名和小太郎先生

LLA 関西支部 Multimedia & Internet 研究部会、Management 研究部会

合同研究会講演要旨

1996.11.23

於:関西大学高槻キャンパス

名和小太郎先生略歴

石油資源開発、旭化成、旭リサーチを経て新潟大学法学部教授、関西大学総合情報学部教授などを歴任。工学博士。著作権審議会委員、法とコンピュータ学会理事などもつとめる。主要著書に『雲を盗る』(朝日新聞社)、『サイバースペースと著作権』(中公新書)などがある。

(名和教授の口頭許可を受けて掲載、本文内容記録:竹内理)

講演内容

  1. 基本的考え方

    知的所有権は明確に定義しにくい。決定権は法廷にある。悪意を持って所有権を侵害した場合、米国では3倍増の賠償金を請求される。危ないと思ったら、専門家の意見に左右されるより、草の根を分けても著作権者をさがし、クリアすべき。

  2. 著作権---著作人格権(公表権、氏名表示権、同一性保持権)、財としての著作権、著作隣接権

    著作権は登録がないので、作成と同時に自動発生する。国家が確認するものではない(無方式主義)。この無方式主義では身動きが取れない、これが現在の状態である。さらに、米国は最近まで著作権国際条約(ベルヌ条約)に加入していないため、かなり大きく違う著作権の概念を持つ(方式主義で著作隣接権はない。たとえばレコードは日本では著作隣接権、米国では著作権の対象になる)。つまり、ベルヌ条約は「ひらめきの保護」だが、米国は Copy Right つまり「商業としての権利」を保護しようとしている。その米国がコンピュータの世界などで強い力を持つので、問題がややこしい。さらに、1971年以来、ベルヌ条約は改訂されていない(現在、新条約が検討されている)。要するに、現状にそぐわない点が多いのである。

  3. 著作物

    データ、コピー、アイディア、理論、アルゴリズム、工業デザイン、応用美術などは著作物ではない。それではデータベースはどうなるのか、コンピュータプログラムはどうなるのか(時代遅れの証拠)

  4. 著作権侵害とは

    1. 対象は著作物でないとだめ。 (c) 表示があると米国では著作物になる可能性がある。
    2. その著作物にアクセスしたか否か。 わざとバグを入れて訴訟に備える例もある。
    3. 実質的な類似性があるか。 本質をコピーしていれば、コピーされた量がすくなくともアウト

    過去の判例(最も厳しいもの:米国)
    テキスト1%のコピーでダメ
    フィルム25秒(全89分)でダメ
    プログラム44行(全186000行)でダメ
    サンプリング3語、8小節でダメ

  5. 公正使用 (fair use)

    米国にのみある考え方(条件:目的が非商業的、事実的作品、量的に小、質的に非実質的、潜在的市場の侵害が少ない、価値を侵害していない時、公正使用となる)日本の学者はこれは大さっぱすぎるとして、列挙主義をとる。

  6. 日本の私的使用の条件

    1. 個人的/家庭内での使用
    2. 公衆用の自動複製機器を使用しない
    3. ただし、デジタル方式の自動複製機器の場合、補償金を支払う(ハードウエアに1から3%上乗せ)

    『著作権法逐条講義』(著作権情報センター:定価1万円)加戸守行著 のなかに34、35条(教育関係)などの細かな解釈がある。これは must reading で、これを基準にダメかどうかを決めている節がある。また、過去のその世界の慣例も判決には重要な意味をもつ。

    cf.日本学協会著作権協会(学会関係の著作物の保護を信託すると、学会の規模に似合ったお金が還付される)

  7. デジタル情報の特性

    映画、音楽、テキストそれぞれ権利の所在しているところ(上演権、演奏権、上映権、貸与権、頒布権)が違う。映画には頒布権があるが貸与権がない、音楽は貸与権があるが頒布権がない。すべてが統合されるマルチメディアはどうなるのか。大変に複雑な問題になる。

    翻訳ソフトは複雑な問題を投げかける。ソフトで英語を日本語に直せば、その結果は自動的に出たもので複製とみなされる。もし、完全な翻訳ソフトが登場すると、その著作権(翻訳権)はどこへいくのか。オペレーターか、だれなのか。決着がついていない問題である。

    ネットワークでの使用:価格は台数主義、さいとライセンスなど色々で、事業者との契約で変わる。日本の場合、使用許諾条件による。著作権でカバーできないものは使用許諾条件による。

  8. 事前質問事項への回答

    以下の回答は名和教授の私見であり、裁判の判例や社会通念の変化により大きくかわる可能性もあることを了解の上でお読み下さい。

    Q1.授業で英字新聞、華字新聞などの記事切り抜きを使用した。出典は明記している。

    A.問題ないだろう。

    Q2.Q1で行った授業を紹介するためにホームページを開き、使用した記事を掲載した。出典は明記されている。

    A.問題あるかもしれない。外部につなげば問題あり。

    Q3.小説を授業で利用し、その授業を紹介するためにホームページを開き、小説の一部を掲載した。出典は明記されている。

    A.問題あり。小説の著作権も考える必要がある。

    Q4.自分のホームページから有用なサイトに(無許可で)リンクを張った。

    A.著作権の問題というより倫理の問題。

    Q5.ホームページから文書を手に入れ授業で利用した。出典は明記されている。ホームページから文書を手に入れ授業で利用した。出典は明記されている。

    A.おそらく問題ないだろうが、相手に連絡をしたほうが良いだろう。教室内使用にとどめること

    Q6.個人のホームページに建物(例えば大学の校舎)、人物(例えば学生)、授業(自分の授業)の写真をのせた。

    A.写真は、それを取った人に著作権がある。建物を作る側は関係ない。人物はプライバシーの問題になる。肖像権は著作権とは別。その人の知名度の問題がかかわる。著作物の保護は死後50年。

    Q7.試験問題に、ある文章を利用した。出典が明記されている場合と明記されていない場合に分けてお答え下さい。

    A.入試には使用してもよい。外国で出版されたものでも日本の法律に従う。出典は必ず明記する必要がある。難易度調整のための書換に関しては難しい問題で答えにくいが、やめておいたほうが無難。

    Q8.AVセンター、視聴覚センター等でLDを購入し、複製を作り、この複製(ビデオ)を学生に館内利用させた。

    A.問題あり。

    Q9.AVセンター、視聴覚センター等でLDを購入し、複製を作り、この複製(ビデオ)を教師が授業に利用した。

    A.問題あり。

    Q10.魅力的なホームページのHTMLを保存し、自分のホームページに利用した。

    A.複製にあたる。相手の許諾次第。

    Q11.魅力的な台紙、ボタンなどをホームページからダウンロードし、自分のホームページに利用した。

    A.壁紙(台紙)は判例があり危ないかも(不正競争防止法関係)。アイコンは係争中。おそらく意匠法でアイコンを登録できるようになる方向。

    Q12.Netnewsやe-mail からの引用はどの程度許されるのか。

    A.e-mail は、印刷物にする場合は親書関係の問題になる。倫理の問題であるので相手の許諾が必要。Netnews は世の動き次第。

    Q13.市販されている映画のビデオ(or DVD or LD) を授業で利用する。ビデオショップで借りたビデオを授業で上映する。

    A.教室内なら、恐らく大丈夫だろうと思われる。録音させたり、教室外で利用しないこと。

    Q14.市販されている映画の音声部分を学生の授業予習用に録音し、配布する。

    A.映画などの場合、複雑な問題で回答できない。もともと教材として売り出された場合は、市場を犯すのでコピーできない。

    Q15.CC信号入りのビデオから映画のセリフをコンピュータにおとし、これを利用してテキスト教材やテストを作成、配布した(学内利用のみ)

    A.商業出版は危険。教室内なら大丈夫だろうが、自習は怪しい。

    Q16.市販大学用英語テキストについてくる音声カセットテープやVHSビデオテープをデジタイズしたものを学内LANに登録し、学生の自習教材としたい。

    A.デジタル化は複製。LANに載せる場合は相手との契約により決まる。

    Q17.具体的な著作登録されていない自分の著作物は登録されている物と同じ権利が在ると考えられるのでしょう か、権利は国際的に有効な物として海外でも主張出来るのでしょうか、特許と比べ権利の確定があいまいと思うのですが。

    A.日本の場合、ソフトウエア情報センターで登録すると裁判の時は有利でしょう。

    Q18.サーバーがある国により日本国内での利用可能条件は変わるのか。

    A.裁判をおこしてみなければ判らない。国際私法の問題でもある。

以上の質問はLLA関西支部大会およびlla-conf、eflj、net-lang、hwg などの外国語教育系のニューズグループより集められたものです。ご協力くださったみなさんに感謝します。

なお、参考文献として「ネットワークをめぐる法的課題」名和小太郎 『情報処理』(1996) 37:2, 135-142.が配布された。