「マルチメディアと図書館」研究グループ

第28回研究例会報告


テーマ:「海外の図書館事情−アメリカ西部の大学図書館−」

発表者:山中節子(京都大学附属図書館)

日時:1998年11月28日(土)15:00〜17:00

会場:大阪市立大学あべのメデックス


<はじめに>

今回は、京都大学附属図書館の山中節子さんを迎え、約2週間にわたって視察されたアメリカ西部の大学図書館事情について報告をいただいた。この図書館訪問は「平成10年度京都大学講演会助成金第I類第I種(海外派遣)」を受けた第1号である。参考調査掛に所属されていることから、参考調査サービスおよび電子化サービスを中心に調査をされた。

<スタンフォード大学>

図書館長のもとに従来の図書館部門および情報関連のサポート部門が統合されている。OPACはtelnet版とweb版の両方が提供され、学生にはweb版の人気が高いが、図書館員は複雑な検索にも対応可能なtelnet版を好んで利用している。CD-ROMは現在はスタンドアローンだが、ネットワークタイプのものへなるべく切り替えたいとの意向である。プリントアウトに関しては来年から有料が予定されている。ホームページの情報量が豊富で、アクセスする人間の思考パタンが良く研究されたリンク構造となっている。また最近は電子出版事業も開始し、論文誌15誌ほどが提供されている。

<カリフォルニア大学バークレー校>

京都大学附属図書館とほぼ同じ規模であるが、学生アルバイトの数(フルタイム換算で約400名)はバークレーが圧倒的に多い。バークレーの東アジア図書館は日中韓あわせて80万冊の蔵書量を誇っている。英語で情報を発信できるという強みを活かし、日本語を母国語としない日本研究者へのサービスを積極的に行なっている。

<カリフォルニア大学ロサンゼルス校>

東アジア図書館の蔵書はOPACで検索することが可能である。目録はOCLCに参加して維持している。分類は1972年からLC分類を採用してきたが、十進分類への移行を検討しているとのことである。また最近の特徴として電子メールによるレファレンスの受付けを実施していることが挙げられるが、量的に膨大である(日によっては午後2時ごろまでメールへの応答作業に忙殺される)ため、何らかの対策を講ずる必要がある。

<その他>

このほか、東のMITと呼ばれるカリフォルニア工科大学の工学図書館も訪問されたが、ここは入館から検索結果のプリントアウトに至るまでIDカードで管理される最新式の設備を備えた図書館とのこと。また最後に、私的に訪問されたサンフランシスコ公共図書館とロサンゼルス公共図書館についても紹介していただいた。

アメリカの図書館も現在新しいメディアの対応に取組んでいる途上であり、今後も日々変化していくだろうと思われる。実際、1年後、2年後に訪問するとまた全く違った状況が見られるだろう、と締めくくられた。

<質疑等>

大学図書館については、いずれの図書館も情報コンセントが閲覧室にごく当たり前に設置されているという報告が印象的であった。閲覧室におけるパソコン利用については、日本ではキーパンチの騒音問題が懸念されているが、アメリカのおおらかさゆえか、このような問題は生じていないとのことであった。

電子メールによるレファレンスの受付けについては、特に大規模な図書館になればなるほど無制限に受け付けることは処理量の点から不可能である。受付ける範囲をホームページに明記しておく必要がある。

UCLA東アジア図書館における十進分類への移行検討には、RLINにTRC-MARCが参照MARCとして提供されるようになったことが影響しているのでは、という指摘がなされた。

(文責:村上泰子)