日々雑記


運慶と絵巻切断

2020-2-2

昨日より入試。恒例の答案採点。

「治承4年の南都焼き討ち後、東大寺の復興再建に尽くした僧侶は(   )である。」という問題。
正解して当然・・・と思いきや、半数以上が「運慶」。

僧侶って問われているので、お坊さんやろと思いながら「運慶法師」の回答が出たところでハタッと気づく。
マンガやTVドラマでは、僧衣っぽい衣に身を包んだ運慶が必死にノミをふるっている。そうした姿が運慶のイメージと重なったのだろうか。
運慶も僧侶身分ではあったが、それは興福寺。設問は東大寺。
そこに運慶を入れてしまうと、後の問題が理解できないんだなぁ・・・。

茶道絡みの問題も正答率がかなり低い。
記述問題の瀟湘八景図。
京都国立博物館「牧谿筆瀟湘八景:遠浦帰帆図」(e‐国宝)
を見れば、画面左下隅に「道有」の朱印。 これは足利義満の印。義満はもと2巻の絵巻物であった瀟湘八景を切断し、掛幅装に変更した。 なぜ、”絵巻切断”をしたのかを問い、続いて元の姿を問う問題。

まずは元の姿は授業中に示したので、「2巻の絵巻物。絵の間に漢詩が入る」とかなりの高い正答率。
そこから、以前の絵巻物の授業を思い出そう。
絵巻物の鑑賞は原則一人で見るもので、室町時代の公家の日記には絵巻の貸借事例がかなり載っていると紹介済。
正答は「(瀟湘八景図を)みんなで見たいから」。
めちゃめちゃ簡単な答ながら、正解者は片手で数えられるほど。

授業はまじめに静かに受講すべし。
ここだけ配点50/100点にしようかとも。

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節分

2020-2-3

昨秋以降、身辺が以前とよく似た状況。
流石に齢もあって連日徹夜ということは無くなったが、仏像に関わる事項が積載し、調べることも多く、身動きが取れない。

年の瀬に調査した肖像彫刻。
その後、地元の教育委員会から連絡があって再調査してよいか、報告書を書いて指定してよいかとの連絡。
知己の同業者が教育委員会に努めているので、どうぞどうぞと快諾。
一介の末端研究者よりも教育委員会が動けば、話も早いし後々のことも安心である。

(こちらの)時期判断が、やや新しいのではないかとの疑義。判断の根拠を答えたが、そこまでさかのぼる時期には思えないものの、まぁいいじゃないですかと了承。
ともかく報告書作成1つ逃れた・・・。

やはり「節分は陰陽が入れ替わる時節」。

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近世から近代

2020-2-5

試問のため、修士論文を読んでいる。

近代以降の展覧会との関わりが主要テーマ。たまたま先月に大急ぎで書いた原稿と少なからずダブっている。

私見だが、明治10年がひとつの区切りと考えている。 それまで連綿と続いてきた「結社」と称される同好会が、第1回内国勧業博覧会あたりから断ち切られつつあり、その後に各ジャンルごとに細分化され、学問(プロ)の世界に収斂されていく。

まずは考古学から、美術は観古美術会、龍池会と。
試問ではちょっとこのあたりを質問しようかとも。

原稿が大急ぎだったので、許しを得て『観古図説』(個人蔵)をスキャンしたが、彩色の部分が皺になっている。
彩色部分に透き漆か卵白を塗ったとする説〔青木茂「蜷川式胤について」(『〔新訂〕観古図説‐城郭之部』)〕があるが、皺の具合からみて卵白ぽい。

横にある口縁の断面図が新しい時代の到来を匂わせる。

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右手・左手

2020-2-7

琉球に関する書籍を読んでいると、「浦添ようどれ」に刻まれた阿弥陀の手相が左右逆で、中国からの影響を受けているとの文言。ご丁寧に播磨・浄土寺阿弥陀三尊像まで触れている。
そうだった?と「ようどれ」館の写真を見直してみると、やっぱり。

仏像の左右は、仏像自体の左右。「右手」といえば、見た時の左側の手。
阿弥陀は一般的な手相で、中国からの影響を受けているわけではなさそう。

そもそも論だが、中国で「無量壽立像(阿弥陀如来立像)」を見た記憶がない。左右逆はいわば南宋仏画の流行だったのかも。
「浦添ようどれ」西室に安置された英祖王(生没年:1229年~1299年)の頃には一般的な手相。
ちょっと残念。

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古物を守り伝えた人々―好古家たち Antiquarians―

2020-2-9

國學院大學博物館で開催中(~3月15日(日))。

来月にシンポジウムで発表しないといけないのだが、発表時間が分からない。
11:00から18:00までなのだが、趣旨説明を含め登壇者は10名。パネルディスカッションもあるので、1人30分程度か。

一昨年は、三重県立博物館「幕末維新を生きた旅の巨人 松浦武四郎」展の一環で「松浦武四郎研究の最前線2018」で発表を行った。
当日は再度の台風上陸にも拘わらず大勢の方が参加下さり、翌朝は始発の特急に乗車して帰阪した。

今回は”新型コロナウイルス”以外、何事もないように祈るばかりだが、「渋谷駅(工事)ダンジョン」がクリアできるかどうか・・・。

当日のパワポを大急ぎでつくる。

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棺を蓋いて事定まる

2020-2-10

終日、口頭試問。

人はどこでどう豹変、転向するかわからない。「人」はもとより「作品」もどう評価されるかはわからない。
どうしても「生きている」作家や作品の評価、批評は及び腰で、「提灯持ち」の記事・小文も多い。
よく聞く話だが、人気絶頂の作家の作品といえど、死後に市場で暴落、消えてしまう事例も枚挙にいとまない。

批評なり批判なりするのは「死んだ作家」の関するほうがラクなのだが、学生はそこが分からないので苦労する(ゼミでは口酸っぱく言っている)。
まぁ、「生きている」作家や作品は、根拠(事例や批判)をもって徹底的に非難するのがちょうどいいくらいだと感じるが、先行論文などは見当たらない。

現存作家や死後間もない作家を扱った論文が”礼賛文”にとどまり低評価であったのも、決して偶然ではないと思う。

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下殿

2020-2-12

滋賀・湖西地方へ所用。帰途、日吉大社へ参詣。
東本宮の下殿の扉が開いていた。

周知のように日吉大社は、山王権現と称され比叡山の地主神を祀る神社。そのため大塔も立つ神仏習合。本殿床下には「下殿」と称されるところには、本地仏、経巻、仏具など仏教関係資料が安置され、床下祭祀(おそらく仏式)が行われていた。
ところが近世より日吉権現祠官・社司VS延暦寺・社僧が激しく、しばしば問題をおこす。

慶応4年(1868)3月29日、大津裁判所より「神仏混淆御取分の御達」が日吉社に届く。4月1日には、社司が延暦寺執行代に「御内陣之鍵」の引渡しを申し入れ(鍵は比叡山側の管理だった)、
「一同御衣を着し、社頭へ相登、夫々取分仕侯、然に佛像佛具等は一所に囲置可申置議定に侯處、(中略)佛像佛器等は都て(すべて)為焼捨、跡へは真榊と唱、金にて造り清櫃に相納侯古物御紙体に祭替申侯、其節厨子等を社司共より打抛(なげうち)、又は多人数之内槍之石突等を以て打砕、火中敷侯趣、」
(鷲尾順敬「日吉権現神改めの始末」『明治維新神仏分離史料』7)

おそらく下殿には何も残らなかったと思う。
今、下殿は「特別祈祷」の場となっているが、ちょっと複雑。

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阿那律

2020-2-15

本日は涅槃会。常楽会とも。各地で涅槃図が広げられている。
時折、仏像調査の後に見せていただく。拝見していると不思議な涅槃図も多い。

涅槃図の右上には、息子(釈迦)の入滅を悼んで大急ぎで忉利天から雲に乗って降りてくる摩耶夫人。それを先導するのが阿那律。
英一蝶《涅槃図》(ボストン美術館蔵)の阿那律は、後ろの摩耶夫人を振り返り「めそめそしてないで、早う付いて来てこんかい!」といささかご立腹。

いっぽう横臥する釈迦の寝台の下には、釈迦の入滅を聞き卒倒する阿難(下図白い肌の男)。
傍らには、阿難の意識を取り戻そうと鉄鉢の水をかける男。この男も阿那律である。
阿那律、大忙し?

阿那律は祇園精舎での釈迦の説法中に眠ってしまい釈迦に叱られて不眠不休の誓いをたて常坐不臥。釈迦も眠ってもよいとしたが、阿那律はその誓いを全うし失明するが、天眼を得たとされる。

天眼第一の男。

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興福寺

2020-2-18

大学院(修士)口頭試問(副査)。

修論のなかに、廃仏毀釈の折に興福寺五重塔は250円で売却され、購入者は金目の金具類だけを取り出そうとして塔自体を燃やそうとしたが、延焼を危惧する近隣住民の反対で取りやめになったとある。
よく言われることだが、果たしてそうなのだろうか。

アバウトながら明治前半の1円を2万円として500万円。めぼしい金具類は相輪、風鐸ぐらいで到底500万円にはならない・・・。

もうひとつ。興福寺は廃仏毀釈となり現在の奈良公園となったという。これは誤りで享保2年(1717)の火災によりほぼ現在の状況に近い風景となっている。『大和名所図会』(寛政3年(1791))をみれば一目瞭然。

大学南校物産会、文部省博覧会と第1回内国勧業博覧会との違いを尋ねて、時間切れ。

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卒業生

2020-2-20

昨春に卒業したゼミ生よりLINE。広告代理店に勤務。
文化庁の某補助事業を知らないかとの問い合わせ。

よく聞く事業なのでぼんやりと知っていた。聞けば、某所がクライアントとのこと。
いやぁ、そこなら国宝や重要文化財もたくさんあるし、QRコード整備だけじゃなくて、ドローンやVRなども使えるじゃないかとアドバイス。
よく知る仏像も魅力のひとつながら、個人的には高精細で截金文様を見てみたいが、果たしてインバウンドまでつながるかは微妙・・・。

いつまでたっても指導?を受けるゼミ生。
いや、いいんですよ。ゼミ生の特権ですから(卒業後も)教員を大いに活用すべし。

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頂相

2020-2-21

電車を乗り継いで、某所にて頂相を拝見。
既に45年ほど前に市町村指定済。

有名な高僧の頂相、讃も有名な高僧、年紀もばっちり。本来なら重要文化財になってもおかしくない作品。

このたび修復の機運が高まり、事前調査。
軸が細巻なので横折れが著しい。これは中回しが固いことに起因する。面部の剥落著しい胡粉塗をどうするかなど、色々検討課題が山積。
しっかりした業者に相談しないといけないことに。

久しぶりに目が覚める絵画作品を見た。

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ラファエロ・ラブ

2020-2-22

美術史に限らず演劇などの尺モノを扱う場合、作品を見ることが最優先である。
若い頃から美術鑑賞が嵩じて極めたいと思う人もいるが、多くの人はある程度時間の余裕が必要である。しかし話をすると総じて最近の展覧会の話題に終始。
前後や同時代の作品や作家の動向などは全く出てこない。”ラファエロ・ラブ”一直線。
もう少し広く、深く見ていれば、話題も事欠かないのだが。

本日は大学院入試の口頭試問。
留学生(浙江省)は入国拒否のため欠席。再チャレンジだったので、ちょっと残念。

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(続)人間失格

2020-2-26

午後より会議が2つ。ひとつは別の会議とバッティングゆえ委任状出席。

会議にこの話題。ようやく来月からセルフへ。
とある教員が、企業に行って「お茶が出されると、この企業は(女性の社会進出を阻むので)危ない」と思うなどと話をしていたが、それなら文学部はもっと危ないじゃないかと思う。
何しろこんな悪弊はいまどき文学部だけで、ようやく今頃?という感がありあり。

新型コロナウイルスの影響で、某大学では早々に卒業式、入学式、オープンキャンパスの中止を決めた。
國學院大學のシンポジウム(250名)も小規模な研究会(50名)に変更、HPにも「当館として一般の方のご参加を積極的に奨励するものではございません。」と明記している。

判断、決断が遅すぎるのはいつものことながら、この時期に大丈夫だろうか。

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拝観寺院

2020-2-27

天気晴朗なれど、時折吹雪く。
関係者の方々と共に某寺院へご挨拶と調査のご相談に伺う。

調査の趣旨などの 口頭試問 ご相談。
拝観寺院なので、調査は閉門後との由。ご住職の質問や疑問に応えながら、20代後半の頃を思い出していた。

当時、飛鳥園の撮影に同行したことがある。
飛鳥園の小川光三氏と後藤親郎氏、そして恩師の先生と小生。
通用口で待ち合わせて閉門後、境内へ。先生は撮影準備中には、なにやらメモを取ったりされていたが、こちらはまだ20代なので他の方々に言われるまま、変圧器のツマミを回したり(光量が変わる)、そのほか諸々の雑用。

何枚かの撮影が終わると、執事の方が来られ「そろそろ・・・」と仰り、後片付けをして寺を出る。宿泊した記憶がないので遅い電車で帰宅したのだろう。
後日、同行した折の写真は「魅惑の仏像」シリーズの1冊となった。

30数年ぶりの夜間調査。
夜間調査ゆえ、あれこれ準備する機材も多いが、調査が叶うだけでも有難い。

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続々中止

2020-2-28

沖縄県立博物館から会議(3月15日午前)&講演会(同日午後)の中止連絡。
事前に開催可否の打診があったが、館の決定に従いますと返答してからの連絡。
残念には思うものの、やむを得ない判断。

26日の政府からの文化イベント等自粛の“お願い”以降、国立博物館や博物館・美術館は臨時休館、國學院大學の研究会も公式的に「中止」となり、うちも3月14日のプレ・スチューデントプログラムが中止に。

PC画面上の作成・執筆途中のパワーポイントやレジュメが次々と保存ファイルに。手帳の予定も抹消線が引かれる。

先週までは「いつ、どこで倒れてもおかしくない」過密な予定だったのだが、幸か不幸か「寸尺」に余地が出来た・・・。

写真は配布(実施)されなかった幻のチラシ。

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マスク

2020-2-29

大学へ。

名神高速沿いの通学路には桜が満開(河津桜ではない)。2月末ながら、ちょっとびっくり。
大学の桜は例年入学式の頃に満開となるが、この暖冬では3月中に満開ということもあり得るかもしれない。

通勤途上、一時期に比べてマスク姿の人が少ない・・・。もうずいぶん前からドラッグストアやスーパーには「マスクは完売しました。入荷の予定は未定です。」の貼紙がしてある。
2009年春の新型インフルエンザ流行の時もそうだった。当時(2009-5-16~18)の「日々雑記」から。
17日夕刻、(地方での)調査を終えてホテルにもどる頃に家人より電話。
「マスクが、どこにも置いて(売って)いないっ!」と悲痛な声・・・。
出先ではまだマスクがありそうなので、土産代りに買って来いとの由。確かに道行く人のマスク姿は皆無に近い。へぇい~。
不審がられるも、大型ドラッグストアでマスクを大量に買い込んでホテルへ。
夕食後「マスクはどうなった?」と再び電話。尋常でない様子に驚き、TVを付けると、三宮駅前での全員マスク姿の異様な光景。大阪や神戸に戒厳令が敷かれたような報道ぶり。大学は?と呑気にも大学HPをみると、PTAの短縮・中止や休講の告知。今週いっぱい休講・・・。
翌日の地方紙朝刊には全員マスク姿の「教育後援会総会」の写真も。
むぅ、予定通り大阪へ帰るべきなのか・・・。
今回は時期が時期だけにそうならないことを願うばかり。

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