せっかく興味をもっても、いざ哲学書を読んでみようとすると抽象的な概念に馴染めず、途中で投げ出してしまう人が多い。しかしながら多くの哲学は、人間が日々体験している現実に立脚して思索を展開している極めて具体的な営みでもある。私の講義内容はたえず、その点をふまえて行うように心がけている。つまり、なるべく身近な例を挙げて、わかりやすく内容を提示している。
これまで2・3年次生の講義・演習科目で扱ってきた内容には、次のようなものがある。
○ われわれが事物(例えば机)を知覚する際、眼が感覚器官として働いている。光が眼球に入り込み、その刺激が伝達されて網膜像が結ばれる・・・。しかし身体はそうした機能だけを担っているのだろうか。机がそこで絵を描いたり、本を読んだりすることができる道具だという意味をもった対象となる場合に、身体の働きが関与している点を考えてみる。
○ 「言語と論理」というテーマを考察する。「論理」に関しては、コンピュータソフトを用いて、「述語論理」の基礎を身につける。これは単にコンピュータを使って論理学を学ぶというだけでなく、コンピュータと人間の思考様式に関する対比を考えるきっかけともしていく。「言語」に関しては、分析哲学や現象学の指示理論や意味論(固有名や確定記述)などを文献分析、報告(要旨発表)、討論を通じて検討していく。最終的には、コンピュータが実現している機能と、人間の心の機能を「言語のもつ潜在的な力」に注目して対照していく。
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