会社概要
商号 アサヒビール株式会社 ASAHI BREWERIES, LTD.
本店所在地 〒104-8323 東京都中央区京橋 3-7-1
設立 1949年9月1日(昭和24年)
資本金 177,664百万円(1999年12月31日現在)
従業員 4,193人(1999年12月31日現在)
売上高 1,052,513百万円(1999年1月?12月)
今回の焦点
辛口と鮮度を売り物にして、今や業界最大の出荷量を誇るスーパードライ。今回はその生まれ、特に辛さへの追求を対象とした。
ドライの辛さの物語
アサヒは昭和59年の年間出荷量で会社始まって以来9.9%というの史上最低のシェアを記録した。しかし逆にいえば落ちるところまで落ち、捨てるものが何もないという状況だ。思い切った発想ができることになったといえる。
消費者の求める味へのアプローチを模索し始めたのは昭和60年8月、大阪支店次長から本社マーケティング部副部長として戻ってきた松井康雄を中心とするマーケティグ部の若手社員と技術開発部長の薄葉久を中心とする製造グループの面々であった。松井の考えでは「今、内の会社に欠けているものは、マーケティング的発想と実践だ。ビールはイメージ商品だという従来の観点からの発想ではいけない。消費者はビールを味で選ぶのだ。味がわかるのだ。いい商品を作れば必ず売れるはずだ」ということが念頭にあった。
松井がマーケティング部に来る直前に、マーケティング部と技術開発部は中心となり、5000人を対象とした嗜好、味覚調査を実施していた。調査前の予測では、キリンのシェアが反映され、6割近くが苦味を求めていると予測されたが、調査の結果は若年層を中心に口に含んだときの味わい、そして、「のど越しの快さ」を挙げているという事実で、これをビールの業界用語に翻訳すればコクとキレということになる。この調査からアサヒのコクとキレの追求が始まった。ビールマーケティングを独学で勉強してきた松井康雄が大阪支店からマーケティング部副部長として本社へ戻ってきたのは、絶妙のタイミングといえる。
その時の松井の持論はこうである。「ビールとはその90%は水である。アルコールは4.5%、あとは炭酸ガス0.5%と5%のエキス分で成り立っている。そしてこのわずか5%のエキス分が、味の決め手になる。」これが、新しい味への挑戦につながる。
そして昭和61年2月19日アサヒはついに〈コクがあるのに、キレがある〉というコンセプトを元にアサヒ生ビールという新商品を世に送り出した。しかしアサヒはこの新商品が発売となった頃には「苦味や重みが強くなく、すっきりしたクリアな味〈味感がさらりとし、後味がすっきりした、言わば辛口のビール〉」後のスーパードライの開発に着手していた。さまざまな試行錯誤の結果、昭和62年3月17日ついにスーパードライが誕生した。
(文中敬称略)
スーパードライの販売戦略
1.消費者ニーズに応えた原材料へ
?非遺伝子組み替えトウモロコシの採用?
1999-9-24日経、9-25朝日。アサヒは2000年4月までにビールの副原料のトウモロコシを遺伝子組み換え技術を使っていないものに全量切り替える。アサヒはトウモロコシを砕いたコーングリッツと粉状にしたコーンスターチを年間あわせて約15万トン使用しているが、ほとんどを大手商社経由で米国から調達している。そこで10月より順次、組み換え原料の混入のない分別流通品などへの切り替えを進める。調達費用は約2割高くなるが、製品価格は据え置く。製品に組み換え不使用を表示するかどうかは今後検討する。「全量切り替え」を決めたことについて、アサヒは「商品の安全性は絶対の自信がある。だが、一部の消費者の中で不安感が高まっていることを受けた」(広報部)としている。
2.さらなる出荷量を求めて
?7製品販売中止?
2000-3-21日経。アサヒは新製品を含む15製品のうち、約半数の7製品について近く販売を中止する。製品の絞り込みにより、年間50億円程度浮く見通しの広告費や販売促進費をスーパードライなど主力製品に振り向け、経営資源の「選択と集中」を加速する。アサヒが生産・販売を中止するのは、全国で販売していた「ビアウォーター」と「フォーストレディシルキー」の2製品と地域限定販売の「道産の生」「福島麦酒」「江戸前生ビール」「四国工場蔵出し生」「博多蔵出し生」の5製品。昨年発売したビアウォーターとファーストレディシルキーは売れ行きが低迷、メーカー各社が相次いで投入した地域限定ビールも一時のブームが去ったと判断した。
成功要因について
今回はビールの辛さについて焦点を当てたので、成功要因に直接触れることはなかったが、前回の内容を参考までに記しておくと、キリンの「ラガー」との直接対決を避けて新しい味を作り出し、またナレッジマネジメント(知識管理)による顧客満足の改善、意志決定の迅速化を図ったという2つの要因が挙げられている。?その時、ライバル企業は何をしていたか?
またライバル企業も、ただ手を拱いていたわけではなく、税制上優位に商品展開できる発泡酒の分野(注)に、サントリーが94年参戦し、その後サッポロ、キリン、オリオンが参加した。96年の増税を経ても市場は拡大し、ここ二ヶ月間(9.10月)はビールと発泡酒の合計出荷量の25%を占めるに至っている。土俵をかえてスーパードライではなく、アサヒビールの包囲を試みたのである。これによりキリンは、ドライにラガーのシェアの侵食を許したが、発泡酒を含めたメーカーのシェアで見ると、アサヒを抑えている。
しかしながら、アサヒも発泡酒を来春投入するとの事なので、発泡酒への増税問題は見送るという追い風をうけ、ドライでの成功をどのようにいかせるのか、今後も目が離せない。
(注)ビールの税金について
現在、ビールと発泡酒は使用する麦芽量により区分されている。税率の詳細は下記の通り。麦芽比率 酒税額(1リットルあたり)
ビール 67%以上 222円
発泡酒 50%以上 222円
66%未満
発泡酒 25%以上 152.7円
50%未満
発泡酒 25%未満 105円 (→現在の製品は、ほとんどこの麦芽比率25%未満の製品)以上
参考資料 産経新聞
毎日新聞
『情報・知識imidas 2001』集英社
石山順也著『アサヒビールの挑戦』 日本能率マネジメントセンター
引用元 藤沢摩彌子著『アサヒビール大逆転』文藝春秋
「アサヒビール?」のホームページ
「とりあえずビール」のホームページ
メンバー
岡本隆広 河村祐介 杉谷祐治 亀井清司