はじめに
I 1950年代までの輸入代替進行局面
II 1960年代における工業化の停滞局面
III 「ブラジルの奇跡」―高度成長局面


むすびにかえて



 ブラジルでは輸入代替による工業化を進めるため50年代を通じて,政府系企業は インフラや基礎的投入財産業を,外国系企業は耐久消費財を含む技術集約的産業を,民族系企業は非耐久消費財産業などを各々分担する「三つの脚」企業体制が形成された。50年代の政府系三大製鉄所体制の形成はその欠くことのできない構成要 素であった。同時に,この「三つの脚」企業体制の形成は,(1)鋼板が非鋼板とは 対照的に大量生産に適合的な生産体系を,したがって大規模な設備投資を必要とし,(2)外国系企業によって担われている自動車等鋼板需要産業向けに,鋼板を安定的に低価格で供給する必要があったこと,以上2点の理由から鋼板供給という政府系鉄鋼企業の戦後的特徴を確定したのである。

 そして「ブラジルの奇跡」を生んだブラジル・モデルは,この「三つの脚」企業体制を前提とし,これを意識的に利用して成長を図る戦略であった。「三つの脚」企業体制の下で外国系企業が支配的となった自動車産業が成長基軸として位置づけられ,自動車産業が本来的に持つ高い産業連関効果を利用しての経済成長の実現を 図ろうとした。この連関効果が輸入誘発的にではなく,関連産業誘発的に作用させる前提として自動車用鋼板を供給する政府系三大製鉄所が位置づけられ,大規模投資も行われたのである。こうした自動車等の耐久消費財需要と政府部門の投資需要によって高度成長が実現したが,自動車産業が急伸するなかで,鉄鋼業をはじめとする基礎的投入財産業は,その需要に生産も大規模な設備投資も追随することができず,鉄鋼輸入の急増も招いたのである。

 にもかかわらずその設備投資は,資本財の輸入急増―貿易赤字増大を招きブラジル・モデルの崩壊要因に転化するのであり,鉄鋼業もその例外ではなかった。そしてこの過大とも言える政府系企業の設備投資は,第1次石油危機後その経営を急速に悪化させていくことになる。

 以上をもって,「奇跡」までのブラジルの工業化過程における三大製鉄所を中心とする鉄鋼業の位置と役割は,基本的に確定できたと思われる。次稿では,ブラジル・モデル崩壊後においてこれを検討する予定である。



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