「マルチメディアと図書館」研究グループ

第48回研究例会報告


テーマ:「世界の情報通信--IT革命の現状と課題--」

発表者:北克一(大阪市立大学)

日時:2000年12月23日(土)14:30〜17:00

会場:大阪市立大学学術情報総合センター


<はじめに>

今回は、図書館の情報提供を考える上で必須のインフラである通信をテーマに、海外と比較を通して、日本の現状と課題について報告された。

10月17日、高度情報通信ネットワーク社会形成基本法案(IT基本法案)閣議決定があり、世界最高水準の高度情報通信ネットワークの形成や教育、学習の振興と人材の育成、電子商取引の促進などをはかり、必要な施策を講じていくことが確認された。また事業者の分割、放送事業への参入、等通信業界の動きがめまぐるしい。IT革命と声高に叫ばれている中で、日本の通信インフラの整備状況は諸外国と比較してどのレベルにあるのか、冷静に見極めておくことはわれわれにとっても重要なことである。

<海外の情報通信から>

欧米およびアジアのインターネット利用者と普及率がグラフで示されたほか、米国、欧州における通信事業者の買収・合併動向から、通信線の提供事業とコンテンツとの融合が指摘された。このほかeEurope計画における優先的10分野と先のIT基本法案との比較から、日本の1周遅れの状況が明らかにされた。そして通信と放送のトピックスおよび通信、放送、出版とインターネットの視点から、急速に進むメディアの融合の中身について分析された。

<日本のネットワーク・パワーから>

インターネット・トラフィックとバックボーン帯域について日米を比較すると、日本はピークトラフィック値が米国の半分程度であるのに対して、帯域幅は5〜8分の1ほどしかない。またインターネット利用時間についても米国が1週間に20時間以上と答えたユーザが40%以上いるのに対して、日本で最も多い回答は1〜5時間であった。トラフィック・パターンも米国では生活時間帯にまんべんなく利用があるのに大して、日本では深夜の利用が多い。一方通信線の利用料金の構造をみると、日本では近距離が割高になっており、またヘビーユースでの利用料金が非常に高い。これらの状況から"Everything on IP"の時代を迎える一方で、通信のボトルネックの問題や、インターネットの影の部分である著作権問題、デジタル・デバイド問題、ネット犯罪問題などの問題が山積していることが指摘された。

<おわりに>

さいごに、同じ電子商取引といっても、金融・生保や通信・放送のように物流をともなわずビットのみの流通によるものと、オンライン書店のように物流をともなうものとがある。また"B to B"、"B to C"についても、ネットとリアル・ワールドを何がどのように往来することをイメージしているのか、そしてどの部分にどのような障害があるのか、ということが明確にされないまま議論されており、今後の図書館サービスの展開を考える上でも、このあたりを明確にする必要がある、との指摘で締めくくられた。

(文責:村上泰子)