「マルチメディアと図書館」研究グループ

研究例会報告


テーマ:「英国における知識情報基盤の形成とその要因」

発表者:呑海沙織(京都大学医学図書館)

日時:2007年7月28日(土)15:00〜17:00

会場:大甚


今回は呑海沙織氏に、単体としての学術図書館が知識情報基盤へと発展していく過程について、そのプロセスに大きな影響を及ぼしてきた英国JISCの事例を取り上げてお話いただいた。

英国の学術図書館は、単体としての学術図書館から始まって、やがて学術情報の著しい増加に伴い、互いを補完する必要が生じるようになると、制度的ネットワークの形成によって対応を図ってきた。そして、図書館を含めて広く学術コミュニティのための情報基盤の整備へと舵を取ってきた。2000年前後を境目に、さらに知識情報基盤の整備へと発展・拡張の途を辿っている。

1993年に設立された非営利団体である情報システム合同委員会(Joint Information Systems Committee: JISC)は、英国の高等教育及び継続教育を支援する知識情報基盤ととらえることができる。ここでいう知識情報基盤とは、「あらゆる教育・学習・研究に必要な知識及び情報を提供することによって、知識情報社会を支える社会的装置」である。JISCのように、継続・高等教育を対象として、総合的ネットワーク・サービス、豊富なコンテンツの提供、アドバイス、サポート、プログラム開発を全国レベルで一元的に提供する組織は世界でも類をみない。

学術情報基盤から知識情報基盤への変容ポイントは、アカデミックな潮流とボケーショナルな潮流の融合という視点からとらえることができる。1992年に継続・高等教育法が制定され、高等教育分野でのアカデミックな傾向を持つ大学セクターとボケーショナルな傾向を持つ非大学セクターの一元化が図られたのが第一のステップ。そして、1995年の教育雇用省の設置によって、初等教育から、職業教育・訓練を含む継続教育、高等教育、研究を政策的に一つの枠組みの中でとらえられるようになったのが第二のステップであった。

その中で、「全国資格フレームワーク」の策定が注目される。これはアカデミックな資格とボケーショナルな資格を連続した枠組みの中でとらえるもので、入門レベルからレベル8までの学術達成レベルの指針が示されている。

今回のお話から、JISCが報告書の作成、それに基づく政策策定、具体的な実行、評価、次の報告書、という、いわゆるSee, Do, Planのサイクルを着実に実行し、成果を挙げていることがうかがわれた。

なお今回の会場には、当会メンバーとのご縁から、梅田の割烹店「大甚」さんの格別のご厚意により、開店前のお座敷を拝借させていただきました。ここに改めまして、そのご厚意に対し心より御礼を申し上げます。

(文責:村上泰子)