「マルチメディアと図書館」研究グループ

第27回研究例会報告


 

テーマ:「デジタル情報と著作権−1998年の動き−」

発表者:村上泰子(梅花女子大学)

日時:1998年10月24日(土)15:00〜17:00

会場:大阪市立大学学術情報総合センター


<はじめに>

今回は、著作権と図書館をめぐる問題についてこれまでの経緯を概観した後、今年に入ってからの著作権と図書館をめぐる動向について報告した。

<複製権>

1998年5月21日、著作権審議会マルチメディア小委員会複製検討班の第3回会議が開催され、出版関係者からの意見聴取が行われた。そこでは複製物の増殖に関する懸念や補償金制度等についての見解が示された。図書館の補償金については利用者からの徴収を考えているとのことであった。

同検討班の第4回会議(6月)においては、レコード業、美術業、文芸業の各関係者からの意見聴取が行われた。特に文芸業関係者からは電子図書館における複製問題に日本複写権センターが取組む考えであることがコメントされている。

このような動きに対して日本図書館協会は9月付で「著作権審議会マルチメディア小委員会複製検討班における複製に係わる権利制限規定に関する検討への意見」を発表、著作権法第31条の存続とネットワーク利用に伴う複製権および公衆送信権の制限条項を設けることを要望する見解を示した。

一方、国立大学図書館協議会著作権特別委員会は1998年5月に前年度の活動報告を公表した。ここでも、コイン式コピー機問題、相互貸借問題、資料のFAX送付問題についての検討が続行している。

<ビデオ上映>

映画の著作物およびその複製物の上映に関しては著作権法第38条1項で図書館において上映する際、非営利無料であれば許可なく上映可能であることが定められている。しかし、この権については映画関係者から強い見直し要求が出されている。日本図書館協会著作権問題委員会ビデオ専門委員会と日本映像ソフト協会業務使用対策委員会ワーキンググループは1997年9月から1998年6月にかけて数回にわたって協議が重ねた結果、同年6月26日に日本図書館協会と日本映像ソフト協会の間で「了解事項」への調印を行なった。双方が合理的な条件のもとに実施を取り決めることを各参加機関に推奨し、今後も引き続き協議を重ねていく、という内容である。要は、両者がようやく同一のテーブルにつくことについての合意がなされたばかりであり、実際の契約内容等については依然として今後検討すべき課題として残されている、ということができよう。

<データベースの著作権>

データベースの著作物については編集著作物の延長上にあるものとして、データの配列や編集に独自性が見られる場合のみ権利が認められていた。しかし1996年にEU指令は、データ配列等の独自性の如何によらず、資本投下に対して保護を与えることを定めた。WIPO外交会議でもこの問題が俎上に上ったが、結論には至らなかった。その後も継続して審議が行なわれているが、単に資本投下があったことだけで、そのデータベースを保護する必要があるかどうかに関しては懐疑的であり、現在のところはこのようなものについては保護しない方向に向いつつある。

またデータベースに限らずデジタル情報使用に関して、8月4日時点で下院通過した"Digital Millennium Copyright Act of 1998"の中でも図書館等の公正使用について言及されている。

<質疑>

デジタル資料の複製物増殖の問題については、ウォーターマークの技術などの進歩によって技術的にはほぼ解決している、との指摘があった。現在はそういったプロテクト技術を回避したり、改ざんしたりするような技術に対しての法整備が進行中である。

(文責:村上泰子)