ケースで用いられたスクリプト



 

ケースの追加分析


購買関連性アプローチの検討

    上記のケースは、顧客知識を販促に利用し効果があるかどうか検証する実験であり、その結果、効果的販促に寄与しうるという結論を得た。しかし、顧客知識を利用するアプローチや手続きの十分な検討は行われていない。この章では、ケース中に用いられたアプローチや手続きについて、さらに詳細に検討し、問題点や今後、改善されるべきポイントを明らかにする。

    顧客セレクトの基準の検討

     今回、関連商品による顧客セレクトに際して、購入種類数を基準として採用した。つまり、ラビナスと関連のある商品をある基準値以上の種類数(3種類)を購入している顧客をセレクトすることによって、潜在的な需要を持つ顧客に絞り込もうとした。しかし、この購入種類数によるセレクトは、現場の知識から考えられたもので、科学的に有効性が証明されているわけではない。そこで、その他のいくつかのセレクト条件と比較し、この方法の妥当性を以下で検証する。
    (3-5月の販売データをブランドコードでソートするスクリプト)
    (購入確率の高い順にマスター作り) >highbrand.mf
    1. 関連商品の購入種類数によるセレクト
    この基準はケース中で取られた方法であるが、関連商品(購入確率6%以上)を3種類以上購入した顧客をセレクトする方法である。関連商品を1種類だけ購入した顧客は、偶然その商品を購入したのかもしれない。そうした不確実性を削減するために、関連商品を3種類以上という複数条件をつけ、顧客をセレクトした。ただし、この3種類は関連商品であれば、どのような組み合わせでもかまわない。
    2. 購入確率上位1ブランドによるセレクト
     これは、図2にあるように、購入確率の高いブランドを求め、購入確率の高いブランドの上位から、それを購入している顧客をセレクトし、一定の人数になるまで下位のブランドの購入顧客をセレクトする方法である。顧客は例え、1種類でも購入確率の高いブランドを購入していれば、セレクトされることになる。(sel1.scp) > sel1.mf
    3. ラビナス購入量によるブランドセレクト
     この方法は、ラビナスの購入確率によって関連商品を設定するのではなく、購入量によって関連商品を設定し、それをもとに、顧客をセレクトするやり方である。この方法において、条件となる商品の購入量(購入確率における分母)は、考慮されていないため、ラビナスとの購入関連性が十分に満たされるとはいえない。実質的には、購入合計金額の多い顧客がセレクトされることになる。
    4. ランダムセレクト
     この方法は、ランダムに顧客をセレクトする方法である。ただし、上記の3条件と同じく、ラビナス未購入者、月来店3回以上という最低条件は、満たしている顧客に限る。

     これらセレクト条件の妥当性を比較するために、実験を行った結果が図1である。横軸は、期間、縦軸はそれぞれのセレクト条件に当てはまる顧客が購入したラビナス商品の累積購入量を示している。実験店はDMを送付しているために、ラビナスとの関連性に誤差が出ると考えられるため、実験店以外の類似の店舗(会員数、立地条件、規模)のデータから、実験を行った。母集団となる対象顧客は25188人であり、1405000レコード、312MBのデータ量であった。下記の条件で選ばれる顧客は、4922人にそろえられている。図から分かる通り、ランダムに顧客をセレクトするよりは、何らかの基準(関連商品)でセレクトするほうが、ラビナスの潜在的ユーザーにヒットする確率が高いことが分かる。さらに、ラビナスの購入量で関連商品を決めるより、購入確率で選んだ方が効果が高く、また高確率の上位1ブランドによるセレクトよりも、確率の低いブランドでも複数種類のブランド購入する方が、ヒット率が高いことが推察される。さらに効果を高めるためには、最も購入確率の高い関連商品の組み合わせを求め、それを条件に顧客をセレクトすることが考えられる。ただし下記に示す通り、この手法は、関連性の高い商品のすべての組み合わせを求めなければならず、現実的には、難しい問題になる。結論として、現段階では購入種類数で顧客をセレクトする方法は、ある程度、妥当性があるということができる。
     

    購入確率アプローチのパラメーターの妥当性検証

     上記の分析によって、購入確率の高いものを関連商品と設定し、それらの購入種類数で顧客をセレクトする方法の有効性が明らかになった。しかし、その詳細な手続きに関して、必ずしもベストの手法ということはできない。例えば、関連商品を3種類以上購入した顧客をセレクトしているが、この3種類という基準に明確な根拠はない。ここでは、この種類数の基準に関して、検討する。
     図2は、購入種類数ごとの累積販売量の比較のグラフである。横軸は期間、縦軸はそのグループに属する顧客の累積販売量である。ただし、それぞれのグループの対象顧客は、セレクト条件に合致した顧客から、ランダムに500人をセレクトしたものである。これを見ると、6種類以上購入から、購入種類数とラビナス購入量との間になんらかの関係があることが推察される。特に、7、8種類以上の顧客グループは、他のグループと比較しても、非常に関連性が高いことが分かる。
     図2の累積販売量の比較では、6種類以上と7種類以上では、比較的大きな差が出ている。この原因は、顧客の行動パターンの違いから来るものと考えられる。図3は、期間中のラビナス購入数の人数分布をそれぞれのグループごとに出したものである。ここから、6種類以上は、期間中ラビナス購入量1個の顧客の割合が、7,8種類以上のグループよりも高いことが分かる。つまり、6種類以上のグループは継続的にラビナスを購入している顧客が少ないということがいえる。
     パラメーターの最適化に向けて、関連ブランドの購入種類数に焦点を当てると、6ー7種類以上にする必要性が有りそうなことは推測できる。しかし、例えば、6種類以上と7種類以上のどちらを採用すべきかは、さらに詳しい分析が必要になる。例えば、6種類以上の顧客のラビナス購入個数別人数分布は1個購入が多く、継続買いの顧客が少ない。継続買いの顧客を重視したい販促ならば、7種類以上を選択するのがベターかもしれない。
     ここでは、関連ブランドの購入種類数に焦点を当てた。もちろん、その他のパラメーターについても、今後検討する必要がある。例えば、関連ブランドを決定した際の基準、購入確率6%以上である。購入確率3%や4%、もしくは6%や7%と比べて、そのように効果が変わるかなど、今後、分析される必要がある。
     

    累積販売量以外の評価基準

     上記の販促方法の評価は基本的に、それぞれのセレクトされた顧客群の累積販売量を基準にして行われている。ここでは、他の評価基準で購入種類数別の顧客セレクトを評価する。
     図4は、購入種類数別の一人当たり販促コストを示したものである。棒グラフは実際にかかった販促コストの総額、折れ線グラフは一人あたりの販促コストを示している。それぞれのグループは、セレクト条件に合致した全顧客であるため、それぞれの対象となる顧客数は異なる。当然、より厳しい8種類以上のセレクト条件になるほど、ヒット率が高く、一人当たりの販促コストは低下する。しかし、図5から分かるように、8種類以上の対象顧客は、884人であり、3種類以上のグループの4922人と比べればかなり少ない。現場での利用を考えると、一概に一人当たりの販促コストが低ければいいということではなく、販促の予算に合った条件を選ぶというのが、現状であろう。