日々雑記


齢を重ねると

2017-10-2

某日の調査。4尺ほどのケヤキ材、一木像。内刳りなし。
須弥壇から仏像を下すのに一苦労。但し当初部調書はあっという間(そのぶん後補部分が難解)。

齢を重ね、まず老眼のゆえ檀像の観察が難しい。眼鏡を外さないと細かな個所が見えない。
次に重量のある仏像。とてもじゃないが、ひとりで須弥壇から降ろすことすら出来ない(今回も大人4人がかり)。従って背面の撮影や観察が難しい。
大御所の先生方はどうやって研究されておられるのだろうか。

平安初期彫刻を研究できるのも若い特権だとシミジミ。
未だに腰が痛む・・・。

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渡辺節

2017-10-4

某市文化財審議委員会へ。
文化財の市指定や文化財行政への提言等々。

今日の議案は、とある建造物を登録有形文化財に登録してよいかの確認などなど。
指定(登録)候補の作品のうち絵画工芸、考古資料等は会議室まで運ばれるが、建造物や仏像、史跡などは我々が現地へ赴く。
大正9年、村野藤吾が師事した渡辺節の設計。独立し大阪に事務所を構えた早い頃の建造物。
建築史の委員曰く「50年ぐらい経てば重要文化財の候補にも」と。

今、見てもシンプルかつオシャレな建築である。もちろん異議なし。

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秋の展覧会

2017-10-5

そろそろ秋の展覧会シーズン。

東博の「運慶」展は既に始まっており11月26日まで。そのほか各地でも仏像展。

民博「よみがえれ! シーボルトの日本博物館」は来週10日まで。奈良県立美術館「不染鉄」展は11月5日(日)まで。

今夏の東京ステーションギャラリーでの同展は好評であったが、果たして奈良では?という観測。正強中学・高校(現学校法人奈良大学)の理事長・校長を務めた人物であるがゆえ注目の展覧会かも知れない。
道を反れながら絵を極めたと人生と作品を見るのもいいかもと思う。

でも、なぜ「後援」に奈良大学が入っていないのだ。正倉院展でも無関係な京都美術工芸大学が入っているのに。
不染鉄は関係者だぞ。

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ブラックボックス

2017-10-6

今年の正倉院展の主な出品資料のひとつに「緑瑠璃十二曲長杯」。今年のポスターにも使用されている優品。

このガラス器の製作時期には異論もある。ガラスの東西美術交渉史の専門家でもあり、ガラス工芸家でもある由水常雄氏である。
氏は、この作品を中国・清代の作品とされている。詳細については由水氏の著書『ガラスの道』『ガラスの話』(新潮選書)に拠られたいが、後年なるほどと思った記憶がある。

我が国最初の正倉院宝物図録である『東瀛珠光』三(明治41年・審美書院)には「紺琉璃盃(紺琉璃坏)」「白琉璃瓶(白琉璃水瓶)」「白琉璃碗」「紺琉璃壷」の各ガラス器が揃って掲載されている。白琉璃高坏と緑瑠璃十二曲長杯は未掲載である。
天平の国際文化を否定するものは許さんとばかりに氏の清代説に対して「猛烈な感情的反撥」(『ガラスの話』)があったらしい。

正倉院はある意味ブラックボックス。

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飛鳥史学文学講座

2017-10-8

午後から明日香村で飛鳥大仏についての講演(飛鳥史学文学講座)。

連続講座ながらこれまで飛鳥地方や奈良に関する講演が少なく、主催者側も参加者数を大いに気にされていたが、満席近い参加があって、主催者も小生も安堵。

講演を終え、近傍の橘寺に行き聖蔵殿(収蔵庫)〔特別公開〕で日羅像、地蔵菩薩像をまじかでじっくりと拝見。聖蔵殿には「聖徳太子絵伝」7・8幅(7幅に飛鳥大仏登場)や幕末期の「日蓮上人画像」や「山越阿弥陀」も展示。
ちょっと、不思議といえば不思議。

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シーボルト展

2017-10-10

授業前に民博「よみがえれ! シーボルトの日本博物館」展へすべり込み。

ある分野に特化したコレクションではなく、様々な資料が展示。見ていると、明治初期の博覧会を彷彿とさせる。
シーボルトが滞在した頃に見慣れたモノを収集したようだが、土地柄、長崎に関わる資料が多い。彫刻だと千里眼像や「酒屋町 九皐斎」「仏師 九皐」の天神像。いずれも小像である。

昨今、大学や研究機関による在外日本コレクションの調査が多いが、内実は大変そうである。
法政大学国際日本学研究所の「在欧博物館等保管日本仏教美術資料データベース」などみれば、江戸時代の作品がずらり(もちろん古い作品も含まれるが)と並ぶ。なかには製作時期「Unknown」「1603-1867」などもあって、かなり難しそう。

大急ぎで大学へ。

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行基伝承

2017-10-14

終日曇天。午後より大阪狭山市立郷土郷土資料館(府立狭山池博物館内)「行基伝承ー受け継がれた記憶ー」展へ。

唐招提寺からも「大僧正舎利瓶記」「行基遺身舎利瓶塔」「竹林寺略録」等も出品のほか北摂や堺の絵巻物が展示。久安寺「久安寺縁起(真名縁起)」(貞享4年・1687)は「洛東隠人泰晋」筆。
おそらく元禄2年(1689)に東大寺聖武天皇像を彩色した「榎本法眼泰晋」だろう。近世東大寺の復興と大いに関わりありそう。

講演会にも参加。講師の先生は得度・授戒され頭も短髪。実践と研究の両輪。講演も「威儀」や「戒律」など興味深い話題が満載。
たいへんよく勉強した大満足の一日。

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雨師神

2017-10-15

終日、雨天。所用にて奈良県川上村へ。

目指すところ(集落)は雲の下。どうも道に迷ったようである。
焦りながら無事到着。

いつの間にか、村のHPもおしゃれにリニューアル。雨も降ればこそ、水の恵みにあずかることが出来る。

雨師神が鎮座する丹生川上神社(上社)へ参拝。
旧地(現在はダムの湖底)からは平安時代の遺構が出土したとの由。なるほど。

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農村の梅田

2017-10-19

うめきた2期区域の再開発事業に伴って梅田墓地の一角が発掘調査。
200体以上の人骨が出土。

調査自体はかなり心的ハードルが高いものの、様々なことがらが判明する。
梅田墓地は天満周辺に点在していた墓を集め1680年代に現在地に移転させたそうだが、骨や歯で梅田(農村)育ちか、天満(町中)育ちが分かる。農村と町中の人とは骨格はもとより副葬品も自ずと異なる。

現地説明会をしてほしいと思うが、参加者が卒倒しそうな場面が起こらないとも限らず、ちょっと厳しい。

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住所の移動

2017-10-20

I先生より山岸常人編『歴史のなかの根来寺』をご恵贈いただいた。あつく感謝。

根来寺大塔上層に安置された賢劫十六尊像は、銘記から文政13年(1830)に駒井柳朝が製作したことが判明。
ところが、銘記では「京三条上ル麩屋町駒井氏柳朝」で、『天明新増京羽二重大全』(天明4年・1784)では「同(寺町)通六角下ル町 法橋柳朝」と少し異なる。
住所(仏所)の移動があった可能性を指摘しておられるが、まさに卓見である。

京都では、天明8年(1788年)1月30日に史上最大規模の大火があり、御所・二条城など焼失したほか、当時の京都市街の8割以上が灰燼に帰している。
駒井柳朝もこの災難に遭遇し、住所を移動しなければならなかったはずである。
清水友学もこの時焼け出されて都富小路二条下ル所に借家を建てている。

京都の仏師事情はちょっと複雑。

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道成寺と日高川

2017-10-21

和歌山県博「道成寺と日高川」展へ。

件の仏像や仏像片、光背等をじっくりと拝見し、道成寺縁起絵巻を現代語訳に助けられながら見ていると、背後になにやら妙な気配・・・。熊野速玉大社《家津御子大神像》(国宝)。

日高川草紙などを見つつ最後の一室。見ていくと、《清姫鐘巻伝記》《道成寺宮子姫伝記》絵巻(共に文政4年・塩路鶴堂筆)。ともに初めて見る作品。
《道成寺宮子姫伝記》冒頭の海底で光り輝く観音像をみつける髪長姫の場面を見た時には「近代画?」と思ったほど。清流は応挙を彷彿とさせながらも、御所(?)の遠近表現といい、《清姫鐘巻伝記》のなかば蛇身に変わった清姫の背後の堤や集落、山なみの描写はもはや近代。大蛇を待ち受ける僧侶らの道成寺山門は下からあおった構図で描いており驚嘆。恐るべし塩路鶴堂。

いつもながら最後の最後まで堪能。

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選挙どころではない

2017-10-22

台風襲来。朝に投票を済ませて自宅。ただならぬ雲行き、雨風も激しい。
夜半には奈良・三郷町で大和川氾濫。浅香駅も水没。これは支流の西除川の氾濫による。

旧職で「魔の昭和57年」と呼ばれた年。
1982年8月1、2日にかけて「台風10号」による大雨と「台風9号崩れ」の低気圧による大雨で「西除川」が氾濫、阪和線・南海本線・南海高野線と国道26号が遮断され、孤立化した(当時、地下鉄御堂筋線はあびこまで)。大和川も氾濫し王寺駅も水没。20、21日には、ダイセル工場で爆発事故。従業員6名のほか市民にも負傷者や住宅損害が続出。

今ごろ、市職員は、投開票、避難所対応、水害対応とさぞ大変な時を迎えているだろう。そんな大混乱を市民はまったく知らない。

TVは相変わらずどこも選挙一色。大和川が氾濫寸前なのに危機感はまるでなく、情報はツイッターなどにおんぶにだっこ状態。

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評定

2017-10-24

某日、娘が関大英文科を出たという東海地方の方から電話。校友のPTA、まちがっても粗相があってはならぬ。

「大仏師云々と書いてある仏像を見てほしい」とのこと。もちろん快諾。実見したい旨を伝えると、まず写真をメールで送るのでと。よくあること。
ほどなくして送られてきたが、タイトルに「評定」という文言。ちょっと違和感。

仏像は厨子入阿弥陀三尊像。台座裏に書かれた大仏師云々は、大仏師法橋院海と読めた。院海の作品をいろいろ探すうち銘記の図版があって照合するとまったく問題ない。そこで各資料を添えて返答。

ほどなくして件の阿弥陀三尊像がヤフオクに出品されて16万円ほどで落札していたことを知る。騙された~(という思い)。
PTAなら人(教員)を騙すな、そうでなきゃ時間を返せ。

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銭湯カフェ

2017-10-27

午前中の授業を終えて某市文化財保護審議会へ駆け込む。

廃業の銭湯。戦前に開業し、登録有形文化財に指定したい旨。街中にあり、すぐそばにも市指定文化財の民家。この2棟を核にして文化拠点をと。

こうした利用はどことも行われるが、往々にしてボランティアの溜まり場や運営の発想となり、うまく機能していない。
「銭湯を町カフェにしてはいかが」と冗談とも本気とも思えぬ発言。

審議会終了後、「百聞は一見にしかず」で現地見学。
間口はやや狭いが、案外いけるかも。

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再び台風

2017-10-29

再び台風接近。
防災メールで目が覚め、その後も頻繁にメール。先週の台風で、土砂崩れでの浸水で人が亡くなっているので、ピリピリ。

午後には路盤崩壊のため阪和線が運休。
既に先週の台風で南海本線は鉄橋(築百年)陥没で不通となっており、大阪・和歌山間は、南海高野線橋本・JR和歌山線で大迂回の振替輸送。三角形の二辺の和は残る1辺の長さより長いという実例。
迂回して約2時間というが、こちらはほぼ毎日迂回しているようなものである。

和歌山市はほぼ孤立状態。明日からどうやって出勤されるのだろうか。

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