さまざまに結ぶ高校生との「縁」(関西大学通信、313号、2004年、1月8日、4面)

 

 

 

 時代の推移、社会の変化に応じて、大学が教育の場として地域社会のなかでいかに頁献できるか――本学はこの問いへの一つの答えとして下表のプログラムからなる高大連携事業を開始した。私個人も1セミナーで「脳死は人の死か」「ディベート入門」の授業を担当した。高校生にとってそれは新カリキュラム「総合学習」の一時間である。多様な分野への関心を高め、学んだ知識を自分の頭のなかで結びつける能力の開発をめざすこの総合学習がすでに変化のしるしだ。情報化とゆとり教育のはざまで、高校生の知識は偏りがち、そのみずみずしい知的関心は磨耗しやすい。大学全入時代では、知的好奇心や向上心に乏しい若者も増えているといわれている。1セミナー、3セミナー、15セミナーは高校生の知的関心を掘り起こし、数年後に大学で学ぶにふさわしい若者を育てるという意味をもっている。体験セミナーを含めたこれらのセミナーは「未来の関大生」作りに通じているが、そうした直接の効果だけではなく、大学が若い世代の育成に寄与することは二〇〇二年二月に中教審が打ち出した生涯教養教育の理念に謳われている大学の社会的責任でもある。

 おとなは一言で若者と呼ぶ。しかし、若者のなかにも世代差はある。学校制度は若者を集めるとともに、学年を分けることで分断する装置ともなってこなかったか。これに対して、学校インターンシップは教職志望の学生の職業体験という意味とともに、著者のあいだの知識や文化の伝達・継承という効果ももっている。地域密着型活動も同様だ。これらの活動のなかでより年少の世代に接した学生はいっそうおとなびて、頼もしくなって帰ってくる。若い世代の育成という任務は教員だけのものではない。大学は学生という優れた人的資源を抱えているのだとあらためて感じる。

 上記の活動に教員研修も含めて、さまざまなアプローチで関西大学に縁をもった人びとが、今後、大学と聞けば、「関大があるじゃないか」と真っ先に思い浮かべる――そうなることが本学の高大連携事業にひそかに託している一構成員としての私の夢である。


註 学長補佐・高大連携運営委員長として「前進する高大連携」という記事のリード文として執筆したもの。

Kan−Dai1セミナー 本学の専任教員や大学院学生が高等学校へ出張して講義や説明を行なうもの。

Kan−Dai3セミナー 夏(春)休みに高校生を大学キャンパスに短期間受け入れて実習を含むゼミ体験を提供するもの。

Kan−Dai15セミナー 大学の開講科目の一部に高校生を受け入れるもの。

Kan−Dai体験セミナー  本学の施設である高岳館や飛鳥文化研究所等のセミナーハウスでの宿泊を伴う体験入学を実施するもの。オープンキャンパス等(入試部企画)で実施する各施設見学や相談コーナー等の体験型の企画とあわせ、ミニ講義を開催。

学校インターンシッププログラム 実社会における職業体験として、高校等で教育現場を体験する学習機会を大学生(大学院学生を含む)に提供するもの。

地域密着型活動 大学生による学校の課外活動や地域の支援・レクリエーション活動への支援、大学生等による情報リテラシー教育等の指導、高校に限定せず、小・中学校への教育活動の支援をするもの。

教員研修 夏(冬)休みに小、中、高等学校等の教員を対象とした研修を行なうもの。


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