


わが国の福祉政策を取り巻く環境は、急激な変化をみせている。これらの変化には、三つの側面が背景にあることを指摘できる。
第一は、戦後の福祉行政が蓄積してきた制度的な疲労とひずみを解消するという側面である。
第二は、80年代から福祉国家に共通してみられた「小さな政府」の構築を目指す、いわば政治経済的要請という側面である。
最後は、新たな福祉社会を創造し、システム化していこうとする理念的、実践的要請という側面である。
これらを背景とした福祉政策の再編は、わが国特有のものではなくイギリスにおいて最も顕著にあらわれている。現在、イギリスではブレア政権のもと行政改革が進められ、市場原理に基づいた効率的な政府の構築が目指されている。ベバリッジ報告以来の福祉国家政策による公的責任システムが転換しようとしている。これらをふまえ、これまで「転換期の福祉国家における社会福祉運営に関する研究」というテーマを設定し、ここ数年間研究を継続してきた。この成果は2003年に大阪市立大学に提出した博士学位請求論文の一部となっている。
福祉国家の先駆的役割を担ってきたイギリスにおいて、伝統的な公的部門の責任と役割が転換しており、あらためて行政の役割とは何かが問われはじめている。また、現代の福祉政策・福祉行政は、サービス選択の自由とか公私協働とか、価値や民間との関係の中でとらえることが必然となりつつある。このような多元的な文脈の中で行政の位置づけが相対化されてきているのも事実である。つまり、価値としての公共性とは何か、公的部門の役割、民間の役割、独自性とは何か、をも視野に入れた研究も要請されている。
このような背景を踏まえ、今後の研究テーマを「転換期における福祉国家と公私関係の再考-日英を事例として-」と設定し、公的部門である行政の役割と民間部門である民間非営利組織、民間営利組織の役割について検討し、それぞれが有すべき役割と責任、また「福祉社会の構築」という段階における新たな公私関係について明らかにすることを目的として、今後の研究では、三つの視点から研究を試みる。


公的部門である行政の検討は、その実施してきた制度施策のレビューだけでは不十分であり、また、行政のみの分析も視野の狭いものとなってしまう。従ってここでは、第一に戦後の日英の福祉行政・政策の展開、第二に戦後の日英の福祉政策に関する公的責任の転換、第三に、現代の福祉政策・福祉行政の性格ともいえるが、公私協働、価値や民間との関係の中でとらえることの三つの分析軸を置き、公的部門の役割と責任を明確化していく。



