中国語教育学会関西地区研究会特別企画
ワークショップ『コミュニケーションのための「文法」を考える』

初版(2010/12/13),最終更新(2011/2/27)
問い合わせ先: 山崎直樹(関西大)ymzknk [at] kansai-u.ac.jp

CONTENTS

ダウンロード可能な資料

日時と場所

日時:
2011年3月5日(土)13時〜17時
場所:
関西大学岩崎記念館4F多目的ホール2
アクセス:
関西大までの交通手段関西大の構内地図

プログラム

第1部

13:00-13:20
コミュニケーションのための「文法」を考える(山崎直樹,関西大学)【要旨】
13:20-13:50
コミュニケーション文法教育の課題〜前置詞構文を例に(中西千香,愛知県立大学)【要旨】
13:50-14:20
コミュニケーション文法と語用論~親疎関係から見る中国語コミュニケーション(西香織,北九州市立大学)【要旨】
14:20-14:40
休憩
14:40-15:10
言語形式と機能とのリンクを探る—中国語初級教科書の文機能分析を通じて—(植村麻紀子,神田外語大学)【要旨】
15:10-15:40
コミュニケーションゴールからの逆向き文法学習—映画を見に行く約束をするのに必要な文法知識とは?—(鈴木慶夏,釧路公立大学)【要旨】

第2部

16:00-17:00
発表者によるディスカッション

各発表の要旨

コミュニケーションのための「文法」を考える

山崎直樹/関西大学

この公開ワークショップは,中国語の「コミュニケーション文法」の構想とその中国語教育への応用の具体例を示すものである。ここでいう「コミュニケーション文法」は,もう少し詳しくいうと,「コミュニカティブな中国語教育を行うときに参照できる文法」である。また,この「文法」は狭い意味での文法ではなく,もっと広い範囲をカバーするもの—第二言語として中国語を学ぶ者が中国語の構造と制約(文の構造,談話の構造,語用論的な制約......)を習得しやすいように,中国語の規則・習慣・傾向を明示的な知識の体系としてまとめたもの—を目指している。

コミュニケーション能力を育成する教育においても,教材を設計する際,あるいは教室での活動を設計する際,言語の構造と制約を参照することは避けられない。われわれは,この「コミュニケーション文法」を,このような参照(=コミュニカティブな目的が先にあって,そこから文法を参照する)を可能にする枠組みとして使いたいと考えている。この目的のためには,「文法」の開発と同時進行で,その中国語教育における有用性も検証して行かねばならない。われわれはその具体例も提示していきたい。

既存の学校文法は,母語話者のための文法をベースにしていること,「文」の構造の記述が中心であること,また,その文の構造の記述ですら,パターン化が不十分であること,談話における機能や語用論的な含意への視点が乏しいこと,などの理由により,非母語話者のためのコミュニカティブな教育には使いにくい。われわれの研究は,これを補うことを目的としている。

コミュニケーション文法教育の課題〜前置詞構文を例に

中西千香/愛知県立大学

コミュニケーション文法教育が目指すものはそもそも何なのか。より自然な表現を学ぶことなのか、平易な文法から自分の伝えたいことを言えるようになることだろうか。しかし、その表現が自然な表現からかけ離れていた場合、それをコミュニケーション重視の語学教育といえるのだろうか?

ここでは、よりコミュニケーションを円滑にするための文法教育を念頭において、文法積み上げ型の現行テキストがどこまでカバーしていて、どこが不足しているのか、テキストを超えて、実際の教学の現場で注意すべきことについて、前置詞構文を中心に考えてみたい。

また、どの前置詞を知っていれば、どこまでの表現が可能でコミュニケーションに有用かについても考えてみたい。類似する前置詞の中での使い分け、同じ表現でも他の文法事項を使って回避できる場合のニュアンスの違いについても考えてみたい。

コミュニケーション文法と語用論~親疎関係から見る中国語コミュニケーション

西香織/北九州市立大学

コミュニケーション能力を高めるには,文法知識等のほか,語用論的知識も必要になる。では語用論的知識をいかにしてコミュニケーション文法に取り込んでいくべきか。中国語において,どのような基準が言語行動に大きく影響し,そのストラテジーの選択に強くはたらきかけるのか。今回は,「親疎関係」というものさしを使って,中国語のいくつかの言語行動を概観したい。

言語形式と機能とのリンクを探る—中国語初級教科書の文機能分析を通じて—

植村麻紀子/神田外語大学

場面や対人関係などに応じた適切なコミュニケーションをするためには、文法的に正しい文が作れるだけでなく、ふさわしい言語形式を選択し、適切な談話を構成できる力が欠かせない。ところが、文法・構造シラバスで作成されている現行の多くの初級教科書では、ある表現がある場面においてどのような機能を担い、どんな表現意図を持っているかについてはほとんど注意されていない。ゆえに学習者は、「あなたは鉛筆を持っていますか」を“你有铅笔吗?”に直せても、実際に鉛筆を借りたいときにこの表現が思い浮かばないこともある。

今回の発表では、初級教科書の文機能分析を通して、取り上げられている文法項目や文型が、機能とどうリンクしているかに注目してみたい。

コミュニケーションゴールからの逆向き文法学習—映画を見に行く約束をするのに必要な文法知識とは?—

鈴木慶夏/釧路公立大学

逆向き文法学習とは、教育学における「設定された目標から遡って学習内容を決める逆向き設計(Backward Design)」という概念を、中国語の文法学習に援用したものである。本発表では、主に、(一)「映画を見に行く約束をする」というリアルなパフォーマンス課題にとりくむ過程で、学習者がどのような中間言語を産出したのか、(二)「映画を見に行く約束をするために必要な知識を整理して後輩にのこす」という課題にとりくむ過程で、学習者がどのような文法項目を挙げ、どのような説明を行ったのかを述べる。

(終わり)