「マルチメディアと図書館」研究グループ

第73回研究例会報告


テーマ:「デジタル・コンテンツのアーカイブとコンテンツ利用の周辺―OAIS参照モデルを中心に―」

発表者:堀池博巳(京都大学学術情報メディアセンター)

日時:2003年9月27日(土)14:30〜17:00

会場:大阪市立大学学術情報総合センター


近年、欧米を中心にデジタル情報の長期的な保存の研究やデータ構築が大学間の連携や国立図書館、公文書館、出版社などの共同研究・開発として進められている。デジタル情報の長期保存システム構築に関する指針としてISO規格(ISO 14721:2002)となったOAIS(Open Archival Information System)の参照モデルが基盤的指針として広く適用されつつある。

保存は情報の保存と利用の両方が問題となる。今回はOAISを中心にとりあげ、デジタル情報自体の保存機能としてのマイグレーションおよびアクセスの保存機能としてのエミュレーションについて報告した。なお、OAISはシステムの実装技術までは触れていない。

  1. マイグレーション

    デジタル情報の保存場所としてのメディアの老朽化や新しいメディアへの移行が考えられる。その方法としてマイグレーションがあり、種別として内容情報のビットシーケンスの変更をともなわずにメディアの変換を行うリフレッシュメント(Refreshment)、内容情報のビットシーケンスやパッケージ情報の変更を伴わずに複製を作成する複製(Replication)、パッケージ情報のビットシーケンスに多少とも変更を伴うリパッケージング(Repackaging)、内容情報の変更を伴うマイグレーションであるが、特定のアルゴリズムで変更を復元できる場合とできない場合の2通りがある変換(Transformation)がある。

    マイグレーションは一括して行う方法と必要の都度行うマイグレーション・オン・リクエストという方法がある。コスト問題も重要であり、いずれの方法を用いるかは組織の判断による。

  2. エミュレーション

    OAISではアクセスの保存には3つが想定されている。(1) API(Applicatin Programming Interface)を保存すること。(2) アクセスのためのソフトウエアのソースコードを保存すること。(3) エミュレーションによるアクセスの保存を行うこと。これ以外に、その他の技術動向として、テキスト情報に焦点をあてたXMLの活用が検討されている。

    計算機技術の急速な進展によって、デジタル情報の保存物の呼び出しや再現はエミュレーションが1つの解決策である。エミュレーションはある計算機環境で表現されていたものを別の計算機環境で再現することである。古いプラットフォームで表現されていたものの情報を抽出し、新しいプラットフォームに再現するためのエミュレータ・ソフトを絶えず更新することの重要性や困難性があり、コスト面からの問題も指摘されている。

  3. 保存のための媒体

    情報保存の媒体も変化が激しい。紙媒体は電子メディアに比較して寿命は遥かに長い。磁気テープや磁気ディスクなどは20年から30年くらいの寿命である。保存可能な情報内容に依存するがマイクロフィルムも保存媒体としての検討が行われている。例えば、テキスト情報に限定できるものなど。

  4. 情報保存のためのメタデータ

    記述する情報の特徴として、(1) 保存に関する意思決定や保存のための行動を支援ための技術的な情報。(2) マイグレーションやエミュレーションの情報保存のための活動を記録するための情報。(3) 長期間にわたって保存していく情報の真正性を保証するための情報。(4) 保存管理、知的財産権の管理についての注意事項を記載するための情報。などがある。

    メタデータの項目としては例えば、Cedars(英、CURL Exemplars in Digital Archives)プロジェクトではダブリンコアをベースに設計されている。

    いずれの方法についても、これが最良というものは見いだされていないのが現状である。

討論の中で、各機能の説明において、どこかのWebページを例にして保存作業の流れの解説があればよかったという指摘があった。

(文責:堀池博巳)