その時期は「第4次わだつみ会」と位置づけられる時期で、最初から関わっていた多くの関係者がすでに退会し、この本の著者も批判的なスタンスを取っています。文庫本の帯には、「遺族の手から奪い取られ「政治の道具」となり果てた『きけわだつみのこえ』 戦没学徒の静かな叫びを、次代にどう伝えるか」と書いてあります。確かに、「第4次わだつみ会」のやっていたことは肯定できることではありませんが、この本全体を通して、われわれが知っていた『きけわだつみのこえ』の印象というのは、1949年に最初に刊行された頃から10数年後くらいまでのイメージで、その後の「わだつみ会」の動きなどはまったく知りませんでした。1980年代、昭和の終り頃の「第3次わだつみ会」は、昭和天皇の戦争責任の追及から、天皇制の批判などを強く主張していたようでしたが、当時のマスコミがこれを大きく取り上げることはなかったため、この会の活動は大衆の目には目立たないものとなっていました。1970年代はまだ天皇制は是か非かという議論はしばしば耳にしましたが、80年代は一般的にはもうこの議論は盛り上がらなくなっていました。そういう中で、このわだつみ会はこういう活動を続けていたのだという事実が非常に興味深かったです。現在の「わだつみ会」はどんな活動をしているのだろうと、ウェブサイトをチェックしてみましたが、地味に機関誌を1年に12度出し、講演会をたまに行っているくらいで、目立つ活動はなくなっているようです。「わだつみ会」自体も、戦没学生をどう位置付けるかについても評価がいろいろ変ってきているようですし、戦後70年という長い時間が経ってしまった今、この会自体の存続も厳しいのかもしれません。(2015.2.23)

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511.野地秩嘉『渡辺晋物語』マガジンハウス

 先日テレビで渡辺プロの創立者である渡辺晋について紹介されていて、それがわりとおもしろかったので、おそらくその元になったであろうこの本を読んでみたのですが、ただの賞賛本で実につまらない本でした。あとがきを読むと、娘が、父親である渡辺晋について書いて欲しくて執筆依頼をして書いてもらったということなので、まあこうなってしまうのも無理はないかもしれませんが、もう少し鋭い切り込み方をできないものかと思いました。御用ルポライターなんでしょうね、この作家は。もしも、ひも付きでなく、渡辺晋について書いたら、もっとどろどろしたところも描けてノンフィクションとしておもしろくなったはずです。所属タレントが独立するのもおおらかに見守ったように書いていますが、確か私の記憶では、森進一は一時マスコミから干されたような状態になったはずです。いつもおおらかで怒った顔など見せなかったと書いていますが、信じられません。ライバルであったはずのホリプロについては、その名前すら出てきません。まあ、あまり大きな期待をして買った本ではなく、渡辺晋の生涯を一応知ってみたかっただけなので、よいところだけ書いたら、こんな人生だったということだけわかったことでよしとしておきます。(2015.2.19)

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510.財団法人日本城郭協会監修『日本100名城 公式ガイドブック』学研

 「百〇〇」というのは、日本にはたくさんあって、たぶん「百名城」というのもかなり以前からあったのではないかと思います。しかし、それは誰が明確に決めたかもよくわからないもので、さらに戦国時代末期から江戸時代までの間に造られた天守閣ばかりが城として位置づけられ選ばれたものだったように思います。しかし、200512月に、財団法人日本城郭協会が選定した「日本100名城」は、城というものが、その漢字で表わされている通り「山で堀を造ったり土塁を造ったりすることによって成るもの」であることをきちんと意識して、天守閣があるかどうかではなく、城と呼ばれる範域がその形を想像出来るものとして残っているかどうかを選定基準とし、古代から明治までの間に造られた城を選んでおり、納得が行きます。この本はガイドブックなので、100城を紹介するのがメインですが、その100城がどのように選定されたか、そして城の見方をわかりやすく教えてくれます。私は、選ばれた100名城のうち、59城に行っていますが、このガイドブックを読んで、初めて知ったこともたくさんあり、勉強になりました。100城すべてに行きつけるかどうかはわかりませんが、今後もこのガイドブックを参考に、城を訪ねてみたいと思います。(2015.2.19)

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509.(映画)加藤泰監督『緋牡丹博徒 花札勝負』(1969年・東映)

508.(映画)石井輝男監督『網走番外地』(1965年・東映)

 ともに、最近BSプレミアムで高倉健特集として放映されていた映画です。ともに、非常に有名な作品ですが、あまり博徒ものに興味はなかったので、私は初めて見ました。まあストーリーとしては特段語るべきところもないですが、勝手な思い込みが訂正されたのはよかったです。そのひとつは、網走番外地の第1作は、もっぱら監獄での話で、高倉健が格好いい博徒姿を見せるわけではないということです。白黒映画で、監獄での生活とそこから脱獄して追われる高倉健ですが、晩年の無口なイメージと違い、この映画の高倉健はよく喋ります。CG全盛時代の今の映画を見慣れてしまった目にはそれほどの迫力はありませんが、当時は機関車のシーンも雪上のトロッコのシーンもすべて実写でしょうから、それなりに迫力はあったのだろうと思います。

 緋牡丹博徒の方は藤純子主演で高倉健は助演です。こちらも、物語は割と簡単なものですが、藤純子の美しさと高倉健が一般に知られているようなイメージになっています。われわれの世代には、片肌脱いで刺青を見せ、「泣いてくれるな、おっかさん」と言っているポスターが思い浮かぶのですが、そういう場面があるかなと思いましたが、この映画ではそういう場面はありませんでした。藤純子と互いに微妙に惹かれあいながら離れていく感じがいいのでしょうね。両映画ともにシリーズ化されていますので、どういう風に物語がつながるのか、つながらないのか、ちょっと気になるのですが、この手の博徒ものをそう何本も見るのは、私にはちょっとしんどそうですので、何か別の形で調べようかなと思います。(2015.2.13)

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507.(映画)ゲイリー・ウィニック監督『ジュリエットからの手紙』(2010年・アメリカ)

 久しぶりに「ザ・恋愛映画」と言えるような作品を見ました。CGを一切使わないこういう映画もまだちゃんと作られているんだと、なんだか嬉しくなりました。劇場公開中に見た人も多いのでしょうが、私は当時はまったく気づいていませんでした。年末にNHKBSプレミアムで放送していた際に、新聞の映画紹介欄を読んでちょっとおもしろそうだなと思い録画しておいたものをようやく見たわけです。ストーリーがなかなかいいです。「ロミオとジュリエット」の舞台として有名なイタリア・ベローナには世界中から恋に悩む女性が集まり、ジュリエットに当てて手紙を書いて壁に貼っていくそうです。そして、その手紙に対して「ジュリエットの秘書」と自称するボランティアの女性たちが返事を書いて送ってくれるそうです。この実話をベースにして物語は作られています。婚約者とともにベローナに旅行に来たジャーナリストの卵の女性が、このボランティアを手伝い、たまたま50年前の手紙を見つけ、その手紙に返事を書きます。そして、この返事を受け取った老婦人と孫息子がイタリアにやってきて、昔の恋人探しを主人公の女性とともに始めます。さて、果たして彼は見つかるのかどうかというのがひとつのストーリーです。しかし、もうひとつのストーリーも合せて進行していくことになります。最後の場面では、ロミオとジュリエットのパロディも盛り込まれていますし、音楽も旅するイタリアの風景も美しく、心地の良い映画鑑賞ができました。(21015.2.6)

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506.鎮西町史編集委員会編『太閤秀吉と名護屋城』鎮西町

 名護屋城址の受付で買ってきた本ですが、なかなか興味深い本でした。秀吉関連の歴史書や歴史小説はたくさん読んできましたが、名護屋城と文禄・慶長の役(朝鮮出兵)に焦点を当てたものは読んだことがなかったですし、秀吉を主役にしたような話でもあまり詳しく書かれていないので、非常に新鮮な印象を受けました。秀吉の朝鮮への出兵に関しては、淀君との間に生まれた第1子を亡くしたことから、半分捨て鉢のような気持で、正常な判断ができない状態で始めたように位置づけられていることが多いように思いますが、丁寧に調べているこの本を読むと、天下に近づきつつあった秀吉の中にはいずれ明国まで自分の支配下に置くイメージというのがあったようです。一介の農民の子から天下統一をなしうるところまで来られた秀吉ですから、自らの力というものは無限であるような思いになっていたでしょうから、明の征服すら現実的なものと思えていたということはありえることでしょう。さて、この本でより興味深かったのは、朝鮮での戦いがどのようなものであったかが克明にわかる点です。最初は破竹の勢いで平壌征服にまで至った日本軍がそこから先へ進めなくなったこと、むしろどんどん追い詰められていったのはなぜかということがよくわかります。おそらく現場で戦っていた合理的な考えをする将兵たちは最初の冬を迎えたところで、もうこの戦いはやめてほしいと思っていた人が多いような状況になっていたことでしょう。それでも、結局約7年もの間この戦いは続くわけです。この戦いがあったからこそ、豊臣家は滅びたとも言えなくはないですし、明も国力を弱め、のちに清に倒されることになるわけです。戦場となった朝鮮の疲弊はさらにひどく復興に100年かかったと言われているそうです。この秀吉の朝鮮出兵に関しては、非は全面的に秀吉にあると言ってもよいように思います。自らの力を過大に思いすぎた権力者が犯した大きな過ちです。ちなみに、これもこの本を読んで知ったのですが、朝鮮から捕虜として連れて来た人々から学ぶことで、日本にすぐれた陶磁器が生れるようになっただけでなく、朱子学も豆腐の製法も、これをきっかけに本格化されていったそうです。(2015.1.30)

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505.(映画)ドン・ホール監督『ベイマックス』(2014年・アメリカ)

 『ベイマックス』を見てきました。なんで見に行ったかというと、見に行きそびれていた娘に付き合ってです。かなり評判がいいとは聞いていましたが、私が見たくなるような映画ではないだろうと思い、情報集めもまったくしていませんでしたので、アニメなのかアニメ+実写なのかも知らない状態でした。知っていたのは、少年が主人公らしいこと、その少年には兄がいるらしいこと、あとマシュマロみたいなキャラクターがロボットで少年と仲がよさそうなこと、ほぼそれですべてでした。なので、眠くならなければいいなという期待ゼロの状態で行ったのですが、始まってすぐに引き込まれました。その後も息をつかせぬ展開で、最後には涙も流し、終った時には拍手をしたい気分でした。見終わった時には、これまでに見たアニメ映画のベスト3には入るなと思いました。引き込まれたのは、ストーリー以上に、日本の都市の要素がたっぷり詰め込まれたいからだと思います。あとで聞いたら、東京とサンフランシスコを混ぜ合わせたような都市なのだそうですね。主役の少年も日本人の名前で、何も知らなかった私は「えっ、そうなんだ」と新鮮な驚きを持ちながら、すぐにはまってしまったわけです。冒頭のシーンで吊り橋の形と色が妙に鳥居に似ているなあ、ロボットの闘いは相撲に似ているなあと思ったところから一気に引き込まれたわけです。

 この作品を作るにあたっては、日本の街を相当調べたのでしょうね。ふとしたシーンに、本当に日本のどこかで見た様な気がするところがたくさんありました。考えてみると、少年と太った心優しいロボットと数人の仲間たちが悪者と戦い、勇気と友情をはぐくむというプロットは、ドラえもん映画の定番ですし、5人のヒーローという設定は、ゴレンジャー以来の日本のヒーローものの典型です。街を調べるだけでなく、日本のアニメやテレビ番組も相当検討し、それをベースに作ったアニメなのではないかと思います。でも、この程度のプロットの借用は問題はないでしょう。「荒野の七人」が「七人の侍」のプロットを借りているように、名作が名作を生むことになります。昨年の「ドラえもん スタンド・バイ・ミー」も評判がよかったようですが、見に行きませんでした。やはりドラえもんは日本では子どもの見るものという位置づけが強いのと、どういうストーリー展開になるのかは大体わかる感じがしてしまいますので。しかし、「ベイマックス」の場合は、まったく何も知らなかったので、どうなるのだろうというワクワクした気持ちで見ることができました。映画は情報をあまり得過ぎずに見に行った方がおもしろいですね。(2015.1.29)

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504.(映画)蜷川幸夫『嗤う伊右衛門』(2003年・日本)

 「四谷怪談」をもとに京極夏彦描いた小説が原作の映画です。見るに値しないわけではないですが、うーん……という感じです。どうも蜷川幸夫の美の観念があまり評価できません。様式美の好きな演出家なので、映画でもやっぱり様式にこだわって、ストーリーや心理描写はいまひとつという感じです。どのキャラクターも今一ですが、特にヒロインの小雪がエキセントリックすぎて魅力がありません。あと、セリフが聞き取りにくいのが難点です。それでも、なんとなく最後まで見てみたくなったということは、それなりに引き付けるものもあったということなのかもしれません。(2015.1.22)

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503.調布市武者小路実篤記念館編『新しき村90年――人間らしく生きる――』調布市武者小路実篤記念館

 調布にある武者小路実篤の記念館で入手した本です。武者小路実篤は非常に高名な作家ですが、白樺派という文学集団の中心であったこと、「新しき村」を創ったこと、「日々是好日」といった文章をかぼちゃやじゃがいもの絵と一緒に書いていた人といった周辺情報ばかり持っていて、書いた作品のことも「友情」くらいしか浮かばないし、その人生もよく知らなかったので。記念館を興味深く見るとともに、この2冊の本も買ってみたくなりました。まず知らなかったのは、「新しき村」がまだ継続しているということです。大正時代に武者小路実篤が中心となって創設したという歴史だけ習いましたが、その後については何も学んでいなかったので、勝手に戦前には廃村になったのだろうと思っていました。しかし、まだ村は続いているのだそうです。HPもありました。村民は多くはないようですが、90年も続いているというのはすごいことです。発想的には、1960年代末から70年代はじめにかけてアメリカを中心として広まった――後次々に消えて行った――コミューンと近いと思いますが、1918年にそのアイデアを持ち、また実現に移し、細々ながらも存続し続けていることに感心しました。たぶん、武者小路実篤ら村外会員からのカンパも大きかったのだと思います。(2015.1.12)

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502. 調布市武者小路実篤記念館編『父・実篤の周辺で〜家族の物語〜』調布市武者小路実篤記念館

 さて、武者小路実篤の人生の方ですが、こちらもなるほどと思わされました。この本からの情報というより、記念館で得た情報ですが、武者小路実篤の父親は明治入ってすぐの岩倉使節団の一員として渡欧した人だそうですので、長生きしていれば、かなりの地位についたのではないかと思いますが、32歳で亡くなったため、武者小路実篤は父親の記憶がないまま育ったそうです。この本は、武者小路家の後を継いだ三女の書いた本をベースにしつつ、家庭人としての武者小路実篤を紹介しています。非常に温厚な父親だったようで、子や孫ともざっくばらんにつき合う父であり、祖父であったようです。彼は、様々なことにチャレンジし失敗も数々経験しているはずですし、作家としても超一流とは言えないのではないかと思いますが、落ち込んだり、悩んだりは全くせずに、常に前向きな気持で生きた人のようです。90歳を過ぎて「日々是好日」と堂々と書ける人生は、それはそれで立派なものだと思いました。(2015.1.12)

 

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501.(映画)西川美和監督『夢売るふたり』(2012年・日本)

新ページに入っても、また映画からですみません。本を読む時間がなかなか取れない中、ついつい映画を見ておもしろかったりすると、つい書きたくなってしまいます。言い訳はこのくらいにして、さてこの作品ですが、漠然と詐欺を働く夫婦の話くらいしか認識を持っていなかったのですが、松たか子と阿部サダヲというまったく悪役が似合わなさそうな二人が演じるということで興味を持って見ました。初めの30分くらいを過ぎた所から思いがけない展開になり引き込まれました。最後はどう終わらせるのだろう思いましたが、語りすぎず観客自身に想像させるという形でした。なるほどなという感じでした。ストーリー以上に引き込まれるのは、松たか子が演じる女性主人公の心理です。この複雑な心理、そしてそれを表現する演出は、女性監督でないとできないものだと思います。松たか子も演技が非常にうまいので、監督が求めたであろう微妙な心理を見事に演じ切っています。個人的には評価したい映画でした。(2015.1.9)

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